説明

着色結晶化ガラス物品及びその製造方法

【課題】1種類の結晶性ガラス材質を用い、結晶化粒子の白い斑点模様がなく、従来と同量の着色剤で、従来品よりも濃く、均一な色調を実現する建材に好適な着色結晶化ガラス物品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の着色結晶化ガラス物品10は、複数のガラス小領域Sが互いに融着しており、ガラス小領域間の界面Kから内部に向けて針状の結晶Nが析出し、且つ界面Kから内部に向けて着色する金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有してなり、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上である。また本発明の製造方法は、融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける平均透過率が35%以上となる結晶性ガラス小体に、金属酸化物の着色剤を0.01〜3質量%混合して耐火容器内に集積し、軟化点よりも高い温度で熱処理するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内装材及び装飾材として好適な着色結晶化ガラス物品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のガラス製建材の動向として、白を基調とする色以外に、多品種の濃い色の建材が着目されている。従来の結晶化ガラス物品の着色方法は、ガラス溶融時に金属酸化物を添加する生地体着色方法が主に実施されてきた。一方、少量多品種に対応するため、結晶化後に白色になる素材ガラスを小さい粒径に粉砕し、無機顔料を混ぜて焼結する方法が用いられている。例えば、特許文献1には、結晶状態の相違によって各部分が異なる透過率を有しており、その透過率差に基づいて模様が現出している模様入り結晶化ガラスが開示されている。この模様入り結晶化ガラスを製造する際に、ガラス小体の原料中に着色酸化物を添加すること、あるいはガラス小体の表面に無機顔料粉末を付着させることにより、模様入り結晶化ガラスに着色を施すことが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、結晶化度が高く透光性が低くなる従来の結晶性ガラス小体と、厚さ1mmにおける平均透過率が35%以上である透光性結晶化ガラスの粗砕物のそれぞれの複数個を混合して耐火物製の型枠内に集積し、熱処理することによって、透光性のある部分を有する天然石模様の結晶化ガラスが得られる模様入り結晶化ガラスの製造方法が開示されている。また、この模様入り結晶化ガラスに、着色酸化物、無機顔料粉末により着色を施すことが開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、熱処理後に厚さ1mmにおける平均透過率が35%以上である透光性結晶化ガラスとなる結晶性ガラス小体と、結晶化ガラス粗砕物のそれぞれの複数個を混合して耐火物製の型枠内に集積し、熱処理することによって、透光性のある部分を有する天然石模様の結晶化ガラスが得られる模様入り結晶化ガラスを製造する方法が開示されている。また、この模様入り結晶化ガラスに、着色酸化物、無機顔料粉末により着色を施すことが開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、失透化物質と着色剤とガラスとからなる原料組成を加熱溶融して成る着色フリットを焼結する人工石材の製造方法が開示されている。また、特許文献5には、軟化点よりも高い温度の熱処理により表面から内部に向かって針状の結晶を析出する複数のガラス小体の表面に無機顔料を付着させ、集積し、軟化点よりも高い温度で熱処理して、ガラス小体を相互に融着一体化させるとともに表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる着色結晶化ガラスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−163042号公報
【特許文献2】特開平5−163035号公報
【特許文献3】特開平5−163033号公報
【特許文献4】特開昭62−158134号公報
【特許文献5】特開平1−157432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の従来の結晶化ガラス物品では、2種類以上のガラス材質を用いるか、あるいは、結晶性の高いガラス材質を用いたため、図3(a)の写真に示す結晶化ガラス物品1の意匠面1aに、結晶化した粒子の白色斑点1bが必ず存在し、均一な単色の色調にならない。また、結晶化ガラス物品1の意匠面1aを研磨すると図3(b)の写真に示す結晶化ガラス物品2の意匠面2aのように色が薄くなる。すなわち、L*a*b*表色系色度における明度のL*値が増大するなどの外観上好ましくない色調になるなどの課題があった。また、従来の結晶化ガラス物品の製造方法では、採算面から、一度に大量の素材ガラスをつくらなければならないので、複数種類の結晶性ガラス材料を大量に製造すると製造コストが上昇する問題点もある。
【0008】
また、特許文献4に記載の従来の結晶化ガラス物品では、失透化物質がフッ化物のコロイド状結晶を析出させるものであるため、色むらの問題がある。また、特許文献5に記載の従来の結晶化ガラス物品では、白色斑点が生じ、外観上の問題がある。
【0009】
上記の問題点に鑑み、本発明の課題は、1種類の材質の結晶性ガラス材料を用い、白い結晶化粒子の斑点模様をなくし、従来品と同じ着色剤の量で、従来品よりも濃く、均一な単色の色調にすることができ、また研磨後において、従来品よりも明度L*値の増大が少なく、かつ従来品よりも明度L*値のバラツキを小さくすることができる着色結晶化ガラス物品及びその製造方法を供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る着色結晶化ガラス物品は、複数のガラス小領域が互いに融着しており、ガラス小領域間の界面から内部に向けて針状の結晶が析出している結晶化ガラスにより構成されてなり、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有し、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上であることを特徴とする。
【0011】
着色結晶化ガラス物品の厚さ1mmにおける可視光波長である400〜700nmの範囲の平均透過率が15%未満であると、ガラス小領域の界面付近に多く存在する金属酸化物よりなる着色剤の発色が意匠面に十分に現れず、表面近くの着色剤しか外観として貢献せず、薄い発色のものになる。本発明の着色結晶化ガラス物品を構成する着色された結晶化ガラスとしては、厚さ1mmにおける波長400〜700nmの範囲の平均透過率が15%以上であることが、ガラス小領域の界面付近に多く存在する着色剤の発色をより良く見せる上で重要である。また、発色を濃くしてより鮮やかな外観を実現する上で、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が20%以上であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の建築用結晶化ガラス物品で、ガラス小領域間の界面から内部に向かって針状の結晶を析出している結晶化ガラスとしては、建材として要求される強度を有する点、及び大理石様の外観を呈する点で、β−ウォラストナイトを析出する結晶化ガラスが好適である。また、本発明において結晶化ガラスとしては、建築用結晶化ガラス物品の可視光平均透過率が15%以上であれば、製造コストの抑制が容易な1種類の結晶化ガラス材質を使用したものに限らず、2種類以上の透光性の結晶化ガラス材質を使用したものであってもよい。
【0013】
また、本発明において、着色結晶化ガラス物品を構成するガラス小領域の寸法が0.1mm未満であると、ガラス粉砕時における異物の混入の確率が高く、発色が汚れる傾向になる。一方、ガラス小領域の寸法が3.0mmを超えると結晶化後の表面に色ムラが生じる傾向になる。また、意匠面が未研磨面であると、表面粗さが0.7μmを超える傾向になり平滑面とならない。本発明の着色結晶化ガラス物品を構成するガラス小領域の寸法としては、0.1〜3.0mmであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品において、ガラス小領域間の界面に、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有してなるとは、着色剤として機能するCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrO等の結晶化ガラスの非晶質ガラス部との溶融性に優れる金属酸化物を、ガラス小領域間の界面からその内部の非晶質ガラス部に向けて着色結晶化ガラス物品の質量に対して0.01〜3質量%含有していることを意味している。着色剤0.01質量%未満であると、十分な発色が得られない。一方、3質量%を超えると、着色費用が嵩み、費用がかかる割には発色が良くならず、不経済である。本発明の着色結晶化ガラス物品では、ガラス小領域間の界面から小領域の内部に向けて、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有してなることが重要である。
【0015】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品は、結晶化ガラスが、質量%でSiO 57〜62%、Al 6〜7%、CaO 9〜11%、ZnO 6〜8%、BaO 10〜12%、KO 2〜3%、NaO 2〜4% B 0.2〜0.4%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有するものであることを特徴とする。
【0016】
SiOが62%より高いとガラスの溶融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる傾向になる。一方、57%より少ないと成型時の失透性が強くなる傾向になる。SiOの含有量は57〜62%であることが好ましい。
【0017】
Alが7%より多いとガラスの溶解性が悪くなるとともに異種結晶(例えば、アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなる傾向になる。一方、Alが6%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する傾向になる。Alの含有量は6〜7%であることが好ましい。
【0018】
CaOが11%よりも多いと失透性が強くなり成形が困難となる傾向になり、又β−ウォラストナイト結晶の析出量が多くなり過ぎて所望の表面平滑性が得難くなる。一方、CaOが9%より少ないとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下する傾向になる。CaOの含有量は9〜11%であることが好ましい。
【0019】
ZnOは結晶化時のガラスの流動性を促進するために添加する成分である。結晶化ガラスのZnOが8%より多いとβ−ウォラストナイト結晶が析出し難くなる傾向になる。ZnOの含有量は6〜8%であることが好ましい。
【0020】
BaOもZnOと同様のガラスの流動性を促進する効果を示す成分である。結晶化ガラスのBaOが10%より少ないと、流動性が悪くなり、表面平滑性が得られない傾向になる。一方、BaOが12%より多いとβ−ウォラストナイト結晶の析出量が少なくなる傾向になる。BaOの含有量は10〜12%であることが好ましい。
【0021】
NaOが4%よりも多いと科学的耐久性が悪くなり、かつ膨張係数が高くなる傾向になり、好ましくない。2%より少ないとガラスの粘性が増大して溶解性や流動性が悪くなる傾向になる。NaOの含有量は、2〜4%であることが好ましい。
【0022】
Oが3%より多いと化学的耐久性が低下する傾向になる。KOの含有量は2〜3%であることが好ましい。
【0023】
が0.2%より少ないと、ガラスの流動性が悪くなり、表面平滑性が得られない傾向になる。一方、Bが0.4%より多いと異種結晶が析出し、所望の特性が得られなくなる傾向になる。Bの含有量は0.2〜0.4%であることが好ましい。
【0024】
Sbは、清澄剤であり、その含有量が0.2%未満であると、ガラスの溶解性が低下し、ガラスの品位が悪化する傾向になる。Sbの含有量は0.2〜0.5%であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品は、着色剤が、遷移金属酸化物のCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrOの何れかを含む無機顔料よりなることを特徴とする。
【0026】
本発明では、着色剤が、遷移金属酸化物のCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrOの何れかを含む無機顔料よりなることが、ガラスの流動性を阻害しない点で好ましい。この着色剤が、Coの場合、青色を呈し、NiOの場合、黄土色を呈し、Feの場合、赤褐色を呈し、MoOの場合、乳白色を呈し、SnOの場合、ピンク色を呈し、ZrOの場合、白色を呈するものになる。また、これらの着色剤を組み合わせることで、様々な色を呈する結晶化ガラス物品を得ることができる。さらに、他の酸化物着色剤と組み合わせて用いると、多くの彩色が可能となる。
【0027】
本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火容器内に、軟化点よりも高い温度の熱処理により表面から内部に向かって針状の結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を集積し、熱処理して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる着色結晶化ガラス物品の製造方法であって、前記結晶性ガラス小体が、融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が35%以上となるものであり、該結晶性ガラス小体に、金属酸化物の着色剤を0.01〜3質量%混合し、前記耐火容器内に集積することを特徴とする。
【0028】
結晶性ガラス小体を融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が35%未満であると、着色結晶化ガラス物品の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%未満になり、着色結晶化ガラス物品の意匠面のガラス小領域の裏側界面付近に多くに位置する着色剤の発色が、透光性の低い結晶化ガラスよりなるガラス小領域に邪魔されて、ガラス小領域の部分が白くなり、明度L*値が所望しない大きい値になってしまう。本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法では、結晶性ガラス小体が、融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が35%以上となることが、着色結晶化ガラス物品の明度L*値の増大を少なくし、かつ明度L*値のバラツキを小さくする上で重要である。
【0029】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法は、粒径が0.1〜3.0mmの結晶性ガラス小体を用いることを特徴とする。
【0030】
着色結晶化ガラス物品を形成するための結晶性ガラス小体の粒径が0.1mm未満であると、ガラス粉砕時における異物の混入の確率が高く、発色が汚れる傾向になる。一方、結晶性ガラス小体の粒径が3.0mmを超えると、結晶化後の意匠面に色ムラが生じる傾向になる。また、意匠面が未研磨面であると、表面粗さが0.7μmを超える傾向になり平滑面とならない。本発明の着色結晶化ガラス物品を形成するための結晶性ガラス小体としては、粒径が0.1〜3.0mmであることが好ましく、発色の均質性を向上させる上で、より好ましくは、0.3〜2.0mmである。
【発明の効果】
【0031】
本発明の着色結晶化ガラス物品は、複数のガラス小領域が互いに融着しており、ガラス小領域間の界面から内部に向けて針状の結晶が析出している結晶化ガラスにより構成されてなり、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有し、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上であるので、製造コストの抑制が可能な1種類の結晶性ガラス材質のみを用いて、白い結晶化粒子の斑点模様をなくし、従来方法と同じ着色剤の量で、従来品よりも濃い発色で、均一な色調にすることができる。
【0032】
また、本発明によれば、研磨された後の着色結晶化ガラス物品において、従来の方法よりも明度のL*値の増大が少なく、かつ明度L*値のバラツキを従来品よりも小さくすることができる。
【0033】
さらに、本発明の着色結晶化ガラス物品は、ガラス小領域の寸法が0.1〜3.0mmであるため、熱処理された後の意匠面は、色ムラの見られない均質な発色が可能となる。また、意匠面が未研磨面であっても、表面粗さのRa値が0.7μm以下の平滑面となる。
【0034】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品を構成する結晶化ガラスは、質量%でSiO 57〜62%、Al 6〜7%、CaO 9〜11%、ZnO 6〜8%、BaO 10〜12%、KO 2〜3%、NaO 2〜4% B 0.2〜0.4、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有するものであるので、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有させた場合でも、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上となり、界面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数のガラス小領域が互いに融着している発色性に優れた着色結晶化ガラス物品を容易に実現することができる。
【0035】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品は、着色剤が、遷移金属酸化物のCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrOの何れかを含む無機顔料よりなるので、セラミックス製のピグメント等とは異なり結晶化ガラスを構成する非晶質ガラス部への溶融性に優れ、適度な透光性を維持して鮮やかな発色の着色結晶化ガラス物品を実現することができる。
【0036】
本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火容器内に、軟化点よりも高い温度の熱処理により表面から内部に向かって針状の結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を集積し、熱処理して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる着色結晶化ガラス物品の製造方法であって、前記結晶性ガラス小体が、融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が35%以上となるものであり、該結晶性ガラス小体に、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%混合し、前記耐火容器内に集積するので、上記本発明の着色結晶化ガラス物品を高い品質を維持しつつ、効率よく製造することができる。
【0037】
また、本発明の着色結晶化ガラス物品の製造方法は、粒径が0.1〜3.0mmの結晶性ガラス小体を用いるので、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上となり、界面から内部に向かって針状の結晶が析出した寸法が0.1〜3.0mmの複数のガラス小領域が互いに融着してなる強度及び発色性がともに優れた上記本発明の着色結晶化ガラス物品を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の着色結晶化ガラス物品の説明図であって、(a)は未研磨品の意匠面の写真、(b)は研磨品の意匠面の写真、(c)は互いに融着したガラス小領域の説明図。
【図2】本発明の着色結晶化ガラス物品及び従来の着色結晶化ガラス物品の可視光領域の透過率を示すグラフ。
【図3】従来の着色結晶化ガラス物品の説明図であって、(a)は未研磨品の意匠面の写真、(b)は研磨品の意匠面の写真。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の着色結晶化ガラス物品及びその製造方法について、以下に実施例をあげて説明する。
【実施例1】
【0040】
本実施例1の図1(a)の写真に示す建材用の着色結晶化ガラス物品10は、縦900mm×横600mm×厚さ15mmの寸法であり、図1(b)の写真は、着色結晶化ガラス物品10の表面を研磨した研磨品試料12を示している。図1(c)に研磨品12の意匠面12aを拡大した模式図で示すように、着色結晶化ガラス物品10及び研磨品試料12は、主結晶として界面Kから内部に向かって針状結晶のβ−ウォラストナイトNが析出している結晶化ガラスよりなり、寸法Dが0.5〜1.8mmの多数のガラス小領域Sが互いに融着した集合体よりなるものである。この着色結晶化ガラス物品10及び研磨品試料12は、軟化点(約800℃)より高い温度で熱処理されることで、その結晶化度が約15%であり、ガラス小領域S間の界面Kから内部の非晶質ガラス部に、青色を発色する、Co、ZnO、Alを主成分とする無機顔料を1質量%含有してなるものである。
【0041】
次に、着色結晶化ガラス物品10の製造方法について説明する。
【0042】
まず、質量%でSiO 60%、Al 6.5%、B 0.5%、CaO 10%、ZnO 6.5%、BaO 11%、NaO 3%、KO 2%、Sb 0.5%の組成となるように調合したガラス原料混合物を1400〜1500℃で16時間溶融する。次いでこの溶融ガラスを水中に投下して水砕した後、得られた水砕物を乾燥後、分級して直径1〜5mmの結晶性ガラス粗粒を作製する。この結晶性ガラス粗粒は、軟化点(約800℃)より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながら表面から針状のβ−ウォラストナイトを主結晶として析出し、結晶化度が約15%で、厚さ1mmにおける平均透過率が55.50%となるものである。(表1中の未着色の試料、及び図2参照)。
【0043】
次に、アルミナ質のロールクラッシャーにて、この結晶性ガラス粗粒を細かく粉砕し、分級して、直径0.5mm〜1.8mmの結晶性ガラス小体を作製する。
【0044】
次に、結晶性ガラス小体を焼成後の厚みで15mmになるように重量を秤量し、無機顔料として、青色を発色する、Co、ZnO、Alを主成分とする無機顔料を1質量%均一に混合し、アルミナ粉が塗布されたムライト製の型枠内に集積した後、1090℃で2時間熱処理したところ、各ガラス小体が互いに軟化融着するとともに結晶化し、表面粗さのRa値が0.7μm以内の平滑な意匠面10aを有する着色結晶化ガラス物品10が得られた。
【0045】
この焼結された着色結晶化ガラス物品10を平面研磨機で研磨して、艶を出した着色結晶化ガラス物品の研磨品12が得られた。
【実施例2】
【0046】
また、本実施例2の着色結晶化ガラス物品として、ガラス小領域間の界面から内部の非晶質ガラス部に、茶色を発色するSnOを主成分とする無機顔料を1質量%含有してなる着色結晶化ガラス物品を作製した。
【0047】
これら本実施例1、2に対する比較例として、透光性の低い結晶化ガラスとなる結晶性ガラスからなる同じ粒度の結晶性ガラス小体を使用して図3に示す従来の着色結晶化ガラス物品1を作製した。
【0048】
上記の実施例1、2及び比較例の厚さ1mmの各試料について、図2に波長300〜800nmの範囲における透過率のグラフを示し、波長400〜700nmの範囲における平均透過率の測定値を表1に示す。また、本実施例1の着色結晶化ガラス物品10、12と従来の着色結晶化ガラス物品の焼成品及び研磨品の4点測色平均による明度L*値と、明度L*値のバラツキRとを測定し比較を行ったので、表1に併せて示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、結晶性ガラス小体のみを使用した未着色の結晶化ガラス物品は、厚さ1mmの可視光平均透過率が55.5%であり、この結晶性ガラス小体に着色剤を混合して青色に着色した図1(a)の意匠面10aが未研磨の焼成面である本実施例1の着色結晶化ガラス物品10は、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が21.22%と、着色品としては過去にない高い透光性(図2参照)を有するものであった。この着色結晶化ガラス物品10は、明度L*が28.4、明度L*のバラツキRが0.7であり、表面粗さのRa値が0.7μm以内の平滑な意匠面10aを有するものであった。また、図1(b)に示す意匠面12aが研磨面である研磨品12の試料は、従来品と同じ顔料濃度で、明度L*が30.9と発色が濃く、明度L*値のバラツキRが1.1で従来品よりも小さいものであった。また、研磨品試料12は、意匠面12aに白い斑点は全くなく、均一な青色を呈し、生地体着色方法に近い濃い着色結晶化ガラス物品である。
【0051】
本実施例2の着色結晶化ガラス物品は、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が20.57%と、透光性(図2参照)に優れており、従来品と同じ顔料濃度で、濃く鮮やかで、かつ均一な茶色を呈するものであった。
【0052】
これらに対して比較例の図3(a)の写真に示す青色に着色した意匠面1aが未研磨の焼成面である従来の着色結晶化ガラス物品1は、厚さ1mmにおいて可視光平均透過率が9.42%と透光性(図2参照)に乏しいものであり、物品内部の発色が表面に現れ難いものであった。この着色結晶化ガラス物品1は、明度L*が42.7、明度のバラツキR=1.7で、白い結晶化粒子の白色斑点1bの模様を有するものであった。また、図3(b)の写真に示す意匠面2aが研磨面である従来の着色結晶化ガラス物品の研磨品2の試料は、明度L*が47.0、明度L*のバラツキRが7.0と色ムラが非常に大きいものであった。
【0053】
本発明の着色結晶化ガラス物品のガラス小領域の寸法は、マイクロメータヘッド付きのスライドテーブルを備えた工具顕微鏡で測定した。また、本発明の着色結晶化ガラス物品の可視光平均透過率の測定は、着色結晶化ガラス物品をスライスし、光学研磨された20×20×1mmの試料を作製し、株式会社島津製作所製分光光度計 UV2500PCを使用して、透過率を測定し、可視光波長の400〜700nmの範囲における平均値を算出した。また、結晶析出量は、株式会社リガク製薄膜X線回折装置を用いて3回積算測定によるX線回折強度によって決定した。さらに、着色結晶化ガラス物品のL*a*b*表色系色度における明度L*値の測定は、日本電色工業株式会社製の測色色差計 X−RITEを使用し、4点測色平均による明度L*値と、L*値のバラツキRとを測定した。また、結晶性ガラス小体の粒度は、標準篩にて分級した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、着色結晶化ガラス物品を対象としているが、本技術思想は透明ガラス、透光性セラミックス、透明プラスチックス等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1、10 着色結晶化ガラス物品(未研磨の焼成品)
1a、10a、2a、12a 意匠面
1b 白色斑点
2、12 着色結晶化ガラス物品の研磨品試料
D ガラス小領域の寸法
K ガラス小領域間の界面
N β−ウォラストナイト(針状結晶)
S ガラス小領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス小領域が互いに融着しており、ガラス小領域間の界面から内部に向けて針状の結晶が析出している結晶化ガラスにより構成されてなり、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%含有し、厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%以上であることを特徴とする着色結晶化ガラス物品。
【請求項2】
ガラス小領域の寸法が0.1〜3.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の着色結晶化ガラス物品。
【請求項3】
結晶化ガラスが、質量%でSiO 57〜62%、Al 6〜7%、CaO 9〜11%、ZnO 6〜8%、BaO 10〜12%、KO 2〜3%、NaO 2〜4% B 0.2〜0.4%、Sb 0.2〜0.5%の組成を含有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の着色結晶化ガラス物品。
【請求項4】
着色剤が、遷移金属酸化物のCo、NiO、Fe、MnO、SnO、ZrOの何れかを含む無機顔料よりなることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の着色結晶化ガラス物品。
【請求項5】
耐火容器内に、軟化点よりも高い温度の熱処理により表面から内部に向かって針状の結晶を析出する複数の結晶性ガラス小体を集積し、熱処理して軟化点よりも高い温度に保持することにより、結晶性ガラス小体を相互に融着一体化させつつ、表面から内部に向かって針状の結晶を析出させる着色結晶化ガラス物品の製造方法であって、
前記結晶性ガラス小体が、融着一体化して結晶析出させた後の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が35%以上となるものであり、該結晶性ガラス小体に、金属酸化物よりなる着色剤を0.01〜3質量%混合し、前記耐火容器内に集積することを特徴とする着色結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項6】
粒径が0.1〜3.0mmの結晶性ガラス小体を用いることを特徴とする請求項5に記載の着色結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202434(P2010−202434A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47750(P2009−47750)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】