説明

着色金属顔料およびその製造方法

【課題】本発明の目的は、耐水性に優れかつ安定な発色に優れた着色金属顔料およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の着色金属顔料は、金属顔料と、該金属顔料の表面に形成された第1被覆層と、該第1被覆層の表面に付着された着色顔料とを含み、該第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、該第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のメタリック塗装仕上げ、プラスチックの装飾仕上げ、印刷インキ等に使用される着色金属顔料に関する。特に、水性塗料あるいは水性インキに使用される耐水性に優れた着色金属顔料に関する。さらに、その着色金属顔料を配合してなる塗料組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム顔料などの金属顔料に着色顔料を付着させた着色金属顔料は、鮮やかな色調が得られるとともに下地色の隠蔽性が良いという点で優れた性能を有しているため、自動車用塗料、プラスチックの加飾、印刷インキ等への応用が検討されている。
【0003】
たとえば、特開昭58−141248号公報(特許文献1)には、メタリック顔料表面に重合性二重結合を有するモノマーからなるポリマーによって着色顔料を均一に付着せしめた着色メタリック顔料、特表平05−508424号公報(特許文献2)には、特に金属である薄片と、その上に保持されて固体着色金属顔料を包み込んだ重合体マトリックスとの組合わせからなる着色顔料、特開平01−315470号公報(特許文献3)には、メタリック顔料の表面に、二重結合を有する1種以上のカルボン酸を熱重合した、1種以上の二重結合と2個以上のカルボキシル基とを有するカルボン酸を介して着色顔料を化学吸着させてなる着色メタリック顔料、特開平09−040885号公報(特許文献4)には、着色顔料100重量部に対し0.2〜100重量部の一塩基性芳香族カルボン酸を着色顔料の表面に被覆させてなることを特徴とする表面処理着色顔料、特開平09−059532号公報(特許文献5)には、表面に有機着色顔料の蒸着層を有する着色金属フレーク顔料、特開平09−124973号公報(特許文献6)には、着色顔料100重量部に対し0.2〜100重量部の分子中に2個のアミノ基を有し、カルボキシル基を持たないアミノ化合物を着色顔料の表面に被覆させてなることを特徴とする表面処理着色顔料、がそれぞれ提案されている。
【0004】
また、特開2006−199920号公報(特許文献7)および特開2005−264144号公報(特許文献8)には、表面に金属水和酸化物層を形成し、さらにその上に酸化鉄などの第2の金属水和酸化物層を設けた高耐腐食性金属光沢干渉発色顔料が開示されている。
【0005】
また、国際公開第2006/090431号パンフレット(特許文献9)には、波長域300−600nmの反射率を低下させるために金属酸化物を付着させた金属顔料の上に着色顔料を付着させた着色金属顔料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−141248号公報
【特許文献2】特表平05−508424号公報
【特許文献3】特開平01−315470号公報
【特許文献4】特開平09−040885号公報
【特許文献5】特開平09−059532号公報
【特許文献6】特開平09−124973号公報
【特許文献7】特開2006−199920号公報
【特許文献8】特開2005−264144号公報
【特許文献9】国際公開第2006/090431号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜6に提案されているような着色金属顔料は、金属顔料表面に直接または特定の化合物を介して着色顔料を付着させその上に樹脂をコーティングして着色顔料を固定するというような構成であったため、耐水性の保護膜として機能する樹脂に欠陥が生じやすくなり、耐水性が不十分であった。とりわけ、上記特許文献3の着色金属顔料は、メタリック顔料(金属顔料)の表面に、熱重合した重合体樹脂が形成された後に着色顔料が化学吸着した構成を有しているため、金属顔料上を着色顔料を含まない樹脂のみで被覆した構造となることから他の特許文献に比べある程度の耐水性の向上は期待できるが、熱重合した重合体樹脂では緻密な被膜を形成させることは困難であった。このため、上記特許文献3による着色金属顔料を用いたとしても、近年の環境対策で増加しつつある水性塗料あるいは水性インキに使用された場合に、着色金属顔料の基材である金属顔料が水と反応して、水素ガスを発生するという問題があった。
【0008】
一方、上記特許文献7〜8に提案されているような着色金属顔料は、水性塗料あるいは水性インキ中で安定であるが、色の発現は各層での光の干渉作用によるものであるため、上記特許文献1〜6に提案されているような着色金属顔料を使用した場合に比べてあまり鮮やかな色調は得られず、さらに色相が限定されるという問題があった。
【0009】
さらに、上記特許文献9に提案されているような着色金属顔料は、金属顔料表面からの反射光による着色顔料の光による劣化を防止することを目的としたものであるため、着色金属顔料の耐水性の向上に寄与する手段を提供するものではなかった。
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐水性に優れかつ安定な発色に優れた着色金属顔料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を種々検討した結果、金属顔料表面にあらかじめ緻密で耐水性に優れた被膜を形成した後に着色顔料を付着させることにより、耐水性に優れかつ安定な発色を有する着色金属顔料を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の着色金属顔料は、金属顔料と、該金属顔料の表面に形成された第1被覆層と、該第1被覆層の表面に付着された着色顔料とを含み、該第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、該第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物であることを特徴とする。
【0013】
ここで、上記着色顔料は、上記第1被覆層上に形成された有機燐酸化合物層の表面に付着していることが好ましく、該有機燐酸化合物層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有する有機燐酸化合物で構成されることが好ましい。
【0014】
また、本発明の着色金属顔料は、上記着色顔料上に、さらに第2被覆層が形成されていることが好ましく、上記金属顔料は、アルミニウム顔料であることが好ましい。
【0015】
また、上記ラジカル重合性樹脂は、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーをラジカル重合させることにより得られることが好ましく、上記第1化合物は、酸化珪素および/またはポリシロキサンの縮合物であることが好ましい。また、上記第2被覆層は、ラジカル重合性樹脂で構成されることが好ましい。
【0016】
さらに本発明は、金属顔料の表面に第1被覆層が形成された被覆金属顔料を準備する第1工程と、該被覆金属顔料の該第1被覆層の表面に着色顔料を付着させる第2工程とを含み、上記第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、該第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物である、着色金属顔料の製造方法にも係わる。
【0017】
ここで、上記製造方法は、上記第1工程の後に、上記被覆金属顔料の該第1被覆層の表面に有機燐酸化合物を吸着させて有機燐酸化合物層を形成する付加工程を含み、上記第2工程は、該付加工程で形成された該有機燐酸化合物層上に着色顔料を付着させるものとすることができる。
【0018】
また、本発明は、上記の着色金属顔料を配合してなる塗料組成物にも係わる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の着色金属顔料は、上記の構成を有することにより、耐水性に優れるので水性塗料あるいは水性インキ中で十分安定でありガス発生の問題を生じることがなく、また安定な発色が得られ、高彩度な意匠が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態を示して本発明をより詳細に説明する。
<着色金属顔料>
本発明の着色金属顔料は、金属顔料と、該金属顔料の表面に形成された第1被覆層と、該第1被覆層の表面に付着された着色顔料とを含む構造を基本構造とする。以下、各構成要素をさらに詳細に説明する。
【0021】
<金属顔料>
本発明の着色金属顔料を構成する金属顔料は、メタリック感を呈するものであれば従来公知の金属顔料をいずれも用いることができ、特に限定されるものではない。たとえば、このような金属顔料としては、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄、ブロンズ、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属により構成される金属顔料およびこれらの金属を含む合金により構成される金属顔料が挙げられる。
【0022】
これらの金属顔料の中でもアルミニウムからなるアルミニウム顔料は、反射率が高く金属光沢に優れ、安価な上に比重が小さいため扱いやすく、特に好適である。なお、このような金属顔料には、無機化合物粒子(ガラス、マイカ、およびアルミナまたはチタニアなどのセラミックス粒子等)の表面にめっき等により金属による被膜を形成することによりメタリック感を呈するようにした粒子も含まれる。
【0023】
以下、このような金属顔料として特に好適なアルミニウム顔料について説明する。ここで、本発明に用いるアルミニウム顔料の組成としては、アルミニウムのみから構成されていてもよいし、またアルミニウム基合金から構成されていてもよく、アルミニウムの純度は特に限定されない。
【0024】
また、本発明に用いるアルミニウム顔料の形状は、粒状、板状、塊状、フレーク状(鱗片状)などの種々の形状のものを用いることができるが、塗膜に優れたメタリック感および輝度を与えるためにはフレーク状であることが好ましい。
【0025】
そして、本発明に用いるアルミニウム顔料の平均粒径は、特に限定されるものではないが、1μm以上であることが好ましく、特に5μm以上であればより好ましい。また、この平均粒径は、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であればより好ましい。
【0026】
平均粒径が1μm以上である場合、製造工程での取り扱いが容易であり、アルミニウム顔料は凝集しにくい傾向を示し、平均粒径が100μm以下である場合、塗料として使用した場合に塗膜表面が荒れるのを防止でき、好ましい意匠を実現できる。
【0027】
さらに、本発明に用いるアルミニウム顔料の平均厚みは、特に限定されるものではないが、0.02μm以上であることが好ましく、特に0.1μm以上であることがより好ましい。また、平均厚みは、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であればより好ましい。この平均厚みが0.02μm以上である場合、製造工程の容易さの点で有利であり、平均厚みが5μm以下である場合、塗膜等のコーティング組成物の外観の点で有利である。
【0028】
ここで、本発明に用いるアルミニウム顔料の平均粒径は、レーザー回折法などの公知の粒度分布測定法により測定された粒度分布に基づき、その体積平均を算出して求められる。また、平均厚みについては、アルミニウム顔料の隠ぺい力と密度より算出される。
【0029】
また、本発明に用いるアルミニウム顔料の表面には、粉砕助剤が付着していてもよい。このような粉砕助剤としては、従来公知のものを特に限定することなく用いることができる。
【0030】
また、本発明に用いるアルミニウム顔料を得る方法としては、特に限定されず、たとえばボールミルやアトライターミルの中で粉砕媒体の存在下、原料となるアルミニウム粉末を脂肪酸等の粉砕助剤を用いて粉砕もしくは磨砕することにより製造されるものでもよいし、フィルム上にアルミニウムを蒸着させたアルミニウム蒸着箔を破砕することにより得られるものでもよい。上記粉砕媒体としては、ミネラルスピリット、ソルベントナフサなどの高引火点の鉱物油を使用することができる。
【0031】
なお、以上の説明は、アルミニウム顔料以外の金属顔料についても同様である。
<第1被覆層>
本発明の第1被覆層は、上記の金属顔料の表面に形成され、金属顔料を緻密に被覆することにより耐水性を付与する作用を有するものである。このような第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成される。なお、ここでいう耐水性とは、着色金属顔料を水性塗料や水性インキ中に配合する等して水分と接触させた場合に、ガスの発生を抑制する作用をいう。
【0032】
なお、第1被覆層は、金属顔料の全表面を被覆していることが好ましいが、製造条件等により、金属顔料の表面の一部が第1被覆層により被覆されていなかったとしても、本発明の効果を示す限り本発明の範囲を逸脱するものではない。
【0033】
<ラジカル重合性樹脂>
ラジカル重合性樹脂は、上記の特許文献3のような熱重合樹脂に比し、極めて緻密な被膜を形成することができるため、耐水性を飛躍的に向上させることができる。
【0034】
ここで、ラジカル重合性樹脂とは、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーがラジカル重合することにより高分子化し、樹脂状となったものをいう。したがって、このようなラジカル重合性樹脂は、このように少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーをラジカル重合させることにより得られるため、上記の金属顔料上またはその周辺でこのようなラジカル重合を実行することにより、金属顔料の表面にラジカル重合性樹脂からなる第1被覆層を形成することができる。このようなラジカル重合性樹脂の形成により金属顔料の表面に安定で緻密な被覆層が形成されるので、最終的に得られる着色金属顔料の耐水性が飛躍的に向上する。
【0035】
このようなラジカル重合性樹脂により第1被覆層を形成する場合、ラジカル重合性樹脂の量は、金属顔料100質量部に対し、0.5〜100質量部、より好ましくは5〜30質量部が適当である。ラジカル重合性樹脂の量は、目的とする第1被覆層の厚み、金属顔料の比表面積、被覆するラジカル重合性樹脂の密度等を勘案して適宜決定することができる。
【0036】
なお、このようなラジカル重合性樹脂で構成される第1被覆層の厚みは特に限定されないが、5nm以上200nm以下であれば着色金属顔料の耐水性(5nm以下では不十分)および塗膜等のコーティング組成物の外観(200nm以上では外観が損なわれる)の点で有利である。厚みの測定方法は、走査電子顕微鏡等による着色金属顔料の断面観察により測定できる。
【0037】
金属顔料をラジカル重合性樹脂で被覆する具体的な方法は、該金属顔料を炭化水素系あるいはアルコール系溶媒(好ましくは炭化水素系溶剤)に分散した分散体に、モノマーおよび/またはオリゴマーと過酸化ベンゾイル、過酸化イソブチル、アゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤とを添加し、撹拌させながら加熱してモノマーおよび/またはオリゴマーをラジカル重合させ、該金属顔料表面に析出させる方法が好ましい。
【0038】
この場合、重合開始剤の添加量は、モノマーおよび/またはオリゴマー100質量部に対して1質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。重合反応は、無酸素雰囲気、たとえば窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行なうことが望ましい。反応温度は50〜150℃、より好ましくは70〜100℃が適当である。また、反応時間は30分以上30時間以下が好ましい。
【0039】
上記のモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、下記のものが例示される。
すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、1,4ブタンジオールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、1,9ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルホスフェート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリルニトリル、メタクリルニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、ポリブタジエン、アマニ油、大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイド、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2−クロロエチル)ビニルホスホネート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジアリルジブチルホスホノサクシネート、アクリル変性ポリエステル(重合度2〜20程度)、アクリル変性ポリエーテル(重合度2〜20程度)、アクリル変性ウレタン(重合度2〜20程度)、アクリル変性エポキシ(重合度2〜20程度)、アクリル変性スピラン(重合度2〜20程度)等が挙げられるがこれらに限定するものではない。
【0040】
中でも、当該モノマーおよび/またはオリゴマーとして、重合性二重結合を2個以上有するモノマーおよび/またはオリゴマーを使用した場合には、3次元架橋したラジカル重合性樹脂からなる第1被覆層が形成され、耐水性が一層向上する点で有利である。
【0041】
なお、着色金属顔料中において、第1被覆層がラジカル重合性樹脂で構成されているか否かの同定は、質量分析法、NMRなどによる重合開始剤残基の分析、より簡易的には分子量、分子量分布、ガラス転移点、有機溶剤への溶解性などにより確認することができる。
【0042】
<第1化合物>
第1被覆層を構成する第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物である。このような第1化合物を用いることにより、金属顔料の表面に水に対して安定で緻密な被膜が形成されるため、最終的に得られる着色金属顔料の耐水性が飛躍的に向上する。なお、このような第1化合物は、後に付着させる着色顔料の発色を阻害しないためにも無色であることが好ましい。
【0043】
このような第1化合物の具体例を挙げると、たとえば酸化珪素、ポリシロキサンの縮合物、酸化アルミニウム、酸化チタニウム、水酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化クロム、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化セリウム、水酸化セリウム等が例示できる。これらの中でも、酸化珪素および/またはポリシロキサンの縮合物(すなわち、酸化珪素のみ、ポリシロキサンの縮合物のみ、およびこれら両者の混合物)が透明性、安全性、生産コストの面で特に好ましい。
【0044】
このような第1化合物は、1種のみであるいは2種以上の混合物で第1被覆層を構成することができる。なお、酸化珪素およびポリシロキサンの縮合物は、ともにSiの酸化物であり、ポリシロキサンの縮合物とは、有機珪素化合物がシロキサン結合で縮合した化合物を意味する。
【0045】
このような第1化合物の使用量は、金属顔料100質量部に対し、0.5質量部以上100質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下が好ましい。使用量は、目的とする第1被覆層の厚み、金属顔料の比表面積、被覆する第1化合物の密度等を勘案して決定することができる。なお、このような第1化合物で構成される第1被覆層の厚みは特に限定されないが、5nm以上200nm以下であれば着色金属顔料の耐水性(5nm以下では不十分)および塗膜等のコーティング組成物の外観(200nm以上では外観が損なわれる)の点で有利である。厚みの測定方法は、走査電子顕微鏡等による着色金属顔料の断面観察により測定できる。
【0046】
金属顔料を第1化合物で被覆する方法は、特に限定されないが、該金属顔料を水および/または親水性溶媒に分散した分散体に、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeのいずれかの塩またはアルコキシド等の第1化合物の前駆体を加え、さらにその前駆体を中和させる中和剤または加水分解させる加水分解触媒を加えることにより、金属顔料の表面に第1化合物を析出させる方法を挙げることができる。
【0047】
上記の親水性溶媒の例としては以下のものが挙げられる:
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン。
【0048】
上記の第1化合物の前駆体の例としては以下のものが挙げられる:
硝酸アルミニウム、硝酸セリウム、酢酸セリウム、硫酸チタニル、モリブデン酸アンモニウム等の塩、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラブトキシジルコニウム、トリイソプロポキシアルミニウム等およびそれらの縮合物。
【0049】
上記中和剤および加水分解触媒の例としては以下のものが挙げられる:
中和剤:アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等。
塩基性加水分解触媒:モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、エチレンジアミン、t−ブチルアミン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、尿素、珪酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等。
酸性加水分解触媒:蓚酸、酢酸、硝酸、硫酸、燐酸、ホスホン酸等。
【0050】
上述のとおり、第1化合物として特に酸化珪素および/またはポリシロキサンの縮合物が好ましく、これらによる第1被覆層の形成方法としては、酸化珪素の場合であれば、たとえば金属顔料と珪素化合物を含む溶液とを、塩基性または酸性に保ちながらスラリー状態またはペースト状態で撹拌または混練する方法等が採用でき、これにより金属顔料の表面に酸化珪素からなる第1被覆層を形成することができる。また、ポリシロキサンの縮合物の場合であれば、たとえば金属顔料とアルコキシシランの共存下、アルコキシシランを加水分解および縮合することによって金属顔料の表面にポリシロキサンの縮合物からなる第1被覆層を形成することができる。しかしながら、これらの方法のみに限定されるものではない。
【0051】
<着色顔料>
本発明の着色顔料は、第1被覆層の表面に付着するものであるが、後述のように第1被覆層上に有機燐酸化合物層が形成される場合は、有機燐酸化合物層の表面に付着しても良い。したがって、本発明における「第1被覆層の表面に付着された着色顔料」という表現は、特に断らない限り着色顔料が第1被覆層の表面に直接付着する場合だけではなく、有機燐酸化合物層の表面に付着する場合も含むものとする。
【0052】
本発明において、上記の金属顔料は、主として金属光沢を付与する作用を有するものであり、色彩的には無彩色となることが多いため、この着色顔料は、主として有彩色の色彩を付与する作用を有するものであるが、これのみに限定されることはなく、たとえば白色や黒色等の無彩色を付与する作用を有していてもよい。
【0053】
このような着色顔料は、従来公知の顔料を特に限定することなく使用することができる。たとえば、次のようなものを例示することができる。
【0054】
すなわち、ジケトピロロピロール系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、縮合アゾ系、スレン系、ペリノン系、ペリレン系、キノフタロン系、フタロシアニン系等の有機顔料、酸化鉄、カーボンブラック等の無機顔料等を挙げることができる。
【0055】
具体的にはフタロシアニン、ハロゲン化フタロシアニン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、イソインドリノン、アゾメチン金属錯体、インダンスロン、ペリレン、ペリノン、アントラキノン、ジオキサジン、ベンゾイミダゾロン、縮合アゾ、トリフェニルメタン、キノフタロン、アントラピリミジン、酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、クロムグリーン、バナジウム酸ビスマス、複合酸化物焼成顔料、カーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン、超微粒子酸化チタンなどが例示できる。
【0056】
金属顔料への付着性、耐候性および着色力の面から特に好ましい顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、キナクリドンマルーン、キナクリドンゴールド、ジケトピロロピロール、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ、アントラピリミジンイエロー、ジオキサジンバイオレット、ペリレンマルーン、アゾメチン銅錯体、透明酸化鉄、カーボンブラック、超微粒子酸化チタン等を挙げることができる。
【0057】
このような着色顔料の一次粒子径については、特に限定されないが、好ましくは0.01〜1μmの範囲内、より好ましくは0.02〜0.1μmの範囲内のものが使用できる。一次粒子径が0.01μm以上の場合には顔料の分散が困難となる危険性が少なく、一次粒子径が1.0μm以下の場合には金属顔料表面に均一に付着させることが困難となる危険性が少ない。
【0058】
着色顔料の付着量は、金属顔料100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下、より好ましくは10質量部以上100質量部以下である。付着量は、金属顔料の比表面積に応じて適宜調整することが好ましい。付着量が1質量部未満の場合は最終的に得られる着色金属顔料について十分な彩度が得られず、また付着量が200質量部を超える場合は、最終的に得られる着色金属顔料の光輝感が低下する。
【0059】
なお、着色顔料は付着性を向上させるために下記のような化合物で表面が処理されていることがより好ましい。
【0060】
すなわち、このような化合物としては、たとえばエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,8−ジアミノナフタレン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ステアリルプロピレンジアミン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、安息香酸、安息香酸ビニル、サリチル酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、o−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、3−アミノ−4−メチル安息香酸、p−アミノサリチル酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、ナフテン酸、3−アミノ−2−ナフトエ酸、ケイ皮酸、アミノケイ皮酸等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0061】
<有機燐酸化合物層>
本発明の着色金属顔料においては、上記第1被覆層上に有機燐酸化合物層を形成することができる。この場合、上記の着色顔料は、この有機燐酸化合物層の表面に付着することになり、本発明の好ましい実施態様を構成する。すなわち、このような有機燐酸化合物層は、着色顔料の付着性を向上させる作用を有するものである。
【0062】
このような有機燐酸化合物層は、第1被覆層の表面に有機燐酸化合物が化学的または物理的に吸着して形成されていると推察される。また、有機燐酸化合物層は、第1被覆層の表面に層状態で形成されていてもよいし、層状態ではなく当該表面に点在する状態で形成されていてもよい。すなわち、本発明における有機燐酸化合物層は、有機燐酸化合物が第1被覆層上に連続層の状態で存在する場合だけではなく、有機燐酸化合物が層を構成せず第1被覆層上に点在して存在する場合も含むものとする。要するに、本発明における有機燐酸化合物層は、後に付着する着色顔料の付着量に対応する量で存在していればよく、その存在状態が限定されるものではない。
【0063】
このような有機燐酸化合物層が第1被覆層の表面に形成されることにより後に付着する着色顔料の付着性が良好となり、彩度の高い着色金属顔料が得られる。さらに、着色金属顔料を溶剤や塗料中に分散した場合の着色顔料の脱落を抑制することもできる。
【0064】
このような有機燐酸化合物層を構成する有機燐酸化合物は、燐酸のOH基の一部が有機系の置換基で置換された構造を有する化合物を意味する。このような有機燐酸化合物は、特に限定されないが、たとえば、有機燐酸エステルを挙げることができる。有機燐酸エステルとしては、たとえば、ステアリルアシッドホスフェート、ミリスチルアシッドホスフェート、パルミチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルアシッドホスフェート、n−デシルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ヘキシルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート等を挙げることができる。
【0065】
また、このような有機燐酸化合物層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有する有機燐酸化合物で構成されることが好ましく、このような化合物としては、たとえば少なくとも1個の重合性二重結合を有する有機燐酸エステルを挙げることができる。少なくとも1個の重合性二重結合を有する有機燐酸エステルとしては、たとえば、オレイルアシッドフォスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、(2−ヒドロキシエチル)メタクリレートアシッドホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート等の重合性二重結合を1個有する有機燐酸化合物、ビス(2−クロロエチル)ビニルホスホネート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジアリルジブチルホスホノサクシネート等の重合性二重結合を二個以上有する有機燐酸化合物等を挙げることができる。
【0066】
本発明においては、このような有機燐酸化合物層を構成する有機燐酸化合物として少なくとも1個の重合性二重結合を有する化合物を用いることが好ましく、重合性二重結合を二個以上有する化合物を用いることがより好ましい。これは、着色顔料の付着性が特に良いという理由によるものである。
【0067】
有機燐酸化合物の使用量は、特に限定されないが、第1被覆層が形成された金属顔料100質量部に対し、0.1質量部以上10質量部、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下である。0.1質量部以上であれば着色顔料の付着性の点で有利であり、10質量部以下であれば着色金属顔料を使用した塗膜等のコーティング膜の膜性能(多すぎると密着性、耐候性等が低下する)の点で有利である。
【0068】
なお、本発明の着色金属顔料において、このような有機燐酸化合物層の存在は、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析法等によるP(燐)の検出および定量により特定することができる。
【0069】
<第2被覆層>
本発明の着色金属顔料は、第1被覆層の表面に付着された着色顔料上に、さらに第2被覆層が形成されていることが好ましい。この第2被覆層の形成により着色顔料の付着がより強固なものとなるとともに、耐水性がより向上する。
【0070】
第2被覆層の組成は特に限定されないが、たとえば第1被覆層と同様に、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成することができる。特に、このような第2被覆層は、ラジカル重合性樹脂により構成されていることが好ましい。これは、第2被覆層がより緻密で耐溶剤性に優れた層となるため、着色顔料の脱落や変質が生じにくくなるためである。
【0071】
また、このような第2被覆層の形成方法も特に限定されず、第1被覆層と同様の方法を採用することができる。なお、このような第2被覆層の厚みは特に限定されないが、5nm以上200nm以下であれば着色金属顔料の耐水性(5nm以下では不十分)および塗膜等のコーティング組成物の外観(200nm以上では外観が損なわれる)の点で有利である。厚みの測定方法は、走査電子顕微鏡等による着色金属顔料の断面観察により測定できる。
【0072】
<着色金属顔料の製造方法>
本発明の着色金属顔料の製造方法は、金属顔料の表面に第1被覆層が形成された被覆金属顔料を準備する第1工程と、該被覆金属顔料の該第1被覆層の表面に着色顔料を付着させる第2工程とを含むことにより実行される。
【0073】
なお、ここで第1被覆層は、上記で説明したとおり、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、第1化合物についても上記で既に説明したとおりである。以下、各工程についてさらに詳細に説明する。
【0074】
<第1工程>
本発明の第1工程は、金属顔料の表面に第1被覆層が形成された被覆金属顔料を準備する工程である。金属顔料の表面に第1被覆層が形成された被覆金属顔料の準備は、このような構成の市販の被覆金属顔料を購入することにより準備することもできるし、第1被覆層が形成されていない無処理の金属顔料を準備し、上述の第1被覆層について説明した方法によりこの金属顔料の表面上に第1被覆層を形成することにより準備することもできる。
【0075】
<第2工程>
本発明の第2工程は、上記被覆金属顔料の第1被覆層の表面に着色顔料を付着させる工程である。上記被覆金属顔料の第1被覆層の表面に着色顔料を付着させる方法は、特に限定されないが、たとえば次のような方法を挙げることができる。
【0076】
すなわち、まず第1段階として、着色顔料を溶媒中、好ましくは非極性溶媒中で分散し、着色顔料の分散体(スラリー)を作製する。この際、上述したように着色顔料の付着性を向上させるためにエチレンジアミン等の特定の化合物で着色顔料の表面を処理することを目的として、分散体中に当該特定の化合物を添加してもよい。また、この分散体中には、必要に応じて、界面活性剤やキレート化合物等の分散剤を添加してもよい。
【0077】
ここで、非極性溶媒としては、沸点範囲が100℃から250℃程度である脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素およびそれらの混合溶媒等が好適に使用され得る。具体的には、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、灯油、ミネラルスピリット、石油ベンジン等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、必要に応じてアルコールまたはエステル系溶剤を着色顔料の分散の補助として少量添加しても良い。
【0078】
また、着色顔料を分散する方法は特に限定されないが、たとえば、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等による粉砕媒体を使った分散方法が挙げられる。分散時間も特に限定されないが30分から30時間の範囲内であることが、着色金属顔料の意匠性(30分以下では意匠性低下)、および生産性(30時間以上では生産性が悪い)の理由により好適である。また分散時の温度も特に限定されず、0℃から100℃の範囲内であればよい。
【0079】
次いで第2段階として、上記で作製した着色顔料の分散体に第1被覆層が形成された金属顔料(すなわち被覆金属顔料)を加えてさらに分散し、着色顔料を第1被覆層の表面に付着させる。この場合の分散方法としては、上述の分散方法の他にスターラーやディスパーによる攪拌も好適である。
【0080】
この第2段階での分散時間も特に限定されないが30分から30時間の範囲内であることが着色顔料の分散度合(30分以下では顔料が十分分散できない)および生産性(30時間以上では生産性低下)の理由により好適である。また分散時の温度も特に限定されず、0℃から100℃の範囲内であればよい。
【0081】
このような第2工程を経ることにより、被覆金属顔料の第1被覆層の表面に着色顔料が付着した本発明の着色金属顔料を得ることができる。なお、上記の記載からも明らかなように、第1被覆層の表面への着色顔料の付着は、物理吸着または化学吸着と考えられる。
【0082】
なお、上記において第1段階と第2段階を分けて説明したが、必ずしもこの順序で行なわなければならないとする理由はなく、第1段階と第2段階の順序を逆にする方法や第1段階および第2段階で使用される全ての成分を一度に添加して分散する方法も本発明の効果が損なわれない限り採用することができる。
【0083】
<付加工程>
本発明の着色金属顔料の製造方法は、上記第1工程の後に、該被覆金属顔料の該第1被覆層の表面に有機燐酸化合物を吸着させて有機燐酸化合物層を形成する付加工程を含むことができ、この場合、上記第2工程は、この付加工程で形成された有機燐酸化合物層上に着色顔料を付着させる工程となる。このような付加工程を実行することにより、第2工程で行なわれる着色顔料の付着性が向上する。
【0084】
有機燐酸化合物を被覆金属顔料の第1被覆層の表面に吸着させる方法は特に限定されないが、たとえば、次のような方法により実行することができる。
【0085】
すなわち、有機燐酸化合物を下記に例示するような溶剤に溶解した溶液に被覆金属顔料を接触させ、所定の温度で所定時間分散することにより、被覆金属顔料の第1被覆層の表面に有機燐酸化合物を吸着させることができる。
【0086】
上記の溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、グリセリン、アリルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジメチルスルホキシド等を例示できる。
【0087】
また、接触させる方法としては、スラリー状態で処理する方法やペースト状態で混練する方法等を採用することができるがこれらのみに限定されるものではない。また、処理温度も限定されないが、5℃以上100℃以下、好ましくは30℃以上70℃以下で行なうことが好ましい。また処理時間も特に限定されないが、1分以上180分以下、好ましくは10分以上60分以下とすることが好ましい。
【0088】
なお、このような付加工程を実行する場合、第2工程は、上記で既に説明した方法と同様の方法で実行することができる。すなわち、表面に有機燐酸化合物層を形成した被覆金属顔料を着色顔料の分散体に添加して分散させる等の方法を採用することができる。
【0089】
<第3工程>
本発明の着色金属顔料の製造方法は、上記第2工程の後に、さらに着色顔料上に第2被覆層を形成する第3工程を含むことができる。これにより、着色顔料の付着がより強固なものとなるとともに、耐水性がより向上する。
【0090】
このような第3工程は特に限定されないが、第1被覆層を形成する方法と同様の方法により第2被覆層を形成することができる。
【0091】
<塗料組成物>
本発明は、上記で説明した着色金属顔料を配合してなる塗料組成物にも係わる。このような塗料組成物は、通常、着色金属顔料と樹脂成分と溶剤とを含むものである。特に溶剤として親水性溶剤を使用した水性塗料組成物は、耐水性に優れ安定で発色に優れたものとなる。
【0092】
本発明の塗料組成物中の着色金属顔料の配合量は、樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上50質量部以下、より好ましくは1質量部以上30質量部以下とすることが好ましい。着色金属顔料が0.1質量部より少ないと目的とする意匠性が得られず、50質量部より多いと塗膜の鮮映性が低下する。
【0093】
本発明の塗料組成物中の溶剤の配合量は、樹脂成分100質量部に対して1質量部以上100質量部以下、より好ましくは5質量部以上50質量部以下とすることが好ましい。溶剤が1質量部より少ないと塗料組成物中への着色金属顔料の分散性が不十分となり、100質量部より多いと塗料を乾燥・硬化させる際に蒸発する溶剤による環境汚染が問題となる。
【0094】
本発明の塗料組成物に配合される樹脂成分は、特に限定はないが、たとえば熱硬化型アクリル樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂/CAB(セルロースアセテートブチレート)/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)/CAB/メラミン樹脂、イソシアネート硬化型ウレタン樹脂/常温硬化型アクリル樹脂、水希釈型アクリルエマルジョン/メラミン樹脂等を例示することができる。
【0095】
本発明の塗料組成物に配合される溶剤は、特に限定されないが、水、アルコール系、グリコール系、ケトン系、エステル系等の親水性溶剤(たとえばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトン、酢酸エチル、酢酸プロピル等)、芳香族系、脂環族系、炭化水素系溶剤等の油性溶剤(たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、ミネラルスピリット等)を使用することができる。
【0096】
また、このような塗料組成物には、必要に応じて、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒等の添加剤や、他の着色顔料を配合することもできる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
<実施例1>
<第1工程>
まず、金属顔料としてアルミニウム顔料を用いた。このアルミニウム顔料は、それを含むペースト(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm)をミネラルスピリットで洗浄し、次いで濾過することにより、ペースト状の形態を有するものであった。濾過後のペーストの不揮発成分(アルミニウム顔料)は70質量%(残部はミネラルスピリット)であった。
【0099】
このペースト214g(固形分として150g)とミネラルスピリット2000gとを3リットルのセパラブルフラスコに添加した後、攪拌することによりスラリーとした。該攪拌を継続しつつ、系内に窒素ガスを導入して窒素雰囲気とした。その後、80℃まで昇温した。
【0100】
次いで、第1被覆層を構成するモノマーとしてアクリル酸0.75g、トリメチロールプロパントリメタクリレート6.75g、エポキシ化ポリブタジエン7.50g(ただしミネラルスピリットで50質量%に希釈したもの)、スチレン3.75gおよび重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.75gを上記のスラリーに添加し、これらのモノマーをラジカル重合させることにより、アルミニウム顔料の表面にラジカル重合性樹脂からなる第1被覆層を形成した。
【0101】
続いて、上記AIBNを投入した8時間後に冷却し反応を終了させた。引き続き、上記のスラリーを濾過し、少量のミネラルスピリットで洗浄することにより、金属顔料の表面にラジカル重合性樹脂からなる第1被覆層を形成した被覆金属顔料を準備した。
【0102】
<付加工程>
上記の第1工程で準備された被覆金属顔料をプロピレングリコールモノメチルエーテルで洗浄した。そして、この洗浄された被覆金属顔料150g(固形分換算)を、有機燐酸化合物であるジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート1.5g(被覆金属顔料に対し1質量%)をプロピレングリコールモノブチルエーテル400gに溶解した溶液に投入し、75℃で1時間攪拌してスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、第1被覆層の表面に有機燐酸化合物が吸着することにより有機燐酸化合物層が形成された着色金属顔料前駆体ペースト(固形分70質量%)を得た。
【0103】
<第2工程>
直径1mmのガラスビーズ500gを挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルに、着色顔料として市販のフタロシアニンブルー顔料(商品名:「リオノールブルーPM7185」(一次平均粒子径0.02μm)、東洋インキ製造(株)製)20g、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン0.5g(着色顔料に対し2.5質量%)およびミネラルスピリット30gを加え、24時間ボールミルにより着色顔料を分散した。
【0104】
その後、上記のポットミルに、上記の付加工程を経た着色金属顔料前駆体ペースト42.9g(固形分として30g)およびミネラルスピリット30gを添加し、さらに1時間ボールミルにより分散した。この工程により着色金属顔料前駆体の有機燐酸化合物層の表面に着色顔料が付着した。
【0105】
このようにして得られたスラリーをミネラルスピリット500gで洗浄することにより、ガラスビーズと目的物とを分離し、その後濾過することにより、第1被覆層上に形成された有機燐酸化合物層の表面に着色顔料が付着した本発明の着色金属顔料(着色アルミニウム顔料)を得た。
【0106】
<第3工程>
上記で得られた着色金属顔料20g(固形分として)をミネラルスピリット200gに分散させたスラリーに、アクリル酸0.3g、トリメチロールプロパントリアクリレート0.3g、スチレン0.3g、エポキシ化ポリブタジエン0.3gを添加し、窒素中で80℃で加熱撹拌しながら、重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル0.05gを添加してこれらのモノマーをラジカル重合させることにより、上記の第2工程を経た着色金属顔料の着色顔料上にラジカル重合性樹脂で構成される第2被覆層を形成した。
【0107】
この処理後、スラリーを固液分離することにより、着色顔料上に第2被覆層が形成された本発明の着色金属顔料をペースト状態(固形分60質量%)で得た。
【0108】
<実施例2>
<第1工程>
実施例1と同様にして、被覆金属顔料200g(固形分換算)を準備した。
【0109】
<付加工程>
上記の第1工程で準備された被覆金属顔料をプロピレングリコールモノメチルエーテルで洗浄した。そして、この洗浄された被覆金属顔料150g(固形分換算)を、有機燐酸化合物であるモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート1.5g(被覆金属顔料に対し1質量%)をプロピレングリコールモノブチルエーテル400gに溶解した溶液に投入し、75℃で1時間攪拌してスラリーを得た。得られたスラリーを固液分離し、第1被覆層の表面に有機燐酸化合物が吸着することにより有機燐酸化合物層が形成された着色金属顔料前駆体ペースト(固形分70質量%)を得た。
【0110】
<第2工程>
直径1mmのガラスビーズ500gを挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルに、着色顔料として市販のジケトピロロピロール顔料(商品名:「イルガジンDPP Rubine TR」(粒径0.02μm)、BASF社製)20g、o−アミノ安息香酸0.5g(着色顔料に対し2.5質量%)およびミネラルスピリット30gを加え、24時間ボールミルにより着色顔料を分散した。
【0111】
その後、上記のポットミルに、上記の付加工程を経た着色金属顔料前駆体ペースト42.9g(固形分として30g)およびミネラルスピリット30gを添加し、さらに1時間ボールミルにより分散した。この工程により着色金属顔料前駆体の有機燐酸化合物層の表面に着色顔料が付着した。
【0112】
このようにして得られたスラリーをミネラルスピリット500gで洗浄することにより、ガラスビーズと目的物とを分離し、その後濾過することにより、第1被覆層上に形成された有機燐酸化合物層の表面に着色顔料が付着した本発明の着色金属顔料(着色アルミニウム顔料)を得た。
【0113】
<実施例3>
実施例1に対して、第1工程で準備した被覆金属顔料に変えて以下のようにして準備された被覆金属顔料を用いることを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0114】
すなわち、過酸化水素30質量%を含む過酸化水素水10gに金属モリブデン粉末0.5gを少しずつ加え、反応させて得られた溶液をイソプロピルアルコール(以下「IPA」と記す)600gに溶解した。
【0115】
続いて、このIPA溶液に、金属顔料としてアルミニウム顔料(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm)を143g(固形分として100g)加え、50℃で1時間撹拌混合してスラリーを得た。これにより、金属顔料としてのアルミニウム顔料の表面に酸化モリブデンからなる第1被覆層を形成した。
【0116】
次いで、上記スラリーに対して、アンモニア水と水20gとを加え該スラリーのpH値を8.5に調整した。そして、pH調整後の該スラリーに対して、テトラエトキシシラン40gを100gのIPAに溶解したものを徐々に滴下し、さらに75℃で2時間撹拌混合した。その後、該スラリーをフィルターで固液分離することにより、上記の第1被覆層上にさらにポリシロキサンの縮合物(第1化合物)からなる第1被覆層を形成した被覆金属顔料を準備して用いた。この被覆金属顔料は、2層構造の第1被覆層が形成された構造を有する。
【0117】
<実施例4>
実施例1に対して、付加工程を行なわなかったことを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。すなわち、かかる着色金属顔料は、金属顔料の表面に形成された第1被覆層の表面に着色顔料が付着し、その着色顔料上に第2被覆層が形成された構造を有する。
【0118】
<実施例5>
実施例3に対して、付加工程を行なわなかったことを除き、他は全て実施例3と同様にして本発明の着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。すなわち、かかる着色金属顔料は、金属顔料の表面に形成された第1被覆層の表面に着色顔料が付着し、その着色顔料上に第2被覆層が形成された構造を有する。
【0119】
<実施例6>
実施例1に対して、付加工程で用いたジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェートに変えてオレイルアシッドフォスフェートを用いたことを除き、他は全て実施例1と同様にして本発明の着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0120】
<実施例7>
実施例2に対して、第1工程で準備した被覆金属顔料に変えて以下のようにして準備された被覆金属顔料を用いることを除き、他は全て実施例2と同様にして本発明の着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0121】
すなわち、500gのプロピレングリコールモノメチルエーテルに、金属顔料としてアルミニウム顔料(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm)を143g(固形分として100g)を加え、液温18℃に保ちながら分散させた。この分散液に、100gの脱イオン水に5gのパラモリブデン酸アンモニウム((NH46Mo724・4H2O)を溶解させた溶液を徐々に添加し、液温を15〜20℃に保ちながら、1時間攪拌した。その後、該スラリーをフィルターで固液分離することにより、金属顔料の表面に酸化モリブデンからなる第1被覆層を形成した被覆金属顔料を準備して用いた。
【0122】
<実施例8>
実施例2に対して、付加工程を行なわなかったことを除き、他は実施例2と同様の工程を経ることにより、第1被覆層上に着色顔料が付着した本発明の着色金属顔料(着色アルミニウム顔料)を得た。
【0123】
<比較例1>
実施例1に対して、第1工程に変えて第1被覆層が形成されていない金属顔料(すなわち金属顔料としてアルミニウム顔料(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm))を準備し、かつ付加工程も行なわなかったことを除き、他は全て実施例1と同様にして着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0124】
<比較例2>
実施例2に対して、第1工程で準備された被覆金属顔料に変えて、酸化鉄層を表面に被覆したアルミニウム顔料(商品名:「パリオクロムゴールド L2020」(粒径20μm)、BASF社製)を準備し、かつ付加工程も行なわなかったことを除き、他は全て実施例2と同様にして着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0125】
<比較例3>
実施例2に対して、第1工程で準備された被覆金属顔料に変えて、下記のようにして製造される表面が無機燐酸により処理されたアルミニウム顔料を準備し、かつ付加工程も行なわなかったことを除き、他は全て実施例2と同様にして着色金属顔料(固形分60質量%のペースト状態)を得た。
【0126】
すなわち、市販のアルミニウム顔料(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm)143g(固形分として100g)に、燐酸1.0gを含むイソプロピルアルコール溶液20gを加え5分間混練することにより、表面に燐酸基を吸着させたアルミニウム顔料を準備して用いた。
【0127】
<比較例4>
ミネラルスピリット500gに、市販のアルミニウム顔料(商品名:「5620NS」、東洋アルミニウム(株)製、平均粒径18μm)143g、アクリル酸と大豆油脂肪酸とを熱重合した二重結合を有するカルボン酸(商品名:「ダイアシッド1550」、播磨化成工業(株)製)3.6gを加え、90℃の窒素ガス雰囲気中1時間激しく攪拌した。
【0128】
次いで、このようにして得られた分散液を室温まで冷却した後、固液分離し、不揮発分60%の熱重合カルボン酸処理アルミニウム顔料を得た。
【0129】
そして、実施例1に対して、この熱重合カルボン酸処理アルミニウム顔料を用い、この顔料に対して実施例1の第2工程以降を実施することにより着色金属顔料を得た。この着色金属顔料は、本発明の第1被覆層に変えて、熱重合性樹脂による被覆層を形成した構造を有する。
【0130】
上記のようにして得られた実施例1〜8および比較例1〜4の着色金属顔料を用いて以下の試験を行なった。
【0131】
<試験1>
実施例1〜8および比較例1〜4で得られた各着色金属顔料2.5gを市販のアクリルラッカー(商品名:「オートクリヤー」、日本ペイント(株)製)50gに分散して塗料を作製し、両面アート紙上に250μmドクターブレードを用いてこの塗料を塗布することにより塗板を作製した。
【0132】
そして、このようにして作成された各塗板の彩度値をマルチアングル分光測色計(商品名:「X-Rite MA-68II」、X-Rite社製)を用いて測定した。彩度値(C*)は、入射角45°、オフセット角15°における測定値であるa*値およびb*値を用い、次式により計算した。彩度値(C*)は、数値が高い程、高彩度であることを示す。その結果を表1に示す。
【0133】
彩度値(C*)=(a*2+b*21/2
<試験2>
容量20mlの試験管に、実施例1〜8および比較例1〜4で得られた各着色金属顔料を固形分として0.2gおよび酢酸エチル20gを加え、よく振って分散させた後、3時間静置し、着色顔料の溶出状態を観察した。この試験において、着色顔料の付着力が不十分な場合には上澄み液が溶出した着色顔料によって着色し、付着力が良好な場合には上澄み液が透明となる。上澄み液の透明度を目視評価し、下記の4段階で示した。上澄み液が無色透明に近い程、安定した発色であること(すなわち着色顔料の付着性が高いこと)を表わす。その結果を表1に示す。
A:無色透明である。
B:透明であるが、僅かに着色している。
C:透明であるが着色している。
D:不透明で着色している。
【0134】
<試験3>
実施例1〜8および比較例1〜4で得られた各着色金属顔料を使用し、下記のようにして水性塗料組成物を調製した。
【0135】
<レオロジーコントロール剤の調製>
ポリアマイド系レオロジーコントロール剤(商品名:「ディスパロンAQ600」、楠本化成(株)製)19.5質量部、ブチルセロソルブ6質量部、イオン交換水106.5質量部を1時間攪拌混合することによりレオロジーコントロール剤(組成物1)を調製した。
【0136】
<樹脂溶液の調製>
アクリルコポリマー(商品名:「Setaqua 6802」、Neuplex社製)を27.9質量部、ポリウレタンディスパージョンA(商品名:「Bayhydrol XP 2621」、Bayer MaterialScience社製)を16.8質量部、ポリウレタンディスパージョンB(商品名:「Bayhydrol PT241」、Bayer MaterialScience社製)を4.1質量部、メラミン樹脂溶液(商品名:「Cymel327」、三井サイテック社製)を1.9質量部、ブチルセロソルブ5.3質量部、消泡レベリング剤(商品名:「AQ7120」、楠本化成(株)製)を0.3質量部、イオン交換水を12.4質量部を混合し、30分以上攪拌することにより樹脂溶液(組成物2)を調製した。
【0137】
<メタリックベースの調製>
実施例1〜8および比較例1〜4で得た各着色金属顔料(固形分として4.4質量部)に分散剤(商品名:「AQ320」、楠本化成(株)製)0.4質量部とブチルセロソルブを加えて全体を15.00質量部とし、10分間攪拌混合することによりメタリックベース(組成物3)を調製した。
【0138】
<水性塗料組成物の調製>
上記樹脂溶液(組成物2)96.2質量部に上記メタリックベース(組成物3)10.5質量部を加えて10分以上攪拌混合した。次に、この混合物にレオロジーコントロール剤(組成物1)12.3質量部を徐々に加えた後、さらに10分攪拌混合した。その後、混合物のpHが8.3±0.1となるように10%ジメチルエタノールアミン水溶液を加え、さらに10分以上攪拌混合した。最後に粘度が基準値(Ford cup No.4にて25秒)になるように適量のイオン交換水を加え、10分以上攪拌混合したものを水性塗料組成物とした。
【0139】
そして、上記により調製された各水性塗料組成物80gを採取し、これらを50℃に調整した湯煎器内で7日間保管した場合の累積水素ガス発生量を水置換法によりメスシリンダーを用いて測定した。ガス発生量が少ないもの程、耐水性に優れていることを示す。その結果を表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
表1より明らかなように、本実施例の着色金属顔料は、比較例の着色金属顔料に比し、耐水性に優れ、かつ安定な発色が得られるとともに高彩度を示すことは明らかである。
【0142】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0143】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属顔料と、該金属顔料の表面に形成された第1被覆層と、該第1被覆層の表面に付着された着色顔料とを含み、
前記第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、
前記第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物である、着色金属顔料。
【請求項2】
前記着色顔料は、前記第1被覆層上に形成された有機燐酸化合物層の表面に付着している、請求項1に記載の着色金属顔料。
【請求項3】
前記有機燐酸化合物層は、少なくとも1個の重合性二重結合を有する有機燐酸化合物で構成される、請求項2に記載の着色金属顔料。
【請求項4】
前記着色顔料上に、さらに第2被覆層が形成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の着色金属顔料。
【請求項5】
前記金属顔料は、アルミニウム顔料である、請求項1〜4のいずれかに記載の着色金属顔料。
【請求項6】
前記ラジカル重合性樹脂は、少なくとも1個の重合性二重結合を有するモノマーおよび/またはオリゴマーをラジカル重合させることにより得られる、請求項1〜5のいずれかに記載の着色金属顔料。
【請求項7】
前記第1化合物は、酸化珪素および/またはポリシロキサンの縮合物である、請求項1〜5のいずれかに記載の着色金属顔料。
【請求項8】
前記第2被覆層は、ラジカル重合性樹脂で構成される、請求項4〜7のいずれかに記載の着色金属顔料。
【請求項9】
金属顔料の表面に第1被覆層が形成された被覆金属顔料を準備する第1工程と、
前記被覆金属顔料の前記第1被覆層の表面に着色顔料を付着させる第2工程とを含み、
前記第1被覆層は、ラジカル重合性樹脂または第1化合物で構成され、
前記第1化合物は、Al、Si、Ti、Cr、Zr、Mo、およびCeからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物または水酸化物である、着色金属顔料の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程の後に、前記被覆金属顔料の前記第1被覆層の表面に有機燐酸化合物を吸着させて有機燐酸化合物層を形成する付加工程を含み、
前記第2工程は、前記付加工程で形成された前記有機燐酸化合物層上に着色顔料を付着させる、請求項9に記載の着色金属顔料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の着色金属顔料を配合してなる塗料組成物。

【公開番号】特開2012−201745(P2012−201745A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66070(P2011−66070)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(399054321)東洋アルミニウム株式会社 (179)
【Fターム(参考)】