説明

石炭サイロ用測温ケーブルおよびその製造方法

【課題】石炭山が急激に崩れることによって過大な荷重が作用しても切断することがない石炭サイロ用測温ケーブルを提供する。
【解決手段】ワイヤーロープ10と、ワイヤーロープ10の外面に沿ってワイヤーロープ長手方向に配線される複数本の熱電対14と、複数本の熱電対14が配線されたワイヤーロープ10の外側に被着される熱電対固定用チューブ17と、その熱電対固定用チューブ17の外側に線状または帯状金属材を編み込むことによって形成された外装18とから構成される石炭サイロ用測温ケーブルを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電所等に設置される石炭サイロの内部温度を管理するための測温ケーブルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭発電方式では、揚炭機で陸揚げした石炭を一旦、石炭サイロの頂部から投入してサイロ内に貯蔵し、ボトム側からコンベアを介して払い出された石炭をボイラー設備で燃焼し、高温、高圧の蒸気を発生させてタービンを回転させ、このタービンと直結した発電機を回すことによって発電を行っている。
【0003】
上記石炭サイロは通常、粉塵の飛散を抑制するため密閉構造となっているため、貯炭中において石炭酸化による温度上昇を発生する場合がある。
【0004】
その温度上昇を検出するためサイロ内には測温ケーブルがサイロ頂部から垂下されており、この測温ケーブルによって検出されたサイロ内温度の推移を見守ることによりサイロ内で温度上昇が発生するかどうかを監視している。
【0005】
なお、温度上昇を防止する目的で、基準の貯炭日数を越えた石炭を空の石炭サイロへ移動させて空冷したり、さらに、必要に応じて散水を行ったり窒素の吹き込みが行われている。
【0006】
上記測温ケーブルとしては、複数の温度センサを有する導線をワイヤに沿って設け、その外周を高分子被膜で被覆したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
この種の測温ケーブルは比較的小型のサイロに適用されるものであり、貯炭量が例えば30,000tの大型石炭サイロではより強度の高い測温ケーブルが使用されている。
【0008】
図4は現在、大型石炭サイロに使用されている測温ケーブルの構成を示したものであり、同図(a)は外観を、同図(b)は横断面構造をそれぞれ示している。
【0009】
両図において、測温ケーブル50は、複数本の温度ケーブル50aを挿入した樹脂製チューブ50bを中心部に配置し、その外周に、強度を持たせるための複数本のワイヤーロープ51を巻回した特殊な構造となっている。
【特許文献1】特開昭63−206617号公報(第(2)頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記した測温ケーブル50はワイヤーロープで補強しているにも拘わらず頻繁に切断し寿命が短いという不都合があった。
【0011】
そこで測温ケーブル50にロードセルを取り付け、測温ケーブル50に作用する荷重の分析を行ったところ、石炭受入れ後に急激な荷重の変化が発生していることが確認された。
【0012】
この急激な荷重変化の原因を調べた結果、測温ケーブル50の下部が石炭に埋もれた状態で石炭の山が急激に崩れた場合に測温ケーブル50が逃げ切れず過大な荷重を諸に受けていることが判明した。
【0013】
この過大な荷重は測温ケーブル50の下端が固定されているか否かに拘わらず発生しており、石炭の山が急激に崩れると設計荷重以上の荷重が測温ケーブル50に作用していたことになる。
【0014】
また、測温ケーブル50の切断箇所を調べてみると、ワイヤーロープ51中心の芯材に強度が不足するせいか、よりが解かれた状態となっており、荷重が各ワイヤーロープ51に対して均等に作用していないことも測温ケーブル50が切断される原因になっている。
【0015】
したがって樹脂製チューブ50bの外周に巻回されるワイヤーロープ51を単に切断荷重の高いものに交換してもよりが解かれることを考慮すると根本的な問題解消にはならない。
【0016】
一方、芯材の強度が高い例えば吊り荷用のワイヤーロープを使用すると、よりが解かれることなく切断荷重を高めることができる。しかしながら、この構成では測温ケーブルをワイヤーロープの外周に配線せざるを得なくなり、測温ケーブルが石炭と直接、当たることによって測温ケーブルが切断されてしまう。
【0017】
本発明は以上のような従来の測温ケーブルの課題を考慮してなされたものであり、石炭山が急激に崩れることによって過大な荷重が作用しても切断することがない石炭サイロ用測温ケーブルおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の石炭サイロ用測温ケーブルは、ワイヤーロープと、ワイヤーロープの外面に沿ってワイヤーロープ長手方向に配線される複数本の熱電対と、複数本の熱電対が配線されたワイヤーロープの外側に被着される熱収縮性チューブと、その熱収縮性チューブの外側に線状または帯状金属材を編み込むことによって形成された外装材とから構成されることを要旨とする。
【0019】
上記石炭サイロ用測温ケーブルにおいて、上記熱電対としてはシース熱電対を用いることができ、若干たるみを持たせた状態で固定具を介してワイヤーロープに固定することが好ましい。
【0020】
また、上記熱収縮性チューブとしてゴム系チューブを使用すれば、完全密着となるため好ましい。
【0021】
また、上記熱収縮性チューブを複数の層から構成すると、各層で荷重を分散させることができるため、強度を高める上で好ましい。
【0022】
また、上記外装材として複数本のワイヤー素線を平行に並べて機械編組したワイヤーブレードを使用すれば、測温ケーブルの最外周側の層となる外装に強度と柔軟性を持たせることができる。
【0023】
本発明の石炭サイロ用測温ケーブルの製造方法は、複数本の熱電対をワイヤーロープに沿ってワイヤーロープ長手方向に配線し、配線された各熱電対を所定の間隔毎に固定具で固定し、熱電対が配線されたワイヤーロープの外側に熱収縮性のチューブを被せ、チューブを加熱収縮させることによりワイヤーロープに密着させ、収縮したチューブの外周面全体に線状または帯状金属材を編込むことによって、フレキシブルな外装を形成することを要旨とする。
【0024】
上記製造方法において、外装が形成された石炭サイロ用測温ケーブルに張力を与えると、その張力によって編込まれた外装の径が絞られ、それにより、測温ケーブルを吊り下げるだけでワイヤーロープと熱電対とチューブと外装とを一体化させることができるようになる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、石炭山が急激に崩れることによって過大な荷重が作用しても切断することがない石炭サイロ用測温ケーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に示した実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の石炭サイロ用測温ケーブルが適用される石炭サイロの構成を示したものである。
【0028】
同図において、石炭サイロ1は例えば高さ46.5m、内径35mからなり、石炭を30,000t貯炭できる大型のものである。
【0029】
2はサイロ上空気遮断装置、3はサイロ内水噴霧消火設備、4は測温ケーブル、5はN吹込設備、6はセンターコーン、7は払出チェーンコンベア、8はサイロ下空気遮断装置、9はサイロ下コンベアである。なお、図中、破線で示した矢印はサイロ内での石炭移動方向を示している。
【0030】
図2は上記測温ケーブル4を拡大して示したものである。
【0031】
同図において10は例えばφ16mmの市販の吊り荷用ワイヤーロープからなり、潤滑剤を含浸させた繊維質を芯10aとし、その周囲に6本のストランド10bをより合わせたもので各ストランド10bは数本の硬鋼線材からなる素線10cをより合わせることにより構成されている。なお、ワイヤーロープ10の径はφ12.5〜16mmの範囲で選択することができる。
【0032】
また、ワイヤーロープ10の長さL1は石炭サイロの高さを略カバーできる長さとなっており、その一方端は、ループ状に折り返されタルリットクランプ11によって結束されている。また、折り返されることによって形成されるループ部12にはU字状の補強金具13が取り付けられ、上記ループ部12は石炭サイロの頂部に設けられている吊下げ用軸(図示しない)に固定される。なお、ワイヤーロープ10の他方端にはバラケ防止端末処理が施される。
【0033】
14は上記ワイヤーロープ10に沿わせた状態でワイヤーロープ長手方向に複数本配線されるシース熱電対である。
【0034】
各シース熱電対14はビニル樹脂で被覆された例えば素線径0.32mmのものを使用することができ、その使用温度範囲は−20〜+90℃である。
【0035】
15はこれらのシース熱電対14が挿通される保護パイプであり、この保護パイプ15はワイヤーロープ10のループ部12とシース熱電対14が擦れて破断することを防止するようになっている。
【0036】
保護パイプ15を通されたシース熱電対14はワイヤーロープ10に沿わせて、詳しくは、ワイヤーロープ10の外周面に沿って、断面から見た場合は略等間隔に配置された状態で配線され、配線された複数本のシース熱電対14はその先端までの長さを個別に変えることにより石炭サイロ1の高さ方向に複数の測定部位を測定することができるようになっている。
【0037】
これら配線されたシース熱電対14はクリップ(固定具)16によってワイヤーロープ10に固定される。このとき、各シース熱電対14は若干たるみを持たせて固定しており、クリップ16間においてある程度自由に変位することができるようになっている。
【0038】
17はシース熱電対14の外側に被着される熱電対固定用チューブである。
【0039】
この熱電対固定用チューブ17は1層目チューブ17aと2層目チューブ17bの複層からなり、1層目チューブ17aは収縮前の内径が例えば25mm、厚さ2mmの熱収縮性ゴム系チューブからなり、2層目チューブ17bは収縮前の内径が例えば30mm、厚さ2mmの熱収縮性ゴム系チューブから構成されている。
【0040】
上記熱電対固定用チューブの材質はエチレンプロピレンゴムからなり、120℃以上に加熱すると収縮するようになっており、加熱の熱源としては工業用ドライヤー、ガスバーナ、赤外線ヒータ、電熱器等を使用することができる。
【0041】
熱電対固定用チューブ17はシース熱電対14をワイヤーロープ10の外周面に密着させた状態で固定するようになっている。
【0042】
熱電対固定用チューブ17の外側にフレキシブル外装(外装材)18が施される。
【0043】
このフレキシブル外装18としては、数本〜10数本のワイヤーを平行に並べて機械編組したワイヤーブレードと、帯状板材を竹かご状に編み込んだリボンブレードがあり、本発明の石炭サイロ用測温ケーブルにはいずれのフレキシブル外装18も使用することができる。
【0044】
しかしながら、リボンブレードは連続した繰り返しの動きに対応しにくいことから耐屈曲性、耐圧性に優れているワイヤーブレードを使用することが好ましい。また、ワイヤブレードの厚みは0.3mmのものを使用した。
【0045】
次に、上記測温ケーブル4の製造方法について説明する。
【0046】
まず、ワイヤーロープ10を展開してストレートに配置する。
【0047】
次に、シース熱電対14をワイヤーロープ10に沿って配置し、その外周面に所定の間隔でクリップ16を用いて固定する。
【0048】
次に、シース熱電対14を備えたワイヤーロープ10の外側に1層目チューブ17aを被せ、ガスバーナで炙ることにより、1層目チューブ17aを収縮させ、ワイヤーロープ10に密着させる。シース熱電対14はワイヤーロープ10と収縮した1層目チューブ17aの間に挟まれて固定される。
【0049】
次に、1層目チューブ17aの外側に2層目チューブ17bを被せ、同様にガスバーナで炙ることにより、2層目チューブ17bを収縮させ、1層目チューブ17aに密着させる。
【0050】
このようにして2層からなる熱電対固定用チューブ17を形成する。2層からなる熱電対固定用チューブ17の収縮後の厚さは略2mmである。
【0051】
なお、1層目チューブ17a同士を接続する場合、その1層目チューブ17aと同じサイズかまたは1ランク上のサイズの同等品からなるチューブをカバーチューブとして1層目チューブ17aの各端部に跨がるようにして配置し、加熱することによって収縮させ、対向する1層目チューブ17aの各端部と一体化させればよい。2層目チューブ17bを接続する場合も同様に行う。
【0052】
次に、熱電対固定用チューブ17の外周面全体にワイヤーブレードを編込み、測温ケーブル4にフレキシブル外装18を取り付ける。
【0053】
このようにしてフレキシブル外装18が取り付けられた測温ケーブル4を石炭サイロ1の頂部から吊り下げると、測温ケーブル4の自重でその長さ方向に張力が加わり、その張力を受けたフレキシブル外装18は、編込まれた径を縮小する方向に絞られる。それにより、フレキシブル外装18は熱電対固定用チューブ17に対し密着することができ、フレキシブル外装18のセルフロック効果を得ることができる。
【0054】
なお、熱電対固定用チューブ17はゴム系素材で構成されていることによって収縮した後も弾性を維持しており、フレキシブル外装18が絞られて径が縮小するときに熱電対固定用チューブ17を若干押圧するため、確実に密着することができるようになっている。
【0055】
図3は上記製造方法によって製造された測温ケーブル4の構成を示したものであり、(a)は外観を、(b)は横断面をそれぞれ示している。
【0056】
同図(b)において、ワイヤーロープ10の外側には1層目チューブ17aが被着され、その1層目チューブ17aの外側に2層目チューブ17bが被着され、その2層目チューブ17bの外側にフレキシブル外装18が被着されている。なお、断面構造がわかりやすいように図ではフレキシブル外装18を真円で描いているが、実際は2層目チューブ17bの輪郭に沿って形成される。
【0057】
年間60回の石炭受入れ払出しを行っている石炭サイロでは、従来の測温ケーブルを使用した場合、切断による測温ケーブルの交換が20回程度発生していた。これは3回の受入れ払出しで測温ケーブルを交換している割合になり、測温ケーブルは切断するものという考えが通説となっていた。このように切断が多発すると測温ケーブルの修理に多額の費用と時間を費やさなければならない。
【0058】
これに対し、切断件数ゼロを目標として考案された本発明の測温ケーブル4では、内部が公開されることのない石炭サイロ1内に設置後、1年を経過しても切断しておらず、フレキシブル外装18において素線の切れも発生していない。このように測温ケーブル4の切断件数ゼロを実現することができその結果、大幅なコストダウンを図ることができた。
【0059】
しかも、同じ測温ケーブル4で継続して温度管理を行えることにより、温度管理の安定化を図ることも可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る測温ケーブルが適用される石炭サイロの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の測温ケーブルの構成を示す説明図である。
【図3】(a)は本発明に係る測温ケーブルの外観図、(b)はその横断面図である。
【図4】(a)は従来の測温ケーブルの外観図、(b)はその横断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 石炭サイロ
2 サイロ上空気遮断装置
3 サイロ内水噴霧消火設備
4 測温ケーブル
5 N吹込設備
6 センターコーン
7 払出コンベア
8 サイロ下空気遮断装置
9 サイロ下コンベア
10 ワイヤーロープ
11 タルリットクランプ
12 ループ部
13 補強金具
14 シース熱電対
15 保護パイプ
16 クリップ
17 熱電対固定用チューブ
17a 1層目チューブ
17b 2層目チューブ
18 フレキシブル外装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープと、
上記ワイヤーロープの外面に沿ってワイヤーロープ長手方向に配線される複数本の熱電対と、
上記複数本の熱電対が配線されたワイヤーロープの外側に被着される熱収縮性チューブと、
その熱収縮性チューブの外側に線状または帯状金属材を編み込むことによって形成された外装材とから構成されることを特徴とする石炭サイロ用測温ケーブル。
【請求項2】
上記熱電対としてシース熱電対が用いられ、若干たるみを持たせた状態で固定具を介して上記ワイヤーロープに固定されている請求項1記載の石炭サイロ用測温ケーブル。
【請求項3】
上記熱収縮性チューブとしてゴム系チューブを有する請求項1または2記載の石炭サイロ用測温ケーブル。
【請求項4】
上記熱収縮性チューブが複数の層から構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の石炭サイロ用測温ケーブル。
【請求項5】
上記外装材として複数本のワイヤー素線を平行に並べて機械編組したワイヤーブレードを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の石炭サイロ用測温ケーブル。
【請求項6】
複数本の熱電対をワイヤーロープに沿ってワイヤーロープ長手方向に配線し、配線された各熱電対を所定の間隔毎に固定具で固定し、熱電対が配線されたワイヤーロープの外側に熱収縮性のチューブを被せ、上記チューブを加熱収縮させることによりワイヤーロープに密着させ、収縮した上記チューブの外周面全体に線状または帯状金属材を編込むことによって、フレキシブルな外装を形成することを特徴とする石炭サイロ用測温ケーブルの製造方法。
【請求項7】
上記外装が形成された石炭サイロ用測温ケーブルに張力を与え、その張力によって上記編込まれた外装の径を絞り、上記ワイヤーロープと上記熱電対と上記チューブと上記外装とを一体化させる請求項6記載の石炭サイロ用測温ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−68954(P2009−68954A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236757(P2007−236757)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】