説明

着色キトサンフレークおよびコート剤

【課題】環境に優しく、フレーク強度に優れた着色キトサンフレークを提供すること。
【解決手段】キトサンと、顔料と、少なくとも1種のポリカルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする着色キトサンフレーク、および該着色キトサンフレークを水性エマルジョン中に分散してなるコート剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンを含有する着色キトサンフレークおよび該フレークを含むコート剤に関し、さらに詳しくは、建造物内外装などに塗布することによって、意匠性とホルムアルデヒドやアンモニアの吸着能を塗布面に与える着色キトサンフレークおよび該フレークを含むコート剤に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、天然に存在することが知られている多糖であるが、工業的にはエビ、カニなどの甲殻類から分離されるキチンを脱アセチル化することによって生産されている。このキトサンは、製膜性、抗菌性、保水性および凝集能などの機能を有しているので、機能性高分子として各方面で実用されており、特に最近では、各種物品に、これら機能を付与することのできる安全な機能付与剤としての応用が進んでいる。
【0003】
例えば、コート剤分野では、各種フィルム、不織布、繊維製品への抗菌性付与コーティング剤として、医療分野では創傷被覆剤として、化粧品分野では粉体特性の改良剤として、塗料分野では増粘剤、分散剤、或いは被膜形成剤として、意匠性応用分野では抗菌性付与および種子用着色剤などに利用が試みられている。
【0004】
近年、抗菌性や消臭機能などを目的とし、キトサンを含有している素材やその製造方法が開示され、特にキトサンは、シックハウス症候群原因物質であるホルムアルデヒドの吸着能を有していることから、キトサン含有水性塗料およびその利用方法が提案されている。
【0005】
特許文献1および2には、キトサン含有エマルジョン水系塗料組成物として、モノマーを重合することにより、皮膜強度に優れたキトサン含有塗料および塗料組成物が記載されている。特許文献3には、キトサンを含有する水性塗料組成物として、特にキトサンの錯体塩や高分子量キトサンによる皮膜強度向上、有機溶剤低減、および環境に対する負荷低減を目的とした塗料組成物が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−272649公報
【特許文献2】特開2004−175876公報
【特許文献3】特開2003−306646公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
キトサン自体は、水にも有機溶媒にも溶解しないが、酢酸や乳酸などの有機酸の希酸水溶液には、キトサンが酸と塩を形成して溶解する。このキトサンの希酸水溶液を各種物品にコーティングし、水分を蒸発させることによって、乾燥状態では丈夫なフィルムとなり、簡単にキトサンの持つユニークな機能を付与することができる。
【0008】
この乾燥皮膜は、乾燥時強度は強いが、湿潤時強度は極めて弱い。その理由は単なる乾燥のみでは皮膜中に酸が残存するためであって、湿潤時強度の改善のために残存している酸を中和することが行われており、一定の効果が得られるが、さらに十分な湿潤強度を必要とする場合には、さらなる改善工夫が必要である。
【0009】
同様にキトサンの酸水溶液から、キトサンを中和析出させる方法にて調製された顔料着色キトサンフレーク(特許文献3)は、それ自体の強度が必ずしも十分ではなく、製造時や保管時に衝撃により容易に微細化する場合があり、改善の余地がある。また、キトサンは、ホルムアルデヒドなどの酸性物質の吸着には優れた能力を有するが、代表的な悪臭成分であるアンモニアなどの塩基性物質を吸着することはできない。
【0010】
従って、本件の目的は、環境に優しく、フレーク強度に優れた着色キトサンフレークを提供することである。同時に、各種物品に意匠性を付与しかつホルムアルデヒドやイソ吉草酸などの酸性物質のみならず、アンモニアなどの塩基性物質の吸着能をも有する被膜を与えるコート剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、キトサンと、顔料と、少なくとも1種のポリカルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする着色キトサンフレーク、および該着色キトサンフレークを水性エマルジョンに分散させてなるコート剤を提供する。
【0012】
上記本発明においては、前記キトサンが、脱アセチル化度70%以上のキトサンであること;および前記ポリカルボン酸またはその塩が、ポリアクリル酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデンプン、ヒアルロン酸またはそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境に優しく、フレーク強度に優れた着色キトサンフレークを提供することができる。同時に、各種物品に意匠性を付与しかつホルムアルデヒドやイソ吉草酸などの酸性物質のみならず、アンモニアなどの塩基性物質の吸着能をも有する被膜を与えるコート剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に好ましい実施態様を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
本発明の着色キトサンフレークは、キトサンと、顔料と、少なくとも1種のポリカルボン酸またはその塩とを含むことを特徴としている。該フレークにおける各成分の含有量は、各成分の合計量を100質量%としたときに、キトサンが 1〜50質量%であり、顔料は10〜80質量%であり、かつポリカルボン酸またはその塩は1〜50質量%であるのが好ましい。
【0015】
キトサンの含有量が1質量%未満では、得られるフレークの強度が低下するなどの点で不十分な場合があり、一方、キトサンの含有量が50質量%を超えると、析出物が棒状または球状になり、フレークの形状が得られないなどの点で不十分な場合がある。
【0016】
また、顔料の含有量が10質量%未満では、フレークの着色濃度が劣るなどの点で不十分な場合があり、一方、顔料の含有量が80質量%を超えると、得られるフレークの強度が低下するなどの点で不十分な場合がある。
【0017】
また、ポリカルボン酸またはその塩の含有量が1質量%未満では、フレークの生産性が低いなどの点で不十分な場合があり、一方、ポリカルボン酸またはその塩の含有量が50質量%を超えると、ポリカルボン酸またはその塩の溶液粘度が高くなり、作業性が低下するなどの点で不十分な場合がある。
【0018】
上記本発明の着色キトサンフレークの形状は、特に限定されないが、通常は厚みが0.05〜1mmであり、外径は0.5〜10mm程度である。該着色キトサンフレークは、親水性であり、水性エマルジョンの如き水性媒体に安定に分散する。
【0019】
以下使用材料について説明する。
[キトサン]
本発明で使用するキトサンは、カニ、エビ、昆虫などの甲殻、或いはキノコなどに含まれている天然高分子物の一種であるキチンの脱アセチル化物であり、2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコースを1構成単位とする塩基性多糖類である。このような脱アセチル化キチンであるキトサンは、既に工業的に生産されており、種々のグレードのものが入手できる。
【0020】
本発明において使用するキトサンの脱アセチル化度は特に制約はないが、脱アセチル化度が高いほど、脱臭能力が強いばかりでなく、フレーク強度が強く、好ましい脱アセチル化度は70〜100%である。また、キトサンの分子量も特に制約はなく、用途に応じて最適な分子量のキトサンを適宜選択すればよい。
【0021】
[キトサン水溶液]
本発明において、キトサンは水溶液として使用する。キトサン水溶液はキトサンの希酸水溶液であり、ここで使用する有機酸には特別制限はないが、好ましくは水性媒体中にある程度の溶解性を有する有機酸であればいずれでもよく、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、タウリン、ピロリドンカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ヒドロキシマロン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、アミノ安息香酸、フタル酸、けい皮酸、ビタミンCなどの有機酸が挙げられる。
【0022】
このような有機酸の使用量は、キトサンの脱アセチル化度(すなわち、キトサンのアミノ基当量)、および酸の当量によって変化するので一概には規定することができないが、キトサンが水溶性を保持できる量であればよく、特に限定されない。例えば、キトサン/乳酸水溶液の調製にあたり、0.1〜3質量%のキトサン分散液に対し0.1〜3質量%の乳酸を使用すればよい。
【0023】
[顔料]
本発明で使用する顔料としては、従来公知の有機顔料、無機顔料、分散性染料などがいずれも使用でき、特に限定されない。例えば、有機顔料としては、フタロシアニン系、ベンズイミダゾロン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系、イソインドリン系、イソインドリノン系顔料などやカーボンブラック顔料が挙げられる。また、無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピンネル顔料などである。
【0024】
さらに詳細には、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッドなどの不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2Bなどの溶性アゾ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタなどのキナクリドン系、ペリレンレッド、ペリレンスカーレットなどのペリレン系、イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジなどのイソインドリノン系、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジなどのピランスロン系、チオインジゴ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレットなどの従来公知の顔料が使用できる。
【0025】
上記顔料は、得られる着色キトサンフレークの用途に応じて、顔料の種類、粒子径、顔料の処理の種類などを選んで使用することが好ましく、用途として隠蔽力を必要とする場合や、着色物に透明性を望む場合など、顔料の種類や粒子径などを適宜選択すればよい。
【0026】
[顔料分散キトサン水溶液]
本発明では、上記顔料を前記キトサン水溶液中に分散させて使用することが好ましい。キトサン水溶液中への顔料の分散量はキトサン100質量部当たり20〜800質量部が好ましい。顔料の使用量が少な過ぎると得られるフレークの着色濃度が低く、着色剤としては不十分である。一方、顔料の使用量が多過ぎると、キトサン水溶液のキトサン濃度が低いことから、顔料が過剰になって得られるフレークの強度が低下する。顔料の分散方法は従来公知の方法でよい。また、顔料に加えて得られるフレークの強度を高める目的で塩化カルシウム、塩化バリウムなどの無機塩をキトサン100質量部当たり2〜100質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0027】
[ポリカルボン酸またはその塩]
本発明で使用するポリカルボン酸としては、例えば、アルギン酸、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルデンプン(またはカルボキシメチルアミドと呼称)、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、ヒアルロン酸、これらの酸の塩が挙げられる。これらポリカルボン酸またはその塩の水溶液の濃度として、例えば、アルギン酸ナトリウムの場合、好ましくは0.1〜2質量%である。濃度が低過ぎるとフレークの生産性が低く、一方、濃度が高過ぎると溶液粘度が高くなり作業性が低下する。
【0028】
上記ポリカルボン酸と塩を形成する塩基としては、有機塩基および無機塩基のいずれでもよい。例えば、アルカリ金属の水酸化物または炭酸塩、アンモニア、アミン類があり、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、アミノメチルプロパノールなどが挙げられる。特に好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアである。上記塩基の使用量は、ポリカルボン酸が容易に水中に溶解する量である。なお、上記ポリカルボン酸またはその塩の水溶液中に、前記顔料分散キトサン水溶液の場合と同様に、顔料を加えて分散させてもよい。
【0029】
[着色キトサンフレークの製造方法]
本発明の着色キトサンフレークは、いずれの方法によって製造してもよいが、例えば、(1)前記顔料分散キトサン水溶液を、前記ポリカルボン酸またはその塩の水溶液中に、該水溶液を穏やかに攪拌しながら、必要に応じて加熱し、ゆっくりと滴下または注入する方法、(2)前記ポリカルボン酸またはその塩の水溶液を、前記顔料分散キトサン水溶液中に、該水溶液を穏やかに攪拌しながら、必要に応じて加熱し、ゆっくりと滴下または注入する方法、(3)前記顔料分散ポリカルボン酸またはその塩の水溶液を、前記キトサン水溶液に、該水溶液を穏やかに攪拌しながら、必要に応じて加熱し、ゆっくりと滴下または注入する方法、または(4)前記キトサン水溶液を前記顔料分散ポリカルボン酸またはその塩の水溶液に、該水溶液を穏やかに攪拌しながら、必要に応じて加熱し、ゆっくりと滴下または注入する方法によって製造することができる。特に好ましい方法は上記(1)、(3)の方法である。すなわち、顔料を含まない上記水溶液中に、顔料分散した上記水溶液を注入することで、添加した顔料を有効に包囲した着色キトサンフレークを調製することができる。
【0030】
上記(1)の方法についてさらに説明する。顔料分散キトサン水溶液が、ポリカルボン酸またはその塩の水溶液中に滴下されると、注入された顔料分散キトサン水溶液中のキトサンは顔料を被覆しつつ、ポリカルボン酸またはその塩の水溶液中のポリカルボン酸と反応し、ポリマーコンプレックスを形成し、析出する。この際、顔料分散キトサン水溶液の注入速度と、ポリカルボン酸またはその塩の水溶液の攪拌条件および混合時のpHを調整することによって、析出物をフレーク形状とすることができる。析出したフレークは、水洗して塩などの不純物を除去し、水性ペーストとする。
【0031】
上記着色キトサンフレークの水性ペーストは、そのままで水性塗料の着色剤として使用できる。水性ペーストは乾燥した後使用してもよい。いずれの場合も本発明の着色キトサンフレークは、ポリアミンであるキトサンとポリカルボン酸とが強固にポリイオンコンプレックスを形成していることから、優れたフレーク強度を有し、使用時、貯蔵時、輸送時などに受ける各種の衝撃によって破砕されない。
【0032】
また、本発明の着色キトサンフレークは、顔料の種類を選ぶことによって任意の色相の着色フレークとすることができる。また、本発明の着色キトサンフレークは、ホルムアルデヒドなどのシックハウス症候群原因物質、イソ吉草酸などの悪臭物質を吸着する多数のアミノ基を有し、かつアンモニアなどの塩基性物質を吸着する多数のカルボキシル基を有することから、本発明の着色キトサンフレークを含む塗膜は、意匠性に優れた外観を与え、かつ長期間上記有害物質を吸着除去することができる。
【0033】
[コート剤]
本発明のコート剤は、前記本発明の着色キトサンフレークを水性エマルジョン中に分散することによって得られる。上記着色キトサンフレークは前記の水性ペーストでも乾燥した粉体のいずれでもよい。水性ペーストの状態で用いる場合には、該水性ペーストのpHを7〜9にして使用することが好ましい。
【0034】
pH調整に使用する酸としては、水性媒体中にある程度の溶解性を有する有機酸、無機酸であればいずれでもよく、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、タウリン、ピロリドンカルボン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ヒドロキシマロン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸、アミノ安息香酸、フタル酸、けい皮酸、ビタミンCなどの有機酸、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。好ましくは、希酸の使用によりキトサンへの影響が少ない無機酸、例えば、硫酸の希薄水溶液により、弱アルカリpH7〜9に調整することが好ましい。
【0035】
また、pH調整に使用されるアルカリ物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−メチルプロパノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、アミノメチルプロパノールなどが挙げられる。特に好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよびアンモニアである。
【0036】
本発明で使用する水性エマルジョンは、公知のものが使用でき、特に制限はない。例えば、酢酸ビニル重合体エマルジョン、酢酸ビニル共重合体エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系重合体エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体エマルジョン、スチレン系共重合体エマルジョン、合成ゴムラテックスなどが挙げられる。上記水性エマルジョンへの着色キトサンフレークの添加は、水性エマルジョンの固形分100質量部当たり0.1〜1質量部の範囲が好ましい。着色キトサンフレークは単独で、または異なる色相の2種以上を併用できる。さらに他の顔料と併用してもよい。
【0037】
以上の本発明のコート剤により形成された塗膜は、着色キトサンフレークによる優れた意匠性を有するとともに、各種有害物質を有効に長期間吸収除去することができる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中、%とあるのは特に断りの無い限り質量基準である。なお、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0039】
実施例1
キトサン(商品名「ダイキトサン100D」、大日精化工業(株)製、重量平均分子量430,000、脱アセチル化度95%)18gを精製水920g中に分散し、これに50%乳酸(武蔵野科学研究所製)23gおよび無水塩化カルシウム(国産化学製、試薬1級)2gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置した。その後、不溶解分を目開き150μmのグラスフィルターを用いて吸引ろ過を行い、不溶解分を除去してキトサン/乳酸水溶液910gを得た。この水溶液900gに酸化チタン顔料(商品名「タイペークR−930」、石原産業(株))40gを添加し、ホモジナイザーで3時間激しく攪拌することで酸化チタン顔料を分散させ、酸化チタン顔料分散キトサン水溶液940gを得た。
【0040】
一方、精製水4,200gに、アルギン酸ナトリウム(商品名「キミカアルギンI−1」、キミカ(株)製)4gおよび水酸化ナトリウム(国産化学(株)製、試薬1級)20gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置し、アルギン酸ナトリウムのアルカリ水溶液4,224gを得た。
【0041】
次に上記アルギン酸ナトリウムのアルカリ水溶液4,242g中に、該水溶液全体を温和に攪拌して流動させつつ、前記の酸化チタン顔料分散キトサン水溶液940gを滴下した。滴下は、駒込ピペットや分液ロートなどを用いて940g/hr.程度の速度で行った。滴下により白色に着色されたキトサンフレークが析出した。酸化チタン顔料分散キトサン水溶液の滴下が終了したら、別に用意した10%硫酸水溶液(国産化学(株)製、試薬1級)150gを添加し、1時間攪拌して白色着色キトサンフレーク分散液のpHを8〜9に調整した。
【0042】
その後、1時間静置して着色キトサンフレークを沈殿させ、上澄み液約4Lをデカンテーションで除く。次に精製水4Lを加えて1時間攪拌し、静置1時間を行った後、再びデカンテーションで上澄み液4Lを除く。この操作を2〜4回繰り返して着色キトサンフレークの洗浄を行った後、目開き1.2mmの金網でろ過を行い、着色キトサンフレークの水ペースト1,200g(固形分48g)を得た。
【0043】
(評価方法)
上記着色キトサンフレークの水ペーストの少量を採取し、多量の精製水に分散してフレークの大きさを目視で判断した。着色キトサンフレークの直径は1〜3mmで、厚さが0.2mmであった。また、着色キトサンフレークの水ペーストの少量を採取し、多量の精製水に分散した溶液を50mlのガラス瓶に入れて密封し、手で1分間激しく振動を与え、振動後の上澄み液の濁り具合を目視で判断した。その結果、振動を与えた後の上澄み液が酸化チタン顔料で濁らず、着色キトサンフレークは優れた強度を有することが分かった。
【0044】
実施例2
キトサン(商品名「ダイキトサンH」、大日精化工業(株)製、重量平均分子量1,200,000、脱アセチル化度75%)6gを精製水931gに分散し、これに酢酸(国産化学(株)製、試薬1級)12gおよび無水塩化カルシウム(国産化学(株)製、試薬1級)2gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置した。その後、不溶解分を目開き150μmのグラスフィルターを用いて吸引ろ過を行い、不溶解分を除去してキトサン/酢酸水溶液910gを得た。この水溶液900gに、酸化チタン顔料(商品名「タイペークR−930」、石原産業(株)製)40gを添加し、ホモジナイザーで3時間激しく攪拌することで酸化チタン顔料を分散させ、酸化チタン顔料分散キトサン水溶液940gを得た。
【0045】
上記酸化チタン顔料分散キトサン水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして着色キトサンフレークの水ペースト(固形分4.0%)を得た。該着色キトサンフレークについて実施例1と同様の評価を行った。その結果、着色キトサンフレークの直径は1〜3mmであり、厚さは0.2mmであり、フレークの強度も実施例1と同様に優れていた。
【0046】
実施例3
キトサン(商品名「ダイキトサン100D」、大日精化工業(株)製、重量平均分子量350,000、脱アセチル化度95%)18gを精製水920gに分散し、これに50%乳酸(武蔵野科学研究所製)23gおよび無水塩化カルシウム(国産化学(株)製、試薬1級)2gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置した。その後、不溶解分を目開き150μmのグラスフィルターを用いて吸引ろ過を行い、不溶解分を除去してキトサン/乳酸水溶液910gを得た。この水溶液900gに、酸化鉄顔料(商品名「トダカラー100ED」、戸田工業(株)製)30gを添加し、ホモジナイザーで3時間激しく攪拌して酸化鉄顔料を分散させ、酸化鉄顔料分散キトサン水溶液930gを得た。
【0047】
上記酸化鉄顔料分散キトサン水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして茶色着色キトサンフレークの水ペースト(固形分4.5%)を得た。該着色キトサンフレークについて実施例1と同様の評価を行った。その結果、着色キトサンフレークの直径は1〜3mmであり、厚さは0.2mmであり、フレークの強度も実施例1と同様に優れていた。
【0048】
実施例4
キトサン(商品名「ダイキトサン100D」、大日精化工業(株)製、重量平均分子量350,000、脱アセチル化度95%)18gを精製水920gに分散し、これに50%乳酸(武蔵野科学研究所製)23gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置した。その後、不溶解分を目開き150μmのグラスフィルターを用いて吸引ろ過を行い、不溶解分を除去してキトサン/乳酸水溶液910gを得た。この水溶液900gに、酸化チタン顔料(商品名「タイペークR−930」、石原産業(株)製)40gを添加し、ホモジナイザーで3時間激しく攪拌することで酸化チタン顔料を分散させ、酸化チタン顔料分散溶液940gを得た。
【0049】
上記酸化チタン顔料分散キトサン水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして着色キトサンフレークの水ペースト(固形分3.2%)を得た。得られた着色キトサンフレークについて実施例1と同様の評価を行った。その結果、着色キトサンフレークの直径は1〜3mmであり、厚さは0.2mmであり、フレークの強度は優れているが、実施例1の場合よりも幾分劣っていた。
【0050】
実施例5
キトサン(商品名「ダイキトサン100D」、大日精化工業(株)製、重量平均分子量350,000、脱アセチル化度95%)24gを精製水4,200gに分散し、これに50%乳酸(武蔵野科学研究所製)23gおよび無水塩化カルシウム(国産化学(株)製、試薬1級)2gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置した。その後、不溶解分を目開き150μmのグラスフィルターを用いて吸引ろ過を行い、不溶解分を除去してキトサン/乳酸水溶液4240gを得た。
【0051】
一方、精製水900gに、アルギン酸ナトリウム(商品名「キミカアルギンI−1」、キミカ(株)製)5.3gおよび水酸化ナトリウム(国産化学(株)製、試薬1級)16gを添加し、25〜30℃で4時間攪拌した後に16時間静置し、アルギン酸ナトリウムのアルカリ水溶液924gを得た。この水溶液900gに、酸化チタン顔料(商品名「タイペークR−930」、石原産業(株)製)40gを添加し、ホモジナイザーで3時間激しく攪拌することで酸化チタンを分散させ、酸化チタン分散アルギン酸ナトリウム水溶液940g得た。
【0052】
次に上記のキトサン/乳酸水溶液4,200gを、該水溶液全体を温和に攪拌して流動させつつ、該水溶液中に前記の酸化チタン顔料分散アルギン酸ナトリウム水溶液940gを滴下した。滴下は、駒込ピペットや分液ロートなどを用いて、940g/hr.程度の速度で行った。滴下により、白色着色キトサンフレークが析出した。酸化チタン顔料分散アルギン酸ナトリウム水溶液の滴下が終了したら、別に用意した10%硫酸水溶液(国産化学(株)製、試薬1級)150gを添加し、1時間攪拌して着色キトサンフレーク分散液のpHを8〜9に調整した。
【0053】
その後、1時間静置して着色キトサンフレークを沈殿させ、上澄み液約4Lをデカンテーションで除いた。次に精製水4Lを加えて1時間攪拌、静置1時間を行った後、再びデカンテーションで上澄み液4Lを除いた。この操作を2〜4回繰り返して着色キトサンフレークの洗浄を行った後、目開き1.2mmの金網でろ過を行い、着色キトサンフレークペースト1,200g(固形分50g)を得た。
【0054】
上記で得られた着色キトサンフレークについて実施例1と同様の評価を行った。その結果、着色キトサンフレークの直径は1〜3mmであり、厚さは0.2mmであり、フレークの強度も実施例1と同様に優れていた。
実施例6
実施例1で得られた白色キトサンフレークペースト30gと実施例3で得られた茶色キトサンフレークペースト27gとを、固形分35%のアクリルクリアー塗料1kg中に加え、ゆるく攪拌してフレークを分散させて本発明のコート剤とした。このコート剤を10平方メートルのコンクリート床にウールローラーにて塗布および乾燥した。得られた塗装面は、白と茶色のフレークとがアトランダムに散らばった意匠性に富んだ表面仕上げとなった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、環境に優しく、フレーク強度に優れた着色キトサンフレークを提供することができる。同時に、各種物品に意匠性を付与しかつホルムアルデヒドやイソ吉草酸などの酸性物質のみならず、アンモニアなどの塩基性物質の吸着能をも有する被膜を与えるコート剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンと、顔料と、少なくとも1種のポリカルボン酸またはその塩とを含むことを特徴とする着色キトサンフレーク。
【請求項2】
キトサンが、脱アセチル化度70%以上のキトサンである請求項1に記載の着色キトサンフレーク。
【請求項3】
ポリカルボン酸またはその塩が、ポリアクリル酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデンプン、ヒアルロン酸またはそれらのアルカリ金属塩またはアンモニウム塩である請求項1または2に記載の着色キトサンフレーク。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の着色キトサンフレークを水性エマルジョン中に分散してなることを特徴とするコート剤。

【公開番号】特開2007−169610(P2007−169610A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313401(P2006−313401)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】