説明

眼内装置及び関連する方法

低視力患者の視力を改善するための視力補助及び関連する方法が提供される。概して、本開示の装置は、広い視野を保ちつつ拡大網膜像を提供することによって、加齢黄斑変性症(AMD)及び他の低視力患者の要求に対処する。さらに、本開示の装置によって、拡大網膜像は網膜の損傷部分から離れるように網膜の健全な部分又は網膜の少なくともより健全な部分に向けられるようになる。また、本開示の装置は、最小限の侵襲的な外科処置を使用して眼内に移植されるように構成される。外科処置を含む、本開示の装置を使用する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弱視患者を含む加齢黄斑変性症(AMD)及び他の低視力疾患を有する患者のための視力補助に関する。
【背景技術】
【0002】
AMD患者は、通常、中心視野が損なわれてきて、日常の仕事のために周辺視野にひどく依存することが多い。一般的に、周辺網膜は中心網膜に対して低い受容体密度を有し、このことは低い解像度をもたらす。AMDを有する患者のような低視力患者は中心網膜の劣悪な解像度も有する。このことに関連して、AMD患者は、悪化した中心窩を有することが多い。しかしながら、典型的には、悪化した中心の受容体を囲んでいる機能的な網膜受容体が依然として存在する。これら機能的な網膜受容体は周辺に配設されることが多く且つ互いの間に大きな間隔を有する。増大した間隔は画像解像度の低下をもたらす。例えば、視力は、3°の鼻側網膜(nasal retina)において、0°における1.0の視力に対して0.4に低下し、5°の鼻側網膜において、0°における1.0の視力に対して0.34に低下する。
【0003】
現在のところ、低視力疾患を有する患者が利用可能な三つの基本的なタイプの視力補助が存在する。第1のタイプは単一のテレスコープ(single telescope)である。単一のテレスコープは、眼鏡上に取り付けられることが多く、このため、重く且つ外見上魅力的ではない。移植されるテレスコープは移植手術中に非常に大きな切開を必要とすることが多い。テレスコープシステムを使用する主な欠点は、結果として得られる視野が狭く且つ全体的な画像の質が劣悪であることである。狭い視野又は視野狭窄(tunnel vision)によって、患者について安全性の懸念事項が生み出される。これに関連して、狭い視野は、患者が、通常、周辺視野において見られうる動作に気付くことを妨げる。患者は、周辺の動作を見ることができないので、これら動作に反応できず、このことは患者の怪我を引き起こす可能性がある。
【0004】
第2のタイプの視力補助はプリズムである。プリズムは視線を周辺網膜に再調整するのに使用される。しかしながら、プリズムは、二重像を回避すべく両眼の融合問題を克服しなければならない。さらに、プリズムは網膜像を拡大しない。このため、周辺の網膜受容体の大きな間隔によってもたらされる低視覚解像度の問題をプリズムでは解決することができない。
【0005】
視力補助の第3のタイプは拡大鏡(magnifying glass)である。いくつかの例では、拡大鏡はプリズムと組み合わされる。拡大鏡はデスクマウント装置(desk mount device)として使用されることが多く、このことは患者について装置の有効範囲を制限する。ハンドヘルドの拡大鏡は、持ち運び可能ではあるが、結果として生じる視力の不安定性及び焦点問題のせいで、手の震えを有する年配の多くの患者にとって適切ではない。
【0006】
このため、AMDを有する患者を含む低視力の人々のために、改善された視力補助に対する要求が依然として存在する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、AMD患者を含む低視力患者のための視力補助及び関連する方法を提供する。
【0008】
一つの実施形態では、眼内レンズシステムが提供される。眼内レンズシステムは、眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成された第1レンズと、眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成され、且つ第1レンズと係合するように構成された第2レンズとを含む。第1レンズは、第1光軸を有する正のパワーの光学部を有する。第2レンズは前面と反対側の後面とを有する。第2レンズの中心部が第2光軸を有する負の表面パワーの光学部を画成し、一方、前面の周辺部が正の表面パワーの光学部を画成する。第1光軸と第2光軸とは、第1レンズと第2レンズとが係合されると、互いに対してオフセットする。いくつかの例では、第1光軸と第2光軸とは、互いに対して略平行に延在するが、約0.05mm〜約0.75mmの間の距離だけオフセットしている。いくつかの例では、第1光軸と第2光軸とは約1°〜約15°の間の斜角だけオフセットしている。
【0009】
いくつかの例では、負の表面パワーの光学部を画成する第2レンズの中心部は前面の一部を含む。いくつかの例では、負の表面パワーの光学部を画成する第2レンズの中心部は後面の一部を含む。いくつかの例では、前面及び後面の両方の中心部が負の表面パワーの光学部を画成する。いくつかの例では、後面の周辺部が、第2レンズの前面の周辺部と第2レンズの後面の周辺部とが単焦点の光学部を形成するように正の表面パワーの光学部も有する。いくつかの例では、第2レンズの周辺部によって形成された単焦点の光学部のパワー範囲は6ジオプター〜34ジオプターの間である。これに関連して、いくつかの実施形態では、第1レンズの正のパワーの光学部は第1の直径を有し、第2レンズは、第1レンズの正のパワーの光学部の周りを通る光が、第1レンズと第2レンズとが係合されると、第2レンズの前面の周辺部及び第2レンズの後面の周辺部によって形成された単焦点の光学部を通るように、第1の直径よりも大きな第2の直径を有する。いくつかの形態では、第1レンズの正のパワーの光学部と第2レンズの後面の負の表面パワーの光学部とは約1.5X〜約4.0Xの間の角倍率を提供する。これに関連して、第1レンズの正のパワーの光学部と第2レンズの後面の負の表面パワーの光学部とが、第2レンズ内において、略平行にされた光ビームを生成することができ、この光ビームは、正の表面パワーの光学部を画成する第2レンズの後面の中心部の上に投射される。
【0010】
いくつかの例では、第1レンズは第1支持部システムを含み、第2レンズは第2支持部システムを含み、第1支持部システム及び第2支持部システムは第1光軸と第2光軸との間にオフセットを生成するように構成される。いくつかの態様では、第1レンズ及び第2レンズは水晶体嚢内に移植されるように構成される。これに関連して、第1支持部システム及び第2支持部システムは、第1レンズの少なくとも一部が、水晶体嚢が第1支持部システム及び第2支持部システムの周りに収縮包囲された後に嚢切開を通って突出するように構成されうる。いくつかの実施形態では、第1支持部システム及び第2支持部システムは、第1レンズの正のパワーの光学部が、第1レンズと第2レンズとが係合されると、約2.0mm〜約4.0mmの間の距離だけ第2レンズの前面の中心部から離間されるように構成される。第1レンズ及び第2レンズは、約4.0mmよりも短い長さの切開創を通したレンズの移植を容易にするように折り畳み可能である。これに関連して、いくつかの実施形態では、第1レンズ及び第2レンズは、カートリッジシステムを使用して挿入されるように構成される。
【0011】
別の実施形態では、前方レンズ及び後方レンズを含む移植可能な機器が提供される。前方レンズは、眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成される。前方レンズは、眼の角膜と組み合わされて約3.0mm〜約5.0mmの間の背面焦点距離を提供するように、第1光軸を有する正のパワーの光学部を画成する。後方レンズは、後方レンズから前方レンズの位置において眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成される。後方レンズは前面と反対側の後面とを有する。前面の中心部が、第2光軸を有する負のパワーの光学面を画成し、前面の周辺部が第1の正のパワーの光学部表面を画成する。後面の中心部が第2の正のパワーの光学部表面を画成し、後面の周辺部が第3の正のパワーの光学部表面を画成する。前面の周辺部の第1の正のパワーの光学部表面と後面の周辺部の第3の正のパワーの光学部表面とは、6ジオプター〜34ジオプターの間のパワー範囲を有する単焦点の光学部を形成する。前方レンズ及び後面レンズは、眼の後房内に移植されると、約0.05mm〜約0.75mmの間だけ第2光軸に対して第1光軸をオフセットさせるように構成された支持部を含む。
【0012】
いくつかの例では、前方レンズ及び後方レンズは水晶体嚢内に移植されるように構成される。いくつかの例では、前方レンズ及び後方レンズの支持部は、前方レンズの少なくとも一部が、水晶体嚢が前方レンズ及び後方レンズの周りに収縮包囲された後、嚢切開を通って突出するように構成される。さらに、前方レンズ及び後方レンズの支持部は、前方レンズが、前方レンズ及び後方レンズが眼の後房内に移植されると、約2.0mm〜約4.0mmの間の距離だけ後方レンズから離間されるように構成されうる。いくつかの例では、前方レンズ及び後方レンズは、約4.0mmよりも短い長さの切開創を通した移植を容易にするように折り畳み可能である。
【0013】
別の実施形態では、加齢黄斑変性症(AMD)及び他の視覚問題に冒された患者の視力を改善するための方法が提供される。本方法は、第1レンズの第1光軸が第2レンズの第2光軸に対してオフセットするように水晶体嚢内に眼内レンズシステムを移植することを含む。眼内レンズシステムは、第1レンズと第2レンズの中心部とが網膜の中心からずれた部分の上に拡大像を投射し、且つ、第2レンズの周辺部が6ジオプター〜34ジオプターの間のパワー範囲を有する単焦点の光学部として作用して網膜上に周辺像を投射するように移植される。いくつかの例では、本方法は、網膜の損傷部分を特定することと、第1光軸と第2光軸とのオフセットによって拡大像が網膜の損傷部分から離れて向けられるように、水晶体嚢内において第1レンズ及び第2レンズを方向付けることとを更に含む。いくつかの実施形態では、第1光軸と第2光軸とのオフセットによって、拡大像が網膜の中心窩の少なくとも一部から離れるように網膜の周辺部に向けられる。いくつかの例では、第1レンズと第2レンズとは眼の後房内に別々に挿入される。いくつかの実施形態では、第1レンズ及び第2レンズは、カートリッジシステムを使用して眼の後房内に挿入される。さらに、いくつかの実施形態では、水晶体嚢は第1レンズ及び第2レンズの周りに収縮包囲される。これに関連して、第1レンズは、第1レンズの少なくとも一部が、第1レンズ及び第2レンズが水晶体嚢によって収縮包囲された後、嚢切開の外に突出するように移植される。
【0014】
概して、本開示の装置は、広い視野を保ちつつ拡大網膜像を提供することによって、AMD及び他の低視力患者の要求に対処する。さらに、本開示の装置によって、拡大網膜像は網膜の損傷部分から離れるように網膜の健全な部分又は網膜の少なくともより健全な部分に向けられるようになる。また、本開示の装置は、最小限の侵襲的な外科処置を使用して眼内に移植されるように構成される。本開示の他の態様、特徴及び利点が以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本開示の一つの態様に係る移植された眼内レンズシステムを備えた眼の概略的な断面側面図である。
【図2】図2は、図1の眼内レンズシステムの断面側面図である。
【図3】図3は、図1及び図2の眼内レンズシステムのレンズの上面の斜視図である。
【図4】図4は、図3のレンズの底面の斜視図である。
【図5】図5は、図3及び図4のレンズの上面図である。
【図6】図6は、図3、図4及び図5のレンズの側面図である。
【図7】図7は、図1及び図2の眼内レンズシステムの別のレンズの上面の斜視図である。
【図8】図8は、図7のレンズの底面の斜視図である。
【図9】図9は、図7及び図8のレンズの側面図である。
【図10】図10は、図7、図8及び図9のレンズの上面図である。
【図11】図11は、図7、図8、図9及び図10のレンズの底面図である。
【図12】図12は、本開示の一つの態様に係る、網膜の中心からずれた位置への拡大網膜像の投射を示す、図1の移植された眼内レンズシステムを備えた眼の概略的な断面側面図である。
【図13】図13は、本開示の別の態様に係る移植された眼内レンズシステムを備えた眼の概略的な断面側面図である。
【図14】図14は、図13の眼内レンズの上面の斜視図である。
【図15】図15は、図13及び図14の眼内レンズシステムのレンズの上面の斜視図である。
【図16】図16は、図5のレンズの底面の斜視図である。
【図17】図17は、図15及び図16のレンズの側面図である。
【図18】図18は、図15、図16及び図17のレンズの正面図である。
【図19】図19は、図15、図16、図17及び図18のレンズの上面図である。
【図20】図20は、本開示の一つの態様に係る、網膜の中心からずれた位置への拡大網膜像の投射を示す、図13の移植された眼内レンズシステムを備えた眼の概略的な断面側面図である。
【図21】図21は、本開示の別の態様に係る眼内レンズシステムの断面斜視図である。
【図22】図22は、本開示の別の態様に係る眼内レンズシステムにおける使用のためのレンズの上面の斜視図である。
【図23】図23は、本開示の更に別の態様に係る眼内レンズシステムにおける使用のためのレンズの上面の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の例示的な実施形態が、以下、添付の図面を参照して記述される。
本開示の原理を容易に理解する目的のために、以下、図において示される実施形態が参照され、特定の用語が同一の物を記述するのに使用される。それにも拘わらず、本開示の範囲が限定されないことが意図されていることが理解されるだろう。記述される装置、器具、方法に対するあらゆる変更及び更なる修正、並びに本開示の原理のあらゆる更なる用途が、本開示に関係する当業者が通常想到するように十分に考えられる。特に、一つの実施形態に関して記述される特徴、構成要素及び/又はステップが本開示の他の実施形態に関して記述される特徴、構成要素及び/又はステップと組み合わされうることが十分に考えられる。
【0017】
図1を参照すると、本開示の態様を示す構成100が示される。これに関連して、図1は眼102の概略的な断面側面図である。眼102は、角膜104、前房106及び後房108を含む。水晶体嚢110が後房108内に示される。眼102は、黄斑114及び中心窩116を含む網膜112を更に含む。概して、眼102は、AMD患者、又は本開示が関係する他の低視力患者の眼を表す。眼内レンズシステム120は後房108内に移植される。特に、眼内レンズ120は水晶体嚢110内に移植される。示されるように、眼内レンズシステム120は前方レンズ122及び後方レンズ124を含む。
【0018】
以下、図2〜図11を参照すると、眼内レンズシステムの態様がより詳細に記述される。これに関連して、図2は眼内レンズシステム120の前方レンズ122及び後方レンズ124の断面側面図であり、図3〜図6は、それぞれ、前方レンズ122の上面の斜視図、下面の斜視図、上面図及び側面図であり、図7〜図11は、それぞれ、後方レンズ124の上面の斜視図、下面の斜視図、側面図、上面図及び下面図である。
【0019】
特に図2〜図6を参照すると、前方レンズ122は光学部126を含む。光学部126は正のパワーの光学部である。示される実施形態では、光学部126は両凸である。すなわち、光学部126の前面及び後面は凸面である。いくつかの実施形態では、光学部126は、約3.0mm〜約7.0mmの間の焦点距離を有し、いくつかの例では約5.0mm〜約6.0mmの間の焦点距離を有する。
【0020】
前方レンズ122は支持部128も含む。一般的な事項として、支持部128は、以下により詳細に記述されるように、光学部126をオフセットさせるように構成される。いくつかの例では、支持部128は、透明又は半透明であり、実質的に光学パワー(optical power)を与えない。示される実施形態では、支持部128は、外側の境界131を画成するリム130を有する。示される実施形態では、外側の境界131は、図5において最もよく示されるように、中心点132を中心とした実質的に円形の外形を有する。外側の境界131は、中心点から延在する半径133によって画成される。概して、半径133は、約3.0mm〜約5.5mmの間であり、いくつかの例では約4.2mm〜約4.8mmの間である。
【0021】
アーム134、136がリム130から内側に延在する。アーム134、136はリム130を取付領域138に接続する。取付領域138は、光学部126を適切な方向に取り付けるように構成される。これに関連して、支持部128は、光学部126が中心点132に対してオフセットするように、光学部126を位置決めすべく構成される。特に、光学部126の中心は、中心点132から距離142だけオフセットしている中心点140である。いくつかの実施形態では、距離142は約0.05mm〜約0.75mmの間である。光学部126の中心が中心点140であるので、光学部126の光軸144が、図2及び図6において示されるように、中心点140を通って延在する。図5を再び参照すると、示される実施形態では、取付領域138は、中心点140を中心とする概して円形の外側外形を有する。したがって、取付領域138は中心点132に対してオフセットしている。これに関連して、アーム134、136は、取付領域138と光学部126とのオフセット位置に適応すべく、異なる長さを有する。示される実施形態では、アーム134はアーム136よりも短い。二つのアーム134、136が示されるが、リム130と取付領域138との間に任意の数の接続部が使用されてもよいことが理解される。
【0022】
特に図2及び図7〜図11を参照すると、後方レンズ124の態様が記述される。一般的な事項として、後方レンズ124は光学部146及び支持部148を含む。示される実施形態では、支持部148は、外側境界151及び内側境界152を画成するリム150を含む。示される実施形態では、外側境界151及び内側境界152は、図10において最もよく見られるように、中心点154を中心とする実質的に円形の外形を有する。図10において示されるように、内側境界152は、概して、中心点154から延在する半径156によって画成される。これに関連して、半径156は、リム150内に前方レンズ122を取り付けることを可能とすべく前方レンズ122の半径133にほぼ等しい。後方レンズ124の支持部148は、リム150から内側に延在する表面158も含む。いくつかの例では、表面158は、前方レンズ122のリム130の下面と嵌合するように構成される。これに関連して、表面158は、いくつかの実施形態では、ほぼ平坦である。表面158は、示される実施形態では、内側境界152に対して略垂直に延在する。しかしながら、他の例では、表面158は内側境界152に対して斜角で延在する。
【0023】
図2において示されるように、光学部146は前面160及び後面162を含む。図7及び図10を参照すると、前面160は、周辺部166によって囲まれた中心部164を含む。示される実施形態では、中心部164は、中心点154から延在する半径168によって画成される、概して円形の外形を有する。これに関連して、半径168は概して約0.5mm〜約4.0mmの間である。中心部164は、全体として、前面160に対して概して前面160の全表面積の約10%〜約70%の間である。中心部164は負の表面パワーの光学部を画成する。したがって、示される実施形態では、前面160の中心部164は凹面である。周辺部166は正の表面パワーの光学部を画成する。したがって、示される実施形態では、周辺部166は凸面である。中心部164と周辺部166との間の移行部は、滑らかな又は丸みを帯びた移行部、(例えば移行部が縁を画成するような)切り立った移行部(abrupt transition)、及び/又はこれらの組合せでありうる。
【0024】
特に図11を参照すると、後面162は、同様に、周辺部172によって囲まれた中心部170を含む。示される実施形態では、中心部170は、中心点154から延在する半径174によって画成される、概して円形状の外形を有する。これに関連して、半径174は概して約0.5mm〜約4.0mmの間である。中心部170は、全体として、後面162に対して概して後面162の全表面積の約10%〜約70%の間である。いくつかの例では、後面162の中心部170を画成する半径174は、前面160の中心部164を画成する半径168にほぼ等しい。他の例では、半径174は、後面162の中心部170が対応して前面160の中心部164よりも大きく又は小さくなるように、半径168よりも大きく又は小さい。
【0025】
後面162の中心部170は正の表面パワーの光学部を画成する。したがって、示される実施形態では、後面162の中心部170は凸面である。同様に、後面162の周辺部172も正の表面パワーの光学部を画成する。したがって、示される実施形態では、周辺部172も凸面である。中心部170と周辺部172との間の移行部は、滑らかな又は丸みを帯びた移行部、(例えば移行部が縁を画成するような)切り立った移行部、及び/又はこれらの組合せでありうる。中心部170は、いくつかの例では中心部170及び周辺部172が単一の連続した光学面の部分であるという事実を示すべく、仮想線で境界が定められる。これに関連して、いくつかの例では、中心部170と周辺部172との間に可視的な移行部が存在しない。さらに、いくつかの例では、中心部170及び周辺部172は同一の正の光学パワーを有する。
【0026】
概して、前面160の中心部164及び後面162の中心部170は、網膜112に向かって拡大像を投射する。以下に考察されるように、いくつかの例では、中心部164は、略平行にされた光のビームを中心部170に向かって投射し、中心部170は、結果として生じる拡大像を網膜112に向かって投射する。さらに、いくつかの実施形態では、前面160の周辺部166及び後面162の周辺部172は共に単焦点の光学部を形成する。これに関連して、周辺部166、172は、いくつかの例では、約6ジオプター〜約34ジオプターの間のパワー範囲を提供する。周辺部166、172によって形成された単焦点の光学部の特定の強度は患者の要求に基づいて選択されうる。これに関連して、後方レンズ124の周辺部166、172は、いくつかの例では、網膜上に周辺視野の像を投射するのに使用される。
【0027】
概して、図9において示されるように、前面160によって画成された光学部146と、後面162とは共通の光軸176を共有する。光軸176は概して後方レンズ124の中心点154を通って延在する。図1及び図2において示されるように、前方レンズ122が後方レンズ124と係合されると、前方レンズの光軸144は後方レンズの光軸176に対して距離178だけオフセットする。これに関連して、前方レンズ122のリム130の外側境界131と後方レンズ124のリム150の内側境界152との係合によって、前方レンズの中心点132は後方レンズの中心点154と実質的に整列するようになる。したがって、前方レンズ122の光学部126は、中心点132に対する光学部126のオフセット距離に等しい距離だけ、後方レンズの光学部146に対してオフセットする。後方レンズの光軸176が中心点154から延在するので、光軸144と光軸176との間のオフセット距離178はオフセット距離142にほぼ等しい。したがって、いくつかの例では、オフセット距離178は約0.05mm〜約0.75mmの間である。図2において示されるように、前方レンズ122が後方レンズ124に係合されると、前方レンズの光学部126は後方レンズの光学部146から距離180だけ離間される。これに関連して、距離180は光学部126の後端部と光学部146の前端部との間の距離を表す。距離180は、いくつかの例では約2.0mm〜約4.0mmの間であるが、いくつかの例ではこの範囲の外側であってもよい。いくつかの例では、距離180は光学部126の焦点距離に基づいて決定される。これに関連して、距離180は、光学部126の焦点が後方レンズ124の光学部146の範囲に入るように選択されてもよい。
【0028】
以下、図12を参照すると、前方レンズ122の光学部126と、後方レンズ124の光学部148、特に後方レンズ124の中心部164、170との間のオフセットによって、網膜112上に投射された像における対応するオフセットがもたらされる。特に中心視野を表す光182が、眼102の中に入り、角膜104を通って、前方レンズ122の光学部126に入る。光学部126は、後方レンズの前面160の中心部164に向かって光182を集束させる。いくつかの例では、角膜104、光学部126及び中心部164は、1.5X〜4.0Xの範囲内の角倍率を有する無限焦点のガリレイ式望遠鏡(afocal Galilean telescope)を形成する。これに関連して、いくつかの実施形態では、角膜、光学部126及び中心部164は後方レンズ124の範囲内において略平行にされた光ビームを生成し、この光ビームは後面162の中心部170に向かって向けられる。光は後面162の中心部170を通って網膜112上に投射される。これに関連して、光軸144と光軸176との間のオフセット距離178は、結果として生じる拡大像184の中心窩の中心点に対するオフセットの量を決定する。概して、オフセット距離178が大きければ大きいほど、結果として生じる拡大像184のオフセットの量も大きくなる。これに関連して、眼内レンズシステム120のための外科キットが、特定の患者のために適切なオフセットの量を有する前方レンズが選択されうるように、異なるオフセットを有する複数の前方レンズ122を含んでもよいことが考えられる。
【0029】
さらに、結果として生じる像184のオフセットの量に加えて、オフセットの方向も選択されうる。これに関連して、いくつかの例では、前方レンズ122は、眼内レンズシステム120によって生成される拡大像184が、黄斑114の損傷部分、例えば中心窩116の全体又は一部から離れて網膜112のより健全な部分に向けられるように後方レンズ124に対して方向付けられる。これに関連して、オフセットの方向を調整すべく、前方レンズ122を後方レンズ124に対して回転させてもよい。前方レンズ122は、拡大像184が、上へ、下へ、左へ、右へ、且つ/又はこれらの組合せに向けられうるように、後方レンズ124に対して360°回転されることができる。示される実施形態では、リム130及びリム150の円形の外形によって、ほぼ一定のオフセットの量がもたらされる。しかしながら、上記されたように複数の前方レンズに異なる量のオフセットを提供することと、オフセットの方向が後方レンズに対する前方レンズの回転を介して選択可能であるという事実とによって、オフセットの方向及び大きさを、あらゆるAMD患者又は他の低視力患者の要求に適合するように概して合わせることができる。
【0030】
レンズ122、124、特に前方レンズ122の光学部126の適切な方向付けを容易にすべく、レンズ122、124の一方又は両方は、レンズの相対位置を指示するためのマーキング、インデックス及び/又は他の特徴を含むことができる。これに関連して、マーキング、インデックス及び/又は他の特徴は光学部126のオフセットの方向、ひいては、眼内システムの結果として生じる拡大像184が中心窩の中心点に対して向けられるであろう方向を外科医に知らせることができる。したがって、例えば患者が中心窩の左下の四分円において損傷を有する場合、レンズ122、124は、中心窩の右上の四分円並びに黄斑及び網膜の周辺部に拡大像184を向けるように方向付けられることができる。いくつかの例では、マーキング、インデックス及び/又は他の特徴は前方レンズ122のリム130の一部である。いくつかの例では、前方レンズ122の支持部128の構造が、外科医又は介護人に対して光学部126のオフセットの方向を特定するのに使用される。損傷した中心窩、黄斑及び/又は網膜の部分、ひいては拡大像184をオフセットさせる適切な方向を特定することは、眼内レンズシステム120の移植前に標準的な技法(例えば網膜スコープ(retinal scope))を使用して決定されてもよい。これに関連して、計算機プログラムが、移植前の試験から入手されたデータに基づいて、拡大像184について推奨位置を提案することができ且つレンズ122、124の対応する方向を提供することができる。代替的に、眼内レンズシステム120は、移植され、その後、患者に最良の視力を提供するようにチューニングされ又は調整されてもよい。これに関連して、レンズ122、124の方向は、患者の視力における将来的な変化に適合すべく移植後に調整されてもよい。例えば、拡大像184を受容するように最初に選択された領域自体が損傷した場合、その後、別の適切な領域が特定されることができ、レンズ122、124の方向が、その適切な領域に拡大像を向けるように調整される。この態様では、最初の移植のかなり後でさえも患者の要求に眼内レンズシステム120を合わせることができる。
【0031】
上記された拡大像184は前方レンズ122の光学部126及び後方レンズ124の中心部164、170によって概して生成される。これに関連して、拡大像184は中心視野の拡大像であり、結果として生じる拡大像184が患者の全視野を占めないことが重要である。むしろ、拡大像184は、周辺視野からの像も網膜上に投射されるように網膜112の一部の上にのみ投射される。これに関連して、周辺視野を表す眼内を通る光は前方レンズ122の光学部126から逸れて後方レンズの周辺部166、172を通過する。上記されたように、周辺部166、172は共に単焦点の光学部を形成し、単焦点の光学部は、周辺視野の代表的な光を網膜上に投射するのに使用される。これに関連して、いくつかの例では、周辺部166、172は約6ジオプター〜約34ジオプターの間のパワー範囲を提供する。周辺部166、172によって形成された単焦点の光学部の特定の強度は患者の要求に基づいて選択されてもよい。したがって、眼内レンズシステム120は、網膜の周辺部に周辺視野をそれでもなお提供することによって、視野狭窄を生じさせることなく、中心視野の改善された拡大像184を患者に提供する。
【0032】
いくつかの例では、拡大像184の偏位が視野における暗点を回避するのに使用される。例えば、像184の偏位は、特に黄斑移動術を受けたAMD患者に有用である。これに関連して、黄斑移動は、鋭敏な視力に関与する網膜の領域(黄斑)を病気に冒された下層(網膜色素上皮及び網膜脈絡)から離れるように移動させるべく設計された外科技術である。概して、黄斑は、これら下部の組織がより健全である領域に移動せしめられる。黄斑移動術を受けた患者について、患者の視線の法線はもはや患者の黄斑と整列されていない。結果的に、黄斑移動処理された眼は「内斜視」又は「外斜視」のような望ましくない「斜視」の外観を示しうる。さらに、患者が黄斑移動術で処理された両眼を有する場合、本来の視力機能に悪影響がありうる。例えば、左眼がより良好に見るために見上げる必要があり、且つ、右眼がより良好に見るために見下す必要がある場合、患者は、斯かる両眼の移動が行われるのが非常に困難であるので、両眼で明瞭に見ることが困難であるだろう。網膜像の位置を変えることは、新しい黄斑位置に視線を再配置することによって、「斜視」外観を低減し又は矯正することができる。さらに、本開示の眼内レンズシステムは、両眼の黄斑移動の場合に両眼の運動についての要求が取り除かれ又は大いに低減されるように、各眼について網膜像の位置を変えることを可能とする。
【0033】
眼内レンズシステム120のレンズ122、124は、侵襲的技術を最小限使用して、眼102の後房108において水晶体嚢110内に移植されるように構成される。したがって、眼内レンズシステムは、前房と後房とを組み合わせたシステムに関連した複雑さを回避しつつ、それでもなお、最小限の侵襲的外科技術の利益を提供する。これに関連して、レンズ122、124は、約4.0mm未満、典型的には3.5mm未満の長さを有する切開又は嚢切開を通して移植されるように構成される。いくつかの例では、レンズ122、124は、アルコンから市販されているカートリッジシステムを含むカートリッジシステムを使用して移植されるように構成される。いくつかの例では、レンズ122とレンズ124とは移植前に互いと係合される。他の例では、レンズ122、124は水晶体嚢110内に別々に挿入される。例えば、いくつかの実施形態では、後方レンズ124が水晶体嚢110内に挿入される。その後、前方レンズ122が水晶体嚢110内に挿入されて後方レンズ124と係合される。いくつかの例では、水晶体嚢110は、レンズとしっかりと係合すべく移植後にレンズ122、124の周りに収縮包囲される(shrink-wrapped)。さらに、いくつかの実施形態では、前方レンズ122の光学部126の少なくとも一部は、水晶体嚢がレンズの周りに収縮包囲された後に水晶体嚢110における切開又は嚢切開を通って延在するように大きさが定められて形成される。さらに、いくつかの実施形態では、レンズ122、124の大きさ及び形状によって、レンズ内細胞(interlenticular cell)の成長を妨げることが補助される。これに関連して、少なくとも前方レンズの構造によって、前嚢リフレット(anterior capsular leaflet)と後嚢との間の接触がより容易にされる。いくつかの例では、嚢切開の開口よりも小さい光学部126の直径が支持部の中央の脚の間隔と組み合わされることによって、前嚢リフレットとのより容易な接触がもたらされ、このことによって、望まれていないレンズ内細胞の成長が制限され又は妨げられる。いくつかの例では、レンズ122、124の周りにおける水晶体嚢110の収縮包囲は、レンズ内細胞の成長を妨げるべく、レンズの光学部の周りの円周間隙をシールする。
【0034】
図13を参照すると、本開示の代替的な実施形態を示す構成200が示される。具体的には、眼内レンズシステム220が眼102の後房108において水晶体嚢110内に移植される。示されるように、眼内レンズシステム220は前方レンズ222及び後方レンズ224を含む。一般的な事項として、眼内レンズシステム220は、上述された眼内レンズシステム120と同様の機能を提供する。例えば、眼内レンズシステム220は拡大網膜像を提供し、拡大網膜像は例えば中心窩116の全部又は一部のような黄斑114の損傷部分から離れるように向けられ、一方、周辺像はそれでもなお網膜に提供される。しかしながら、後方レンズ224の光軸に対して前方レンズ222の光軸が特定の距離だけオフセットする代わりに(二つの光軸は互いに対して略平行に延在する)、前方レンズの光軸は眼内レンズシステム220において後方レンズの光軸に対して斜角を成す。
【0035】
以下、図14〜図19を参照すると、眼内レンズシステム220の態様がより詳細に考察される。これに関連して、示される実施形態では、後方レンズ224は、上記された後方レンズ124と実質的に同様であり、このため、ここでは詳細に考察されない。したがって、以下、前方レンズ224の特徴に焦点が当てられる。これに関連して、図14は眼内レンズシステム220の前方レンズ222及び後方レンズ224の上面の斜視図であり、一方、図15〜図19は、それぞれ、前方レンズ222の上面の斜視図、下面の斜視図、側面図、正面図及び上面図である。
【0036】
示されるように、前方レンズ222は光学部226を含む。光学部226は正のパワーの光学部である。示される実施形態では、光学部226は両凸である。すなわち、光学部226の前面及び後面は凸面である。いくつかの実施形態では、光学部226は約3.0mm〜約7.0mmの間の焦点距離を有し、いくつかの例では、焦点距離は約5.0mm〜約6.0mmの間である。
【0037】
前方レンズ222は支持部228も含む。一般的な事項として、支持部228は、以下、より詳細に考察されるように、光学部226を角度方向にオフセットさせるように構成される。いくつかの例では、支持部228は、透明又は半透明であり、光学パワーを実質的に提供しない。示される実施形態では、支持部228はリム230を有し、リム230は外側境界232及び内側境界234を画成する。示される実施形態では、リム230は外側境界232と内側境界234との間にほぼ一定の厚み236を有する。これに関連して、外側境界232及び内側境界234は、図19において最もよく見られるように、中心点238を中心とした実質的に円形の外形を有する。外側境界は、いくつかの例では約3.0mm〜約5.5mmの間の半径を有し、いくつかの例では約4.2mm〜約4.8mmの間の半径を有する。しかしながら、他の実施形態では、リム230は他の外形を有する。例えば、図21は、本開示の別の態様に係る前方レンズ400の一つの実施形態を示す。これに関連して、レンズ400は、レンズの外側境界が丸みを帯びた端部を有する概して矩形の外形を画成するようにレンズの反対側の部分が取り除かれたことを除いて、前方レンズ222と同様である。いくつかの実施形態では、丸みを帯びた端部は、レンズ400が同様の態様において(例えばレンズ124、224のような)後方レンズと接合できるように、リム230と同様の部分的に円形の外形を有する。
【0038】
アーム240、242、244がリム230から内側に延在する。アーム240、242、244はリム230を取付領域246に接続する。示される実施形態では、アーム240、242、244は、ほぼ等しい長さを有する。三つのアーム240、242、244が示されるが、リム230と取付領域246との間に任意の数の接続部が使用されてもよいことが理解される。例えば、図22は、本開示の別の態様に係る前方レンズ500の一つの実施形態を示す。これに関連して、レンズ500は、光学部が位置付けられる取付領域にリムを接続する二つのアームを有することのみを除いて、レンズ222と実質的に同様である。図19を再び参照すると、取付領域246は、適切な方向に光学部226を取り付けるように構成される。これに関連して、取付領域246を含む支持部228は、前方レンズと後方レンズとが互いに係合されるときに光学部126が後方レンズの光学部に対して角度方向にオフセットするように光学部126を位置付けるべく構成される。
【0039】
図17において最もよく見られるように、示される実施形態において、前方レンズ222の支持部228は、所定の高さ又は厚み250を有するリム230の端部248と、所定の高さ又は厚み254を有する反対側の端部252とを画成する。これに関連して、高さ250は、リム230が端部248と端部252との間でテーパー状になるように高さ254よりも大きい。示されるように、示される実施形態では、リム230は端部248と端部252との間に連続した一定のテーパー部を有する。アーム240、242、244がリム230の周囲において離間され且つほぼ等しい長さを有するので、取付領域246はリム230のテーパー部に適合する量だけ角度が付けられる。したがって、取付領域246の角度の量は、端部248と端部252との間の相対高さを変化させることによって調整されることができる。示される実施形態では、光学部226は、同様にリム230のテーパー部に適合すべく角度が付けられるように、取付領域246上に取り付けられる。これに関連して、光学部226は光軸256を画成し、図13及び図17において最もよく見られるように、光軸256は、前方レンズ222の下面262に対して略垂直に延在する軸線260に対して斜角258で延在する。これに関連して、下面262は、上記された後方レンズ124の表面158と同様の後方レンズ224の表面と嵌合するように構成された概して平坦な面である。概して、斜角258は、約0.5°〜約15°の間であるが、いくつかの例ではこの範囲の外側であってもよい。
【0040】
いくつかの例では、軸線260は、前方レンズ222と後方レンズとが係合されると、後方レンズ224の光学部の光軸に実質的に整列される。他の例では、軸線260と後方レンズ224の光学部の光軸とは、互いに対して略平行に延在するが、約0.05mm〜約1.5mmの間の距離だけ隔てられる。斯かる実施形態では、光学部226の光軸256は、角度方向及び距離方向の両方において、後方レンズの光学部の光軸に対してオフセットする。概して、前方レンズ222の光軸と後方レンズ224の光軸との間の特定の角度及び/又は距離のオフセットは、網膜112の所望の部分に拡大像を投射するように選択される。
【0041】
以下、図20を参照すると、後方レンズ124の光学部の光軸に対する前方レンズ222の光学部226の角度方向のオフセットは、網膜112上に投射される像において対応するオフセットをもたらす。特に、中心視野を表す光264は、眼102の中に入り、角膜104を通過して、前方レンズ222の光学部226に入る。光学部226は後方レンズ224に向かって光264を集束させ、後方レンズ224は網膜112上に拡大像266を投射する。これに関連して、光学部226の光軸256と後方レンズ224の光軸との間のオフセットの角度258は、結果として生じる拡大像266の中心窩の中心点に対するオフセットの量を決定する。概して、後方レンズ224の光軸が軸線260に実質的に一致するように前方レンズ222が後方レンズ224の中心に配置されると仮定すると、角度258が大きければ大きいほど、結果として生じる拡大像266のオフセットの量は大きくなる。特定の患者のために適切な量のオフセットを有する前方レンズが選択されうるように、眼内レンズシステム220のための外科キットが、異なる角度方向のオフセットを有する複数の前方レンズ222を含みうることが考えられる。概して、レンズ222、224は、網膜上で拡大像266の位置を調整すべく、上記されたレンズ122、124と同様の態様において操作されることができる。
【0042】
以下、図21を参照すると、本開示の別の実施形態に係る眼内レンズシステム320の断面斜視図が示される。これに関連して、眼内レンズシステム320は前方レンズ322及び後方レンズ324を含む。前方レンズ322は上記の光学部126、226と同様の正のパワーの光学部326を含む。前方レンズ322は支持部328を更に含む。示されるように、支持部328はアーム330を含む。前方レンズ322が、図21において示されていない前方レンズ322の他方の半部において、アーム330と同様の別のアーム(図示せず)を含むことが理解される。後方レンズ324は、上記された後方レンズ124の光学部と同様である光学部332を含む。後方レンズ324は支持部334も含む。示されるように、支持部334はアーム336を含む。後方レンズ324が、図21において示されていない後方レンズ324の他方の半部において、アーム336と同様の別のアーム(図示せず)を含むことが理解される。支持部328、334、特に前方レンズ322のアーム330及び後方レンズ324のアーム336は、前方レンズの光学部326の光軸と後方レンズの光学部332の光軸との所望の(距離又は角度の)オフセットをもたらす特性を有する。これに関連して、支持部328、334の材料特性、支持部328、334の形状特性、及び/又はこれらの組合せが、所望のオフセットを実現すべく調整される。いくつかの例では、治療する医療関係者が所望のオフセットを実現すべくレンズの適切な組合せを選択することを可能とすべく、複数の前方レンズ322及び複数の後方レンズ324がキットにおいて提供される。
【0043】
概して、本開示の眼内レンズシステムのレンズは任意の適切な材料から形成されうる。例えば、いくつかの例では、レンズは柔軟なアクリルポリマー(例えば、商標アクリソフ(登録商標)の下、アルコンによって販売される市販のレンズを形成するのに使用される材料)から形成される。他の実施形態では、レンズはシリコーン又はヒドロゲルのような他の適切な生体適合性材料から形成される。いくつかの例では、レンズの支持部は、光学部とは異なる材料から形成される。斯かる例では、支持部は、適切なポリマー材料、例えばポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン及びこれらの均等物から形成されてもよい。本開示の眼内レンズシステムのレンズは米国特許第6416550号明細書に開示された材料から形成されてもよく、米国特許第6416550号明細書は参照によってその全体が本明細書の一部を構成する。いくつかの例では、レンズは、最小限の侵襲的外科技術を使用した挿入を容易にすべく折り畳まれる。特に、レンズは、4.0mm未満、いくつかの例では3.5mm未満の長さを有する切開創を通して挿入されるように構成されうる。いくつかの実施形態では、レンズは、眼内レンズカートリッジシステムを使用して挿入されるように構成される。さらに、レンズは別々に又は一緒に挿入されうる。例えば、一つの実施形態では、後方レンズが水晶体嚢内に最初に挿入され、その後、前方レンズが水晶体嚢内に挿入されて後方レンズと係合される。
【0044】
いくつかの例では、本開示の眼内レンズシステムは他の処置と組み合わされて使用される。例えば、AMDを有する患者を治療するとき、開示された任意の眼内レンズシステムが、AMDの更なる進行を停止し且つ遅らせるべく、AMD薬の投与と併せて使用されてもよい。いくつかの例では、AMD薬は、進行性の黄斑変性の治療のための眼科製剤である。AMD薬は、眼内レンズシステムが患者の視力をより改善するのを補助すべく、視力を安定させ且つ一定に保つことができる。また、いくつかの例では、眼内レンズシステムは、コンタクトレンズ、屈折切除(refractive ablation)、及び/又は他の治療と共に使用される。
【0045】
さらに、後方レンズの前面は概して後方レンズの負の光学部を形成するように示されてきたが、このことは装置の作動原理の例証目的のためであり、このことに限定されることは意図されていない。むしろ、いくつかの実施形態では、後方レンズの前面、後面、及び/又は前面と後面との組合せが、負の光学部を形成するのに使用されることが理解される。例えば、いくつかの例では、後方レンズの前面の中心部は正の光学部であり、後面の中心部は負の光学部である。他の例では、前面及び後面両方の中心部が負の光学部である。これに関連して、いくつかの実施形態では、前面及び後面両方の中心部が負の光学部である場合、光学部の度数(degree)は、前面及び後面の負の光学部の効果の合計が一方の表面のみが使用されるときの負の光学部にほぼ等しくなるように減少せしめられる。
【0046】
上述された実施形態では、様々な方法(例えば距離及び角度)を使用した前方レンズの光学部のオフセットに焦点が当てられてきたが、このことに限定されることは意図されていないことが理解される。概して、偏位された拡大像を生成する任意の手段が使用されうる。さらに、上記の前方レンズに関して考察された同一の原理が、同様に後方レンズの光学部をオフセットさせるべく適用されうることが理解される。したがって、いくつかの実施形態では、後方レンズの光学部は、上述された特徴及び方法を使用してオフセットされる。さらに、いくつかの実施形態では、前方レンズ及び後方レンズ両方の光学部が、上述された特徴及び方法を使用してオフセットされる。概して、本開示の眼内レンズシステムは前方レンズ及び後方レンズの一方又は両方の光学部においてオフセットの任意の組合せ(例えば距離及び/又は角度)を使用することができる。
【0047】
例示的な実施形態が示され且つ記述されてきたが、広範な修正、変更及び置換が前述の開示において考えられる。斯かる変化が本開示の範囲から逸脱することなく前述の開示に対してなされることが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲が、本開示と一致した態様において、広く解釈されることが妥当である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成された第1レンズであって、第1光軸を有する正のパワーの光学部を有する第1レンズと、
前記眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成され、且つ前記第1レンズと係合するように構成された第2レンズであって、前面と反対側の後面とを有し、該第2レンズの中心部が第2光軸を有する負の表面パワーの光学部を画成し、前記前面の周辺部が第1の正の表面パワーの光学部を画成する、第2レンズと
を具備する眼内レンズシステムであって、
前記第1レンズと前記第2レンズとが係合されると、前記第1光軸と前記第2光軸とが互いに対してオフセットする、眼内レンズシステム。
【請求項2】
前記負の表面パワーの光学部を画成する前記第2レンズの中心部が前記前面の一部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記負の表面パワーの光学部を画成する前記第2レンズの中心部が前記後面の一部を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記後面の中心部が第2の正の表面パワーの光学部を有し、前記後面の周辺部が第3の正の表面パワーの光学部を有する、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2レンズの前面の周辺部の第1の正の表面パワーの光学部と、前記第2レンズの後面の周辺部の第3の正の表面パワーの光学部とが、6ジオプター〜34ジオプターの間のパワー範囲を有する単焦点の光学部を形成する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1レンズの正のパワーの光学部が第1の直径を有し、前記第2レンズは、前記第1レンズの正のパワーの光学部の周りを通る光が、前記第1レンズと前記第2レンズとが係合されると、該第2レンズの前面の周辺部及び該第2レンズの後面の周辺部によって形成された前記単焦点の光学部を通るように、前記第1の直径よりも大きな第2の直径を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1レンズの正のパワーの光学部と前記第2レンズの後面の負の表面パワーの光学部とが約1.5X〜約4.0Xの間の角倍率を提供する、請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1レンズの正のパワーの光学部と前記第2レンズの後面の負の表面パワーの光学部とが、前記第2レンズ内において、略平行にされた光ビームを生成し、該光ビームが、第2の正の表面パワーの光学部を有する前記第2レンズの後面の中心部の上に投射される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1レンズが第1支持部システムを含み、前記第2レンズが第2支持部システムを含み、前記第1支持部システム及び第2支持部システムが、前記第1光軸と前記第2光軸との間に前記オフセットを生成するように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1レンズ及び第2レンズが水晶体嚢内に移植されるように構成され、少なくとも前記第1支持部システム及び第2支持部システムは、前記水晶体嚢が前記第1支持部システム及び第2支持部システムの周りに収縮包囲された後に前記第1レンズの少なくとも一部が嚢切開を通って突出するように構成される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記第1支持部システム及び第2支持部システムは、前記第1レンズの正のパワーの光学部が、前記第1レンズと前記第2レンズとが係合されると、約2.0mm〜約4.0mmの間の距離だけ前記第2レンズの前面の中心部から離間されるように構成される、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
前記第1レンズ及び第2レンズが、約4.0mmよりも短い長さの切開創を通した移植を容易にするように折り畳み可能である、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記第1レンズ及び第2レンズが、カートリッジシステムを使用して挿入されるように構成される、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記負の表面パワーの光学部を画成する前記第2レンズの中心部が前記後面の一部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1光軸と前記第2光軸とが、互いに対して略平行に延在するが、約0.05mm〜約0.75mmの間の距離だけオフセットしている、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記第1光軸と前記第2光軸とが約1°〜約15°の間の斜角だけオフセットしている、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成された前方レンズであって、前記眼の角膜と組み合わされて約3.0mm〜約5.0mmの間の背面焦点距離を提供するように、第1光軸を有する正のパワーの光学部を画成する前方レンズと、
後方レンズであって、該後方レンズから前記前方レンズの位置において前記眼の後房内に移植されるように大きさが定められて形成され、前面と反対側の後面とを有し、前記前面の中心部が第2光軸を有する負のパワーの光学部表面を画成し、前記前面の周辺部が第1の正のパワーの光学部表面を画成し、前記後面の中心部が第2の正のパワーの光学部表面を画成し、前記後面の周辺部が第3の正のパワーの光学部表面を画成し、前記前面の周辺部の第1の正のパワーの光学部表面と前記後面の周辺部の第3の正のパワーの光学部表面とが、6ジオプター〜34ジオプターの間のパワー範囲を有する単焦点の光学部を形成する、後方レンズと
を具備する機器あって、
前記前面レンズ及び後面レンズが、前記眼の後房内に移植されると、約0.05mm〜約0.75mmの間だけ前記第2光軸に対して前記第1光軸をオフセットさせるように構成された支持部を含む、機器。
【請求項18】
前記前方レンズ及び後方レンズが水晶体嚢内に移植されるように構成される、請求項17に記載の機器。
【請求項19】
前記前方レンズ及び前記後方レンズの支持部は、前記前方レンズの少なくとも一部が、前記水晶体嚢が前記前方レンズ及び後方レンズの周りに収縮包囲された後、嚢切開を通って突出するように構成される、請求項18に記載の機器。
【請求項20】
前記前方レンズ及び後方レンズの支持部は、前記前方レンズが、前記前方レンズ及び後方レンズが前記眼の後房内に移植されると、約2.0mm〜約4.0mmの間の距離だけ前記後方レンズから離間されるように構成される、請求項17に記載の機器。
【請求項21】
前記前方レンズ及び後方レンズが、約4.0mmよりも短い長さの切開創を通した移植を容易にするように折り畳み可能である、請求項20に記載の機器。
【請求項22】
前記第2の正のパワーの光学部表面と前記第3の正のパワーの光学部表面とが正のパワーの単一の光学部表面の表面部分である、請求項17に記載の機器。
【請求項23】
加齢黄斑変性症(AMD)及び他の視覚問題に冒された患者の視力を改善するための方法であって、
第1レンズと第2レンズの中心部とが網膜の中心からずれた部分の上に拡大像を投射し、且つ、前記第2レンズの周辺部が6ジオプター〜34ジオプターの間のパワー範囲を有する単焦点の光学部として作用して前記網膜上に周辺像を投射するように、前記第1レンズの第1光軸が前記第2レンズの第2光軸に対してオフセットするように水晶体嚢内に眼内レンズシステムを移植することを含む、方法。
【請求項24】
前記網膜の損傷部分を特定することと、
前記第1光軸と前記第2光軸との前記オフセットによって、前記第1レンズ及び第2レンズによって生成された前記拡大像が前記網膜の損傷部分から離れて向けられるように、前記水晶体嚢内において前記第1レンズ及び第2レンズを方向付けることと
を更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第1光軸と前記第2光軸との前記オフセットによって、前記拡大像が前記網膜の中心窩の少なくとも一部から離れるように前記網膜の周辺部に向けられる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第1レンズと前記第2レンズとが眼の後房内に別々に挿入される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記第1レンズ及び第2レンズが、カートリッジシステムを使用して眼の後房内に挿入される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記水晶体嚢が前記第1レンズ及び第2レンズの周りに収縮包囲され、前記第1レンズは、該第1レンズの少なくとも一部が、前記第1レンズ及び第2レンズが前記水晶体嚢によって収縮包囲された後、嚢切開の外に突出するように移植される、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2013−514140(P2013−514140A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544594(P2012−544594)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/059026
【国際公開番号】WO2011/075331
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】