説明

真贋判定装置

【課題】 真贋判定が確実で、かつ、偽物の複製を困難にすることができる真贋判定装置を提供する。
【解決手段】 被判定物2の所定位置Aに配置され、所定の成膜条件において同一の表面形状を形成する膜3と、被判定物2の所定位置Aの表面形状を観察する観察手段4と、膜3の表面形状が予め記憶された記憶部7と、観察手段4により観察された表面形状と、記憶部7に記憶された表面形状とを比較する比較部8と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷物、特に紙幣などに代表される有価証券等の正券・偽券の真贋判定は、有価証券の印刷に用いられているインキの色を分光光度計などにより比較して判定したり(例えば、特許文献1参照)、紙や上記インキ中に混ぜ込まれた磁性体や金属により形成される磁気パターン等を比較して判定したりしていた(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−254545号公報
【特許文献2】特開平07−237380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分光光度計を用いた真贋判定では、カラーコピー機等で複写した偽券ならば、例えばC(シアン)、M(マゼンダ)、Y(イエロー)等の複数の色を検出し、正券ならば、上述のように複数の色を検出しないため、真贋を判定することができた。
しかしながら、分光光度計よりも解像度の高いカラーコピー機を使用して複写した偽券の場合、分光光度計は、上述のように複数の色を検出することができず、偽券を正券と判定する恐れがあった。
【0004】
また、磁性体や金属を紙やインキに混入する方法では、正券の紙やインキを分析等することにより、正券と同一または近い比率で磁性体や金属が混ぜられた紙やインキを用いた偽券を作ることができる。この場合、正券と区別が困難な偽券を製造することが容易となり、偽券を正券と判定してしまう恐れがあった。
さらに、紙またはインキのロット毎に磁性体や金属の混入比率が異なるため、有価証券等の真贋判定に誤りが発生する恐れがあった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、真贋判定が確実で、かつ、偽物の複製を困難にすることができる真贋判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の真贋判定装置は、被判定物の所定位置に配置され、所定の成膜条件において同一の表面形状を形成する膜と、前記被判定物の所定位置の表面形状を観察する観察手段と、前記膜の表面形状が予め記憶された記憶部と、前記観察手段により観察された表面形状と、前記記憶部に記憶された表面形状とを比較する比較部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、観察手段により観察された被判定物の所定位置の表面形状と、記憶部に記憶された膜の表面形状と、を比較することにより、被判定物の真贋を判定することができる。
つまり、上記膜が配置されていない被判定物であれば、観察手段により観察された表面形状と記憶部に記憶された表面形状とは一致せず、被判定物が偽造されたものと判定することができる。
【0008】
上記膜の成膜条件が知られない限り、膜の材料が知られていても、同一の表面形状を有する膜を形成することを困難にすることができる。また、成膜条件は膜の材料と比較して、その条件を秘密にすることが容易であるため、偽物の複製を困難にすることができる。
また、同一の成膜条件で膜を形成することにより、同一の表面形状の膜を繰り返し製造することができる。そのため、ロット毎の形状などのばらつきを低減することができ、真贋判定の誤りを低減することができる。
なお、成膜条件の変更パラメータとしては、温度や圧力条件の他に、乾燥条件や、加熱条件、電場条件、磁場条件、光条件などを挙げることができる。
また、膜の材料としては、所定の成膜条件において同一の表面形状を有する膜を形成する材料であればよく、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。
【0009】
また、上記発明においては、前記膜が、自己組織化する樹脂から形成されていることが望ましい。
本発明によれば、膜を自己組織化する樹脂から形成することにより、ナノメートル規模の表面形状を形成することができる。他の方法では、ナノメートル規模の形状を形成することは困難であるため、偽物の複製を困難にすることができる。
また、自己組織化により形成されるパターンは無数に存在するため、使用する表面形状のパターンが偶然一致する可能性は低く、真贋判定の誤りを低減することができる。
さらに、目視ができない膜を用いた場合には、他者が膜を配置した場所を発見することは困難となる。そのため、他者は膜を観察・分析をすることができず、偽物の複製を困難にすることができる。
樹脂としては、複数の成分からなるブロック共重合体でもよいし、単一の成分からなるものでもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の真贋判定装置によれば、観察手段により観察された被判定物の所定位置の表面形状と、記憶部に記憶された膜の表面形状と、を比較することにより、被判定物の真贋を判定することができるという効果を奏する。
膜の成膜条件は秘密にすることが容易であり、かつ、成膜条件を同一にしないと同一表面形状の膜を形成することができないため、偽物の複製を困難にすることができるという効果を奏する。
同一の成膜条件で膜を形成することにより、同一の表面形状の膜を繰り返し製造することができる。そのため、真贋判定の誤りを低減し、確実にすることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の一実施形態に係る真贋判定装置について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の真贋判定装置の概略を説明する図である。
真贋判定装置1は、図1に示すように、紙幣などの有価証券に代表される印刷物(被判定物)2の所定位置Aに配置された膜3と、印刷物2の所定位置Aの表面形状を観察する形状測定器(観察手段)4と、真贋判定装置1を制御するとともに、印刷物2の真贋を判定するPC5とから概略構成されている。
【0012】
膜3としては、成膜条件ごとに異なる表面形状(表面組織)を示すもの、具体的には自己組織化する樹脂を用いて形成することが望ましい。
例えば、ポリスチレンを水面に展開させ、所定の圧力下で、所定の溶媒を加えることにより、表面がハニカム形状の膜を形成することができる。また、複数成分からなるブロック共重合体を用いて膜を形成することもできる。
その他にも、膜3の材料として、両親媒性化合物や疎水性ポリマーなどの樹脂などを用いることができる。
【0013】
形状測定器4としては、例えば走査型トンネル顕微鏡(STM)や、原子間力顕微鏡(AFM)などの、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いることができる。
PC5には、形状測定器4を駆動制御する制御部6と、膜の表面形状が予め記憶されている記憶部7と、形状測定器4により観察された表面形状と、記憶部7に記憶された表面形状とを比較する比較部8と、が備えられている。
【0014】
次に、上記の構成からなる真贋判定装置1における真贋判定方法について説明する。
まず、予め膜3の表面形状を形状測定器4で観察し、観察した表面形状を記憶部7に記憶させておく。
その後、真贋が明らかでない印刷物2の真贋判定を、真贋判定装置1を用いて行う。
【0015】
まず、制御部6が形状測定器4を制御して、印刷物2の所定位置Aを観察する。観察された表面形状の情報は、PC5の比較部8に入力される。比較部8は、記憶部7に記憶された表面形状の情報を取り込み、観察された表面形状の情報と比較する。比較の結果、両者の表面形状情報が同一であれば印刷物2は本物と判断され、違いがあれば偽物と判断される。
【0016】
上記の構成によれば、形状測定器4により観察された印刷物2の所定位置の表面形状と、記憶部7に記憶された膜3の表面形状と、を比較することにより、印刷物2の真贋を判定することができる。
【0017】
膜3の成膜条件が知られない限り、膜3の材料が知られていても、同一の表面形状を有する膜3の形成は困難であり、かつ、膜3成膜条件は膜3の材料と比較して、その条件を秘密にすることが容易であるため、偽物の複製を困難にすることができる。
また、膜3を自己組織化する樹脂から形成することにより、ナノメートル規模の表面形状を形成することができる。他の方法では、ナノメートル規模の形状を形成することは困難であるため、偽物の複製を困難にすることができる。
【0018】
また、同一の成膜条件で膜3を形成することにより、同一の表面形状を有する膜3を繰り返し製造することができる。そのため、膜3の製造ロット間における表面形状のばらつきを低減することができ、真贋判定の誤りを低減することができる。
【0019】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述のように、PC5に膜3の表面形状が記憶されている記憶部7を備えていてもよいし、PC5に通信手段を備えさせ、通信手段により他の所に保管されている膜3の表面形状の情報を入手するように構成してもよい。
【0020】
また、上記の実施の形態においては、この発明を紙幣などの有価証券など印刷部の真贋判定に適用して説明したが、この発明は印刷物などの真贋判定に限られることなく、例えば、CPU(Central Processing Unit)に記載されているスペックの真贋判定など、その他各種の流通品の真贋判定に適応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による真贋判定装置の一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 真贋判定装置
2 印刷物(被判定物)
3 膜
4 形状測定器(観察手段)
7 記憶部
8 比較部
A 所定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被判定物の所定位置に配置され、所定の成膜条件において同一の表面形状を形成する膜と、
前記被判定物の所定位置の表面形状を観察する観察手段と、
前記膜の表面形状が予め記憶された記憶部と、
前記観察手段により観察された表面形状と、前記記憶部に記憶された表面形状とを比較する比較部と、
を備えることを特徴とする真贋判定装置。
【請求項2】
前記膜が、自己組織化する樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1記載の真贋判定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−99384(P2006−99384A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284247(P2004−284247)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】