説明

着色顆粒の色素定着化剤

【課題】顆粒に色素を定着化させる定着化剤を提供する。
【解決手段】二酸化ケイ素およびステアリン酸もしくはその塩からなる群から選択される1種類以上である、顆粒に色素を定着させることを特徴とするための定着化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素で着色されている顆粒(以下、着色顆粒という)の色素定着方法もしくは色素の移動を制御する方法、またはそれらの方法を包含する顆粒剤の着色方法や製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
顆粒への着色方法としては、1)着色剤を溶媒に溶解あるいは懸濁させた液をスプレーする方法、2)顆粒成分中に予め着色剤を添加してから造粒する方法等があるが、1)は製造工程が煩雑になり、2)は製造設備の着色剤による汚染等の問題がある。また設備や環境等の面で比較的有利な着色法としては、粉末性色素等を用いた乾式の着色法も知られている。ところで顆粒に対してこれらの着色法を適用したとしても、着色用の色素が顆粒中に十分に取り込まれないかまたはその表面上に強力に付着しない場合には、得られた着色顆粒の色素が、顆粒の保存、包装、輸送等の過程で顆粒から剥離してしまい、色素が十分に定着し得ない問題があった。特に粉末性色素を用いた乾式の着色法の場合には、その傾向が顕著に見られ、工業的着色法として採用したとしても、十分に満足の行くレベルに着色するのは容易ではなかった。
なお1.特開平9−71529や2.特開平8−333253には、着色顆粒に二酸化ケイ素を混合する工程が記載されているが、該二酸化ケイ素は、1.の場合は、最終製品の流動性を改善すべく静電気防止剤として使用されており、2.の場合は、錠剤の溶出性を改善する調製の過程で使用されているに過ぎない。即ち、これらの文献には、二酸化ケイ素による顆粒表面上の色素の定着効果については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−71529号公報
【特許文献2】特開平8−333253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
着色顆粒、特にその表面上を粉末性色素で着色した顆粒について、色素を簡便に定着させ得る方法の開発が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、着色顆粒と、特定の添加剤とを混合すれば、該顆粒の色素を簡単に定着させかつ剥離を抑制できることを見出し、以下に示す本発明を完成した。
(1)二酸化ケイ素およびステアリン酸もしくはその塩からなる群から選択される1種類以上の添加剤を含有することを特徴とする、顆粒に色素を定着させるための定着化剤。
(2)顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を該色素で着色した後に混合する、上記(1)記載の定着化剤。
(3)顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を互いに異なる色素で着色した2種類以上の着色顆粒からなる複合顆粒の混合前または混合途中に、または顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を該色素で着色した1種類以上の着色顆粒と無着色顆粒とからなる複合顆粒の混合前または混合途中に配合する、上記(1)記載の定着化剤。
(4)添加剤が二酸化ケイ素である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の定着化剤。
(5)添加剤がステアリン酸もしくはその塩である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の定着化剤。
(6)添加剤がステアリン酸のMg塩、Na塩またはCa塩である上記(5)記載の定着化剤。
(7)添加剤がステアリン酸のMg塩である上記(5)記載の定着化剤。
(8)表面が該色素で着色されている該顆粒に対して、重量比で0.05〜10%配合することを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の定着化剤。
(9)該色素の重量に対して、重量比で10〜1000%配合することを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の定着化剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明の色素の定着方法を用いれば、その色素によって着色された各種の顆粒を簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】着色顆粒と無着色顆粒との混合方法を示す。
【図2】着色顆粒と無着色顆粒との混合による色の変化とカープレックス有無の影響を示す。
【図3】混合による着色変化とカープレックスの添加量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いられる顆粒としては、特に限定されず、医薬、農薬または食品用等に用いられる種々の顆粒を幅広く意味する。顆粒の形や製法等は特に限定されず、球形、不定形、円柱形、ビーズ等のいずれの形状でも使用可能であるが、好ましくは、表面積の大きい不定形の顆粒である。また顆粒の粒径も必ずしも限定されないが、通常、後記の定着化剤の粒径の約1〜約1000倍、好ましくは約5〜約100倍であり、平均粒径として好ましくは約10〜約5000μm、より好ましくは約50〜約1000μm、特に好ましくは約150〜約500μmである。
また顆粒の内容物の種類、含量等も特に限定されず、各種の医薬用活性成分(例:抗生物質、抗ウイルス薬、中枢神経薬、抹消神経薬、循環器系疾患治療薬、抗潰瘍薬、鎮痛薬等)、医薬用添加物(例:崩壊剤(例:部分α化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(LHPC)、クロスカルメロースナトリウム)、ポリビニルポリピロリドン等)、賦形剤(例:糖類(乳糖、白糖、マンニトール等)、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ等)、結合剤(例:メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デキストリン等)、滑沢剤(例:タルク、ステアリン酸Mg)、ワックス類等)、または農薬用の活性成分・添加物、食品原料等を適量含み得る。
本発明の色素の定着方法は、種々の製法により得られる着色顆粒に幅広く適用できるが、好ましい着色顆粒は、その表面が色素、特に粉末性色素で着色されているタイプである。このタイプの顆粒は、着色液等を用いてスプレーして得られた着色した顆粒や、造粒中に着色剤を添加して着色した顆粒等に比べて、その表面上の色素が、顆粒の保存や包装中、または輸送中等に剥離しやすいので、特に本発明の方法に好適である。
【0009】
顆粒における色素としては、特に限定されないが、着色の操作・設備等の点で好ましくは粉末性色素であり、例えば、三二酸化鉄(赤、黄、黒色)、アルミニウムレーキ色素(青、黄、赤色)、銅クロロフィリンナトリウム(緑色)、ビタミンB2(黄色)、ズダンIII(赤色)等が使用される。
本法における色素を定着させるための添加剤(以下、定着化剤ともいう)としては、二酸化ケイ素およびステアリン酸もしくはその塩からなる群から選択される1種類以上が例示される。二酸化ケイ素としては、カープレックス(シオノギ)、アエロジル(日本アエロジル)等が例示され、このうち好ましくは含水タイプである。ステアリン酸の塩としては、Mg塩、Na塩、Ca塩等が例示されるが、好ましくはMg塩である。これらの添加剤の配合量は、表面が色素で着色されている顆粒に対して、重量比で約0.05〜約10%、好ましくは約0.1〜約5%、より好ましくは約0.2〜約2%である。また該色素の重量に対しては、約10〜約1000%、好ましくは約30〜約500%、より好ましくは約100〜約300%である。
顆粒と色素、特に粉末性色素とを混合すると、通常、該顆粒表面が該色素で被覆されて表面改質がなされた粒子(オーダードミクスチャー)が生成するが,両者は弱い粒子間相互作用により付着しており,微弱な物理的衝撃でもそのオーダードミクスチャーが崩壊し、顆粒表面に付着している色素が剥離する可能性がある。しかし、そのようなオーダードミクスチャーでも、本発明の方法で前記の定着化剤と混合すれば、顆粒表面上の色素を定着させ、かつ色素の剥離を抑制することができる。該混合に際しては、市販の混合機(例:V型、スクリュー等)を用いればよい。混合時間は、数分から数時間である。混合速度等は、用いる顆粒の量や混合機の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えばV型混合機の場合では、約5〜約100rpm、好ましくは約10〜約40rpmである。また用いる顆粒の製法については特に限定されず、湿式または乾式の押出造粒等を適用すればよい。
【0010】
また顆粒と前記粉末性色素とを混合することにより顆粒表面を色素で着色した後、前記の1種類以上の定着化剤を混合して該色素を該顆粒表面上に定着させることにより、顆粒を乾式法によって効率よく着色させることができる。
さらに本法は、互いに異なる色素で着色した2種類以上の顆粒からなる複合顆粒、または1種類以上の着色顆粒と無着色顆粒とからなる複合顆粒に対しても適用できる。即ち、そのような複合顆粒の混合前または混合途中に、前記の1種以上の定着化剤を配合させることによって、該混合時の顆粒表面上の色素の移動を効率よく抑制して、互いの色素が混じることなく調製時の色調を維持させることができる。即ち、複合顆粒の混合時における色素の移動を簡便に制御することが可能となる。
さらに本発明の定着方法、着色方法を利用すれば、その表面上が安定に着色された各種の顆粒を簡便に製造することができ、また本発明はそのようにして得られる顆粒剤も提供する。
【実施例】
【0011】
以下に試験例を示す。
試験例1
図1の混合方法に準拠して、粉末性の三二酸化鉄で着色した顆粒(顆粒1由来)と無着色顆粒(顆粒2)とを混合し、顆粒の色の変化を調べた。なおいずれの混合も、500mlV型混合機(筒井理化学機器株式会社製)を用いて40rpmの回転速度で行った。明度の変化は、カラーアナライザー(東京電色株式会社製)によって測定した。
(1)顆粒の調製
キシリット等の糖類を98%含有する白色顆粒1を押出造粒によって調製した(平均粒径:約350μm)。一方、医薬活性成分、糖類、崩壊剤(LHPC)等を含有する白色顆粒2を乾式造粒等によって調製した(平均粒径:約350μm)。
(2)顆粒の混合
1.1次混合(着色)
顆粒1107gと三二酸化鉄 0.9gとを5分間混合して、着色顆粒(赤色)を得る。
2.2次混合(定着)
上記1.で得られた着色顆粒全量と、定着化剤である二酸化ケイ素(カープレックス,シオノギ)1.8gとを10分間混合する。
【0012】
3.3次混合(転写)
上記2.の混合物と顆粒2とを混合し、複合顆粒を得る。
(3)結果
定着化剤を添加、途中添加あるいは無添加で混合したときの混合顆粒の明度変化を図2に示す。図2において、横軸は3次混合の時間を表し、縦軸は混合顆粒全体の明度を示す。
カープレックス無添加の場合、混合時間とともに明度が低下し、無着色顆粒(顆粒2)が徐々に着色されていく様子が観察されたのに対し、カープレックスを添加混合すると、明度変化が全く認められなかった。一方、混合途中でカープレックスを添加した場合は、その時点からの明度変化が抑制された。以上の結果から、複合顆粒の混合前または混合途中に、定着化剤を配合させることにより、顆粒間の色素の移動を抑制できることが判明した。
また、カープレックスの添加量を変化させたときの明度変化を図3に示す。カープレックスを、顆粒全重量に対して0.2%以上添加すると着色顆粒の明度変化が顕著に抑制された。
【0013】
試験例2
試験例1の方法に準拠し、その他の粉末性色素の定着度合いについても検討した結果、アルミニウムレーキ色素、銅クロロフィリンナトリウム等も、カープレックスの混合によって顆粒表面上に定着することが確認された。また、定着化剤に関しては、カープレックス以外に、アエロジル(日本アエロジル)、ステアリン酸マグネシウム等も定着効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素およびステアリン酸もしくはその塩からなる群から選択される1種類以上の添加剤を含有することを特徴とする、顆粒に色素を定着させるための定着化剤。
【請求項2】
顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を該色素で着色した後に混合する、請求項1記載の定着化剤。
【請求項3】
顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を互いに異なる色素で着色した2種類以上の着色顆粒からなる複合顆粒の混合前または混合途中に、または顆粒と粉末性色素とを混合することにより該顆粒表面を該色素で着色した1種類以上の着色顆粒と無着色顆粒とからなる複合顆粒の混合前または混合途中に配合する、請求項1記載の定着化剤。
【請求項4】
添加剤が二酸化ケイ素である請求項1〜3のいずれかに記載の定着化剤。
【請求項5】
添加剤がステアリン酸もしくはその塩である請求項1〜3のいずれかに記載の定着化剤。
【請求項6】
添加剤がステアリン酸のMg塩、Na塩またはCa塩である請求項5記載の定着化剤。
【請求項7】
添加剤がステアリン酸のMg塩である請求項5記載の定着化剤。
【請求項8】
表面が該色素で着色されている該顆粒に対して、重量比で0.05〜10%配合することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の定着化剤。
【請求項9】
該色素の重量に対して、重量比で10〜1000%配合することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の定着化剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−220620(P2010−220620A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107629(P2010−107629)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【分割の表示】特願平11−312909の分割
【原出願日】平成11年11月2日(1999.11.2)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】