説明

睡眠状態判定装置及び睡眠状態判定プログラム

【課題】被験者から非接触状態で取得した身体情報に基づき睡眠状態を判定することができるとともに、その測定成功確率を向上することができる睡眠状態判定装置及び睡眠状態判定プログラムを提供すること。
【解決手段】睡眠状態判定装置1は、非接触にて睡眠中の被験者の移動加速度データ及び呼吸データを取得するセンサ部5と、移動加速度データから被験者の体動回数を算出するとともに、呼吸データから呼吸数を算出して、所定期間中の体動回数及び呼吸数の多寡から睡眠状態を判定する判定部13と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠状態判定装置及び睡眠状態判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被験者の睡眠状態を計測するのに様々な方法が提案されている。臨床における検査としては、多数の電極、センサを頭部や胸部に装着した状態で、睡眠ポリグラフと呼ばれる装置を用いて、脳波、筋電、眼電等の身体情報を検出して、レム睡眠/ノンレム睡眠といった睡眠状態を判定している。
【0003】
一方、健康意識の高まりにより、家庭等において被験者自らが睡眠状態を測定したい、という要望も高まってきている。そのため、頭部にセンサ類を密着させた状態での簡易な方法により通常の睡眠状態を判定する装置も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3735603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の睡眠状態判定装置では、被験者が電極やセンサを装着した状態でデータを取得しなければならず、通常の睡眠状態との間に違和感を覚える被験者には適用しがたい問題もある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、被験者から非接触状態で取得した身体情報に基づき睡眠状態を判定することができるとともに、その測定成功確率を向上することができる睡眠状態判定装置及び睡眠状態判定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る睡眠状態判定装置は、非接触にて睡眠中の被験者の移動加速度データ及び呼吸データを取得するセンサ部と、前記移動加速度データから前記被験者の体動回数を算出するとともに、前記呼吸データから呼吸数を算出して、所定期間中の前記体動回数及び前記呼吸数の多寡から睡眠状態を判定する判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る睡眠状態判定装置は、前記睡眠状態判定装置であって、前記判定部が、前記移動加速度データから移動加速度の大きさを算出する第一検出部と、周期性を有する前記呼吸データから前記呼吸数を算出する第二検出部と、前記移動加速度の大きさと所定の閾値とを比較して前記被験者の体動の有無を判定する体動判定部と、前記体動の有無に基づき前記被験者の覚醒状態を判定するとともに、前記覚醒状態の継続期間に基づき睡眠状態を複数段階に判定する第一睡眠判定部と、前記呼吸数の多寡に基づき前記被験者の睡眠状態を複数段階に分けて判定する第二睡眠判定部と、前記第一睡眠判定部及び前記第二睡眠判定部の判定結果を補正して前記被験者の睡眠状態を複数段階に分けて再判定する第三睡眠判定部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る睡眠状態判定装置は、前記睡眠状態判定装置であって、前記第一睡眠判定部が、睡眠判定時を含む前後複数時における体動回数に重みづけした関係式に基づき、前記睡眠判定時における覚醒状態を判定し、前記第二睡眠判定部が、測定期間中における最大呼吸数と最小呼吸数とを算出し、これらと前記睡眠判定時における呼吸数との差分に基づき、睡眠状態を判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る睡眠状態判定装置は、前記睡眠状態判定装置であって、前記第一睡眠判定部又は前記第二睡眠判定部の一方が前記睡眠判定時における睡眠状態の判定に失敗したときに、前記第三睡眠判定部が他方の判定結果をそのまま両者の再判定結果とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る睡眠状態判定プログラムは、コンピュータを本発明に係る睡眠状態判定装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験者から非接触状態で取得した移動加速度データ及び呼吸データに基づき睡眠状態を判定することができるとともに、その測定成功確率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置における睡眠状態判定方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置における体動回数による睡眠状態判定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置における呼吸数による睡眠状態判定結果を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置における最終的な睡眠状態判定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る一実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。
本実施形態に係る睡眠状態判定装置1は、図1に示すように、睡眠中の被験者の枕元に設置される測定装置2と、測定装置2が取得した身体情報に基づき、睡眠状態を判定する判定装置3と、を備えている。
【0015】
測定装置2は、例えば、スマートフォンのような通信端末であって、非接触にて睡眠中の被験者の移動加速度データ及び呼吸データを取得するセンサ部5と、取得したデータを格納する第一記憶部6と、取得したデータを判定装置3に送信し、及び判定装置3からの指令を受信する第一通信部7と、を備えている。
【0016】
センサ部5は、移動加速度データを検知する加速度センサ8と、呼吸データとして呼吸音を検知する集音マイク10と、を備えている。加速度センサ8は、例えば、重力方向に対する測定装置2の傾きをXYZ軸方向の重力加速度として検出する。そして、枕元に置かれることによって、睡眠中の被験者の移動状態がセンサ部5の傾きの変動状態として検知される。
【0017】
判定装置3は、測定装置2からのデータを受信し、及び測定装置2に計測指令を送信する第二通信部11と、取得したデータを格納する第二記憶部12と、測定装置2が取得した移動加速度データから被験者の体動回数を算出するとともに、周期性を有する呼吸データから呼吸数を算出して、所定期間中の体動回数及び呼吸数の多寡から睡眠状態を判定する判定部13と、を備えている。
【0018】
判定部13は、機能手段(プログラムモジュール)として、第一検出部15と、第二検出部16と、体動判定部17と、第一睡眠判定部18と、第二睡眠判定部20と、第三睡眠判定部21と、を備えている。
【0019】
第一検出部15は、加速度センサ8によって検出された移動加速度データから加速度の大きさを算出する。第二検出部16は、集音マイク10で集音された呼吸音の周期的な変化を呼吸数と換算して1分間当たりの呼吸数を算出する。ここで、集音マイク10で集音したデータが周期性を有しない場合には、呼吸数を算出しない。
【0020】
体動判定部17は、移動加速度の大きさと所定の閾値とを比較して被験者の体動の有無を判定する。本実施形態では、加速度センサ8によって重力加速度を検出するので、静止状態の加速度の大きさは1となる。そこで、ノイズ等を考慮した値を閾値として、移動加速度の大きさがこの閾値以上又は閾値よりも大きい場合を「体動あり」と判定し、例えば1とする。一方、閾値以下又は未満の場合を「体動なし」と判定し、例えば0とする。
【0021】
第一睡眠判定部18は、体動判定部17にて判定した体動の有無に基づき被験者の覚醒状態を判定するとともに、覚醒状態の継続期間に基づき睡眠状態を複数段階に判定する。覚醒状態の判定に際しては、睡眠研究の場で使用される、例えば、COLE式やAW2式と同様の考えに基づく以下の判定式(1)を用いる。
【0022】
S=0.00001×(404×b4+598×b3+326×b2+441×b1+1408×ab0+508×a1+350×a2)・・・判定式(1)
【0023】
ここで、ab0には睡眠判定時の体動回数、b4,b3,b2,b1には、睡眠判定時のそれぞれ4分前,3分前,2分前,1分前の体動回数、a1,a2には、睡眠判定時のそれぞれ1分後,2分後の体動回数が入力される。ここで重みづけ係数は、種々の実験から算出したものであり、上記の値に限定されるものではない。
【0024】
そして、睡眠判定時においてS≧1の場合に覚醒、S<1の場合には睡眠と判定する。一方、実験的に最低限検知できる体動回数を規定値とし、体動回数が一定時間以上、この規定値を下回った場合には、体動測定失敗とみなす。
【0025】
睡眠状態を複数段階に判定する場合には、睡眠判定時を中心に前後4分間における上記Sの平均値を例えば4倍した値を算出する。この数値が大きいほど、覚醒状態が続いていることを示す。そして、4を「覚醒」、3を「浅い睡眠」、2を「通常睡眠」、0又は1を1として「深い睡眠」と判定する。
【0026】
第二睡眠判定部20は、呼吸数の多寡に基づき被験者の睡眠状態を複数段階に分けて判定する。すなわち、第二記憶部12に格納された睡眠測定全期間中の呼吸数のうち、最大呼吸数と最小呼吸数とを算出し、これらと睡眠判定時の呼吸数との差分に基づき睡眠状態を判定する。
【0027】
例えば、最大呼吸数が17、最小呼吸数が12の場合、12から13.25までを睡眠段階1とする。そして、判定時の呼吸数を第一睡眠判定部18と同様の段階(例えば4段階)にそれぞれ分類する。ここで、第二検出部16にて呼吸数が算出されなかった場合には、寝息測定失敗とみなす。
【0028】
第三睡眠判定部21は、第一睡眠判定部18及び第二睡眠判定部20の判定結果を補正して被験者の睡眠状態を複数段階に分けて再判定する。補正処理は、第一睡眠判定部18による判定結果の数値と、第二睡眠判定部20による判定結果の数値と、を単純平均して行う。ここで、第一睡眠判定部18又は第二睡眠判定部20の一方が睡眠状態の判定に失敗したときには、第三睡眠判定部21は、睡眠判定に成功した他方の判定結果をそのまま両者の判定結果とする。
【0029】
次に、本実施形態に係る睡眠状態判定装置1による睡眠状態判定方法について、図2を用いて説明する。この睡眠状態判定方法は、データ取得ステップ(S01)と、第一検出ステップ(S02)と、体動検出ステップ(S03)と、第一睡眠判定ステップ(S04)と、第二検出ステップ(S05)と、第二睡眠判定ステップ(S06)と、第三睡眠判定ステップ(S07)と、を備えている。
【0030】
データ取得ステップ(S01)では、測定装置2を被験者の近傍の枕元に置き、判定装置3からの指示に基づき、睡眠中の被験者の移動加速度データと呼吸データとを取得する。各データは第一記憶部6に格納され、適宜、第一通信部7を介して第二通信部11へ送信される。
【0031】
第一検出ステップ(S02)では、データ取得ステップ(S01)にて取得した移動加速度の大きさを第一検出部15により算出する。そして、体動判定ステップ(S03)では、第一検出ステップ(S02)にて算出した移動加速度の大きさに基づき、体動判定部17にて被験者の体動の有無を判定する。そして、第一睡眠判定ステップ(S04)では、体動判定ステップ(S03)で得られた体動の有無状況から、式(1)を用いて第一睡眠判定部18による睡眠判定を行う。
【0032】
一方、第二検出ステップ(S05)では、データ取得ステップ(S01)にて取得した呼吸音の1分間当たりの周期的な変化から、第二検出部16により1分間当たりの呼吸数を算出する。そして、第二睡眠判定ステップ(S06)では、第二検出ステップ(S05)で算出した呼吸数の多寡から第二睡眠判定部20による睡眠判定を行う。
【0033】
第三睡眠判定ステップ(S07)では、第一睡眠判定ステップ(S04)及び第二睡眠判定ステップ(S06)におけるそれぞれの睡眠判定結果に基づき、第三睡眠判定部21によって補正を行い、睡眠状態を総合判定する。
【0034】
この睡眠状態判定装置1及び睡眠状態判定プログラムによれば、被験者の移動加速度データ及び呼吸データに基づき、被験者の体動回数及び呼吸数を検出し、両者から睡眠状態を判定することができる。この際、被験者からは上記データを非接触状態で取得しても、第一睡眠判定部18及び第二睡眠判定部20によって体動回数だけでなく呼吸数と合わせて睡眠判定を行う。その結果、非接触状態でのデータ取得のために、体動回数又は呼吸数のうちの一方の算出が不十分な期間があっても、他方による判定結果に基づき睡眠判定を行うことができ、睡眠状態の測定成功確率をより向上することができる。
【0035】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、睡眠状態判定装置1が測定装置2と判定装置3とを備えているとしているが、測定装置2と判定装置3とは別々の状態である必要はなく、一体とされていても構わない。また、データの取得時間や睡眠判定のための所定期間は上記に記載した時間に限らない。
【実施例1】
【0036】
上記睡眠状態判定装置1を用いて実際に被験者の睡眠状態を判定した。まず、被験者の枕元に測定装置2を配置し、睡眠中の被験者から100msec毎にXYZ軸方向の重力加速度と呼吸音の各データを取得した。算出した体動回数に基づく睡眠判定結果を図3に示す。また、算出した呼吸数に基づく睡眠判定結果を図4に示す。そして、得られた各睡眠判定結果を補正して最終的に得られた睡眠判定結果を図5に示す。
【0037】
その結果、何れの睡眠判定結果も近いものが得られた。特に、体動又は呼吸数の何れか一方での睡眠状態の判定に失敗したときでも、睡眠判定に成功した他方の判定結果をそのまま両者の判定結果とするので、安定した睡眠状態判定を行うことができた。
【符号の説明】
【0038】
1 睡眠状態判定装置
5 センサ部
13 判定部
15 第一検出部
16 第二検出部
17 体動判定部
18 第一睡眠判定部
20 第二睡眠判定部
21 第三睡眠判定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触にて睡眠中の被験者の移動加速度データ及び呼吸データを取得するセンサ部と、
前記移動加速度データから前記被験者の体動回数を算出するとともに、前記呼吸データから呼吸数を算出して、所定期間中の前記体動回数及び前記呼吸数の多寡から睡眠状態を判定する判定部と、
を備えていることを特徴とする睡眠状態判定装置。
【請求項2】
前記判定部が、
前記移動加速度データから移動加速度の大きさを算出する第一検出部と、
周期性を有する前記呼吸データから前記呼吸数を算出する第二検出部と、
前記移動加速度の大きさと所定の閾値とを比較して前記被験者の体動の有無を判定する体動判定部と、
前記体動の有無に基づき前記被験者の覚醒状態を判定するとともに、前記覚醒状態の継続期間に基づき睡眠状態を複数段階に判定する第一睡眠判定部と、
前記呼吸数の多寡に基づき前記被験者の睡眠状態を複数段階に分けて判定する第二睡眠判定部と、
前記第一睡眠判定部及び前記第二睡眠判定部の判定結果を補正して前記被験者の睡眠状態を複数段階に分けて再判定する第三睡眠判定部と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項3】
前記第一睡眠判定部が、睡眠判定時を含む前後複数時における体動回数に重みづけした関係式に基づき、前記睡眠判定時における覚醒状態を判定し、
前記第二睡眠判定部が、測定期間中における最大呼吸数と最小呼吸数とを算出し、これらと前記睡眠判定時における呼吸数との差分に基づき、睡眠状態を判定することを特徴とする請求項2に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項4】
前記第一睡眠判定部又は前記第二睡眠判定部の一方が前記睡眠判定時における睡眠状態の判定に失敗したときに、前記第三睡眠判定部が他方の判定結果をそのまま両者の再判定結果とすることを特徴とする請求項3に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項1から4の何れか一つに記載の睡眠状態判定装置として機能させることを特徴とする睡眠状態判定プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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