説明

石炭の改質方法

【課題】水分が多く、したがって発熱量の低い低品位炭を油中で脱水することにより高発熱量の火力発電用燃料に改質するプロセスにおいて、圧縮機に供給される混合蒸気の浄化が可能な石炭の改質方法を提供する。
【解決手段】低品位炭を粉砕し、粉砕した低品位炭を油と混合してスラリーを形成し、スラリーを水の沸点以上に加熱することにより低品位炭中に含まれる水分を蒸発させて脱水し、スラリーの加熱により生成した水蒸気および同時に気化した一部の油からなる混合蒸気を圧縮することにより昇温昇圧し、圧縮により昇温昇圧された混合蒸気を高温熱源としてスラリーを加熱することに利用する石炭の改質方法において、圧縮前の混合蒸気を液体状態の油と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分が多く、したがって発熱量の低い低品位炭を油中で脱水することにより高発熱量の火力発電用燃料に改質するプロセスにおいて、圧縮機に供給される混合蒸気の浄化が可能な石炭の改質方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、多孔質炭を原料とする固形燃料およびその製造方法が開示されている。図3に示すように、重質油分と溶媒油分を含む混合油を細孔内に水分を含有する粉砕された多孔質炭と混合してスラリー状態とし、そのスラリーは、予熱された後、タンク11に供給される。タンク11の底部からスラリーが抜き出され、第1ポンプ12により、熱交換器13に供給され、圧縮機14からの圧縮された混合蒸気により加熱されて多孔質炭の細孔内の水分と油の一部を蒸発させる。加熱されたスラリーと、水蒸気と油の蒸気とからなる混合蒸気は、タンク11に戻され、スラリーはタンク11の下方に、混合蒸気は上方に貯留する。混合蒸気はタンク11の上部から抜き出され、圧縮機14で圧縮され、昇温昇圧する。昇温昇圧された混合蒸気は、熱交換器13でスラリーに熱を与えて、水と油にそれぞれ凝縮する。水と油が混合した凝縮液は、油水分離器15に送られ、水と油にそれぞれ分離される。水は、水の貯留タンク16に貯留し、水の貯留タンク16から排水として排出される。油は、油の貯留タンク17に貯留し、油の貯留タンク17から第2ポンプ18によって汲み出され外部のリサイクル油供給設備へと導かれている。特許文献1の固形燃料は、多孔質炭の細孔内の水分があった場所に重質油を付着させることで、多孔質炭の自然発火の防止及びそれ全体としてのカロリーアップを実現している。そして、その製造方法におけるスラリーの加熱工程で多孔質炭の細孔内の水分及び混合油の一部を気化させ生成した混合蒸気を、圧縮機14で昇温昇圧して加熱源として利用している。
【0003】
しかし、特許文献1に示すものには以下の問題がある。水分を含む低品位炭と混合油からなるスラリーを熱交換器13内で水の沸点以上に加熱することにより、低品位炭中の水分はスラリー中に水蒸気として遊離する。このとき発生する水蒸気は、非常に微細な気泡となるため、スラリーが発泡性を有する。スラリーが発泡すると、発泡相が膨張し、タンク11の上部の空間を満たすだけでなく、圧縮機14に至る配管内を満たした後、圧縮機14に吸引されることがある。本来、圧縮機14には混合蒸気、すなわち、気体のみが供給されるべきであるが、発泡相の膨張により、泡を構成する液滴のみならず、微小な石炭粒子までも同伴して圧縮機14に供給されることとなる。その結果、圧縮機14の性能を損なうばかりでなく、圧縮機14の故障を引き起こすことが問題となる。したがって、脱水工程で生じる発泡を抑制し、圧縮機14に発泡相を供給しないようにすることが課題となっていたが、混合蒸気を浄化する手段については具体的な開示はなされていない。
【0004】
従来からの一般的な対処方法は、気泡を自然に沈静させるというものであるが、気泡の沈静には時間がかかるので工程ロスが生じ、また、気泡の沈静用に大きなタンクを設置するのはコスト高になるという問題があった。
【0005】
特許文献2では、発泡を防止する方法として遠心力を利用して気泡と液体を機械的に分離する方法が開示されているが、処理量が増大した場合には、巨大な機械が必要となり、現実的ではない。
【0006】
特許文献3では、消泡剤を添加して発泡を抑制する方法が開示されている。その方法は、発泡の性質や材料に応じて各種提案され商業化されているが、石炭のような付加価値の低い燃料に高価な消泡剤を大量に使用することは、コスト的に成り立たない。
【0007】
【特許文献1】特許第2776278号公報
【特許文献2】特開2005−131600号公報
【特許文献3】特開2007−222812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水分が多く、したがって発熱量の低い低品位炭を油中で脱水することにより高発熱量の火力発電用燃料に改質するプロセスにおいて、圧縮機に供給される混合蒸気の浄化が可能な石炭の改質方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明の石炭の改質方法は、低品位炭を粉砕し、粉砕した前記低品位炭を油と混合してスラリーを形成し、前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより前記低品位炭中に含まれる水分を蒸発させて脱水し、前記スラリーの加熱により生成した水蒸気および同時に気化した一部の前記油からなる混合蒸気を圧縮することにより昇温昇圧し、前記圧縮により昇温昇圧された混合蒸気を高温熱源として前記スラリーを加熱することに利用する石炭の改質方法において、前記圧縮前の混合蒸気を液体状態の油と接触させるようにしている。
【0010】
粉砕した低品位炭と油とを混合して形成されたスラリーを、水の沸点以上に加熱することにより低品位炭中に含まれる水分を蒸発させて脱水する。スラリーの加熱により生成した水蒸気および同時に気化した一部の油からなる圧縮前の混合蒸気に液体状態の油を接触させる。これにより、混合蒸気中の気泡同士の合一と成長を促進し、気相を液相から分離することができ、混合蒸気を消泡することができる。
【0011】
また、本発明の石炭の改質装置は、粉砕した低品位炭と油とを混合したスラリーを貯留するタンクと、前記タンクから供給される前記スラリーと高温熱源とを熱交換する熱交換器と、前記熱交換器での熱交換により生成した水蒸気および同時に気化した一部の前記油からなる混合蒸気を圧縮する圧縮機と、を備え、前記圧縮機により昇温昇圧された混合蒸気を高温熱源として前記熱交換器に供給する石炭の改質装置において、前記タンクと前記圧縮機の間に設けられ、内部で前記圧縮前の混合蒸気を液体状態の油と接触させる消泡タンクを備えるようにしている。
【0012】
予熱されたスラリーをタンクに供給し、そのタンクのスラリーを熱交換器に供給し、そのスラリーを熱交換器で熱交換して加熱することで混合蒸気を生成させる。その混合蒸気を圧縮機に供給する前に消泡タンクの内部で油と接触させることにより、混合蒸気中の気泡同士の合一と成長を促進する。その結果、気相を液相から分離することができ、混合蒸気を消泡することができる。
【0013】
具体的には、前記消泡タンクが、前記タンクと連通し前記混合蒸気を流入する流入口と、前記流入口より流入する前記混合蒸気に前記油を噴霧して接触させる油供給口と、前記圧縮機の吸入口と連通し前記混合蒸気を流出する流出口と、前記混合蒸気のミストを除去する前記流出口に設けられたミストセパレータと、前記油と前記混合蒸気の水蒸気の一部が凝縮した水との混合液を排出するドレン排出口と、を備えることが好ましい。この構成により、タンクからの混合蒸気を流入口から流入させ、その混合蒸気に油を噴霧して接触させることで混合蒸気中の気泡同士の合一と成長を促進する。その結果、気相を液相から分離することができ、混合蒸気を消泡することができる。また、その消泡した混合蒸気を流出口に設けられたミストセパレータに通過させることにより、その混合蒸気からミストを除去することができる。また、油供給口から噴霧され、消泡タンクに貯留した混合液をドレン排出口から排出することができる。
【0014】
前記熱交換器で前記混合蒸気が前記スラリーとの熱交換により凝縮した水と油の混合液を水分と油分とに分離する油水分離器を備えることが好ましい。この構成により、熱交換器で熱交換により凝縮した水と油の混合液を、油水分離器により水分と油分とに分離することができる。
【0015】
前記ドレン排出口から排出された前記混合液を前記油水分離器に供給することが好ましい。これにより、ドレン排出口から排出された水と油の混合液を油水分離器に供給して水分と油分とに分離することができる。
【0016】
前記油水分離器で分離された前記油の一部を前記消泡タンクに供給することが好ましい。これにより、油水分離器で分離された油の一部を消泡タンクに供給することができる。
【発明の効果】
【0017】
水分が多く、したがって発熱量の低い低品位炭を油中で脱水することにより高発熱量の火力発電用燃料に改質するプロセスにおいて、圧縮機に供給される混合蒸気の気相を液相から分離することにより混合蒸気を浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0019】
図1は、本発明にかかる石炭の改質方法に使用する装置20の概略を示す。その装置20は、タンク21、第3ポンプ22、熱交換器23,消泡タンク24,第4ポンプ25、圧縮機26、油水分離器27及び第5ポンプ28からなっている。
【0020】
タンク21は、水分を含有する粉砕した低品位炭と油からなるスラリーが貯留される。タンク21の底部と第3ポンプ22とは配管により連通している。第3ポンプ22と熱交換器23の管内側とは配管により連通している。熱交換器23は、管内側のスラリーと管外側の圧縮機26からの圧縮ガスとの間の熱の授受が効率的にできるようになっている。熱交換器23の管内側出口とタンク21の上方とは配管により連通している。タンク21の頂部と消泡タンク24の流入口29とは配管により連通している。
【0021】
図1及び図2に示すように、消泡タンク24の側面には流入口29が設けられている。消泡タンク24の内部には油を噴霧して供給する複数の油供給口30が設けられている。第5ポンプ28出口と油供給口30とは配管により連通している。消泡タンク24の上方には圧縮機26へ供給するための混合蒸気を流出する流出口31が設けられている。消泡タンク24の流出口31には、ミストセパレータ33が設けられている。消泡タンク24の下方には、ドレン排出口34が設けられている。
【0022】
ドレン排出口34と第4ポンプ25とは配管により連通している。消泡タンク24の流出口31と圧縮機26の吸入口35とは配管により連通している。圧縮機26には、吸入口35と吐出口36が設けられている。圧縮機26の吐出口36と熱交換器23の管外側入口とは配管により連通している。熱交換器23の管外側出口及び第4ポンプ25はそれぞれ油水分離器27の頂部とは配管により連通している。油水分離器27は、水と油を分離する構造となっており、内部に分離された水を貯留するタンク38と、分離された油を貯留するタンク39を備えている。水の貯留タンク38の底部から外部の排水設備へと導かれている。油の貯留タンク39の底部と第5ポンプ28とは配管により連通している。第5ポンプ28の出口は、外部のリサイクル油供給設備へと導かれるとともに、消泡タンク24の油供給口30と配管により連通している。
【0023】
次に、前記構成の装置20を使用する本発明の石炭の改質方法を図1により説明する。水分を含む粉砕した低品位炭と油からなるスラリーは、予熱された後、タンク21に供給される。ここで、低品位炭とは、単位質量あたりの発熱量の比較的小さい石炭のことであって、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭を意味する。スラリーとは、液体に微細な固体を分散させた懸濁液のことで、一般にポンプ移送できる程度の流動性を有する混合体の呼称である。タンク21の底部からスラリーが抜き出され、第3ポンプ22により、熱交換器23に供給され、圧縮機26からの圧縮された混合蒸気により加熱されて、低品位炭中の水分が蒸発する。このとき、油の一部も蒸発する。加熱されたスラリーと、水蒸気と油の蒸気とからなる混合蒸気は、タンク21に戻される。スラリーはタンク21の下方に貯留し、混合蒸気はタンク21の上方に貯留する。混合蒸気はタンク21の上部から抜き出され、消泡タンク24に供給される。消泡タンク24に供給された混合蒸気は、ミストセパレータ33を通過することにより含有するミストが除去される。ミストが除去された混合蒸気は、圧縮機26へと供給される。供給された混合蒸気は、圧縮機26で圧縮され、昇温昇圧する。昇温昇圧された混合蒸気は、熱交換器23の管外側に供給される。そして、管内側を通過するタンク21から第3ポンプ22で汲み出されたスラリーに、熱交換により熱を与え、水と油がそれぞれ凝縮する。水と油が凝縮した混合液は、第4ポンプ25によって消泡タンク24のドレン排出口34から汲み上げられた混合液とともに油水分離器27に送られ、水と油にそれぞれ分離される。水は水の貯留タンク38に貯留し、水の貯留タンク38から排水として排出される。油は、油の貯留タンク39に貯留し、油の貯留タンク39から第5ポンプ28によって汲み出される。この油は、リサイクル油として使用される。また、その一部は消泡タンク24に供給される。供給された油は、油供給口30から噴霧され、タンク21から消泡タンク24に供給される混合蒸気と消泡タンク24内部で接触する。それらの接触により、発泡した混合蒸気中の気泡同士の合一と成長を促進し、したがって、気相と液相の分離を促進する。その結果、圧縮機26に供給される混合蒸気を浄化することができる。
【0024】
運転条件の一例を示す。熱交換器23で発生し、圧縮機26側に供給される混合蒸気の量は、水が7800kg/h、油が、4800kg/h、合計12600kg/hである。圧力は、0.40MPa、温度は150℃である。これに対して、消泡タンク24に供給される油の流量は、20000kg/h、温度は150℃である。以上より、消泡タンク24を設け、そのタンク24内で発泡性の混合蒸気を液体状態の油と接触させるという簡便な方法で圧縮機26を故障させずに、安定的な運転を実現することができる。
【0025】
本発明は実施形態のものに限定されず、種々の変形が可能である。例えば、第5ポンプ28から油供給口30に至るライン途中で油を消泡タンク24に流入する混合蒸気の温度以上となるように、さらに加熱してもよい。消泡タンク24の油供給口30からの油の供給は、連続であってもよく、また断続的であってもよい。消泡タンク24内の液面が一定のレベルを超えると、下方のドレン排出口34から水と油の混合液が排出されるような制御をしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる石炭の改質方法に使用する装置の概略図。
【図2】油供給口から噴霧して油を供給する消泡タンクの内部を示す図。
【図3】従来の石炭の改質方法に使用する装置の概略図。
【符号の説明】
【0027】
20 装置
21 タンク
22 第3ポンプ
23 熱交換器
24 消泡タンク
25 第4ポンプ
26 圧縮機
27 油水分離器
28 第5ポンプ
29 流入口
30 油供給口
31 流出口
33 ミストセパレータ
34 ドレン排出口
35 吸入口
36 吐出口
38 タンク
39 タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭を粉砕し、
粉砕した前記低品位炭を油と混合してスラリーを形成し、
前記スラリーを水の沸点以上に加熱することにより前記低品位炭中に含まれる水分を蒸発させて脱水し、
前記スラリーの加熱により生成した水蒸気および同時に気化した一部の前記油からなる混合蒸気を圧縮することにより昇温昇圧し、
前記圧縮により昇温昇圧された混合蒸気を高温熱源として前記スラリーを加熱することに利用する石炭の改質方法において、
前記圧縮前の混合蒸気を液体状態の油と接触させることを特徴とする石炭の改質方法。
【請求項2】
粉砕した低品位炭と油とを混合したスラリーを貯留するタンクと、
前記タンクから供給される前記スラリーと高温熱源とを熱交換する熱交換器と、
前記熱交換器での熱交換により生成した水蒸気および同時に気化した一部の前記油からなる混合蒸気を圧縮する圧縮機と、を備え、前記圧縮機により昇温昇圧された混合蒸気を高温熱源として前記熱交換器に供給する石炭の改質装置において、
前記タンクと前記圧縮機の間に設けられ、内部で前記圧縮前の混合蒸気を液体状態の油と接触させる消泡タンクを備えることを特徴とする石炭の改質装置。
【請求項3】
前記消泡タンクが、前記タンクと連通し前記混合蒸気を流入する流入口と、
前記流入口より流入する前記混合蒸気に前記油を噴霧して接触させる油供給口と、
前記圧縮機の吸入口と連通し前記混合蒸気を流出する流出口と、
前記混合蒸気のミストを除去する前記流出口に設けられたミストセパレータと、
前記油と前記混合蒸気の水蒸気の一部が凝縮した水との混合液を排出するドレン排出口と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の石炭の改質装置。
【請求項4】
前記熱交換器で前記混合蒸気が前記スラリーとの熱交換により凝縮した水と油の混合液を水分と油分とに分離する油水分離器を備えることを特徴とする請求項3に記載の石炭の改質装置。
【請求項5】
前記ドレン排出口から排出された前記混合液を前記油水分離器に供給することを特徴とする請求項4に記載の石炭の改質装置。
【請求項6】
前記油水分離器で分離された前記油の一部を前記消泡タンクに供給することを特徴とする請求項4又は5に記載の石炭の改質装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−286900(P2009−286900A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140914(P2008−140914)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【特許番号】特許第4365442号(P4365442)
【特許公報発行日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】