眼科手術用顕微鏡
【課題】乱視測定のための患者眼と光学系との位置関係を好適に調整可能な眼科手術用顕微鏡を提供する。
【解決手段】眼科手術用顕微鏡1は、顕微鏡6に装着された投影像形成部13を用いて患者眼Eの乱視測定を行うことができる。投影像形成部13には、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点(LED群131−i)と、このリング状の配列の内部に配置された固視標131cとが設けられている。変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。制御部60は、この固視状態の検出結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。
【解決手段】眼科手術用顕微鏡1は、顕微鏡6に装着された投影像形成部13を用いて患者眼Eの乱視測定を行うことができる。投影像形成部13には、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点(LED群131−i)と、このリング状の配列の内部に配置された固視標131cとが設けられている。変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。制御部60は、この固視状態の検出結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は眼科手術用顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
患者眼の乱視軸方向を測定し、その測定結果を患者眼に投影することが可能な眼科手術用顕微鏡が知られている(たとえば特許文献1を参照)。この眼科手術用顕微鏡は、円形状に配列された複数の輝点を患者眼に投影し、これら投影像の配置状態に基づいて乱視軸方向を算出するものであり、乱視矯正用のトーリックIOL(Intraocular Lens)の移植手術などに用いられる。
【0003】
効果的に乱視を矯正するには、乱視度数だけでなく乱視軸方向も重要である。したがって、トーリックIOLを移植する際には、レンズの配置方向を高確度で調整する必要がある。特許文献1の眼科手術用顕微鏡は、このようなニーズを充足するものである。また、乱視軸方向を患者眼に直接マーキングする従来の方法を採用しなくてよいという利点もある。
【0004】
この眼科手術用顕微鏡による乱視測定においては、患者眼と光学系との位置関係が非常に重要である。たとえば、眼屈折測定は角膜中心にて行うことが望ましいが、患者眼と光学系との位置がずれていると、角膜中心から外れた位置で測定を行うこととなり、測定確度が劣化してしまう。従来の眼科手術用顕微鏡では、このような事態を効果的に回避することは困難であった。
【0005】
なお、他種別の眼科装置においては、アライメントや固視を行うことでこの問題に対処している。たとえば特許文献2には、被検眼の瞳孔境界の検出結果とアライメント指標の検出結果とに基づいて被検眼の固視状態の適否を判断する技術が記載されている。また、特許文献3には、複数のエレメントを有する固視手段を有し、指標の角膜反射像と被検眼瞳孔とが所定の位置関係になるようなエレメントを選択的に動作させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−110172号公報
【特許文献2】特開平10−14878号公報
【特許文献3】特開平1−242029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような他種別の眼科装置の構成を上記眼科手術用顕微鏡に適用することは以下の理由により不可能である。第1に、従来の眼科手術用顕微鏡にはアライメント光学系が搭載されておらず、またこれを搭載する必要も特にないことがある。なぜなら、術者は顕微鏡を所望の位置に配置させ、その位置を適宜に変更しつつ手術を行うからである。したがって、特許文献2に記載の技術を眼科手術用顕微鏡に適用することはできない。
【0008】
第2に、特許文献3に記載された複数のエレメントを有する固視手段を眼科手術用顕微鏡に搭載することは困難である。つまり、この固視手段を眼科手術用顕微鏡に設けるとすると、その設置位置は対物レンズと患者眼の間となるが、この位置に当該固視手段を設置すると、顕微鏡による観察視野を遮ってしまう。したがって、眼科手術用顕微鏡においては、特許文献3に記載の技術を用いて患者眼の視線を好適な方向に誘導して固視させることはできない。
【0009】
このように、他種別の眼科装置に関する技術を流用できないので、従来の眼科手術用顕微鏡では、乱視測定のために患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することができなかった。
【0010】
そこで、この発明は、乱視測定のための患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することが可能な眼科手術用顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡は、患者眼を撮影する撮影光学系を有する光学系と、前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、前記本体部に装着され、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点と、前記リング状の配列の内部に配置された固視標とを有する装着部と、前記複数の輝点が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第1の画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、前記複数の輝点及び前記固視標が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第2の画像に基づいて、前記固視標に対する患者眼の固視状態を検出する検出部と、前記固視状態の検出結果に基づいて前記複数の輝点及び前記固視標を制御する制御部と、を備える。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記制御部は、前記固視状態の検出結果に基づいて前記固視状態の良否を判定する判定部を含み、前記固視状態が不良であると判定された場合、患者眼の視線を前記固視標に向けるように前記複数の輝点及び前記固視標の制御を行う、ことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記制御部は、前記判定部により前記固視状態が良好であると判定された場合、前記算出部による前記乱視情報の算出を実行させることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位量を検出し、前記制御部は、前記変位量に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、ことを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位方向を検出し、前記制御部は、前記変位方向に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような眼科手術用顕微鏡によれば、患者眼の固視状態に応じて複数の輝点及び固視標を制御することができるので、乱視測定のための患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の眼科手術用顕微鏡の外観構成の一例を表す概略図である。
【図2】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図3】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図4】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図5】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図6】実施形態の眼科手術用顕微鏡における制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図7A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7C】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7D】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図8A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図8B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9C】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図10】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る眼科手術用顕微鏡の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[構成]
〔外観構成〕
この実施形態に係る眼科手術用顕微鏡1の外観構成について図1を参照しつつ説明する。眼科手術用顕微鏡1は、支柱2、第1アーム3、第2アーム4、駆動装置5、顕微鏡6及びフットスイッチ8を含んで構成される。
【0016】
駆動装置5は、モータ等のアクチュエータを含んで構成される。駆動装置5は、フットスイッチ8の操作レバー8aを用いた操作に応じて顕微鏡6を上下方向や水平方向に移動させる。それにより顕微鏡6は3次元的に移動可能とされる。
【0017】
顕微鏡6の鏡筒部10には、各種光学系や駆動系などが収納されている。鏡筒部10の上部にはインバータ部12が設けられている。インバータ部12は、患者眼Eの観察像が倒像として得られる場合に、この観察像を正立像に変換する。インバータ部12の上部には、左右一対の接眼部11L、11Rが設けられている。観察者(術者等)は、左右の接眼部11L、11Rを覗き込むことで患者眼Eを双眼視できる。顕微鏡6は「本体部」の一例である。
【0018】
眼科手術用顕微鏡1は投影像形成部13を有する。投影像形成部13は、顕微鏡6に対して着脱可能とされており、患者眼Eに光束を投射して所定の投影像を患者眼E上に形成する。投影像形成部13は「装着部」の一例である。
【0019】
投影像形成部13の構成例を図2及び図3に示す。図2中の符合14は撮影部を表している。撮影部14には後述のTVカメラ56等が格納されている。また、図3は、投影像形成部13のヘッド部131を下方(つまり、患者眼Eの側、換言すると鏡筒部10の反対側)から見たときの構成を表している。
【0020】
図2及び図3に示すように、ヘッド部131は板状の部材である。図3に示すように、ヘッド部131には、円環状の外周部131aと、外周部131aの直径方向に橋設された固視光源保持部131bが設けられている。
【0021】
外周部131aの下面には、乱視測定用の複数のLED131−i(i=1〜N)が設けられている。LED群131−iはリング状に配列されている。この実施形態では、36個のLED131−iが等間隔に設けられている(N=36)。すなわち、LED群131−iの中心位置に対して、LED群131−iは10度間隔の角度で配置されている。換言すると、各LED131−iと当該中心位置とを結ぶ線分を考慮すると、隣接する2個のLED131−i、131−(i+1)に関する線分は当該中心位置において角度10度を成して交わる。
【0022】
各LED131−iは可視光を発する。LED群131−iは全て同じ色の光を発するように構成されていてもよいし、異なる色の光を発するように構成されていてもよい。後者としては、LED群131−iのうち、水平方向と垂直方向に相当するものが、他の方向に相当するものと異なる色を出力するように構成できる。つまり、乱視軸方向(乱視軸角度)が0度、90度、180度、270度に相当する位置のLED(それぞれLED131−1、131−10、131−19、131−28)が、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)と異なる色の光束を出力するように構成することが可能である。たとえば、LED131−1、131−10、131−19、131−28として赤色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることができる。それにより、乱視軸の水平方向と垂直方向とを容易に認識することが可能となる。
【0023】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28のうちの幾つかのみを他のLEDと異なる色の光束を出力するようにしてもよい。たとえば、角度0度に相当するLED131iのみを他のLED(i≠1)と異なる色を出力するように構成することが可能である。
【0024】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28の全てが同じ色(上記例では赤色)の光束を出力するように構成する必要はない。たとえば、各LED131−1、131−19として赤色LEDを用い、各LED131−10、131−28として白色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることが可能である。それにより、水平方向と垂直方向とを容易に識別することが可能となる。
【0025】
なお、上記のように光源の出力色によって水平方向と垂直方向を認識可能にする代わりに、他の構成によって同様の効果を奏することも可能である。たとえば、出力光の明るさを違えることによって方向を識別可能にすることができる。
【0026】
固視光源保持部131bの下面には、患者眼Eを固視させるための固視標131cが設けられている。固視標131cは可視光を発する。固視標131cは、LED群131−iと異なる色の光を出力する。固視標131cは、患者眼Eの側から見て、LED群131−iのリング状の配列の内部に配置されている。この実施形態では、このリング状の配列における上記中心位置に固視標131cは配置されている。
【0027】
固視標131cの個数は1つに限定されるものではなく、任意個数だけ設けることが可能である。また、固視標131cを移動可能に構成することも可能である。
【0028】
なお、ヘッド部に用いられる光源はLEDである必要はなく、光を出力可能な任意のデバイスであってよい。また、リング状に配列される複数の光源は、等間隔に配置されていなくてもよい。なお、図3は下面図であるので、一般的な乱視軸の設定方向とは逆向き(逆回り)にLED群131−iの配置順が設定されている。それにより、LED群131−iから出力された光束の角膜反射光(プルキンエ像)は一般的な乱視軸の設定方向として観察又は撮影される。
【0029】
また、この実施形態では36個の光源がリング状に配置されているが、その個数も任意である。ただし、LED群131−iから出力される光束のプルキンエ像に基づいて患者眼Eの乱視軸方向を測定する場合には、その測定の精度や確度を担保できるだけの個数の光源が設けられていることが望ましい。乱視軸方向の測定を行わない構成を採用する場合には、光源の個数に関する当該制限はない。
【0030】
また、乱視軸方向やトーリックIOLの主経線の配置方向を術者が視認する際に要求される精度に応じて、光源の個数を適宜に設定することが可能である。たとえば、この実施形態では10度間隔で光源を配置しているので、乱視軸方向を少なくとも10度単位で提示することが可能である。より高い精度で乱視軸方向等を提示するためには、その精度に応じた個数(たとえば5度単位であれば72個)の光源を設けるようにする。より低い精度の場合も同様である。
【0031】
また、この実施形態では各々個別に構成された複数の光源(LED群131−i)を設けているが、これに限定されるものではない。たとえば、ヘッド部131の下面に表示デバイス(たとえばLCD(液晶ディスプレイ))を設け、この表示デバイスによって複数の輝点を表示させることによって同様の機能を得ることが可能である。この場合、各輝点が光源に相当することになる。
【0032】
鏡筒部10の下端には対物レンズ部16が設けられている。対物レンズ部16には、口述の対物レンズ15が格納されている。対物レンズ部16の近傍には支持部材17が設けられている。支持部材17は対物レンズ部16から側方に向けて形成されている。
【0033】
支持部材17の先端部17aには、上下方向に延びる貫通孔が形成されている。この貫通孔にはアーム133が挿入されている。アーム133はこの貫通孔内を摺動可能とされている。それにより、先端部17aに対し、アーム133を上下方向(図2中の両側矢印Aが示す方向)に移動させることができる。ここで、顕微鏡6側を上方向とし、患者眼E側を下方向としている。
【0034】
アーム133の上端には落下防止部134が設けられている。落下防止部134は、上記貫通孔の口径よりも大きな径を有する板状部材である。それにより、落下防止部134は、アーム133が先端部17aから外れて落下することを防止している。
【0035】
アーム133の下端にはヘッド接続部132が設けられている。ヘッド接続部132は、LED131−iが設けられている面が下方を向くように、ヘッド部131をアーム133に接続している。
【0036】
このような構成により、ヘッド部131、ヘッド接続部132、アーム133及び落下防止部134(つまり投影像形成部13)は、先端部17aに対して上下方向に移動自在とされている。投影像形成部13の移動は、たとえば、ユーザがアーム133等を把持して行う。また、モータ等の駆動手段を用いることにより、投影像形成部13を電動で移動させるように構成することも可能である。
【0037】
支持部材17の下面には連結フック18が設けられている。連結フック18は、投影像形成部13の係合部(図示せず)と係合可能に構成されている。この係合部は、たとえばヘッド接続部132に設けられる。投影像形成部13を上方に移動させると、係合部と連結フック18とが係合して投影像形成部13の上下移動を禁止する。この係合関係は所定の操作(たとえば所定のボタンの押下)によって解除できるようになっている。連結フック18及び係合部の構成は任意である。
【0038】
以上の構成により、LED群131−iは、対物レンズ15の光軸方向に沿って移動できるように保持される。また、固視標132aは、対物レンズ15の光軸上に配置される。
【0039】
〔光学系の構成〕
続いて、図4及び図5を参照しつつ、眼科手術用顕微鏡1の光学系について説明する。ここで、図4は、術者から見て左側から光学系を見た図である。また、図5は、術者側から光学系を見た図である。なお、図4及び図5に示す構成に加え、術者の助手が患者眼Eを観察するための光学系(助手用顕微鏡)を設けることもできる。
【0040】
この実施形態において、上下、左右、前後等の方向は、特に言及しない限り術者側から見た方向とする。なお、上下方向については、対物レンズ15から観察対象(患者眼E)に向かう方向を下方とし、これの反対方向を上方とする。一般に患者は仰向け状態で手術を受けるので、上下方向と垂直方向とは同じになる。
【0041】
対物レンズ15の下方位置(対物レンズ15と患者眼Eとの間の位置)には、前述のLED群131−iが設けられている。図4及び図5には、その視点方向から見て両端に位置するLED131−i、131−j(i、j=1〜N、i≠j)のみ記載してある。
【0042】
なお、対物レンズ15と患者眼Eとの間とは、上下方向における対物レンズの位置(高さ位置)と患者眼Eの位置(高さ位置)との間という意味である(つまり左右方向や前後方向における位置は考慮しない)。LED群131−iはリング状に配列されているが、全てのLED群131−iからの光の像(輝点像)を患者眼Eの角膜に投影可能なサイズであれば、このリングの径は任意に設定できる。
【0043】
観察光学系30について説明する。観察光学系30は、図5に示すように左右一対設けられている。左側の観察光学系30Lを左観察光学系と呼び、右側の観察光学系30Rを右観察光学系と呼ぶ。符号OLは左観察光学系30Lの光軸(観察光軸)を示し、符号ORは右観察光学系30Rの光軸(観察光軸)を示す。左右の観察光学系30L、30Rは、対物レンズ15の光軸Oを挟むように配設されている。
【0044】
従来と同様に、左右の観察光学系30L、30Rは、それぞれ、ズームレンズ系31、ビームスプリッタ32(右観察光学系30Rのみ)、結像レンズ33、像正立プリズム34、眼幅調整プリズム35、視野絞り36及び接眼レンズ37を有する。
【0045】
ズームレンズ系31は複数のズームレンズ31a、31b、31cを含んでいる。各ズームレンズ31a〜31cは、後述の変倍機構81(図6を参照)によって観察光軸OL(又は観察光軸OR)に沿う方向に移動可能とされる。それにより患者眼Eを観察又は撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0046】
右観察光学系30Rのビームスプリッタ32は、患者眼Eから観察光軸ORに沿って導光された観察光の一部を分離してTVカメラ撮像系に導く。TVカメラ撮像系は、結像レンズ54、反射ミラー55及びTVカメラ56を含んで構成される。テレビカメラ撮像系は撮影部14に格納されている。対物レンズ15からTVカメラ56(撮像素子56a)までの光路に配置された光学素子は「撮影光学系」の一例を構成する。
【0047】
TVカメラ56は撮像素子56aを備えている。撮像素子56aは、たとえば、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮像素子56aとしては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
【0048】
眼科手術用顕微鏡1の使用時には、撮像素子56aの受光面は、たとえば、患者眼Eの角膜の表面と光学的に共役な位置、又は、その角膜曲率半径の1/2だけ角膜頂点から深さ方向に離れた位置と光学的に共役な位置に配置される。
【0049】
像正立プリズム34は倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム35は、術者の眼幅(左眼と右眼との間の距離)に応じて左右の観察光の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り36は、観察光の断面における周辺領域を遮蔽して術者の視野を制限する。
【0050】
続いて、照明光学系20について説明する。照明光学系20は、図4に示すように、照明光源21、光ファイバ21a、出射口絞り26、コンデンサレンズ22、照明野絞り23、スリット板24、コリメータレンズ27及び照明プリズム25を含んで構成される。
【0051】
照明野絞り23は、対物レンズ15の前側焦点位置と光学的に共役な位置に設けられている。また、スリット板24のスリット穴24aは、この前側焦点位置に対して光学的に共役な位置に形成されている。
【0052】
照明光源21は、顕微鏡6の鏡筒部10の外部に設けられている。照明光源21には光ファイバ21aの一端が接続されている。光ファイバ21aの他端は、鏡筒部10内のコンデンサレンズ22に臨む位置に配置されている。照明光源21から出力された照明光は、光ファイバ21aにより導光されてコンデンサレンズ22に入射する。
【0053】
光ファイバ21aの出射口(コンデンサレンズ22側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り26が設けられている。出射口絞り26は、光ファイバ21aの出射口の一部領域を遮蔽するように作用する。出射口絞り26による遮蔽領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり患者眼Eに対する照明光の入射方向と対物レンズ15の光軸Oとが成す角度などを変更することができる。
【0054】
スリット板24は、遮光性を有する円盤状の部材により形成されている。スリット板24には、照明プリズム25の反射面25aの形状に応じた形状を有する複数のスリット穴24aからなる透光部が設けられている。スリット板24は、図示しない駆動機構により、照明光軸O′に直交する方向(図4に示す両側矢印Bの方向)に移動される。それによりスリット板24は照明光軸O′に対して挿脱される。
【0055】
コリメータレンズ27は、スリット穴24aを通過した照明光を平行光束にする。平行光束になった照明光は、照明プリズム25の反射面25aにて反射され、対物レンズ15を経由して患者眼Eに投射される。患者眼Eに投射された照明光(の一部)は角膜にて反射される。患者眼Eによる照明光の反射光(観察光と呼ぶことにがある)は、対物レンズ15を経由して観察光学系30に入射する。このような構成により、患者眼Eの拡大像の観察が可能になる。
【0056】
〔制御系の構成〕
図6を参照しつつ眼科手術用顕微鏡1の制御系について説明する。なお、図6には制御系の一部のみ記載されている。省略されている部分としては、スリット板24の駆動機構などがある。
【0057】
(制御部)
眼科手術用顕微鏡1の制御系は制御部60を中心に構成される。制御部60は、眼科手術用顕微鏡1の任意の部位に設けられる。また、図1に示した構成とは別にコンピュータや回路基板を設け、これを制御部60として用いるようにしてもよい。制御部60は、通常のコンピュータと同様にマイクロプロセッサや記憶装置を含んで構成される。
【0058】
制御部60は眼科手術用顕微鏡1の各部を制御する。特に、制御部60は、駆動装置5、照明光源21、変倍機構81、LED群131−i、固視標131cなどを制御する。駆動装置5は、制御部60の制御を受けて顕微鏡6を3次元的に移動させる。変倍機構81は、制御部60の制御を受けて、ズームレンズ系31の各ズームレンズ31a、31b、31cを移動させる。駆動装置5及び変倍機構81には、たとえばパルスモータが設けられている。制御部60は、各パルスモータにパルス信号を送信してその動作を制御する。
【0059】
制御部60には、変位判定部61と提示制御部62が設けられている。変位判定部61は、データ処理部90により得られた患者眼Eの固視状態を判定する。変位判定部61は「判定部」の一例である。提示制御部62は、この判定結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。変位判定部61及び提示制御部62の動作の詳細については後述する。
【0060】
(操作部)
操作部82は、眼科手術用顕微鏡1を操作するために術者等により使用される。操作部82には、顕微鏡6の筺体などに設けられた各種のハードウェアキー(ボタン、スイッチ等)や、フットスイッチ8が含まれる。また、タッチパネルディスプレイやGUIが設けられている場合、これに表示される各種のソフトウェアキーも操作部82に含まれる。
【0061】
(データ処理部)
データ処理部90は各種のデータ処理を実行する。データ処理部90には、乱視情報算出部91と変位算出部92が設けられている。
【0062】
(乱視情報算出部)
乱視情報算出部91は、LED群131−iからの光束が角膜に投影された状態の患者眼Eの撮影画像(第1の画像)に基づいて、患者眼Eの乱視軸方向を算出する。このとき、患者眼Eの乱視度数も算出するようにしてもよい。この処理には、従来のケラトメータ等と同様の演算処理が含まれる。
【0063】
(変位算出部)
変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像(第2の画像)に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。固視標131cに対する患者眼Eの固視状態とは、患者眼Eの視線方向と固視標131cの位置との関係を意味する。変位算出部92は「検出部」の一例である。
【0064】
変位算出部92が実行する処理の例について図7A〜図9Cを参照しつつ説明する。図7Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致し、かつ、患者眼Eの視線D1が固視標131cに向いている状態を示している。ここで、符号Ebは患者眼Eの黒目(又は瞳孔)を示し、符号F1はLED群131−iからの光の投影像(リング像)を示し、符号G1は固視標131cからの光の投影像を示す。
【0065】
「患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致する」との条件は、他種別の眼科装置における「アライメントが合っている」状態に相当する。この実施形態の眼科手術用顕微鏡1はもちろん一般的な眼科手術用顕微鏡にはアライメント機能は設けられていない。したがって、患者眼Eに対する顕微鏡6の位置を術者が丁寧に調整することによって、このような状態が達成される。一方、「患者眼Eの視線D1が固視標131cに向いている」との条件は「固視が合っている」或いは「固視できている」状態に相当する。
【0066】
図7Aに示す状態は、乱視測定をする上で理想的な状態であるが、上記した丁寧な調整が必要であるので余り現実的ではない。なお、他種別の眼科装置(オートレフラクとメータやケラトメータ)による乱視測定では、アライメントと固視とによってこの状態で測定が行われる。
【0067】
図7Bは、図7Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H1を示している。以下、被写体とその撮影像とを同一視することがある。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しているので、撮影画像H1のフレームの中心に患者眼Eが描画される。また、固視が合っているので、固視標131cの投影像G1はフレーム中心、つまり黒目Ebの中心位置に描画される。なお、LED群131−iと固視標131cとの配置関係から、固視標131cの投影像G1はリング像F1の中心に描画される。
【0068】
変位算出部92は、撮影画像H1に描画された黒目Ebの輪郭を検出する。この処理は、たとえば、撮影画像H1の画素値に基づくエッジ検出を含む。なお、黒目は瞳孔と虹彩により構成され、瞳孔の方が黒目よりも暗く(低輝度で)描画されるので、同様のエッジ検出により瞳孔の輪郭も検出できる。エッジ検出処理は、空間フィルタや2値化を用いたエッジ強調処理を含んでいてもよい。
【0069】
黒目Ebの輪郭を検出する処理の具体例を図7Cに示す。なお、図7Cにおいては、瞳孔の像と、瞳孔に関する輝度値の変化が省略されている。変位算出部92は、撮影画像H1の水平ラインLに位置する画素の輝度プロファイルPを作成し、輝度値に関する閾値処理を行うことにより黒目Ebの輪郭に相当する画素を特定する。この処理を各水平ラインについて行うことで、黒目Ebの輪郭に相当する画素の2次元的な分布が得られる。
【0070】
更に、変位算出部92は、検出された黒目Ebの輪郭に基づいて、黒目Ebの中心を求める。この処理は、たとえば、検出された輪郭の近似楕円を求め、この近似楕円の中心を求めることによる。なお、中心の代わりに重心等を求めるようにしてもよい。また、瞳孔の輪郭を検出する場合には瞳孔中心が求められる。
【0071】
また、変位算出部92は、撮影画像H1に描画された固視標131cの投影像G1を検出する。投影像G1は固視標131cの反射光を受光して得られる像であるから、図7Cに示すように高輝度で描画される。したがって、このような高輝度の画素を閾値処理等を用いて特定することにより投影像G1が検出される。なお、リング像F1も同様に高輝度で描画されるが、像の配列などを解析することにより投影像G1とリング像F1とを判別することができる。また、投影像G1とリング像F1との色の違いに基づいて、これらを判別するようにしてもよい。また、この色の違いに基づく輝度の違いに基づいて、これらを判別することも可能である。
【0072】
更に、変位算出部92は、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G1との変位を求める。なお、投影像G1の位置としては、投影像G1の中心位置や重心位置が用いられる。図7Aの場合における黒目中心と投影像G1との位置関係を図7Dに示す。この場合、黒目中心Ecと投影像G1とが一致している。つまり、算出される変位Δは0である。なお、固視が合っていても変位Δが0になることは稀であり、多少の変位が存在する。
【0073】
図8Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しておらず、かつ、患者眼Eの視線D2が固視標131cに向いている状態を示している。これは「アライメントは合っていないが固視はできている」状態に相当する。眼科手術用顕微鏡1においては、アライメント機能が設けられていないので、この状態で乱視測定を行うのが現実的である(詳細は後述する)。
【0074】
図8Bは、図8Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H2を示している。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致していないので、患者眼Eは、撮影画像H2のフレームの中心から外れた位置に描画される。一方、固視は合っているので、固視標131cの投影像G2は黒目Ebの中心位置に描画される。固視標131cの投影像G2はリング像F2の中心に描画される。
【0075】
変位算出部92は、撮影画像H2を解析し、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G2との変位を求める。図8Aに示す場合、図7Aの場合と同様に、黒目中心Ecと投影像G2とが一致しているので、変位Δ=0が算出される。
【0076】
図9Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しておらず、かつ、患者眼Eの視線D3が固視標131cに向いていない状態を示している。これは「アライメントも固視も合っていない」状態に相当する。
【0077】
図9Bは、図9Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H3を示している。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致していないので、患者眼Eは、撮影画像H3のフレームの中心から外れた位置に描画される。また、固視が合っていないので、固視標131cの投影像G3は黒目Ebの中心位置から離れた位置に描画される。固視標131cの投影像G3はリング像F3の中心に描画される。
【0078】
変位算出部92は、撮影画像H3を解析し、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G3との変位を求める。図9Aに示す場合においては、黒目中心Ecと投影像G3とが一致しておらず、変位Δ(≠0)が算出される(図9C参照)。撮影倍率等を考慮した実空間における距離であってもよいし、ピクセル数等の仮想的な距離であってもよい。ここでは固視標131cの投影像に対する黒目中心の変位Δを用いるが、逆に黒目中心に対する投影像の変位を用いてもよい。また、黒目中心の代わりに瞳孔中心を用いる場合も同様である。
【0079】
変位算出部92により算出された変位Δは、変位判定部61に送られる。変位判定部61は、変位Δに基づいて固視状態の良否を判定する。この処理は、たとえば変位Δの絶対値(変位量)に関する閾値処理、つまり変位量と所定閾値との大小比較である。変位判定部61は、変位量が閾値以上である場合に「固視状態は不良」と判定し、変位量が閾値未満である場合に「固視状態は良好」と判定する。変位判定部61は、この判定結果(特に固視状態が不良であるとの判定結果)を提示制御部62に送る。
【0080】
(提示制御部)
提示制御部62は、変位判定部61による固視状態の判定結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。特に、提示制御部62は、固視状態が不良であると判定された場合、患者眼Eの視線を固視標131cに向けるようにLED群131−i及び固視標131cの制御を行う。これは、患者眼Eの視線を固視標131cに誘導するものである。この処理の具体例を以下に説明する。
【0081】
前述のように、変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて固視状態を検出するので、この段階では各LED131−i及び固視標131cが点灯されている。まず、提示制御部62は、変位算出部92により得られた変位方向に該当するLED131−jを特定する。次に、提示制御部62は、特定されたLED131−jと固視標131cを除く輝点、つまり各LED131−i(i≠j)を消灯する。それにより患者眼Eの視線方向のLED131−jと固視標131cのみが点灯している状態となる。前述のようにLED131−jと固視標131cとは色が異なる。術者は、この状態で患者に所定色の輝点(固視標131c)を見るように指示を与える。現在の視線方向の輝点(LED131−j)はこの所定色ではないので、患者は視線を移動させてこの所定色の輝点を探すこととなる。点灯されているのはLED131−jと固視標131cだけであるので、容易に固視標131cを発見することができる。
【0082】
視線の誘導方法はこれに限定されるものではない。一般に、心理的・精神的特性や視覚的特性など、生体の様々な特性を利用して、固視標131cに向けて視線を誘導することができる。たとえば、固視標131cを点滅させたり、発光強度を高めたりすることができる。また、複数のLED131−iを順次に点灯・消灯させることにより、固視標131cに向けて視線を徐々に案内することも可能である。
【0083】
また、提示制御部62は、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位量や変位方向に応じて、LED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更することができる。この処理は、固視状態が良好と判定された場合に行ってもよいし、不良と判定された場合に行ってもよい。
【0084】
固視状態が良好と判定された場合の制御の例として、LED群131−iの発光強度を一時的に変更することによって、固視状態が良好な旨を術者に報知することができる。また、固視状態は良好と判定されたが、その変位量が閾値に近い場合、固視ズレが発生するおそれを報知するためにLED群131−iや固視標131cの点灯状態を変更することができる。同様に、固視状態は良好と判定されたが変位量が閾値に近い場合において、変位方向の反対方向に該当するLED131−iや固視標131cの発光強度を高めるなどして、視線を固視標131cに向けさせるようにすることもできる。
【0085】
固視状態が不良と判定された場合の制御の例として、変位量の大きさに応じて固視標131cの発光強度を変更する(たとえば変位量と発光強度とを比例させる)などして、視線を固視標131cに誘導することができる。また、変位量が極めて大きい場合、つまり変位量が上記とは別のより大きな閾値以上である場合、視界に固視標131cが全く入っていない可能性があるので、任意のLED131−i、特に変位方向に該当するLED131−iを点灯させて視線の引き戻しを図り、それから固視標131cを点灯させて視線を固視標131cに導くことができる。
【0086】
また、術者に固視状態を報知するために、LED131−iや固視標131cの点滅速度や発光強度を変更したり、LED群131−iのうちから任意のものを選択して点灯又は点滅させたりする(つまり輝点の配列パターンを変える)ことができる。
【0087】
以上のような固視状態の検出及びこれに基づく制御を所定の時間間隔で反復することができる。それにより、固視状態をリアルタイムで監視し、その結果をリアルタイムで制御に反映させることができる。これにより、術者は固視状態をリアルタイムで把握できる。また、一般に固視状態は時間とともに変化するので、固視状態が悪化した場合にリアルタイムで修正することが可能となる。
【0088】
[動作]
眼科手術用顕微鏡1の動作について説明する。眼科手術用顕微鏡1の動作の一例を図10に示す。
【0089】
まず、LED群131−i及び固視標131cが点灯され、TVカメラ56による患者眼Eの撮影が開始される。制御部60には、撮像素子56aからの映像信号が逐次入力される。術者等は、固視標131cに視線を向けるよう患者を促す(S1)。その後、術者は乱視測定の開始を指示する(S2)。この指示は操作部82を介してなされる。
【0090】
制御部60は、撮像素子56aからの映像信号のフレームをデータ処理部90に逐次に送る。このとき、全てのフレームを送ってもよいし、間引きして送ってもよい。変位算出部92は、送られてきた各フレーム(撮影画像)を解析し、患者眼Eの黒目Ebの輪郭と、固視標131cとを検出する(S3)。
【0091】
次に、変位算出部92は、ステップ3で検出された黒目Ebの輪郭の近似楕円を求め、この近似楕円の中心を算出する。この近似楕円の中心が黒目中心Ecとみなされる(S4)。
【0092】
続いて、変位算出部92は、ステップ3で得られた固視標131cに対する、ステップ4で得られた黒目中心Ecの変位Δを算出する(S5)。変位算出部92は、変位Δのデータを変位判定部61に送る。
【0093】
変位判定部61は、変位Δの絶対値(変位量)と閾値とを比較する(S6)。変位量が閾値未満である場合(S6:No)、制御部60は、乱視情報算出部91を制御して乱視情報の算出処理を実行させる(S7)。それにより患者眼Eの乱視情報が得られる。この場合の処理はこれで終了となる。なお、この場合においても、前述したLED群131−iや固視標131cの制御を行ってもよい。
【0094】
変位量が閾値以上である場合(S6:Yes)、提示制御部62は、LED群131−iや固視標131cを制御しつつ(S8)、患者に固視を促す(S1)ことにより、患者眼Eの視線を固視標131cに向けさせる。そして、上記の処理を反復する。
【0095】
なお、ステップ6において所定回数「No」となった場合に報知を行うように構成できる。この報知は、LED群131−iや固視標131cの制御によって行うこともできるし、他の手段(メッセージ表示、警告音等)によって行うこともできる。
【0096】
[効果]
眼科手術用顕微鏡1の効果について説明する。
【0097】
眼科手術用顕微鏡1は、顕微鏡6に装着された投影像形成部13を用いて患者眼Eの乱視測定を行うことができる。投影像形成部13には、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点(LED群131−i)と、このリング状の配列の内部に配置された固視標131cとが設けられている。変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。制御部60は、この固視状態の検出結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。
【0098】
また、制御部60は、変位判定部61と提示制御部62を有する。変位判定部61は、固視状態の検出結果に基づいて固視状態の良否を判定する。提示制御部62は、固視状態が不良であると判定された場合、患者眼Eの視線を固視標131cに向けるようにLED群131−i及び固視標131cの制御を行う。
【0099】
また、制御部60は、変位判定部61により固視状態が良好であると判定された場合、乱視情報算出部91を制御して患者眼Eの乱視情報の算出を実行させる。
【0100】
なお、図7A〜図9C等に示すように、眼科手術用顕微鏡1においては、アライメントが合っていなくても固視が合っていれば乱視測定が実行される。これは従来の眼科装置と異なる眼科手術用顕微鏡1の顕著な特徴である。つまり、一般に眼科手術用顕微鏡では術者が顕微鏡を任意に動かすのでアライメントを行うことは実質的に不可能である。この実施形態は、アライメントを行えない前提での好適な乱視測定の実現を図ったものであり、従来の眼科手術用顕微鏡や他種別の眼科装置とは、視点も構成も作用効果も異なるものである。
【0101】
また、変位算出部92は、患者眼Eの固視状態として、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位量を求め、制御部60(提示制御部62)は、この変位量に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更する。
【0102】
また、変位算出部92は、患者眼Eの固視状態として、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位方向を求め、制御部60(提示制御部62)は、この変位方向に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更する。
【0103】
このような眼科手術用顕微鏡1によれば、患者眼Eの固視状態に応じてLED群131−i及び固視標131cを制御することにより、術者や患者に向けて情報を出力することができる。特に、固視状態が不良である場合に、その旨を術者に伝えたり、患者の視線を誘導したりすることができる。したがって、乱視測定のための患者眼Eと光学系との位置関係を好適に調整することが可能となる。
【0104】
また、眼科手術用顕微鏡1によれば、固視状態が良好であると判定された場合、速やかに乱視測定に移行することができる。
【0105】
また、眼科手術用顕微鏡1によれば、変位量や変位方向、つまり固視ズレの量や方向に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更できるので、固視ズレの状態に応じたフレキシブルな対応が可能となる。
【0106】
以上に説明した構成は実施形態の一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変更、省略、付加を行うことができる。
【符号の説明】
【0107】
1 眼科手術用顕微鏡
5 駆動装置
13 投影像形成部
20 照明光学系
21 照明光源
30 観察光学系
56a 撮像素子
60 制御部
61 変位判定部
62 提示制御部
81 変倍機構
82 操作部
90 データ処理部
91 乱視情報算出部
92 変位算出部
131−i LED
131c 固視標
【技術分野】
【0001】
この発明は眼科手術用顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
患者眼の乱視軸方向を測定し、その測定結果を患者眼に投影することが可能な眼科手術用顕微鏡が知られている(たとえば特許文献1を参照)。この眼科手術用顕微鏡は、円形状に配列された複数の輝点を患者眼に投影し、これら投影像の配置状態に基づいて乱視軸方向を算出するものであり、乱視矯正用のトーリックIOL(Intraocular Lens)の移植手術などに用いられる。
【0003】
効果的に乱視を矯正するには、乱視度数だけでなく乱視軸方向も重要である。したがって、トーリックIOLを移植する際には、レンズの配置方向を高確度で調整する必要がある。特許文献1の眼科手術用顕微鏡は、このようなニーズを充足するものである。また、乱視軸方向を患者眼に直接マーキングする従来の方法を採用しなくてよいという利点もある。
【0004】
この眼科手術用顕微鏡による乱視測定においては、患者眼と光学系との位置関係が非常に重要である。たとえば、眼屈折測定は角膜中心にて行うことが望ましいが、患者眼と光学系との位置がずれていると、角膜中心から外れた位置で測定を行うこととなり、測定確度が劣化してしまう。従来の眼科手術用顕微鏡では、このような事態を効果的に回避することは困難であった。
【0005】
なお、他種別の眼科装置においては、アライメントや固視を行うことでこの問題に対処している。たとえば特許文献2には、被検眼の瞳孔境界の検出結果とアライメント指標の検出結果とに基づいて被検眼の固視状態の適否を判断する技術が記載されている。また、特許文献3には、複数のエレメントを有する固視手段を有し、指標の角膜反射像と被検眼瞳孔とが所定の位置関係になるようなエレメントを選択的に動作させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−110172号公報
【特許文献2】特開平10−14878号公報
【特許文献3】特開平1−242029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような他種別の眼科装置の構成を上記眼科手術用顕微鏡に適用することは以下の理由により不可能である。第1に、従来の眼科手術用顕微鏡にはアライメント光学系が搭載されておらず、またこれを搭載する必要も特にないことがある。なぜなら、術者は顕微鏡を所望の位置に配置させ、その位置を適宜に変更しつつ手術を行うからである。したがって、特許文献2に記載の技術を眼科手術用顕微鏡に適用することはできない。
【0008】
第2に、特許文献3に記載された複数のエレメントを有する固視手段を眼科手術用顕微鏡に搭載することは困難である。つまり、この固視手段を眼科手術用顕微鏡に設けるとすると、その設置位置は対物レンズと患者眼の間となるが、この位置に当該固視手段を設置すると、顕微鏡による観察視野を遮ってしまう。したがって、眼科手術用顕微鏡においては、特許文献3に記載の技術を用いて患者眼の視線を好適な方向に誘導して固視させることはできない。
【0009】
このように、他種別の眼科装置に関する技術を流用できないので、従来の眼科手術用顕微鏡では、乱視測定のために患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することができなかった。
【0010】
そこで、この発明は、乱視測定のための患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することが可能な眼科手術用顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡は、患者眼を撮影する撮影光学系を有する光学系と、前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、前記本体部に装着され、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点と、前記リング状の配列の内部に配置された固視標とを有する装着部と、前記複数の輝点が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第1の画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、前記複数の輝点及び前記固視標が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第2の画像に基づいて、前記固視標に対する患者眼の固視状態を検出する検出部と、前記固視状態の検出結果に基づいて前記複数の輝点及び前記固視標を制御する制御部と、を備える。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記制御部は、前記固視状態の検出結果に基づいて前記固視状態の良否を判定する判定部を含み、前記固視状態が不良であると判定された場合、患者眼の視線を前記固視標に向けるように前記複数の輝点及び前記固視標の制御を行う、ことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記制御部は、前記判定部により前記固視状態が良好であると判定された場合、前記算出部による前記乱視情報の算出を実行させることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位量を検出し、前記制御部は、前記変位量に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、ことを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡であって、前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位方向を検出し、前記制御部は、前記変位方向に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような眼科手術用顕微鏡によれば、患者眼の固視状態に応じて複数の輝点及び固視標を制御することができるので、乱視測定のための患者眼と光学系との位置関係を好適に調整することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態の眼科手術用顕微鏡の外観構成の一例を表す概略図である。
【図2】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図3】実施形態の眼科手術用顕微鏡における投影像形成部の構成の一例を表す概略図である。
【図4】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図5】実施形態の眼科手術用顕微鏡における光学系の構成の一例を表す概略図である。
【図6】実施形態の眼科手術用顕微鏡における制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図7A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7C】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図7D】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図8A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図8B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9A】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9B】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図9C】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の概略説明図である。
【図10】実施形態の眼科手術用顕微鏡の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る眼科手術用顕微鏡の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[構成]
〔外観構成〕
この実施形態に係る眼科手術用顕微鏡1の外観構成について図1を参照しつつ説明する。眼科手術用顕微鏡1は、支柱2、第1アーム3、第2アーム4、駆動装置5、顕微鏡6及びフットスイッチ8を含んで構成される。
【0016】
駆動装置5は、モータ等のアクチュエータを含んで構成される。駆動装置5は、フットスイッチ8の操作レバー8aを用いた操作に応じて顕微鏡6を上下方向や水平方向に移動させる。それにより顕微鏡6は3次元的に移動可能とされる。
【0017】
顕微鏡6の鏡筒部10には、各種光学系や駆動系などが収納されている。鏡筒部10の上部にはインバータ部12が設けられている。インバータ部12は、患者眼Eの観察像が倒像として得られる場合に、この観察像を正立像に変換する。インバータ部12の上部には、左右一対の接眼部11L、11Rが設けられている。観察者(術者等)は、左右の接眼部11L、11Rを覗き込むことで患者眼Eを双眼視できる。顕微鏡6は「本体部」の一例である。
【0018】
眼科手術用顕微鏡1は投影像形成部13を有する。投影像形成部13は、顕微鏡6に対して着脱可能とされており、患者眼Eに光束を投射して所定の投影像を患者眼E上に形成する。投影像形成部13は「装着部」の一例である。
【0019】
投影像形成部13の構成例を図2及び図3に示す。図2中の符合14は撮影部を表している。撮影部14には後述のTVカメラ56等が格納されている。また、図3は、投影像形成部13のヘッド部131を下方(つまり、患者眼Eの側、換言すると鏡筒部10の反対側)から見たときの構成を表している。
【0020】
図2及び図3に示すように、ヘッド部131は板状の部材である。図3に示すように、ヘッド部131には、円環状の外周部131aと、外周部131aの直径方向に橋設された固視光源保持部131bが設けられている。
【0021】
外周部131aの下面には、乱視測定用の複数のLED131−i(i=1〜N)が設けられている。LED群131−iはリング状に配列されている。この実施形態では、36個のLED131−iが等間隔に設けられている(N=36)。すなわち、LED群131−iの中心位置に対して、LED群131−iは10度間隔の角度で配置されている。換言すると、各LED131−iと当該中心位置とを結ぶ線分を考慮すると、隣接する2個のLED131−i、131−(i+1)に関する線分は当該中心位置において角度10度を成して交わる。
【0022】
各LED131−iは可視光を発する。LED群131−iは全て同じ色の光を発するように構成されていてもよいし、異なる色の光を発するように構成されていてもよい。後者としては、LED群131−iのうち、水平方向と垂直方向に相当するものが、他の方向に相当するものと異なる色を出力するように構成できる。つまり、乱視軸方向(乱視軸角度)が0度、90度、180度、270度に相当する位置のLED(それぞれLED131−1、131−10、131−19、131−28)が、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)と異なる色の光束を出力するように構成することが可能である。たとえば、LED131−1、131−10、131−19、131−28として赤色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることができる。それにより、乱視軸の水平方向と垂直方向とを容易に認識することが可能となる。
【0023】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28のうちの幾つかのみを他のLEDと異なる色の光束を出力するようにしてもよい。たとえば、角度0度に相当するLED131iのみを他のLED(i≠1)と異なる色を出力するように構成することが可能である。
【0024】
また、LED131−1、131−10、131−19、131−28の全てが同じ色(上記例では赤色)の光束を出力するように構成する必要はない。たとえば、各LED131−1、131−19として赤色LEDを用い、各LED131−10、131−28として白色LEDを用いるとともに、他のLED131−i(i≠1、10、19、28)として緑色LEDを用いることが可能である。それにより、水平方向と垂直方向とを容易に識別することが可能となる。
【0025】
なお、上記のように光源の出力色によって水平方向と垂直方向を認識可能にする代わりに、他の構成によって同様の効果を奏することも可能である。たとえば、出力光の明るさを違えることによって方向を識別可能にすることができる。
【0026】
固視光源保持部131bの下面には、患者眼Eを固視させるための固視標131cが設けられている。固視標131cは可視光を発する。固視標131cは、LED群131−iと異なる色の光を出力する。固視標131cは、患者眼Eの側から見て、LED群131−iのリング状の配列の内部に配置されている。この実施形態では、このリング状の配列における上記中心位置に固視標131cは配置されている。
【0027】
固視標131cの個数は1つに限定されるものではなく、任意個数だけ設けることが可能である。また、固視標131cを移動可能に構成することも可能である。
【0028】
なお、ヘッド部に用いられる光源はLEDである必要はなく、光を出力可能な任意のデバイスであってよい。また、リング状に配列される複数の光源は、等間隔に配置されていなくてもよい。なお、図3は下面図であるので、一般的な乱視軸の設定方向とは逆向き(逆回り)にLED群131−iの配置順が設定されている。それにより、LED群131−iから出力された光束の角膜反射光(プルキンエ像)は一般的な乱視軸の設定方向として観察又は撮影される。
【0029】
また、この実施形態では36個の光源がリング状に配置されているが、その個数も任意である。ただし、LED群131−iから出力される光束のプルキンエ像に基づいて患者眼Eの乱視軸方向を測定する場合には、その測定の精度や確度を担保できるだけの個数の光源が設けられていることが望ましい。乱視軸方向の測定を行わない構成を採用する場合には、光源の個数に関する当該制限はない。
【0030】
また、乱視軸方向やトーリックIOLの主経線の配置方向を術者が視認する際に要求される精度に応じて、光源の個数を適宜に設定することが可能である。たとえば、この実施形態では10度間隔で光源を配置しているので、乱視軸方向を少なくとも10度単位で提示することが可能である。より高い精度で乱視軸方向等を提示するためには、その精度に応じた個数(たとえば5度単位であれば72個)の光源を設けるようにする。より低い精度の場合も同様である。
【0031】
また、この実施形態では各々個別に構成された複数の光源(LED群131−i)を設けているが、これに限定されるものではない。たとえば、ヘッド部131の下面に表示デバイス(たとえばLCD(液晶ディスプレイ))を設け、この表示デバイスによって複数の輝点を表示させることによって同様の機能を得ることが可能である。この場合、各輝点が光源に相当することになる。
【0032】
鏡筒部10の下端には対物レンズ部16が設けられている。対物レンズ部16には、口述の対物レンズ15が格納されている。対物レンズ部16の近傍には支持部材17が設けられている。支持部材17は対物レンズ部16から側方に向けて形成されている。
【0033】
支持部材17の先端部17aには、上下方向に延びる貫通孔が形成されている。この貫通孔にはアーム133が挿入されている。アーム133はこの貫通孔内を摺動可能とされている。それにより、先端部17aに対し、アーム133を上下方向(図2中の両側矢印Aが示す方向)に移動させることができる。ここで、顕微鏡6側を上方向とし、患者眼E側を下方向としている。
【0034】
アーム133の上端には落下防止部134が設けられている。落下防止部134は、上記貫通孔の口径よりも大きな径を有する板状部材である。それにより、落下防止部134は、アーム133が先端部17aから外れて落下することを防止している。
【0035】
アーム133の下端にはヘッド接続部132が設けられている。ヘッド接続部132は、LED131−iが設けられている面が下方を向くように、ヘッド部131をアーム133に接続している。
【0036】
このような構成により、ヘッド部131、ヘッド接続部132、アーム133及び落下防止部134(つまり投影像形成部13)は、先端部17aに対して上下方向に移動自在とされている。投影像形成部13の移動は、たとえば、ユーザがアーム133等を把持して行う。また、モータ等の駆動手段を用いることにより、投影像形成部13を電動で移動させるように構成することも可能である。
【0037】
支持部材17の下面には連結フック18が設けられている。連結フック18は、投影像形成部13の係合部(図示せず)と係合可能に構成されている。この係合部は、たとえばヘッド接続部132に設けられる。投影像形成部13を上方に移動させると、係合部と連結フック18とが係合して投影像形成部13の上下移動を禁止する。この係合関係は所定の操作(たとえば所定のボタンの押下)によって解除できるようになっている。連結フック18及び係合部の構成は任意である。
【0038】
以上の構成により、LED群131−iは、対物レンズ15の光軸方向に沿って移動できるように保持される。また、固視標132aは、対物レンズ15の光軸上に配置される。
【0039】
〔光学系の構成〕
続いて、図4及び図5を参照しつつ、眼科手術用顕微鏡1の光学系について説明する。ここで、図4は、術者から見て左側から光学系を見た図である。また、図5は、術者側から光学系を見た図である。なお、図4及び図5に示す構成に加え、術者の助手が患者眼Eを観察するための光学系(助手用顕微鏡)を設けることもできる。
【0040】
この実施形態において、上下、左右、前後等の方向は、特に言及しない限り術者側から見た方向とする。なお、上下方向については、対物レンズ15から観察対象(患者眼E)に向かう方向を下方とし、これの反対方向を上方とする。一般に患者は仰向け状態で手術を受けるので、上下方向と垂直方向とは同じになる。
【0041】
対物レンズ15の下方位置(対物レンズ15と患者眼Eとの間の位置)には、前述のLED群131−iが設けられている。図4及び図5には、その視点方向から見て両端に位置するLED131−i、131−j(i、j=1〜N、i≠j)のみ記載してある。
【0042】
なお、対物レンズ15と患者眼Eとの間とは、上下方向における対物レンズの位置(高さ位置)と患者眼Eの位置(高さ位置)との間という意味である(つまり左右方向や前後方向における位置は考慮しない)。LED群131−iはリング状に配列されているが、全てのLED群131−iからの光の像(輝点像)を患者眼Eの角膜に投影可能なサイズであれば、このリングの径は任意に設定できる。
【0043】
観察光学系30について説明する。観察光学系30は、図5に示すように左右一対設けられている。左側の観察光学系30Lを左観察光学系と呼び、右側の観察光学系30Rを右観察光学系と呼ぶ。符号OLは左観察光学系30Lの光軸(観察光軸)を示し、符号ORは右観察光学系30Rの光軸(観察光軸)を示す。左右の観察光学系30L、30Rは、対物レンズ15の光軸Oを挟むように配設されている。
【0044】
従来と同様に、左右の観察光学系30L、30Rは、それぞれ、ズームレンズ系31、ビームスプリッタ32(右観察光学系30Rのみ)、結像レンズ33、像正立プリズム34、眼幅調整プリズム35、視野絞り36及び接眼レンズ37を有する。
【0045】
ズームレンズ系31は複数のズームレンズ31a、31b、31cを含んでいる。各ズームレンズ31a〜31cは、後述の変倍機構81(図6を参照)によって観察光軸OL(又は観察光軸OR)に沿う方向に移動可能とされる。それにより患者眼Eを観察又は撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0046】
右観察光学系30Rのビームスプリッタ32は、患者眼Eから観察光軸ORに沿って導光された観察光の一部を分離してTVカメラ撮像系に導く。TVカメラ撮像系は、結像レンズ54、反射ミラー55及びTVカメラ56を含んで構成される。テレビカメラ撮像系は撮影部14に格納されている。対物レンズ15からTVカメラ56(撮像素子56a)までの光路に配置された光学素子は「撮影光学系」の一例を構成する。
【0047】
TVカメラ56は撮像素子56aを備えている。撮像素子56aは、たとえば、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮像素子56aとしては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
【0048】
眼科手術用顕微鏡1の使用時には、撮像素子56aの受光面は、たとえば、患者眼Eの角膜の表面と光学的に共役な位置、又は、その角膜曲率半径の1/2だけ角膜頂点から深さ方向に離れた位置と光学的に共役な位置に配置される。
【0049】
像正立プリズム34は倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム35は、術者の眼幅(左眼と右眼との間の距離)に応じて左右の観察光の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り36は、観察光の断面における周辺領域を遮蔽して術者の視野を制限する。
【0050】
続いて、照明光学系20について説明する。照明光学系20は、図4に示すように、照明光源21、光ファイバ21a、出射口絞り26、コンデンサレンズ22、照明野絞り23、スリット板24、コリメータレンズ27及び照明プリズム25を含んで構成される。
【0051】
照明野絞り23は、対物レンズ15の前側焦点位置と光学的に共役な位置に設けられている。また、スリット板24のスリット穴24aは、この前側焦点位置に対して光学的に共役な位置に形成されている。
【0052】
照明光源21は、顕微鏡6の鏡筒部10の外部に設けられている。照明光源21には光ファイバ21aの一端が接続されている。光ファイバ21aの他端は、鏡筒部10内のコンデンサレンズ22に臨む位置に配置されている。照明光源21から出力された照明光は、光ファイバ21aにより導光されてコンデンサレンズ22に入射する。
【0053】
光ファイバ21aの出射口(コンデンサレンズ22側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り26が設けられている。出射口絞り26は、光ファイバ21aの出射口の一部領域を遮蔽するように作用する。出射口絞り26による遮蔽領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり患者眼Eに対する照明光の入射方向と対物レンズ15の光軸Oとが成す角度などを変更することができる。
【0054】
スリット板24は、遮光性を有する円盤状の部材により形成されている。スリット板24には、照明プリズム25の反射面25aの形状に応じた形状を有する複数のスリット穴24aからなる透光部が設けられている。スリット板24は、図示しない駆動機構により、照明光軸O′に直交する方向(図4に示す両側矢印Bの方向)に移動される。それによりスリット板24は照明光軸O′に対して挿脱される。
【0055】
コリメータレンズ27は、スリット穴24aを通過した照明光を平行光束にする。平行光束になった照明光は、照明プリズム25の反射面25aにて反射され、対物レンズ15を経由して患者眼Eに投射される。患者眼Eに投射された照明光(の一部)は角膜にて反射される。患者眼Eによる照明光の反射光(観察光と呼ぶことにがある)は、対物レンズ15を経由して観察光学系30に入射する。このような構成により、患者眼Eの拡大像の観察が可能になる。
【0056】
〔制御系の構成〕
図6を参照しつつ眼科手術用顕微鏡1の制御系について説明する。なお、図6には制御系の一部のみ記載されている。省略されている部分としては、スリット板24の駆動機構などがある。
【0057】
(制御部)
眼科手術用顕微鏡1の制御系は制御部60を中心に構成される。制御部60は、眼科手術用顕微鏡1の任意の部位に設けられる。また、図1に示した構成とは別にコンピュータや回路基板を設け、これを制御部60として用いるようにしてもよい。制御部60は、通常のコンピュータと同様にマイクロプロセッサや記憶装置を含んで構成される。
【0058】
制御部60は眼科手術用顕微鏡1の各部を制御する。特に、制御部60は、駆動装置5、照明光源21、変倍機構81、LED群131−i、固視標131cなどを制御する。駆動装置5は、制御部60の制御を受けて顕微鏡6を3次元的に移動させる。変倍機構81は、制御部60の制御を受けて、ズームレンズ系31の各ズームレンズ31a、31b、31cを移動させる。駆動装置5及び変倍機構81には、たとえばパルスモータが設けられている。制御部60は、各パルスモータにパルス信号を送信してその動作を制御する。
【0059】
制御部60には、変位判定部61と提示制御部62が設けられている。変位判定部61は、データ処理部90により得られた患者眼Eの固視状態を判定する。変位判定部61は「判定部」の一例である。提示制御部62は、この判定結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。変位判定部61及び提示制御部62の動作の詳細については後述する。
【0060】
(操作部)
操作部82は、眼科手術用顕微鏡1を操作するために術者等により使用される。操作部82には、顕微鏡6の筺体などに設けられた各種のハードウェアキー(ボタン、スイッチ等)や、フットスイッチ8が含まれる。また、タッチパネルディスプレイやGUIが設けられている場合、これに表示される各種のソフトウェアキーも操作部82に含まれる。
【0061】
(データ処理部)
データ処理部90は各種のデータ処理を実行する。データ処理部90には、乱視情報算出部91と変位算出部92が設けられている。
【0062】
(乱視情報算出部)
乱視情報算出部91は、LED群131−iからの光束が角膜に投影された状態の患者眼Eの撮影画像(第1の画像)に基づいて、患者眼Eの乱視軸方向を算出する。このとき、患者眼Eの乱視度数も算出するようにしてもよい。この処理には、従来のケラトメータ等と同様の演算処理が含まれる。
【0063】
(変位算出部)
変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像(第2の画像)に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。固視標131cに対する患者眼Eの固視状態とは、患者眼Eの視線方向と固視標131cの位置との関係を意味する。変位算出部92は「検出部」の一例である。
【0064】
変位算出部92が実行する処理の例について図7A〜図9Cを参照しつつ説明する。図7Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致し、かつ、患者眼Eの視線D1が固視標131cに向いている状態を示している。ここで、符号Ebは患者眼Eの黒目(又は瞳孔)を示し、符号F1はLED群131−iからの光の投影像(リング像)を示し、符号G1は固視標131cからの光の投影像を示す。
【0065】
「患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致する」との条件は、他種別の眼科装置における「アライメントが合っている」状態に相当する。この実施形態の眼科手術用顕微鏡1はもちろん一般的な眼科手術用顕微鏡にはアライメント機能は設けられていない。したがって、患者眼Eに対する顕微鏡6の位置を術者が丁寧に調整することによって、このような状態が達成される。一方、「患者眼Eの視線D1が固視標131cに向いている」との条件は「固視が合っている」或いは「固視できている」状態に相当する。
【0066】
図7Aに示す状態は、乱視測定をする上で理想的な状態であるが、上記した丁寧な調整が必要であるので余り現実的ではない。なお、他種別の眼科装置(オートレフラクとメータやケラトメータ)による乱視測定では、アライメントと固視とによってこの状態で測定が行われる。
【0067】
図7Bは、図7Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H1を示している。以下、被写体とその撮影像とを同一視することがある。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しているので、撮影画像H1のフレームの中心に患者眼Eが描画される。また、固視が合っているので、固視標131cの投影像G1はフレーム中心、つまり黒目Ebの中心位置に描画される。なお、LED群131−iと固視標131cとの配置関係から、固視標131cの投影像G1はリング像F1の中心に描画される。
【0068】
変位算出部92は、撮影画像H1に描画された黒目Ebの輪郭を検出する。この処理は、たとえば、撮影画像H1の画素値に基づくエッジ検出を含む。なお、黒目は瞳孔と虹彩により構成され、瞳孔の方が黒目よりも暗く(低輝度で)描画されるので、同様のエッジ検出により瞳孔の輪郭も検出できる。エッジ検出処理は、空間フィルタや2値化を用いたエッジ強調処理を含んでいてもよい。
【0069】
黒目Ebの輪郭を検出する処理の具体例を図7Cに示す。なお、図7Cにおいては、瞳孔の像と、瞳孔に関する輝度値の変化が省略されている。変位算出部92は、撮影画像H1の水平ラインLに位置する画素の輝度プロファイルPを作成し、輝度値に関する閾値処理を行うことにより黒目Ebの輪郭に相当する画素を特定する。この処理を各水平ラインについて行うことで、黒目Ebの輪郭に相当する画素の2次元的な分布が得られる。
【0070】
更に、変位算出部92は、検出された黒目Ebの輪郭に基づいて、黒目Ebの中心を求める。この処理は、たとえば、検出された輪郭の近似楕円を求め、この近似楕円の中心を求めることによる。なお、中心の代わりに重心等を求めるようにしてもよい。また、瞳孔の輪郭を検出する場合には瞳孔中心が求められる。
【0071】
また、変位算出部92は、撮影画像H1に描画された固視標131cの投影像G1を検出する。投影像G1は固視標131cの反射光を受光して得られる像であるから、図7Cに示すように高輝度で描画される。したがって、このような高輝度の画素を閾値処理等を用いて特定することにより投影像G1が検出される。なお、リング像F1も同様に高輝度で描画されるが、像の配列などを解析することにより投影像G1とリング像F1とを判別することができる。また、投影像G1とリング像F1との色の違いに基づいて、これらを判別するようにしてもよい。また、この色の違いに基づく輝度の違いに基づいて、これらを判別することも可能である。
【0072】
更に、変位算出部92は、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G1との変位を求める。なお、投影像G1の位置としては、投影像G1の中心位置や重心位置が用いられる。図7Aの場合における黒目中心と投影像G1との位置関係を図7Dに示す。この場合、黒目中心Ecと投影像G1とが一致している。つまり、算出される変位Δは0である。なお、固視が合っていても変位Δが0になることは稀であり、多少の変位が存在する。
【0073】
図8Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しておらず、かつ、患者眼Eの視線D2が固視標131cに向いている状態を示している。これは「アライメントは合っていないが固視はできている」状態に相当する。眼科手術用顕微鏡1においては、アライメント機能が設けられていないので、この状態で乱視測定を行うのが現実的である(詳細は後述する)。
【0074】
図8Bは、図8Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H2を示している。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致していないので、患者眼Eは、撮影画像H2のフレームの中心から外れた位置に描画される。一方、固視は合っているので、固視標131cの投影像G2は黒目Ebの中心位置に描画される。固視標131cの投影像G2はリング像F2の中心に描画される。
【0075】
変位算出部92は、撮影画像H2を解析し、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G2との変位を求める。図8Aに示す場合、図7Aの場合と同様に、黒目中心Ecと投影像G2とが一致しているので、変位Δ=0が算出される。
【0076】
図9Aは、患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致しておらず、かつ、患者眼Eの視線D3が固視標131cに向いていない状態を示している。これは「アライメントも固視も合っていない」状態に相当する。
【0077】
図9Bは、図9Aに示す状態における患者眼Eの撮影画像H3を示している。患者眼Eの軸と対物レンズ15の光軸Oとが一致していないので、患者眼Eは、撮影画像H3のフレームの中心から外れた位置に描画される。また、固視が合っていないので、固視標131cの投影像G3は黒目Ebの中心位置から離れた位置に描画される。固視標131cの投影像G3はリング像F3の中心に描画される。
【0078】
変位算出部92は、撮影画像H3を解析し、黒目Ebの中心と固視標131cの投影像G3との変位を求める。図9Aに示す場合においては、黒目中心Ecと投影像G3とが一致しておらず、変位Δ(≠0)が算出される(図9C参照)。撮影倍率等を考慮した実空間における距離であってもよいし、ピクセル数等の仮想的な距離であってもよい。ここでは固視標131cの投影像に対する黒目中心の変位Δを用いるが、逆に黒目中心に対する投影像の変位を用いてもよい。また、黒目中心の代わりに瞳孔中心を用いる場合も同様である。
【0079】
変位算出部92により算出された変位Δは、変位判定部61に送られる。変位判定部61は、変位Δに基づいて固視状態の良否を判定する。この処理は、たとえば変位Δの絶対値(変位量)に関する閾値処理、つまり変位量と所定閾値との大小比較である。変位判定部61は、変位量が閾値以上である場合に「固視状態は不良」と判定し、変位量が閾値未満である場合に「固視状態は良好」と判定する。変位判定部61は、この判定結果(特に固視状態が不良であるとの判定結果)を提示制御部62に送る。
【0080】
(提示制御部)
提示制御部62は、変位判定部61による固視状態の判定結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。特に、提示制御部62は、固視状態が不良であると判定された場合、患者眼Eの視線を固視標131cに向けるようにLED群131−i及び固視標131cの制御を行う。これは、患者眼Eの視線を固視標131cに誘導するものである。この処理の具体例を以下に説明する。
【0081】
前述のように、変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて固視状態を検出するので、この段階では各LED131−i及び固視標131cが点灯されている。まず、提示制御部62は、変位算出部92により得られた変位方向に該当するLED131−jを特定する。次に、提示制御部62は、特定されたLED131−jと固視標131cを除く輝点、つまり各LED131−i(i≠j)を消灯する。それにより患者眼Eの視線方向のLED131−jと固視標131cのみが点灯している状態となる。前述のようにLED131−jと固視標131cとは色が異なる。術者は、この状態で患者に所定色の輝点(固視標131c)を見るように指示を与える。現在の視線方向の輝点(LED131−j)はこの所定色ではないので、患者は視線を移動させてこの所定色の輝点を探すこととなる。点灯されているのはLED131−jと固視標131cだけであるので、容易に固視標131cを発見することができる。
【0082】
視線の誘導方法はこれに限定されるものではない。一般に、心理的・精神的特性や視覚的特性など、生体の様々な特性を利用して、固視標131cに向けて視線を誘導することができる。たとえば、固視標131cを点滅させたり、発光強度を高めたりすることができる。また、複数のLED131−iを順次に点灯・消灯させることにより、固視標131cに向けて視線を徐々に案内することも可能である。
【0083】
また、提示制御部62は、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位量や変位方向に応じて、LED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更することができる。この処理は、固視状態が良好と判定された場合に行ってもよいし、不良と判定された場合に行ってもよい。
【0084】
固視状態が良好と判定された場合の制御の例として、LED群131−iの発光強度を一時的に変更することによって、固視状態が良好な旨を術者に報知することができる。また、固視状態は良好と判定されたが、その変位量が閾値に近い場合、固視ズレが発生するおそれを報知するためにLED群131−iや固視標131cの点灯状態を変更することができる。同様に、固視状態は良好と判定されたが変位量が閾値に近い場合において、変位方向の反対方向に該当するLED131−iや固視標131cの発光強度を高めるなどして、視線を固視標131cに向けさせるようにすることもできる。
【0085】
固視状態が不良と判定された場合の制御の例として、変位量の大きさに応じて固視標131cの発光強度を変更する(たとえば変位量と発光強度とを比例させる)などして、視線を固視標131cに誘導することができる。また、変位量が極めて大きい場合、つまり変位量が上記とは別のより大きな閾値以上である場合、視界に固視標131cが全く入っていない可能性があるので、任意のLED131−i、特に変位方向に該当するLED131−iを点灯させて視線の引き戻しを図り、それから固視標131cを点灯させて視線を固視標131cに導くことができる。
【0086】
また、術者に固視状態を報知するために、LED131−iや固視標131cの点滅速度や発光強度を変更したり、LED群131−iのうちから任意のものを選択して点灯又は点滅させたりする(つまり輝点の配列パターンを変える)ことができる。
【0087】
以上のような固視状態の検出及びこれに基づく制御を所定の時間間隔で反復することができる。それにより、固視状態をリアルタイムで監視し、その結果をリアルタイムで制御に反映させることができる。これにより、術者は固視状態をリアルタイムで把握できる。また、一般に固視状態は時間とともに変化するので、固視状態が悪化した場合にリアルタイムで修正することが可能となる。
【0088】
[動作]
眼科手術用顕微鏡1の動作について説明する。眼科手術用顕微鏡1の動作の一例を図10に示す。
【0089】
まず、LED群131−i及び固視標131cが点灯され、TVカメラ56による患者眼Eの撮影が開始される。制御部60には、撮像素子56aからの映像信号が逐次入力される。術者等は、固視標131cに視線を向けるよう患者を促す(S1)。その後、術者は乱視測定の開始を指示する(S2)。この指示は操作部82を介してなされる。
【0090】
制御部60は、撮像素子56aからの映像信号のフレームをデータ処理部90に逐次に送る。このとき、全てのフレームを送ってもよいし、間引きして送ってもよい。変位算出部92は、送られてきた各フレーム(撮影画像)を解析し、患者眼Eの黒目Ebの輪郭と、固視標131cとを検出する(S3)。
【0091】
次に、変位算出部92は、ステップ3で検出された黒目Ebの輪郭の近似楕円を求め、この近似楕円の中心を算出する。この近似楕円の中心が黒目中心Ecとみなされる(S4)。
【0092】
続いて、変位算出部92は、ステップ3で得られた固視標131cに対する、ステップ4で得られた黒目中心Ecの変位Δを算出する(S5)。変位算出部92は、変位Δのデータを変位判定部61に送る。
【0093】
変位判定部61は、変位Δの絶対値(変位量)と閾値とを比較する(S6)。変位量が閾値未満である場合(S6:No)、制御部60は、乱視情報算出部91を制御して乱視情報の算出処理を実行させる(S7)。それにより患者眼Eの乱視情報が得られる。この場合の処理はこれで終了となる。なお、この場合においても、前述したLED群131−iや固視標131cの制御を行ってもよい。
【0094】
変位量が閾値以上である場合(S6:Yes)、提示制御部62は、LED群131−iや固視標131cを制御しつつ(S8)、患者に固視を促す(S1)ことにより、患者眼Eの視線を固視標131cに向けさせる。そして、上記の処理を反復する。
【0095】
なお、ステップ6において所定回数「No」となった場合に報知を行うように構成できる。この報知は、LED群131−iや固視標131cの制御によって行うこともできるし、他の手段(メッセージ表示、警告音等)によって行うこともできる。
【0096】
[効果]
眼科手術用顕微鏡1の効果について説明する。
【0097】
眼科手術用顕微鏡1は、顕微鏡6に装着された投影像形成部13を用いて患者眼Eの乱視測定を行うことができる。投影像形成部13には、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点(LED群131−i)と、このリング状の配列の内部に配置された固視標131cとが設けられている。変位算出部92は、LED群131−i及び固視標131cが投影された状態の患者眼Eの撮影画像に基づいて、固視標131cに対する患者眼Eの固視状態を検出する。制御部60は、この固視状態の検出結果に基づいてLED群131−i及び固視標131cを制御する。
【0098】
また、制御部60は、変位判定部61と提示制御部62を有する。変位判定部61は、固視状態の検出結果に基づいて固視状態の良否を判定する。提示制御部62は、固視状態が不良であると判定された場合、患者眼Eの視線を固視標131cに向けるようにLED群131−i及び固視標131cの制御を行う。
【0099】
また、制御部60は、変位判定部61により固視状態が良好であると判定された場合、乱視情報算出部91を制御して患者眼Eの乱視情報の算出を実行させる。
【0100】
なお、図7A〜図9C等に示すように、眼科手術用顕微鏡1においては、アライメントが合っていなくても固視が合っていれば乱視測定が実行される。これは従来の眼科装置と異なる眼科手術用顕微鏡1の顕著な特徴である。つまり、一般に眼科手術用顕微鏡では術者が顕微鏡を任意に動かすのでアライメントを行うことは実質的に不可能である。この実施形態は、アライメントを行えない前提での好適な乱視測定の実現を図ったものであり、従来の眼科手術用顕微鏡や他種別の眼科装置とは、視点も構成も作用効果も異なるものである。
【0101】
また、変位算出部92は、患者眼Eの固視状態として、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位量を求め、制御部60(提示制御部62)は、この変位量に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更する。
【0102】
また、変位算出部92は、患者眼Eの固視状態として、固視標131cに対する患者眼Eの視線の変位方向を求め、制御部60(提示制御部62)は、この変位方向に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更する。
【0103】
このような眼科手術用顕微鏡1によれば、患者眼Eの固視状態に応じてLED群131−i及び固視標131cを制御することにより、術者や患者に向けて情報を出力することができる。特に、固視状態が不良である場合に、その旨を術者に伝えたり、患者の視線を誘導したりすることができる。したがって、乱視測定のための患者眼Eと光学系との位置関係を好適に調整することが可能となる。
【0104】
また、眼科手術用顕微鏡1によれば、固視状態が良好であると判定された場合、速やかに乱視測定に移行することができる。
【0105】
また、眼科手術用顕微鏡1によれば、変位量や変位方向、つまり固視ズレの量や方向に応じてLED群131−i及び固視標131cの制御内容を変更できるので、固視ズレの状態に応じたフレキシブルな対応が可能となる。
【0106】
以上に説明した構成は実施形態の一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変更、省略、付加を行うことができる。
【符号の説明】
【0107】
1 眼科手術用顕微鏡
5 駆動装置
13 投影像形成部
20 照明光学系
21 照明光源
30 観察光学系
56a 撮像素子
60 制御部
61 変位判定部
62 提示制御部
81 変倍機構
82 操作部
90 データ処理部
91 乱視情報算出部
92 変位算出部
131−i LED
131c 固視標
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者眼を撮影する撮影光学系を有する光学系と、
前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、
前記本体部に装着され、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点と、前記リング状の配列の内部に配置された固視標とを有する装着部と、
前記複数の輝点が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第1の画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、
前記複数の輝点及び前記固視標が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第2の画像に基づいて、前記固視標に対する患者眼の固視状態を検出する検出部と、
前記固視状態の検出結果に基づいて前記複数の輝点及び前記固視標を制御する制御部と、
を備える眼科手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記制御部は、
前記固視状態の検出結果に基づいて前記固視状態の良否を判定する判定部を含み、
前記固視状態が不良であると判定された場合、患者眼の視線を前記固視標に向けるように前記複数の輝点及び前記固視標の制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項3】
前記制御部は、前記判定部により前記固視状態が良好であると判定された場合、前記算出部による前記乱視情報の算出を実行させることを特徴とする請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項4】
前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位量を検出し、
前記制御部は、前記変位量に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位方向を検出し、
前記制御部は、前記変位方向に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項1】
患者眼を撮影する撮影光学系を有する光学系と、
前記光学系の少なくとも一部が格納された本体部と、
前記本体部に装着され、リング状に配列された乱視測定用の複数の輝点と、前記リング状の配列の内部に配置された固視標とを有する装着部と、
前記複数の輝点が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第1の画像に基づいて乱視情報を算出する算出部と、
前記複数の輝点及び前記固視標が投影された状態の患者眼を前記撮影光学系により撮影して得られた第2の画像に基づいて、前記固視標に対する患者眼の固視状態を検出する検出部と、
前記固視状態の検出結果に基づいて前記複数の輝点及び前記固視標を制御する制御部と、
を備える眼科手術用顕微鏡。
【請求項2】
前記制御部は、
前記固視状態の検出結果に基づいて前記固視状態の良否を判定する判定部を含み、
前記固視状態が不良であると判定された場合、患者眼の視線を前記固視標に向けるように前記複数の輝点及び前記固視標の制御を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項3】
前記制御部は、前記判定部により前記固視状態が良好であると判定された場合、前記算出部による前記乱視情報の算出を実行させることを特徴とする請求項2に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項4】
前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位量を検出し、
前記制御部は、前記変位量に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【請求項5】
前記検出部は、前記固視状態として、前記固視標に対する患者眼の視線の変位方向を検出し、
前記制御部は、前記変位方向に応じて前記複数の輝点及び前記固視標の制御内容を変更する、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の眼科手術用顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【公開番号】特開2013−39148(P2013−39148A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175977(P2011−175977)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
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