説明

眼科用配合剤、その製造方法およびその使用方法

本発明は、ドライアイおよび/または眼の過敏と関連している徴候および症状を処置および/または予防するための組成物、ならびにその使用方法を提供する。かかる組成物は、点眼すると快適になる新規な眼科用配合剤にて提供される。また、製造方法も提供される。本発明の眼科用配合剤は、ドライアイ疾患の徴候および症状の処置に有用であり、より詳しくは、涙液膜の安定性の改善(すなわち、涙液膜の破壊時間(TFBUT)の増大、角膜染色の低減および眼の不快症状の低減)に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への参照
本出願は、2009年6月5日に出願された米国仮特許出願第61/184,435号の利益を主張し、この出願の内容はその全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般的に、例えばドライアイ疾患などの眼の障害の処置に有用な眼科用配合剤に関し、より詳しくは、代用涙液またはその1種類以上の成分を含む眼科用配合剤に関する。さらに、本発明は、本発明の眼科用配合剤の製造方法、および例えばドライアイ疾患などの眼の障害の処置における使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ドライアイ疾患は、人口のおよそ10〜20%が罹患している眼疾患である。この疾患は、加齢に伴って人口の多くの割合が進行的に罹患する。このような患者の大部分が女性である。また、ほぼ全員に、場合により特定の状況下(例えば、長時間目を使う作業(例えば、コンピュータでの作業)、乾燥した環境にいる、眼乾燥をもたらす投薬物の使用など)で、病状として眼の過敏あるいはドライアイの症状および/または徴候が生じる。
【0004】
ドライアイに苦しんでいる個体では、1種類以上の涙液成分の生成が不充分または健常でない結果、通常、眼表面を保護している涙液の保護層が障害されている。これにより、目の表面の露出がもたらされ、最終的に、表面細胞の乾燥と損傷が促進され得る。ドライアイの徴候および症状としては、限定されないが、角膜炎、結膜および角膜の染色、充血、かすみ目、涙液膜破壊時間の減少、涙液生成、涙液容量および涙液流量の減少、結膜の充血の増大、過剰な涙液膜残屑、眼の乾燥、眼のザラザラ感(grittiness)、眼のヒリヒリ感、目の異物感、過剰な涙液生成、光恐怖、眼の刺痛、屈折障害、眼の易罹患性、ならびに眼の過敏が挙げられる。患者には、このような症状の1つ以上が起こることがあり得る。過剰な涙液生成応答は反直感的のようであるが、ドライアイによって引き起こされる過敏および異物感に対する自然な反射応答である。また一部の患者では、眼のアレルギーとドライアイ症状の併発による眼の痒みが起こることがあり得る。
【0005】
患者のドライアイの徴候または症状に影響を及ぼし得る可能性のある可変量がたくさんあり、循環ホルモンレベル、種々の自己免疫疾患(例えば、シェーグレン症候群および全身性エリテマトーデス)、眼の手術(例えば、PRKまたはLASIK)、多くの投薬物、環境条件、目を使う作業(コンピュータ使用など)、目の疲れ、コンタクトレンズ装着、ならびに機械的影響(角膜の感受性、眼瞼の部分閉鎖、表面の異形(例えば、翼状片)、ならびに眼瞼の異形(例えば、下垂、内反/外反、瞼裂斑)など)が挙げられる。低湿度の環境(例えば、脱水が引き起こされる環境)では、ドライアイ症状が悪化または誘起され得る(デフロスターを備えた車内に座っている、または乾燥気候の地域に住んでいるなど)。また、目を使う作業でも症状が悪化し得る。症状に大きく影響し得る作業としては、長時間TVを見たり、コンピュータを使用したりすること(この場合、まばたき率が低下している)が挙げられる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ドライアイ疾患の徴候および症状の処置に有用な眼科用配合剤/組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は保湿性および潤滑性目薬(すなわち、人工涙の液剤)、眼科用薬物の送達ビヒクル、および/またはコンタクトレンズ用濡れ性および潤滑性液剤として有用な眼科用配合剤/組成物を提供することである。本発明のまたさらなる目的は、現在使用されているか、または知られている方法よりも効率的な眼科用配合剤の製造方法を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明の眼科用配合剤は、ドライアイ疾患の徴候および症状の処置に有用であり、より詳しくは、涙液膜の安定性の改善(すなわち、涙液膜の破壊時間(TFBUT)の増大、角膜染色の低減および眼の不快症状の低減)に有用である。ドライアイの徴候および症状の処置は、涙液膜の増強による眼表面の保護によってもたらされる。涙液膜の安定性の尺度の一例は、涙液膜の破壊時間(TFBUT)の増大である。臨床的に意味のあるTFBUTの増大の判定方法の一例は、眼保護指数(Ocular Protection Index)(OPI)の増大である。
【0008】
本発明の眼科用配合剤は、1)新規な至適粘度(当該技術分野で知られた従来の人工涙配合剤よりも良好に眼表面をコートし(凝集なし)、滞留時間/保持時間を長くし、それにより、眼表面保護を増強する)、および2)低張度(単一の生理学に基づいた保存料無添加の目薬液剤において、ドライアイに特徴的な原因となる高張性状態に対処する)を特徴とする。好ましい実施形態によれば、粘度向上剤または粘度向上剤の組合せ、等張化剤または等張化剤の組合せ、およびバッファーまたはバッファーの組合せを含む眼科用水性液剤が提供される。粘度向上剤は、好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(一般的に、ヒプロメロースまたはHPMCとも称される)、特に、Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。好ましくは、本発明の眼科用配合剤は、0.72%〜0.8%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含み、本明細書に記載の方法に従って製造される。
【0009】
例えば、本発明の眼科用配合剤は、水を含む液剤基剤(solution base)を少なくとも85℃まで加熱し;該液剤基剤を1分あたり少なくとも10回転の速度で混合し;0.72%〜0.8%のヒドロキシプロピルメチルセルロースを少なくとも0.1g/分の速度で、目標粘度(目標粘度は約70〜88cpiである)が達成されるまで添加することにより製造される。任意選択で、1種類以上の等張化剤、例えば限定されないが、NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClが、約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で添加される。また、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、クエン酸バッファーならびにその組合せおよび混合物などのバッファー系を添加してもよい。
【0010】
具体的な一実施形態において、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);8.0mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.15mg/mlのエデト酸ナトリウム,USP;水酸化ナトリウム、5Nまたは塩酸、pHを7.4に調整するための5N;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース溶液は、およそ70〜88cpiの粘度に配合される。
【0011】
別の具体的な実施形態では、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);10mg/mlのグリセリン,USP;4.8mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.8mg/mlの塩化カリウム,USP;0.08mg/mlの塩化カルシウム,USP;0.05mg/mlの塩化マグネシウム,USP;1.7mg/mlのクエン酸ナトリウム,USP;pHを7.4に調整するためのNaOH/HCl;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成され、単位用量のために配合された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース単位用量溶液は70〜88cpiの粘度に配合される。
【0012】
さらに別の具体的な実施形態では、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);10mg/mlのグリセリン,USP;4.8mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.8mg/mlの塩化カリウム,USP;0.08mg/mlの塩化カルシウム,USP;0.05mg/mlの塩化マグネシウム,USP;5.0mg/mlのホウ酸、NF;1.0mg/mlのソルビン酸、NF;1.0mg/mlのエデト酸二ナトリウム,USP;pHを7.4に調整するためのNaOH/HCl;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成され、複数回用量のために配合された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース複数回用量溶液は70〜88cpiの粘度に配合される。
【0013】
本発明の眼科用配合剤/組成物は、保湿性および潤滑性目薬(すなわち、人工涙の液剤)、眼科用薬物の送達ビヒクル、ならびにコンタクトレンズ用濡れ性および潤滑性液剤としての有用性に加えて、ドライアイ疾患の徴候および症状の処置剤としての具体的な有用性がみられる。有効量の該配合剤が、ドライアイ疾患および/または一般的な目の過敏と関連している徴候および症状を処置および/または予防するために使用され得、また、別の目の障害に対する薬物が含まれている場合は、該障害を処置するためにも使用され得る。したがって、好ましい実施形態によれば、本発明の眼科用水性配合剤/組成物は、ドライアイ疾患の症状を軽減するための人工涙製剤としての使用に適している。
【0014】
ドライアイ疾患と関連している徴候および/または症状としては、限定されないが、眼の不快症状、例えば限定されないが、刺痛、痒み、ヒリヒリ感、ひっかきたい感じおよび/または目(片方もしくは両方)の異物感;目(片方または両方)の周囲に繊維状粘液;目の充血;煙および/または風に対する目の過敏の増大;読書またはテレビ鑑賞の後の目の疲れ;光に対する敏感性;コンタクトレンズ装着困難;涙液膜の完全性の減少;角膜染色の増大;まばたきによって改善されるかすみ目;過剰な涙液生成;あるいはその任意の組合せが挙げられる。本明細書において提供する眼科用配合剤は、ドライアイの徴候および症状の即時の軽減(角膜染色の減少、涙液膜の破壊時間(TFBUT)および眼保護指数(OPIの増大によって示される)(すなわち、ドライアイの徴候)、ならびに眼の不快症状(すなわち、症状)の低減をもたらすことができ、急性または慢性ドライアイ疾患の処置のために、単独、または他の併用治療薬との併用のいずれかで、断続的および/または反復長期使用に適したものである。
【0015】
好ましい実施形態によれば、本発明の眼科用配合剤は、ドライアイ疾患の処置に適したものである。好ましい実施形態によれば、本発明の眼科用配合剤は、眼の不快症状を軽減し、涙液膜の完全性を持続させるものである(涙液膜の破壊時間(TFBUT)の増大によって示される)。あるいはまた、本発明の組成物は、眼科用薬物のビヒクルとしての機能を果し得る。
【0016】
さらなる特徴は、快適な点眼用眼科用配合剤の製造方法であり、ここで、前記配合剤は1種類以上の代用涙液成分を含むものである。
【0017】
さらに、該配合剤の搬送、保存または使用のためのキット、ならびに該方法の実施を特徴とする。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から自明となろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、涙液膜の安定性の改善(すなわち、涙液膜破壊時間または「TFBUT」の増大)に対する、0.8%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む眼科用配合剤(「AC−111」と表示)の有効性を、ビヒクル(すなわち、HPMCなし)対照と比較して示す折れ線グラフである。
【図2】図2は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、角膜染色の低減に対する、0.8%HPMC/0.3%ケトロラク(ketorlac)(w/v)、0.3%ケトロラク単独(w/v)、またはビヒクル対照(すなわち、HPMCなし)を含む眼科用配合剤の平均有効性の比較を示す折れ線グラフである。グラフに示した3つのバーの各クラスタリングについて、0.8%HPMC/0.3%ケトロラク(w/v)配合剤を左端のバーで示し、0.3%ケトロラク単独(w/v)配合剤を真ん中のバーで示し、ビヒクル単独配合剤を右端のバーで示す。
【図3】図3は、ドライアイ疾患を有する被験体における、42日間にわたる眼の不快症状の軽減における、0.8%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)配合剤を含む眼科用配合剤の有効性を、ビヒクル(すなわち、HPMCなし)対照と比較して示す折れ線グラフである。
【図4】図4は、ドライアイ疾患を有する被験体における、42日間の過程にわたって各々1日のうちの特定の時点(午前、午後、晩(evening)、就寝時、翌朝)での、眼の不快症状の軽減における、0.8%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む眼科用配合剤(AC−111と表示)の平均有効性を、ビヒクル(すなわち、HPMCなし)対照と比較して示す折れ線グラフである。各時点でのグラフに示したバーの各クラスターについて、AC−111処置群を左のバーで示し、ビヒクル処置群を右のバーで示す。
【図5】図5は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、70cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、涙液膜の破壊時間(TFBUT)のベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図6】図6は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、70cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、眼保護指数(OPI)のベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図7】図7は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、70cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均眼瞼粘結性スコア(0=眼瞼粘結性なし;1=眼瞼粘結)を示す棒グラフである。
【図8】図8は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、70cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均かすみスコア(0=かすみなし;1=かすむ)を示す棒グラフである。
【図9】図9は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、70cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均快適性スコア(0=非常に快適/最良、10=非常に不快/最悪)を示す棒グラフである。
【図10】図10は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、90cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、涙液膜の破壊時間(TFBUT)ベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図11】図11は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、90cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、眼保護指数(OPI)のベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図12】図12は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、90cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均眼瞼粘結性スコア(0=眼瞼粘結性なし;1=眼瞼粘結)を示す棒グラフである。
【図13】図13は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、90cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均かすみスコア(0=かすみなし;1=かすむ)を示す棒グラフである。
【図14】図14は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、90cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均快適性スコア(0=非常に快適/最良、10=非常に不快/最悪)を示す棒グラフである。
【図15】図15は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、120cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、涙液膜の破壊時間(TFBUT)のベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図16】図16は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、120cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、眼保護指数(OPI)のベースラインからの平均変化を示す棒グラフである。
【図17】図17は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%のケトロラクを含み、120cpiの粘度に配合された眼科用配合剤での処置後の、平均眼瞼粘結性スコア(0=眼瞼粘結性なし;1=眼瞼粘結)を示す棒グラフである。
【図18】図18は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%ケトロラクを含み、120cpiの粘度を有するように配合された眼科用配合剤での処置後の、平均かすみスコア(0=かすみなし;1=かすむ)を示す棒グラフである。
【図19】図19は、管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体における、HMPCと0.25%ケトロラクを含み、120cpiの粘度を有するように配合された眼科用配合剤での処置後の、平均快適性スコア(0=非常に快適/最良、10=非常に不快/最悪)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明の眼科用配合剤は、涙液膜の増強(涙液膜の破壊時間の増大によって示される)によって眼表面の保護をもたらすものである。
【0020】
好ましい実施形態によれば、粘度向上剤または粘度向上剤の組合せ、等張化剤または等張化剤の組合せ、およびバッファーまたはバッファーの組合せを含む眼科用水性液剤が提供される。有効量のこのような配合剤が、ドライアイおよび/または一般的な目の過敏と関連している徴候および症状を処置および/または予防するために使用され得、また、別の目の障害に対する薬物が含まれている場合は、該障害を処置するためにも使用され得る。
【0021】
本発明の眼科用配合剤の並外れた有効性は、とりわけ、成分の組合せの相乗効果、および本明細書に記載の製造方法によって達成される至適粘度によるものである。成分の組合せ、および代用涙液成分(1種類または複数種)の製造方法によって達成される至適粘度により、当該技術分野で知られた従来の人工涙の液剤よりも良好に眼表面を覆い(すなわち、本発明の配合剤は、凝集せずに眼表面をコートする)、種々の粘度の従来の人工涙配合剤と比べて眼表面での保持時間の増大をもたらし、それにより涙液膜の完全性が増強され、眼表面の保護(例えば、涙液膜破壊時間および/または眼保護指数の増大によって示される)がもたらされる眼科用配合剤が得られる。そのため、本明細書に記載の快適な眼科用配合剤により、ドライアイの徴候および症状が処置され、ドライアイ疾患および/または眼の不快症状と関連している徴候および症状の処置および/または予防のためのかかる配合剤の使用における患者のコンプライアンスが増大する。
【0022】
粘度向上剤
さまざまな粘度向上剤が当該技術分野において知られており、限定されないが;ポリオール(グリセロール、グリセリン、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリソルベート80、プロピレングリコールおよびエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポビドン、ならびにポリビニルピロリドンなど);セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースおよびHPMCとしても知られている)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ならびにメチルセルロースなど);デキストラン(デキストラン70など);水溶性タンパク質(ゼラチンなど);カルボマー(カルボマー934P、カルボマー941,カルボマー940およびカルボマー974Pなど);ならびにガム(HP−グアールなど)、またはその組合せが挙げられる。また、担体の粘度を増大させるために他の化合物を本発明の配合剤に添加してもよい。粘度向上剤の例としては、限定されないが、多糖類(ヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸およびその塩、デキストラン、セルロースファミリーの種々のポリマーなど);ビニルポリマー;ならびにアクリル酸ポリマーが挙げられる。上記の薬剤の組合せおよび混合物もまた適している。一部の実施形態によれば、粘度向上剤または該薬剤の組合せの濃度は、約0.2%〜約10%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値である。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態では、粘度増強成分はヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースまたはHPMC)を含む。一部の実施形態によれば、HPMCの濃度は約0.5%〜約2%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値である。一部の実施形態によれば、HPMCの濃度は約0.5%〜約1.5%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値である。一部の実施形態によれば、HPMCの濃度は約0.5%〜約1%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値である。一部の実施形態によれば、HPMCの濃度は約0.6%〜約1%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値である。好ましい実施形態では、HPMCの濃度は約0.7%〜約0.9%w/vの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値(すなわち、約0.70%、約0.71%、約0.72%、約0.73%、約0.74%、約0.75%、約0.76%、約0.77%、約0.78%、約0.79%、約0.80%、約0.81%、約0.82%、約0.83%、約0.84%、約0.85%、約0.86%、約0.87%、約0.88%、約0.89%、または約0.90%)である。
【0024】
別の好ましい実施形態では、粘度増強成分はカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。
【0025】
張度調整剤
本発明の眼科用水性配合剤/組成物には、さらに、等張化剤または等張化剤の組合せが含まれる。一部の実施形態によれば、該眼科用配合剤/組成物には、有効量の張度調整成分を含めてもよい。中でも、使用され得る好適な張度調整成分は、コンタクトレンズケア製品に慣用的に使用されているもの(種々の無機塩など)である。また、ポリオールおよび多糖類を張度の調整に使用することもできる。張度調整成分の量は、200mOsmol/kg〜400mOsmol/kgまたは260mOsmol/kg〜350mOsmol/kgの重量オスモル濃度をもたらす有効な量である。
【0026】
好ましくは、等張化成分は、涙液の無機塩類組成を模倣する生理学的平衡塩類溶液を含む。一部の実施形態によれば、張度は張度向上剤によって調整され得、張度向上剤としては、例えば、イオン型および/または非イオン型である薬剤が挙げられる。イオン系張度向上剤の例は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属ハライド、例えば、CaCl、KBr、KCl、LiCl、NaI、NaBrもしくはNaCl、NaSOまたはホウ酸などである。非イオン系張度向上剤は、例えば、尿素、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール、またはデキストロースである。
【0027】
一部の実施形態によれば、等張化成分は、NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClのうちの2種類以上を、約140〜約400mOsm/kg、好ましくは約240〜約330mOsm/kg、好ましくは約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で含み、最も好ましい重量オスモル濃度はおよそ270mOsm/kgである。一部の実施形態によれば、等張化成分は、NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClのうちの3種類以上を、約140〜約400mOsm/kg、好ましくは約240〜約330mOsm/kg、好ましくは約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で含み、最も好ましい重量オスモル濃度はおよそ270mOsm/kgである。一部の実施形態によれば、等張化成分は、NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClのうちの4種類以上を、約140〜約400mOsm/kg、好ましくは約240〜約330mOsm/kg、好ましくは約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で含み、最も好ましい重量オスモル濃度はおよそ270mOsm/kgである。一部の実施形態によれば、等張化成分はNaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClを、約140〜約400mOsm/kg、好ましくは約240〜約330mOsm/kg、好ましくは約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で含み、最も好ましい重量オスモル濃度はおよそ270mOsm/kgである。
【0028】
一部の実施形態によれば、NaClは、約0.1〜約1%w/v、好ましくは約0.2〜約0.8%w/v、より好ましくは約0.39%w/vである。一部の実施形態によれば、KClは、約0.02〜約0.5%w/v、好ましくは約0.05〜約0.3%w/v、より好ましくは約0.14%w/vである。一部の実施形態によれば、CaClは、約0.0005〜約0.1%w/v、好ましくは約0.005〜約0.08%w/v、より好ましくは約0.06%w/vである。一部の実施形態によれば、MgClは、約0.0005〜約0.1%w/v、好ましくは約0.005〜約0.08%w/v、より好ましくは約0.06%W/Vである。一部の実施形態によれば、ZnClは、約0.0005〜約0.1%w/v、好ましくは約0.005〜約0.08%w/v、より好ましくは約0.06%W/Vである。
【0029】
一部の実施形態によれば、本発明の眼科用配合剤は、等張化剤を用いて、正常な涙液(等張性)(これは、塩化ナトリウムの0.9%溶液またはグリセロールの2.5%溶液と同等)の浸透圧に近くなるように調整され得る。約225〜400mOsm/kg重量オスモル濃度が好ましく、より好ましくは280〜320mOsmである。
【0030】
バッファーおよびpH
本発明の眼科用配合剤/組成物にはバッファー系も含まれる。本出願書類で用いる場合、用語「バッファー」または「バッファー系」は、通常、少なくとも1種類の他の化合物との組合せで、緩衝能を示す、すなわち、限度内で酸または塩基(アルカリ)のいずれかを中和する能力を示し、元のpHの変化が比較的小さいか、または変化がない緩衝系を溶液中にもたらす化合物を意図する。一部の実施形態によれば、緩衝成分を0.05%〜2.5%(w/v)または0.1%〜1.5%(w/v)存在させる。
【0031】
好ましいバッファーとしては、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、クエン酸バッファー、ならびにその組合せおよび混合物が挙げられる。ホウ酸バッファーとしては、例えば、ホウ酸およびその塩、例えば、ホウ酸ナトリウムまたはホウ酸カリウムが挙げられる。また、ホウ酸バッファーとして、四ホウ酸カリウムまたはメタホウ酸カリウムなどの、溶液中でホウ酸(borate acid)またはその塩を生成させる化合物も挙げられる。クエン酸バッファー系は、クエン酸および/またはクエン酸ナトリウムで構成されたものであり得る。
【0032】
リン酸バッファー系は、好ましくは1種類以上の一塩基性リン酸塩、二塩基性リン酸塩などを含むものである。特に有用なリン酸バッファーは、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属のリン酸塩から選択されるものである。好適なリン酸バッファーの例は、二塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)、一塩基性リン酸ナトリウム(NaHPO)および一塩基性リン酸カリウム(KHPO)の1種類以上を含むものである。リン酸バッファーの成分は、多くの場合、0.01%〜0.5%(w/v)(リン酸イオンとして計算)の量で使用される。
【0033】
好ましいバッファー系は、ホウ酸/ホウ酸塩、一塩基性および/または二塩基性リン酸塩/リン酸を主成分とするもの、または混合型ホウ酸/リン酸バッファー系である。例えば、混合型ホウ酸/リン酸バッファー系は、ホウ酸ナトリウムとリン酸の混合物、またはホウ酸ナトリウムと一塩基性リン酸塩の組合せで配合されたものであり得る。
【0034】
混合型ホウ酸/リン酸バッファー系において、該溶液は、約0.05〜2.5%(w/v)のリン酸またはその塩と、0.1〜5.0%(w/v)のホウ酸またはその塩を含む。リン酸バッファーは、0.004〜0.2M(モル)、好ましくは0.04〜0.1Mの濃度(総計)で使用される。ホウ酸バッファーは、0.02〜0.8M、好ましくは0.07〜0.2Mの濃度(総計)で使用される。さらに、2.5%(w/v)のクエン酸またはその塩を、このバッファー系に添加してもよい。
【0035】
混合型ホウ酸/クエン酸バッファー系では、該溶液は、約0.05〜2.5%(w/v)のクエン酸またはその塩と、0.1〜5.0%(w/v)のホウ酸またはその塩を含む。クエン酸バッファーは、0.004〜0.2M(モル)、好ましくは0.04〜0.1Mの濃度(総計)で使用される。ホウ酸バッファーは、0.02〜0.8M、好ましくは0.07〜0.2Mの濃度(総計)で使用される。さらに、2.5%(w/v)のリン酸またはその塩を、このバッファー系に添加してもよい。
【0036】
任意選択で、他の既知のバッファー用化合物をレンズケア組成物に添加してもよい(例えば、クエン酸塩、重炭酸ナトリウム、TRISなど)。溶液中での他の成分は、他の機能を有しつつ、バッファー能にも影響することがあり得る。例えば、EDTAは、多くの場合、錯化剤として使用されるが、溶液のバッファー能に対して著しい効果を有することがあり得る。
【0037】
一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは生理学的pHまたはその付近である。好ましくは、眼科用水性液剤のpHは約6.8〜約7.7(例えば、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、または約7.7)である。一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは約6.8〜約7.5である。一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは約6.8〜約7.4である。一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは約7.0〜約7.4である。一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは約7.2〜約7.4である。一部の実施形態によれば、眼科用水性液剤のpHは約7.2〜約7.5である。一部の実施形態によれば、該pHは、塩基(例えば、1N水酸化ナトリウム)または酸(例えば、1N塩酸)を用いて調整される。
【0038】
粘度
一部の実施形態によれば、本発明の眼科用配合剤は、約30〜約150センチポイズ(cpi)、好ましくは約30〜約130cpi、より好ましくは約50〜約120cpi、より好ましくは約60〜約115cpi、さらにより好ましくは約60〜90cpiの範囲(または前記範囲内の任意の具体的な値)である粘度を有する。好ましい実施形態によれば、本発明の眼科用配合剤は、約70〜約88cpiの範囲、または前記範囲内の任意の具体的な値(すなわち、約70cpi、約71cpi、約72cpi、約73cpi、約74cpi、約75cpi、約76cpi、約77cpi、約78cpi、約79cpi、約80cpi、約81cpi、約82cpi、約83cpi、約84cpi、約85cpi、約86cpi、約87cpi、または約88cpi)である粘度を有する。
【0039】
本発明の眼科用配合剤の粘度は、当該技術分野で知られた標準的な方法に従って測定され得る(粘度計またはレオメータの使用など)。当業者には、粘度の測定が温度および剪断速度などの要素によって影響され得ることが認識されよう。具体的な実施形態では、本発明の眼科用配合剤の粘度は、20℃+/−1℃で、Brookfield Cone and Plate Viscometer Model VDV−III Ultra(CP40または同等のスピンドルを備えている)を用いて、およそ22.50+/−およそ10(1/秒)の剪断速度で、またはBrookfield Viscometer Model LVDV−E(SC4−18または同等のスピンドルを備えている)を用いて、およそ26+/−およそ10(1/秒)の剪断速度で測定される。あるいはまた、本発明の眼科用配合剤の粘度は25℃+/−1℃で測定される。好ましい実施形態では、HPMCは、25℃+/−1℃で約70〜約88cpiの粘度の0.75%が達成されるまで、ゆっくり添加される。
【0040】
好ましい眼科用配合剤
具体的な一実施形態において、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);8.0mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.15mg/mlのエデト酸ナトリウム,USP;水酸化ナトリウム、5Nまたは塩酸、pHを7.4に調整するための5N;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース溶液は、およそ70〜88cpiの粘度に配合される。
【0041】
別の具体的な実施形態では、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);10mg/mlのグリセリン,USP;4.8mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.8mg/mlの塩化カリウム,USP;0.08mg/mlの塩化カルシウム,USP;0.05mg/mlの塩化マグネシウム,USP;1.7mg/mlのクエン酸ナトリウム,USP;pHを7.4に調整するためのNaOH/HCl;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成された、単位投薬のために配合された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース単位用量溶液は70〜88cpiの粘度に配合される。
【0042】
さらに別の具体的な実施形態では、本発明の眼科用配合剤は、以下のもの;8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);10mg/mlのグリセリン,USP;4.8mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.8mg/mlの塩化カリウム,USP;0.08mg/mlの塩化カルシウム,USP;0.05mg/mlの塩化マグネシウム,USP;5.0mg/mlのホウ酸、NF;1.0mg/mlのソルビン酸、NF;1.0mg/mlのエデト酸二ナトリウム,USP;pHを7.4に調整するためのNaOH/HCl;および精製水,USP(QS〜1ml)で構成された、複数回用量使用のために配合された0.8%ヒプロメロース溶液である。任意選択で、この0.8%ヒプロメロース溶液は、保存料(塩化ベンザルコニウムもしくはその誘導体(例えば、Polyquad(登録商標))、安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))、過ホウ酸ナトリウム、またはソルビン酸塩など)を含む。好ましくは、この0.8%ヒプロメロース複数回用量溶液は70〜88cpiの粘度に配合される。
【0043】
医薬組成物
本発明の眼科用水性配合剤は、ドライアイの症状を軽減するための人工涙製剤としての使用に適している。あるいはまた、本発明の配合剤は、眼科用薬物のビヒクルとしての機能を果す。本発明の配合剤における使用に適した眼科用薬物としては、限定されないが、抗緑内障剤(β遮断薬、例えば、チモロール、ベタキソロール、レボベタキソロール、カルテオロール、縮瞳薬、例えば、ピロカルピン、炭酸脱水酵素阻害薬、プロスタグランジン、セロトニン作動薬(seretonergic)、ムスカリン作動薬(muscarinic)、ドパミン作動薬、アドレナリン作動薬、例えば、アプラクロニジンおよびブリモニジンなど);抗血管新生薬剤;抗感染剤、例えば、キノロン(シプロフロキサシンなど)、ならびにアミノグリコシド(トブラマイシンおよびゲンタマイシンなど);ステロイド系抗炎症剤(リメキソロン、テトラヒドロコルチゾール、フルチカゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、トリアムシノロン、およびモメタゾンなど);非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)(ナプロキセン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェンなど);ケトロラクトロメタミン、スリンダク、インドメタシン、エトドラク、ジクロフェナク、ブロムフェナク、スプロフェン、ネパフェナク、アムフェナク、アスピリン、サルサレート、ジフルニサル、コリンマグネシウムトリサリチル酸(CMT)、アセトアミノフェン、ナブメトン、ピロキシカム、メロキシカム、メフェナム酸、メクロフェナメート、フルフェナム酸、トルメチン、フェニルブタゾン、エレコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブ、およびルアリコキシブ;増殖因子(EGFなど);免疫抑制剤;抗アレルギー剤または抗ヒスタミン剤(アステミゾール、アゼラスチン、アンタゾリン、ブロムフェニラミン、クロルフェニラミン、セチリジン、クレマスチン、デスロラチジン、デキスブロムフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ドキシルアミン、エバスチン、エメダスチン、エピナスチン、フェキソフェナジン、ヒドロキシジン、ケトチフェン、レボカバスチン、レボセチリジン、ロラチジン、メキタジン、ミゾラスチン、ノルケトチフェン、オロパタジン、オキサトミド、フェニンダミン、フェニラミン、ピリラミン、テルフェニジン、およびトリウロリジンなど);血管収縮薬(ナファゾリン、アントラジン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、およびテトラヒドロゾリン(tetrahydozoline)など);またはその任意の組合せが挙げられる。上記の任意の眼科用薬物を、薬学的に許容され得る塩(例えば、あらゆるエステルおよびその薬学的に許容され得る塩)の形態で存在させ得る。また本発明の組成物は、上記の眼科用薬物の組合せ、例えば、(i)ベタキソロールおよびチモロールからなる群より選択されるβ遮断薬と、(ii)ラタノプロスト;15−ケトラタノプロスト;トラボプロスト;およびイソプロピルウノプロストンからなる群より選択されるプロスタグランジンの組合せを含むものであってもよい。あるいはまた、本発明の医薬組成物は、他の活性成分、例えば限定されないが、血管収縮薬、抗アレルギー剤、抗感染薬、ステロイド、麻酔薬、抗炎症薬、鎮痛薬、ドライアイ用薬剤(例えば、分泌促進薬、粘液模倣物(mucomimetic)、ポリマー、脂質、抗酸化剤)などを含む医薬組成物とともに(同時に、または逐次)投与され得る。
【0044】
本発明の組成物中に含める眼科用薬物の量は、治療上有効であればどのような量であってもよいが、いくつかの要素、例えば、選択される薬物の具体物および効力に依存する。該配合剤中の眼科用薬物の治療有効量は、該薬物の吸収速度、不活化速度および排出速度ならびに該配合剤の化合物の送達速度に依存し、それぞれ、急性または慢性の病状の処置のための短期使用または長期使用に適した量である。また、投薬量の値は、軽減対象の病状の重症度によっても異なり得ることに注意されたい。さらに、任意の特定の被験体に対し、具体的な投薬レジメンは、個々の必要性および該組成物の投与または投与監督担当者の専門的判断に従って経時的に調整されるのがよいことは理解されよう。典型的には、投与は、当業者に知られた手法を用いて決定される。
【0045】
また、任意の眼科用薬物の投薬量は、患者の症状、年齢および他の身体的特徴、処置または予防対象の障害の性質および重症度、所望される快適度、投与経路、ならびに補給物の形態によっても異なり得る。任意の主題の配合剤は単回用量または分割用量で投与され得る。本発明の配合剤の投薬量は、当業者に知られた手法または本明細書に教示した手法によって容易に決定され得る。
【0046】
該配合剤の有効用量または有効量、ならびに投与時点に対して生じ得る任意の効果は、本発明の任意の特定の配合剤について特定する必要があり得る。これは常套的な実験によって行なわれ得る。任意の配合剤および処置または予防の方法の有効性は、該配合剤を投与し、眼科用薬物組成物の有効性および患者の快適度と関連している1種類以上の指数(本明細書に記載)を測定することによって投与の効果を評価し、該指数の処置後の値を、同じ指数の処置前の値と比較すること、または該指数の処置後の値を異なる配合剤を用いた同じ指数の値と比較することにより評価され得る。
【0047】
一部の実施形態によれば、薬物の総濃度は一般的に約5%以下である。例えば、本発明の代用涙液組成物は、別の医薬組成物(例えば、Restasis(商標)(シクロスポリン眼科用乳剤,0.05%)などの処方薬)と併用して使用され得る。該代用涙液組成物は、別の医薬組成物と同時または連続的に使用され得る。例えば、本発明の代用涙液組成物は被験体に、投与された別の医薬品が被験体において有効になり始める前の漸増期間において投与され得る。一部の特定の実施形態では、本発明の代用涙液組成物は、Restasis(商標)などの処方薬の置換療法剤としての機能を果すような様式で使用され得る。
【0048】
医薬組成物の活性成分は、薬学的に許容され得る塩の形態であり得る。
【0049】
配合容易性、ならびに患者が1〜2滴の液剤を罹患した目に点眼することによって、かかる組成物を容易に投与できることに基づくと、水性液剤が一般的に好ましい。しかしながら、該組成物はまた、懸濁剤、粘性もしくは半粘性のゲル剤、または他の型の固形もしくは半固形の組成物、あるいは徐放に適切なものであってもよい。一部の実施形態によれば(accordingly to)、本発明による医薬組成物は、液剤、懸濁剤、軟膏、ゲル剤、徐放配合剤、および経表面投与または徐放送達のための他の投薬形態として配合されるであろう。
【0050】
さまざまな任意の担体が本発明の配合剤に使用され得、水、水と水混和性溶媒(C〜Cアルカノールなど)の混合物、0.5〜5%の無毒性水溶性ポリマーを含む植物油または鉱油、天然産物(ゼラチン、アルギネート、ペクチン、トラガカント、カラヤガム、キサンタンガム、カラギーナン(carrageenin)、寒天およびアカシアなど)、デンプン誘導体(酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンなど)、また、他の合成生成物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、好ましくは架橋ポリアクリル酸、例えば、中性カルボポル、またはこれらのポリマーの混合物など)が挙げられる。担体の濃度は、典型的には、活性成分の濃度の1〜100000倍である。
【0051】
保存料
好ましくは、本発明の配合剤は保存料無添加である。かかる配合剤は、ドライアイの患者、コンタクトレンズを装着している患者、あるいはいくつかの眼科用点眼剤を使用している人、および/または眼表面が既に障害されている(例えば、ドライアイ)、保存料への曝露の制限がより望ましいであろう人に有用であり得る。
【0052】
しかしながら、特定の実施形態では、本発明の配合剤には保存料がさらに含まれ得る。保存料は、典型的には、第4級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゾキソなどから選択され得る。塩化ベンズアルコニウムは、より充分には、N−ベンジル−N−(C8〜C18アルキル)−N,Nジメチルアンモニウムクロライドで示される。第4級アンモニウム塩とは違う保存料の例は、チオサリチル酸のアルキル−水銀塩(例えば、チオメルサール、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀またはホウ酸フェニル水銀など)、過ホウ酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、パラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなど)、アルコール(例えば、クロロブタノール、ベンジルアルコールまたはフェニルエタノールなど)、グアニジン誘導体(例えば、クロロヘキシジンまたはポリヘキサメチレンビグアニドなど)、過ホウ酸ナトリウム、Germal(登録商標)II、ソルビン酸、および安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))である。好ましい保存料は、第4級アンモニウム化合物、特に、塩化ベンザルコニウムまたはその誘導体、例えば、Polyquad(米国特許第4,407,791号参照)、アルキル−水銀塩、パラベンおよび安定化オキシクロロ錯体(例えば、Purite(登録商標))である。適切な場合は、細菌および真菌によって引き起こされる使用中の二次汚染に対する保護を確実にするため、充分な量の保存料が該眼科用組成物に添加される。
【0053】
可溶化剤
本発明の配合剤は、特に、活性成分または不活性成分が懸濁液またはエマルジョンを形成する傾向にある場合、さらに可溶化剤の存在が必要な場合があり得る。上記に関連する組成物に適した可溶化剤は、例えば、チロキサポール、脂肪酸グリセロールポリエチレングリコールエステル、脂肪酸ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコール、グリセロールエーテル、シクロデキストリン(例えば、α−、β−もしくはγ−シクロデキストリン、例えば、アルキル化、ヒドロキシアルキル化、カルボキシアルキル化もしくはアルキルオキシカルボニルアルキル化された誘導体、あるいはモノ−もしくはジグリコシル−α−、β−もしくはγ−シクロデキストリン、モノ−もしくはジマルトシル−α−、β−もしくはγ−シクロデキストリンまたはパノシル(panosyl)−シクロデキストリン)、ポリソルベート20、ポリソルベート80またはこれらの化合物の混合物からなる群より選択される。特に好ましい可溶化剤の具体例は、ヒマシ油とエチレンオキシドの反応生成物、例えば、市販品Cremophor EL(登録商標)またはCremophor RH40(登録商標)である。ヒマシ油とエチレンオキシドの反応生成物は、特に良好な可溶化剤であり、目に対して耐容性が極めて良好であることが示されている。別の好ましい可溶化剤はチロキサポールおよびシクロデキストリンから選択される。使用濃度は、特に、活性成分の濃度に依存する。添加量は、典型的には、活性成分が可溶化されるのに充分な量である。例えば、可溶化剤の濃度は活性成分の濃度の0.1〜5000倍である。
【0054】
賦形剤
該配合剤には、さらに、無毒性賦形剤、例えば、乳化剤、湿潤剤または充填剤など、例えば、200、300、400および600で指定されるポリエチレングリコール、または1000、1500、4000、6000および10000で指定されるカルボワックスなどが含まれ得る。添加される賦形剤の量および型は具体的な要件に従い、一般的には、およそ0.0001〜およそ90重量%の範囲である。
【0055】
パッケージング
本発明の配合剤は、単回用量製剤(すなわち、単位用量)または複数回用量製剤のいずれかとしてパッケージングされ得る。単回用量製剤は、パッケージの開封前は滅菌された状態であり、パッケージ内の組成物がすべて、患者の片方の目または両目に対して1回または数回の適用で消費されることが意図されたものである。パッケージを開封後の組成物の滅菌を維持するための抗菌性保存料の使用は、一般的に不必要である。該配合剤は、軟膏配合剤である場合、適宜、当業者に知られているように軟膏用にパッケージングされ得る。
【0056】
複数回用量製剤もまた、パッケージの開封前は滅菌された状態である。しかしながら、組成物の容器は、容器内の組成物がすべて消費される前に何度も開封され得るため、複数回用量製剤は、容器を繰り返し開封して取り扱う結果、微生物によって組成物が汚染状態にならないことを確実にするため、充分な抗菌活性を有するものでなければならない。この目的に必要とされる抗菌活性のレベルは当業者に充分わかり、政府刊行物(米薬局方(「USP」)など)および米食品医薬品局による他の刊行物、および他の国の対応する刊行物に具体的に示されている。微生物汚染に対する眼科用医薬製剤の保存の指定に関する詳細事項および具体的な配合剤の保存料の有効性を評価するための手順は、該刊行物に示されている。米国では、保存料の有効性の基準は、一般的に、「USP PET」または「AET」要件と称されているものである(頭文字「PET」は、「保存料の有効性試験(preservative efficacy testing)」を表し;頭文字「AET」は、「抗菌有効性試験(anti−microbial efficacy testing)」を表す)。
【0057】
単回用量(すなわち、単位用量)パッケージング構成の使用により、組成物中において抗菌性保存料の必要性がなくなる。これは、眼科用組成物の保存のために使用される慣用的な抗菌剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)が、特に、ドライアイ状態もしくは以前からの眼の過敏に苦しんでいる患者において、または多数の保存料含有製剤を使用している患者において眼の過敏を引き起こすことがあり得るため、医療的観点から大きな利点である。しかしながら、「形成/充填/密封(form−fill−seal)」として知られた方法によって調製される小容量プラスチック製バイアルなどの、現在利用可能な単回用量パッケージング構成は、製造業者および消費者にとっていくつかの不都合点を有する。単回用量パッケージング系の主な不都合点は、かなり大量のパッケージング材料が必要とされ、これは、無駄が多いとともに費用もかかり、消費者にとって不都合である。また、消費者が、1〜2滴を目に適用した後、指示されているにもかかわらず単回用量容器を廃棄しないで、開封済の容器および残留組成物(あれば)を後の使用のためにとっておくというリスクがある。この不適切な単回用量製剤の使用により、単回用量製剤の微生物汚染のリスク、および汚染組成物を目に適用した場合は眼感染症の随伴リスクが生じる。
【0058】
本発明の配合剤は、好ましくは、「使用準備済」の水性液剤として配合されるが、択一的な配合剤も本発明の範囲において想定される。したがって、例えば、活性成分、界面活性剤、塩、キレート剤、もしくは眼科用液剤の他の成分、またはその混合物は、凍結乾燥され得るか、あるいは(例えば、脱イオンまたは蒸留)水中に溶解させるよう準備された乾燥粉剤または錠剤として提供され得る。該液剤の自己保存性のため、滅菌水は必要でない。
【0059】
使用方法
本明細書で用いる場合、本発明の眼科用配合剤/組成物は、ドライアイ疾患の徴候および症状の処置剤としての具体的な有用性がみられる。ドライアイ疾患の臨床徴候としては、限定されないが、角膜染色の増大、涙液膜の完全性の低減(涙液膜の破壊時間の削減もしくは短縮または低い眼保護指数(OPI)によって示される)が挙げられる。ドライアイ疾患の症状としては、限定されないが、眼の不快症状が挙げられる。特に、本発明の眼科用配合剤/組成物は、ドライアイ疾患を有する被験体における角膜染色の低減、涙液膜の完全性の改善(すなわち、涙液膜の破壊時間(TFBUT)および眼保護指数の増大)ならびに眼の不快症状レベルの低減に有用である。本発明の眼科用配合剤/組成物は、さらに、保湿性および潤滑性目薬(すなわち、人工涙の液剤)、眼科用薬物の送達ビヒクル、ならびにコンタクトレンズ用濡れ性および潤滑性液剤としての有用性がみられる。
【0060】
また、被験体の涙液膜の涙液膜破壊時間(TFBUT)を増大させる方法であって、それを必要とする被験体の目の表面に、本発明の眼科用配合剤/組成物を投与することを含む方法も提供する。
【0061】
また、被験体の目の眼保護指数(OPI)を増大させる方法であって、それを必要とする被験体の目の表面に、本発明の眼科用配合剤/組成物を投与することを含む方法も提供する。
【0062】
また、被験体の眼の不快症状を改善、処置、軽減、抑止、予防、あるいは低減させるための方法であって、それを必要とする被験体の目の表面に、本発明の眼科用配合剤/組成物を投与することを含む方法も提供する。
【0063】
所与の患者において最も有効な処置がもたらされる任意の特定の配合剤の厳密な投与期間および量は、具体的な化合物の活性、薬物動態およびバイオアベイラビリティ、患者の生理学的状態(例えば、年齢、性別、疾患の型および病期、全体的な体調、投薬物の所与の投薬量および型に対する応答性)、投与経路などに依存する。本明細書に示すガイドラインは、処置を最適化するため、例えば、最適な投与期間および/または投与量を決定するために使用され得、これに必要とされることは、被験体をモニタリングし、投薬量および/またはタイミングを調整することからなる常套的な範囲内の実験法である。
【0064】
いくつかの眼科用薬物を本発明の組成物に配合して併用することにより、種々の成分の効果の発現および持続時間が相補的(complimentary)となり得るため、任意の個々の成分の必要とされる投薬量が低減され得る。かかる併用療法において、異なる眼科用薬物は、一緒に送達されても、別々に送達されてもよく、同時に送達されても、1日のうちの異なる時点で送達されてもよい。
【0065】
ドライアイ疾患および/または眼の過敏と関連している徴候および症状の処置および予防における本発明の配合剤および組成物の有効性は、涙液膜破壊時間の変化、眼保護指数の変化、および眼の快適性のレベルを測定することにより評価され得る。投与前のTFBUTおよびまたはOPIと比べて、本発明の配合剤および組成物の投与後の被験体における涙液膜破壊時間および/または眼保護指数の増大は、該配合剤がドライアイ疾患および/または眼の過敏と関連している徴候および症状の処置および予防に有効であることを示す。
【0066】
本発明の眼科用配合剤は涙液膜の安定性を有効に増強するものである。涙液膜の安定性の尺度の一例は、涙液膜の破壊時間(TFBUT)が、眼科用配合剤の点眼後に測定した場合、眼科用配合剤の点眼前に測定された涙液膜の破壊時間(すなわち、ベースラインTFBUT)と比べて増大していることである。例えば、限定されないが、涙液膜の破壊時間は、眼科用配合剤の点眼後に測定した場合、眼科用配合剤の点眼前に測定された涙液膜の破壊時間(すなわち、ベースラインTFBUT)と比べてTFBUTが約2倍大きく、約3倍大きく、約4倍大きく、約5倍大きく、または約6倍大きく、またはそれ以上大きくなるように増大する。
【0067】
臨床的に意味のあるTFBUTの増大の判定方法の一つは、眼保護指数(OPI)が、眼科用配合剤の点眼後に測定した場合、眼科用配合剤の点眼前に測定されたOPI(すなわち、ベースラインOPI)と比べて増大していることである。例えば、限定されないが、眼保護指数は、眼科用配合剤の点眼後に測定した場合、眼科用配合剤の点眼前に測定されたOPI(すなわち、ベースラインOPI)と比べてOPIが約2倍大きく、約3倍大きく、約4倍大きく、約5倍大きく、または約6倍大きく、またはそれ以上大きくなるように増大する。眼の過敏/不快症状は、眼科用配合剤の点眼後に測定した場合、眼科用配合剤の点眼前に測定された眼の不快症状と比べて、眼の不快症状に対する患者の評価が低くなるように有効に低減される。
【0068】
TFBUTは、種々の方法、例えば限定されないが、フルオレセインナトリウムの点眼後の眼への照光、またはその同等法を用いて測定され得る。投与前の眼の快適性レベルと比べた本発明の配合剤および組成物の投与後の被験体の眼の快適性の増大または眼の不快症状の低減は、該配合剤が、ドライアイ疾患および/または眼の過敏と関連している徴候および症状の処置および予防に有効であることを示す。眼の快適性レベルは、種々の方法、例えば限定されないが、主観的尺度(例えば、限定されないが、眼の不快症状を軽度、中等度、重度、または0、1、2、3、4などとして判定する標準化された主観的尺度、または他の適切な尺度)、反射(reflexive)応答(例えば、ひるみ(flinch)反射)、ならびに生理学的応答、例えば限定されないが、心拍数、血圧および発汗レベルの変化によって評価され得る。
【0069】
キット
さらに別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の配合剤のパッケージングおよび/または保存および/または使用のためのキット、ならびに本明細書に記載の方法の実施のためのキットを提供する。したがって、例えば、キットは、本発明の1種類以上の眼科用液剤、軟膏、ゲル剤、徐放配合剤もしくはデバイス、懸濁剤もしくは配合剤、錠剤、またはカプセル剤を内包する1つ以上の容器を含むものであり得る。キットは、搬送、使用および保存の1つ以上の態様が容易になるように設計され得る。
【0070】
キットには、任意選択で、本明細書において提供する配合剤の使用手段が開示された指示書(すなわち、プロトコル)を含む使用説明資料が含まれ得る。使用説明資料は、典型的には、書面または印刷物を含むものであるが、かかるものに限定されない。かかる使用説明書を保存し、それをエンドユーザーに伝達することができる任意の媒体が本発明で想定される。かかる媒体としては、限定されないが、電子保存媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが挙げられる。かかる媒体は、かかる使用説明資料が提供されるインターネットのサイトのアドレスを含むものであってもよい。
【0071】
本明細書において挙げた刊行物および特許はすべて、引用によりその全体が、あたかも個々の各刊行物または特許が具体的に個々に示されて引用により組み込まれているかのごとく、本明細書に組み込まれる。矛盾する場合は、本出願書類(例えば、本明細書における任意の定義)に支配される。
【0072】
製造方法
本発明によれば、快適な点眼用眼科用配合剤の製造方法が提供される。好ましくは、該眼科用配合剤は、本明細書に記載のものなどの1種類以上の代用涙液成分を含む。
【0073】
好ましい実施形態によれば、液剤基剤を少なくとも80℃まで加熱すること;この水溶液を、タンクおよびインペラーの設計に応じた、凝集が抑制される適切な速度で混合すること;粘度用薬剤(viscosity agent)を、目標粘度が達成されるように粘度用薬剤の凝集が回避される速度で添加すること;ならびに等張化剤(1種類または複数種)、バッファー(1種類または複数種)および任意選択の眼科用薬物を添加することを含む、点眼用眼科用配合剤の製造方法が提供される。一部の実施形態によれば、目標粘度は約70〜88cpiである。好ましい実施形態では、粘度用薬剤はHPMCであり、これは、70〜88cpiの粘度が達成されるように0.72%〜0.80%の濃度まで添加される。
【0074】
好ましい実施形態によれば、眼科用配合剤は市販規模のバッチで調製される。市販規模のバッチとしては、約50リットル〜約500リットルまたはその間の任意の場合(例えば、220リットル)のバッチが挙げられる。好ましい実施形態としては、約50リットル〜約500リットルのバッチ;約50リットル〜約400リットルのバッチ;約50リットル〜約300リットルのバッチ;約50リットル〜約250リットルのバッチ;約50リットル〜約220リットルのバッチ;約50リットル〜約200リットルのバッチ;約50リットル〜約100リットルのバッチ;約100リットル〜約220リットルのバッチ;約100リットル〜約200リットルのバッチ;約120リットル〜約200リットルのバッチ;約150リットル〜約220リットルのバッチ;約150リットル〜約200リットル;または約180リットル〜約220リットルのバッチが挙げられる。
【0075】
液剤基剤は、混合槽またはケトルタンク(例えば、220L容ケトルタンク)に添加される。好ましくは、液剤基剤は滅菌水である。液剤基剤は水の沸点未満まで加熱される。好ましくは、液剤基剤は、少なくとも99℃;少なくとも98℃;少なくとも97℃;少なくとも96℃;少なくとも95℃;少なくとも94℃;少なくとも93℃;少なくとも92℃;少なくとも91℃;少なくとも90℃;少なくとも89℃;少なくとも88℃;少なくとも87℃;少なくとも86℃;または少なくとも85℃まで加熱される。一部の実施形態によれば、液剤基剤は、約80℃〜約95℃;約85℃〜約95℃;約90℃〜約95℃;約80℃〜約90℃;または約85℃〜約95℃まで加熱される。
【0076】
本発明によれば、混合槽において至適混合速度を使用することにより、粘度用薬剤の可溶化が増大し、凝集が抑制される。該動作速度の下限は、粘度用薬剤の添加速度の制御に依存性である。したがって、非常に遅い動作によって、最終的に完全な混合がもたらされる。好ましい実施形態によれば、高い混合速度は、粘度用薬剤の可溶化を増大させ、凝集を抑制するために使用される。混合のための機構は、当該技術分野で知られた任意の機構であり得る。好ましくは、撹拌混合は、高剪断混合ブレード、低剪断混合ブレード、ボルテックスまたはサイドスクレイパーを用いて行なわれる。サイドスクレイパーが好ましい。
【0077】
混合を確実にする好ましい動作速度は、タンクおよびインペラーの設計に依存する。一部の実施形態では、ほとんどの目的に有用な時間内に混合を確実にする好ましい動作速度は、1分あたり5〜5,000回転(rpm)、より好ましくは5〜500rpm、最も好ましくは約5〜100rpmである。一部の実施形態によれば、混合ブレードの動作速度は約10〜約100rpm;約10〜約90rpm;約10〜約80rpm;約10〜約70rpm;約10〜約60rpm;約10〜約50rpm;約10〜約40rpm;約10〜約30rpm;約10〜約25rpm;約10〜約20rpm;または約5〜約10rpmである。
【0078】
本発明によれば、粘度用薬剤は、凝集を回避し、可溶化を増大させるために、制御された速度で添加される。好ましい実施形態によれば、粘度用薬剤の添加速度は1分あたり約1〜約1000グラム(g/分)である。一部の実施形態によれば、粘度用薬剤の添加速度は約5〜約1000(g/分);約10〜約1000(g/分);約50〜約1000(g/分);約100〜約1000(g/分);約200〜約1000(g/分);約300〜約1000(g/分);約400〜約1000(g/分);約500〜約1000(g/分);約600〜約1000(g/分);約700〜約1000(g/分);約800〜約1000(g/分);約900〜約1000(g/分);約5〜約900(g/分);約5〜約750(g/分);約5〜約500(g/分);約5〜約250(g/分);約5〜約100(g/分);約5〜約90(g/分);約5〜約80(g/分);約5〜約70(g/分);約5〜約60(g/分);約5〜約50(g/分);約5〜約40(g/分);約5〜約30(g/分);または約5〜約20(g/分)約5〜約10(g/分)である。
【0079】
可溶化を達成し、凝集を回避するためには、混合速度と粘度用薬剤の添加速度との間に関係性がある。例えば、粘度用薬剤は液剤基剤に、低剪断混合ブレードまたはサイドスクレイパーブレードにて1分あたり10〜100回転(rpm)で撹拌しながら、1分あたりおよそ10グラム(g/分)の速度で添加され得る。粘度用薬剤の添加速度と混合速度は、例えば、以下の表1に示すような関係を構築し得る。
【0080】
表1:粘度用薬剤の添加速度と混合速度間の関係
【0081】
【表1】

上記の表1に示した関係は、可溶化が最適化され、粘度用薬剤の凝集が回避されるように調整され得る。例えば、上記の表1に示した関係は、粘度用薬剤の添加速度を2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍またはそれ以上(例えば、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍もしくは100倍)増大させることにより調整され得る。したがって、粘度用薬剤の添加速度の20倍の増大により、以下の表2に示すような混合速度との関係が構築され得る。
【0082】
表2:粘度用薬剤の添加速度と混合速度間の20倍に調整された関係
【0083】
【表2】

表3に示した関係も適切である。
【0084】
表3:粘度用薬剤の添加速度と混合速度間の択一的な20倍に調整された関係
【0085】
【表3】

粘度用薬剤は、本明細書において別の箇所に記載のように、目標粘度が達成されるまで添加される。粘度用薬剤(例えば、HPMC)が湿潤し、分散されたら、バッファーと塩が添加され得る。この溶液はバルク滅菌され、冷却され、所望のレベルにpH調整され得る。得られた配合剤は、次いで、所望によりパッケージングされ得る。
【0086】
定義
便宜上、本発明をさらに説明する前に、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で用いる一部の特定の用語をここに集める。これらの定義は、本開示の残部に鑑みて読まれ、当業者によるとおりに理解されたい。
【0087】
用語「急性」は、本明細書で用いる場合、急激な発生を有する病状、および重度だが持続時間が短い症状を表す。
【0088】
用語「鎮痛薬」は、本明細書で用いる場合、断続的および/または慢性の身体的不快症状の管理のための、長期使用に適した化合物/配合剤を表す。
【0089】
用語「麻酔薬(“anesthetic”または“anesthesia”)」は、本明細書で用いる場合、急性の身体の痛みの管理のための、短期間の一時的使用に適した化合物/配合剤であって、該化合物/配合剤が投与される身体部分/器官の無感覚または感受性の低下(例えば、目の角膜の感受性の低下)をもたらす効果を有するものを表す。
【0090】
用語「水性」は、典型的には、担体が>50%、より好ましくは>75%、特に>90重量%程度まで水である水性組成物を表す。
【0091】
用語「慢性」は、本明細書において定義する場合、持続性の長期間の病状、または頻繁な再発が特徴的なもの、好ましくは3ヶ月より長く、より好ましくは6ヶ月より長く、より好ましくは12ヶ月より長く、さらにより好ましくは24ヶ月より長く持続する/繰り返される病状を意図する。
【0092】
用語「快適な」は、本明細書で用いる場合、痛み、ヒリヒリ感、刺痛、痒み、過敏または身体的不快症状と関連する他の症状という身体的感覚とは対照的な、身体的に良好な状態または免荷の感覚をいう。
【0093】
用語「快適な眼科用配合剤」は、本明細書で用いる場合、ドライアイ疾患および/または眼の不快症状と関連している症状からの身体的免荷をもたらし、点眼した場合、引き起こされる痛み、ヒリヒリ感、刺痛、痒み、過敏または眼の不快症状と関連している他の症状が許容され得るレベルにすぎず、現在市販されている濃度での投与でみられるものよりも少ない眼科用配合剤をいう。
【0094】
用語「ドライアイ」は、本明細書で用いる場合、不充分な涙液生成および/または異常な涙液組成をいう。本明細書において定義するドライアイ疾患の原因としては、限定されないが、以下;特発性の先天性トキソプラズマ症、眼球乾燥症、涙腺剥離、および感覚神経支配除去;膠原血管病、例えば、関節リウマチ、ヴェーゲナー肉芽腫症および全身性エリテマトーデス;シェーグレン症候群およびシェーグレン症候群と関連している自己免疫疾患;眼瞼炎または酒さによって引き起こされる脂質涙液層の異常;ビタミンA欠乏によって引き起こされるムチン涙液層の異常;トラコーマ、ジフテリア性角結膜炎;粘膜皮膚障害;加齢;閉経;ならびに糖尿病が挙げられる。また、本明細書において定義するドライアイの徴候および/または症状は、他の状況、例えば限定されないが、以下;長時間目を使う作業;コンピュータでの作業;乾燥した環境にいること;眼の過敏;コンタクトレンズ、LASIKおよび他の屈折矯正手術;疲労;ならびにイソトレチノイン、鎮静薬、利尿薬、三環系抗鬱薬、抗高血圧薬、経口避妊薬、抗ヒスタミン薬、鼻づまり除去薬、β遮断薬、フェノチアジン、アトロピン、および痛み軽減アヘン薬(例えば、モルヒネ)などの投薬物によっても誘発され得る。
【0095】
語句「有効量」は、当該技術分野で認知された用語であり、本発明の医薬組成物に組み込まれた場合、任意の医療処置に適用可能な妥当な便益/リスク比でいくらかの所望の効果をもたらす薬剤の量をいう。一部の特定の実施形態では、該用語は、ドライアイおよび/または目の過敏の徴候および/または症状が解消、低減または維持(例えば、拡延が抑制)されるか、あるいは、ドライアイおよび/または目の過敏が予防または処置されるのに必要または充分な量をいう。有効量は、処置対象の疾患もしくは病状、投与される具体的な組成物、または疾患もしくは病状の重症度などの要素に応じて異なり得る。特定の薬剤の有効量は、当業者により、過度に実験を行なう必要なく、実験に基づいて決定され得る。
【0096】
本明細書で用いる場合、用語「NSAID」は、眼科学的に許容され得る非ステロイド系抗炎症薬またはその薬学的に許容され得る塩を意味する。用語「低用量NSAID」は、知覚麻痺をもたらすことなく眼の不快症状が低減される量であって、急性の眼の炎症および痛み(例えば限定されないが、角膜損傷、創傷治癒の遅滞、および眼の不快症状)の処置のために現在使用されている市販のFDA承認NSAID配合剤と関連する有害効果の低減が予測され得る量の眼科学的に許容され得る非ステロイド系抗炎症薬またはその薬学的に許容され得る塩を意味する。
【0097】
主題の方法での処置対象の「患者」、「被験体」または「宿主」は、ヒトまたは非ヒト動物(霊長類、哺乳動物および脊椎動物など)のいずれかをいう。
【0098】
語句「薬学的に許容され得る」は、当該技術分野で認知されており、組成物、ポリマーおよび他の物質および/またはその塩および/または投薬形態が、妥当な医学的判断の範囲において、人間および動物の組織との接触における使用に適しており、過剰な毒性、過敏、アレルギー反応または他の問題もしくは合併症がなく、妥当な便益/リスク比に相応していることをいう。
【0099】
語句「薬学的に許容され得る担体」は、当該技術分野で認知されており、任意の補給物もしくは組成物またはその成分を、ある器官または身体の一部から別の器官または身体の一部に運搬または輸送すること、あるいは薬剤を目の表面に送達することに関与する、例えば薬学的に許容され得る物質、組成物またはビヒクル(液状もしくは固形の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒もしくはカプセル封入材料)などをいう。各担体は、組成物およびその成分と適合性であり、患者に対して有害でないという意味で「許容され得る」ものでなければならない。一部の特定の実施形態では、薬学的に許容され得る担体は発熱性物質陰性である。薬学的に許容され得る担体として供され得る物質の一例としては;(1)糖類(ラクトース、グルコースおよびスクロースなど);(2)デンプン(コーンスターチおよびイモデンプンなど);(3)セルロースおよびその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロースおよび酢酸セルロースなど;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)賦形剤(ココアバターおよび坐剤用ワックスなど);(9)油類(ピーナッツ油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油および大豆油など;(10)グリコール(プロピレングリコールなど);(11)ポリオール(グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなど);(12)エステル(オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなど);(13)寒天;(14)緩衝剤(水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなど);(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝溶液;(21)ガム(HP−グアールなど);(22)ポリマー;ならびに(23)医薬用配合剤に用いられる他の無毒性の適合性の物質が挙げられる。
【0100】
用語「薬学的に許容され得る塩」は、当該技術分野で認知されており、本発明の組成物またはその任意の成分(例えば限定されないが、治療用薬剤、賦形剤、他の物質など)の無毒性の無機および有機系の酸付加塩をいう。薬学的に許容され得る塩の例としては、鉱酸(塩酸および硫酸など)から誘導されるもの、ならびに有機酸(例えば、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、pトルエンスルホン酸など)から誘導されるものなどが挙げられる。塩の形成に好適な無機塩基の例としては、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛などの水酸化物、炭酸塩および重炭酸が挙げられる。また、塩は、適当な有機塩基(例えば、無毒性であり、かかる塩が形成されるのに充分な強塩基)とともに形成されるものであってもよい。例示の目的で、かかる有機塩基の類型としては、モノ−、ジ−、およびトリアルキルアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、およびトリエチルアミンなど);モノ−、ジ−またはトリヒドロキシアルキルアミン(モノ−、ジ−、およびトリエタノールアミンなど);アミノ酸(アルギニンおよびリシンなど);グアニジン;N−メチルグルコサミン;N−メチルグルカミン;L−グルタミン;N−メチルピペラジン;モルホリン;エチレンジアミン;N−ベンジルフェネチルアミン;(トリヒドロキシメチル)アミノエタン;トロメタミンなどが挙げられ得る。例えば、J.Pharm.Sci.,66;1−19(1977)を参照のこと。
【0101】
用語「予防する」は、ドライアイおよび/または目の過敏などの病状に関連して用いる場合、当該技術分野で認知されており、組成物を受けない被験体と比べて、被験体の疾病状態の徴候および/または症状の頻度が低減される、あるいは該徴候および/または症状の発生が遅延される該組成物の投与をいう。
【0102】
本明細書で用いる場合、用語「代用涙液」および「人工涙」は、互換的に用いていることがあり得、各々、眼に投与すると、潤滑性を付与し、「湿潤」させ、内因性の涙液の粘稠度に近づけるか、天然の涙液の構成を補助するか、あるいはドライアイの徴候および/または症状および病状の一時的な軽減をもたらす1種類以上の分子または組成物、例えば限定されないが、ポリマー(例えば、セルロース系ポリマー)、眼表面保護薬、粘滑薬、または代用涙液に関するFDAモノグラフにみられる他の成分をいう。用語「代用涙液成分」は、その1種類以上の成分をいう。
【0103】
用語「処置する」は、当該技術分野で認知された用語であり、任意の病状または疾患の少なくとも1つの徴候および/または症状を低減させるか、または改善することをいう。
【実施例】
【0104】
実施例
次に、本発明を一般的に説明するが、本発明は、以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されよう。実施例は、単に、本発明の一部の特定の態様および実施形態を例示する目的で含めており、本発明をなんら限定することを意図しない。
【0105】
実施例1:本発明による眼科用配合剤の製造
この実施例では、1)高粘度(眼表面上における人工涙の保持時間の増大をもたらす)、および2)低張度(単一の生理学に基づいた保存料無添加の目薬液剤において、ドライアイに特徴的な原因となる高張性状態に対処する)の特徴を有する人工涙液の液剤の作製方法を示す。
【0106】
人工涙配合剤は、粘滑薬/ヒドロゲル(ヒプロメロース)、塩の組合せ、バッファーおよび水からなるものである。可能な賦形剤および見込み濃度範囲は以下の表4を見るとよい。該配合剤は保存料無添加である。
表4:保存料無添加の本発明の人工涙配合剤の例
【0107】
【表4】

一般的に、HPMCの目標濃度の違いは設備に基づき、混合速度は、大規模に対して小規模で使用される設備間で異なる。市販規模でのHPMCの目標濃度は目標0.75%であり、一方、実験室ベンチスケールでのHPMCの目標濃度は0.8%である。
【0108】
この実施例では、目標規模は0.75%HPMCである(市販規模)。この人工涙の製造では、サイドスクレイパーを有する220L容ケトルタンクと、有効モールドを有する(例えば、4−バイアルモールド、しかしながら、ユニットの数はモールドの設計によって異なり得る)Blow/Fill/Seal(ASEP−TECH(登録商標))機を使用する。水をタンクに添加し、続いて、加圧蒸気で最終温度185〜194°F(90℃)まで加熱する。
【0109】
HPMCをケトルに添加し、これを、HPMCの添加時の凝集が回避されるように至適速度で撹拌する。混合しながら、HPMCをゆっくり添加する。添加速度は混合に依存性である。重要なことには、HPMCの混合速度および添加速度は、熱水中への分散時のHPMCの凝集が回避されるように選択する。人工涙の最初のプロセス開発は、まず、適切な配合タンクの特定を伴うものであった。最初は、ボルテックス混合を伴う配合タンクがHPMCの混合に充分であろうと予測された。しかしながら、いくつかの実現可能なバッチを作製した後、HPMCは、不充分な混合のため、プロセスから充分に回収されないことが明らかになった。プロセスを、サイドスクレイパーを有するケトルタンクに移し変えると、HPMCはプロセスから充分に回収された。
【0110】
HPMC添加の終点は、HPMCの配合重量が添加し終えた時とする。HPMCが湿潤し、分散されたら、バッファーと塩を添加する。最後に、溶液をバルク滅菌する。この溶液を冷却し、pHは7.4に調整され得る。
【0111】
プロセス開発の第2期は、目標粘度範囲が達成されるHPMCの量の最適化を伴うものであった。この実施例では、目標粘度を70〜88cpiとした。使用したHPMCの初期含有量(0.80%)(1/2期の配合剤に基づく)では、おそらくHPMCが新たな製造場所で、より良好に水和されたため、目標よりも高い粘度がもたらされた。HPMC含有量を0.75%に調整すると、目標粘度が達成され、再現可能であった。
【0112】
この製剤の開発の第3期は、目標粘度が、現在使用されているHPMCと比べて新規な塩およびバッファー(1種類または複数種)の添加、ならびに眼科用薬物の添加に適合することを確実にすることを伴う。
【0113】
実施例2;本発明による眼科用配合剤の製造
この実施例では、1)高粘度(眼表面上における人工涙の保持時間の増大をもたらす)、および2)低張度(単一の生理学に基づいた保存料無添加の目薬液剤において、ドライアイに特徴的な原因となる高張性状態に対処する)の特徴を有する人工涙液の液剤の作製方法を示す。
【0114】
人工涙配合剤は、粘滑薬/ヒドロゲル(ヒプロメロース)、塩の組合せ、バッファーおよび水からなるものである。可能な賦形剤および見込み濃度範囲は以下の表5を見るとよい。該配合剤は保存料無添加である。
表5:保存料無添加の本発明の人工涙配合剤の例
【0115】
【表5−1】

【0116】
【表5−2】

一般的に、目標濃度の違いは設備に基づき、混合速度は、大規模に対して小規模で使用される設備間で異なる。HPMCの目標濃度は市販規模で目標0.75%であり、実験室ベンチスケールでは目標0.8%である。
【0117】
この実施例では、目標規模は0.75%HPMCである。この人工涙の製造では、サイドスクレイパーを有する220L容ケトルタンクと、有効モールドを有する(例えば、4−バイアルモールド、しかしながら、ユニットの数はモールドの設計によって異なり得る)Blow/Fill/Seal(ASEP−TECH(登録商標))機を使用する。水をタンクに添加し、続いて、加圧蒸気で最終温度185〜194°F(90℃)まで加熱する。
【0118】
HPMCをケトルに添加し、これを、HPMCの添加時の凝集が回避されるように至適速度で撹拌する。混合しながら、HPMCをゆっくり添加する。添加速度は混合に依存性である。重要なことには、HPMCの混合速度および添加速度は、熱水中への分散時のHPMCの凝集が回避されるように選択する。人工涙の最初のプロセス開発は、まず、適切な配合タンクの特定を伴うものであった。最初は、ボルテックス混合を伴う配合タンクがHPMCの混合に充分であろうと予測された。しかしながら、いくつかの実現可能なバッチを作製した後、HPMCは、不充分な混合のため、プロセスから充分に回収されないことが明らかになった。プロセスを、サイドスクレイパーを有するケトルタンクに移し変えると、HPMCはプロセスから充分に回収された。
【0119】
HPMC添加の終点は、HPMCの配合重量が添加し終えた時とする。HPMCが湿潤し、分散されたら、バッファーと塩を添加する。最後に、溶液をバルク滅菌する。この溶液を冷却し、pHは7.4に調整され得る。
【0120】
プロセス開発の第2期は、目標粘度範囲が達成されるHPMCの量の最適化を伴うものであった。この実施例では、目標粘度を70〜88cpiとした。使用したHPMCの初期含有量(0.80%)(1/2期の配合剤に基づく)では、おそらくHPMCが新たな製造場所で、より良好に水和されたため、目標よりも高い粘度がもたらされた。HPMC含有量を0.75%に調整すると、目標粘度が達成され、再現可能であった。
【0121】
この製剤の開発の第3期は、目標粘度が、現在使用されているHPMCと比べて新規な塩およびバッファー(1種類または複数種)の添加、ならびに眼科用薬物の添加に適合することを確実にすることを伴う。
【0122】
実施例3:ドライアイの臨床徴候に対する0.8%HMPCベースの人工涙液剤の効果の評価:涙液膜破壊時間(TFBUT):
「涙液膜破壊時間」または「TFBUT」試験は、ドライアイ症候群の重症度の指標であり、涙液膜の維持における液剤の有効性を測定するために使用され得る。これは、被験体が感じ得る眼の不快症状の度合と相関している。数百名の被験体を伴う試験において、70%超が涙液膜破壊の1秒以内に眼の不快症状を報告した。平均すると、正常な目の涙液膜は7.1秒で破壊される。対照的に、「ドライアイ」の涙液膜は平均3.2秒で破壊される。したがって、TFBUTの増大能を有する薬剤がドライアイのの処置および予防に使用され得る。
【0123】
例えば、TFBUTは、以下のようにして評価され得る。まず、患者の目に2%フルオレセインナトリウムを点眼する。フルオレセインの点眼後、患者の頭部を細隙灯下に置き、治験担当医が、コバルトブルー照明下で目を検査する。患者にまばたきを3回行なうよう指示し、3回目のまばたき後、ノーマルアパチャー(normal aperture)において目を開けたままにする。
【0124】
3回目のまばたき後、目を開けたときにストップウォッチをスタートさせ、治験担当医が、拡延し始めた涙液膜の破壊領域を特定したときにストップする。涙液膜の破壊領域は、破壊していなければ融合性の外観である涙液膜内の黒い空隙によって特定可能である。試験中、目をビデオテープに録画する。
【0125】
管理有害環境(CAE)チャンバに曝露された被験体のドライアイの臨床症状の処置における0.8%HPMC眼科用液剤(8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);8.0mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.15mg/mlのエデト酸ナトリウム,USP;水酸化ナトリウム、5Nまたは塩酸、pHを7.4に調整するための5N;および精製水,USP(QS〜1ml))(本明細書において「AC−111」と表示する)の安全性と有効性を評価するため、単一施設二重盲検無作為化ビヒクル比較対照試験を行なった。特に、涙液膜破壊時間(TFBUT)に対する効果を評価した。CAEは、湿度が低レベルに制御され、温度、風の流れ、照明および目を使う作業がすべて制御されるチャンバである。CAEに登録される患者は、経時的に眼の不快症状を発現している患者である。このモデルにより、ドライアイおよび/または眼の過敏を処置する機能を果し得る薬剤の厳密な評価が可能になる。
【0126】
組み入れ基準:試験に参加した被験体(各処置群でN=30)は、以下の各基準を満たすことが必要とされた:
a)18歳以上である;
b)書面でのインフォームドコンセントに同意する意思がある;
c)指示(試験評価の参加を含む)に従う能力および意思があり、試験期間中、必要とされる治験来院に出席できる;
d)各々の目においてlogMar+0.7以上の矯正視力(ETDRS)を有する;
e)各々の目においてドライアイの既往歴が報告されている;
f)過去6ヶ月に、ドライアイ症状のため人工代用涙液を使用、または使用を望んでいる;
g)少なくとも片方の目において、CAEへの曝露前に、いずれかの領域にORAスケールで≧1単位のフルオレセイン染色スコアを有する;
h)両目において、CAEに入ってから30分以内に、連続2回の読み取りで眼の不快症状スコア3+が報告されるはずである。被験体が、眼の不快症状スコア3でCAEに入った場合、被験体は、両目において、CAE曝露の30分以内に、連続2回の読み取りで眼の不快症状スコア4が記録されるはずである;
i)女性で妊娠の可能性がある人;尿試料を提出することに応じ、尿の妊娠検査が陰性である。女性は、外科処置により不妊または閉経後でない限り、妊娠の可能性があるとみなす。
【0127】
除外基準:以下の基準を満たす被験体は試験から除外した:
a)試験投薬物(1種類または複数種)の使用に対して禁忌を有する;
b)試験投薬物(1種類または複数種)その成分に対するアレルギーまたは過敏性がわかっている;
c)前部眼瞼炎を有する(これは、治験担当医の意見で、臨床的に有意および/または、おそらく試験パラメータの妨げになるとみなされている;
d)なんらかの眼感染症(細菌、ウイルスもしくは真菌)または活発な眼の炎症(すなわち、濾胞性結膜炎、虹彩炎)または耳前リンパ節炎を有する;
e)、CAE曝露の時間点0で、両目において眼の不快症状スコア4が報告されている;
f)治験来院前の1週間以内にコンタクトレンズを使用;
g)治験担当医の意見で、治験パラメータの妨げになることが予測され得るなんらかの有意な病期を有する;
h)現在妊娠中、授乳期、もしくは妊娠を計画中の女性;または妊娠検査で陽性の女性である;
i)本試験の登録前30日以内に、治験薬または治験デバイスに参加した;
j)なんらかの経表面眼科用処方薬もしくは店頭(OTC)液剤、人工涙、ゲル剤またはスクラブ剤を現在使用しており、治験期間中、このような投薬物を中断できない;
k)試験の開始の2時間前に代用涙液またはなんらかの他の眼科用投薬物を使用;
1)治験来院の30日以内にRestasis(登録商標)を使用したことがある;
m)過去30日間に、眼乾燥を引き起こすことがわかっているなんらかの投薬物を使用し、治験来院前の30日間、安定した投与レジメンで使用していなかった。
【0128】
適格被験体は、片方の目に1滴のAC−111、および隣の目に1滴のビヒクル(すなわち、HPMC成分なし)を受けた。TFBUTをCAE曝露の前と後に評価した。
【0129】
結果を図1に示す。図1に示されるように、AC−111は、CAE曝露後の涙液膜の安定性の改善において、ビヒクル対照と比べて75分間にわたって、より有効であった(すなわち、TFBUTは増大)。特に、TFBUTの増大は、CAE曝露の5分後から10分後まで統計学的に有意であった。
【0130】
TFBUTを用いて、眼保護指数(OPI)(Nally L,Ousler GW,Abelson MB.Ocular discomfort and tear film break−up in dry eye 25 patients;a correlation.IOVS 2000 41;4(ARVO Abstract);1436)が誘導され得、これは、TFBUTをまばたき間の時間(秒)(まばたき間隔、または「IBI」)で除算することにより得られる。1または1より大きいOPI(すなわち、TFBUTがIBI以上)は、涙液で保護された眼表面を示し、ドライアイの徴候または症状が最小限である。1未満のOPI(すなわち、TFBUTがIBI未満)は、保護されていない眼表面を示し、ドライアイの徴候または症状が悪化する。
【0131】
実施例4:ドライアイの臨床徴候に対する0.8%HPMCベースの人工涙液剤の効果の評価:角膜染色
以下の試験は、0.30%ケトロラク/0.80%HPMC配合剤、0.30%ケトロラク単独配合剤、およびビヒクル単独(すなわち、ケトロラクなし、HPMC成分なし)のドライアイの臨床徴候、特に角膜染色に対する効果を、3回の反復15分間負荷刺激の後、20分間の目を使う作業の負荷刺激(テレビを見る)によって誘導した管理有害環境(CAE)モデルにおいて評価する二重盲検無作為化単一施設試験(N=45,15/処置群)を示す。全試験期間は7日間とした。
【0132】
組み入れ基準:参加する被験体(N=45)は、試験への登録に適格であるために以下の要件すべてをみたすことが必要とされた:
1)18歳以上である;
2)指示(試験評価の参加を含む)に従う能力および意思があり、試験期間中、必要とされる治験来院に出席できる;
1)各々の目においてlogMar+0.7以上の矯正視力(ETDRS)を有する;
2)各々の目においてドライアイの既往歴が報告されている;
3)1回目の治験来院時、CAE前の涙液膜破壊のビデオ評価による等級分類で、両目において涙液膜破壊重症度スコア2以上を有する;
4)過去6ヶ月以内にドライアイ症状のために目薬使用の既往歴を有するか、または使用を望んでいる;
5)1回目の来院時、CAEへの曝露前に少なくとも片方の目において染色スコア≧1+を有する;
6)両方の来院時、両目において55mm以上のCochet Bonnetスコアを有する;
7)(女性で妊娠の可能性のある人の場合)妊娠中、授乳期、もしくは妊娠を計画中でない。妊娠の可能性のある女性は、スクリーニング時および来院終了時、尿の妊娠検査で陰性であり、試験期間中、許容され得る避妊法の使用に同意することが必要とされる。
【0133】
除外基準:被験体は、以下の基準のいずれかを満たす場合、試験の参加から除外した;
1)試験投薬物(1種類または複数種)の使用に対して禁忌を有する;
2)試験投薬物(1種類または複数種)その成分に対するアレルギーまたは過敏性がわかっている;
3)前部眼瞼炎を有する(これは、治験担当医の意見で、臨床的に有意および/または、おそらく試験パラメータの妨げになるとみなされている;
4)眼感染症(細菌、ウイルスもしくは真菌)または活発な眼の炎症(例えば、濾胞性結膜炎)がみとめられると診断された;
5)1回目の来院の1週間以内または試験過程全体を通してコンタクトレンズを装着;
6)以前にレーザー原位置角膜切開反転(LASIK)術を受けたことがある;
7)なんらかの経表面眼科用処方薬もしくは店頭(OTC)液剤、人工涙、ゲル剤またはスクラブ剤を現在使用しており、治験期間中、このような投薬物を中断できない;
8)1回目の来院の30日以内にRestasis(登録商標)を使用した;
9)治験担当医の意見で、試験測定値または被験体のコンプライアンスの妨げとなり得る全身性疾患または制御不能な疾病状態を有する;
10)現在(1回目の来院時)、眼乾燥を引き起こすことがわかっているなんらかの投薬物を使用しており、1回目の来院前の30日間、安定した投与レジメンで使用していなかった;
11)現在妊娠中、授乳期、もしくは妊娠を計画中である;
12)(妊娠の可能性のある女性の場合)1回目の来院時および来院終了時、妊娠検査のための尿試料の提出に応じない
角膜染色のベースラインレベルをCAE曝露前の適格被験体から得た。次いで、適格被験体を、CAE曝露前に、3つの処置群のうちの1つに無作為化し、無作為化した処置の用量を両目に、CAE曝露の直前に与えた。次いで、被験体を最初の15分間CAE負荷刺激期間に曝露し、角膜染色を評価した。このプロセスを第2および第3のCAE負荷刺激期間で繰り返した。2回目のCAEの15分間負荷刺激の前に両側投薬を繰り返し、角膜染色を再度評価した。このプロセスを3回めのCAE負荷刺激期間で繰り返した。
【0134】
試験の結果を図2に示す。図2に示されるように、0.3%ケトロラク/0.8%HPMC配合剤の併用により、目の3ヶ所の異なる領域で角膜染色が低減されたが、0.3%ケトロラク単独配合剤およびビヒクル単独配合剤(すなわち、ケトロラクなし、HPMC成分なし)では、ともに効果はなかった。結果は、測定した3つのすべての領域で統計学的に有意であった。したがって、角膜染色の低減は、0.8%HPMC成分(すなわち、AC−111)に0.3%ケトロラク/0.8%HPMC配合剤を併用したためであることは明白であり、AC−111がドライアイの徴候の処置に有効であることを示す。さらに、AC−111は、たった1回の投与後に角膜染色を有意に低減し得るものであり、たった3回の投与後、1日の間に累積的な有益性が示された。かかる即時の有効性は、現在入手可能な市販の涙液配合剤では、これまでに達成されていなかった。
【0135】
実施例5:
ドライアイの臨床症状の改善に対する0.88%HMPCベースの人工涙液剤の臨床有効性
以下の試験は、0.8%HPMC配合剤である0.8%HPMC眼科用液剤(8.0mg/mlのヒプロメロース,USP Type 2910(Methocel(登録商標)E4M Premium−ヒドロキシプロピルメチルセルロース);8.0mg/mlの塩化ナトリウム,USP;0.15mg/mlのエデト酸ナトリウム,USP;水酸化ナトリウム、5Nまたは塩酸、pHを7.4に調整するための5N;および精製水,USP(QS〜1ml))(本明細書において「AC−111」と称する)の効果を、QIDを用いて6週間、ドライアイと診断された患者において、ビヒクル対照(すなわち、HPMC成分なし)と比較して評価する二重盲検無作為化単一施設環境試験を示す。
【0136】
組み入れ基準:試験に参加する被験体(N=20/処置群)は、試験への登録に適格であるために以下の要件すべてをみたすことが必要とされた;
1)18歳以上である;
2)指示(試験評価の参加を含む)に従う能力および意思があり、試験期間中、必要とされる治験来院に出席できる;
3)軽度から中等度のドライアイの診断を有する;
4)過去6ヶ月以内にドライアイ症状のために目薬使用の既往歴を有するか、または使用を望んでいる;
5)Early Treatment of Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)スケールによる評価で、1回目の来院時、両目において+0.7以上の最大矯正視力(BCVA)を有する;
6)(女性で妊娠の可能性のある人の場合)妊娠中、授乳期、もしくは妊娠を計画中でない。妊娠の可能性のある女性は、スクリーニング時および来院終了時、尿の妊娠検査で陰性であり、試験期間中、許容され得る避妊法の使用に同意することが必要とされる。
【0137】
除外基準:被験体は、以下の基準のいずれかを満たす場合、試験から除外した;
1)前部眼瞼炎を有する(これは、治験担当医の意見で、臨床的に有意および/または、おそらく試験パラメータの妨げになるとみなされている;
2)眼感染症(細菌、ウイルスもしくは真菌)または活発な眼の炎症(例えば、濾胞性結膜炎)がみとめられると診断された;
3)1回目の来院の1週間以内または試験過程全体を通してコンタクトレンズを装着;
4)いずれかの来院の4時間以内になんらかの目薬を使用した;
5)以前にレーザー原位置角膜切開反転(LASIK)術を受けたことがある;
6)なんらかの経表面眼科用処方薬もしくは店頭(OTC)液剤、人工涙、ゲル剤またはスクラブ剤を現在使用しており、無作為化後、治験期間中、このような投薬物を中断できない;
7)1回目の来院の30日以内にレスタシス(登録商標)を使用した;
8)治験担当医の意見で、試験測定値または被験体のコンプライアンスの妨げとなり得る全身性疾患または制御不能な疾病状態を有する;
9)現在(1回目の来院時)、眼乾燥を引き起こすことがわかっているなんらかの投薬物を使用しており、1回目の来院前の30日間、安定した投与レジメンで使用していなかった;
10)現在妊娠中、授乳期、もしくは妊娠を計画中である;
11)(妊娠の可能性のある女性の場合)1回目の来院時および来院終了時、妊娠検査のための尿試料の提出に応じない;
12)1回目の来院の30日以内に、別の実験薬物またはデバイスを受けた
被験体は、片方の目にAC−111のQID投与、および他方の目にビヒクル(すなわち、HPMC成分なし)の投与を受けた(N=20/処置群)。
【0138】
各被験体に日記を毎日つけさせ、日記において、眼の不快症状のレベル、特に、各々の目におけるヒリヒリ感、乾燥、ザラザラ感および刺痛のレベルを、1日のうち4つの異なる時点(午前、午後、晩、就寝時)、および翌日毎朝、目覚めたときに評価および記録させた。各時点で、被験体に、各々の目のヒリヒリ感、乾燥、ザラザラ感および刺痛のレベルについて、0(重度が最も低い)〜5(重度が最も高い)のスケールに基づいた等級を尋ねた。
【0139】
図3に示されるように、AC−111はビヒクル対照よりも、ドライアイの被験体の眼の不快症状の低減において、6週間の間にわたって有効であった(図3)。また、AC−111は、1日の間の特定の時点(午前、午後、晩、就寝時、翌朝)においても、ドライアイの被験体の眼の不快症状の低減において6週間の間にわたって有効であった(6週間の間にわたる各時点での平均スコアを示す図4参照)。さらに、AC−111は、使用直後(すなわち、1日目)に眼の不快症状の量を低減することができ、継続使用により、有益性の改善が6週間の間にわたって継続した。かかる有効性は、現在入手可能な市販の涙液配合剤では、これまでに示されていなかった。
【0140】
実施例6:ドライアイの臨床症状に対する人工涙液剤の粘度の解析
眼の状況において最良の機能を果す(すなわち、粘結、凝集または他の副作用なく、最良に眼表面をコートする)粘度を特定するため、本明細書に記載の方法に従い、HMPCベースの眼科用液剤を種々の中程度から高度の粘度70cpi、90cpiおよび120cpiで製造した。
【0141】
これらの各試験配合剤(70cpi、90cpiおよび120cpi)を0.25%ケトロラクと合わせ、ドライアイの臨床徴候の処置における有効性(TFBUTおよびOPI)を、実施例3において先に記載したCAEチャンバに曝露した被験体において評価した。また、試験配合剤の副作用(例えば、眼瞼粘結性、かすみおよび快適性の低下)も、各被験体が主観的に評価した。
【0142】
70cpi配合剤での結果を図5〜9に示す。90cpi配合剤での結果を図10〜14に示す。120cpi配合剤での結果を図15〜19に示す。
【0143】
驚くべきことに、最も低い粘度(すなわち、70cpi)の試験配合剤がドライアイの臨床徴候の処置に最も有効であった。図5および6に示されるように、70cpi配合剤は、TFBUTおよびOPIの大きな増大によって示されるように、90cpi配合剤(図10と11参照)および120cpi配合剤(図15と16参照)と比べて、涙液膜の完全性の改善に対して、より大きな効果を有した。当業者であれば、最も高い粘度(すなわち、120cpi)を有する試験配合剤が涙液膜の完全性の改善においてより有効であろうと予想し得るため、このような結果は予想外であった。
【0144】
また、70cpi試験配合剤は90cpiおよび120cpi試験配合剤よりも、眼の状況に対して良好な機能を果した。図7に示されるように、70cpi試験配合剤では眼瞼粘結性は引き起こされなかったが、90cpi配合剤および120cpi配合剤では各々、点眼の5分後まで眼瞼粘結性が引き起こされた(それぞれ、図12および17参照)。同様に、70cpi試験配合剤では、90cpi配合剤および120cpi配合剤よりも、目が60分間にわたってより快適であった(図9、14および19参照)。
【0145】
このような結果は、当該技術分野で知られた従来の人工涙の液剤よりも良好に眼表面がコートし(すなわち、凝集または粘結がない)、種々の粘度の従来の人工涙配合剤と比べて眼表面上での保持時間の増大をもたらし、それにより、涙液膜の完全性を増強し、眼表面の保護(例えば、涙液膜破壊時間および眼保護指数の増大によって示される)をもたらす至適粘度範囲が存在することを示す。本明細書において示したように、70cpi配合剤は、ドライアイの臨床徴候の処置に、より有効であり、眼の状況において、より良好な機能を果した(すなわち、より良好な眼表面のコート、およびよりよい快適性)。90cpi以上の粘度を有する配合剤は、ドライアイの臨床徴候の処置にあまり有効でなく、眼のかすみが引き起こされ、目の快適性が低かった。このような結果は、70cpi〜90cpi未満(例えば、70cpi〜88cpi)の範囲の粘度を有する人工涙の液剤が眼表面のコートに最適であり、それにより、ドライアイが処置されることを示す。
【0146】
参考文献
本明細書において挙げた刊行物および特許はすべて、引用によりその全体が、あたかも個々の各刊行物または特許が具体的に個々に示されて引用により組み込まれているかのごとく、本明細書に組み込まれる。矛盾する場合は、本出願書類(例えば、本明細書における任意の定義)に支配される。
【0147】
均等物
当業者には、本明細書に記載の本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物が認識され、常套的な範囲内の実験手法を用いて確認することができよう。主題の発明の具体的な実施形態について論考したが、上記の説明は例示的であって限定的でない。当業者には、本説明を検討すると本発明の多くの変形例が自明となろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲を、均等物の全範囲および本説明と合わせて、かかる変形例と合わせて参照することによって決定されるべきである。かかる均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む液剤基剤を少なくとも85℃まで加熱すること;該液剤基剤を1分あたり少なくとも10回転の速度で混合すること;ヒプロメロースを少なくとも0.1g/分の速度で、目標粘度が達成されるまで添加することを含み、該目標粘度が約70〜88cpiである、点眼用眼科用配合剤の作製方法。
【請求項2】
さらに、NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClからなる群より選択される3種類以上の等張化剤を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記等張化剤が、約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で添加される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、クエン酸バッファー、ならびにその組合せおよび混合物からなる群より選択されるバッファー系を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
a.水を含む液剤基剤を少なくとも85℃まで加熱すること;
b.該液剤基剤を1分あたり少なくとも10回転の速度で混合すること;
c.ヒプロメロースを少なくとも0.1g/分の速度で、目標粘度が達成されるまで添加すること、ここで、該目標粘度は約70〜88cpiである;
d.NaCl、KCl、ZnCl、CaCl、およびMgClからなる群より選択される3種類以上の等張化剤を添加すること、ここで、該3種類以上の等張化剤は、約260〜約300mOsm/kgの重量オスモル濃度範囲をもたらす比率で添加される;ならびに
e.ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、クエン酸バッファー、ならびにその組合せおよび混合物からなる群より選択されるバッファー系を添加すること
を含む方法によって製造される点眼用眼科用配合剤。
【請求項6】
8.0mg/mlのヒプロメロース、8.0mg/mlの塩化ナトリウム、および0.15mg/mlのエデト酸二ナトリウムを含み、pHが7.4であり、そして粘度が70〜88cpiである、眼科用配合剤。
【請求項7】
8.0mg/mlのヒプロメロース、10mg/mlのグリセリン、4.8mg/mlの塩化ナトリウム、0.8mg/mlの塩化カリウム、0.08mg/mlの塩化カルシウム、0.05mg/mlの塩化マグネシウム、および1.7mg/mlのクエン酸ナトリウムを含み、pHが7.4であり、そして粘度が70〜88cpiである、眼科用配合剤。
【請求項8】
単位用量の投与のためのものである、請求項7に記載の眼科用配合剤。
【請求項9】
8.0mg/mlのヒプロメロース、10mg/mlのグリセリン、4.8mg/mlの塩化ナトリウム、0.8mg/mlの塩化カリウム、0.08mg/mlの塩化カルシウム、0.05mg/mlの塩化マグネシウム、5.0mg/mlのホウ酸、1.0mg/mlのソルビン酸、および1.0mg/mlのエデト酸二ナトリウムを含み、pHが7.4であり、そして粘度が70〜88cpiである、眼科用配合剤。
【請求項10】
複数回用量の投与のためのものである、請求項9に記載の眼科用配合剤。
【請求項11】
ドライアイの徴候および症状の処置方法であって、処置を必要とする被験体の目に請求項1、6、7または9いずれか1項に記載の眼科用配合剤を局所投与することを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2012−528888(P2012−528888A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514177(P2012−514177)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/037423
【国際公開番号】WO2010/141831
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(508221866)アーシエックス セラピューティックス, インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】