説明

着色された支台築造用フォーマー

【課題】内包される支台築造用レジンが光硬化性であった場合にもその硬化を阻害せず、かつ術者が適切なものを容易に選択することが可能な支台築造用フォーマーを提供すること。
【解決手段】支台築造用フォーマーを、支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率が30%以上、好適には50%以上の色調に着色することにより、支台築造用レジンが光硬化性を有する場合にも、その硬化性を阻害することなく、容易に見分けることが可能なものにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支台築造用光硬化性レジンを用いて支台を築造するに際し使用する支台築造用フォーマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用補綴物を残存歯に固定するに際し、該残存歯が略完全な形状として残っている場合、術者がタービンなどで截頭円錐形状に近似した形状に削り出して、支台として使用している。他方、残存歯が歯根部のみしか存在しない場合には、これを上記の如くに支台として使用するためには、該歯根部に、金属製材料から成る金属ポストや、ファイバーポスト(樹脂を含浸させたガラスファイバー)等の歯科用ポストを植立し、次いで、その歯根部の咬合面側に、支台築造用レジンを、截頭円錐形状に近似した形状に築盛し、これを硬化させることにより支台を築造するのが一般的である。ここで、上記支台築造用レジンとしては、良好な操作性から光重合開始剤を含有した光硬化性レジンが使用されるのが一般的であり、さらに、該光重合開始剤としては、口腔内での使用を考慮して生体に害を生じる恐れのある紫外光等ではなく、通常は可視光領域の光線により重合が開始するものが使用されている。
【0003】
ところで、上記支台の築造方法において、支台築造用光硬化性レジンを、截頭円錐形状に近似した形状に築盛している理由は、これに歯科用補綴物を咬合面側から装着させる際に、操作がし易く、且つ適合もさせ易いからである。支台築造用光硬化性レジンを、前記截頭円錐形状に築盛するためには、シリンジから直接に充填した後、手用器具により形を整えなければならず、この場合、築盛の過程で支台築造用光硬化性レジンが変形し易いため、少しずつ築盛してその都度硬化させて、作業を進めたりしなければならず、作業が大変面倒であった。
【0004】
こうした状況にあって、築造する支台の形状(截頭円錐形状に近似した形状)に略合致させた形状の合成樹脂製カップからなる支台築造用フォーマーを用いる、支台の築造方法が提案されている(特許文献1)。すなわち、この方法は、図3に示すように、前記支台築造用フォーマー1の内空部に、支台築造用光硬化性レジン2を注入し、この状態で、支台を築造しようとする残存歯3に、その咬合面側から被せて、カップの上方から可視光を照射することにより該注入された光硬化性レジン2を硬化させることにより支台を築造する方法であり、簡単な操作で、求める形状の支台を確実に製造することが可能であり大変優れている。
【0005】
この支台築造用フォーマーは、前記の如くに形状が截頭円錐形状に近似したものであるが、この形状は、一つに定まったものではなく、歯牙の様々な形態に対応させて、微妙に形状が異なる複数種が用意されてセット化されているのが普通である。
【0006】
【特許文献1】特開2003−305059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記歯牙の形態に応じて、異なる形状の複数種のセットとして使用されている、支台築造用フォーマーにおいて、互いの形状の相違は微差であり、これを一見しただけで見分けて、求めているものを取り出すことは、困難性が高い。このため、通常は該支台築造用フォーマーの一部に番号を付す等して見分けが付くようにしてある。しかしながら、これも個々のフォーマーを注視して慎重に選択する必要があり、正確で手際良い操作を要求される支台築造の臨床においては術者に大きなストレスを与えていた。
【0008】
したがって、前記支台築造用フォーマーにおいて、治療する歯牙の形状に応じて、所望する形状のものを、簡単に見分けて取り出せるものを開発することが、強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究した結果、支台築造用フォーマーを形状に応じて固有の色に着色してなり、しかも、この着色の色を、内空部に注入する支台築造用光硬化性レジンの光硬化反応を妨げない色に工夫することにより、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、歯科用補綴物を残存歯に固定するための支台を、励起波長が可視光領域である光重合開始剤を含有した支台築造用光硬化性レジンを用いて築造する際に使用する、該支台の形状に略合致した形状の合成樹脂製カップからなる支台築造用フォーマーであって、異形状の他の支台築造用フォーマーとの選別を容易にするために着色されてなり、該着色が、上記支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率が30%以上になる状態になされていることを特徴とする支台築造用フォーマーである。
【0011】
また、本発明は、支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の主成分がカンファーキノンであり、着色が、470nmの波長の光線の光線透過率が30%以上になる状態になされている上記支台築造用フォーマーも提供する。
【0012】
また、本発明は、着色が、上記支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の±30nmに、極大吸収波長が存在しない色によりなされている上記支台築造用フォーマーも提供する。
【0013】
さらに、本発明は、上記支台築造用フォーマーであって、形状の違いにより、色が異なる複数個が収蔵されてなる支台築造用フォーマーセットも提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の支台築造用フォーマーは、その形状に応じて固有の色に着色してあるため、異形状のものとの見分けが容易であり、治療する歯牙の形状に応じて最適の形状のものを、簡単に取り出すことができる。しかも、このように着色されているにも関わらず、その色が、内空部に注入させる支台築造用光硬化性レジンの光硬化反応を妨げない色に工夫されているため、該光硬化性レジンは良好に硬化する。
【0015】
したがって、本発明の支台築造用フォーマーによれば、支台築造用光硬化性レジンを用いて支台を築造するに際して、正確で手際良い操作を可能にし、患者・術者共に負担を少なくでき極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において支台築造用フォーマーとは、クラウンやブリッジ等の歯冠補綴物を残存歯に固定するための支台を、励起波長が可視光領域である光重合開始剤を含有した支台築造用光硬化性レジンを用いて築造する際に使用する、該支台の形状に略合致した形状の合成樹脂製カップからなる部材である。上記支台の形状に略合致した形状とは、通常は、截頭円錐形状に近似した形状である。フォーマーを形成する合成樹脂製カップの壁の厚みは、通常は、0.05〜2mmである。
【0017】
ここで、合成樹脂製カップを形成する合成樹脂は、特に限定されず公知の樹脂を採用可能であるが、透明性の良好なものが好ましい。例を示すならばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブチレン等のオレフィン系ポリマー及びその共重合体、ポリメチルメタクリレート等に代表されるポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系ポリマー及びその共重合体,ポリスチレン,ポリ(アクリロニトリル−スチレン),ポリ(ブタジエン−スチレン),ABSポリマー等のスチレン系ポリマー,ポリ酢酸ビニル,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリ塩素化塩化ビニル等のビニル系ポリマー及びその共重合体,ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610,ナイロン612,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン46等のアミド系ポリマー,ポリエチレンテレフタレート等の不飽和ポリエステル樹脂,テレフタル酸ジメチル、1,4−ブタンジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールを原料とし、エステル交換や重縮合反応で製造する熱可塑性エラストマー,ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー及びその共重合体、その他ポリカーボネート,ポリアセタール、ポリエーテルスルホン,ポリフェニレンオキサイド,ポリフェニレンスルファイド,ポリスルホンとその共重合体等が好ましく使用できる。これらは、柔軟なエラストマーと称されるものであるのが、好ましい。
【0018】
中でも、オレフィン系ポリマーまたはその共重合体は、生体に対する安全性や素材の透明性、柔軟性の特性が本発明の用途に最適であり、特に好ましい。
【0019】
合成樹脂製カップの形状は、治療対象とする歯牙の形態に応じて、微妙に形状が異なるものが多数に存在する。例えば、中切歯、側切歯、犬歯用のフォーマーであれば、図1の断面図のような形状であり、小臼歯、大臼歯用のフォーマーであれば、図2の断面図のような形状である。これらは、使用される歯牙の形状に応じて異形状の数種類を組合せてセットとして扱われるのが一般的である。
【0020】
上記形状に関しては、特に限定されるものではないが、例えば図2に示す形状のフォーマーであれば、歯肉と接する部分にテーパーを有し、咬合面の中央に把持部を有しているものが好ましい。
【0021】
本発明において、この支台築造用フォーマーは、その形状に応じて固有の色に着色してある。したがって、上記数種類を組合せてセット化した場合など、複数の異形状のものが混存する際にも、所望の形状のものを簡単に見分けて取り出すことができ、より確実な支台築造の臨床に貢献することができる。なお、支台築造用フォーマーをセットとした場合、他の支台築造用フォーマーが着色されていれば見分けが着くため、そのうちの一つは着色をされていないものとすることも可能である。
【0022】
本発明の最大の特徴は、上記フォーマーの着色が、支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率が30%以上になる状態になされている点にある。すなわち、支台築造用フォーマーを目視により見分けがつくように着色した場合、通常は可視光領域に吸収を持つこととなり、光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長に相当する光線も吸収してしまうことになる。この場合、支台築造用光硬化性レジンの光重合が大きく阻害されることとなる。
【0023】
これに対して、本発明のフォーマーは、上記の如くに光重合開始剤の励起波長の光線の吸収は低く抑えられた色により着色されているため、その内空部に、支台築造用光硬化性レジンを注入し、これを、支台を形成しようとする残存歯に被せて光照射した場合において、該光重合開始剤の励起波長の光線は良好にフォーマーを透過することになる。その結果、該光線は、支台築造用光硬化性レジンに十分に到達し、光硬化反応は妨げなく活発に進行し、高強度な支台が築造される。
【0024】
本発明において、上記支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の光線とは、光を吸収して励起する光重合開始剤成分の可視光吸収スペクトルにおける、極大の吸収を有する波長の光線を言う。光を吸収して励起する成分が複数配合されている場合であれば、その混合物として極大の吸収になる波長になる。こうした光重合開始剤の励起波長の測定は、該光重合開始剤をアセトニトリル、エタノール等の有機溶媒等に溶解させて溶液を作製し、可視紫外分光硬度計により測定して求めれば良い。
【0025】
また、光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率とは、フォーマーから切り開いて採取した試験片に、上記波長の光線を照射して、その入射光量と該試験片を通った光量との比を百分率で示したものであり、一般的に可視紫外分光光度計などにより測定される値である。本発明では、該光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率は30%以上であれば良いが、50%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのが最も好ましい。
【0026】
支台築造用光硬化性レジンにおいて、含有される光重合開始剤は、励起波長が470nmであるカンファーキノンを主成分とするものが多い。すなわち、上記カンファーキノンを単独で用いたり、これに、還元剤である第三級アミン類等の光重合の重合促進剤と組み合わせたり、さらにトリアジン化合物やヨードニウム塩等の補助的な促進剤と組合せて用いられていることが多い。この場合、本発明の支台築造用フォーマーでは、該470nmの光線の光線透過率が30%以上であれば良いことになる。
【0027】
この他、光重合開始剤としては、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステル(励起波長390nm)、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(励起波長310nm)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1(励起波長320nm)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(励起波長370nm)、ビス(シクロペンタジエニル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(ピル−1−イル)フェニル)チタニウム(励起波長400nm)、2,4,6-トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(励起波長390nm)、等も良好に使用される。
【0028】
また、本発明で用いられる支台築造用光硬化性レジンには、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ等に代表される化学重合開始剤をさらに配合し、デュアルキュアタイプとしたものも好適に採用することが可能である。
【0029】
支台築造用フォーマーの着色は、前記光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率が30%以上である要件の他に、該光重合開始剤の励起波長の±30nmに、極大吸収波長が存在しない色であるのが、より好ましい。すなわち、上記光重合開始剤の励起波長の近傍波長領域に極大吸収波長を有する色では、該光重合開始剤の励起波長の光線の吸収率を本発明が規定する如くに低く抑えるためには、この極大吸収波長の光線も相応に低い吸収率に抑えなければ満足することが難しくなり、この場合、フォーマーの着色が薄色になり、該フォーマーの選別性が低下する虞がある。上記極大吸収波長が存在しない波長の範囲は、光重合開始剤の励起波長の±50nmであるのが更に好ましく、±100nmであるのが特に好ましい。
【0030】
光重合開始剤が前記したカンファーキノンを主成分とする場合、着色は、例えば、該極大吸収波長が625nm付近である青色や、650nm付近である青緑等に着色して、本発明を実現するのが実際的である。また、こうした支台築造用フォーマーの着色は、JIS Z 8729に基づいて測定したaおよびbが下記式を満たすことで目視により明瞭に識別出来、好ましい。
=(a*2+b*21/2 >2(より好ましくは>10) ・・・(1)
ここでa、bは、クロマティクネス指数と呼ばれ、視覚的にほぼ均等な歩度を持つ三次元色空間における座標で、それぞれ、aは赤味を示し、bは黄色味を示す。aの値が大きくなると赤味が増し、値が負になると緑味を増す。bの値が大きくなると黄色味が増す、値が負になると青味を増す。従って色の濃さはa、bの値に依存し、通常下記式で示されるc(彩度)が高いほど色が濃いとされる。
【0031】
なお、上記支台築造用フォーマーの着色は、必ずしもフォーマーの全体に施さなくてもよいが、視認のし易さからは、表面積の50%以上が着色されているのが好ましく、さらには80%以上が着色されているのがより好ましい。
【0032】
本発明において、このようなフォーマーの着色は、顔料或いは染料と呼ばれる着色剤により実施すればよい。中でも、色調の安定性の観点から、顔料を用いることが好ましい。
【0033】
用いる顔料は、使用する支台築造用光硬化性レジンに含まれる光重合開始剤との関係で、本発明で規定する要件を満足する色を調整するために、単独でまたは2種以上を組合せて使用すればよい。具体的には、モノアゾレーキ系,モノアゾ系,ジスアゾ系,縮合アゾ系,金属錯塩アゾ系等のアゾ系顔料、銅フタロシアニンブルー,銅フタロシアニングリーン,臭素化銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系、酸性染料レーキ,塩基性染料レーキ等の染付系顔料、アンスラキノン,チオインジゴ,ベリノン,ベリレン,キナクリドン,ジオキサジン,イソインドリノン,キノフタロン,イソインドリン,ピロール等の縮合多環系顔料、ベンズイミザゾロン系顔料、金属錯塩アゾメチン、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、硫化亜鉛、亜鉛華、硫酸バリウム、カドミウムイエロー、黄鉛、モリブデートオレンジ、カドミウムレッド、酸化鉄、群青、ビスマスバナデート、酸化セリウム、弁柄、コバルトブルー、カーボンブラック等の無機顔料等から適宜選択すれば良い。
【0034】
また、これらの顔料の配合量は、本発明の前記要件を満足する量で任意に決定すれば良い。
【0035】
本発明の支台築造用フォーマーの製造方法は、特に限定されるものではなく公知の樹脂成形方法がなんら制限なく採用可能であるが、例えば射出成形や削り出し等が好適である。中でも、射出成形は、成形の正確さや迅速さの観点から特に好ましい。
【0036】
本発明の支台築造用フォーマーの使用方法について、図3および図4により説明する。なお、咬合面側に支台を築造される残存歯3は、図3に示す如くその咬合面側に支台の一部となり得る部分が存在する場合と、図4に示す如く根管拡大された歯根部のみから成る場合とがある。
【0037】
本発明の支台築造用フォーマーを用いて残存歯3の咬合面側に支台を築造するには、先ずその合成樹脂製カップの端縁を支台歯近辺歯肉に近接するように歯の形状に合わせた支台築造用フォーマーを、その色により形状を判断して選択する。この選択した支台築造用フォーマーは、必要により予め形成する支台の高さに合わせてトリミングしておくのが好ましい。
【0038】
次いで、残存歯3が図3に示す如くその咬合面側に支台の一部となり得る部分が存在する場合には、支台築造用フォーマー1内に支台築造用光硬化性レジン2を注入した後、支台を築造しようとする残存歯3の支台に近似した形状部分に咬合面側から被せるように位置させて押し付ける。マージン部から余分な支台築造用光硬化性レジン2が流出した場合、その流出したレジン2を拭い去った後に、支台築造用フォーマー1の上方から光照射し、カップ内の支台築造用光硬化性レジン2を光硬化させる。
【0039】
このようにして支台築造用光硬化性レジン2を硬化させた後、支台築造用フォーマー1を、該支台築造用光硬化性レジン2の硬化物から引き剥がす。しかる後に、必要に応じて支台築造用光硬化性レジン1をダイヤモンドポイントなどの切削用具を用いて形状を整えることにより、支台築造を完了させることができる。
【0040】
一方、残存歯3が図4に示す如く根管拡大された歯根部のみから成る場合には、次のようにして、支台を形成させれば良い。すなわち、残存歯3の根管内に支台築造用光硬化性レジン2を注入充填しておき、必要に応じてポスト7を上記根管形成部に注入充填した支台築造用光硬化性レジン2に挿入し、仮固定した後、内空に支台築造用光硬化性レジン2を注入した支台築造用フォーマー1を、該残存歯3に咬合面側から被せるように押し付ける。そして、この支台築造用フォーマー1内の支台築造用光硬化性レジン2を前記と同様にして光硬化させ、同様の後処理を施せば良い。
【0041】
なお、これらの支台築造において、支台築造用フォーマー1内の支台築造用光硬化性レジン2を光硬化させる際には、硬化が完了するまでは支台築造用フォーマー1を所定位置から移動しないようにしっかりと固定しておくことが好適である。そのためには、図4に示されるように、支台築造用フォーマー1のカップ底面の所定位置に、把持部4を突出させて形成させておくのが効果的である。この把持部4を、図5に示した、先端に該把持部4を挿入して係合する係合凹部5が設けられた把持棒6等で把持することにより、支台築造用フォーマー1を残存歯3に軽く押し付けることができ、上記支台築造用フォーマー1の確実なる固定が容易になる。もちろん、図3に示される、支台築造用フォーマー1のように、こうした把持部4を、カップ底面に形成しない場合は、該カップ底面を、歯科用手袋を嵌めた手やピンセット等の手用器具等により押圧して、該支台築造用フォーマー1を残存歯3に軽く押し付けて、光硬化を実施すればよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。なお、物性値の測定は以下の方法に従って行なった。
〔可視域の吸収スペクトル〕
可視域の吸収スペクトルは、可視紫外測定装置(日立計測器サービス株式会社製;U−3210)を用いて測定し、何もサンプルを置かない場合の測定値を100%として、試料のフォーマーを鋏で切り開いたものの平坦部について、各波長における光線透過率を測定した。光源をD2とし、380nmから800nmの範囲を毎分600nmの速度でスキャンした。
〔フォーマーの色調〕
フォーマーの色調は、下記の方法によりa、bの測定を行った。即ち、試料のフォーマーを鋏で切り開いたものの平坦部について、色差計(東京電色社製、TC−1800MKII)を用いて、白背景をバックにしJIS Z 8729に従って、a、bを測定した。
〔硬化深度〕
支台築造用光硬化性レジンを直径4mmの孔を有するステンレス製割型に填入しポリプロピレン製フィルムで圧接した。次に圧接面に支台築造用フォーマーの平坦部を一部カットしたものをのせ、さらにその上から可視光線照射器トクソーパワーライト(商品名、トクヤマデンタル社製)の先端を固定し、30秒間光照射を行なった。照射後、試料を割型から取り外し未重合部分を除去した。次いで円柱状の重合硬化体の長さをマイクロメーターで読み取り硬化深度とした。
【0043】
また、実施例および比較例で用いた、支台築造用光硬化性レジンの原料は以下の通りである。
<フォーマーの原料>
(a)熱可塑性樹脂
オレフィン系エラストマー(リケン社製、LFR9676L)
(b)顔料
Cromophtal Blue A3 (アンスラキノン系)
Cromophtal Red BG (縮合アゾ系)
Cromophtal Yellow 3G (縮合アゾ系)
Cromophtal Orange 2G (イソインドリノン系)
シアニングリーン5390 (銅フタロシアニングリーン)
<コンポジットレジンの原料>
(a)重合性単量体
2,2−ビス[4(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(以下、Bis−GMAと略す。)
トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略す。)
(b)無機充填材
不定形シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒径;4.2μm、(以下、b−1と略す。)
球状シリカ−ジルコニア、平均粒径;0.1μm(以下、b−2と略す)。
(c)光重合開始剤
カンファーキノン(励起波長470nm。以下、CQと略す。)
2,4,6-トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(励起波長390nm。以下、TPOと略す。)
・光重合の重合促進剤
4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(以下、DMBEと略す。)
実施例1
無機充填材として(b−1)を53質量部、(b−2)を23質量部、(a)重合性単量体としてBis−GMA 14質量部、及び3G 10質量部、(c)光重合開始剤としてCQ 0.1質量部、DMBE 0.1質量部を混合し支台築造用光硬化性レジンCR−1を作製した。
【0044】
オレフィン系エラストマーとしてリケン社製LFR9676Lを用い、Cromophtal Blue A33 (アンスラキノン系)を50ppm配合することにより青色に着色したフォーマー(カップの壁の厚み0.5mm)を作製した。このフォーマーは、その青色を見分けることにより、他色に着色された異形状のフォーマーと混在していても、採択が容易であった。
【0045】
可視域の吸収スペクトルを測定したところ、625nmに最大吸収波長を有していた。470nmにおける光線透過率は90%であった。試作したフォーマーを透過した可視光により硬化させた場合の硬化深度を測定した。硬化深度は6.2mmであった
実施例2,3,4
実施例1で作製したCR−1を用い、オレフィン系エラストマーとしてリケン社製LFR9676Lを用い、それぞれ表1に記載の顔料を50ppm配合したフォーマーを作製した。
【0046】
それぞれ、実施例と同様の測定を行ったところ、いずれも硬化深度5mm以上の値が得られた。
実施例5
無機充填材として(b−1)を53質量部、(b−2)を23質量部、(a)重合性単量体としてBis−GMA 14質量部、及び3G 10質量部、(c)光重合開始剤としてTPO 0.1質量部、DMBE 0.1質量部を混合しCR−2を作製した。
【0047】
オレフィン系エラストマーとしてリケン社製LFR9676Lを用い、Cromophtal Orange 2G(イソインドリノン系)を50ppm配合することによりオレンジ色に着色したフォーマーを作製した。
【0048】
オレンジ色の色調を有する支台築造用フォーマーを透過した可視光により硬化させた場合の硬化深度を測定した。硬化深度は5.5mmであった。
比較例1
実施例1で作製したCR−1を用い、実施例5で作製したオレンジの色調を有する支台築造用フォーマーを透過した可視光により硬化させた場合の硬化深度を測定した。硬化深度は3.0mmであり、実施例1〜4と比較して、内包される支台築造用レジンの光硬化性に対する影響が非常に大きかった。
比較例2
実施例5で作製したCR−2を用い、オレフィン系エラストマーとしてリケン社製LFR9676LにCromophtal Yellow 3G(縮合アゾ系)とCromophtal Blue A33(アンスラキノン系)をそれぞれ25ppmずつ配合して黄緑の色調を有する支台築造用フォーマーを作製した。該フォーマーを透過した可視光により硬化させた場合の硬化深度を測定した。硬化深度は2.0mmであり、実施例5と比較して、内包される支台築造用レジンの光硬化性に対する影響が非常に大きかった。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、中切歯、側切歯、犬歯用の支台築造用フォーマーの代表的態様を示す断面図である。
【図2】図2は、小臼歯、大臼歯用の支台築造用フォーマーの代表的態様を示す断面図である。
【図3】図3は、支台築造用フォーマーの使用方法を示す図であり、残存歯が、その咬合面側に支台の一部となり得る部分が存在する場合において上記方法である。
【図4】図4は、支台築造用フォーマーの別の使用方法を示す図であり、残存歯が、根管拡大された歯根部のみからなる場合において上記方法である。
【図5】図5は、支台築造用フォーマーを固定するのに使用する把持棒を示す概略図である。
【符号の説明】
【0051】
1:支台築造用フォーマー
2:支台築造用光硬化性レジン
3:残存歯
4:把持部
5:係合凹部
6:把持棒
7:ポスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用補綴物を残存歯に固定するための支台を、励起波長が可視光領域である光重合開始剤を含有した支台築造用光硬化性レジンを用いて築造する際に使用する、該支台の形状に略合致した形状の合成樹脂製カップからなる支台築造用フォーマーであって、異形状の他の支台築造用フォーマーとの選別を容易にするために着色されてなり、該着色が、上記支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の光線の光線透過率が30%以上になる状態になされていることを特徴とする支台築造用フォーマー。
【請求項2】
支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の主成分がカンファーキノンであり、着色が、470nmの波長の光線の光線透過率が30%以上になる状態になされている請求項1記載の支台築造用フォーマー。
【請求項3】
着色が、上記支台築造用光硬化性レジンに含有される光重合開始剤の励起波長の±30nmに、極大吸収波長が存在しない色によりなされている請求項1または請求項2記載の支台築造用フォーマー。
【請求項4】
請求項1〜3に示される支台築造用フォーマーであって、形状の違いにより、色が異なる複数個が収蔵されてなる支台築造用フォーマーセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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