説明

眼疲労測定装置

【課題】眼疲労を精度よく測定可能で、かつ、可搬性に優れた眼疲労測定装置を提供する。
【解決手段】光学系13を通じて筐体12の外部の視対象物を視認する焦点の合焦時に操作するボタンスイッチ15の操作毎に光学系13の屈折力を切り換える。ボタンスイッチ15の操作間隔により被験者の焦点の調節応答時間を計時することで、被験者の眼疲労を精度よく測定できる。測距センサ51によって筐体12と外部の視対象物との距離を測定し、その距離が、光学系13を介して被験者が視対象物を視認可能な所定の距離であるかどうか、および、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知部によって報知する。筐体12の外部に配置した視対象物を用いても測定環境を固定することが可能になり、筐体12内部に視対象物を配置する場合と比較して筐体を小型化でき、可搬性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼疲労を測定する眼疲労測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼疲労を測定する眼疲労測定装置としてフリッカー測定器が知られている。このフリッカー測定器は、LED光源を機械的または電気的に任意の周波数で点滅させ、ちらつきが見える最も高い周波数を求め、これをフリッカー値として評価する。数値が小さいほど、視覚系の生理的な機能低下(以下、眼疲労という)していることを示すもので、簡易的に眼疲労を評価できる測定器とされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、このようなフリッカー測定器は、光源の輝度、明暗比、大きさ、色などでフリッカー値が異なってくるので、測定値を比較する場合には、これらの条件が同じでなければならない。現在、日本ではフリッカー測定器の基本的機能が規格化されているものの、フリッカー値は疲労以外の身体運動、精神的緊張、照明による網膜の明暗順応などの要因に影響されやすいので、眼疲労の測定にばらつきが生じやすい問題がある。
【0004】
そこで、筐体内に屈折力の異なる2枚のレンズを配置し、これらレンズから所定の距離で筐体内に配置した視対象物すなわち視標を用いて、屈折力の異なるレンズを切り換えた時に発生する焦点が合うまでの時間(焦点調節応答時間(以下、ART))を計測し、焦点調節機能を評価する構成が知られている。このARTが長いほど眼疲労していることを示すもので、簡易的に眼疲労を評価できる(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
この構成では、比較的再現性の高いと言われているARTを計測しているので、フリッカー測定器よりも眼疲労を客観的に捉えることができる。そして、ART計測時の照明環境が異なると、無負荷時(眼疲労をしていない時)でもARTの値が異なるので、この構成では、計測したARTを比較するために、ART計測時の環境を固定するように、全体を筐体の内部に配置している。したがって、この構成では、装置全体の大きさが大きくなり、可搬性に乏しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−180664号公報(第2頁)
【特許文献2】特開2008−23323号公報(第5−9頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、眼疲労を客観的に測定しつつ、可搬性に優れた構成が望まれている。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、眼疲労を精度よく測定可能で、かつ、可搬性に優れた眼疲労測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の眼疲労測定装置は、被験者が覗き込む観察開口部、および、この観察開口部に光学的に対向して形成された対物開口部を備えた筐体と;この筐体内に配置された光学系と;この光学系による観察開口部から対物開口部への視軸上の屈折力を切り換え可能な駆動部と;光学系を介して筐体の外部に位置する視対象物を視認する焦点の合焦時に操作される操作部と;この操作部の操作毎に駆動部により光学系の屈折力を切り換えさせるとともに、操作部の操作間隔を計時する制御部と;筐体とこの筐体の外部の視対象物との距離を測定する測距センサと;この測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離が、光学系を介して被験者が視対象物を視認可能な所定の距離であるかどうか、および、測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離が、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知可能な報知部と;を具備しているものである。
【0010】
筐体は、例えば樹脂などにより形成され、固定バンドなどを介して被験者の頭部に固定することにより、観察開口部を被験者の目の位置に対向させて固定できる構造となっている。
【0011】
観察開口部および対物開口部は、例えば互いに対向する対をなす面にそれぞれ形成されている。
【0012】
光学系は、例えば、屈折力が異なる2主類のレンズを視軸上に移動させる構成、あるいは複数のレンズを組み合わせることで屈折力を可変する構成などとしてもよい。
【0013】
駆動部は、例えばモータ、ソレノイド、あるいはシリンダなどが用いられ、光学系に屈折力が異なる2種類のレンズを用いた場合にはそれらレンズを移動させるようにする。
【0014】
視対象物としては、例えば、文字、あるいは図柄などの視対象物を用いてもよい。
【0015】
操作部は、眼疲労を測定する被験者が操作するもので、例えばボタン、スイッチなどを用いることができる。
【0016】
制御部は、操作部の操作間隔を計時する計時機能を有するほか、操作間隔を記憶する記憶機能、操作間隔に基づいて眼疲労の度合いを判定する判定機能などを備えていてもよい。
【0017】
測距センサは、例えば、超音波センサなどが用いられ、筐体の対物開口部側に配置されている。
【0018】
報知部は、例えば、音、あるいは光などにより、被験者自身、あるいは被験者と異なる測定者などに報知が可能となっている。
【0019】
前回以前の測定時とは、前回の測定時、あるいは、それ以前の測定時を含む。
【0020】
請求項2記載の眼疲労測定装置は、請求項1記載の眼疲労測定装置において、筐体の外部の照度を検出する照度センサと、筐体の外部の色を計測する色センサと、筐体の外部に位置する視対象物を撮像する画像センサと、筐体の動作状態を検出する動作検出センサとの少なくともいずれか一つを筐体に具備し、報知部は、これらセンサの少なくともいずれかからの出力と測距センサにより測定した測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離とに基づいて、視対象物の周囲の環境が前回以前の測定時と同一であるかを報知可能であるものである。
【0021】
照度センサとしては、例えば、フォトダイオードなどが用いられる。
【0022】
色センサとしては、例えば、RGBフォトダイオードなどが用いられる。
【0023】
画像センサとしては、例えば、CCDセンサ、あるいはCMOSセンサなどが用いられる。
【0024】
動作検出センサとしては、例えば、ジャイロセンサなどが用いられる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の眼疲労測定装置によれば、光学系を通じて筐体の外部の視対象物を視認する焦点の合焦時に操作される操作部の操作毎に光学系の屈折力を切り換え、その操作部の操作間隔である被験者の焦点の調節応答時間を計時することにより、その調節応答時間に基づいて被験者の眼疲労を精度よく測定できる。さらに、測距センサによって筐体とこの筐体の外部の視対象物との距離を測定し、その距離が、光学系を介して被験者が視対象物を視認可能な所定の距離であるかどうか、および、測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離が、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知部によって報知可能であることにより、筐体の外部に配置した視対象物を用いても測定環境を固定することが可能になり、筐体内部に視対象物を配置する場合と比較して筐体を小型化でき、可搬性に優れる。
【0026】
請求項2記載の眼疲労測定装置によれば、請求項1記載の眼疲労測定装置の効果に加えて、報知部が、照度センサ、色センサ、画像センサおよび動作検出センサの少なくともいずれかからの出力と測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離とに基づいて、視対象物の周囲の環境が前回以前の測定時と同一であるかを報知可能であることにより、測定環境を前回以前の測定時と同一の環境に、より確実に固定でき、被験者の眼疲労を、より精度よく測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態を示す眼疲労測定装置の前方からの斜視図である。
【図2】同上眼疲労測定装置の後方からの斜視図である。
【図3】同上眼疲労測定装置の縦断面図である。
【図4】同上眼疲労測定装置の内部構成を示すブロック図である。
【図5】同上眼疲労測定装置の被験者への固定状態を示す説明側面図である。
【図6】同上眼疲労測定装置を用いた測定状態を示す説明斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0029】
図1は眼疲労測定装置の前方からの斜視図、図2は眼疲労測定装置の後方からの斜視図、図3は眼疲労測定装置の縦断面図、図4は眼疲労測定装置の内部構成を示すブロック図、図5は眼疲労測定装置の被験者への固定状態を示す説明側面図、図6は眼疲労測定装置を用いた測定状態を示す説明斜視図である。
【0030】
図1ないし図4において、11は眼疲労測定装置を示し、この眼疲労測定装置11は被験者の焦点調節応答時間(以下、ARTという)を計測することにより、被験者の焦点調節機能を評価し、この焦点調節機能を介して、被験者の眼疲労を簡易的に評価するものである。
【0031】
そして、眼疲労測定装置11は、筐体12と、この筐体12内に配置された光学系13と、この光学系13を移動させる駆動部14と、被験者が操作する操作部としてのボタンスイッチ15と、制御部16と、センサ部17と、報知部18と、初期設定入力部19と、出力部20とを備え、図5に示すように、被験者の頭部Hに、固定手段としての固定バンド21,21により固定されて筐体12の外部の視対象物22を視認できるように構成されている。
【0032】
図1ないし図3に示すように、筐体12は、例えば合成樹脂などにより上下方向に長い直方体状に形成されており、視対象物22側である前側に位置する前面部25と、被験者側である後側に位置する後面部26とが互いに対向して形成され、これら前面部25と後面部26との両側部に連続する側面部27,28と、これら各面部25〜28の上部および下部をそれぞれ閉塞する上面部29および下面部30とを有している。
【0033】
前面部25には、略中央部に、視対象物22を視認するための円形状の対物開口部33が開口形成されているとともに、この対物開口部33の上部に、センサ部17が配置されている。
【0034】
後面部26には、略中央部に、被験者が左右いずれかの目で覗き込む窓部としての観察部である円形状の観察開口部35が開口形成されているとともに、上端近傍に、初期設定入力部19が配置されている。したがって、観察開口部35は、対物開口部33と互いに対向する位置となっており、互いの中心位置が略同一直線上に位置している。すなわち、観察開口部35から対物開口部33へと、水平状の視軸37が形成される。また、観察開口部35の周囲には、被験者の額などをあてがう図示しない位置決めパッドなどが配置され、被験者の目の位置が観察開口部35に対して規定されるように構成されている。
【0035】
側面部27,28には、上下方向の略中間位置に、側方へと突出するように固定バンド21,21が取り付けられている。また、一方の側面部27には、出力部20とボタンスイッチ15とがそれぞれ下側寄りの位置に配置されている。
【0036】
光学系13は、屈折率が異なる2つのレンズ41,42を有し、これらレンズ41,42が視軸37と交差する上下方向に配列されるとともに、上下方向に移動可能に構成されている。レンズ41は、例えば遠焦点用で凸レンズが用いられ、レンズ42は、例えば近焦点用で凹レンズが用いられる。
【0037】
駆動部14は、例えばモータ、ソレノイド、あるいはシリンダなどを有しており、レンズ41,42の一方が対物開口部33に対向して選択的に視軸37上に配置されるように切り換え駆動される構成となっている。換言すれば、この駆動部14は、観察開口部35から対物開口部33への視軸37上の屈折力を切り換えるように構成されている。
【0038】
ボタンスイッチ15は、駆動部14によるレンズ41,42の切り換えを操作するためのものである。
【0039】
制御部16は、図4に示すように、駆動部14、ボタンスイッチ15、センサ部17、報知部18、初期設定入力部19および出力部20などがそれぞれ電気的に接続されて構成されている。また、この制御部16は、ボタンスイッチ15の操作毎の駆動部14で光学系13の異なる屈折力のレンズ41,42に切り換えさせるとともに、ボタンスイッチ15の操作間隔を計時および記憶し、さらに眼疲労の度合いを判定する機能を有している。
【0040】
すなわち、制御部16は、ボタンスイッチ15の操作間隔を計時する計時部45、この計時部45で計時した操作間隔、測定前に初期設定入力部19に予め入力される被験者の測定前の状態(初期設定)、および、前回以前の各種測定データを記憶する記憶部46、および、測定によって得られたデータを測定前に予め登録された被験者の測定前の状態と比較して眼疲労の度合いを判定して出力部20から出力可能な判定部47などを有している。
【0041】
センサ部17は、筐体12と視対象物22(図6)との距離を測定する測距センサ51と、筐体12の外部の照度を検出する照度センサ52と、筐体12の外部の色を計測する色センサ53と、筐体12の外部に位置する視対象物22を撮像する画像センサ54と、筐体12の動作状態、すなわち傾きおよび移動速度(加速度)などを検出する動作検出センサ55とを有している。
【0042】
測距センサ51は、例えば超音波センサなどである。
【0043】
また、照度センサ52は、例えばフォトダイオードなどである。
【0044】
また、色センサ53は、例えばRGBフォトダイオードなどである。
【0045】
また、画像センサ54は、例えばCCDセンサ、あるいはCMOSセンサなどである。
【0046】
そして、これらセンサ51〜54は、筐体12の前面部25の対物開口部33の上方に、互いに左右方向に並んで、かつ、前方に向けて配置されている。
【0047】
また、動作検出センサ55は、例えばジャイロセンサなどであり、例えば筐体12の内側の上部に配置されている。
【0048】
また、報知部18は、例えば光源、あるいはブザーなどであり、制御部16の記憶部46に予め記憶されたデータを参照して、測距センサ51により測定した筐体12と視対象物22との距離、換言すれば被験者の角膜から視対象物22までの距離が、光学系13を介して被験者が視対象物22を視認可能な所定の距離であるかどうか、すなわち測定に適した距離範囲であるかどうかを、光、あるいは音によって被験者に報知可能となっている。具体的に、報知部18は、視対象物22との距離が測定に適した距離となったときに発光、あるいは発音することで、眼疲労測定装置11を固定した被験者が視対象物22に対して適切な距離に位置するように指示を出すことが可能である。また、報知部18は、記憶部46に記憶した前回以前の測定のデータを参照して、測距センサ51により測定した筐体12と視対象物22との距離が、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知したり、この距離と、各センサ52〜55の少なくともいずれかからの出力とに基づいて、視対象物22の周囲の環境が前回以前の測定時と同一であるかを報知したりすることが可能となっている。報知部18によるこれらの報知は、報知の内容に対応して例えば発光の色あるいは位置などを変えたり、発音の音色あるいは長さなどを変えたりするなど、報知部18の動作状態を変えることにより、被験者自身、あるいは被験者以外の測定者などにそれぞれ認識させることが可能である。
【0049】
初期設定入力部19は、被験者の測定前の状態(初期設定)を被験者自身が直接入力したり、外部からPCなどを用いて入力したりするものである。
【0050】
この被験者の測定前の状態としては、被験者の近点および遠点などだけでなく、例えば起床時間、就寝時間、目の疲労感、起床してからの視作業の有無と量と時間、実験開始時刻、および、生体情報などが含まれる。
【0051】
出力部20は、制御部16によって測定した操作時間および判定結果などを表示する表示部である図示しないディスプレイ、あるいは印刷部である図示しないプリンタなどが接続される端子部である。
【0052】
固定バンド21,21は、例えば面ファスナなどにより構成され、被験者の頭部Hの大きさに応じて長さを調整可能となっている。
【0053】
次に、上記一実施の形態の作用を説明する。
【0054】
眼疲労測定装置11は、遠近2つの視対象物を交互に見るときに各視対象物に視線を移して焦点が合うまでの調節応答時間に基づいて眼疲労を測定するものである。
【0055】
この眼疲労測定装置11で、眼疲労を測定するのに調節応答時間を用いる理由としては、過去の知見で比較的再現性高く眼疲労を測定できたという報告がされていたからである。眼疲労を強制的に負荷する実験を行った結果、眼疲労を負荷する前に比べ、後の方がARTが増加するという結果を得た。本実施の形態は、過去の知見と実際に行った実験の結果を基に考案した。
【0056】
そして、眼疲労測定装置11による眼疲労の測定方法の一例について説明する。
【0057】
まず、初期設定入力部19に各種初期設定を入力する。
【0058】
次いで、眼疲労測定装置11の筐体12の観察開口部35に右目、もしくは左目が位置するように固定バンド21,21を用いて眼疲労測定装置11を被験者の頭部Hに装着し、観察したい場所にART計測用の視対象物22を置く。例えば、幾何学模様がプリントされた普通紙Sを机上面Dに載置する。
【0059】
この後、被験者は眼疲労測定装置11とともに頭部Hを動かし、測定に適切な位置を見つける。例えば、被験者は、報知部18により所定の音が発音された位置で頭部Hを止める。
【0060】
ここで、観察開口部35を覗く被験者の目の角膜からの視対象物22までの距離は、例えば1/(位置)=(1/近点−1/遠点)/2+1/遠点、もくしは1/(位置)=1/近点−(1/近点−1/遠点)/2の式により算出する。ただし、これらの算出方法は、測定に使用するレンズ41,42の屈折力の絶対値が同じ場合に限る。測距センサ51により測定した距離が、上記の式により算出された距離であるかどうかによって、報知部18の報知を変える。
【0061】
この状態で、動作検出センサ55の出力により、被験者の頭部Hが静止したことが確認されたら、各種センサ51〜54がその時の情報を取得する。
【0062】
ここで、過去の知見から、被験者の焦点調節範囲が小さい場合には、視作業によって主観的な眼の疲労感は大きくなっても、視作業の前と後とでARTの変化があまり表れないのに対して、被験者の焦点調節範囲が大きい場合には、視作業前に対して視作業後のARTが増加する。このことから、ARTを測定するには、被験者毎の焦点調節範囲が最大となる遠点と近点とに設定すると、高い精度で視角系の生理的な機能低下である眼疲労を測定できることが推測される。このため、光学系13のレンズ41,42は、初期設定の近点・遠点から決められたジオプターのものとなっており、これらレンズ41,42の一方が対物開口部33に対向する位置となっている。
【0063】
そして、被験者はレンズ越しに視対象物22を観察し、焦点が合っている状態を確認した後、ボタンスイッチ15を押す。このようにボタンスイッチ15が押されることで、制御部16は、駆動部14を制御し、レンズ41,42のうちの他方を視軸37上に移動させる。さらに、制御部16は、最初にボタンスイッチ15が押されたときから計時を開始する。
【0064】
被験者は、レンズ41,42のうちの一方から他方に切り換わることにより、その切り換わった瞬間には視対象物22の焦点が合わなくなるが、その後に焦点が合ったらボタンスイッチ15を押す。
【0065】
さらに、被験者は、再びレンズ越しに視対象物22を観察し、焦点が合っている状態を確認したら、ボタンスイッチ15を押す。このようにボタンスイッチ15が押されることで、制御部16は、駆動部14を制御し、レンズ41,42のうちの一方を視軸37上に移動させる。さらに、制御部16は、ボタンスイッチ15が1回目に押されたときから2回目に押されたときまでの時間である操作間隔、すなわちARTを記憶部46に記憶し、2回目に押されたときからの計時を開始する。
【0066】
被験者は、レンズ41,42のうちの他方から一方に切り換わることにより、その切り換わった瞬間には視対象物22の焦点が合わなくなるが、その後に焦点が合ったらボタンスイッチ15を押す。これらボタンスイッチ15を押すタイミングは、全て記憶部46に記憶される。
【0067】
そして、これらの測定作業により、被験者の焦点が合うまでの時間であるARTを計測することができる。
【0068】
ここで、ARTは、測定を繰り返すに従い一定値に近付く。通常、1回目に測定したARTが最も長く、測定回数が増えるに従ってARTは減少し、ある一定の値を示すようになる。これは、1回目の測定が測定前の被験者の眼疲労を反映しているため、あるいは、2回目以降は被験者が測定に慣れボタンスイッチ15を押すタイミングが安定するためと考えられる。このため、ARTは所定回数、例えば5回程度繰り返し測定し、略一定の値となった時点で、その値を測定された真のARTとすることが好ましい。
【0069】
この眼疲労測定装置11は、例えば、オフィスなどで、省エネルギのために部屋の照明を落とし、手元照明で補助するような照明環境を評価するのに用いることができる。
【0070】
例えば、照明環境Aと照明環境Bの視作業による眼疲労の度合いを比較したい場合、まず、視作業を行う前に各環境下で上記の計測を行う。このときの照明環境AでのARTをAx、照明環境BでのARTをBxとする。この後、各環境下で視作業を行い、ある程度時間が経ったら、再び上記の計測を行う。このときの照明環境AでのARTをAy、照明環境BでのARTをByとする。例えば、これらARTの結果が、(Ay−Ax)>(By−Bx)であれば、照明環境Aの方が照明環境Bよりも眼疲労しやすいと考えられ、反対に(By−Bx)>(Ay−Ax)であれば、照明環境Bの方が照明環境Aよりも眼疲労しやすいと考えられる。
【0071】
このように、光学系13を通じて筐体12の外部の視対象物22を視認する焦点の合焦時に操作されるボタンスイッチ15の操作毎に光学系13のレンズ41,42を一方から他方、あるいは他方から一方へと切り換えることで屈折力を切り換え、そのボタンスイッチ15の操作間隔である被験者の焦点のARTを計時することにより、そのARTに基づいて被験者の眼疲労を精度よく測定できる。さらに、測距センサ51によって筐体12とこの筐体12の外部の視対象物22との距離を測定し、その距離が、光学系13を介して被験者が視対象物22を視認可能な所定の距離であるかどうか、および、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知部18によって報知可能であることにより、筐体12の外部に配置した視対象物22を用いても測定環境を固定することが可能になり、被験者の眼疲労を精度よく測定しつつ、筐体12の内部に視対象物を配置する場合と比較して筐体12を小型化でき、可搬性に優れる。
【0072】
すなわち、ARTを測定することで被験者の眼疲労を測定する場合、照明環境などが異なると、無負荷時(眼疲労をしていない状態)でもARTの値が異なってしまうので、比較するARTを測定するための環境を固定する必要がある。したがって、本実施の形態では、筐体12の外部に視対象物22を配置した構成としているにも拘らず、測距センサ51によって、視対象物22を配置した環境が固定されているかどうかを確認できるので、筐体12を小型化することが可能になり、可搬性を向上できる。
【0073】
また、報知部18が、照度センサ52、色センサ53、画像センサ54および動作検出センサ55の少なくともいずれかからの出力と測距センサ51により測定した筐体12と視対象物22との距離とに基づいて、視対象物22の周囲の環境が前回以前の測定時と同一であるかを報知可能であることにより、測定環境を前回以前の測定時と同一の環境に、より確実に固定でき、被験者の眼疲労を、より精度よく測定できる。
【0074】
このように、各種センサ51〜55を備えているため、ART計測時の環境情報(照明の情報やART計測に関係する情報)を各種センサ51〜55から取得できるため、どのような環境下でARTを計測しても、ART計測時の環境を把握することができ、ARTを比較する際に利用することができる。
【0075】
そして、測定前に、初期設定入力部19により、起床時間、就寝時間、目の疲労感、起床してからの視作業の有無と量と時間、実験開始時刻、生体情報などの被験者の測定前の状態を予め登録しておくことにより、制御部16は、被験者の測定前の状態を考慮して、視作業の前と後とでの調節応答時間の差が視作業によるものなのかどうかを判定することができる。これにより、被験者の測定前の状態を考慮して、眼疲労を高精度に測定することができる。
【0076】
なお、上記一実施の形態において、光学系13は、屈折力の異なる2種類のレンズ41,42を、視対象物22を視認する視軸37上に移動させたが、この構成に限らず、複数のレンズの組み合わせによって屈折力を可変するようにしてもよい。
【0077】
また、初期設定入力部19には、被験者の近点のみを設定してもよい。この場合には、観察開口部35を覗く被験者の目の角膜からの視対象物22までの距離を、1/(位置)=1/近点−(1/近点)/2により算出することにより、上記一実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0078】
さらに、初期設定入力部19に入力する近点・遠点は、実際に上記眼疲労測定装置11を利用して計測し、その値を入力してもよい。
【0079】
そして、対物開口部33と観察開口部35とは、光学的に対向していれば、物理的に対向させている構成だけでなく、例えば物理的に対向させずに、レンズあるいはミラーなどの光学素子を中間の位置に配置する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0080】
11 眼疲労測定装置
12 筐体
13 光学系
14 駆動部
15 操作部としてのボタンスイッチ
16 制御部
18 報知部
22 視対象物
33 対物開口部
35 観察開口部
37 視軸
51 測距センサ
52 照度センサ
53 色センサ
54 画像センサ
55 動作検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が覗き込む観察開口部、および、この観察開口部に光学的に対向して形成された対物開口部を備えた筐体と;
この筐体内に配置された光学系と;
この光学系による観察開口部から対物開口部への視軸上の屈折力を切り換え可能な駆動部と;
光学系を介して筐体の外部に位置する視対象物を視認する焦点の合焦時に操作される操作部と;
この操作部の操作毎に駆動部により光学系の屈折力を切り換えさせるとともに、操作部の操作間隔を計時する制御部と;
筐体とこの筐体の外部の視対象物との距離を測定する測距センサと;
この測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離が、光学系を介して被験者が視対象物を視認可能な所定の距離であるかどうか、および、測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離が、前回以前の測定時と同一であるかどうかを報知可能な報知部と;
を具備していることを特徴とする眼疲労測定装置。
【請求項2】
筐体の外部の照度を検出する照度センサと、筐体の外部の色を計測する色センサと、筐体の外部に位置する視対象物を撮像する画像センサと、筐体の動作状態を検出する動作検出センサとの少なくともいずれか一つを筐体に具備し、
報知部は、これらセンサの少なくともいずれかからの出力と測距センサにより測定した測距センサにより測定した筐体と視対象物との距離とに基づいて、視対象物の周囲の環境が前回以前の測定時と同一であるかを報知可能である
ことを特徴とする請求項1記載の眼疲労測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−167092(P2010−167092A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12323(P2009−12323)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】