矩形紡糸口金および矩形紡糸口金を用いた合成繊維の製造方法
【課題】 糸切れの発生、紡出糸の品質斑を低減できる矩形紡糸パックおよび合成繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が配置された長方形の領域に孔密度が前記長方形の領域の長手方向の中央部に対して長手方向の端部が低く配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
【解決手段】 多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が配置された長方形の領域に孔密度が前記長方形の領域の長手方向の中央部に対して長手方向の端部が低く配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用の矩形紡糸口金および矩形紡糸口金を用いた合成繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に合成繊維の紡糸に用いられる紡糸パックとしては、図2に示すように紡糸口金におけるノズル孔が口金面の円形の領域に配置された円形紡糸口金が一般的で、その円形紡糸パックの構成としては、下部パックケース内に、紡糸されるポリマーの全体流れの方向に順に濾過材と、多孔板と、円形紡糸口金を配置し、これら濾過材と、多孔板と、円形紡糸口金とを、ポリマー流入管を有する上部パックケースで一体に組み立てて構成されている。ポリマーは、ポリマー供給管から上部パックケースに備えられているポリマー流入管へ導入され、濾過材、多孔板を経て円形紡糸口金から紡糸されるようになっている。
【0003】
この円形紡糸口金を用いた紡糸には、単糸間接着や糸切れ、糸状の品質斑といった課題に対する対策として、例えば、孔配置の適正化について提案されており(例えば、特許文献1参照)、円形紡糸口金を用いた紡糸における糸切れや太さ斑を低減させる改善対策が講じられてきた。
【0004】
近年では生産性向上による生産機の大型化の流れを受け、ノズル孔数をより増やすことができる紡糸口金のニーズが高まっている。その紡糸口金の形状としては、図3に示すような紡糸口金におけるノズル孔が口金面の矩形の領域に配置された矩形紡糸口金(例えば、特許文献2参照)がある。このようにノズル孔を矩形に配置することで、口金の外周から口金の中心までの最短距離を短くすることができ、凝固液が口金中央まで供給されやすくなるため、ノズル孔数を増やすことができる。
【0005】
矩形紡糸口金を用いた矩形紡糸パックの構成は、円形紡糸口金と同様の構成をしており、下部パックケース内に、紡糸されるポリマーの全体流れの方向に順に濾過材と、多孔板と、矩形紡糸口金を配置し、これら濾過材と、多孔板と、矩形紡糸口金とを、ポリマー流入管を有する上部パックケースで一体に組み立てて構成されている。ポリマーは、ポリマー供給管から上部パックケースに備えられているポリマー流入管へ導入され、濾過材、多孔板を経て矩形紡糸口金から紡糸されるようになっている。矩形紡糸口金を用いた乾湿式紡糸法の例を図4に示す。図4(a)は、糸条の引き出し方向が前後となる方向から、図4(b)は、糸条の引き出し方向が左右となる方向から見た図である。本例においては、矩形紡糸パック1は、凝固浴槽2との間に一定の空気層3を隔てて水平に設置される。矩形紡糸パック1から吐出された紡糸溶液は、一旦気体雰囲気中(空気層3)に押し出されてから凝固浴槽内に導かれ、凝固糸条4となり、凝固浴槽底部に設置した折り返しガイド5で引き取り方向を転換し、引き取りローラー6で凝固浴槽から引き出される。口金は長手方向を図4(a)において横方向になるよう配置され、糸条は口金から折り返しガイドの間で、口金の幅方向に収束され、幅広のリボン状にて折り返しガイドで折り返される。なお、凝固浴槽2には、糸条の流れにより発生する随伴流を整流化させるために整流板が設置される場合もある。
【特許文献1】特開平7−278940号公報
【特許文献2】特開2001−348722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の矩形紡糸口金には次のような欠点がある。
【0007】
上記特許文献2は、部分領域を短冊状に配置し、隣り合う部分領域の間に非穿孔領域を設けることで凝固液の進入をスムーズにし、それによりノズル孔数を増やすことができるというものである。しかしながら、非穿孔領域に局所的に凝固液を流し込むことはかえって凝固液の流れを乱し糸を揺らすため、太さ斑や糸切れの発生などの不具合を生じるものであった。
【0008】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決しようとするものであり、糸切れの発生、紡出糸の品質斑を低減できる矩形紡糸口金および合成繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の矩形口金を乾湿式紡糸に適用した場合の口金直下の液面を詳細に観察することにより、下記のような現象を発見した。
【0010】
すなわち、口金から糸条が吐出される領域の液面付近を図4(a)の方向から拡大した図が図5、同じく図4(b)の方向から拡大した図が図6であるが、この乾湿式紡糸において、図5、図6に示すように矩形紡糸パック1から吐出される糸条4は、凝固浴槽内へ導かれていく。その際、凝固液は糸条4に引っ張られ糸条4に沿った流れを生じる。一方水面近傍では、この糸条に引っ張られている凝固液を補うべく、矩形紡糸パック1の中心軸に向かう流れが生じる。特に外周部に位置する糸条は、この流れの影響を大きく受け、矩形紡糸パック1の中心軸に向かって糸条が集められ、その領域では糸密度が高くなる。糸密度が高くなった領域では、糸条に引っ張られる凝固液の量が増えるため、凝固液の液面は低下する。
【0011】
かかる凝固液の液面低下およびそれに伴う凝固液の流れの乱れが、太さ斑や糸切れの発生などの不具合の原因であろうとの仮説の下、かかる現象を低減すべく検討を行い、従来と比較して太さ斑や糸切れが大きく低減できる、矩形口金を見出した。すなわち、本発明の矩形口金は、次のいずれかの構成を有するものである。
(1)多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が、口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
(2)前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域の孔密度に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域の孔密度が低い前記(1)に記載の矩形紡糸口金。
(3) 前記外周部に位置する部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍である前記(2)に記載の矩形紡糸口金。
(4)前記各部分領域において前記各部分領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなる前記(2)または(3)に記載の矩形紡糸口金。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の矩形紡糸口金を用いれば、乾湿式紡糸時に矩形紡糸口金の外周部に位置する部分領域から吐出される糸条の糸密度が部分的に増加して、凝固液の液面が部分的に低下する領域を小さくすることができる。これにより、安定した凝固液の液面を維持できるため、太さ斑を改善でき、また糸切れを低減させることが可能となり、これにより得られる合成繊維の品質および生産性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、多数のノズル孔が、口金面の長方形の領域に設けられた矩形口金に関するものである。本発明は乾湿式紡糸による合成繊維の生産性向上を目的とし、ノズル孔数をより増やすことができる矩形紡糸口金についてのものであり、ノズル孔の数は、1000以上のものに適用した場合、好ましい効果が得られる。ノズル孔の数の上限は特に限定されるものではないが、口金の大型化に伴う設備上の制限から15000以下が好ましい。
【0014】
本発明の矩形紡糸口金においては、ノズル孔が口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く配置されてなることを特徴とする。
【0015】
ここで、長方形の領域とは、形状としては幾何学的な厳密性を求められるものではなく、長手方向に対し幅方向が狭い形状であればよく、本発明においては、次の条件を満たすものを長方形と定義する。すなわち、ある形状(その面積をSとする)の外形に内接する長方形と外接する長方形を考え、前記内接する長方形のうち面積が最大となる長方形の面積をSi、前記外接する長方形のうち面積が最小となる長方形の面積をSoとし、0≦(S−Si)/S≦0.27、または0≦(So−S)/S≦0.27を満たす形状を長方形と定義する。好ましくは0≦(S−Si)/S≦0.25、または0≦(S−Si)/S≦0.25であり、さらに好ましくは0≦(S−Si)/S≦0.20、または0≦(So−S)/S≦0.20を満たす形状を長方形と定義する。前記条件を満たす範囲であれば、角に丸みをもたせた形状、角を落とした形状、長手方向の中央に凹みがあるような亜鈴状の形状、頂点が5つ以上存在するような多角形、長方形において角の丸みが短辺側で繋がった長丸形状であっても長方形として扱え、いずれにおいても本発明を好適に適用することができる。さらに、領域の外形が上記長方形をなしていれば、その内部にノズル孔の形成されていない領域を有していてもよく、ドーナツ状やめがね状の形状であっても、上記条件を満たす範囲であれば本発明を好適に適用することができる。
【0016】
また、本発明において、ノズル孔が口金面の長方形の領域に配置されてなる、という場合の領域とは、最外周のノズル孔を包絡する領域全体をいい、非穿孔領域により分割されていても、非穿孔領域を含んだ口金面のノズル孔全体の存在する領域を指すものとする。なお、前記領域が非穿孔領域により分割された部分については、これと区別して、「部分領域」と記すものとする。例えば図2において、「ノズル孔が配置された領域」は、円形の領域であり、「部分領域」は、分割された扇形の領域を指すものとし、図3においては、「ノズル孔が配置された領域」は、E,E’,F,F’を全て含む領域であり、E,E’,F,F’のそれぞれは部分領域である。
【0017】
また、本発明の矩形口金においては、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く配置されてなることを特徴とする。本発明において、中央部および外周部の孔密度とは、次の条件を満たす範囲内における孔密度とする。中央部の孔密度とは、前記長方形と中心を同一とする相似形状であり、その面積は前記長方形の1/15である範囲(中央部代表範囲と呼ぶ場合もある)を平均した孔密度をいうものとし、外周部の孔密度とは、最外周から幅10mmの範囲(外周部代表範囲と呼ぶ場合もある)を平均した孔密度をいうものとする。なお、前記中央部代表範囲、または、前記外周部代表範囲が、非穿孔領域を含む場合には、非穿孔領域を除いたそれらの範囲についての平均した孔密度をその部分の孔密度として計算するものとする。また、前記中央部、または、外周部におけるノズル孔の間隔(ピッチと呼ぶこともある)が均一である場合には、後述するようなノズル孔のピッチを用いてそれら範囲の平均した孔密度を求めてもよく、前記中央部代表範囲、または、前記外周部代表範囲が、非穿孔領域により分割され、分割された範囲のそれぞれの範囲の中では、ノズル孔の間隔が均一である場合には、それぞれの範囲での平均した孔密度をノズル孔ピッチから求め、面積で加重した平均として、それぞれの代表範囲の平均した孔密度をもとめてもよい。
【0018】
本発明においては、孔密度が前記長方形の領域の中央部に対し長手方向の外周部が低く配置されていれば、外周部のみ孔密度が低くノズル孔が配置されていても良いし、中央部から外周部に全体にわたって孔密度が変化するようにノズル孔が配置されても良い。全体にわたって、孔密度を変化させる場合には、中央部から、外周部にかけて連続的に孔密度が変化するようにノズル孔が配置されていても良いし、段階的に孔密度が変化するようにノズル孔が配置されていても良い。また、外周部の孔密度は、中央部の孔密度の0.5〜0.9倍であることが好ましい。なお、孔密度が連続的に変化するような配置とした場合にも、前記外周部代表範囲についての平均した孔密度が、前記中央部代表範囲の平均した孔密度の0.5〜0.9倍とすることが好ましい。また、長手方向の終端から、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%の長さ、かつ幅方向の終端から、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%以上22.5%の範囲に、平均した孔密度が前記中央部代表範囲の孔密度の0.5〜0.9倍となる部分領域が存在することが好ましい。
【0019】
なお、本発明における孔密度は、ノズル孔の配置が格子状である場合にはノズル孔の横方向のピッチをPh(mm)、縦方向のピッチをPv(mm)とすると、孔密度を1/(Ph×Pv)(個/mm2)で求めることもできる。また、ノズル孔の配置が千鳥状である場合には、孔密度を、隣接する3個のノズル孔の中心軸を結んで形成される三角形の面積をStとし、0.5/St(個/mm2)で求めることができる。また、ノズル孔配置が格子状といった規則性を有していない場合の特定箇所の孔密度を求める場合には、1辺を10mmとする100mm2の正方形中に含まれるノズル孔数を計測し、100mm2で除することで1mm2あたりのノズル孔数としてあらわすものとするが、かかる場合において、1辺を10mmとする100mm2の正方形部分が非穿孔領域を含む場合には、非穿孔領域を含めずに計算するものとする。なお、本発明の矩形紡糸口金の孔ピッチとしては、0.6〜4.0mmの範囲であることが好ましく、2.0〜3.0mmであればさらに好ましい。
【0020】
また、本発明の好ましい態様の一例として、前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域(以降、中央の部分領域と略記することもある)に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域(以降、外周部部分領域と略記することもある)の孔密度が低い態様が挙げられる。各部分領域の間にノズル孔のない非穿孔領域が設けられ、かかる非穿孔領域にて部分領域に分割することは、口金の製作性の面から好ましい。従来の技術においては、非穿孔領域を設けると、そこに局所的に凝固液が流れ込むことによって凝固液の流れが乱れそれに伴い糸が揺れるため、太さ斑や糸切れの発生などの不具合を生じるものであった。本発明を適用することにより、従来技術であったような問題を生じることなく非穿孔領域を設けることができ、口金の製作性をも向上させることができるようになったものである。ただし、前述したように、非穿孔領域への局所的な凝固液の流れ込みは、糸揺れを誘発し太さ斑や糸切れの発生などの不具合を誘発するものであるため、その幅は広すぎることは好ましくない。よって、かかる非穿孔領域の幅としては、隣接する部分領域の最外部の孔ピッチの1.5倍以上であり、絶対値としては、1.0mm〜6.0mmが好ましく、3.0mm〜4.5mmであればさらに好ましい。
【0021】
本発明において、前記外周部部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍であることが好ましい。外周部部分領域の孔密度が中央の部分領域の孔密度の0.5倍より小さい場合、中央の部分領域から吐出される糸条の糸密度が、外周部部分領域から吐出される糸密度よりもかえって高くなり、0.9倍より大きい場合には、外周部部分領域から吐出される糸条の糸密度が高くなり、いずれの条件においても、糸密度が高くなった領域では液面が局所的に大きく低下する場合があり、本発明の効果を十分に得ることができない場合があるためである。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された領域の幅方向の長さYの5.0〜22.5%であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の合成繊維の製造方法は、前記矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸する製造方法である。本発明の矩形紡糸口金を使用することにより、凝固液の液面の高低差をなくし、糸条の太さ斑や糸切れを起こすことなく安定して紡糸することが可能になる。
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
図1は本発明に係る矩形紡糸口金におけるノズル孔の孔密度の分布の一例を示す概略平面図である。本例においては、矩形紡糸口金において中央部から外周部に向かうにつれて孔密度が低くなるものである。さらに具体的に説明すると、図1Aに示すように隣り合うノズル孔間隔は、長手方向および幅方向に、中央部から外周部側に向かって広くなるように配置され、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称になっている。このノズル孔間隔は、特に限定されるものではないが、吐出された糸条の空間での混み具合(以降、糸密度と記す)が一定となることが好ましく、図1Aの例のように一定の割合で広くなるように配置されることが好ましい。糸密度を均一にすることで、糸条により引っ張られる凝固液の量を均一にすることができ、図7に示すように矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から凝固液の液面、さらに図8に示すように矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、凝固浴槽の液面を高低差の少ない安定した液面に保つことができるようになり、糸切れおよび太さ斑を低減させることができる。
図9は、本発明に係る矩形紡糸口金の一例を示す概略平面図である。図9はノズル孔が配置された長方形の領域が、9つの部分領域に分割されており、隣り合う部分領域の間には、ノズル孔のない非穿孔領域が設けられている。本例においては、一つの中央の部分領域を囲むように、外周部部分領域が配置されている。各部分領域の形状は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称となっている。各部分領域におけるノズル孔密度は、各部分領域の中央部から各部分領域の外周部に向かって低くなってもよいが、図9Aに示すように均一であってもよい。外周部部分領域の孔密度(b)は中央の部分領域の孔密度(a)の0.5倍〜0.9倍になることが好ましい。外周部部分領域の孔密度(b)が中央の部分領域の孔密度(a)の0.9倍より大きい場合には、外周部部分領域から吐出される糸条の糸密度が高くなる領域を解消することができず、外周部の糸密度が高くなった領域では液面が局所的に大きく低下し、発明の効果を十分に得ることができない場合がある。外周部部分領域の孔密度(b)が中央の部分領域の孔密度(a)の0.5倍より小さい場合、中央の部分領域から吐出される糸条の糸密度が、外周部部分領域から吐出される糸密度よりもかえって高くなり、中央の液面が外周部の液面に対し低下する場合があるため、0.5倍以上が好ましい。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%〜22.5%であることが好ましい。外周部部分領域の長手方向の長さX1および外周部部分領域の幅方向の長さY1が、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXおよび幅方向の長さYの5.0%より小さい場合、部分領域が小さすぎるため発明の効果を十分に得ることができない場合がある。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1および幅方向の長さY1が、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXおよび幅方向の長さYの22.5%より大きい場合においても発明の効果は得られるが、同等のノズル孔数を得るために矩形口金を大きくせざるを得ず、設備が大型化されてしまうので好ましくない。
【0025】
このように部分領域を配置し、中央の部分領域の孔密度(a)より外周部部分領域の孔密度(b)を小さくすることで、図10に示すように矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、および図11に示すように矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、吐出された糸条の糸密度を均一にできる。よって、液面を高低差の少ない安定した液面に保つことができるようになり、糸切れおよび太さ斑を低減させることができる。
【0026】
また、外周部部分領域および中央の部分領域は、図12に示すように長方形の領域の長手方向および幅方向にさらに複数に分割されていても良く、外周部部分領域の長手方向の長さの和X1’は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さの和Y1’は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さXの5.0%〜22.5%であることが好ましい。孔密度の分布は2段階に限らず、例えば、図13に示すように、孔密度a>b>cとなるように、中央の部分領域から外周部部分領域に向けて孔密度が小さくなるように分布されていることも、十分な効果を得る上で好ましい態様である。
【0027】
なお、矩形紡糸口金における部分領域の形状は長方形に限られるものではない。例えば、図14に示すように部分領域が台形や三角形の形状に分割されていても、各部分領域の形状は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称となり、外周部部分領域の孔密度(b)が、中央の部分領域の孔密度(a)よりも小さく、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%〜22.5%になるように分割されていれば、十分な効果を得る上で好ましい態様である。さらに、ノズル孔が配置された領域が前記長方形の条件を満たすものであれば、非穿孔領域により分割された部分領域の形状は、長方形や三角形に限らず、楕円や多角形といった形状であっても、上記条件を満たす範囲であれば本発明を好適に適用することができる。
【0028】
本発明の矩形紡糸口金を用いた矩形紡糸パックは、粘度が5〜5,000Pa・sのポリマー溶液に対して特に有効であり、本発明の矩形紡糸口金を使用して乾湿式紡糸により合成繊維を製造することにより、凝固液の液面の高低差をなくし、糸条の太さ斑や糸切れを起こすことなく安定に紡糸が可能になる。また、溶融紡糸法おいては糸の均一冷却、湿式紡糸においては口金直近の凝固浴濃度の均一化等の面で、糸の密度を均一にすることは有用であり、本発明の矩形紡糸口金は乾湿式紡糸法のみならず、溶融紡糸法や湿式紡糸法などにも適用でき、その紡糸法は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明による実施態様は本実施例に限定されるものではない。
【0030】
本実施例では、乾湿式紡糸を行い、吐出された糸条の糸密度および凝固液の液面の低下距離を測定した。それぞれの測定方法は、以下の通りであり、これらから、糸密度差10%以下を○、10%を越えるものを△と判定した。また、液面の低下距離1mm以下を○、1mmを越えるものを△と判定した。
【0031】
<吐出された糸条の糸密度の測定>
図15に示すように、矩形紡糸パック1上に固定された水中カメラ固定用治具7に、水中カメラ8を凝固浴槽内に液面と水平に固定する。水中カメラ8で撮影した画像をパソコン9に送り、その画像から幅30mmの範囲内に含まれる糸条数を計測し、糸条密度(本/mm)を算出した。
【0032】
糸条の糸密度の長手方向の測定箇所は、図16に示す領域について行った。まず、矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔が配置された長方形の長手方向の長さXの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をx軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。長手方向ノズル孔端部の座標は、(x,z)=(±0.5X,0)(単位:mm、以下略)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条の測定箇所として(x,z)=(0,−8)を中心とする領域を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条の測定箇所としては(x,z)=(0.4X,−8)と(x,z)=(−0.4X,−8)を中心とする領域の2箇所を測定した。また、幅方向の測定個所についても長手方向と同様に行った。矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔が配置された長方形の幅方向の長さYの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をy軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。幅方向ノズル孔端部の座標は、(y,z)=(±0.5Y,0)(単位:mm、以下略)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条の測定箇所として(y,z)=(0,−8)を中心とする領域を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条の測定箇所としては(y,z)=(0.4Y,−8)と(y,z)=(−0.4Y,−8)を中心とする領域の2箇所を測定した。
【0033】
<凝固液の液面の低下距離の測定>
図17に示すように、矩形紡糸パック1上に載せられた水中カメラ固定用治具7に、水中カメラ8を凝固浴槽の液面が画像の中心になるように固定する。水中カメラ8で撮影した画像をパソコン9に送り、その画像から凝固液の液面の低下距離を算出した。
【0034】
凝固液の液面の低下距離の測定箇所は、図18に示す領域について行った。まず、矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔群の長方形の長手方向の長さXの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をx軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。長手方向ノズル孔端部の座標は、(x,z)=(±0.5X,0)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所として、x=0上で液面と交わる点を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所としては、x=0.4X上とx=−0.4X上で液面と交わる点の2箇所を測定した。また、幅方向の測定個所についても長手方向と同様に行った。矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔群の長方形の幅方向の長さYの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をy軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。幅方向ノズル孔端部の座標は、(y,z)=(±0.5Y,0)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所として、y=0上で液面と交わる点を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所としては、y=0.4Y上とy=−0.4Y上で液面と交わる点の2箇所を測定した。
(実施例1)
図1に示すような中央部から長手方向端部に向かうにつれて孔密度が低くなることを特徴とした、図19、図20に示す孔密度分布をもつ矩形紡糸口金を用いて、アクリル系ポリマー溶液にて図4に示す乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、溶液の密度は1085kg/m3、粘度は120Pa・sとした。凝固浴は30重量%DMSO水溶液を用い、引き取り速度は20m/分とした。また、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXを320mm、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYを110mmとした。このときの条件、及び、結果を表1に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0035】
なお、長手方向の糸密度差(%)とは、(x,z)=(0.4X,−8)と(x,z)=(−0.4X,−8)を中心とする領域の糸密度の平均値を、(x,z)=(0,−8)を中心とする領域の糸密度で割り、100を掛けたもののことをいい、同様に幅方向の糸密度差(%)とは、(y,z)=(0.4Y,−8)と(y,z)=(−0.4Y,−8)を中心とする領域の糸密度の平均値を、(y,z)=(0,−8)を中心とする領域の糸密度で割り、100を掛けたもののことをいう。長手方向の凝固液の液面の高低差(mm)とは、x=0上における凝固液の液面の低下距離(mm)と、x=0.4X上とx=−0.4Xにおける凝固液の液面の低下距離(mm)の平均値との差のことをいい、同様に幅方向の凝固液の液面の高低差(mm)とは、y=0上における凝固液の液面の低下距離(mm)と、y=0.4Y上とy=−0.4Yにおける凝固液の液面の低下距離(mm)の平均値との差のことをいう。
(実施例2)
XとYの長さが異なる以外は、実施例1と同様の条件で乾湿式紡糸を行い、糸条の糸密度差および凝固液の液面の高低差を測定した。このときの結果を表1に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から分かるように本発明を適用した矩形紡糸口金を用いると、吐出された糸条の糸密度の差は少なく、凝固液の液面の高低差も小さくすることができる。
【0038】
(実施例3)
図9に示す部分領域が碁盤目状に分割された矩形紡糸口金を用いて図4に示す乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。また、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXを320mm、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYを110mm、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの20%、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの20%、中央部分領域の孔密度を0.25個/mm、中央部分領域に対する外周部部分領域の平均孔密度を0.8倍とした。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
(実施例4〜5)
中央部部分領域に対する外周部部分領域の孔密度の比率が異なる以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は実施例4の場合は3個、実施例4の場合は5個であり、品位は良好であった。
(実施例6)
部分領域の個数が異なる以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
(実施例7)
外周部部分領域の長手方向の長さX1、外周部部分領域の幅方向の長さY1が、異なる以外は実施例10と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は4個であり、品位は良好であった。
(実施例8)
図14に示す部分領域が台形や三角形の形状で分割された矩形紡糸口金を用いた以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0039】
【表2】
【0040】
表2からわかるように本発明を適用した矩形紡糸口金を用いると、吐出された糸条の糸密度の差は少なく、凝固液の液面の高低差も小さくすることができる。
(比較例1)
図3に示す従来の矩形口金を用いて、実施例1と同様の条件で乾湿式紡糸を行い、糸条の糸密度差および凝固液の液面の高低差を測定した。この矩形紡糸口金のノズル孔群が成す長方形の長手方向の長さXを320mm、および幅方向の長さYを110mmとし、各部分領域の孔密度および形状は均一である。
この時、吐出される糸条の長手方向の糸密度差は38.5%で、幅方向の糸密度差は35.4%であった。さらに長手方向の凝固液の液面の高低差は3.26mmで、幅方向の凝固液の液面の高低差は3.09mmであった。また糸条が密集し、凝固液の液面に高低差を生じさせていることがはっきりと観察され、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は30個であり、品位の悪いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の矩形紡糸口金の一例を示す概略平面図である。
【図1A】図1に示す矩形紡糸口金の孔分布の詳細を示す概略平面図である。
【図2】従来の円形紡糸口金を示す概略平面図である。
【図3】従来の矩形紡糸口金を示す概略平面図である。
【図4】乾湿式紡糸工程の一実施態様を示す概略工程図である。
【図5】乾湿式紡糸工程において凝固浴の液面変動を説明する矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図6】乾湿式紡糸工程において凝固浴の液面変動を説明する矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図7】本発明である図1に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図8】本発明である図1に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図9】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図9A】図9に示す矩形紡糸口金の孔分布の詳細を示す概略平面図である。
【図10】本発明である図9に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図11】本発明である図9に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図12】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図13】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図14】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図15】口金から吐出された糸条の糸密度を測定する装置の一例を示す側面図。
【図16】口金から吐出された糸条の糸密度を測定する箇所を説明する側面図である。
【図17】凝固液の液面の高さを測定する装置の一例を示す側面図。
【図18】凝固液の液面の高さを測定する箇所を説明する側面図である。
【図19】実施例1,2で用いた矩形紡糸口金の孔密度分布
【図20】実施例1,2で用いた矩形紡糸口金の孔密度分布
【符号の説明】
【0042】
1:矩形紡糸パック
2:凝固浴槽
3:空気層
4:糸条
5:折り返しガイド
6:引き取りローラー
7:水中カメラ固定用治具
8:水中カメラ
9:パソコン
E:ノズル孔が配置された部分領域
E’:ノズル孔が配置された部分領域
F:ノズル孔が配置された部分領域
F’:ノズル孔が配置された部分領域
X:ノズル孔が配置された長方形の長手方向の長さ
X1:端部の部分領域の長手方向の長さ
X1’:端部の部分領域の長手方向の長さの和
Y:ノズル孔が配置された長方形の幅方向の長さ
Y1:端部の部分領域の幅方向の長さ
Y1’:端部の部分領域の幅方向の長さの和
M:ノズル孔が配置された長方形の長手方向に直交する中心線
N:ノズル孔が配置された長方形の長手方向に直交する中心線
p:非穿孔領域の幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用の矩形紡糸口金および矩形紡糸口金を用いた合成繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に合成繊維の紡糸に用いられる紡糸パックとしては、図2に示すように紡糸口金におけるノズル孔が口金面の円形の領域に配置された円形紡糸口金が一般的で、その円形紡糸パックの構成としては、下部パックケース内に、紡糸されるポリマーの全体流れの方向に順に濾過材と、多孔板と、円形紡糸口金を配置し、これら濾過材と、多孔板と、円形紡糸口金とを、ポリマー流入管を有する上部パックケースで一体に組み立てて構成されている。ポリマーは、ポリマー供給管から上部パックケースに備えられているポリマー流入管へ導入され、濾過材、多孔板を経て円形紡糸口金から紡糸されるようになっている。
【0003】
この円形紡糸口金を用いた紡糸には、単糸間接着や糸切れ、糸状の品質斑といった課題に対する対策として、例えば、孔配置の適正化について提案されており(例えば、特許文献1参照)、円形紡糸口金を用いた紡糸における糸切れや太さ斑を低減させる改善対策が講じられてきた。
【0004】
近年では生産性向上による生産機の大型化の流れを受け、ノズル孔数をより増やすことができる紡糸口金のニーズが高まっている。その紡糸口金の形状としては、図3に示すような紡糸口金におけるノズル孔が口金面の矩形の領域に配置された矩形紡糸口金(例えば、特許文献2参照)がある。このようにノズル孔を矩形に配置することで、口金の外周から口金の中心までの最短距離を短くすることができ、凝固液が口金中央まで供給されやすくなるため、ノズル孔数を増やすことができる。
【0005】
矩形紡糸口金を用いた矩形紡糸パックの構成は、円形紡糸口金と同様の構成をしており、下部パックケース内に、紡糸されるポリマーの全体流れの方向に順に濾過材と、多孔板と、矩形紡糸口金を配置し、これら濾過材と、多孔板と、矩形紡糸口金とを、ポリマー流入管を有する上部パックケースで一体に組み立てて構成されている。ポリマーは、ポリマー供給管から上部パックケースに備えられているポリマー流入管へ導入され、濾過材、多孔板を経て矩形紡糸口金から紡糸されるようになっている。矩形紡糸口金を用いた乾湿式紡糸法の例を図4に示す。図4(a)は、糸条の引き出し方向が前後となる方向から、図4(b)は、糸条の引き出し方向が左右となる方向から見た図である。本例においては、矩形紡糸パック1は、凝固浴槽2との間に一定の空気層3を隔てて水平に設置される。矩形紡糸パック1から吐出された紡糸溶液は、一旦気体雰囲気中(空気層3)に押し出されてから凝固浴槽内に導かれ、凝固糸条4となり、凝固浴槽底部に設置した折り返しガイド5で引き取り方向を転換し、引き取りローラー6で凝固浴槽から引き出される。口金は長手方向を図4(a)において横方向になるよう配置され、糸条は口金から折り返しガイドの間で、口金の幅方向に収束され、幅広のリボン状にて折り返しガイドで折り返される。なお、凝固浴槽2には、糸条の流れにより発生する随伴流を整流化させるために整流板が設置される場合もある。
【特許文献1】特開平7−278940号公報
【特許文献2】特開2001−348722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の矩形紡糸口金には次のような欠点がある。
【0007】
上記特許文献2は、部分領域を短冊状に配置し、隣り合う部分領域の間に非穿孔領域を設けることで凝固液の進入をスムーズにし、それによりノズル孔数を増やすことができるというものである。しかしながら、非穿孔領域に局所的に凝固液を流し込むことはかえって凝固液の流れを乱し糸を揺らすため、太さ斑や糸切れの発生などの不具合を生じるものであった。
【0008】
本発明の目的は、上記した従来の問題点を解決しようとするものであり、糸切れの発生、紡出糸の品質斑を低減できる矩形紡糸口金および合成繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の矩形口金を乾湿式紡糸に適用した場合の口金直下の液面を詳細に観察することにより、下記のような現象を発見した。
【0010】
すなわち、口金から糸条が吐出される領域の液面付近を図4(a)の方向から拡大した図が図5、同じく図4(b)の方向から拡大した図が図6であるが、この乾湿式紡糸において、図5、図6に示すように矩形紡糸パック1から吐出される糸条4は、凝固浴槽内へ導かれていく。その際、凝固液は糸条4に引っ張られ糸条4に沿った流れを生じる。一方水面近傍では、この糸条に引っ張られている凝固液を補うべく、矩形紡糸パック1の中心軸に向かう流れが生じる。特に外周部に位置する糸条は、この流れの影響を大きく受け、矩形紡糸パック1の中心軸に向かって糸条が集められ、その領域では糸密度が高くなる。糸密度が高くなった領域では、糸条に引っ張られる凝固液の量が増えるため、凝固液の液面は低下する。
【0011】
かかる凝固液の液面低下およびそれに伴う凝固液の流れの乱れが、太さ斑や糸切れの発生などの不具合の原因であろうとの仮説の下、かかる現象を低減すべく検討を行い、従来と比較して太さ斑や糸切れが大きく低減できる、矩形口金を見出した。すなわち、本発明の矩形口金は、次のいずれかの構成を有するものである。
(1)多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が、口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
(2)前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域の孔密度に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域の孔密度が低い前記(1)に記載の矩形紡糸口金。
(3) 前記外周部に位置する部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍である前記(2)に記載の矩形紡糸口金。
(4)前記各部分領域において前記各部分領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなる前記(2)または(3)に記載の矩形紡糸口金。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の矩形紡糸口金を用いれば、乾湿式紡糸時に矩形紡糸口金の外周部に位置する部分領域から吐出される糸条の糸密度が部分的に増加して、凝固液の液面が部分的に低下する領域を小さくすることができる。これにより、安定した凝固液の液面を維持できるため、太さ斑を改善でき、また糸切れを低減させることが可能となり、これにより得られる合成繊維の品質および生産性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、多数のノズル孔が、口金面の長方形の領域に設けられた矩形口金に関するものである。本発明は乾湿式紡糸による合成繊維の生産性向上を目的とし、ノズル孔数をより増やすことができる矩形紡糸口金についてのものであり、ノズル孔の数は、1000以上のものに適用した場合、好ましい効果が得られる。ノズル孔の数の上限は特に限定されるものではないが、口金の大型化に伴う設備上の制限から15000以下が好ましい。
【0014】
本発明の矩形紡糸口金においては、ノズル孔が口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く配置されてなることを特徴とする。
【0015】
ここで、長方形の領域とは、形状としては幾何学的な厳密性を求められるものではなく、長手方向に対し幅方向が狭い形状であればよく、本発明においては、次の条件を満たすものを長方形と定義する。すなわち、ある形状(その面積をSとする)の外形に内接する長方形と外接する長方形を考え、前記内接する長方形のうち面積が最大となる長方形の面積をSi、前記外接する長方形のうち面積が最小となる長方形の面積をSoとし、0≦(S−Si)/S≦0.27、または0≦(So−S)/S≦0.27を満たす形状を長方形と定義する。好ましくは0≦(S−Si)/S≦0.25、または0≦(S−Si)/S≦0.25であり、さらに好ましくは0≦(S−Si)/S≦0.20、または0≦(So−S)/S≦0.20を満たす形状を長方形と定義する。前記条件を満たす範囲であれば、角に丸みをもたせた形状、角を落とした形状、長手方向の中央に凹みがあるような亜鈴状の形状、頂点が5つ以上存在するような多角形、長方形において角の丸みが短辺側で繋がった長丸形状であっても長方形として扱え、いずれにおいても本発明を好適に適用することができる。さらに、領域の外形が上記長方形をなしていれば、その内部にノズル孔の形成されていない領域を有していてもよく、ドーナツ状やめがね状の形状であっても、上記条件を満たす範囲であれば本発明を好適に適用することができる。
【0016】
また、本発明において、ノズル孔が口金面の長方形の領域に配置されてなる、という場合の領域とは、最外周のノズル孔を包絡する領域全体をいい、非穿孔領域により分割されていても、非穿孔領域を含んだ口金面のノズル孔全体の存在する領域を指すものとする。なお、前記領域が非穿孔領域により分割された部分については、これと区別して、「部分領域」と記すものとする。例えば図2において、「ノズル孔が配置された領域」は、円形の領域であり、「部分領域」は、分割された扇形の領域を指すものとし、図3においては、「ノズル孔が配置された領域」は、E,E’,F,F’を全て含む領域であり、E,E’,F,F’のそれぞれは部分領域である。
【0017】
また、本発明の矩形口金においては、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く配置されてなることを特徴とする。本発明において、中央部および外周部の孔密度とは、次の条件を満たす範囲内における孔密度とする。中央部の孔密度とは、前記長方形と中心を同一とする相似形状であり、その面積は前記長方形の1/15である範囲(中央部代表範囲と呼ぶ場合もある)を平均した孔密度をいうものとし、外周部の孔密度とは、最外周から幅10mmの範囲(外周部代表範囲と呼ぶ場合もある)を平均した孔密度をいうものとする。なお、前記中央部代表範囲、または、前記外周部代表範囲が、非穿孔領域を含む場合には、非穿孔領域を除いたそれらの範囲についての平均した孔密度をその部分の孔密度として計算するものとする。また、前記中央部、または、外周部におけるノズル孔の間隔(ピッチと呼ぶこともある)が均一である場合には、後述するようなノズル孔のピッチを用いてそれら範囲の平均した孔密度を求めてもよく、前記中央部代表範囲、または、前記外周部代表範囲が、非穿孔領域により分割され、分割された範囲のそれぞれの範囲の中では、ノズル孔の間隔が均一である場合には、それぞれの範囲での平均した孔密度をノズル孔ピッチから求め、面積で加重した平均として、それぞれの代表範囲の平均した孔密度をもとめてもよい。
【0018】
本発明においては、孔密度が前記長方形の領域の中央部に対し長手方向の外周部が低く配置されていれば、外周部のみ孔密度が低くノズル孔が配置されていても良いし、中央部から外周部に全体にわたって孔密度が変化するようにノズル孔が配置されても良い。全体にわたって、孔密度を変化させる場合には、中央部から、外周部にかけて連続的に孔密度が変化するようにノズル孔が配置されていても良いし、段階的に孔密度が変化するようにノズル孔が配置されていても良い。また、外周部の孔密度は、中央部の孔密度の0.5〜0.9倍であることが好ましい。なお、孔密度が連続的に変化するような配置とした場合にも、前記外周部代表範囲についての平均した孔密度が、前記中央部代表範囲の平均した孔密度の0.5〜0.9倍とすることが好ましい。また、長手方向の終端から、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%の長さ、かつ幅方向の終端から、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%以上22.5%の範囲に、平均した孔密度が前記中央部代表範囲の孔密度の0.5〜0.9倍となる部分領域が存在することが好ましい。
【0019】
なお、本発明における孔密度は、ノズル孔の配置が格子状である場合にはノズル孔の横方向のピッチをPh(mm)、縦方向のピッチをPv(mm)とすると、孔密度を1/(Ph×Pv)(個/mm2)で求めることもできる。また、ノズル孔の配置が千鳥状である場合には、孔密度を、隣接する3個のノズル孔の中心軸を結んで形成される三角形の面積をStとし、0.5/St(個/mm2)で求めることができる。また、ノズル孔配置が格子状といった規則性を有していない場合の特定箇所の孔密度を求める場合には、1辺を10mmとする100mm2の正方形中に含まれるノズル孔数を計測し、100mm2で除することで1mm2あたりのノズル孔数としてあらわすものとするが、かかる場合において、1辺を10mmとする100mm2の正方形部分が非穿孔領域を含む場合には、非穿孔領域を含めずに計算するものとする。なお、本発明の矩形紡糸口金の孔ピッチとしては、0.6〜4.0mmの範囲であることが好ましく、2.0〜3.0mmであればさらに好ましい。
【0020】
また、本発明の好ましい態様の一例として、前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域(以降、中央の部分領域と略記することもある)に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域(以降、外周部部分領域と略記することもある)の孔密度が低い態様が挙げられる。各部分領域の間にノズル孔のない非穿孔領域が設けられ、かかる非穿孔領域にて部分領域に分割することは、口金の製作性の面から好ましい。従来の技術においては、非穿孔領域を設けると、そこに局所的に凝固液が流れ込むことによって凝固液の流れが乱れそれに伴い糸が揺れるため、太さ斑や糸切れの発生などの不具合を生じるものであった。本発明を適用することにより、従来技術であったような問題を生じることなく非穿孔領域を設けることができ、口金の製作性をも向上させることができるようになったものである。ただし、前述したように、非穿孔領域への局所的な凝固液の流れ込みは、糸揺れを誘発し太さ斑や糸切れの発生などの不具合を誘発するものであるため、その幅は広すぎることは好ましくない。よって、かかる非穿孔領域の幅としては、隣接する部分領域の最外部の孔ピッチの1.5倍以上であり、絶対値としては、1.0mm〜6.0mmが好ましく、3.0mm〜4.5mmであればさらに好ましい。
【0021】
本発明において、前記外周部部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍であることが好ましい。外周部部分領域の孔密度が中央の部分領域の孔密度の0.5倍より小さい場合、中央の部分領域から吐出される糸条の糸密度が、外周部部分領域から吐出される糸密度よりもかえって高くなり、0.9倍より大きい場合には、外周部部分領域から吐出される糸条の糸密度が高くなり、いずれの条件においても、糸密度が高くなった領域では液面が局所的に大きく低下する場合があり、本発明の効果を十分に得ることができない場合があるためである。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された領域の幅方向の長さYの5.0〜22.5%であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の合成繊維の製造方法は、前記矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸する製造方法である。本発明の矩形紡糸口金を使用することにより、凝固液の液面の高低差をなくし、糸条の太さ斑や糸切れを起こすことなく安定して紡糸することが可能になる。
【0023】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
図1は本発明に係る矩形紡糸口金におけるノズル孔の孔密度の分布の一例を示す概略平面図である。本例においては、矩形紡糸口金において中央部から外周部に向かうにつれて孔密度が低くなるものである。さらに具体的に説明すると、図1Aに示すように隣り合うノズル孔間隔は、長手方向および幅方向に、中央部から外周部側に向かって広くなるように配置され、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称になっている。このノズル孔間隔は、特に限定されるものではないが、吐出された糸条の空間での混み具合(以降、糸密度と記す)が一定となることが好ましく、図1Aの例のように一定の割合で広くなるように配置されることが好ましい。糸密度を均一にすることで、糸条により引っ張られる凝固液の量を均一にすることができ、図7に示すように矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から凝固液の液面、さらに図8に示すように矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、凝固浴槽の液面を高低差の少ない安定した液面に保つことができるようになり、糸切れおよび太さ斑を低減させることができる。
図9は、本発明に係る矩形紡糸口金の一例を示す概略平面図である。図9はノズル孔が配置された長方形の領域が、9つの部分領域に分割されており、隣り合う部分領域の間には、ノズル孔のない非穿孔領域が設けられている。本例においては、一つの中央の部分領域を囲むように、外周部部分領域が配置されている。各部分領域の形状は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称となっている。各部分領域におけるノズル孔密度は、各部分領域の中央部から各部分領域の外周部に向かって低くなってもよいが、図9Aに示すように均一であってもよい。外周部部分領域の孔密度(b)は中央の部分領域の孔密度(a)の0.5倍〜0.9倍になることが好ましい。外周部部分領域の孔密度(b)が中央の部分領域の孔密度(a)の0.9倍より大きい場合には、外周部部分領域から吐出される糸条の糸密度が高くなる領域を解消することができず、外周部の糸密度が高くなった領域では液面が局所的に大きく低下し、発明の効果を十分に得ることができない場合がある。外周部部分領域の孔密度(b)が中央の部分領域の孔密度(a)の0.5倍より小さい場合、中央の部分領域から吐出される糸条の糸密度が、外周部部分領域から吐出される糸密度よりもかえって高くなり、中央の液面が外周部の液面に対し低下する場合があるため、0.5倍以上が好ましい。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%〜22.5%であることが好ましい。外周部部分領域の長手方向の長さX1および外周部部分領域の幅方向の長さY1が、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXおよび幅方向の長さYの5.0%より小さい場合、部分領域が小さすぎるため発明の効果を十分に得ることができない場合がある。また、外周部部分領域の長手方向の長さX1および幅方向の長さY1が、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXおよび幅方向の長さYの22.5%より大きい場合においても発明の効果は得られるが、同等のノズル孔数を得るために矩形口金を大きくせざるを得ず、設備が大型化されてしまうので好ましくない。
【0025】
このように部分領域を配置し、中央の部分領域の孔密度(a)より外周部部分領域の孔密度(b)を小さくすることで、図10に示すように矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、および図11に示すように矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から凝固液の液面を見たとき、吐出された糸条の糸密度を均一にできる。よって、液面を高低差の少ない安定した液面に保つことができるようになり、糸切れおよび太さ斑を低減させることができる。
【0026】
また、外周部部分領域および中央の部分領域は、図12に示すように長方形の領域の長手方向および幅方向にさらに複数に分割されていても良く、外周部部分領域の長手方向の長さの和X1’は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さの和Y1’は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さXの5.0%〜22.5%であることが好ましい。孔密度の分布は2段階に限らず、例えば、図13に示すように、孔密度a>b>cとなるように、中央の部分領域から外周部部分領域に向けて孔密度が小さくなるように分布されていることも、十分な効果を得る上で好ましい態様である。
【0027】
なお、矩形紡糸口金における部分領域の形状は長方形に限られるものではない。例えば、図14に示すように部分領域が台形や三角形の形状に分割されていても、各部分領域の形状は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向に直交する中心線Mおよびノズル孔群の幅方向に直交する中心線Nを基準に線対称となり、外周部部分領域の孔密度(b)が、中央の部分領域の孔密度(a)よりも小さく、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの5.0%〜22.5%であり、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの5.0%〜22.5%になるように分割されていれば、十分な効果を得る上で好ましい態様である。さらに、ノズル孔が配置された領域が前記長方形の条件を満たすものであれば、非穿孔領域により分割された部分領域の形状は、長方形や三角形に限らず、楕円や多角形といった形状であっても、上記条件を満たす範囲であれば本発明を好適に適用することができる。
【0028】
本発明の矩形紡糸口金を用いた矩形紡糸パックは、粘度が5〜5,000Pa・sのポリマー溶液に対して特に有効であり、本発明の矩形紡糸口金を使用して乾湿式紡糸により合成繊維を製造することにより、凝固液の液面の高低差をなくし、糸条の太さ斑や糸切れを起こすことなく安定に紡糸が可能になる。また、溶融紡糸法おいては糸の均一冷却、湿式紡糸においては口金直近の凝固浴濃度の均一化等の面で、糸の密度を均一にすることは有用であり、本発明の矩形紡糸口金は乾湿式紡糸法のみならず、溶融紡糸法や湿式紡糸法などにも適用でき、その紡糸法は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をあげて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明による実施態様は本実施例に限定されるものではない。
【0030】
本実施例では、乾湿式紡糸を行い、吐出された糸条の糸密度および凝固液の液面の低下距離を測定した。それぞれの測定方法は、以下の通りであり、これらから、糸密度差10%以下を○、10%を越えるものを△と判定した。また、液面の低下距離1mm以下を○、1mmを越えるものを△と判定した。
【0031】
<吐出された糸条の糸密度の測定>
図15に示すように、矩形紡糸パック1上に固定された水中カメラ固定用治具7に、水中カメラ8を凝固浴槽内に液面と水平に固定する。水中カメラ8で撮影した画像をパソコン9に送り、その画像から幅30mmの範囲内に含まれる糸条数を計測し、糸条密度(本/mm)を算出した。
【0032】
糸条の糸密度の長手方向の測定箇所は、図16に示す領域について行った。まず、矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔が配置された長方形の長手方向の長さXの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をx軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。長手方向ノズル孔端部の座標は、(x,z)=(±0.5X,0)(単位:mm、以下略)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条の測定箇所として(x,z)=(0,−8)を中心とする領域を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条の測定箇所としては(x,z)=(0.4X,−8)と(x,z)=(−0.4X,−8)を中心とする領域の2箇所を測定した。また、幅方向の測定個所についても長手方向と同様に行った。矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔が配置された長方形の幅方向の長さYの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をy軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。幅方向ノズル孔端部の座標は、(y,z)=(±0.5Y,0)(単位:mm、以下略)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条の測定箇所として(y,z)=(0,−8)を中心とする領域を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条の測定箇所としては(y,z)=(0.4Y,−8)と(y,z)=(−0.4Y,−8)を中心とする領域の2箇所を測定した。
【0033】
<凝固液の液面の低下距離の測定>
図17に示すように、矩形紡糸パック1上に載せられた水中カメラ固定用治具7に、水中カメラ8を凝固浴槽の液面が画像の中心になるように固定する。水中カメラ8で撮影した画像をパソコン9に送り、その画像から凝固液の液面の低下距離を算出した。
【0034】
凝固液の液面の低下距離の測定箇所は、図18に示す領域について行った。まず、矩形紡糸パックの長手方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔群の長方形の長手方向の長さXの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をx軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。長手方向ノズル孔端部の座標は、(x,z)=(±0.5X,0)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所として、x=0上で液面と交わる点を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所としては、x=0.4X上とx=−0.4X上で液面と交わる点の2箇所を測定した。また、幅方向の測定個所についても長手方向と同様に行った。矩形紡糸パックの幅方向に対して垂直方向から吐出領域を見て、ノズル孔群の長方形の幅方向の長さYの中心と矩形紡糸パックの吐出面が交わる点を原点とし、水平方向をy軸、原点を通り、鉛直方向を負とする方向をz軸とする。幅方向ノズル孔端部の座標は、(y,z)=(±0.5Y,0)とした。測定箇所は、中央部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所として、y=0上で液面と交わる点を測定し、外周部部分領域から吐出される糸条により液面が低下している点の測定箇所としては、y=0.4Y上とy=−0.4Y上で液面と交わる点の2箇所を測定した。
(実施例1)
図1に示すような中央部から長手方向端部に向かうにつれて孔密度が低くなることを特徴とした、図19、図20に示す孔密度分布をもつ矩形紡糸口金を用いて、アクリル系ポリマー溶液にて図4に示す乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)を用い、溶液の密度は1085kg/m3、粘度は120Pa・sとした。凝固浴は30重量%DMSO水溶液を用い、引き取り速度は20m/分とした。また、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXを320mm、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYを110mmとした。このときの条件、及び、結果を表1に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0035】
なお、長手方向の糸密度差(%)とは、(x,z)=(0.4X,−8)と(x,z)=(−0.4X,−8)を中心とする領域の糸密度の平均値を、(x,z)=(0,−8)を中心とする領域の糸密度で割り、100を掛けたもののことをいい、同様に幅方向の糸密度差(%)とは、(y,z)=(0.4Y,−8)と(y,z)=(−0.4Y,−8)を中心とする領域の糸密度の平均値を、(y,z)=(0,−8)を中心とする領域の糸密度で割り、100を掛けたもののことをいう。長手方向の凝固液の液面の高低差(mm)とは、x=0上における凝固液の液面の低下距離(mm)と、x=0.4X上とx=−0.4Xにおける凝固液の液面の低下距離(mm)の平均値との差のことをいい、同様に幅方向の凝固液の液面の高低差(mm)とは、y=0上における凝固液の液面の低下距離(mm)と、y=0.4Y上とy=−0.4Yにおける凝固液の液面の低下距離(mm)の平均値との差のことをいう。
(実施例2)
XとYの長さが異なる以外は、実施例1と同様の条件で乾湿式紡糸を行い、糸条の糸密度差および凝固液の液面の高低差を測定した。このときの結果を表1に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0036】
【表1】
【0037】
表1から分かるように本発明を適用した矩形紡糸口金を用いると、吐出された糸条の糸密度の差は少なく、凝固液の液面の高低差も小さくすることができる。
【0038】
(実施例3)
図9に示す部分領域が碁盤目状に分割された矩形紡糸口金を用いて図4に示す乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。また、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXを320mm、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYを110mm、外周部部分領域の長手方向の長さX1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の長手方向の長さXの20%、外周部部分領域の幅方向の長さY1は、ノズル孔が配置された長方形の領域の幅方向の長さYの20%、中央部分領域の孔密度を0.25個/mm、中央部分領域に対する外周部部分領域の平均孔密度を0.8倍とした。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
(実施例4〜5)
中央部部分領域に対する外周部部分領域の孔密度の比率が異なる以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は実施例4の場合は3個、実施例4の場合は5個であり、品位は良好であった。
(実施例6)
部分領域の個数が異なる以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
(実施例7)
外周部部分領域の長手方向の長さX1、外周部部分領域の幅方向の長さY1が、異なる以外は実施例10と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は4個であり、品位は良好であった。
(実施例8)
図14に示す部分領域が台形や三角形の形状で分割された矩形紡糸口金を用いた以外は実施例1と同様にして乾湿式紡糸を行い、凝固糸を巻き取った。このときの条件、及び、結果を表2に示す。また、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は0個であり、品位は良好であった。
【0039】
【表2】
【0040】
表2からわかるように本発明を適用した矩形紡糸口金を用いると、吐出された糸条の糸密度の差は少なく、凝固液の液面の高低差も小さくすることができる。
(比較例1)
図3に示す従来の矩形口金を用いて、実施例1と同様の条件で乾湿式紡糸を行い、糸条の糸密度差および凝固液の液面の高低差を測定した。この矩形紡糸口金のノズル孔群が成す長方形の長手方向の長さXを320mm、および幅方向の長さYを110mmとし、各部分領域の孔密度および形状は均一である。
この時、吐出される糸条の長手方向の糸密度差は38.5%で、幅方向の糸密度差は35.4%であった。さらに長手方向の凝固液の液面の高低差は3.26mmで、幅方向の凝固液の液面の高低差は3.09mmであった。また糸条が密集し、凝固液の液面に高低差を生じさせていることがはっきりと観察され、凝固糸を100m測定した結果、毛羽数は30個であり、品位の悪いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の矩形紡糸口金の一例を示す概略平面図である。
【図1A】図1に示す矩形紡糸口金の孔分布の詳細を示す概略平面図である。
【図2】従来の円形紡糸口金を示す概略平面図である。
【図3】従来の矩形紡糸口金を示す概略平面図である。
【図4】乾湿式紡糸工程の一実施態様を示す概略工程図である。
【図5】乾湿式紡糸工程において凝固浴の液面変動を説明する矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図6】乾湿式紡糸工程において凝固浴の液面変動を説明する矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図7】本発明である図1に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図8】本発明である図1に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図9】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図9A】図9に示す矩形紡糸口金の孔分布の詳細を示す概略平面図である。
【図10】本発明である図9に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック長手方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図11】本発明である図9に示す矩形紡糸口金を用いたときの矩形紡糸パック幅方向に対して垂直な方向から矩形紡糸パック吐出部をみた側面図である。
【図12】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図13】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図14】本発明形状の一例を説明する概略平面図である。
【図15】口金から吐出された糸条の糸密度を測定する装置の一例を示す側面図。
【図16】口金から吐出された糸条の糸密度を測定する箇所を説明する側面図である。
【図17】凝固液の液面の高さを測定する装置の一例を示す側面図。
【図18】凝固液の液面の高さを測定する箇所を説明する側面図である。
【図19】実施例1,2で用いた矩形紡糸口金の孔密度分布
【図20】実施例1,2で用いた矩形紡糸口金の孔密度分布
【符号の説明】
【0042】
1:矩形紡糸パック
2:凝固浴槽
3:空気層
4:糸条
5:折り返しガイド
6:引き取りローラー
7:水中カメラ固定用治具
8:水中カメラ
9:パソコン
E:ノズル孔が配置された部分領域
E’:ノズル孔が配置された部分領域
F:ノズル孔が配置された部分領域
F’:ノズル孔が配置された部分領域
X:ノズル孔が配置された長方形の長手方向の長さ
X1:端部の部分領域の長手方向の長さ
X1’:端部の部分領域の長手方向の長さの和
Y:ノズル孔が配置された長方形の幅方向の長さ
Y1:端部の部分領域の幅方向の長さ
Y1’:端部の部分領域の幅方向の長さの和
M:ノズル孔が配置された長方形の長手方向に直交する中心線
N:ノズル孔が配置された長方形の長手方向に直交する中心線
p:非穿孔領域の幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が、口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
【請求項2】
前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域の孔密度に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域の孔密度が低い請求項1に記載の矩形紡糸口金。
【請求項3】
前記外周部に位置する部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍である請求項2に記載の矩形紡糸口金。
【請求項4】
前記各部分領域において前記各部分領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなる請求項2または3に記載の矩形紡糸口金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【請求項1】
多数のノズル孔を有する紡糸口金であって、ノズル孔が、口金面の長方形の領域に、前記長方形の領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなることを特徴とする矩形紡糸口金。
【請求項2】
前記長方形の領域が複数の部分領域に分割され、分割された各部分領域において、前記長方形の領域の中央部に位置する部分領域の孔密度に対し、前記長方形の領域の外周部に位置する部分領域の孔密度が低い請求項1に記載の矩形紡糸口金。
【請求項3】
前記外周部に位置する部分領域の孔密度が、前記中央の部分領域の孔密度の0.5〜0.9倍である請求項2に記載の矩形紡糸口金。
【請求項4】
前記各部分領域において前記各部分領域の中央部の孔密度に対し外周部の孔密度が低く、配置されてなる請求項2または3に記載の矩形紡糸口金。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の矩形紡糸口金を用いて乾湿式紡糸することを特徴とする合成繊維の製造方法。
【図1】
【図1A】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図9A】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1A】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図9A】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−263805(P2009−263805A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113590(P2008−113590)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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