説明

着色の低減されたN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法

【課題】 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の製造時に副生するN−tert−ブチルアクリルアミドは、結晶化により分離して洗浄しても、洗浄後の該結晶が、保管中に青〜緑味や褐色に着色して、使用分野が制限されるという問題があった。
【解決手段】 アクリロニトリル、硫酸およびイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を反応液から分離し、その後の反応液中からN−tert−ブチルアクリルアミドを回収する場合であって、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、その粗結晶をアルカリ水溶液に接触させ、さらにアルコールを溶媒として再結晶させることを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色の低減されたN−tert−ブチルアクリルアミド(一般式1)の製造方法に関し、更に詳述すれば、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンを反応させて2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下、ATBSという)を製造するに際し、同時に生成するN−tert−ブチルアクリルアミドについて、保存中の着色を低減することができる製造方法に関する。
すなわち、ATBSの結晶が分散してなる反応液から、ATBSを除いた後に、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、アルカリ水溶液に接触後、アルコールで再結晶することを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法に関するものである。
【化1】

【背景技術】
【0002】
従来より、N−tert−ブチルアクリルアミドは、アクリロニトリル、アクリル酸エステル等のモノマーと共重合させて、ゴム薬品、塗料製品等の原料として使用されてきた。さらに近年では、化粧品や高級インクの原料としても有用性が認められ、その用途は拡大しつつある。
化粧品や高級インクの用途では、原料成分の着色が原因で製品の色相が変わってしまうと、著しく商品価値を落とすことになる。そのため、初期のみならず保存期間中において着色のない原料が求められるようになってきた。
【0003】
N−tert−ブチルアクリルアミドは、一般的にはアクリロニトリルとtert−ブチルアルコールとの反応、精製により得られる。
具体的なN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法としては、アクリロニトリルとtert−ブチルアルコールとを硫酸等の強酸下で反応させるという方法が知られている。
この方法においては、得られる反応液中に種々の不純物が含まれており、反応後の精製プロセスが要点になっている。N−tert−ブチルアクリルアミドを蒸留することは容易でなく、その精製法としては晶析等の固体の精製に用いる方法が使用されている。
例えば、上記の反応により得られる反応液に水もしくは低級アルコールの水溶液を添加して、N−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を析出するにあたり、pHを0.1〜3に調整した水もしくは水溶液を前記反応液に添加するという方法(特許文献1)、あるいは、前記と同様な反応液をアミノポリ燐酸またはアミノポリカルボン酸の存在下にアルカリ水溶液で中和してN−tert−ブチルアクリルアミドを析出するという方法(特許文献2)などが知られている。
【0004】
一方、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの3者の付加反応によりATBSを製造する際に、N−tert−ブチルアクリルアミドが副生物として生成することが知られている。副生するN−tert−ブチルアクリルアミドはATBSに対しては不純物であり、従来はそれを含む廃液を産業廃棄物として処分していた。
かかる廃液の有効利用として、該廃液からN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を回収し、その粗結晶をアクリロニトリルなどの溶媒により精製する方法(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−87587号公報
【特許文献2】特開平9−124568号公報
【特許文献3】特開2005−29476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アクリロニトリルとtert−ブチルアルコールを反応させて得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、製造後においては着色が低減されていても、保存中に着色してくる傾向があった。
また、ATBSの廃液から得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、それをアクリロニトリルなどで精製した場合であっても、該試製した後の結晶が保管中に青〜緑味を帯び及び褐色に着色して、使用分野が制限されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの付加反応で得られる反応液(後記するようにATBSの結晶がアクリロニトリル中に分散した分散液)からATBSを回収した後に、その反応液から取り出したN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶またはそれをアクリロニトリルなどの有機溶媒で精製したもの(以下、両者をあわせて粗結晶という)をアルコールで再結晶する前にアルカリ水溶液と接触することで、保管中に青〜緑色・褐色などの着色がないN−tert−ブチルアクリルアミドが製造できることを見出した。
また、N−tert−ブチルアクリルアミドの製造の際に、特定の重合禁止剤を用い、最終製品中の該重合禁止剤を特定量含有させることで、さらに着色のないN−tert−ブチルアクリルアミドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一発明は、アクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を反応液から分離し、その後の反応液中からN−tert−ブチルアクリルアミドを回収する場合であって、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、その粗結晶をアルカリ水溶液に接触させ、さらにアルコールを溶媒として再結晶させすることを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0009】
本発明の第二発明は、精製後のN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶中に、ハイドロキノン化合物を0.5〜10質量ppm及びフェノチアジンを10〜50質量ppm含有することを特徴とする第一発明に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0010】
本発明の第三発明は、ハイドロキノン化合物が、ハイドロキノンモノメチルエーテルであることを特徴とする第二発明に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0011】
本発明の第四発明は、再結晶に用いる溶媒がメチルアルコールであることを特徴とする第一発明〜第三発明のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0012】
本発明の第五発明は、粗結晶と接触させるアルカリ水溶液が、アルカリ金属化合物と水酸化アンモニウムの混合物であることを特徴とする第一発明〜第四発明のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【0013】
さらに本発明の第六発明は、N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0.10、b*が0〜+6.00、かつAPHAが70以下であることを特徴とする第一発明〜第五発明のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、ATBSの廃液から、着色がなく純度の良いN−tert−ブチルアクリルアミドを製造することができ、環境負荷の削減及び経済的にも有益である上、得られた結晶が保管中に着色せず、化粧品や高級インクなど色相が重要な分野にも使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明におけるアクリロニトリル、硫酸及びイソブチレンの付加反応において、ATBSは、上記の3成分が等モルで反応した生成物である。反応におけるアクリロニトリルは、それを反応溶媒としても利用するために、他の2成分に対して大過剰使用する。硫酸とイソブチレンとは、ほぼ等モル用いることが好ましい。硫酸及びイソブチレンに対するアクリロニトリルの具体的な使用量としては、それらの10〜20倍モルが好ましい。3成分の反応に際しては、−20℃〜−10℃に冷却したアクリロニトリル中に硫酸を混合した後、得られる混合液の撹拌下に、イソブチレンガスを吹き込む。イソブチレンガスの吹き込みにより反応が開始する。反応は、常圧下で30〜70℃の温度において30分以上おこなうことが好ましい。
反応により生成するATBSは、溶媒であるアクリロニトリルに不溶であるため、反応液はアクリロニトリル中にATBSの結晶が析出したスラリーとして得られる。該スラリーにおける固形分濃度は、通常10〜25質量%である。
【0016】
上記スラリーを濾過または遠心分離などの操作で、固液分離することにより、ATBSの結晶を得る。
上記固液分離によって得られる濾液、すなわちアクリロニトリル溶液には、通常、N−tert−ブチルアクリルアミドが1質量%以上の濃度で含まれているので、濾液からN−tert−ブチルアクリルアミドを分離する目的で、該濾液からアクリロニトリルを蒸発させて濃縮する必要がある。
しかしながら、該濾液中には前記の反応で用いた硫酸が一部未反応で残っているため、製造直後及び保存中に着色しない製品を得るためには、濾液の濃縮前にアルカリ洗浄によりかかる硫酸の除去をおこなうことが必要である。
【0017】
アクリロニトリル中の硫酸の除去方法としては、上記濾液と、例えば酸化カルシウム等の固体塩基とを接触させてもよいが、より好ましくは、濾液とアルカリ水溶液とを液−液同士で混合した上、液−液分離する方法が採用される。
さらに、酸性物質が除去された濾液を加熱し、アクリロニトリルを蒸発させ、固形分濃度50〜70質量%のアクリロニトリル溶液を得る。この操作は通常単蒸留等によりなされ、これによって留出するアクリロニトリルは必要によりさらに精製された後、再び、ATBS製造用の原料として使用される。
本発明の目的物であるN−tert−ブチルアクリルアミドは、蒸留後の缶液(一般には釜残と称される)中に濃縮する。
【0018】
蒸留に際しては、ラジカル重合性を有するアクリロニトリル及びN−tert−ブチルアクリルアミド等の重合を防止するために、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを蒸留缶液中に吹き込んだり、また、コンデンサー塔頂より重合禁止剤を噴霧したりする手段を採用することが好ましい。
本発明において着色が低減され、保存中の着色が極めて少ない製品を得るためには、重合禁止剤としてハイドロキノン化合物とフェノチアジンを併用することが好ましい。
ハイドロキノン化合物としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノンジメチルエーテル、ジ−tert−ブチルハイドロキノン等が例示される。この中でハイドロキノンモノメチルエーテルが変色を少なくできる点で好ましい。
【0019】
上記濃縮液からN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を得る方法とし、特に限定されるものではないが、次の三つの方法がある。第一の方法は、上記濃縮液を徐々に冷却して10℃以下にする方法、第二の方法は、水などのようにN−tert−ブチルアクリルアミドの溶解性が低い大量の溶媒に注ぐことで、N−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を析出させ、濾過により粗結晶を得る方法、第三の方法は、上記濃縮液を大量の水の代わりにアルカリ水溶液に注いでN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶を析出させる方法である。
さらに、粗結晶をアクリロニトリル中に加え、加熱することにより再び溶解し、得られた溶液を再度10℃以下まで冷却、または大量の水に注ぎ、結晶を析出し、濾過により精製したN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を得る方法もある。
【0020】
上記の操作により得られたN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶をアルカリ水溶液で洗浄した後、アルコールで再結晶をおこなう。
アルカリ水溶液に使用するアルカリ化合物に特に限定はないが、水溶液で洗浄する操作上、好ましくは、高い水溶性を有する水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化アンモニウムなどである。
アルカリ水溶液の濃度についても特に限定はないが、保管中の着色を防止する効果が得られる濃度として0.2質量%以上、経済性及び濃くなり過ぎると再結晶において褐色着色が除去でき難くなるので、5質量%以下が好ましい。さらに、保管中の着色防止及び再結晶での初期着色防止の両面を考慮すると水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物と水酸化アンモニウムの混合水溶液または併用が特に好ましく、水酸化ナトリウムと水酸化アンモニウムの併用がより好ましい。アルカリ金属化合物と水酸化アンモニウムの比率は、5/1〜1/5(質量比)が好ましい。
アルカリ水溶液の使用量についても特に限定はないが、洗浄に十分な量であることと経済性を加味し、洗浄する粗結晶ケークに対し、1質量倍〜5質量倍が好ましい。
【0021】
再結晶に用いる溶媒は、N−tert−ブチルアクリルアミドの溶解度が高いメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコールである。
該アルコールが50質量%以上含有するのであれば、アクリロニトリル、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒と混合して用いても良く、水で希釈して用いてもよい。
好ましくは、N−tert−ブチルアクリルアミドの溶解度が特に高く、かつ水との混合性が高いメチルアルコールである
アルコールの使用量は、50〜80℃(ただし沸点以下)で加温した状態で、N−tert−ブチルアクリルアミドが完全に溶解でき、20℃で再結晶が析出する量であれば制限はないが、通常、N−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶に対し3/1〜1/3(質量比)の範囲である。
なお、再結晶したものをさらに同様の方法で再再結晶してもよい。
【0022】
再結晶により得られた結晶を乾燥することで、様々な産業用の用途に供することが可能なN−tert−ブチルアクリルアミドが得られる。N−tert−ブチルアクリルアミドは、昇華性を有するので、70℃以下での減圧乾燥をすることが好ましい。
【0023】
本発明で、製品の着色が少なく、保存中の変色も極めて少ないN−tert−ブチルアクリルアミドを得るためには、再結晶後のN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶中に、ハイドロキノン化合物を0.5〜10質量ppm及びフェノチアジンを10〜50質量ppm含有することが好ましい。
かかる化合物は、重合禁止剤としても機能するが、驚くべきことに変色を抑える機能も有している。
ハイドロキノン化合物及びフェノチアジンが、上限値を超えると、保存中及び他のモノマーと重合後のポリマーの変色が大きくなり、下限値より小さいと保存中の安定性(副反応や重合の防止)が不十分になり好ましくない。
N−tert−ブチルアクリルアミドと他のモノマーを重合する際に、重合速度を過度に抑制せず、着色防止の効果が大きい点から、ハイドロキノン化合物としては、ハイドロキノンモノメチルエーテルが好ましい。
より好ましくは、ハイドロキノン化合物を1〜4質量ppm及びフェノチアジンを20〜30質量ppm含有するものである。
【0024】
本発明におけるN−tert−ブチルアクリルアミドの色相の変化は、もっぱら青味、緑味といった寒色系の色目が大きくなることと、黄色から褐色に変化することの、二種類の態様がある。
色相の微細な変化でも商品価値を大きく左右する化粧品や高級インクの分野においては、いずれの色相も好ましくない。
本発明のN−tert−ブチルアクリルアミドは、保存後においてもこのような色目が着き難いものであり、具体的には、N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0.10、b*が0〜+6.00、かつAPHAが70以下であることが好ましい。
a*及びb*は、クロマネティックス指数と呼ばれるものでCIELAB色度図から求められる。a*は、+が大きいと赤方向に、−が大きいと緑方向に着色する。b*は、+が大きいと黄方向に、−が大きいと青方向に変化する。
目視の官能評価で青味または緑味が目立たず、褐色味も感じないのは、a*が−0.20〜+0.10、b*が0〜+6.00の範囲である。
APHAは、ハーゼンナンバーとも呼ばれ、黄色から褐色まで段階を付けた比色管(ハーゼン標準液)と測定物を比較することにより、着色度合を測定する。値が大きくなるほど、黄色から薄褐色、さらには濃褐色になる。
目視の官能評価で黄色〜褐色が目立たず、ほとんど無色から薄黄色であるのは、APHAが70以下である。
好ましくは、a*が−0.15〜0、b*が0〜+3.50、かつAPHAが30以下である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。
○参考例1 ATBSの製造
混合撹拌装置を備えた2基の反応器を連結し、次に示す反応条件下で、第1段目の反応器にアクリロニトリル及び発煙硫酸を導入して、アクリロニトリルと硫酸の混合工程を行い、第1段目の反応器の混合物を第2段目の反応器に導き、第2段目の反応器にはイソブチレンガスを導入し、反応を連続して行った。原料仕込み比は、発煙硫酸1モルに対し、アクリロニトリルを11モル、イソブチレンを0.9モルの割合で供給した。なお、発煙硫酸の濃度(硫酸中の三酸化イオウの濃度)は9%である。また、第1段目の反応器は−5〜−15℃に維持し、反応液の滞留時間を10分とし、第2段目の反応器は40〜60℃に維持し、反応液の滞留時間を40分とした。
第2段目の反応器から流出したATBSの分散液をグラスフィルターで濾過し、結晶ケークと濾液に分離した。グラスフィルター上のケークをその2質量倍のアクリロニトリルを流下させることにより洗浄し、洗浄濾液を分離した。洗浄後のケークを乾燥することにより、ATBSが得られた。
【0026】
○参考例2 N−tert−ブチルアクリルアミド粗結晶の製造
参考例1で得られた濾液と洗浄濾液を合わせたアクリロニトリル溶液110kgを25質量%の水酸化アンモニウム水溶液で中和処理した後、水層を分離除去してN−tert−ブチルアクリルアミドを約4質量%含有するアクリロニトリル溶液115kgを取得した。この溶液にハイドロキノンモノメチルエーテル(以下,MQという)を500質量ppm、フェノチアジン(以下、Pzという)を500質量ppmになるように加え、5%酸素を含有する窒素ガスを溶液に吹き込みながら減圧濃縮し、N−tert−ブチルアクリルアミドを約60質量%含有する溶液7.6kgを得た。この蒸留において約100kgのアクリロニトリルを分離した。得られた濃縮液7.6kgを氷浴下で徐々に冷却して、結晶を析出させた。得られた分散液を濾過し、N−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶のケーク2.5kgを取得した。
【0027】
○実施例1
0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液8.1gと0.5質量%の水酸化アンモニウム水溶液8.0gの混合水溶液に参考例2で得られたN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶ケーク20.1gを添加し、10分間撹拌後、減圧濾過にて、アルカリ洗浄ケークを得た。
メチルアルコール32.5gと水27.9gを60℃まで加熱しつつ、撹拌下、そのアルカリ洗浄ケークがほぼ完全に溶解するまで撹拌を続けた後、加熱、撹拌を止め、放冷後15℃までゆっくり冷却し、結晶スラリーを得た。
減圧濾過にて、再結晶ケークを得、そこに10℃に冷却した27.9gのメチルアルコールを注ぎ、再び、減圧濾過して得た精製ケークを減圧乾燥し、9.2gの精製N−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を得た。得られた精製結晶は微かに黄色を呈した白色粉末であった。
なお、得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、以下のHPLC条件で分析した。N−tert−ブチルアクリルアミドの保持時間の確認は、東京化成工業株式会社製の試薬によるピーク位置との対比により行った。その結果、純度99.9%、MQとPzは、結晶を精製する際のアルカリ洗浄によってほとんど除去されていたので、MQが3質量ppm、Pzが21質量ppmになるように添加した。
HPLC(株式会社 島津製作所製)
カラム:ODSカラム
溶離液:アセトニトリル:水=30:70
検出 :213nm
該精製結晶をシャーレに広げ、25℃で一週間保存し、その後に10質量%メチルアルコール溶液になるように溶解して、色差計:日本電色工業株式会社製OME2000にて色相を測定したところ、a*が−0.04、b*が+2.26となり、APHAを測定したところ24であり、目視では、わずかに青緑色を呈するのみであった。
結果を表1に示す。
【0028】
○実施例2〜7
表1に示す条件で粗結晶ケークを洗浄した以外は実施例1と同操作を行い、精製N−tert−ブチルアクリルアミドを得た。次いで、保存1週間後の色を観察、測色した。結果を表1に示す。
【0029】
○比較例1
水16.1gに参考例2で得られたN−tert−ブチルアクリルアミドの粗結晶ケーク16.1gを添加し、10分間撹拌後、減圧濾過にて、水洗ケークを得た。
メチルアルコール9gを60℃まで加熱しつつ、撹拌下、その水洗ケークがほぼ完全に溶解するまで撹拌を続けた後、加熱、撹拌を止め、放冷後15℃までゆっくり冷却し、結晶スラリーを得た。
減圧濾過にて再結晶ケークを得た後、そこに10℃に冷却した11gのメチルアルコールを注ぎ、再び、減圧濾過して得た精製ケークを減圧乾燥し、7gのN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶を得た。得られた結晶は微かに薄茶がかった白色粉末であった。
25℃で一週間保存したところ、青緑色を帯びた薄褐色に変化し、10質量%のメチルアルコール溶液にして色相を測定したところ、a*が−2.20、b*が+5.56になり、APHAが200になった。
【0030】
○比較例2
参考例2で得た粗結晶ケークを用い、5℃にて2倍量のアクリロニトリルで洗浄し、その後室温で減圧乾燥した。得られた結晶は微かに薄茶がかった白色粉末であり、乾燥直後の10質量%メチルアルコール溶液におけるa*は+1.80、b*は+2.16、APHAは50であった。
同結晶をシャーレに広げ、25℃で1週間放置したところ、緑褐色に変色し、10質量%メチルアルコール溶液の色相を測定したところ、a*が−9.91、b*が+8.12、APHAが250となり、緑褐色を示した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法によれば、ATBS製造時の廃液から、N−tert−ブチルアクリルアミドを回収し、工業的に容易な方法で精製することにより、着色のない高純度の結晶が得られる。
このようにして得られたN−tert−ブチルアクリルアミドは、保存中でも色相の変化がなく、特に色を気にする用途、例えば化粧品や高級インクの用途に最適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル、硫酸およびイソブチレンを反応させて得られる2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を反応液から分離し、その後の反応液中からN−tert−ブチルアクリルアミドを回収する場合であって、N−tert−ブチルアクリルアミドを粗結晶として回収し、その粗結晶をアルカリ水溶液に接触させ、さらにアルコールを溶媒として再結晶させることを特徴とするN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項2】
精製後のN−tert−ブチルアクリルアミドの結晶中に、ハイドロキノン化合物を0.5〜10質量ppm及びフェノチアジンを10〜50質量ppm含有することを特徴とする請求項1に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項3】
ハイドロキノン化合物が、ハイドロキノンモノメチルエーテルであることを特徴とする請求項2に記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項4】
再結晶に用いる溶媒がメチルアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項5】
粗結晶と接触させるアルカリ水溶液が、アルカリ金属化合物と水酸化アンモニウムの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。
【請求項6】
N−tert−ブチルアクリルアミドを25℃で1週間保存した後に、10質量%メチルアルコール溶液にしたときの色相が、a*が−0.20〜+0.10、b*が0〜+6.00、かつAPHAが70以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のN−tert−ブチルアクリルアミドの製造方法。


【公開番号】特開2011−178715(P2011−178715A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44394(P2010−44394)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】