説明

着色廃水処理方法及び当該方法に使用する着色廃水処理装置

【課題】微生物を担持するための固定化担体を用いることなく工程が簡単で余分なコストを必要とせず、また、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することのできる着色廃水処理方法及び当該方法に使用する着色廃水処理装置を提供する。
【解決手段】着色物質分解菌を増殖する好気処理を行う好気処理槽と、この着色物質分解菌で着色物質を分解する嫌気処理を行う嫌気処理槽とを組み合わせて、好気処理槽の好気性雰囲気を維持するために、好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の空気を供給する曝気処理を行い、また、好気処理槽に流入する被処理水の流入量W(L/時)と、好気処理槽の容量X(L)と、嫌気処理槽の容量Y(L)との間に式(1):X/W≧1.1、及び式(2):2X≦Y≦4X、の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理するための着色廃水処理方法及び当
該方法に使用する着色廃水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生産工場の廃水には着色したものが多く存在する。中でも、繊維染色工場の廃水には、染料などの着色物質が多く含まれている。一般に、繊維染色工場の廃水は、精練工程、染色工程及び仕上げ工程からの廃水の混合物であり、多くの化学物質を含んでいる。このことから、繊維染色工場の廃水は、環境負荷を表す化学的酸素要求量(COD)や生物学的酸素要求量(BOD)が高い廃水である。従って、繊維染色工場の廃水は、従来から凝集沈殿処理、加圧浮上処理及び活性汚泥処理などを組み合わせた廃水処理工程によって処理された後、繊維染色工場から放流水として排出される。
【0003】
しかし、繊維染色工場の廃水に含まれる染料は、低濃度においても着色度が高く、可溶性物質でもあり、最も脱色処理が困難な物質とされている。従って、従来の廃水処理工程では、これら染料の脱色は非常に難しく、繊維染色工場から排出される着色した排出水による環境汚染が問題となっている。例えば、和歌山市で平成3年(1991年)10月に制定された「和歌山市排出水の色等規制条例」では、生産工場の排出口から排出される排出水の着色度を120以下であって、平均を80にすることが要求されている。ここで、着色度80とは、排出水を80倍まで希釈したときに蒸留水と同等の透明度を有することをいう。
【0004】
上記問題に対して、下記特許文献1には、アゾ系染料による着色を消去若しくは低減する能力を有する微生物を用いた着色排水の脱色処理方法及びその処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2998055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1に記載の方法及び装置においては、上記微生物を担持した固定化担体、例えば、活性炭、多孔性セラミックス、シリカゲル、ガラスビーズ、セルロース発泡体などを用いなければならない。このように、固定化担体を用いると、当該固定化担体に微生物を担持するための工程が煩雑となる問題がある。また、固定化担体などのコストが余分にかかるという問題がある。更に、上記方法及び装置においては、上記微生物を担持した固定化担体を充填したカラムを使用するので、着色排水の脱色に長時間を要し、着色物質を効率よく脱色することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記の諸問題に対処して、微生物を担持するための固定化担体を用いることなく工程が簡単で余分なコストを必要とせず、また、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することのできる着色廃水処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記着色廃水処理方法に使用する着色廃水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、上記特許文献1に使用される微生物のうち特定の一種を利用して、被処理水への空気吐出量を所定の範囲とした曝気処理を行って上記微生物を増殖する好気処理工程と、当該微生物で着色物質を脱色する嫌気処理工程とを組み合わせた。また、これらの好気処理槽の容量と嫌気処理槽の容量との比率を一定の範囲以内とし、且つ、好気処理槽への被処理水の流入量を調整した。このことにより、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
即ち、本発明は、請求項1の記載によると、
好気処理槽と嫌気処理槽とを組み合わせて着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理する着色廃水処理方法であって、
上記好気処理槽において、
上記着色廃水を含有し外部から流入する被処理水を好気性雰囲気として当該被処理水中で着色物質分解菌を増殖する好気処理を行う好気処理工程と、
この好気処理工程後に上記嫌気処理槽において、
上記好気処理槽から流入する上記被処理水を嫌気性雰囲気として当該被処理水中で上記着色物質を上記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う嫌気処理工程とを備えて、
上記着色物質分解菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するBacillus OY1−2(FERM BP−5261)であって、
上記好気処理工程において、上記好気処理槽内の好気性雰囲気を維持するために、上記好気処理槽内に空気を供給する曝気処理を行い、
この曝気処理による空気吐出量は、上記好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内であって、
上記好気処理槽に流入する被処理水の単位時間当たりの流入量W(L/時)と、上記好気処理槽の容量X(L)と、上記嫌気処理槽の容量Y(L)との関係が下記の式(1)及び式(2)、
X/W ≧ 1.1 ・・・(1)
2X ≦ Y ≦ 4X ・・・(2)
を満足することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、着色廃水を含有する被処理水を処理するにあたり、まず、好気処理工程において、着色物質分解菌のBacillus OY1−2(FERM BP−5261)を増殖する好気処理を行う。このとき、好気処理槽内の好気性雰囲気を維持するために曝気処理を行う。この曝気処理による空気吐出量を好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内にすることにより、被処理水の溶存酸素量(DO)を所定の範囲(後述する)に維持することができる。このことにより、好気処理工程において、短時間に効率よく上記着色物質分解菌の増殖を行うことができる。
【0011】
また、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽の容量Xとの関係が式(1)を満足することにより、好気処理槽における被処理水の滞留時間が1.1時間以上と十分に確保される。このことにより、好気処理工程において、短時間に効率よく上記着色物質分解菌の増殖を行うことができる。
【0012】
次に、嫌気処理工程において、被処理水中の着色物質を上記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う。このとき、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽の容量Xとの関係が式(1)を満足し、更に、好気処理槽の容量Xと嫌気処理槽の容量Yとの関係が式(2)を満足することにより、嫌気処理槽内の嫌気性雰囲気が維持され、嫌気処理槽における被処理水の滞留時間が十分に確保される。このことにより、嫌気処理工程において、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0013】
よって、請求項1に記載の発明においては、微生物を担持するための固定化担体を用いることなく工程が簡単で余分なコストを必要とせず、また、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することのできる着色廃水処理方法を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の着色廃水処理方法であって、
上記嫌気処理工程において、上記嫌気処理槽中の被処理水の酸化還元電位(ORP)は、−280〜−400(mV)の範囲以内であることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、嫌気処理槽中の被処理水の酸化還元電位(ORP)を−280〜−400(mV)の範囲以内に調整することにより、上記着色物質分解菌による着色物質の分解が促進される。このことにより、嫌気処理工程において、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。よって、請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0016】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1又は2に記載の着色廃水処理方法であって、
上記好気処理工程において、上記好気処理槽に流入する被処理水の一部として、上記嫌気処理工程後に上記嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を上記好気処理槽に返送するようにして、
上記好気処理槽に流入する被処理水の上記流入量W(L/時)と、当該被処理水に含有される上記着色廃水の流入量Z(L/時)との関係が下記の式(3)、
W ≦ 1.4Z ・・・(3)
を満足することを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を好気処理槽に返送する。この返送により、嫌気処理槽での着色物質の分解で馴養された上記着色物質分解菌が好気処理槽に戻される。このことにより、好気処理槽において、着色物質の分解効果に優れた上記着色物質分解菌の増殖が図られる。このとき、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと当該被処理水に含有される着色廃水の流入量Zとの関係が式(3)を満足することにより、請求項3に記載の発明においては、請求項1又は2に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【0018】
また、本発明は、請求項4の記載によると、
着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理するための着色廃水処理装置であって、
上記着色廃水を含有し外部から流入する被処理水を好気性雰囲気として当該被処理水中で着色物質分解菌を増殖する好気処理を行う好気処理槽と、
この好気処理槽の下流部に連設されて、上記好気処理槽から流入する上記被処理水を嫌気性雰囲気として当該被処理水中で上記着色物質を上記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う嫌気処理槽とを備えて、
上記着色物質分解菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するBacillus OY1−2(FERM BP−5261)であって、
上記好気処理槽は、その内部に空気を供給する曝気手段を具備しており、
この曝気手段は、上記好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内の空気吐出量を有しており、
上記好気処理槽に流入する被処理水の単位時間当たりの流入量W(L/時)と、上記好気処理槽の容量X(L)と、上記嫌気処理槽の容量Y(L)との関係が下記の式(4)及び式(5)、
X/W ≧ 1.1 ・・・(4)
2X ≦ Y ≦ 4X ・・・(5)
を満足することを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、まず、上流部に位置する好気処理槽において、着色物質分解菌のBacillus OY1−2(FERM BP−5261)を増殖する好気処理を行う。このとき、好気処理槽が具備する曝気手段からの空気吐出量が好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内であることにより、被処理水の溶存酸素量(DO)を所定の範囲(後述する)に維持することができる。このことにより、好気処理槽において、短時間に効率よく上記着色物質分解菌の増殖を行うことができる。
【0020】
また、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽の容量Xとの関係が式(4)を満足することにより、好気処理槽における被処理水の滞留時間が1.1時間以上と十分に確保される。このことにより、好気処理槽において、短時間に効率よく上記着色物質分解菌の増殖を行うことができる。
【0021】
次に、下流部に位置する嫌気処理槽において、被処理水中の着色物質を上記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う。このとき、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽の容量Xとの関係が式(4)を満足し、更に、好気処理槽の容量Xと嫌気処理槽の容量Yとの関係が式(5)を満足することにより、嫌気処理槽内の嫌気性雰囲気が維持され、嫌気処理槽における被処理水の滞留時間が十分に確保される。このことにより、嫌気処理槽において、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0022】
よって、請求項4に記載の発明においては、微生物を担持するための固定化担体を用いることなく工程が簡単で余分なコストを必要とせず、また、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することのできる着色廃水処理装置を提供することができる。
【0023】
また、本発明は、請求項5の記載によると、請求項4に記載の着色廃水処理装置であって、
上記好気処理槽に流入する被処理水の一部として、上記嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を上記好気処理槽に返送する返送手段を備えて、
この返送手段は、上記好気処理槽に流入する被処理水の上記流入量W(L/時)と、当該被処理水に含有される上記着色廃水の流入量Z(L/時)との関係が下記の式(6)、
W ≦ 1.4Z ・・・(6)
を満足するように上記嫌気処理槽から上記被処理水を返送することを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を返送手段により好気処理槽に返送する。この返送により、嫌気処理槽での着色物質の分解で馴養された上記着色物質分解菌が好気処理槽に戻される。このことにより、好気処理槽において、着色物質の分解効果に優れた上記着色物質分解菌の増殖が図られる。このとき、好気処理槽に流入する被処理水の流入量Wと当該被処理水に含有される着色廃水の流入量Zとの関係が式(6)を満足することにより、請求項5に記載の発明においては、請求項4に記載の発明と同様の作用効果をより一層達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る着色廃水処理装置の一実施形態を示す概要図である。
【図2】実施例1〜3において、好気処理槽1m3当りの空気吐出量と脱色率との関係を示す関係図である。
【図3】実施例1〜3において、好気処理槽1m3当りの空気吐出量と好気処理槽の溶存酸素量(DO)との関係を示す関係図である。
【図4】実施例2及び4〜6において、好気処理槽の滞留時間と脱色率との関係を示す関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施形態は、本発明に係る着色廃水処理方法及び当該方法に使用する着色廃水処理装置用いて繊維染色廃水の脱色処理を行うものである。
【0027】
一般に、繊維染色廃水は、上述のように、精練工程、染色工程及び仕上げ工程からの廃水の混合物であり、多くの化学物質を含んでいる。例えば、精練工程からは、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、澱粉などの糊剤や、苛性ソーダ、酸化剤、酵素、各種界面活性剤などの糊抜き剤或いは精練剤が排出される。染色工程からは、反応性染料、分散染料、酸性染料など繊維の染色に利用されなかった各種染料や、各種無機塩類、尿素などの窒素化合物、各種界面活性剤などの染色助剤或いは洗浄剤が排出される。また、仕上げ工程からは、各種油剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの各種仕上げ剤が排出される。
【0028】
なお、本実施形態は、繊維染色廃水を脱色処理してその着色度を低減するものである。よって、本実施形態は、繊維染色廃水に含まれる各種物質のうち、特に染料の脱色処理を図るものである。ここで、繊維染色廃水は、各種系統の染料を含んでおり、これらの染料には、モノアゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、ホルマザン系又はジオキサジン系などの各種染料がある。また、繊維染色廃水は、各種系統の染料を含み、また、同一系統の染料であっても、種々の色相及び構造を有する多くの染料を含んでいる。
【0029】
一方、本発明には、着色物質分解菌としてバチルス属(Bacillus属)に属するBacillus OY1−2(FERM BP−5261)(以下、「バチルスOY1−2」という)を使用する。このバチルスOY1−2は、上述のように、上記特許文献1において、アゾ系染料による着色を消去或いは低減する能力を有する微生物の1種として挙げられている。このバチルスOY1−2は、平成4年(1992年)8月20日に通産省工業技術院微生物工業技術研究所において日本国に寄託され(受託番号:FERM P−13118)、その後、平成7年(1995年)10月16日に原寄託よりブダペスト条約に基づいて通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現、経産省産業技術総合研究所特許生物寄託センター)において国際寄託されている(受託番号:FERM BP−5261)。
【0030】
このバチルスOY1−2は、上記特許文献1によると、アゾ系染料に対して強い活性を示すとされている。しかし、上述のように、繊維染色廃水は、各種系統且つ各種構造の染料を含んでおり、アゾ系染料のみを対象とすることはできない。ここで、バチルスOY1−2は、バチルス菌の1菌株であり、他の微生物と同様、アゾ系染料以外の他の染料や、染料以外の他の有機物質に対しても通常の活性を有するものである。本発明においては、バチルスOY1−2を採用するが、このことにより、特にアゾ系染料のみを対象とするものではなく、各種系統且つ各種構造の染料或いは他の有機物質を分解し、結果として、繊維染色廃水の脱色処理が実用的に可能であることを確認した。
【0031】
以下、本実施形態について図面を用いて説明する。図1において、着色廃水処理装置Aは、pH調整槽Bと好気処理槽Cと嫌気処理槽Dとを備えている。pH調整槽Bは、廃水供給配管1を介して供給される着色廃水を内部に滞留し、この着色廃水のpH値を好ましくはpH=5〜8、より好ましくはpH=7〜8に調整する。また、このpH調整槽Bにおいて、着色廃水の温度をバチルスOY1−2の増殖に適した温度、好ましくは、30〜40(℃)に調整する。このことにより、続く好気処理槽CにおけるバチルスOY1−2の増殖、及び、嫌気処理槽Dにおける着色物質の脱色を効率よく行うことができる。
【0032】
好気処理槽Cは、廃水供給配管2を介してpH調整槽から着色廃水の供給を受ける。このとき、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水(嫌気汚泥を含む)の一部が被処理水返送配管3を介して廃水供給配管2の着色廃水に合流するようにしてもよい。この返送により、被処理水供給配管4を介して好気処理槽Cに供給される被処理水は、廃水供給配管2を介して供給される着色廃水と被処理水返送配管3を介して返送される被処理水とが混合されている。なお、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水の返送を行わない場合には、好気処理槽Cに供給される被処理水は、廃水供給配管2及び被処理水供給配管4を介して供給される着色廃水のみとなる。この放流水の返送に関しては、後ほど詳述する。
【0033】
次に、好気処理槽Cは、被処理水供給配管4を介して供給される被処理水を内部に滞留し、バチルスOY1−2の増殖を行うために被処理水の好気処理を行う。ここで、好気処理槽Cの被処理水は、バチルスOY1−2を含有する。このバチルスOY1−2は、適正な好気性雰囲気で良好に増殖し、嫌気性雰囲気に比べ10倍ほどの速度で増殖する。
【0034】
ここで、着色廃水処理装置Aは連続運転され、好気処理槽Cでは常にバチルスOY1−2が増殖を繰り返している。従って、着色廃水処理装置Aの運転開始当初にのみ所定量のバチルスOY1−2の種菌を好気処理槽Cに投入すれば、その後のバチルスOY1−2の追加投入は原則として不要である。また、嫌気処理槽Dから被処理水を返送する場合には、嫌気処理で馴養されたバチルスOY1−2が更に好気処理槽Cに投入されることになる。
【0035】
また、好気処理槽Cに滞留する被処理水は、多くの有機物質を含有するのでその化学的酸素要求量(以下、「COD」という)や生物学的酸素要求量(以下、「BOD」という)が高く、そのままではバチルスOY1−2を良好に増殖することができない。そこで、好気処理槽Cは、曝気装置Eを備えている。この曝気装置Eは、好気処理槽Cに滞留する被処理水に適切な量の空気を供給し、当該被処理水の好気性雰囲気を維持する。本実施形態において採用される曝気装置Eは、通常の廃水処理装置で使用されるものでよい。
【0036】
このように、曝気装置Eは、好気処理槽Cに滞留する被処理水に空気を供給しバチルスOY1−2の増殖を図る。この曝気装置Eから好気処理槽Cに供給する空気の吐出量は、好気処理槽Cの容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内となるようにする。このことにより、好気処理槽Cに滞留する被処理水中の溶存酸素量(以下、「DO」という)を2(mg/L)を超えない量に調整することができる。
【0037】
空気吐出量が0.05(m3/分)より少ない場合には、バチルスOY1−2の増殖に必要な酸素量が確保できず、バチルスOY1−2の増殖が抑えられる。このことにより、被処理水中のバチルスOY1−2の菌数が少なくなり、バチルスOY1−2の増殖に消費される酸素量が減少する。そのため、却って被処理水中のDOが上がり、2(mg/L)を超えることとなる。逆に、空気吐出量が0.2(m3/分)より多い場合には、DOが非常に高くなり、好気処理槽Cから嫌気処理槽Dに流入する空気量が多くなる。従って、上記いずれの場合においても、嫌気処理槽Dの嫌気雰囲気を十分に維持することができず、脱色処理が阻害される。
【0038】
また、好気処理槽CでのバチルスOY1−2の増殖を効率よく行うためには、曝気装置Eからの空気吐出量を調整すると共に、好気処理槽Cでの被処理水の滞留時間を確保することが重要である。ここで、被処理水供給配管4を介して好気処理槽Cに供給される被処理水の流入量W(L/時)と好気処理槽Cの容量X(L)とは、上述のように、式(1)の関係にあることが必要である。
【0039】
X/W ≧ 1.1 ・・・(1)
この式(1)の関係を満足することにより、被処理水の好気処理槽Cにおける滞留時間は、少なくとも1.1時間以上の時間とすることができる。このことにより、好気処理槽Cでの被処理水の滞留時間が十分に確保され、短時間に効率よくバチルスOY1−2の増殖を行うことができる。
【0040】
嫌気処理槽Dは、被処理水供給配管5を介して供給される被処理水を内部に滞留し、空気を遮断してその内部に滞留する被処理水の嫌気処理を行う。ここで、被処理水供給配管5を介して供給される被処理水の流入量は、被処理水供給配管4を介して好気処理槽Cに供給される被処理水の流入量W(L/時)と同量である。
【0041】
ここで、嫌気処理槽Dの被処理水は、好気処理槽Cで増殖されたバチルスOY1−2を多く含有している。このバチルスOY1−2は、嫌気性雰囲気においては、上述のように増殖が抑えられ、逆に、着色物質の脱色を盛んに行うようになる。また、好気処理槽Cから流入する被処理水は、そのDOを2(mg/L)以下に調整されている。従って、この被処理水は、嫌気処理槽Dに流入すると速やかに嫌気性雰囲気に移行することができる。
【0042】
また、嫌気処理槽Dでの着色物質の脱色を効率よく行うためには、嫌気処理槽Dでの被処理水の滞留時間を確保することが重要である。ここで、被処理水供給配管5を介して嫌気処理槽Dに供給される被処理水の流入量は、上述のように、好気処理槽Cに供給される被処理水の流入量W(L/時)と同量であり、また、好気処理槽Cの容量X(L)と嫌気処理槽Dの容量Y(L)とは、上述のように、式(2)の関係にあることが必要である。
【0043】
2X ≦ Y ≦ 4X ・・・(2)
この式(2)の関係を満足することにより、嫌気処理槽Dの容量Yは、好気処理槽Cの容量Xの2倍〜4倍の大きさを持つこととなる。このことに加え、上記式(1)の関係から、被処理水の嫌気処理槽Dにおける滞留時間は、2.2時間〜4.4時間の範囲以内にすることができる。このことにより、嫌気処理槽Dでの被処理水の滞留時間が十分に確保され、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0044】
嫌気処理槽Dの容量Yが好気処理槽Cの容量Xの2倍より小さい場合には、嫌気処理槽Dでの被処理水の滞留時間が十分に確保されず、被処理水は、着色物質の脱色が不十分なまま放流される。逆に、嫌気処理槽Dの容量Yが好気処理槽Cの容量Xの4倍より大きい場合には、嫌気処理槽Dの滞留時間が長くなって過度の嫌気状態を生じ、また、嫌気処理槽Dが非常に大きくなって設備費用が増大する。
【0045】
なお、好気処理槽C及び嫌気処理槽Dは、いずれも、上記式(1)及び式(2)を満足する限り、単槽で構成されてもよく、また、多槽で構成されてもよい。一般には、多槽で構成された方が流入する被処理水の流量の変動などの外部要因の影響を受けにくい。図1に示す着色廃水処理装置Aは、好気処理槽Cを単槽、嫌気処理槽Dを2槽にして構成されている。
【0046】
また、嫌気処理槽Dでの着色物質の脱色を効率よく行うためには、嫌気処理槽Dの被処理水の酸化還元電位(以下、「ORP」という)を−280〜−400(mV)の範囲以内に調整することが好ましい。ORPが、−280(mV)より大きな場合(ORP>−280)には、脱色に必要なバチルスOY1−2の菌数が確保できない場合があり脱色処理の速度が遅くなる。逆に、ORPが、−400(mV)より小さな場合(−400>ORP)には、硫酸還元菌が生成しやすくなり、脱色処理が阻害される場合があり、また、硫化水素や硫酸の生成による金属などの腐食が問題となる場合がある。
【0047】
このようにして、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水は、放流水として放流水排出配管6を介して着色廃水処理装置Aの外部に排出される。このとき、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水の一部は、上述のように、嫌気処理槽Dに連結された被処理水返送配管3及び被処理水供給配管4を介して好気処理槽Cに返送される。
【0048】
嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水の一部を好気処理槽Cに返送する理由は、以下の通りである。好気処理及び嫌気処理された後の被処理水は、多くの嫌気汚泥を含んでいる。この嫌気汚泥の中には、多くのバチルスOY1−2とこの菌によって分解された多くの有機物質が含まれている。そこで、被処理水の返送により、嫌気処理槽Dでの着色物質の分解で馴養されたバチルスOY1−2が好気処理槽Cに戻される。このことにより、好気処理槽Cにおいて着色物質の分解効果に優れたバチルスOY1−2の増殖が図られる。
【0049】
また、被処理水中に含有される各種有機物質は、好気処理槽C及び嫌気処理槽Dで分解されて分子量が小さくなり、これらの有機物質は、返送された好気処理槽CにおいてバチルスOY1−2の栄養成分として有効に働き、バチルスOY1−2の増殖を促進する。
【0050】
ここで、被処理水返送配管3を介して嫌気処理槽Dから好気処理槽Cに返送される被処理水の返送量は、廃水供給配管2を介してpH調整槽Bから好気処理槽Cに供給される着色廃水の流入量Z(L/時)の40(%)を超えない量であることが好ましい。すなわち、被処理水供給配管4を介して好気処理槽Cに供給される被処理水の流入量W(L/時)と着色廃水の流入量Z(L/時)とは、上述のように、式(3)の関係にあることが好ましい。
【0051】
W ≦ 1.4Z ・・・(3)
この式(3)の関係を満足することにより、着色物質の分解効果に優れたバチルスOY1−2を効率よく増殖することができる。このことにより、着色廃水処理装置Aにおいて、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0052】
被処理水の返送量が着色廃水の流入量Zの40(%)を超える場合(W>1.4Z)には、好気処理槽Cに流入する被処理水の量が多くなり、また、被処理水中の着色物質の量が少なくなって、着色廃水処理装置Aの脱色効率が悪くなる。なお、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水の返送を行わない場合には、好気処理槽Cに供給される被処理水の流入量Wは、着色廃水の流入量Zと同一となり、W=Zとなる。
【実施例1】
【0053】
次に、上記実施形態において構成された着色廃水処理装置Aを繊維染色工場に設置し、当該工場の実際の染色廃水(以下、「原水」という)を用いて、着色廃水の脱色効果を確認した。
(実施例1〜3)
着色廃水処理装置Aにおいて、pH調整槽Bの容量を40(L)、好気処理槽Cの容量を40(L)、嫌気処理槽Dの容量を160(L)とし、pH調整槽Bにおいて、原水のpHを7〜8、水温を30(℃)に調整した。
【0054】
実施例1〜3においては、廃水供給配管2を介してpH調整槽Bから好気処理槽Cに供給される着色廃水の流入量Zを25(L/時)とし、嫌気処理槽Dから好気処理槽Cへの被処理水の返送は行わなかった。また、実施例1〜3においては、曝気装置Eから好気処理槽Cへの空気吐出量を好気処理槽Cの容量の1(m3)当りに対して、それぞれ、0.05、0.1及び0.2(m3/分)と変化させて実験を行った。
【0055】
なお、実施例1〜3に対して、それぞれ、2週間の連続運転を行い、そのうち第1週を馴養期間、第2週を測定期間とした。第1週の馴養期間当初に所定量のバチルスOY1−2の種菌を好気処理槽Cに投入し、その後の2週間の連続運転中、バチルスOY1−2の追加投入は行わなかった。
【0056】
また、第2週の測定期間において、下記に示す各項目を測定し、その平均値で評価した。実施例1〜3に対する実験条件、上記式(1)〜(3)との関係、及び、各測定値(平均値)を表1に示す。
〈測定項目〉
原水の着色度、放流水の着色度、及び、脱色率(%)
好気処理槽Cの被処理水のDO(mg/L)
嫌気処理槽Dの被処理水のORP(mV)
好気処理槽C及び嫌気処理槽Dの各被処理水のバチルスOY1−2の菌数(個/ml)
ここで、脱色率(%)は、原水の着色度をMとし、放流水の着色度をNとすると、下記の式(7)で導かれる。
【0057】
脱色率(%)=〔(M−N)/M〕×100・・・(7)
(比較例1及び2)
上記実施例1〜3に対して、曝気装置Eから好気処理槽Cへの空気吐出量を好気処理槽Cの容量の1(m3)当りに対して、それぞれ、0.025及び0.25(m3/分)と変化させた以外は上記実施例1〜3と同様にして、比較例1及び2の実験を行った。比較例1及び2に対する実験条件、上記式(1)〜(3)との関係、及び、各測定(平均値)を表1に示す。
【0058】
【表1】

表1において、実施例1〜3は、いずれも、式(1)〜式(3)を満足している。また、空気吐出量が0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内にあることにより、好気処理槽CのDOが2(mg/L)以下となっている。更に、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が一般に脱色に必要とされる0.1×107(個/ml)より多く増殖している。また、嫌気処理槽DのORPが脱色に特に有効な−280〜−400(mV)の範囲以内となっている。その結果、実施例1〜3は、いずれも、脱色率が70(%)以上を示し、良好な状態にあると評価できる。
【0059】
これに対して、比較例1においても、式(1)〜式(3)を満足している。しかし、空気吐出量が0.025(m3/分)と少ないことにより、好気処理槽CのDOが2.3(mg/L)と高くなっている。このことは、空気吐出量の不足からバチルスOY1−2の増殖が十分に行われず、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が0.073×107(個/ml)と少なくなり、バチルスOY1−2による酸素消費が行われなくなって好気処理槽CのDOが高くなっていることを示している。
【0060】
このように、比較例1は、バチルスOY1−2の菌数が少ないことに加え、高いDOをもつ被処理水が嫌気処理槽Dに流入する。このことから、嫌気処理槽Dにおいて適切な嫌気状態が維持できず、嫌気処理槽DのORPが−230(mV)と高くなっている。その結果、比較例1は、脱色率が55.0(%)と低くなって、不良な状態にある。
【0061】
また、比較例2においても、式(1)〜式(3)を満足している。しかし、比較例1とは逆に、空気吐出量が0.25(m3/分)と多いことにより、好気処理槽CのDOが2.6(mg/L)と非常に高くなっている。この比較例2においては、空気吐出量が十分にあることからバチルスOY1−2の増殖が激しく行われ、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が58.0×107(個/ml)と非常に多くなっている。
【0062】
しかし、この比較例2の場合には、非常に高いDOをもつ被処理水が嫌気処理槽Dに流入する。このことから、嫌気処理槽Dにおいて適切な嫌気状態が十分に維持できず、多くのバチルスOY1−2を含有するにもかかわらず、脱色効果が不十分となる。また、嫌気処理槽DのORPも−250(mV)と高くなる。その結果、比較例2は、脱色率が62.2(%)と低くなって、不良な状態にある。
【0063】
ここで、好気処理槽Cへの空気吐出量と、脱色率或いはDOの関係を詳細に検討する。表1の各測定値から、空気吐出量と脱色率の関係を図2に示す。また、空気吐出量とDOの関係を図3に示す。
【0064】
図2において、空気吐出量が0.05〜0.23(m3/分)の範囲以内において脱色率が70%を維持している。一方、図3において、空気吐出量0.03〜0.21(m3/分)の範囲以内においてDOが2(mg/L)以下となっている。
【0065】
これらのことから、空気吐出量が0.03以上0.05未満の範囲においては、比較例1と同様に、空気吐出量の不足からバチルスOY1−2の増殖が十分に行われず、好気処理槽Cから嫌気処理槽Dに送られるバチルスOY1−2の菌数が少なくなり、脱色率が低くなるものと考えられる。従って、この範囲においては、DOが2(mg/L)以下と低くても本発明の目的を達成することはできない。
【0066】
一方、空気吐出量が0.21を超えて0.23以下の範囲においては、空気吐出量がバチルスOY1−2の増殖に十分あり、DOが2(mg/L)を多少超えても高い脱色率を維持しているものと考えられる。しかし、この範囲は、比較例2と条件が近く着色廃水処理装置Aの定常運転上、不安定な領域と考えられる。
【0067】
以上のことから、本発明においては、好気処理槽Cへの空気吐出量を0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内にすることが好ましい。
(実施例4〜6)
次に、上記実施例1〜3と同一の着色廃水処理装置Aを使用して、実施例4〜6の実験を行った。実施例4〜6においては、廃水供給配管2を介してpH調整槽Bから好気処理槽Cに供給される着色廃水の流入量Zを上記実施例1〜3と同じく25(L/時)とした。一方、実施例4〜6においては、嫌気処理槽Dから好気処理槽Cへの被処理水の返送率を上記流入量Zの10、20及び40(%)と変化させて実験を行った。また、実施例4〜6においては、曝気装置Eから好気処理槽Cへの空気吐出量を好気処理槽Cの容量の1(m3)当りに対して、いずれも、0.1(m3/分)と同一条件にして実験を行った。その他の条件は、上記実施例1〜3と同様であった。
【0068】
実施例4〜6に対する実験条件、上記式(1)〜(3)との関係、及び、各測定値(平均値)を表2に示す。
(比較例3)
上記実施例4〜6に対して、好気処理槽Cの容量を30(L)と小さくした以外は上記実施例5と同様にして、比較例3の実験を行った。比較例3に対する実験条件、上記式(1)〜(3)との関係、及び、各測定値(平均値)を表2に示す。
【0069】
【表2】

表2において、実施例4〜6は、いずれも、式(1)〜式(3)を満足している。また、空気吐出量が0.1(m3/分)であることにより、好気処理槽CのDOが2(mg/L)以下となっている。更に、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が脱色に必要とされる0.1×107(個/ml)より多く増殖している。また、嫌気処理槽DのORPが脱色に特に有効な−280〜−400(mV)の範囲以内となっている。
【0070】
また、実施例4〜6は、いずれも、嫌気処理槽Dで嫌気処理された被処理水の一部を好気処理槽Cに返送している。そのため、被処理水の流入量Wが多くなり、好気処理槽滞留時間X/Wが実施例1〜3に比べ短くなっている。但し、式(1)は満足している。また、嫌気処理槽Dから返送された被処理水中には、嫌気処理槽Dでの着色物質の分解で馴養されたバチルスOY1−2が多く含まれ、これらのバチルスOY1−2が好気処理槽Cで培養される。その結果、実施例4〜6は、いずれも、脱色率が70(%)を大きく上回る値を示し、非常に良好な状態にあると評価できる。
【0071】
特に、実施例5は、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が22.0×107(個/ml)と多く、また、放流水の着色度が80を示している。従って、実施例5は、特に良好な状態にあると評価できる。この実施例5は、実施例4より被処理水の返送率が大きく、逆に、実施例6より被処理水の返送率が小さくなっている。よって、被処理水の返送率が脱色効果に影響することが認められる。
【0072】
これに対して、比較例3は、好気処理槽Cの容量が小さくなった結果、式(1)及び式(2)を満足することができない。特に、式(1)において、好気処理槽滞留時間が短くなってバチルスOY1−2の増殖が十分に行われず、好気処理槽CのバチルスOY1−2の菌数が0.055×107(個/ml)と少なくなっている。その結果、比較例3は、脱色率が65.2(%)と低くなって、不良な状態にある。
【0073】
ここで、好気処理槽Cの滞留時間と脱色率との関係を詳細に検討する。表2及び一部表1の各測定値から、滞留時間と脱色率の関係を図4に示す。
【0074】
図4において、好気処理槽Cの滞留時間が1.05〜1.1(時間)の範囲以内において脱色率が70%を維持している。しかし、この範囲は、比較例3と条件が近く着色廃水処理装置Aの定常運転上、不安定な領域と考えられる。このことから、本発明においては、好気処理槽の滞留時間を上記式(1):X/W≧1.1を満足する、1.1(時間)以上にすることが好ましい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の着色廃水処理装置Aは、好気処理槽Cにおいて、常にバチルスOY1−2の増殖が図られるので、原則として運転期間中にバチルスOY1−2の追加投入をする必要がない。また、微生物を担持するための固定化担体や菌体用の特別な培養槽を必要としない。従って、工程が簡単で余分なコストを必要としない。
【0076】
また、着色廃水処理装置Aは、上流部に位置する好気処理槽Cにおいて、バチルスOY1−2を増殖する好気処理を行う。このとき、好気処理槽Cが具備する曝気手段Eからの空気吐出量を所定の範囲以内に調整する。このことにより、短時間に効率よくバチルスOY1−2の増殖を行うことができる。
【0077】
また、着色廃水処理装置Aは、好気処理槽Cに流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽Cの容量Xとの関係が上記式(1)を満足する。このことにより、好気処理槽における被処理水の滞留時間が十分に確保される。その結果、好気処理槽Cにおいて、短時間に効率よくバチルスOY1−2の増殖を行うことができる。
【0078】
また、着色廃水処理装置Aは、下流部に位置する嫌気処理槽Dにおいて、被処理水中の着色物質をバチルスOY1−2で分解する嫌気処理を行う。このとき、好気処理槽Cに流入する被処理水の流入量Wと好気処理槽Cの容量Xとの関係が上記式(1)を満足し、更に、好気処理槽Cの容量Xと嫌気処理槽Dの容量Yとの関係が上記式(2)を満足することにより、嫌気処理槽内の嫌気性雰囲気が維持され、嫌気処理槽Dにおける被処理水の滞留時間が十分に確保される。このことにより、嫌気処理槽Dにおいて、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0079】
また、着色廃水処理装置Aは、嫌気処理槽Dの被処理水の酸化還元電位(ORP)を所定の範囲以内に調整するようにする。このことにより、バチルスOY1−2による着色物質の分解が促進され、嫌気処理槽Dにおいて、短時間に効率よく着色物質の脱色を行うことができる。
【0080】
また、着色廃水処理装置Aは、嫌気処理槽Dから排出される被処理水の一部を好気処理槽Cに返送することができる。このことにより、嫌気処理槽Dでの着色物質の分解で馴養されたバチルスOY1−2が好気処理槽Cに戻される。このことにより、好気処理槽Cにおいて、着色物質の分解効果に優れたバチルスOY1−2の増殖が図られる。このとき、好気処理槽Cに流入する被処理水の流入量Wと当該被処理水に含有される着色廃水の流入量Zとの関係が上記式(3)を満足するようにする。このことにより、着色廃水処理装置Aは、着色物質の脱色を短時間により効率よく行うことができる。
【0081】
このように、本実施形態においては、微生物を担持するための固定化担体を用いることなく工程が簡単で余分なコストを必要とせず、また、着色廃水に含まれる着色物質を短時間に効率よく脱色処理することのできる着色廃水処理方法を提供することができる。また、本実施形態においては、上記着色廃水処理方法に使用する着色廃水処理装置を提供することができる。
【0082】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記実施形態においては、着色廃水処理装置は、好気処理槽を単槽、嫌気処理槽を2槽にして構成しているが、各処理槽の構成はこれに限定されるものではない。例えば、好気処理槽を2〜3槽、また、嫌気処理槽を3〜6槽など、どのような組み合わせであってもよい。槽の数を調整することにより、流入する被処理水の流量の変動や各処理槽中の好気性雰囲気或いは嫌気性雰囲気の変動に対して安定に対処することができる。
(2)上記実施形態においては、特にアゾ系染料に対して活性の大きなバチルスOY1−2を使用するものであるが、このバチルスOY1−2に加え、アゾ系染料以外の染料に対して活性の大きな微生物或いは染料以外の他の有機物質に対して活性の大きな微生物を併用するようにしてもよい。このことにより、バチルスOY1−2が分解を得意としない他の物質の分解を同時に行うことが可能となり、より、脱色効果を向上することができる。
(3)上記実施形態においては、着色廃水処理装置のみで繊維染色廃水を処理するものであるが、この着色廃水処理装置の前或いは後に、従来の廃水処理装置、例えば、凝集沈殿処理槽、加圧浮上処理槽、活性汚泥槽などを組み合わせて、脱色効果に加えてBOD、CODの更なる低減を図るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0083】
A…着色廃水処理装置、B…pH調整槽、C…好気処理槽、D…嫌気処理槽、E…曝気装置、1、2…廃水供給配管、3…被処理水返送配管、4、5…被処理水供給配管、6…放流水排出配管。
【受託番号】
【0084】
FERM BP−5261

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気処理槽と嫌気処理槽とを組み合わせて着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理する着色廃水処理方法であって、
前記好気処理槽において、
前記着色廃水を含有し外部から流入する被処理水を好気性雰囲気として当該被処理水中で着色物質分解菌を増殖する好気処理を行う好気処理工程と、
この好気処理工程後に前記嫌気処理槽において、
前記好気処理槽から流入する前記被処理水を嫌気性雰囲気として当該被処理水中で前記着色物質を前記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う嫌気処理工程とを備えて、
前記着色物質分解菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するBacillus OY1−2(FERM BP−5261)であって、
前記好気処理工程において、前記好気処理槽内の好気性雰囲気を維持するために、前記好気処理槽内に空気を供給する曝気処理を行い、
この曝気処理による空気吐出量は、前記好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内であって、
前記好気処理槽に流入する被処理水の単位時間当たりの流入量W(L/時)と、前記好気処理槽の容量X(L)と、前記嫌気処理槽の容量Y(L)との関係が下記の式(1)及び式(2)、
X/W ≧ 1.1 ・・・(1)
2X ≦ Y ≦ 4X ・・・(2)
を満足することを特徴とする着色廃水処理方法。
【請求項2】
前記嫌気処理工程において、前記嫌気処理槽中の被処理水の酸化還元電位(ORP)は、−280〜−400(mV)の範囲以内であることを特徴とする請求項1に記載の着色廃水処理方法。
【請求項3】
前記好気処理工程において、前記好気処理槽に流入する被処理水の一部として、前記嫌気処理工程後に前記嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を前記好気処理槽に返送するようにして、
前記好気処理槽に流入する被処理水の前記流入量W(L/時)と、当該被処理水に含有される前記着色廃水の流入量Z(L/時)との関係が下記の式(3)、
W ≦ 1.4Z ・・・(3)
を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の着色廃水処理方法。
【請求項4】
着色廃水に含まれる着色物質を脱色処理するための着色廃水処理装置であって、
前記着色廃水を含有し外部から流入する被処理水を好気性雰囲気として当該被処理水中で着色物質分解菌を増殖する好気処理を行う好気処理槽と、
この好気処理槽の下流部に連設されて、前記好気処理槽から流入する前記被処理水を嫌気性雰囲気として当該被処理水中で前記着色物質を前記着色物質分解菌で分解する嫌気処理を行う嫌気処理槽とを備えて、
前記着色物質分解菌は、バチルス属(Bacillus属)に属するBacillus OY1−2(FERM BP−5261)であって、
前記好気処理槽は、その内部に空気を供給する曝気手段を具備しており、
この曝気手段は、前記好気処理槽の容量の1(m3)当りに対して、0.05〜0.21(m3/分)の範囲以内の空気吐出量を有しており、
前記好気処理槽に流入する被処理水の単位時間当たりの流入量W(L/時)と、前記好気処理槽の容量X(L)と、前記嫌気処理槽の容量Y(L)との関係が下記の式(4)及び式(5)、
X/W ≧ 1.1 ・・・(4)
2X ≦ Y ≦ 4X ・・・(5)
を満足することを特徴とする着色廃水処理装置。
【請求項5】
前記好気処理槽に流入する被処理水の一部として、前記嫌気処理槽から排出される被処理水の一部を前記好気処理槽に返送する返送手段を備えて、
この返送手段は、前記好気処理槽に流入する被処理水の前記流入量W(L/時)と、当該被処理水に含有される前記着色廃水の流入量Z(L/時)との関係が下記の式(6)、
W ≦ 1.4Z ・・・(6)
を満足するように前記嫌気処理槽から前記被処理水を返送することを特徴とする請求項4に記載の着色廃水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−224415(P2011−224415A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93650(P2010−93650)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【特許番号】特許第4536158号(P4536158)
【特許公報発行日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】