説明

眼鏡レンズの製造方法

【課題】膜厚の面内均一性に優れた機能性膜を有する眼鏡レンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】レンズ基材上に塗布液を塗布して機能性膜を形成することを含む眼鏡レンズの製造方法。前記塗布液の塗布をスピンコートにより行うこと、ならびに、前記塗布液として、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分を含み、かつ必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含む硬化性組成物を使用すること、を特徴とする前記眼鏡レンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは膜厚の面内均一性に優れる機能性膜を有する眼鏡レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズは、一般に、レンズ基材により所望の屈折率を実現した上で、基材上に設けられる機能性層により各種性能(調光性能、反射防止能、耐久性向上等)が付与される(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−128422号公報
【特許文献2】特開2010−128423号公報
【特許文献3】特公昭63−37142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズ基材上に機能性膜を有する眼鏡レンズでは、干渉縞の発生による外観不良という課題がある。特許文献1および2に記載されているように、干渉縞の原因としてはレンズ基材と機能性膜との屈折率差および機能性膜の膜厚ムラが挙げられる。
【0005】
特許文献3には、ハードコート層に無機酸化物粒子を添加し、ハードコート層の屈折率をレンズ基材の屈折率に近づけることで干渉縞の発生を抑制することが提案されているが、かかる無機酸化物粒子は一般に高価である。したがって、コスト増を回避するためには、機能性膜の膜厚ムラを低減することで、干渉縞の発生を抑制できることが望ましい。
【0006】
そこで本発明の目的は、膜厚の面内均一性に優れた機能性膜を有する眼鏡レンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の新たな知見を得るに至った。
機能性膜の形成方法としては、蒸着法、スパッタ法等の成膜法とともに、スピンコート法、ディップコート法といった塗布法が広く用いられている。塗布法では、各種材料を溶媒に添加混合して調製した塗布液をレンズ基材等の表面に塗布した後、溶媒を乾燥除去することで機能性膜が形成される。上記成膜法と塗布法とを対比すると、大規模設備を必要としない塗布法が、汎用性の点で優れている。
そこで本発明者は、塗布法により形成される機能性膜の膜厚の面内均一性を高めるための手段を見出すために相当数の試行錯誤を重ねた。その結果、スピンコート法による機能性膜形成のために、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分を含み、かつ必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含む塗布液を使用することで、機能性膜の膜厚の面内均一性を高めることができ、ひいては干渉縞の発生を抑制できることを新たに見出した。スピンコート中に塗布液の溶媒の蒸発が急速に進行すると、回転による遠心力によって塗布液が面内に均一に広がる前に膜が流動性を失うため中央部分が厚くなり、他方で膜の乾燥が過度に遅いと面内に均一に広がった塗布液に更に遠心力が加わることで周縁部に液溜まりが生じ周縁部が厚くなり、いずれにしても膜厚の面内均一性は低下する。これに対し、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分と酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒との組み合わせにより、塗布液の乾燥速度を適切に制御できることが、膜厚が均一な機能性膜を形成できる理由であると、本発明者は推察している。
本発明者は、以上の知見に基づき更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]レンズ基材上に塗布液を塗布して機能性膜を形成することを含む眼鏡レンズの製造方法であって、
前記塗布液の塗布をスピンコートにより行うこと、ならびに、
前記塗布液として、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分を含み、かつ必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含む硬化性組成物を使用すること、
を特徴とする、前記眼鏡レンズの製造方法。
[2]前記必須溶媒の沸点は、115℃以上170℃以下である[1]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[3]前記必須溶媒は、ダイアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる[1]または[2]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
[4]レンズ基材上に、二色性色素を含有する偏光層を形成し、該偏光層上に直接または他の層を介して間接的に前記機能性膜を形成する、[1]〜[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
[5]前記他の層として、前記偏光層と機能性膜との密着性を高めるプライマー層を形成することを含む、[4]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、面内の膜厚均一性に優れた機能性膜をスピンコート法によって形成することができる。これにより干渉縞の発生が抑制された、高品質な眼鏡レンズを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1と比較例1の対比結果を示す。
【図2】実施例2と比較例2の対比結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、レンズ基材上に塗布液を塗布して機能性膜を形成することを含む眼鏡レンズの製造方法に関する。本発明の眼鏡レンズの製造方法は、前記塗布液の塗布をスピンコートにより行うこと、ならびに、前記塗布液として、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分を含み、かつ必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含む硬化性組成物を使用すること、によって、面内の膜厚均一性に優れた機能性膜を形成することができる。そしてこれにより、干渉縞の発生による外観不良が低減ないし抑制された、高品質な眼鏡レンズを提供することが可能となる。
以下、本発明の眼鏡レンズの製造方法について、更に詳細に説明する。
【0012】
レンズ基材
本発明の眼鏡レンズの製造方法において、塗布液が塗布される面(被塗布面)は、レンズ基材表面であってもよく、レンズ基材上に形成された被覆層表面であってもよい。被塗布面の表面形状は、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。
【0013】
レンズ基材としては、特に限定されるものではなく、眼鏡レンズのレンズ基材に通常使用される材料、具体的にはプラスチック、無機ガラス、等からなるものを用いることができる。レンズ基材の厚さおよび直径は、特に限定されるものではないが、通常、厚さは1〜30mm程度、直径は50mm〜100mm程度である。
【0014】
機能性膜
前記機能性膜は、スピンコート法によりレンズ基材上に塗布液を塗布することで形成される。機能性膜形成用塗布液は、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分と任意に使用される公知の添加剤を溶媒へ添加することによって調製される。ここで本発明では、酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を上記塗布液の必須溶媒として使用する。後述する実施例で実証されているように上記塗布液を使用するスピンコート法によって均一な膜厚を有する機能性膜を形成することができる理由は、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分と酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒との特異的組み合わせによって、機能性膜形成用塗布液の乾燥速度を制御できることによるものである。
【0015】
機能性膜形成用塗布液の溶媒は、必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含むものであればよく、上記相対蒸発速度を示すケトン系またはエーテル系溶媒の1種または2種以上の組み合わせからなる溶媒であってもよく、上記必須溶媒と、該必須溶媒が満たす要件(上記相対蒸発速度を示すことおよびケトン系またはエーテル系溶媒であること)を満たさない他の溶媒との混合溶媒を使用してもよい。ここで他の溶媒としては、ケトン系、エーテル系に限らずアルコール系溶媒等を用いてもよい。
混合溶媒を使用する場合、塗布液の乾燥速度制御の観点から、上記相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒の含有率は20質量%以上であることが好ましい。上記必須溶媒の酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度は、塗布液の乾燥速度を適切に制御する観点から、0.10以上1.00未満であることが好ましく、0.10以上0.80以下であることがより好ましく、0.10以上0.75以下であることがより一層好ましい。
以上の点から好ましい有機溶媒としては、ダイアセトンアルコール(上記相対蒸発速度:0.15、ジアセトンアルコールとも呼ばれる。)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(上記相対蒸発速度:0.71)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(上記相対蒸発速度:0.44)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(上記相対蒸発速度:0.21)を挙げることができる。本発明において、上記相対蒸発速度とは、温度25℃、相対湿度50%RH、大気圧下で測定される値とする。また、形成される機能性膜の膜厚の均一性をより一層高めるためには、必須溶媒として使用される有機溶媒の沸点は、115℃以上170℃以下であることが好ましく、エーテル系溶媒については、120℃以上156℃以下であることがより好ましい。
【0016】
機能性膜形成用塗布液に含まれる硬化性成分の一態様は、アクリレート系化合物である。なお、本発明における「アクリレート系化合物」との語には、メタクリレート系化合物も含むものとする。また、以下の(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートを含むものとする。
【0017】
アクリレート系化合物としては、好ましくはアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物であり、より好ましくは分子中に少なくとも2個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレート化合物である。多官能アクリレート化合物は、架橋構造を形成することにより高強度の塗膜を形成することができるため、眼鏡レンズの耐久性を高めるための機能性膜(ハードコート)を形成するための硬化性成分として好適である。
【0018】
アクリレート系化合物としては、具体的には、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ペンタグリセロールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセリントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、トリス(メタクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ホスファゼン化合物のホスファゼン環にアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基が導入されたホスファゼン系アクリレート化合物またはホスファゼン系メタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるウレタンアクリレート化合物やウレタンメタクリレート化合物、分子中に少なくとも2個のカルボン酸ハロゲン化物と少なくとも1個のアクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基および水酸基を有するポリオール化合物との反応により得られるポリエステルアクリレート化合物、ポリエステルメタクリレート化合物、ならびに上記各化合物の2量体、3量体などのようなオリゴマーなどが挙げられる。
【0019】
これらの化合物はそれぞれ単独または2種以上を混合して用いることができる。なお、上記の(メタ)アクリレートの他に、硬化性組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは10.0質量%以下の、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の中から選択される少なくとも1種の単官能(メタ)アクリレートを配合してもよい。
【0020】
また、機能性膜形成用塗布液には、形成される機能性膜の硬度を調整する目的で重合性オリゴマーを添加することができる。このようなオリゴマーとしては、末端(メタ)アクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリ(メタ)アクリレート、末端(メタ)アクリレートポリスチレン、末端(メタ)アクリレートポリエチレングリコール、末端(メタ)アクリレートアクリロニトリル−スチレン共重合体、末端(メタ)アクリレートスチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体などのマクロモノマーを挙げることができる。その含有量は硬化性組成物の硬化時の固形分に対して、好ましくは5.0〜50.0質量%である。また、硬化性成分としてアクリレート系化合物を含む硬化性組成物は、公知の光重合開始剤を含むこともできる。光重合開始剤の種類および使用量は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。
【0021】
機能性膜形成用塗布液に含まれる硬化性成分の他の態様は、有機ケイ素化合物である。高硬度でありハードコートとして好適な機能性膜を形成する点から、好ましい有機ケイ素化合物としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物を挙げることもできる。
(R(RSi(OR4−(a+b) ・・・(I)
【0022】
一般式(I)中、Rは、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を表し、aおよびbはそれぞれ0または1を示す。
【0023】
で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖または分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、特開2007−077327号公報段落[0073]に記載されているものを挙げることができる。
【0024】
本発明によれば膜厚の面内均一性を高めることにより干渉縞の発生を抑制することができる。したがって干渉縞発生の抑制の点からは、本発明において屈折率調整のために機能性膜に無機酸化物粒子を添加することは必須ではない。ただし本発明において機能性膜への無機酸化物粒子の添加は排除されるものではない。特に、硬化性成分として有機ケイ素化合物を使用する場合、無機酸化物粒子は硬度向上にも寄与し得るからである。
【0025】
本発明において使用可能な無機酸化物粒子としては、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb)等の金属酸化物粒子が挙げられ、単独または2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学特性とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、機能性膜形成用塗布液における無機酸化物粒子の含有量は、通常、固形分あたり5〜80質量%程度とすることが好適である。また、上記無機酸化物粒子は、機能性膜中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0026】
機能性膜形成用塗布液は、上記成分および必要に応じて界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製することができる。塗布液中の溶媒量は、塗布液全質量を基準として、通常30〜90質量%程度であるが、塗布可能な程度の粘度を有する範囲であればよく、特に限定されるものではない。
【0027】
本発明において前記機能性膜形成用塗布液は、スピンコート法によってレンズ基材上に塗布される。回転数、回転時間等のスピンコート条件は、塗布液の固形分濃度等を考慮して適切な範囲に設定すればよい。塗布後、硬化性成分に含まれる硬化性基に応じた硬化処理(熱硬化、光硬化等)を施すことにより、レンズ基材上に機能性膜を形成することができる。通常、有機ケイ素化合物に対しては加熱により、アクリレート系化合物に対しては光照射により、硬化処理が行われる。光硬化において照射する光は、例えば電子線または紫外線であり、照射する光の種類および照射条件は、使用する硬化性成分の種類に応じて適宜選択される。形成される機能性膜の厚さは、目的に応じて設定されるものであり、例えばハードコートの場合、耐スクラッチ性の点からは0.5〜10μm程度であることが好ましい。
【0028】
前述のように、前記塗布液を塗布する被塗布面は、レンズ基材表面でもよく、レンズ基材表面に形成された被覆層表面でもよい。色素を含む被覆層を有する眼鏡レンズでは干渉縞による外観不良が顕在化しやすい傾向がある。本発明の眼鏡レンズの製造方法は、機能性膜の面内の膜厚均一性を高めることで干渉縞の発生を抑制することができるため、色素層を有する眼鏡レンズの製造方法として適用することが好ましい。色素層としては、二色性色素を含む偏光層等を挙げることができる。即ち、本発明の一態様では、レンズ基材上に、二色性色素を含有する偏光層を形成し、該偏光層上に直接または他の層を介して間接的に前記機能性膜を形成することができる。偏光層上に前記機能性膜を形成する場合、これらの密着性を高めるプライマー層を形成することも好適である。プライマー層は、接着層として機能し得る、ポリウレタン等の公知の樹脂から形成することができる。プライマー層の厚さは、密着性向上の観点から、0.5〜10μm程度とすることが好適である。
【0029】
通常、偏光層の偏光性能は、二色性色素を一軸配向させることにより発現される。このように二色性色素を一軸配向させるために、溝を有する表面上に偏光層塗布液を塗布することが広く行われている。上記溝は、基材表面に形成してもよいが、レンズ基材上に設けた配列層の表面に形成することが、二色性色素の偏光性能を良好に発現させるうえで有利である。また、プライマー層形成前の偏光層には、膜安定性を高めるために塗布液を塗布乾燥した後に非水溶化処理を施すことが好ましく、また、膜強度および安定性を高めるために二色性色素の固定化処理(色素を固定するための保護層の形成)を施すことが好ましい。この固定化処理は非水溶化処理の後に行うことが望ましい。固定化処理により、偏光膜中で二色性色素の配向状態を固定化することができる。配列層と二色性色素を含む偏光層を有する偏光レンズの詳細については、例えば特表2008−527401号公報段落[0056]〜[0100]およびその実施例、特開2009−237361号公報段落[0013]〜[0024]、[0026]〜[0036]およびその実施例に記載があり、本発明でも、上記記載に従い、配列層と偏光層を有する眼鏡レンズを製造することができる。
【0030】
本発明では、前記機能性膜の上に更なる機能性膜を形成することもできる。例えば、機能性膜として反射防止膜を形成する場合、反射防止膜としては、公知の無機酸化物よりなる単層、多層膜を使用することができる。この無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)、酸化イットリウム(Y)等が挙げられる。その形成方法は特に限定されるものではない。反射防止膜の厚さは、例えば0.1〜5μmとすることができる。また、更なる機能性膜として、撥水膜、紫外線吸収膜、赤外線吸収膜、フォトクロミック膜、帯電防止膜等も積層可能である。
【0031】
以上説明した本発明によれば、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分から形成される機能性膜の膜厚ムラを低減することができ、これにより干渉縞の発生が抑制された高品質な眼鏡レンズを提供することができる。干渉縞による外観不良のない高品質な眼鏡を得るためには、前記機能性膜のレンズ有効面(眼鏡に含まれることとなる部分の面積)における面内の膜厚バラツキが、幾何中心膜厚の10%以内であることが好ましい。即ち、例えば幾何中心膜厚が3μmの機能性膜では、レンズ有効面の各部における膜厚が3±0.3μmの範囲にあることが好ましい。前記膜厚バラつきは、幾何中心膜厚の5%以内であることがより好ましく、2%以内であることがより一層好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]偏光レンズの作製
(1)配列層の形成
レンズ基材として、ポリウレタンウレアンレンズ(HOYA株式会社製商品名フェニックス、屈折率1.53、ハードコート付き、直径70mm、ベースカーブ4、中心肉厚1.5mm)を用いて、レンズ凹面に真空蒸着法により、厚さ0.2μmのSiO膜を形成した。
形成されたSiO膜に、研磨剤含有ウレタンフォーム(研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製商品名POLIPLA203A、平均粒径0.8μmのAl23粒子、ウレタンフォーム:上記レンズの凹面の曲率とほぼ同形状)を用いて、一軸研磨加工処理を回転数350rpm、研磨圧50g/cm2の条件で30秒間施した。研磨処理を施したレンズは純水により洗浄、乾燥させた。
【0034】
(2)偏光膜の形成
レンズを乾燥後、研磨処理面上に、水溶性の二色性色素(スターリング オプティクス インク(Sterling Optics Inc)社製商品名Varilight solution 2S)の約5質量%水溶液2〜3gを用いてスピンコートを施し、偏光膜を形成した。スピンコートは、色素水溶液を回転数300rpmで供給し、8秒間保持、次に回転数400rpmで45秒間保持、さらに1000rpmで12秒間保持することで行った。
次いで、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き上げ、純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される(非水溶化処理)。
【0035】
(3)固定化処理
上記(2)の後、レンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬し、その後純水で3回洗浄し、加熱炉内(炉内温度85℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
上記冷却後、レンズをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した。上記固定化処理後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
以上の処理後、形成された偏光膜の厚さは、約1μmであった。
【0036】
(4)プライマー層の形成
上記冷却処理後の偏光膜表面に、スピンコート法により、水系ポリウレタン樹脂組成物を塗布した。スピンコートは、上記組成物を偏光膜上に回転数100rpmで供給し、10秒間保持、次に回転数400rpmで10秒間保持、さらに1000rpmで30秒間保持することで行った。
スピンコート後、レンズを加熱炉(炉内温度60℃)で30分間乾燥処理し水分を除去することによって、偏光膜上にプライマー層を形成した。形成されたプライマー層の厚さは、0.30μmであった。
【0037】
(5)アクリル系ハードコートの形成
上記(4)の処理を施したレンズにジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬製KAYARAD DPHA)1000質量部、ダイアセトンアルコール3000質量部、光重合開始剤(チバジャパン製Irgacure819)30質量部を混合した塗布液をスピンコート(1000rpmで、30秒保持)により塗布した。塗布後、紫外線照射装置によりUV照射光量1200mJ/cm2で硬化しアクリル系ハードコートを得た。
【0038】
[比較例1]
アクリル系ハードコート形成用塗布液の溶媒として、イソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒3000質量部を使用した点を除き、実施例1と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0039】
[実施例2]
以下の方法でハードコートを形成した点を除き、実施例1と同様の方法で偏光レンズを作製した。
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、ダイアセトンアルコール30質量部、および、水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15nm)28質量部を加え充分に混合し、5℃で24時間攪拌を行った。次に、ダイアセトンアルコール15質量部、シリコ−ン系界面活性剤0.05質量部、および、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネ−トを1.5質量部加え、充分に撹拌した後、濾過を行ってハードコ−ティング液(ハードコート組成物)を調製した。このコ−ティング液のpHは、およそ5.5であった。
上記(4)の処理を施したレンズのプライマー層表面に、調製したハードコーティング組成物をスピンコート(1000rpmで、30秒保持)により塗布した後、100℃、60分加熱硬化することでハードコートを形成した。
【0040】
[比較例2]
実施例2において、ダイアセトンアルコールに代えてイソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒を使用した点を除き、実施例2と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0041】
評価方法
(1)膜厚の面内均一性評価
光干渉式膜厚測定器により、実施例1、2、比較例1、2で作製した偏光レンズのハードコートの膜厚を、レンズ幾何中心と、幾何中心を通る仮想直線上の12点の合計13点で測定した。
(2)干渉縞の発生有無
実施例1、2、比較例1、2で作製した偏光レンズを暗所で高輝度光を照射してデジタルカメラ撮影した。
【0042】
以上の結果を、図1、2に示す。
【0043】
図1に示すように、アクリレート系化合物とダイアセトンアルコールを含む塗布液を用いてハードコートを形成した実施例1では、ダイアセトンアルコールに代えてイソプロピルアルコールと1−ブタノールとの混合溶媒を使用した比較例1と比べてハードコートの膜厚バラつきは小さく、均一な膜厚を有するハードコートを形成することができた。
また、図2に示すように、有機ケイ素化合物とダイアセトンアルコールを含む塗布液を用いてハードコートを形成した実施例2でも、ダイアセトンアルコールに代えてイソプロピルアルコールと1−ブタノールとの混合溶媒を使用した比較例2と比べてハードコートの膜厚バラつきは小さく、均一な膜厚を有するハードコートを形成することができた。
図1、図2に示すように、ハードコート面内で膜厚バラつきが大きかった比較例1、2では干渉縞が確認されたのに対し、実施例1、2の眼鏡レンズは干渉縞が確認されず、外観良好であったことから、ハードコートの膜厚の面内均一性を高めることで、干渉縞の発生を抑制できることも確認された。
【0044】
比較例1、2では、周縁部の膜厚が厚くなっていることから、ハードコート形成用塗布液の乾燥が遅く液溜まりが発生したことが、膜厚ムラ発生の原因であることが確認できる。
一方、比較例1、2で使用した有機溶媒の蒸発速度は実施例1、2で使用したダイアセトンアルコールの蒸発速度より大きい(下記表1参照)。有機溶媒の蒸発速度のみに着目すれば、比較例1、2で使用した塗布液の乾燥速度は実施例1、2で使用した塗布液の乾燥速度よりも速くなり、したがって周縁部の液溜まりよりも、むしろ中心肉厚が厚くなる現象が発生することが予想される。しかし予想される結果とは逆の結果が得られたことから、有機溶媒の蒸発速度のみが影響しているのではなく、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分とダイアセトンアルコールとの組み合わせにより、特異的に膜厚ムラの低減効果が得られたことがわかる。
【0045】
【表1】

【0046】
[実施例3]
ダイアセトンアルコールに代えて、ダイアセトンアルコールとプロピレングリコールモノメチルエーテル(相対蒸発速度:0.71)との6:4(質量比)混合溶媒を使用した点を除き、実施例1と同様の方法で偏光レンズを得た。
【0047】
[実施例4]
ダイアセトンアルコールに代えて、ダイアセトンアルコールとプロピレングリコールモノメチルエーテル(相対蒸発速度:0.71)との6:4(質量比)混合溶媒を使用した点を除き、実施例2と同様の方法で偏光レンズを得た。
【0048】
[実施例5]
アクリル系ハードコート形成用塗布液の溶媒として、イソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒3000質量部に代えて、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.44)の3:1(質量比)混合溶媒3000質量部を使用した点を除き、比較例1と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0049】
[実施例6]
イソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒に代えて、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.44)の3:1(質量比)混合溶媒を使用した点を除き、比較例2と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0050】
[実施例7]
アクリル系ハードコート形成用塗布液の溶媒として、イソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒3000質量部に代えて、イソプロピルアルコール、ダイアセトンアルコールの3:1(質量比)混合溶媒3000質量部を使用した点を除き、比較例1と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0051】
[実施例8]
イソプロピルアルコール、1−ブタノールの3:1(質量比)混合溶媒に代えて、イソプロピルアルコール、ダイアセトンアルコールの3:1(質量比)混合溶媒を使用した点を除き、比較例2と同様の方法で偏光レンズを作製した。
【0052】
実施例3〜8で作製した偏光レンズについて、上記実施例と同様に膜厚の面内均一性評価を行ったところ、実施例1、2と比べて膜厚バラつきはわずかに大きかったが比較例1、2よりは大幅に小さく、バラつきは幾何中心膜厚の5%以内であった。
【0053】
実施例5、6で使用したプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.44)は、比較例1、2で使用した1−ブタノール(相対蒸発速度:0.47)と同等の蒸発速度を示すものであるが、上記のように膜厚均一性について大きな違いが生じた。この結果は、相対蒸発速度1.00未満であっても、アルコール系溶媒では膜厚ムラの低減効果は得られず、相対蒸発速度が1.00未満のエーテル系溶媒であるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを使用することで、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分との組み合わせにより、特異的に膜厚ムラの低減効果が得られたことを示すものである。
【0054】
[実施例9]
ダイアセトンアルコールに代えて、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(相対蒸発速度:0.21)を使用した点を除き、実施例2と同様の方法で偏光レンズを得たところ、実施例2と同様に均一な膜厚を有するハードコートを形成することができた。
【0055】
上記実施例において使用した溶媒の沸点を、下記表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
以上説明した実施例では、ハードコートの形成を、室温および大気圧下で湿度制御なしに行ったが、ハードコートの形成を行う雰囲気を、加熱または冷却すること、加湿または減湿すること、および、加圧または減圧すること、を任意に組み合わせて行うことも、可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材上に塗布液を塗布して機能性膜を形成することを含む眼鏡レンズの製造方法であって、
前記塗布液の塗布をスピンコートにより行うこと、ならびに、
前記塗布液として、有機ケイ素化合物およびアクリレート系化合物からなる群から選択される硬化性成分を含み、かつ必須溶媒として酢酸ブチルの蒸発速度を1.00としたときの相対蒸発速度が1.00未満のケトン系またはエーテル系溶媒を含む硬化性組成物を使用すること、
を特徴とする、前記眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記必須溶媒の沸点は、115℃以上170℃以下である請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記必須溶媒は、ダイアセトンアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、およびエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートからなる群から選ばれる請求項1または2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
レンズ基材上に、二色性色素を含有する偏光層を形成し、該偏光層上に直接または他の層を介して間接的に前記機能性膜を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記他の層として、前記偏光層と機能性膜との密着性を高めるプライマー層を形成することを含む、請求項4に記載の眼鏡レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−11874(P2013−11874A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−120410(P2012−120410)
【出願日】平成24年5月28日(2012.5.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】