説明

眼内レンズの挿入器具

【課題】眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小型化した場合でも、眼内レンズを挿入器具から押し出す際に、先端開口端面の周縁部が破損することを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】挿入筒部の先端部10aにおける先端開口部10jの端面を挿入筒部の中心軸Lに直交する面Mに対して傾斜した傾斜面とすると共に、先端開口端面の挿入筒部の中心軸Lに直交する面Mに対する傾斜角度を先端部100側よりも基端部101側において大きく形成した眼内レンズの挿入器具であって、先端開口部10jの端面の基端部101側における周縁部の所定領域における形状を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状し、その曲率半径R4を、前記周縁部における他の領域の曲率半径以下とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを患者の眼球内に挿入するための眼内レンズの挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、白内障等の手術においては、眼球における角膜(鞏膜)や水晶体前嚢部分などの眼組織に切開創を設け、この切開創を介して、嚢内の水晶体を摘出、除去し、その後に、水晶体に代替する眼内レンズを、前記切開創より眼内に挿入して嚢内に配置させる処置が行われている。
【0003】
特に近年においては、眼内レンズを切開創より眼球内に挿入する際に、以下に示すような挿入器具が用いられる場合が多い。すなわち、器具本体の先端部に設けられた挿入筒部の先端開口を切開創を通じて眼球内に挿し入れると共に、眼内レンズを器具本体内で小さく変形せしめた状態で挿入筒部の先端開口から棒状のプランジャによって押し出すことにより、眼内レンズを眼球内に挿入する。このような挿入器具を用いることにより、水晶体の摘出除去のために形成した切開創を利用して眼内レンズを簡単に眼球内に挿入できるので、手術を簡略化することができ、手術後の乱視の発生や感染症の発生を抑制することができる。
【0004】
なお、眼内レンズの挿入器具としては、挿入筒部の先端部における先端開口端面を挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とすると共に、先端開口端面の挿入筒部の中心軸に直交する面に対する傾斜角度を先端部側よりも基端部側において大きく形成し、更に、先端開口端面の周縁部を、外周面テーパ形状による尖鋭エッジ形状としたものが公知である(例えば、特許文献1を参照)。これにより、眼内レンズの飛び出しを抑えて挿入筒部の先端縁部まで安定した押し出しを行なうことができるとともに、挿入筒部を切開創へ円滑に挿入することが可能となる。
【0005】
ところで、上記の眼内レンズの挿入作業においては、手術時の患者の負担を低減するために、切開創の大きさをより小径化することが求められており、挿入器具における挿入筒部の先端については、より小さくすることが求められている。しかしながら、挿入筒部の先端が小型化すると、挿入筒部の先端部分の厚みを薄くせざるを得ない。一方、挿入筒部が小型化すると、眼内レンズが通過時により圧縮されるため、押し出し時に挿入筒部に作用する復元力がより強くなる傾向がある。その結果、眼内レンズを挿入器具から押し出す際に先端開口端面の周縁部が破損してしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−160153号公報
【特許文献2】特開2009−183367号公報
【特許文献3】特開2009−28223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小型化した場合でも、眼内レンズを挿入器具から押し出す際に、先端開口端面の周縁部が破損することを抑制できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、挿入筒部の先端部における先端開口端面を挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とした眼内レンズの挿入器具であって、先端開口端面の基端部側における周縁部の所定領域における形状を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状し、その曲率半径を、前記周縁部における他の領域の曲率半径以下とすることを最大の特徴とする。
【0009】
より詳しくは、眼内レンズを収容する略筒形状を有する器具本体を備えており、
前記器具本体内に軸方向の後方から挿入された押出部材で前記眼内レンズを軸方向前方に移動させつつ小さく変形せしめて前記器具本体の軸方向先端部に設けられた挿入筒部を通じて押し出すことにより眼内に挿入する眼内レンズの挿入器具において、
前記挿入筒部の先端部における先端開口端面を前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とすると共に、
該先端開口端面の先端部と逆側の基端部側における周縁部の所定領域における、前記中心軸に直交する方向から見た前記挿入筒部の断面を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記周縁部における他の領域における曲率半径以下とすることを特徴とする。
【0010】
ここで、眼内レンズの挿入器具において、挿入筒部の先端部における先端開口端面を挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とした場合について考える。この場合は、先端開口端面の基端部側における周縁部における挿入筒部の肉厚が最も薄くなる傾向となる。そうすると、眼内レンズが通過する際に当該部分が破損する危険性が高くなる。
【0011】
それに対し、本発明においては、先端開口端面の基端部側における周縁部の所定領域における挿入筒部の断面形状を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記周縁部における他の領域における曲率半径以下にすることとした。
【0012】
これによれば、先端開口端面の基端部側における周縁部における挿入筒部の肉厚が端面部分の極近傍まで厚くなる構造とすることができる。これにより、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端部側における周縁部が破損する不都合を抑制することができる。
【0013】
また、本発明においては、前記先端開口端面の周縁部を、外周面テ―パ形状による尖鋭エッジ形状とし、
該先端開口端面の基端部側における周縁部の前記所定領域における、前記中心軸に直交する方向から見た前記外周面テ―パ形状の断面を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記外周面テ―パ形状における他の領域における曲率半径より小さくするようにしてもよい。
【0014】
すなわち、眼内レンズの挿入器具において、前記先端開口端面の周縁部を、外周面テ―パ形状による尖鋭エッジ形状とした場合には、先端開口端面の基端部側における外周面テーパ形状部分の肉厚がさらに薄くなる傾向となる。そうすると、眼内レンズが外周面テ―パ形状部分を通過する際に当該部分が破損する危険性が高くなる。
【0015】
それに対し、本発明においては、先端開口端面の基端部側における周縁部の所定領域における外周面テ―パ形状の断面形状を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記外周面テ―パ形状における他の領域における曲率半径以下にすることとした。これによれば、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端
部側における外周面テ―パ形状部分が破損する不都合を抑制することができる。なお、本発明における外周面テ―パ形状は、先端開口端面の周縁部の全周にわたってテ―パ形状が設けられている場合のみならず、先端開口端面の周縁部の一部(例えば基端部側のみ)にテ―パ形状が設けられている場合も含む。
【0016】
また、本発明においては、前記先端開口端面の前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対する傾斜角度は、先端部側よりも基端部側において大きく形成され、
前記先端開口端面の基端部側における周縁部の前記所定領域における、前記曲率半径は、
前記先端開口端面における基端部より先端部側の、前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た曲率半径より小さくするようにしてもよい。
【0017】
ここで、前記先端開口端面の前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対する傾斜角度が、先端部側よりも基端部側において大きく形成された場合に、その傾斜の形状は、直線状(曲率半径=無限大)である場合と、ある曲率半径を有する曲線状である場合が考えられる。いずれの場合でも、先端開口端面の基端部側における周縁部の外周面テーパ形状の曲率半径を、先端開口端面における基端部より先端部側の、挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た曲率半径より小さくすることで、先端開口端面の基端部側における周縁部における外周面テーパ形状部分の肉厚が端面部分の極近傍まで厚くなる構造とすることができる。これにより、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端部側における周縁部が破損する不都合をより確実に抑制することができる。
【0018】
また、本発明においては、前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における、前記断面の曲線形状は前記挿入筒部における前記基端部より後方の外形と連続する形状にしてもよい。そうすれば、挿入筒部における先端開口端面の基端部側の周縁部から後方に続く形状をより滑らかな形状にすることができる。その結果、器具本体の切開創への挿入をより容易にすることができる。
【0019】
また、本発明においては、前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における、前記断面の曲率半径は、半径0.3mm以上0.4mm以下としてもよい。そうすることで、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端部側における周縁部が破損する不都合を充分に抑制することができる。
【0020】
また、本発明においては、前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た前記先端開口端面における基端部より先端部側の形状の少なくとも一部は直線状であり、
前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における厚みは、該周縁部が、前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た前記先端開口端面における基端部より先端部側の形状が延長された形状である場合と比較して、0.02mm以上0.03mm以下の範囲で肉厚を増やしてもよい。これによっても、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端部側における周縁部が破損する不都合を充分に抑制することができる。なお、このことは、先端開口端面の少なくとも基端部側の周縁部に外周面テ―パ形状が設けられている場合に、より有効に働く。
【0021】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、眼内レンズの挿入器具の挿入筒部がより小型化した場合でも、眼内レンズが通過する際に先端開口端面の基端部側における周縁部が破損する不都合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1における眼内レンズの挿入器具の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における眼内レンズの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1におけるノズル本体の概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例における位置決め部材の概略構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるプランジャの概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例1におけるノズル本体の先端部付近の詳細な平面図である。
【図7】本発明の実施例1におけるノズル本体の先端部付近の詳細な側面図である。
【図8】本発明の実施例1におけるノズル本体の先端部付近の詳細な断面図である。
【図9】本発明の実施例におけるノズル本体の先端部付近の3箇所における後方向から見た断面図である。
【図10】本発明の実施例における貫通孔の左右方向寸法及び、レンズのつぶれ率についてのグラフである。
【図11】本発明の実施例1における先端下側部付近の断面図である。
【図12】本発明の実施例1における先端下側部断面の拡大図である。
【図13】本発明の実施例1における先端下側部付近を下側から見た図である。
【図14】本発明の実施例2におけるノズル本体の先端部付近の詳細な断面図である。
【図15】本発明の実施例2における先端下側部付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<実施例1>
【0025】
図1には、本実施例における眼内レンズの挿入器具1(以下、単に、挿入器具1ともいう。)の概略構成を示す。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図を示している。挿入器具1は、断面略矩形の筒状に形成されており片側は大きく開口し(以下、大きく開口した側を後端部10bという。)、別の片側端部には細く絞られた挿入筒部としてのノズル部15及び斜めに開口した先端部10aを備える器具本体としてのノズル本体10と、ノズル本体10に挿入され往復運動可能な押出部材としてのプランジャ30とを備えている。なお、以下において、ノズル本体10の先端部10aから後端部10bへ向かう方向を前後方向、図1(a)において紙面に垂直方向を上下方向、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向とする。
【0026】
ノズル本体10の後端部10b付近には、板状に迫り出し、使用者がプランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込む際に指を掛けるホールド部11が一体的に設けられている。また、ノズル本体10におけるノズル部15の後端側には、眼内レンズ2をセットするステージ部12が設けられている。このステージ部12は、ステージ蓋部13を開蓋することでノズル本体10の上側(図1(a)における紙面垂直手前側)が開放されるようになっている。また、ステージ部12には、ノズル本体10の下側(図1(a)における紙面垂直奥側)から位置決め部材50が取り付けられている。この位置決め部材50によって、使用前(輸送中)において、ステージ部12内で眼内レンズ2が安定して保持されている。
【0027】
すなわち、挿入器具1においては、製造時に、ステージ蓋部13が開蓋し位置決め部材50がステージ部12に取り付けられた状態で、眼内レンズ2がステージ部12にセットされる。そして、出荷、販売され、使用者はステージ蓋部13を閉蓋したままで位置決め部材50を取り外し、その後プランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込むことで
、プランジャ30で眼内レンズ2を押圧し、先端部10aより眼内レンズ2を押し出す。なお、挿入器具1におけるノズル本体10、プランジャ30、位置決め部材50の素材はポリプロピレンなどの樹脂で形成される。ポリプロピレンは医療用機器において実績があり、耐薬品性などの信頼性も高い素材である。
【0028】
図2は、眼内レンズ2の概略構成を示した図である。図2(a)は平面図、図2(b)は側面図を示す。眼内レンズ2は、所定の屈折力を有するレンズ本体2aと、レンズ本体2aに設けられ、レンズ本体2aを眼球内で保持するためのヒゲ状の2本の支持部2b、2bとから形成されている。レンズ本体2aは可撓性の樹脂材料から形成されている。
【0029】
図3にはノズル本体10の平面図を示す。前述のようにノズル本体10においては、眼内レンズ2はステージ部12にセットされる。そして、その状態でプランジャ30によって押圧されて先端部10aから眼内レンズ2が押し出される。なお、ノズル本体10にはノズル本体10の外形の変化に応じて断面形状が変化する貫通孔10cが設けられている。そして、眼内レンズ2が押し出される際は、眼内レンズ2は、ノズル本体10内の貫通孔10cの断面形状の変化に応じて変形し、患者の眼球に形成された切開創に入り易い形に変形した上で押し出されることになる。
【0030】
ステージ部12には、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径より僅かに大きな幅を有するステージ溝12aが形成されている。ステージ溝12aの前後方向の寸法は、眼内レンズ2の両側に延びる支持部2b、2bを含む最大幅寸法よりも大きく設定されている。また、ステージ溝12aの底面によってセット面12bが形成されている。セット面12bの上下方向位置(図3の紙面に垂直方向の位置)は、ノズル本体10の貫通孔10cの底面の高さ位置よりも上方(図3の紙面に垂直方向手前側)に設定されており、セット面12bと貫通孔10cの底面とは底部斜面10dによって連結されている。
【0031】
ステージ部12とステージ蓋部13とは一体に形成されている。ステージ蓋部13はステージ部12と同等の前後方向寸法を有している。ステージ蓋部13は、ステージ部12の側面がステージ蓋部13側に延出して形成された薄板状の連結部14によって連結されている。連結部14は中央部で屈曲可能に形成されており、ステージ蓋部13は、連結部14を屈曲させることでステージ部12に上側から重なり閉蓋することが可能となっている。
【0032】
ステージ蓋部13において、閉蓋時にセット面12bと対向する面には、ステージ蓋部13を補強し、眼内レンズ2の位置を安定させるためにリブ13a及び13bが設けられている。また、プランジャ30のガイドとして案内突起13cが設けられている。
【0033】
ステージ部12のセット面12bの下側には、位置決め部材50が取外し可能に設けられている。図4に、位置決め部材50の概略構成を示す。図4(a)は平面図を示し、図4(b)は側面図を示している。位置決め部材50はノズル本体10と別体として構成されており、一対の側壁部51、51が連結部52で連結された構造とされている。それぞれの側壁部51の下端には、外側に向けて延出して広がる保持部53、53が形成されている。
【0034】
そして、それぞれの側壁部51、51の上端部には、上方から見た形状が円弧形状であり上側に突出した一対の第一載置部54、54が形成されている。さらに、第一載置部54の上端面における外周側には、第一位置決め部55、55が突出して形成されている。第一位置決め部55の内径どうしの距離は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。
【0035】
また、連結部52の前後方向の両端には、上方から見た形状が矩形状であり上側に突出した一対の第二載置部56、56が形成されている。第二載置部56の上面の高さは、第一載置部54の上端面の高さと同等になっている。更に、第二載置部56、56の上面において外側の部分には、第二載置部56、56の左右方向の全体に亘って上側にさらに突出する第二位置決め部57、57が形成されている。第二位置決め部57内側どうしの離隔は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。加えて、図4(b)に示すように、第二載置部56の上端部には左右方向の全体に亘り、前後方向に僅かに突出した係止爪58、58が形成されている。
【0036】
本実施例では、上記の位置決め部材50が、ノズル本体10のセット面12bの下側から組み付けられる。ノズル本体10のセット面12bには、厚さ方向にセット面12bを貫通するセット面貫通孔12cが4箇所形成されている。セット面貫通孔12cの外形は、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56を上側から見た形状に対し僅かに大きな略相似形状とされている。そして、位置決め部材50がノズル本体10に取り付けられる際には、第一載置部54、54および第二載置部56、56が、セット面12bの下側からセット面貫通孔12cに挿入され、セット面12bの上側に突出する。
【0037】
その際、第二載置部56、56に設けられた係止爪58、58がセット面貫通孔12cを介してセット面12bに突出し、セット面12bの上面に係止される。このことによって、位置決め部材50がノズル本体10の下側から組み付けられ、第一載置部54、54および第二載置部56、56がセット面12bから突出した状態で固定される。そして、眼内レンズ2がセット面12bにセットされる際には、レンズ本体2aの外周部底面が、第一載置部54、54および第二載置部56、56の上面に載置される。また、レンズ本体2aは第一位置決め部55、55及び第二位置決め部57、57によって前後左右方向に対して位置規制される。
【0038】
図5にはプランジャ30の概略構成を示す。プランジャ30は、ノズル本体10よりもやや大きな前後方向長さを有している。そして、円柱形状を基本とした先端側の作用部31と、矩形ロッド形状を基本とした後端側の挿通部32とから形成されている。そして、作用部31は、円柱状に形成された円柱部31aと、円柱部31aの左右方向に広がる薄板状の扁平部31bとを含んで構成されている。
【0039】
作用部31の先端部分には、切欠部31cが形成されている。この切欠部31cは、図5から分かるように、作用部31の上方向に開口し左右方向に貫通する溝状に形成されている。また、図5(b)から分かるように、切欠部31cの先端側の端面は作用部31の先端側に行くに連れて上方に向かう傾斜面で形成されている。
【0040】
一方、挿通部32は、は全体的に概略H字状の断面を有しており、その左右方向および上下方向の寸法は、ノズル本体10の貫通孔10cよりも僅かに小さく設定されている。また、挿通部32の後端には、上下左右方向に広がる円板状の押圧板部33が形成されている。
【0041】
挿通部32の前後方向の中央より先端側の部分には、挿通部32の上側に向けて突出し、プランジャ30の素材の弾性により上下に移動可能な爪部32aが形成されている。そして、プランジャ30がノズル本体10に挿入された際には、ノズル本体10の上面において厚さ方向に設けられた係止孔10eと爪部32aとが係合し、このことにより初期状態におけるノズル本体10とプランジャ30との相対位置が決定される。なお、爪部32aと係止孔10dの形成位置は、係合状態において、作用部31の先端が、ステージ部12にセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2aの後方に位置し、レンズ本体2aの後方の支持部2bを切欠部31cが下方から支持することが可能な場所となるよう設定されて
いる。
【0042】
上記のように構成された挿入器具1の使用前においては、プランジャ30がノズル本体10に挿入されて初期位置に配置される。また、位置決め部材50が、前述のように、セット面12bの下方からステージ部12に取り付けられる。これにより、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56がセット面12bに突出した状態に保持される。
【0043】
また、眼内レンズ2のレンズ本体2aが支持部2b、2bをノズル本体10の前後方向に向けた状態で第一載置部54および第二載置部56の上端面に載置され位置決めされる。この状態において、眼内レンズ2は、レンズ本体2aの外周部分が第一載置部54および第二載置部56に接触しているので、中央部分は非負荷状態で支持されている。また、この状態において、眼内レンズ2の支持部2bは、プランジャ30の切欠部31cの底面によって支持されている。
【0044】
また、この状態においては、第二載置部56によって、プランジャ30の前進を阻止するストッパが構成されており、プランジャ30は、位置決め部材50がノズル本体10から取り外されない限り前進が不可能な状態となっている。
【0045】
挿入器具1を用いて眼内レンズ2を患者の眼球内に挿入する場合には、先ず、位置決め部材50をノズル本体10から取り外す。これにより、眼内レンズ2のレンズ本体2aを支持していた第一載置部54および第二載置部56がセット面12bから後退し、眼内レンズ2がセット面12b上に載置される。セット面12bは平坦面とされていることから、眼内レンズ2を安定して載置せしめることが出来ると共に、ステージ溝12aの幅寸法が眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法より僅かに大きい程度とされていることから、セット面12b上での眼内レンズ2の周方向の回転も抑制されるようになっている。
【0046】
続いて、眼組織に設けた切開創にノズル本体10の先端部10aを挿入する。そして、切開創に先端部10aを挿入した後に、その状態で、プランジャ30の押圧板部33をノズル本体10の先端側に押し込む。これにより、セット面12aにセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2a外周にプランジャ30の作用部31の先端が当接し、プランジャ30によって眼内レンズ2が先端部10aに向けて案内される。
【0047】
次に、ノズル本体10の先端部10a付近の構成について詳しく説明する。図6に、ノズル本体10の先端部10a付近の詳細な平面図を示す。ノズル本体10の外形は、全体としてステージ部12側から先端部10aに行くに連れて次第に先細となる形状を有している。貫通孔10cには、断面積が次第に小さくされた縮径部10fが形成されている。縮径部10fは、先端部10a側に行くに連れて底面および上面の幅寸法が小さくされることによって断面積が小さくなるように構成されている。ここにおいて、縮径部10fの後端部分における底面は、先端側に行くに従って上方に上がるよう傾斜した傾斜面10gが形成されており、この傾斜面10gによって段差が設けられている。
【0048】
貫通孔10cの底面における縮径部10f近傍には、底面の左右方向中央を挟んでノズル本体10の前後方向に延びる一対の導入突部10hが形成されている。導入突部10hは、軸方向の傾斜面10gの前後方向に亘って設けられており、縮径部10fの後端側の底面から僅かに上方に突出して互いに平行に延びる線状に形成されている。ここにおいて、傾斜面10g上に形成された導入突部10hの前端部分は、傾斜面10gが先端側に行くに連れて次第に高くなることによって、傾斜面10gの前端部において等しい高さとなるように形成されている。また、導入突部10hどうしの離隔距離は、プランジャ30の作用部31の幅寸法よりも僅かに大きい寸法とされている。
【0049】
そして、貫通孔10cにおける縮径部10fの先端側には、ノズル部15が形成されているが、ノズル部15においては、貫通孔10cは略一定の断面積をもってストレートに延びるように形成されている。先端部10aにおいて貫通孔10cは開口され、先端開口部10jが形成されている。図7には、先端部10a付近の側面図を示す。図7に示すように、先端開口部10jは、ノズル本体10におけるノズル部15を下側に行くほど後側に行くよう斜めに切断することで形成されている。すなわち、先端部10aにおいて上端の先端上側部100が下端の先端下側部101よりも前方に延び出された形となっている。なお、先端下側部101は本実施例において基端部に相当する。
【0050】
図8には、先端部10a付近の断面図を示す。図8において、先端開口部10jには、先端上側部100から先端下側部101に向けてノズル部15の中心軸Lに直交する面であるM面に対する傾斜角度が一定の直線形状とされた直線部102が所定寸法に亘って形成されている。そして、直線部102から連続して、M面に対する傾斜角度が次第に大きくなるように変化する湾曲部103が形成されており、この湾曲部103の後端が先端下側部101に接続されている。
【0051】
ここで、湾曲部103のM面に対する傾斜角度は、直線部102のM面に対する傾斜角度よりも大きく設定されている。これにより、先端開口部10jは、側面図において外方に凸となる湾曲形状を形成している。
【0052】
図8において、先端上側部100と先端下側部101をつなぐ直線NのM面に対する傾斜角度αは、特に限定されるものでないが、60°〜80°の範囲内で設定されるとよい。即ち、傾斜角度αが60°よりも小さいと、実質的に先端開口部10jは軸に直角方向に広がる単純な円形開口部に近くなる。そうすると、眼内レンズ2の先端部10aからの飛び出しを抑え難くなると共に、ノズル部15の眼球内への挿入抵抗が大きくなったり、眼球における切開創が広がって患者の負担を増加させたりする不都合を生じるおそれがある。
【0053】
一方、傾斜角度αが80°よりも大きいと、先端開口部10jの軸方向の開口寸法が大きくなり過ぎて、眼内レンズ2を先端部10a付近で確実に保持することが困難になるおそれがある。加えて、直線部102のM面に対する傾斜角度βは、特に限定されるものでないが、40°〜60°の範囲内で設定されるとよい。即ち、傾斜角度βが40°よりも小さいと切開創への先端部10aの挿入が困難となったり、切開創が広がって患者の負担を増加させたりするおそれがある。また、傾斜角度βが60°よりも大きいと、眼内レンズ2を確実に保持することが困難になるおそれがある。本実施例では、α=70°,β=50°に設定されている。
【0054】
また、湾曲部103は、直線部102側の部位と先端下側部101側の部位においてその曲率半径が異なるように形成されている。本実施例では、直線部100側の部位は曲率半径R1=4.5mm、先端下側部101側の部位は曲率半径R2=20mmの湾曲形状とされている。要するに、先端開口部10jの開口端面は、図8の断面図において、先端上側部100から先端下側部101に向かって直線部分と、次第に曲率半径が大きくなる複数の曲線部分とから形成されている。なお、先端開口部10jは、断面図において、全体に亘って曲線部分だけから構成されるようにしても良いし、また、連続して次第に曲率が変化するようにしてもよい。また、直線部分の組み合わせから構成されるようにしても良い。
【0055】
以上、説明したとおり、先端開口部10jは、斜め下方に開口せしめられた開口端面形状を有している。なお、先端開口部10jの前後方向長さは、2.5mm〜5.0mmの
範囲内で設定されるとよい。即ち、先端開口部10jの前後方向長さが2.5mmより小さいと、実質的に軸直角方向に広がる単純な円形開口部に近くなり、眼内レンズ2の飛び出しを抑えることが困難になる一方、先端開口部10jの軸方向長さが5.0mmよりも大きいと、眼内レンズ2を先端上側部100に案内されるまで保持し続けることが困難となるおそれがある。本実施例においては、先端開口部10jの軸方向長さは3.70mmに設定した。
【0056】
また、先端部10a付近における貫通孔10cの内径寸法は、1.0mm〜2.5mmの範囲内で設定されるとよい。即ち、貫通孔10cの内径寸法が1.0mmよりも小さいと、眼内レンズ2の圧縮変形が過剰となり、自身の復元力によって眼内レンズ2が先端開口部10jより勢い良く飛び出し易くなる。一方、貫通孔10cの内径寸法が2.5mmよりも大きいと、眼内レンズ2に加えられる湾曲変形が少なく、変形の反力としての貫通孔10cへの当接力が小さくなり、眼内レンズ2を先端上側部100に案内されるまで保持し続けることが困難になるおそれがある。本実施例においては、先端部10a付近における貫通孔10cは、1.5mm×2.0mmの楕円形状とした。
【0057】
さらに、図7及び図8に示すように、先端部10aの外周面には、全周に亘って軸方向後方に行くに連れて外方に広がるテーパ面104が形成されている。これにより、先端開口部10jの周縁部は、全周に亘って尖鋭エッジ形状とされている。ここにおいて、テーパ面104の中心軸Lに対する傾斜角度γは特に限定されるものでないが、5°〜15°の範囲内で設定されるとよい。即ち、傾斜角度γが5°よりも小さいと、実質的にテーパ面104が形成されていないのと同じとなって、切開創へのノズル部15の挿入が困難になるおそれがある。また、傾斜角度γが15°よりも大きいと、先端開口部10jの周縁部が尖鋭形状とならず、やはり切開創へのノズル部15の挿入が困難になるおそれがあるからである。
【0058】
なお、本実施例では、テーパ面104は、中心軸Lに対する傾斜角度が次第に変化せしめられた湾曲形状とされており、先端上側部100に形成されたテーパ面104は曲率半径R3=5.0mmの湾曲面とされている。要するに、本実施例では、先端開口部10jの周縁部には、全周囲において、外方に凸状に湾曲した縦断面形状をもって軸方向に延びるテーパ面104が形成されている。これにより、湾曲部103は、テーパ面104に滑らかに接続されている。なお、テーパ面104の傾斜角度は、先端開口部10jの周縁部全域において一定である必要はない。
【0059】
本実施例における眼内レンズの挿入器具1は、ノズル本体10の先端部10a付近の形状が上記のような形状となっているため、ノズル部15を切開創内へより容易に挿入することができて、施術者の操作性を向上できると共に、ノズル部15の挿入に際して必要とされる切開創の大きさをより小さくすることができる。これにより、患者の負担を軽減することが可能となる。
【0060】
また、上記のノズル本体10によれば、先端開口部10jの傾斜角度を先端上側部100側よりも先端下側部101側において大きくすることによって、先端開口部10jを側面図において外方に凸となる形状とすると共に、先端下側部101側においては開口量が小さくされている。これにより、眼内レンズ2を両側で囲む領域を前後方向に長く確保することができ、眼内レンズ2が先端部10aより飛び出してしまうことを抑制できる。また、眼内レンズ2を充分に大きな領域で露出させてから、かかる開口方向に向けて落とし込むようにして眼球内に挿入することが可能となり、施術者が意図する位置に安定して挿入することが可能となる。
【0061】
図9には、ノズル本体10の、先端部10a付近の3か所における断面図を示す。図9
(a)は図6に示したA−A断面を、図9(b)はB−B断面を、図9(c)はC−C断面についての図である。図9(a)〜図9(c)のいずれの図においても、貫通孔10cの上下両面には、左右方向で略平行に延びる平坦な上下平坦面105a、105bが形成されている。そして、上下平坦面105a、105bの両端には、左右両面に上下方向で延びると共に内方に凹となる向きで湾曲せしめられた左右湾曲面107a、107bが接続されている。ここにおいて、左右湾曲面107a、107bは、上下平坦面105a、105bに対して、共通接線をもって折れ点を有することなく滑らかに接続されている。
【0062】
図9(a)に示すA−A断面において、貫通孔10cの左右方向寸法をwa1、上下方向寸法をha1とする。また、ノズル部15の左右方向寸法をwa2、上下方向寸法をha2とする。この場合に、wa1≧ha1及び、wa2≧ha2なる関係が成立している。図9(b)に示すB−B断面においては、貫通孔10cの左右方向寸法をwb1、上下方向寸法はhb1とする。また、ノズル部15の左右方向寸法をwb2、上下方向寸法をhb2とする。B−B断面においては、A−A断面と比較して、ノズル部15及び貫通孔10cの左右方向寸法は大きくなっている。一方、ノズル部15及び貫通孔10cの上下方向寸法は殆ど変化しない。すなわち、wb1>wa1、wb2>wa2、hb1≒ha1、hb2≒ha2となる。また、ノズル部15におけるノズル本体10の左右方向の肉厚、すなわち、ノズル本体10における貫通孔10cの左右外側の厚みは、B−B断面においてA−A断面より厚くなっている。
【0063】
図9(c)に示すC−C断面においては、貫通孔10cの左右方向寸法をwc1、上下方向寸法をhc1とする。また、ノズル部15の左右方向寸法をwc2、上下方向寸法をhc2とする。C−C断面においては、B−B断面と比較して、ノズル部15及び貫通孔10cの左右方向寸法は大幅に大きくなっている。また、ノズル部15の上下方向寸法も大きくなっている。一方、貫通孔10cの上下方向寸法は殆ど変化しない。
【0064】
すなわち、wc1>wb1、wc2>wb2、hc2>hb2、hc1≒hb1となる。また、ノズル本体10の肉厚、すなわち、ノズル本体10における貫通孔10cの外側の厚みは、上下、左右方向ともにC−C断面においてB−B断面より厚くなっている。図9(a)〜図9(c)を比較して理解できるように、ノズル部15において、先端部10aに近づくにつれて、ノズル本体10の肉厚が上下左右方向ともに薄くなる傾向にあり、特に左右方向においてその傾向は顕著である。
【0065】
上記で説明したような眼内レンズの挿入器具1を用いて、患者の眼球内に眼内レンズ2を挿入させる手術に関して、近年は、患者の負担を軽減するために、ノズル本体10の先端部10a付近の寸法をより小型化し、眼組織における切開創の径をより小径で済むようにする要求がある。具体的には、図9における特にwa1、wa2、wb1、wb2を小さくすることが求められている。実際には、各々の寸法を0.1mm程度小さくする試みがなされている。
【0066】
図10には、上記のような改良(寸法の低減)を行った前後における、貫通孔10cの左右方向寸法wa1及び、レンズのつぶれ率についてのグラフを示す。図10(a)は、改良前後における貫通孔10cの、先端部10aからの距離と、wa1との関係の例を示している。横軸は先端部10aからの距離、縦軸は貫通孔10cの左右方向寸法wa1である。また、図10(b)は、改良前後における、先端部10aからの距離と、レンズつぶれ率との関係の例を示している。横軸は先端部10aからの距離、縦軸はレンズつぶれ率である。図10(a)及び(b)からも明確なように、先端部10a近傍の例えば先端下側部101近傍では、貫通孔10cの左右方向寸法wa1が小さくなり、レンズつぶれ率が大きくなっている。
【0067】
この場合、ノズル本体10の肉厚自体が、ノズル部15の先端部10a近傍の例えば先端下側部101近傍でより薄くなることを示している。また、レンズつぶれ率が大きくなることにより眼内レンズ2の復元力が、ノズル本体10の先端下側部101近傍により集中的に作用することを示している。これらの理由のために、先端下側部101においてノズル本体10に亀裂が生じるなどの不都合が生じるおそれがあった。
【0068】
これに対し、本発明では、図8に示したノズル部15の先端部10a付近の断面図において、特に先端下側部101における尖鋭エッジ形状を、尖鋭エッジ形状の他の領域における曲率半径や、先端開口部10jの傾斜角の変化に係る曲率半径より小さい曲率半径で形成することとした。これにより、先端下側部101付近のノズル本体10の肉厚を確保し、亀裂が生じるなどの不都合を抑制することとした。
【0069】
図11は、本発明の適用(改良ともいう)の有無による、先端下側部101付近の断面図の相違を示す図である。図11(a)は改良前の図、図11(b)は改良後の図を示している。また、図11(a)及び図11(b)において右側の図は先端部10a付近の断面図、左側の図は、先端下側部101近傍の拡大図である。図11(a)に示すように、改良前においては、先端上側部100から先端下側部101に至る先端開口部10jのM面に対する傾き曲線は、前述のように直線及び、曲率半径の異なる曲線により連続的に構成されている。そして、先端下側部101の前後において同じ曲率半径R2を採用している。この場合、先端下側部101においては先端開口部10jのM面に対する傾き角はかなり大きくなっており先端下端部101におけるノズル本体10の肉厚は非常に薄くなっている。
【0070】
一方、本発明を適用した改良後については、図11(b)に示すように、先端下側部101近傍の尖鋭エッジ形状においては、R4<R2となる曲率半径R4を採用している。また、この曲率半径R4はR4<R1、R4<R3なる関係も満たしている。これにより、先端下側部101近傍の尖鋭エッジ形状の肉厚を、先端下端部101から後方に行くにつれて急激に増加させることができ、この部分のノズル本体10の強度を大幅に向上させることができる。
【0071】
図12には、本実施例における先端下側部101近傍の拡大図の例を示す。この例では、先端下側部101の尖鋭エッジ形状の曲率として、R4=0.3〜0.4程度の曲率半径を採用している。この場合、例えば、先端開口部10jのM面に対する傾き曲線が前述のように直線及び、曲率半径の異なる曲線により連続的に構成され、先端下側部101の前後において同じ曲率半径R2を採用した場合と比較すると、ノズル本体10の先端下側部101近傍の肉厚を0.02mm〜0.03mm増加させることが可能である。また、この際に、肉厚が増加する領域(以下、厚み増加領域10kという)の幅は0.3〜0.4mmとなる。
【0072】
図13(a)には、本実施例における厚み増加領域10kを下側から見た図を示す。図13(b)には、比較のため、厚み増加領域10kがない場合の図を示す。図13(a)において、ハッチングにて示す領域が厚み増加領域10kである。また、図13(a)及び(b)において、破線で囲まれた領域は、先端開口部10jの周縁部の尖鋭エッジ形状のテ―パ面104である。このテ―パ面104は断面直線状(曲率半径=無限大)の真正なテ―パ面であってもよいし、前述のように断面が曲率を有するテ―パ面であってもよい。いずれにせよ、厚み増加領域10kにおける曲率半径を、テ―パ面104における他の領域の曲率半径より小さくすることで、厚み増加領域10kの強度を大幅に向上させることが可能である。
<実施例2>
【0073】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、本発明を、上記の実施例1とは異なる先端部60aを有するノズル本体60に適用した例について説明する。
【0074】
図14には、先端部60a付近の断面図を示す。図14に示すように、先端開口部60jは実施例1と同様、ノズル本体60におけるノズル部65を下側に行くほど後側に行くよう斜めに切断することで形成されている。すなわち、先端部60aにおいて上端の先端上側部200が下端の先端下側部201よりも前方に延び出された形となっている。
【0075】
図14において、先端開口部60jには、先端上側部200から先端下側部201に向けてノズル部65の中心軸Lに直交する面であるM面に対する傾斜角度が次第に大きくなる曲線形状とされた湾曲部202が所定寸法に亘って形成されている。そして、湾曲部202に接続され、M面に対する傾斜角度がさらに大きくなるように屈曲した直線からなる直線部203が形成されており、この直線部203の後端が先端下側部201に接続されている。なお、本実施例では、図14におけるβ=53.3度、δ=75度、α=67.2度となっている。また、先端開口部60jの中心軸Lと平行方向の長さは、約3.6mmとなっている。
【0076】
本実施例においては、先端開口部60jの開口端面は、上述のように湾曲部202と直線部203の2つの領域によって形成されている。本実施例では、湾曲部202についての曲率半径R1=8.55mm、直線部203についての曲率半径R2=∞ということになる。また、先端上側部200の上部は曲率半径R3=0.3mmのR面とされている。本実施例においても、ノズル本体60の先端部60a付近の形状が上記のようになっているため、ノズル部65を切開創内へより容易に挿入することができて、施術者の操作性を向上できる。
【0077】
また、上記のノズル本体60においても、先端開口部60jのM面に対する傾斜角度を湾曲部202よりも直線部203側において大きくすることによって、先端開口部60jを側面図において外方に凸となる形状とすると共に、先端下側部201側においては開口量が小さくされている。これにより、眼内レンズを両側で囲む領域を前後方向に長く確保することができ、眼内レンズが先端部60aより飛び出してしまうことを抑制できる。また、眼内レンズを充分に大きな領域で露出させてから、かかる開口方向に向けて落とし込むようにして眼球内に挿入することが可能となり、施術者が意図する位置に安定して挿入することが可能となっている。
【0078】
図15は、本実施例におけるノズル部65への本発明の適用(改良ともいう)の有無による、先端下側部201付近の断面図の相違を示す図である。図15(a)は改良前の図、図15(b)は改良後の図を示している。また、図15(a)及び図15(b)において右側の図は先端部60a付近の断面図、左側の図は、先端下側部201近傍の拡大図である。図15(a)に示すように、改良前においては、先端上側部200から先端下側部201に至る先端開口部60jのM面に対する傾き曲線は、前述のように湾曲部202及び直線部203により構成されている。この場合、先端下側部201においては直線部203の先端開口部20jのM面に対する傾き角は75度となっており先端下端部201におけるノズル本体60の肉厚は非常に薄くなっている。
【0079】
一方、本発明を適用した改良後については、図15(b)に示すように、先端下側部201近傍の断面図においては、R4=0.3mmの曲率半径を採用している。このR4は、R4<R1(=8.55mm)、R4<R2(=∞)、R4≦R3なる関係を満たしている。このようなR4を採用することにより、先端下側部201近傍のノズル本体60のエッジの肉厚を、先端下端部201から後方に行くにつれて急激に増加させることができ、この部分のノズル本体60の強度を大幅に向上させることができる。
【0080】
本実施例においても、図12に示した図と同様に、先端下側部201付近にR4が設けられていない場合と比較すると、ノズル本体60の先端下側部201近傍の肉厚を0.02mm〜0.03mm増加させることが可能である。また、この際にも、肉厚が増加する領域(厚み増加領域)の幅は0.3〜0.4mmとなる。また、本実施例における厚み増加領域を下側から見た図は図13(a)に示したハッチング部分と同様になる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・挿入器具
2・・・眼内レンズ
10、60・・・器具本体
10a、60a・・・先端部
10c・・・貫通孔
10j、60j・・・先端開口部
10k・・・厚み増加領域
12・・・ステージ部
12b・・・セット面
13・・・ステージ蓋部
13a・・・リブ
13b・・・リブ
13c・・・案内突起
30・・・プランジャ
50・・・位置決め部材
100、200・・・先端上側部
101、201・・・先端下側部
104・・・テ―パ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを収容する略筒形状を有する器具本体を備えており、
前記器具本体内に軸方向の後方から挿入された押出部材で前記眼内レンズを軸方向前方に移動させつつ小さく変形せしめて前記器具本体の軸方向先端部に設けられた挿入筒部を通じて押し出すことにより眼内に挿入する眼内レンズの挿入器具において、
前記挿入筒部の先端部における先端開口端面を前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とすると共に、
該先端開口端面の先端部と逆側の基端部側における周縁部の所定領域における、前記中心軸に直交する方向から見た前記挿入筒部の断面を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記周縁部における他の領域における曲率半径以下とすることを特徴とする眼内レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記先端開口端面の周縁部を、外周面テ―パ形状による尖鋭エッジ形状とし、
該先端開口端面の基端部側における周縁部の前記所定領域における、前記中心軸に直交する方向から見た前記外周面テ―パ形状の断面を、外側方向に膨らみを持つ曲線形状にすると共に、該曲線形状における曲率半径は、前記外周面テ―パ形状における他の領域における曲率半径より小さくすることを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記先端開口端面の前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対する傾斜角度は、先端部側よりも基端部側において大きく形成され、
前記先端開口端面の基端部側における周縁部の前記所定領域における、前記曲率半径は、
前記先端開口端面における基端部より先端部側の、前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た曲率半径より小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項4】
前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における、前記断面の曲線形状は前記挿入筒部における前記基端部より後方の外形と連続する形状になっていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項5】
前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における、前記断面の曲率半径は、半径0.3mm以上0.4mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項6】
前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た前記先端開口端面における基端部より先端部側の形状の少なくとも一部は直線状であり、
前記先端開口端面の基端部側の周縁部の前記所定領域における厚みは、該周縁部が、前記挿入筒部の中心軸に直交する方向から見た前記先端開口端面における基端部より先端部側の形状が延長された形状である場合と比較して、0.02mm以上0.03mm以下の範囲で肉厚が厚いことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−125361(P2012−125361A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278532(P2010−278532)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】