説明

真空輸送システム

【課題】空気抵抗が格段に小さくてより高速に移動でき、貨物、旅客等の輸送物を高速輸送することができる真空輸送システムを提供することを課題とするものである。
【解決手段】内部空間が真空状態に維持された輸送パイプ1と、輸送パイプ1内を例えばリニアモータ等によって推進移動するカプセル2と、輸送パイプ1の外部とカプセル2の内部との間で輸送物を出し入れするための荷役構造3と、から真空輸送システムを構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空状態の輸送パイプ内をカプセルが移動して貨物、旅客等の輸送物を高速輸送する真空輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、次世代の高速輸送システムとして、超電導リニアモーターカーが注目され、実用化に向けての実験が繰り返されている。そのなかで、車両の先端形状を工夫して空気抵抗を極力小さくする試みが為されている。しかしながら、車両の空気抵抗は、速度の2乗に比例して増加することから、その高速化には自ずと限界があった。
【0003】
なお、下記の特許文献1には、車両の前面に空気孔を設けることによって空気抵抗を小さくして高速化を図ろうとするリニアモーターカーが記載されている。
【特許文献1】特開平7−46718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来のリニアモーターカーに上記のような難点があったことに鑑みて為されたもので、空気抵抗が格段に小さくてより高速に移動して輸送物を高速輸送することができる真空輸送システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る真空輸送システムは、内部空間が真空に維持された輸送パイプと、該輸送パイプ内を移動するカプセルと、前記輸送パイプの外部と前記カプセルの内部との間で輸送物を出し入れするための荷役構造と、を含むことを特徴としている。
【0006】
また、本発明は、前記カプセルが前記輸送パイプ内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動することを特徴としている。
【0007】
更にまた、本発明は、前記荷役構造が、前記輸送パイプの両端部にそれぞれ設けられたパイプ開口部と、該パイプ開口部を気密を保って閉鎖し得るパイプドアと、前記パイプ開口部を囲むように前記輸送パイプに設けられたパッキンと、前記カプセルに設けられたカプセル開口部と、該カプセル開口部を気密を保って閉鎖し得るカプセルドアと、を含み、
前記カプセルを前記輸送パイプの端部へ移動させ、該カプセルの外面を気密を保って前記パッキンに当接させた状態で、前記パイプドア及び前記カプセルドアを開いて輸送物を出し入れすることを特徴としている。
【0008】
更にまた、本発明は、前記輸送パイプの端面に前記パイプ開口部及び前記パッキンが設けられ、前記カプセルの端面に前記カプセル開口部が設けられていることを特徴としている。
【0009】
更にまた、本発明は、前記荷役構造が、前記カプセルの外面、前記カプセルドアの外面、前記パッキン、前記輸送パイプの内面、及び前記パイプドアの内面によって囲まれた荷役空間を真空にするポンプを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る真空輸送システムによれば、カプセルが真空状態の輸送パイプ内を移動するので、大気圧下で移動する従来のリニアモーターカーに比べて、その空気抵抗を格段に小さくすることができる。したがって、カプセルをより高速に移動させることができ、貨物、旅客等の輸送物を高速輸送することができる。
【0011】
しかも、カプセルが真空状態の輸送パイプ内を移動するので、乱気流の発生によるカプセルの振動も殆どなく、極めて安定な移動が可能であり、また、このことで更なる高速化が可能となる。さらに、乱気流による騒音の発生もなく、輸送パイプの沿線での騒音、振動の問題も殆どない。
【0012】
さらに、カプセルが真空状態の輸送パイプ内を移動するので、従来のリニアモーターカーのように、必ずしも空気抵抗を極力小さくするためにコストをかけて車両の先端を複雑な曲面形状に形成する必要がなく、カプセルの製造コストを低く抑えることができる。また、高速移動時における空気との摩擦熱の発生も殆どないので、カプセルに熱対策を講じる必要もなく、このことによってもカプセルの製造コストを抑えることができる。また、輸送パイプ1内を移動するため、カプセル2には車窓を設ける必要がなく、カプセル2の強度アップと大幅なコストダウンを図ることができる。
【0013】
また、カプセルが輸送パイプ内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動する真空輸送システムによれば、カプセルの空気抵抗が格段に小さく、しかも、磁気浮上するので、高速を維持したまま長距離を慣性力により移動させることができ、省エネルギー輸送が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本実施形態の真空輸送システム10について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0015】
本実施形態の真空輸送システム10は主として、図1〜図6に示すように、内部空間が真空に維持された輸送パイプ1と、輸送パイプ1内を高速移動するカプセル2と、輸送パイプ1の外部とカプセル2の内部との間で輸送物Tを出し入れするための荷役構造3と、から構成されている。
【0016】
輸送パイプ1は、横断面円形状の鋼製シームレスパイプから構成されている。輸送パイプ1には、不図示の真空ポンプが多数設けられており、輸送パイプ1の内部空間が真空に維持されている。輸送パイプ1は、例えば東京−大阪間など、輸送の出発地点と到達地点との間に配設され、地上、地中、水上、水中、空中のいずれにも配設可能である。なお、輸送パイプ1は、必ずしも直線状である必要はなく曲がっていても良い。また、輸送パイプは、例えばコンクリート管の内面或いは外面に気密コーティング層を貼設して構成しても良い。
【0017】
カプセル2は、略円筒形状に形成されており、貨物、旅客等の輸送物Tを収容可能な収容空間21を備えている。収容空間21は、真空に維持された輸送パイプ1に対し気密が保たれており、本実施形態の収容空間21は大気圧に維持されている。なお、輸送物Tの種類によっては、収容空間21を真空状態に維持するようにしても良い。
【0018】
また、カプセル2には、図示しない公知の超電導マグネットが搭載されている一方、輸送パイプ1に沿って設けられたガイドウェイ11には、図示しない公知の浮上案内コイル及び推進コイルが設けられている。このことで、カプセル2は、輸送パイプ1内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動する。図1では、一つのカプセル1が輸送パイプ1内を移動する例を図示しているが、複数のカプセルを互いに連結した複数両編成のカプセルを移動させるようにしても良い。
【0019】
荷役構造3は、図3〜図6に示すように、輸送パイプ1の両端部にそれぞれ設けられた円形のパイプ開口部31と、パイプ開口部31を気密を保って閉鎖し得る円形の開き戸から成るパイプドア32と、パイプ開口部31を囲むように輸送パイプ1の内面に設けられた円環形状のパッキン33と、カプセル2に設けられた円形のカプセル開口部34と、カプセル開口部34を気密を保って閉鎖し得る円形の開き戸から成るカプセルドア35と、荷役空間4を真空にするためのポンプ36と、から構成されている。
【0020】
本実施形態では、輸送パイプ1の両端面にパイプ開口部31及びパッキン33が設けられ、カプセル2の両端面にカプセル開口部34が設けられている。そして、図4に示すように、ポンプ36は、カプセル2の外面と、カプセルドア35の外面と、パッキン33と、輸送パイプ1の内面と、パイプドア32の内面とによって囲まれた荷役空間4を真空にすることができる。
【0021】
しかして、本実施形態の真空輸送システム10において、輸送パイプ1の外部とカプセル2の内部の収容空間21との間で輸送物Tを出し入れする荷役作業を行う場合、まず、図3及び図4に示すように、カプセル2をガイドウェイに沿って輸送パイプ1の端部へ移動させ、カプセル2の端部の外面を気密を保ってパッキン33に当接させる。
【0022】
次に、不図示のバルブを開いて真空状態の荷役空間4を大気圧に戻し、図5に示すようにパイプドア32を開き、続いて、図6に示すようにカプセルドア35を開く。そして、カプセル2の収容空間に、例えば貨物、旅客、車両等の輸送物Tを適宜出し入れするのである。なお、真空状態の荷役空間4を大気圧に戻すとき、カプセル2が大気圧で押し戻されないように、輸送パイプ1の端部には、カプセル2を着脱可能に係合固定するための不図示の係合手段が設けられている。
【0023】
そして、輸送物Tの荷役作業を終えた後は、カプセルドア35及びパイプドア32を順に閉鎖し、荷役空間4をポンプ36により真空にする。その後、リニアモータを作動させて輸送パイプ1の他端部に向けてカプセル2を移動させ、輸送物Tを輸送する。
【0024】
このように本実施形態の真空輸送システム10によれば、カプセル2が真空状態の輸送パイプ1内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動するので、大気圧下で移動する従来のリニアモーターカーに比べ、その空気抵抗を格段に小さくすることができる。したがって、カプセル2をより高速に移動させることができ、輸送物Tを高速輸送することができる。
【0025】
しかも、カプセル2が真空状態の輸送パイプ1内を移動するので、乱気流の発生によるカプセル2の振動も殆どなく、極めて安定な移動が可能であり、また、このことで更なる高速化が可能となる。さらに、乱気流による騒音の発生もなく、また、カプセル2が浮上しながら無接触状態で移動するので、輸送パイプ1の沿線での騒音、振動の問題も殆どない。
【0026】
さらに、カプセル2が真空状態の輸送パイプ1内を移動するので、従来のリニアモーターカーのように、必ずしも空気抵抗を極力小さくするためにコストをかけて車両の先端を複雑な曲面形状に形成する必要がなく、カプセル2の製造コストを低く抑えることができる。また、高速移動時における空気との摩擦熱の発生も殆どないので、カプセル2に熱対策を講じる必要がなく、このことによっても、カプセル2の製造コストを抑えることができる。更にまた、輸送パイプ1内を移動するため、カプセル2には車窓を設ける必要がなく、カプセル2の強度アップと大幅なコストダウンを図ることができる。
【0027】
また、カプセル2の空気抵抗が格段に小さく、しかも、磁気浮上するので、高速を維持したまま長距離を慣性力により移動させることができ、省エネルギー輸送が可能である。カプセル2を推進移動させるリニアモータを、必ずしも輸送パイプ1の全長に設ける必要はなく、リニアモータを、カプセル2の加速区間及び減速区間となる、輸送パイプ1の両端側の一部区間にのみ設けるようにしても良い。この場合、減速区間での減速時に回収した電力を加速区間での加速に使用すれば、更に省エネルギーになる。
【0028】
また、本実施形態の真空輸送システム10によれば、カプセル2をパッキン33に当接させた状態でパイプドア32及びカプセルドア35を開くだけで、輸送物Tを出し入れすることができるので、輸送物Tの荷役作業を極めて短時間に行うことができる。
【0029】
また、本実施形態の真空輸送システム10は、輸送パイプ1の端面にパイプ開口部31及びパッキン33が設けられ、カプセル2の端面にカプセル開口部34が設けられているので、カプセル2をガイドウェイに沿って移動させるだけで、カプセル2をパッキン33に簡単かつ確実に当接させることができ、また、極めて簡素な荷役構造を実現することができる。
【0030】
以上、本実施形態の真空輸送システム10について説明したが、本発明はその他の形態でも実施することができる。
【0031】
例えば、図7に示す真空輸送システム20のように構成しても良い。真空輸送システム20は、主として荷役構造5に特徴があり、他の構成は上述した真空輸送システム10と同様である。
【0032】
真空輸送システム20の荷役構造5は、図7に示すように、輸送パイプ1の端部の側面に設けられた略矩形のパイプ開口部51と、パイプ開口部51を気密を保って閉鎖し得る略矩形の引戸から成るパイプドア52と、パイプ開口部51を囲むように輸送パイプ1の内側の側面に設けられた角型環状のパッキン53と、カプセル2の側面に設けられた略矩形のカプセル開口部54と、カプセル開口部54を気密を保って閉鎖し得る略矩形の引戸から成るカプセルドア55と、から構成されている。
【0033】
本実施形態の真空輸送システム20において、輸送物の荷役作業を行う場合、カプセル2を輸送パイプ1の端部へ移動させ、パッキン53の内側にカプセル開口部54が位置するようにカプセル2を停止させる。そして、カプセル2の外面を気密を保ってパッキン53に当接させた状態で、パイプドア55及びカプセルドア52を開けば、カプセル2の収容空間に、貨物、旅客、車両等の輸送物を適宜出し入れすることができるのである。
【0034】
また、上記実施形態では、カプセル2が輸送パイプ1内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動する例を説明しているが、本発明は決してこれに限定されるものではなく、例えば、カプセルが走行車輪を備えており、このカプセルが走行車輪で駆動されて輸送パイプ1内を移動するように構成されていても良い。
【0035】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものである。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良く、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成しても、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る真空輸送システムによれば、輸送物を高速輸送することができるので、例えば血液、臓器、医療機器等の医療用物資の緊急輸送、災害物資の緊急輸送、電子部品や自動車部品の緊急調達、鮮度保持が重要な海産物等の高速輸送、宅配便の高速輸送が可能となり、世界規模での高速物流に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態の真空輸送システムの一部省略概略側面図である。
【図2】本実施形態の真空輸送システムの概略横断面図である。
【図3】本実施形態の真空輸送システムの荷役作業を説明する概略縦断面図である。
【図4】本実施形態の真空輸送システムの荷役作業を説明する概略縦断面図である。
【図5】本実施形態の真空輸送システムの荷役作業を説明する概略縦断面図である。
【図6】本実施形態の真空輸送システムの荷役作業を説明する概略縦断面図である。
【図7】本発明に係る実施変形例の真空輸送システムの一部省略横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10、20 真空輸送システム
1 輸送パイプ
2 カプセル
3、5 荷役構造
31、51 パイプ開口部
32、52 パイプドア
33、53 パッキン
34、54 カプセル開口部
35、55 カプセルドア
36 ポンプ
4 荷役空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間が真空に維持された輸送パイプと、
該輸送パイプ内を移動するカプセルと、
前記輸送パイプの外部と前記カプセルの内部との間で輸送物を出し入れするための荷役構造と、
を含むことを特徴とする真空輸送システム。
【請求項2】
前記カプセルが前記輸送パイプ内を磁気浮上しながらリニアモータにより移動することを特徴とする請求項1記載の真空輸送システム。
【請求項3】
前記荷役構造が、
前記輸送パイプの両端部にそれぞれ設けられたパイプ開口部と、
該パイプ開口部を気密を保って閉鎖し得るパイプドアと、
前記パイプ開口部を囲むように前記輸送パイプに設けられたパッキンと、
前記カプセルに設けられたカプセル開口部と、
該カプセル開口部を気密を保って閉鎖し得るカプセルドアと、
を含み、
前記カプセルを前記輸送パイプの端部へ移動させ、該カプセルの外面を気密を保って前記パッキンに当接させた状態で、前記パイプドア及び前記カプセルドアを開いて輸送物を出し入れすることを特徴とした請求項1または請求項2記載の真空輸送システム。
【請求項4】
前記輸送パイプの端面に前記パイプ開口部及び前記パッキンが設けられ、
前記カプセルの端面に前記カプセル開口部が設けられていることを特徴とした請求項3記載の真空輸送システム。
【請求項5】
前記荷役構造が、
前記カプセルの外面、前記カプセルドアの外面、前記パッキン、前記輸送パイプの内面、及び前記パイプドアの内面によって囲まれた荷役空間を真空にするポンプを含むことを特徴とした請求項3または請求項4記載の真空輸送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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