説明

睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤

【課題】 睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤を提供する。
【解決手段】 構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドを含有する睡眠誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
睡眠は脳を発達させた動物たちの重要な生理機能であり、生存のために欠くことのできない行動である。睡眠がうまくとれないと、大脳の情報処理能力に悪影響が出る。従って、発達した大脳をもつ高等動物ほど睡眠の役割は大きい。質のよい睡眠があってはじめて、脳は高次の情報処理能力を発揮できる。
近年、かつてないほど、睡眠に対する関心が高くなっている。その大きな理由は2つある。一つは、脳科学の進歩によって,睡眠の重要性がしだいに認識されてきたことである。もう一つは,現代社会が睡眠を慢性的に犠牲にする活動様式になり、さまざまな悪影響を生じたことである。
【0003】
深刻な睡眠障害が世界的に増加しつつある。不眠に代表される睡眠障害の対策はこれからますます比重を高めていくことになる。
不眠症は人の健康を維持するために必要な睡眠時間が量的にあるいは質的に不足し、そのために社会生活に支障をきたし、自覚的にも悩んでいる状態である。不眠症状がどのくらい続いているかによって、数日の場合には「一過性不眠」、1〜3週間の場合には「短期不眠」、1ヶ月以上続く場合には「長期不眠」と呼ぶ。不眠の原因はさまざまであるが、多くの場合、何等かのストレスと関わること、そしてこのストレスは長引くほど、不眠の症状が重くなる傾向がある。不眠に対しては睡眠薬、精神安定剤、ストレス緩和剤などの投与が一般的な治療法として用いられている。
しかしながら、不眠症改善効果は対象者の心神的な状態や周囲の環境に大きく左右されることと共に、使用した薬剤の作用点の特徴のほか、副作用や薬物依存性などの理由で制限されることも多い。従って、これら睡眠薬、精神安定剤、ストレス緩和剤の欠点を改善するために新たな医薬品及び機能性食品などの開発が必要とされる。
【0004】
本発明者らは以前の試験において、セリンやホスファチジルセリンなどセリンユニットを有する化合物、あるいはグリシン、ホスファチジン酸などに抗不安効果を見出し、特許出願を行った(特許文献1参照)。また、その試験の延長として、L−セリンなどの投与によりストレス負荷条件下で顕著に睡眠誘導効果が現れることを発見し、その効果を見出した(特願2006-206140号)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−247841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は新たな睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤など不眠症状を対応する医薬品、食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品を開発するために鋭意検討を重ねた結果、構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドに睡眠誘導又はストレス性不眠症改善効果があることを見出した。すなわち、本発明は、次のような手段による。
【0008】
(1)構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドを含有することを特徴とする睡眠誘導剤。
(2)構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドを含有することを特徴とするストレス性不眠症改善剤。
(3)構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドが、蛋白質加水分解法、化学合成法、酵素法、発酵法、又は天然原料から抽出・精製のいずれかの方法によって製造されたものであることを特徴とする(1)又は(2)記載の睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤。
(4)構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドの含有量が、5質量%以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有することを特徴とする睡眠誘導用又はストレス性不眠症改善用医薬品。
(6)(1)〜(4)のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有することを特徴とする睡眠誘導用又はストレス性不眠症改善用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品。
(7)(1)〜(4)のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有する飼料。
【発明の効果】
【0009】
1.構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドには睡眠誘導、ストレス性不眠症改善効果があることが確認できた。
2.本発明により副作用を起こさず安全な睡眠誘導剤、ストレス性不眠改善剤を提供することができる。
3.睡眠誘導用又はストレス性不眠症改善用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品を提供することができる。
4.人以外に家畜、ペットを対象とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に関する睡眠誘導、ストレス性不眠症改善効果に有効な化合物は、構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド(以下、「当該ジペプチド」という)であることを確認することができた。即ち、本願発明のジペプチドを構成するアミノ酸は、グルタミン酸とシステイン、システインとグリシン、グルタミン酸とグリシンの3種類組み合わせであるアミノ酸をもつジペプチドである。それぞれのジペプチドの構造式を図4(a)〜(c)に示す。3種類のそれぞれのジペプチドを本明細書では「GCペプチド」「CGペプチド」「GGペプチド」と表記する場合がある。
【0011】
当該ジペプチドは蛋白質加水分解法、化学合成法、酵素法、発酵法の何れかの方法によって製造することができる。また、当該ジペプチドは組織の構成成分であることから、収率は低いものの、動物、植物などの天然原料から抽出・精製して製造することもできる。さらに、動物、植物など由来成分から化学処理により生成・抽出・精製して製造することもできる。当該ジペプチドは特に製造方法を限定するものではない。
【0012】
本発明に関わる睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤を製造するには、上記の方法で製造した当該ジペプチドを有効成分とするもの又は市販の当該ジペプチドを有効成分とするものを原料として用いることができ、常法に従って公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。
【0013】
本発明に関わる睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられ、非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
【0014】
本発明に関わる睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤において、当該ジペプチドの投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択・決定されるが、例えば、1日あたり0.1〜10,000mg/kg体重程度とされ、1日1〜数回に分けて投与してもよい。
また、当該ジペプチドは、生体生成又は構成成分であり、食品中にも微量ながら普遍的に含まれている成分であることから安全性が高いと考えられ、睡眠誘導、ストレス性不眠症改善を目的として、睡眠誘導、ストレス性不眠症改善機能性食品として摂取することもできる。
【0015】
当該ジペプチドを含有することを特徴とする睡眠誘導、ストレス性不眠症改善機能性食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品として位置付けることができる。機能性食品としては、例えば、これらの化合物に適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。この睡眠誘導、ストレス性不眠症改善機能性食品は、そのまま食用に供してもよく、また種々の食品(例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子など)に添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。かかる食品の形態における本発明に関するジペプチドの摂取量は年齢、体重、症状、疾患の程度、食品の形態等により適宜選択・決定されるが、例えば、1日あたり0.1〜10,000mg/kg体重程度とされる。
【0016】
上述の当該ジペプチドを含有する睡眠誘導剤、ストレス性不眠症改善剤を目的とした医薬品、食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品中のこれらの各化合物の含有量の合計は組成物全量中5質量%以上にすることが望ましい。さらに望ましいのはこれら各化合物の含有量の合計が組成物全量中20質量%以上にすることである。
さらに、当該ジペプチドを含有する抗不安剤を飼料として家畜、ペットに与えることにより、家畜の情緒が安定し、成長を促進することができる。特に、生後間もなく、親から離されて飼育される幼齢のペットや家畜に有効である。
【0017】
当該ジペプチドを有効成分とする組成物の睡眠誘導、ストレス性不眠症改善機能を検証することに当たって、本発明者はまず新生ニワトリヒナの脳室内に本発明に関するジペプチドを投与し、その後ニワトリヒナの行動を観察した。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
〔試験条件1〕
試験条件1は、実施例1に適用する。
試験動物:卵用種雄ニワトリヒナ(Julia、5日齢)を試験に使用した。試料を投与する前に、試験動物は体重を応じて群分けを行い、6〜7羽を一組にした。
飼育条件:30±1℃の条件下で、市販飼料(豊橋飼料社製、AX)と水を自由摂食させた。
【0019】
試験試料:次の試薬を0.1%のエバンスブルーを含む0.85%の生理食塩水に溶かし(必要時にさらに5%のDMSOにより助溶する)、各1μmolに調製した。
【0020】
実施例に用いる試薬:
(1) GCペプチド:H-Glu-(Cys-OH)-OH(Bachem 社製 95.7%)
(2) CGペプチド:H-Cys-Gly-OH(Bachem 社製 >85%)
(3) GGペプチド: H-Glu-Gly-OH(Bachem 社製 >99%)
(4)生理食塩水(「Saline」と表記する場合もある)
なお、図表では、それぞれ GC、CG、GG、controlと表記する。
【0021】
試験方法:マイクロシリンジを用いてニワトリヒナの脳室に試薬を10μl投与した。また、Control 群には0.1%のエバンスブルーを含む0.85%の生理食塩水を10μl 脳室投与した。
行動観察:投与から5分後、各ニワトリヒナを群飼育ケージから行動観察用分離飼育ケージに移した脳室投与の直後に単離ストレス状況下で10分間の行動を3つの角度からビデオカメラで記録した。
【0022】
結果解析:記録したビデオからニワトリヒナの情緒的な行動を観察し、ヒナ単離ストレス下における、(1)鳴き声、(2)睡眠状態時間、(3)自発運動量に対する還元型構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドの影響をグラフに示した。
【実施例1】
【0023】
実施例1は前記試験試料を用いて、ヒナ単離ストレス下における鳴き声(回数)、睡眠状態時間(秒数)、自発運動量(回数)を測定した。測定結果の数値データを表1〜3に、グラフを図1〜3に表す。具体的には鳴き声(回数)を表1及び図1に、睡眠行動(秒数)を表2 及び図2に、自発運動量(回数)を表3及び図3に示した。
【0024】
【表1】

【0025】
表1、図1に示したように、鳴き声回数が、コントロール群に比べて半分以下となった。構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド は、コントロール群に対してそれぞれほぼ100%減、半減、80%減となった。構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド投与群は、ストレス緩和効果の傾向を示した。
【0026】
【表2】

【0027】
表2、図2に示したように、睡眠状態時間は、コントロール群を1とした場合、構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドでは約13〜25 倍と増加した。構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド投与群は、睡眠誘導効果、ストレス性不眠症改善効果の傾向を示した。
【0028】
【表3】

【0029】
表3、図3に示したように、自発運動量が、コントロール群を100%とした場合、構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド投与では約5〜30 %に減少した。構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチド投与群は、ストレス緩和効果の傾向を示した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】鳴き声(回数)を示すグラフ。
【図2】睡眠行動(秒数)を示すグラフ。
【図3】自発運動量(回数)を示すグラフ。
【図4】ジペプチドの構造式を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドを含有することを特徴とする睡眠誘導剤。
【請求項2】
構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドを含有することを特徴とするストレス性不眠症改善剤。
【請求項3】
グルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドが、蛋白質加水分解法、化学合成法、酵素法、発酵法、又は天然原料から抽出・精製のいずれかの方法によって製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤。
【請求項4】
構成アミノ酸がグルタミン酸、システイン、グリシンから選択されるジペプチドの含有量が、5質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有することを特徴とする睡眠誘導用又はストレス性不眠症改善用医薬品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有することを特徴とする睡眠誘導用又はストレス性不眠症改善用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は健康食品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載された睡眠誘導剤又はストレス性不眠症改善剤を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−189573(P2008−189573A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24306(P2007−24306)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】