説明

短波長伝送用光ファイバおよび光伝送システム

【課題】波長800nm帯の光通信に適した実効断面積を拡大したSMFを実現し、当該波長帯域を用いた光伝送システムにおける多モード雑音による伝送制限を解消することができる短波長伝送用光ファイバを提供する。
【解決手段】直径が125±1μmに設定されるとともに屈折率が均一なクラッド部101と、直径が2aに設定されるとともにクラッド部に対する比屈折率差がΔに設定されている7個のコア部102とを有し、7個のコア部102は、クラッド部101の中心に配置された1つのコア部102と、該1つのコア部102の回りに6つのコア部102が間隔Λで六方最密構造状に配設され、コア部102の直径2aが1.5〜2.5μm、当該コア部102の規格化周波数が0.34〜0.48、規格化コア間距離Λ/2aが1.2〜2.4の範囲にそれぞれ設定されている短波長伝送用光ファイバを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一モード光ファイバ、および当該単一モード光ファイバ用いた光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
FTTHの普及に伴いデータ伝送容量も増大している。汎用的なFTTHシステムでは波長1260nm以上の波長帯で単一モード動作する光ファイバ(SMF)が用いられている。一方、データセンタ内等では、波長800nm帯を用いた多モード光ファイバ(MMF)を利用した光伝送システムが用いられている。
【0003】
しかしながら、MMFを利用した光伝送システムでは、多モード雑音の累積により伝送速度、もしくは伝送距離に制限が生じるといった課題があった。例えば、非特許文献1では、伝送速度10Gbit/sで300mまでの伝送を可能とするMMF技術が開示されている。
【0004】
一方、SMFを800nm帯の光通信に用いる場合、SMFの実効断面積が約40μm2以下に減少するため、送受信装置との接続性が劣化するという課題があった。例えば、コア半径がaで比屈折率差がΔであるステップ型光ファイバの単一モード条件は、カットオフ波長λcを用いて関係式(1)で表される。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、比屈折率差Δを汎用的な単一モード光ファイバと同等となる0.3%とすると、波長850nmで単一モード動作するためには、コア半径aは2.9μm以下となる必要が生じる。ここで、非特許文献2によれば、ステップ型光ファイバのモードフィールド半径Wと、前記コア半径aと、前記関係式(1)の右辺で表される規格化周波数Vは、関係式(2)により近似できる。
【0007】
【数2】

【0008】
関係式(2)に上述の規格化周波数条件およびコア半径条件を代入すると、Wは約3.2μmとなり、この時の実効断面積Aeffはπ×W2により約32μm2となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】官ほか, "10Gb/s伝送用マルチモード光ファイバ", フジクラ技報, 第106号, p. 8, (2004).
【非特許文献2】D. Marcuse, "Loss analysis of single-modefiber splices," Bell Sys. Tech. J., vol. 56, no. 5, p. 703, (1977).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
FTTHの普及に伴い、データ伝送容量も増大している。汎用的なFTTHでは、波長1260nm以上の波長帯で単一モード動作する光ファイバ(SMF)が用いられている。一方、データセンタ内等では、波長800nm帯を用いた多モード光ファイバ(MMF)を利用した光伝送システムが用いられている。
【0011】
しかしながら、MMFを利用した光伝送システムでは、多モード雑音の累積により伝送速度、もしくは伝送距離に制限が生じるといった課題があった。また、SMFを800nm帯の光通信に用いた場合には、SMFの実効断面積が約40μm2以下に減少するため、送受信装置との接続性が劣化するという課題があった。
【0012】
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、波長800nm帯の光通信に適した実効断面積を拡大したSMFを実現し、当該波長帯域を用いた光伝送システムにおける多モード雑音による伝送制限を解消することができる短波長伝送用光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の短波長伝送用光ファイバは、直径が125±1μmに設定されるとともに屈折率が均一なクラッド部と、直径が2aに設定されるとともに前記クラッド部に対する比屈折率差がΔに設定されている7個のコア部と、を有し、前記7個のコア部は、前記クラッド部の中心に配置された1つのコア部と、該1つのコア部の回りに6つのコア部が間隔Λで六方最密構造状に配設され、前記コア部の直径2aが1.5〜2.5μm、当該コア部の規格化周波数が0.34〜0.48、規格化コア間距離Λ/2aが1.2〜2.4の範囲にそれぞれ設定されている。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の短波長伝送用光ファイバによれば、波長800nm以下の実効遮断波長特性を有し、かつ波長800nm帯における実効断面積が80μm2以上とすることができるので、波長800nmでの単一モード動作を保持し、かつ当該波長での実効断面積を拡大することができ、当該波長帯を用いた光通信システムにおける多モード雑音の影響を解消し、送受信装置との接続性を改善するといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】短波長伝送用光ファイバを用いた光通信システムの構成を示す概念図
【図2】短波長伝送用光ファイバの断面構造を示す概念図
【図3】短波長伝送用光ファイバの構造条件を、規格化周波数と規格化コア間距離の関数として示す図
【図4】短波長伝送用光ファイバにおいて曲げ損失特性の改善を実現する断面構造を示す概念図
【図5】短波長伝送用光ファイバにおいて曲げ損失特性の改善を実現する断面構造を示す概念図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の短波長伝送用光ファイバの一実施形態について図面を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態における短波長伝送用光ファイバを用いた光伝送システムの構成を示す概念図である。本発明の一実施形態における短波長伝送用光ファイバを用いた光伝送システムは、波長800nm帯の光信号を生成・送出する送信部(Tx)20と、当該波長帯で単一モード動作する短波長伝送用光ファイバ10と、前記短波長伝送用光ファイバ10からの信号光を受光・復調する受信部(Rx)30とにより構成される。
【実施例1】
【0018】
第1の実施例では、短波長伝送用光ファイバ10の実現方法について図面を用いて説明する。
【0019】
図2は、本実施例の短波長伝送用光ファイバ10Aの断面構造を示す概念図である。本実施例の短波長伝送用光ファイバ10Aは、屈折率が均一で直径Dが125±1μmに設定されているクラッド部101と、直径が2a(半径=a)に設定されているとともにクラッド部101に対する比屈折率差がΔに設定されている7個のコア部102とを有し、前記7個のコア部102はクラッド部101の中心に間隔Λで六方最密構造状に配列されている。即ち、7個のコア部102はクラッド部101の中心に配置された1つのコア部102と、該1つのコア部102の回りに6つのコア部102が間隔Λで六方最密構造状に配設されている。
【0020】
図3は、本実施例の短波長伝送用光ファイバ10Aの構造条件を、規格化コア間距離Λ/2aと規格化周波数Vの関数として示す図面である。ここで、規格化周波数Vはコア部102の直径2aおよび比屈折率差Δ、並びにコア部102の屈折率n1を用いて、次式(3)により定義される。式(3)において、λは光ファイバ10Aを伝搬する光信号の波長である。
【0021】
【数3】

【0022】
図中の実線501は遮断波長が800nmとなる構造条件を示し、実線501より左側の領域で800nm以下の遮断波長を実現することが可能となる。実線502、実線503および実線504は閉じ込め損失を示し、それぞれコア部102の直径2aが1.5μm、2.0μmおよび2.5μmの場合の計算結果を示す。実線502,503,504より下(右)側の領域において閉じ込め損失を0.01dB/km以下に低減することが可能となる。従って、図3に示した実線501と実線502,503,504で囲まれる領域において規格化コア間距離と規格化周波数とを設定することにより、800nm以下の遮断波長特性と、0.01dB/km以下の閉じ込め損失特性とを同時に実現することが可能となる。即ち、波長800nm帯において良好な単一モード動作を実現することが可能となる。
【0023】
尚、規格化コア間距離Λ/2aが1となる場合には、隣接するコア部102が接してしまい、製造の困難性が増大する。このため、規格化コア間距離Λ/2aは1.2以上程度に設定されることが好ましい。ここで、配設されるコア部102の断面積が最も小さくなる場合、即ち、コア部102の直径が1.5μmであり、規格化周波数が0.32であり、規格化コア間距離が1.2である場合に着目すると、波長800nmにおける実効断面積は約83μm2となる。また、コア部102の直径2aが2.5μmであり、規格化周波数が0.44であり、規格化コア間距離が1.5である場合、波長800nmにおける実効断面積は約141μm2であり、より好ましい特性を実現することが可能となる。
【0024】
従って、本実施例の図2に示した短波長伝送用光ファイバ10Aにおいて、コア部102の直径2aを1.5〜2.5μm、規格化周波数を0.34〜0.48、規格化コア間距離を1.2〜2.4の範囲に設定することにより、波長800nm以下の実効遮断波長特性を有し、かつ波長800nm帯における実効断面積を80μm2以上とすることができるので、波長800nm帯における単一モード伝送性と、従来の概ね2倍以上となる80μm2以上の実効断面積特性とを実現することが可能となる。
【実施例2】
【0025】
第2の実施例では、第1の実施例に説明した短波長伝送用光ファイバ10Aについて、その伝送特性を劣化させることなく、曲げ損失特性を改善する技術について説明する。
【0026】
図4及び図5に、第2の実施例における曲げ損失特性を改善した断面構造を有する2種類の短波長伝送用光ファイバ10B,10Cの概念図を示す。
【0027】
第2の実施例における一方の種類の短波長伝送用光ファイバ10Bは、図4に示すように、クラッド部101の中心からの距離がxμmとなる円周に外接するように配置された、クラッド部101よりも低い屈折率を有し厚みがz1μmである環状の低屈折領域103を有している。また、他方の種類の短波長伝送用光ファイバ10Cは、図5に示すように、クラッド部101の中心からの距離がxμmとなる円周に外接するように等間隔に配置された、直径がz2μmの空孔領域104を10個以上有する。
【0028】
尚、図5に示す実施例では空孔領域104を複数設けることによって図4に示した低屈折領域103と同じ効果を得るようにしているが、空孔領域104によって低屈折領域103と同等の効果を得るには空孔領域104を10個以上設けることが好ましい。また、空孔領域104の内部は空気で満たすことによって低屈折領域103と同等の低屈折率を示すが、空孔領域104内を満たす気体は空気に限定されることはなく、低屈折領域103と同等の低屈折率を示す気体であれば、空気以外の気体であっても良い。
【0029】
このように構成された短波長伝送用光ファイバ10B,10Cは、伝搬する光の電界分布を低屈折率領域103、もしくは複数の空孔領域104より内側のクラッド領域に閉じ込めることが可能となり、曲げ付与に伴う伝送損失の増加を低減することが可能となる。ここで、前記クラッド部101の中心からの距離xは、小さすぎると伝搬光の伝送特性を劣化させ、大きすぎると十分な閉じ込め効果を得ることが困難となる。このため、前記距離xはモードフィールド径(MFD)の1.0倍〜1.5倍に設定されることが好ましい。ここで、実効断面積Aはモードフィールド半径Wを用いて、A=πW2の関係式で記述できる。
【0030】
従って、実効断面積が80〜140μm2程度となる本実施例の短波長伝送用光ファイバ10B,10Cでは、前記モードフィールド半径Wが5〜7μm程度であり、前記クラッド部101の中心からの距離xは概ね5〜21μm程度に設定されることが好ましい。また、環状の低屈折領域103を設定する場合、当該低屈折領域103のクラッド部101に対する比屈折率差は概ね−0.2%以下とすれば十分な閉じ込め効果を得ることが可能となる。同様に、空孔領域104を設定する場合、当該空孔領域104のクラッド部101に対する非屈折率差は概ね−0.2%以下とすれば十分な閉じこめ効果を得ることが可能となる。また更に、上述の低屈折領域103の厚みz1及び空孔領域104の直径z2は概ね波長と同等のオーダー以上、即ち1μm以上であれば良い。但し、z1,z2が大きすぎる場合には高次モードに対する閉じ込め効果も増大するため、z1,z2は概ね5μm程度以下であることが好ましい。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の短波長伝送用光ファイバおよび光伝送システムによれば、波長800nm帯における単一モード伝送性を保持し、かつ実効断面積を80μm2以上に拡大したことにより、当該波長帯を用いた光通信における多モード雑音の影響を解消し、かつ送受信機との接続性の改善を可能とする。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の短波長伝送用光ファイバによれば、波長800nm以下の実効遮断波長特性を有し、かつ波長800nm帯における実効断面積が80μm2以上とすることができるため、波長800nmでの単一モード動作を保持し、かつ当該波長での実効断面積が拡大されるので、当該波長帯を用いた光通信システムにおける多モード雑音の影響を解消し、送受信装置との接続性を改善することができる。
【符号の説明】
【0033】
10,10A、10B、10C…コア拡大単一モード光ファイバ、20…送信部(Tx)、30…受信部(Rx)、101…クラッド部、102…コア部、103…低屈折領域、104…空孔領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が125±1μmに設定されるとともに屈折率が均一なクラッド部と、直径が2aに設定されるとともに前記クラッド部に対する比屈折率差がΔに設定されている7個のコア部と、を有し、
前記7個のコア部は、前記クラッド部の中心に配置された1つのコア部と、該1つのコア部の回りに6つのコア部が間隔Λで六方最密構造状に配設され、
前記コア部の直径2aが1.5〜2.5μm、当該コア部の規格化周波数が0.34〜0.48、規格化コア間距離Λ/2aが1.2〜2.4の範囲にそれぞれ設定されている
ことを特徴とする短波長伝送用光ファイバ。
【請求項2】
請求項1に記載の短波長伝送用光ファイバにおいて、
前記クラッド部の中心からの距離がxとなる円周に外接するように配置され、前記クラッド部よりも低い屈折率を有する厚みがz1に設定されている環状の低屈折領域を有し、
前記距離xがモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍に設定され、前記低屈折率領域の前記クラッド部に対する比屈折率差が−0.2%以下に設定され、前記低屈折率領域の厚みz1が1〜5μmに設定されている
ことを特徴とする短波長伝送用光ファイバ。
【請求項3】
請求項1に記載の短波長伝送用光ファイバにおいて、
前記クラッド部の中心からの距離がxとなる円周に外接するように等間隔に配置されているとともに、それぞれの直径がz2に設定されている空孔領域を10個以上有し、
前記距離xがモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍に設定され、前記空孔領域の前記クラッド部に対する非屈折率差が−0.2%以下に設定され、前記空孔領域の直径z2が1〜5μmに設定されている
ことを特徴とする短波長伝送用光ファイバ。
【請求項4】
波長800nm帯における信号光を生成・送出する送信部と、
前記送信部からの信号光を伝搬する短波長伝送用光ファイバと、
前記短波長伝送用光ファイバからの信号光を受光・復調する受信部と、により構成される光伝送システムであって、
前記短波長伝送用光ファイバとして、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の短波長伝送用光ファイバを用いている
ことを特徴とする光伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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