説明

短絡電流によって炭素材料を得るための反応装置および方法

本発明は、単層カーボンナノチューブおよび他の炭素の同素体を製造するための、新規かつ低コストの方法に関する。該方法は、材料がグラファイトからなる固体前駆体の昇華のために、大電流で127 VACまたは220 VACの電源を使用する。固体前駆体は金属電極に接続され、大電流が接点を流れ、高温下でグラファイトが粉砕される。炭素材料は、大気圧下で反応装置の壁および電極に堆積される。得られた材料は酸で精製され、その後、カーボンナノチューブが分離される。一般に、この新規な合成法は金属触媒が無いこと、炭素材料を製造するための媒介に短絡電流を使用すること、低圧で反応すること、および極めて低コストかつ低い動作電圧をう用いる装置のアセンブリであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の分野
本発明は、短絡電流による炭素材料の製造、例えば単層ナノチューブの製造に関する。
【0002】
発明の背景
その発見以来、カーボンナノチューブは、様々な調査および研究の対象となり、それらによりその特徴的な物理、化学、電気および光学的特性が解明された。科学的および商業的な興味は、その特性に起因した該炭素材料と密接に関連する。
【0003】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、アーク放電、レーザーアブレーション、熱化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD、有機液体の電解によるCNx膜の堆積および触媒カーボンペーパーを用いた反応のような、種々の方法によって製造することができる。
【0004】
アーク放電およびレーザーアブレーションは、前駆体材料が固体炭素ベースの材料(グラファイトロッド)で構成され、前駆体材料が高温(> 3600 K)で昇華される方法である。熱CVDおよびプラズマCVDは、前駆体材料が気相(炭化水素)である方法である。文献US 2006/7125525 (Schiavon)は、高電磁場を通して運ばれるイナートガスの存在下で、グラファイト成分がプラズマ状態で昇華される環境に基づく装置および方法を記載する。
【0005】
残留炭素不純物を増加させることなく基板上にカーボンナノチューブの成長が生じる他の熱CVD法は、文献US 2007/0003471 (Kawabata)に開示されている。この方法は、文献US 2006/0111334 (Klaus)にも記載されているが、ナノチューブは、触媒CVD法を用いることによって基板上に形成される。
【0006】
Yan, X.ら (Yan, X. et al. “Preparation and characterization of electrochemically deposited carbon nitride films on silicon substrate” J. Phys. D: Appl. Phys., 37(2004), p. 1-7) は、大面積の堆積、低い温度(およそ60℃)、DC電源電圧800 Vかつ持続時間10 hを用いた、有機液体中での膜の電気化学的堆積を記載する。触媒カーボンペーパーは文献US 2003/0111334 (Dodelet)において使用され、そこでナノ粒子は炭素基板上にランダムに堆積されて加熱される。
【0007】
先述した方法は、制御されずかつ無秩序な様式で、大量の非晶質炭素およびナノチューブを生成する。文献US 2007/0140947 (Schneider)は、系統的なカーボンナノチューブの連続的な製造のための方法を記載する。しかしながら、この方法は、多孔質基板(非炭素元素、例えばSi、NおよびP)および触媒粒子を必要とする。
【0008】
カーボンナノチューブを製造するためのこれらの方法の利用は、複雑な装置、高真空環境および高温を含む厳しい実験条件を必要とする。それ故に、製造されるこれらの材料、これらの方法によって得られる炭素材料は高コストかつ低い収量(極めて少量しか製造されない)を示すので、工業スケールでのそれらの利用および科学研究の妨げとなる。
【0009】
発明の概要
短絡電流を用いることによって、カーボンナノチューブのような炭素材料を製造するための新規な方法を提供することが本発明の目的である。
【0010】
本発明は、大電流が2つの金属電極に接続されたグラファイトロッドを通じて流される、炭素ナノ構造体を作るための方法に関する。本発明の方法は、触媒として働く遷移金属(例えばFe、Co、Ni)の粉末を使用しない。また、反応は通常の雰囲気中で実施することができる。特に、それはイナート雰囲気中で実行される。
【0011】
本発明の新規な方法は、基板または熱CVDを使用することなく、極めて低い電圧(127または220 VAC)、かつ単純な装置組み立てによってナノチューブを製造する。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の反応装置は、本発明の方法に従ってナノチューブのような炭素材料を製造するために使用される単純な装置を含む。前記装置は図1に図示され、図1(A)はイナート雰囲気を使用し、図1(B)は室内雰囲気を使用する。
【0013】
図1(A)は、ブラケット(7)で組立てられ、電極(8)がAC電源に接続されているところのガラス容器であるグローブボックス(6)を示す。管(9)は、イナートガス(例えば窒素)の運搬を担うグローブボックス(6)に接続される。一方で、本発明の反応装置および方法は、グローブボックス(6)を使用せずにナノチューブを製造することができる。これらの方法および反応装置は、図1(B)に示すように5つの部品を含む。第1の部品は、AC電源に接続された電気ケーブル(2)に接続された電子回路を含む電子ボックス(1)である。第2の部品は、部品1の外側にあり、かつガラス反応装置(5)のプラグ(4)に接続された電気ケーブル(3)である。第4および第5の部品は、ブラケットとして組立てられる。
【0014】
図2は、大電流(短絡電流)が流されたときに粉砕されるグラファイトロッド上の電圧を表示するマルチメーター(10)を示す。前記方法は、図3で示されたTEM画像に従って図示されたようなナノチューブを生成する。
【0015】
本発明は、ラマン分光法によって分析的に測定された。ラマン法において用いられたフォトンは、分析される試料の電子状態と共鳴する。この一次元構造のファンホーブ特異点に近い極めて高密度の電子状態のせいで、ただ1本のナノチューブからのラマンスペクトルの観察が可能である。図4は、SWCNTからの、100ないし1650cm-1スペクトル幅における共鳴ラマンスペクトルを示す。
【0016】
得られるナノチューブの量および品質は、グラファイトロッドの長さ、電圧、電源の周波数、電流強度およびイナートガス圧のような様々なパラメータに依存する。通常、径は、SWCNTについて0.9ないし1.2 nmの範囲である。
【0017】
以下の例は本発明の例示であり、本発明の範囲の限定または制限と考えるべきではない。
【0018】

例1
前駆体材料として、0.5 mmないし3.0 mmの径を持ち、長さが20 mm以下である純グラファイトのロッドを使用した。
【0019】
昇華プロセスの後、グラファイトロッドは暖かな粉末(warm powder)に変換された。これらの粉末は、炭素材料であり、酸および加熱によって精製される。
【0020】
例2
図1の装置は、まさに短絡の瞬間であるミリ秒の間にナノチューブを生成する。
【0021】
得られたナノチューブの長さは、室内圧かつ室内雰囲気下でおよそ225 nmである。TEM画像(図3)は、グラファイト壁中に存在する一定量の欠陥を有するSWCNTを示す。ヤング率の相関に基づき、この欠陥は100 GPa超に昇圧させることによって減らすことができる。
【0022】
利用の可能性
本発明によれば、カーボンナノチューブは、金属触媒または他の厳しい実験条件抜きで、短絡電流法を用いることによって製造することができる。それ故に、本発明は、極めて低コストかつ高収率かつ高品質で結果が得られる方法および反応装置を提供する。このような向上は、本発明を工業、研究室および研究所において利用した場合、当技術水準の問題を解決し、当業者に重要な利益をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、通常の雰囲気 (室内雰囲気)下、グローブボックス中に組立てられた単純な装置を示す。図1(A)は、低圧でイナートガス(例えば窒素)を用いたナノチューブの製造を図示する。図1(B)は、グローブボックスなしで組立てられた装置を図示する。
【図2】図2は、装置を操作するためのAC電源の電圧の、2つの二乗平均平方根を示す。周波数は60 Hz超であり、124.5 VACおよび217.0 VACが示される。
【図3】図3は、本発明の方法によって両方とも製造された、炭素ナノ構造体に取込まれたSWCNTの透過型電子顕微鏡(TEM)による画像を示す。
【図4】図4は、ラマンスペクトルの図を示す。試料は、1.96 eVの励起エネルギーを用いて製造された。図4(A)は、SWNTCの2つの特徴的なバンド、すなわちそれぞれ1350cm-1および1600cm-1付近に現れる欠陥率(D)およびグラファイト化率(G)を示す。図4(B)は、ラジアルブリージングモード(radial breathing mode)における2つのピークを示す:RBM1およびRBM2は、それぞれ219cm-1および284cm-1である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を製造するための方法であって、前記方法は、
(i) 短絡下で交流電圧による大電流を使用する工程と、
(ii) 固体前駆体を金属電極に直接接続する工程と、
(iii) 炭素材料を生成する工程と
を含み、前記方法はイナート雰囲気および金属触媒の利用を含まない方法。
【請求項2】
工程(ii)において、前記炭素材料が単層ナノチューブ、炭素ナノ構造体または炭素の同素体である請求項1による方法。
【請求項3】
工程(ii)において、前記固体前駆体が純グラファイトである請求項1または2による方法。
【請求項4】
工程(iii)において、前記交流電圧が複数の周波数下の電源によって発生される請求項1ないし3のいずれか1項による方法。
【請求項5】
前記複数の周波数が、サイクロコンバーター電子回路によって発生される請求項4による方法。
【請求項6】
前記方法が、反応装置中でイナート雰囲気、例えばヘリウム、アルゴンおよび窒素、ならびに金属触媒、例えばFe、CoおよびNiを利用することを含まない請求項1ないし5のいずれか1項による方法。
【請求項7】
陽極と陰極の間の間隔が1 mm未満であることが必要な、炭素材料を製造するための他の方法、例えば電気アークと比べて、工程(ii)において、前記電極が前記固体前駆体に直接接続さる請求項1ないし6のいずれか1項による方法。
【請求項8】
工程(i)において、前記交流電圧が電子回路に接続されたダイオードによって整流される請求項1ないし7のいずれか1項による方法。
【請求項9】
前記整流が、半波整流または全波整流である請求項8による方法。
【請求項10】
前記反応装置が、ブラケット(7)で組立てられ、電極(8)がAC電源に接続されているところのガラス容器であるグローブボックス(6)と、イナートガスの運搬を担い、グローブボックス(6)と接続された管(9)とを含む、炭素材料を製造するための反応装置。
【請求項11】
ナノチューブのような炭素材料を製造するために、グローブボックス(6)を省くことができ、5つの部品しか必要としない請求項10による反応装置であって、第1の部品はAC電源に接続された電気ケーブル(2)と接続された電子回路を含む電子ボックス(1)であり、第2の部品は部品1の外側にあり、かつガラス反応装置(5)のプラグ(4)に接続された電気ケーブル(3)であり、第4および第5の部品がブラケットとして組立てられる反応装置。
【請求項12】
大電流(短絡電流)が流されたときに粉砕され、前記ナノチューブを生成するグラファイトロッド上の電圧を表示するマルチメーター(10)をさらに含む請求項10または11による反応装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−513191(P2010−513191A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541701(P2009−541701)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/BR2007/000355
【国際公開番号】WO2008/074114
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509176101)ウニベルジダデ・フェデラル・ド・パラ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE FEDERAL DO PARA
【住所又は居所原語表記】Av.Augusto Correa, 01, Guama, 66075−900 Belem−PA, Brazil
【Fターム(参考)】