説明

石炭改質システム、炭素含有物質の脱水システム、および炭素含有物質の改質用の溶剤循環システム

【課題】 優れた熱効率で且つ炭塵発生を防ぐ方法で低品位炭を改質することができるとともに、得られる改質炭の自然発火性を低くすることができる石炭改質システムを提供する。また、このシステムに好適な炭素含有物質の脱水システムおよび溶剤循環システムを提供する。
【解決手段】 石炭改質システムは、低品位炭を脱水する脱水手段20と、脱水した低品位炭を溶剤の存在下で300℃以上に加熱して改質する改質塔40と、改質した低品位炭および溶剤を固液分離する固液分離機50と、固相を加熱、成形して、改質炭を含む成形物を得る成形手段60、62、66とを備える。脱水手段20は、低品位炭と溶剤とを混合してスラリー化するスラリー化槽10と、この原料スラリーを100℃以上に加熱することで水分を遊離し、脱水する脱水塔20を備える。また、固液分離した液相の少なくとも一部を分解して溶剤を生成する溶剤生成手段70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭改質システムに関し、さらに詳しくは、褐炭や亜瀝青炭などの水分含有量が高い低品位炭を改質する石炭改質システムに関する。
【背景技術】
【0002】
褐炭や亜瀝青炭などの水分含有量が高い低品位炭は、埋蔵量が多いものの、単位重量当たりの発熱量が低いとともに、輸送効率が悪いため、加熱処理して乾燥させることによって、単位重量当たりの発熱量を高めるとともに、圧縮成形することによって、ハンドリング性を高めることが行われている。このような低品位炭の改質を行う石炭改質装置が米国特許第5401364号明細書に開示されている。
【0003】
この文献に記載の石炭改質装置は、低品位炭を熱風乾燥により水分を蒸発除去する乾燥機と、この乾燥した石炭を350〜550℃で加熱して乾留する乾留機とを備えている。しかしながら、このような熱風乾燥には多大なエネルギーや動力を必要とし、また、設備建設費も高いという問題がある。また、このような乾燥により水分を蒸発した石炭は、多孔質の石炭となり、自然発火性が高く、不活性化の処置が不可欠であるが、その不活性化技術自体、まだ確立したものではないという問題もある。さらに、炭塵発生防止や表面積低減による自然発火防止を目的として、乾燥や乾留の過程で発生する微粉炭や製品炭そのものをブリケット化する場合、ブリケッターのスケールアップに限界があるため、小型機が多数必要で、また多大な電力を消費するという問題がある。
【0004】
一方、特開2005−120185号公報および特許第3920899号公報には、石炭を抽出溶剤と混合し、300℃以上に加熱することで、抽出溶剤中に石炭から抽出炭を抽出して、抽出炭を無灰炭などに改質する方法が記載されている。これら公報には、抽出炭を抽出した後の残炭について、有効な利用法は特に記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5401364号明細書
【特許文献2】特開2005−120185号公報
【特許文献3】特許第3920899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑み、優れた熱効率で且つ炭塵発生を防ぐ方法で低品位炭を改質することができるとともに、得られる改質炭の自然発火性を低くすることができる石炭改質システムを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、この石炭改質システムに使用することはもちろん、低品位炭に限らず、木材などの炭素含有物質から、優れた熱効率で且つ炭塵発生を防ぐ方法で水分を除去することができる炭素含有物質の脱水システムを提供することを別の目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、この石炭改質システムに使用することはもちろん、低品位炭に限らず、木材などの炭素含有物質を改質するのに利用する溶剤を循環利用できる溶剤循環システムを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る石炭改質システムは、低品位炭を脱水する手段と、脱水した低品位炭を溶剤の存在下で300℃以上に加熱して改質する手段と、改質した低品位炭および溶剤を固液分離する手段と、固液分離した固相を加熱、成形して、改質炭を含む成形物を得る手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
前記脱水手段は、前記溶媒の存在下で蒸発させずに脱水する手段であることが好ましく、前記低品位炭と前記溶剤を混合してスラリー化した原料スラリーを、100〜200℃以上に加熱することで前記低品位炭に含有する水分が液体状で遊離される手段であることが更に好ましい。なお、前記改質手段は、前記溶剤が蒸発しない圧力条件下で加熱するものである。
【0011】
また、本発明は、別の態様として、炭素含有物質の脱水システムであって、炭素含有原料と溶剤とを混合してスラリー化する手段と、この原料スラリーを100℃以上に加熱することで前記低品位炭に含有する水分を遊離し、脱水する手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の炭素含有物質の脱水システムは、前記脱水手段により放出された水分の軽質相を、前記原料スラリーを含む重質相から分離する手段をさらに備えることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は、溶剤循環システムは、炭素含有原料を溶剤の存在下で300℃以上に加熱して改質する手段と、改質した炭素含有原料および溶剤を固液分離する手段と、固液分離した液相の少なくとも一部を分解して前記溶剤を生成する手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、低品位炭を溶剤の存在下で、100〜200℃に加熱することで、低品位炭中に含まれる水分が溶剤中に液状に遊離するので、蒸発させずに優れた熱効率で容易に脱水を行うことができ、また、300℃以上に加熱すれば、低品位炭を改質するとともに石炭中の炭化水素の一部が溶剤中に溶解するので、改質炭と溶解成分とで改質炭を成形することで多孔質の改質炭の孔がこの溶解成分で塞がれるため、自然発火性の低い改質炭を得ることができる。また、原料となる低品位炭などの炭素含有物は、溶剤中で脱水、改質を行うため、炭塵発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る石炭改質システムの一実施の形態を示す模式図である。
【図2】図1の溶媒生成設備の一実施の形態を示す模式図である。
【図3】石炭中に含まれる水分が除去される模式図であり、(a)が本発明の方法、(b)が従来法を示す。
【図4】試験に用いたオートクレーブ装置の模式図である。
【図5】各生成物の組成をコールバンド上にプロットした図である。
【図6】各生成物の収率を示すグラフである。
【図7】処理前後の各石炭の発熱量の変化を示すグラフである。
【図8】処理後の発熱量の内訳を示すグラフである。
【図9】常温固体状溶解成分と常温液体状溶解成分のH−NMRスペクトルである。
【図10】常温固体状溶解成分と常温液体状溶解成分の芳香族指数を示すグラフである。
【図11】処理の前後での炭素の形態の変化を示すグラフである。
【図12】各生成物の熱重量分析曲線を示すグラフである。
【図13】各生成物の熱機械分析曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る石炭改質システムの一実施の形態について説明する。なお、本実施の形態の石炭改質システムには、本発明に係る脱水システムおよび溶剤循環システムの各実施の形態が含まれるが、本発明に係る脱水システムおよび溶剤循環システムは、石炭改質システムの用途に限定されるものではない。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態の石炭改質システムは、原料となる石炭と溶剤とを混合してスラリー化するスラリー化槽10と、この原料スラリー中の石炭から水分を遊離して脱水を行う脱水塔20と、水分の相と原料スラリー(油分)の相とを油水分離する油水分離槽30と、分離した原料スラリーを加熱して改質する改質塔40と、改質した原料スラリーを固液分離する固液分離機50と、分離した固相をペレット状に成形して改質炭ペレットを成形するペレタイザー60とを主に備える。
【0018】
スラリー化槽10は、原料である石炭を溶剤中に均一に分散してスラリー状にできるものであれば特に限定されないが、図1に示すように撹拌機12を備えたものが好ましい。スラリー化槽10は、その底部に、スラリー化した原料スラリーを脱水塔20へ送る原料スラリー供給管16を備える。この原料スラリー供給管16には、原料スラリーを圧送するためのポンプ18と、原料スラリーを加熱する予熱器22とを設ける。予熱器22は、原料スラリーを100〜200℃の範囲に加熱することができる機器である。また、ポンプ18は、原料スラリーを0.5〜10MPaGの範囲に加圧することができる機器である。
【0019】
脱水塔20は、原料スラリーを所定の温度に維持し、原料スラリーに分散する石炭中に含まれる水分が液状に遊離することで脱水を行う装置である。脱水塔20は、この脱水生成物を油水分離槽30へ送る脱水生成物供給管28を塔頂部に備え、また、原料スラリーを塔内に供給する原料スラリー供給管16を塔底部に備える。脱水塔20は、底部から供給された原料スラリーが頂部から排出されるまで、十分に脱水される時間にわたって塔内で滞留するような容量を有するものが好ましい。もちろん、脱水塔20は、このような連続式の構造に限定されず、バッチ式としてもよい。また、脱水塔20は、高圧の原料スラリーを収容できるように耐圧構造を有することが好ましい。
【0020】
油水分離槽30は、脱水生成物が石炭から遊離した水分と原料スラリーの油分とを含むことから、脱水生成物を水相と油相に分離して水相を除去するための装置である。原料スラリーの油相よりも水相の方が比重が軽く、油相(重質層)の上に水相(軽質層)が形成される。よって、デカンテーションより水相を容易に除去することができる。油水分離槽30には、槽内を二分する堰31を配置し、一方の区分には、槽内に脱水生成物を供給する脱水生成物供給管28と、分離した油相を改質塔40へ送る油相供給管32を設け、他方の区分には、堰31を超えて流れてきた水相を廃水処理施設(図示省略)へ送る水相排出管36を設ける。脱水生成物が供給される区分は、脱水生成物が水相と油相に分離するのに十分な時間にわたって滞留するような容量を有することが好ましい。もちろん、油水分離槽30は、このような連続式の構造に限定されず、バッチ式としてもよい。
【0021】
油相供給管32には、後述する改質スラリーと油相とを熱交換する熱交換器34と、油相を更に加熱する加熱炉44とを油水分離槽30側から順に設ける。加熱炉44は、油相を250〜450℃の範囲に加熱することができる装置である。また、油相供給管32には、油相を圧送するためのポンプ33を設ける。このポンプ33は、油相を0.5〜10MPaGの範囲に加圧することができる機器である。水相排出管36には、水相を冷却するための冷却器37を設ける。
【0022】
改質塔40は、油相(水分が除去された原料スラリー)を所定の温度に維持し、原料スラリー中に分散する石炭中に存在する含酸素官能基(−OHや−COOH等)を二酸化炭素や水に分解して放出して低品位炭の改質を行う装置である。なお、この改質処理によって、石炭に含まれる炭化水素も一部、溶剤に溶解する。
【0023】
改質塔40は、塔頂部に、塔内に油相を供給する油相供給管32と、塔内から二酸化炭素や水蒸気を排出する排気管49とを備え、塔底部には、改質した改質スラリーを固液分離機50へ送る改質スラリー供給管46を備える。改質スラリー供給管46には、上述した油相との熱交換器34と、更に改質スラリーを例えば常温まで冷却する冷却器47とを設ける。
【0024】
固液分離機50は、改質スラリーの固相と液相とを分離する装置である。固液分離機50は、特に限定されず、例えば、ベルトフィルターやドラムフィルター等のろ過装置や、遠心分離機などを用いることができる。固液分離機50には、分離した液相をスラリー化槽10に送る溶剤循環管52と、分離した固相(スラッジを含む)をペレタイザー60へ送る固相供給ライン54と、固液分離の際に発生する気相を排出する排気管56とを設ける。溶剤循環管52には、液相を圧送するためのポンプ53を設ける。
【0025】
また、液相には、溶剤と、石炭からの溶解成分であって常温で液状の成分(常温液体状溶解成分)とが含まれていることから、必要により、常温液体状溶解成分を熱分解などにより低分子量の炭化水素に分解して溶剤と同じ成分とする溶剤生成設備70を設置することができる。この溶剤生成設備70は、溶剤循環管52から液相の一部を抜き出す抜出管72に配置する。
【0026】
溶剤生成設備70は、その一実施の形態として、図2に示すように、抜き出した液相を溶剤と常温液体状溶解成分とに分離する蒸留塔73と、分離した常温液体状溶解成分を溶剤に熱分解する熱分解炉76とを主に備えている。蒸留塔73と熱分解炉76の間には、蒸留により分離した常温液体状溶解成分を熱分解して更に蒸留塔73へ戻す循環路74を設け、この循環路74にはポンプ77を設ける。また、蒸留塔75には、分離した溶剤を含むガスを排出するガス排出路75を設け、このガス排出路75には、熱交換器81と凝縮器78を配置する。凝縮器78には、凝縮した溶剤をスラリー化槽10へ供給する溶剤供給路80を設け、この溶剤供給路80には、ポンプ79を設ける。なお、溶剤供給路80は、溶剤の一部を蒸留塔73へ戻すこともできる。
【0027】
固相供給ライン54には、固相を加熱する加熱器62と、加熱した固相を混練する混練機66とを、固液分離機50側から順に設ける。加熱器62は、固相を150〜250℃の範囲に加熱することができる装置である。混練機66は、加熱により固相の一部が溶融したものを所定の温度において混練できるものであれば、特に限定されるものではない。
【0028】
ペレタイザー60は、混練物を所定の寸法のペレットに押し出し成形する装置であり、例えば、水中カッター方式(under water cutter)やストランドカッター方式などを採用することができる。ストランドカッター方式の場合、ダイポンプ、ダイ、水循環式ストランド冷却槽などの設備を有する。
【0029】
また、スラリー化槽10、脱水塔20、改質塔40および各配管には、被処理物の温度を測定する温度計14、24、41、48、64や、被処理物の圧力を測定する圧力計26、42を設ける。
【0030】
上記の構成によれば、先ず、スラリー化槽10に、原料となる石炭と溶剤を供給する。石炭としては、例えば、亜炭、褐炭、亜瀝青炭、泥炭などの15〜70%、好ましくは40〜70%の水分を有する低品位炭を使用する。また、供給する原料は、改質処理にあたり粉砕することが好ましい。粉砕は、例えば、粒径を4mm以下にすることが好ましく、2mm以下にすることがより好ましい。
【0031】
溶剤は、改質処理の温度に加熱されても安定な物質であれば特に限定されないが、自生溶剤以外に、例えば、1−メチルナフタレンや、ジメチルナフタレン、ナフタレン、アントラセン、C12〜C19のドデカン類等の有機溶剤を使用することができる。自生溶剤でない場合は、系外にロスとして流出する溶剤を再生、製造する必要がある。石炭と溶剤の混合比は、得られるスラリーの固形分濃度が20〜65%となるようにすることが好ましく、50〜65%がより好ましい。
【0032】
スラリー化槽10では、供給された溶剤中に石炭の粉砕物が均等に分散するように撹拌機12で撹拌してスラリー化する。スラリー化槽10の温度は、常温(25℃)〜40℃でよい。溶剤中に石炭が分散した原料スラリーを、原料スラリー供給管16を介して脱水塔20へと送る。この際、原料スラリーは、ポンプ18および予熱器22により、圧力を0.5〜10MPaG、好ましくは0.8〜5MPaGに昇圧するとともに、温度を100〜200℃、好ましくは130〜170℃に加熱する。
【0033】
脱水塔20では、所定の温度で原料スラリーが塔底部から塔頂部までゆっくりと流れ、その間に石炭中の水分が溶剤中に液状で遊離する。図3(a)に、本方法により石炭中に含まれる水分が溶剤中に遊離する模式図を示す。また、従来の熱風蒸発により乾燥する際の石炭の挙動の模式図を図3(b)に示す。図3(b)に示すように、従来法では、石炭表面に存在する含酸素官能基のうち、カルボキシル基が熱分解、重合して、石炭間をエーテル結合(−O−)で結びつけた重合物となるのに対し、本発明では、図3(a)に示すように、石炭を熱縮合によって高分子化することなく、石炭中の水分を溶剤中に液状に遊離することができる。
【0034】
脱水塔20での原料スラリーの滞留時間は、30分〜2時間が好ましい。原料スラリーを脱水処理して得られた脱水生成物は、塔底部から脱水生成物供給管28を介して油水分離槽30へと送る。
【0035】
油水分離槽30では、堰31を境にした一方の区分に、脱水生成物を供給する。脱水生成物に含まれる水分は、この区分内に貯留している間に、原料スラリーを含む油相の上に水相を形成する。そして、この水相が堰31を超えて他方の区分に流れ出ることから、原料スラリーを含む油相から水相を分離、除去することができる。水相は、冷却器37で常温に冷却した後、水相排出管36を介して廃水処理設備(図示省略)へと送る。
【0036】
このように低品位炭中の水分を、従来のように蒸発させることなく、液状で分離できるので、高い熱効率で脱水することができる。また、従来では水分を蒸発させるために、熱風乾燥を用いていたが、熱風乾燥には多大な動力を要する送風機などが必要であるが、本発明の脱水方法によれば、消費電力を低減することができる。
【0037】
石炭中の水分を脱水、除去した原料スラリーは、油相として、油相供給管32を介して改質塔40へ送る。その際、油相は、ポンプ33、熱交換器34および加熱炉44により、圧力を0.5〜10MPaG、好ましくは0.8〜5MPaGに昇圧するとともに、温度を250〜400℃、好ましくは330〜370℃に加熱する。
【0038】
改質塔40では、所定の温度で原料スラリーが塔頂部から塔底部までゆっくりと流れ、その間に石炭中に存在するカルボキシル基が分解して二酸化炭素に転換する。よって、石炭間が重合することなく、石炭に含まれる酸素分を除去することができるので、発熱量が大幅に向上し、低品位炭を改質することができる。また、この改質塔40での処理によって、石炭に含まれる炭化水素も一部、溶剤に溶解する。改質塔40での原料スラリーの滞留時間は、30分〜2時間が好ましい。改質処理により発生した二酸化炭素や水蒸気を含むガスは、排気管49を介して系外へ排出する。
【0039】
改質塔40で改質された改質スラリーは、改質スラリー供給管46を介して塔底部から抜き出され、熱交換器34および冷却器47により常温〜50℃にまで冷却した後、固液分離機50へ送る。改質スラリー中の溶剤には、石炭からの溶解成分が含まれているが、この溶解成分は、約150℃以下になると析出する成分(常温固体状溶解成分)と、常温にまで冷却しても液状の成分(常温液体状溶解成分)との2つの種類がある。よって、固液分離機50では、改質炭や常温固体状溶解成分を含む固相と、溶剤や常温液体状溶解成分を含む液相に分離することができる。なお、改質スラリーの冷却により二酸化炭素を含むガスが発生するので、排気管56を介して系外へ放出する。
【0040】
固液分離機50で分離した固相(スラッジを含む)は、固相供給ライン54を介して、先ず、加熱器62に導入する。加熱器62では、固相を150℃以上に加熱することで、固相中の改質炭は固体のままであるが、常温固体状溶解成分は溶融する。これにより、固体状の改質炭と溶融した常温固体状溶解成分との溶融物が生成する。なお、加熱の上限は、常温固体状溶解成分の揮発や、設備の耐熱性の観点から、250℃以下とすることが好ましい。この溶融物を、混練機66に導入して均等に混ぜ合わせた後、ペレタイザー60へと供給し、溶融物をペレット状に成形する。ペレットの寸法は、例えば、直径20〜30mm、長さ30〜40mmの円柱状にすることが好ましい。成形後、改質炭ペレットは常温まで自然冷却する。なお、溶融物の粘性が高過ぎる場合、常温液体状溶解成分の一部を固相に残留させてもよい。
【0041】
このようにして得られた改質ペレットは、多孔質の改質炭の孔が常温固体状溶解成分によって塞がれて、改質炭の表面積を小さくすることができる。よって、改質ペレットは、従来の熱風乾燥に比べて、自然発火性を大幅に抑えることができ、従来の不活性化工程や安定化工程などを不要にすることができる。また、本発明では、一連の工程で、石炭を溶剤中で取り扱い、また固液分離機50で得られる固相も直ぐに加熱して一部が溶融した状態とするため、炭塵が飛散するのを避けることができ、そのための対策を不要とすることができる。
【0042】
一方、固液分離機50で分離した液相は、液相循環管52を介して、溶剤を再利用するためにスラリー化槽10に供給する。改質炭や常温固体状溶解成分に同伴して系外へ出るロス分の溶剤をメイクアップする場合、液相に含まれる常温液体状溶解成分は、無灰炭などの利用価値の高い製品であるので、溶剤生成設備70で常温液体状溶解成分を熱分解し、これにより生成した溶剤をスラリー化槽10へ供給することもできる。具体的には、図2に示すように、先ず、蒸留塔73で液相を蒸留して溶剤を含むガスと常温液体状溶解成分に分離する。常温液体状溶解成分は、循環路74を介して熱分解炉76に送り、ここで熱分解により溶剤が生成する。生成した溶剤は、循環路74を介して蒸留塔73に送る。溶剤を含むガスは、ガス排出路75を介して熱交換器81で冷却し、凝縮器78で溶剤を凝縮する。溶剤は、溶剤供給路80を介してスラリー化槽10へ供給する。なお、溶剤が常温液体状溶解成分と組成が同一である場合、この溶剤生成設備70は不要である。
【0043】
図1に示す実施の形態を用いて本発明を説明してきたが、本発明はこれに限定されず、他の実施の形態を採用することができる。例えば、図1には、連続方式の石炭改質システムを示したが、バッチ方式としてもよい。例えば、スラリー化、脱水、改質を一つの槽で行うこともでき、この槽を3基で1セットとし、1基目がスラリー化、2基目が脱水、3基目が改質をし、次に、1基目が脱水、2基目が改質、3基目がスラリー化をするように順に切り替えて、バッチ方式で石炭を改質することもできる。
【実施例】
【0044】
図4に示すオートクレーブ装置を用いて、石炭を脱水、改質する試験を行った。オートクレーブ装置には、dafベースで14gの石炭をウエット状態で仕込み、300mLの1−メチルナフタレンをポンプで供給した。なお、石炭は1mm以下の粒径に粉砕した。使用した石炭の種類を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
オートクレーブ装置を50℃/分で昇温し、350℃に達したら、1時間にわたりこの温度を保持した。昇温過程で圧力が上がり過ぎた場合、オートクレーブ装置のガスバルブを開けて水を蒸気で抜いた。なお、最終的な圧力は2.3MPaであった。その後、オートクレーブ装置の下部のバルブを開き、内容物を、目開き0.5μmのステンレススチールフィルタを介してパイプでつながれたリザーバーに抜き出した。抜き出された液状生成物を室温まで放冷した後、さらに目開き0.5μmのステンレススチールフィルタで濾過し、濾物と濾液に分けた。そして、オートクレーブ装置内の残留物および濾物と濾液について、物理的および化学的特性値について調べた。
【0047】
先ず、各石炭における残留物(改質炭)、濾物(常温固体状溶解成分)、濾液(常温液体状溶解成分)の組成について、表2に示す。表2に示すように、いずれの石炭を用いた場合でも、常温液体状溶解成分はほぼ同じ組成であり、常温固体状溶解成分もほぼ同じ組成であった。また、各生成物の組成をコールバンド上にプロットした図を図5に示す。図5に示すように、いずれの石炭を用いた場合でも、常温固体状溶解成分と常温液体状溶解成分はほぼ同じ位置にあり、これは、石炭に限らず、木材などの炭素含有物質でも、上記処理によって、同様に脱水や二酸化炭素放出、炭化水素放出が行われることがわかった。
【0048】
【表2】

【0049】
また、各石炭における残留物、濾物、濾液、二酸化炭素、水の収率を図6に示す。そして、上記処理の前後の各石炭の発熱量の変化を図7に、処理後の発熱量の内訳を図8に示す。図6に示すように、いずれの石炭でも良好な物質収支が得られた。図7に示すように、上記処理により発熱量はほとんど変化せず、むしろ若干上昇する傾向を示した。
【0050】
濾物(常温固体状溶解成分)と濾液(常温液体状溶解成分)のH−NMRスペクトルの結果および芳香族指数を図9および図10に示す。図9および図10に示すように、いずれの石炭を用いた場合でも、常温固体状溶解成分はほぼ同じような構造および芳香族指数であり、常温液体状溶解成分もほぼ同じような構造および芳香族指数であった。
【0051】
上記処理の前後での炭素の形態の変化について視覚化したものを図11に示す。上記処理によって含酸素官能基の量が大きく減少したことがわかる。また、脂肪族炭素の量が大きく減少し、芳香族炭素の量が大きく増加したことがわかる。
【0052】
原料の石炭、残留物、濾物(常温固体状溶解成分)、濾液(常温液体状溶解成分)について熱重量分析および熱機械分析の結果を、図12および図13に示す。図12および図13に示すように、いずれの石炭を用いた場合でも、常温固体状溶解成分の熱重量分析曲線および熱機械分析曲線は非常に似た傾向であり、常温液体状溶解成分の熱重量分析曲線および熱機械分析曲線も非常に似た傾向であった。また、常温液体状溶解成分の約70%が約400℃までに揮発したこと、および常温液体状溶解成分は100℃以下で揮発する前に完全に軟化、溶融したことがわかった。
【0053】
常温液体状溶解成分は、物理的および化学的特性値が石炭の種類によらず、ほぼ同じであることがわかった(C:81.8〜82.9%、H:7.8〜10.2%、O:7.8〜10.2%)。水分は全く含まなかった。分子量は100〜500と低く、約80%は揮発成分であった。また、100℃以下で完全に軟化、溶融した。常温液体状溶解成分は瀝青炭と同等の特性を有することがわかった。
【0054】
常温固体状溶解成分は、物理的および化学的特性値が石炭の種類によらず、ほぼ同じであることがわかった(C:75.6〜77.5%、H:5.0〜5.7%、O:13.7〜16.9%)。水分は全く含まなかった。分子量は100〜800と比較的に低く、約200〜250℃で完全に軟化、溶融した。
【0055】
改質炭は、石炭の種類によって組成が異なったが、いずれの石炭でも比較的に酸素含有量は小さくなった。水分はほとんど含まなかった。
【符号の説明】
【0056】
10 スラリー化槽
12 撹拌機
14、24、41、48、64 温度計
16 原料スラリー供給管
18 ポンプ
20 脱水塔
22 予熱器
26、42 圧力計
28 脱水生成物供給管
30 油水分離槽
31 堰
32 油相供給管
33 ポンプ
34 熱交換器
36 水相排出管
37 冷却器
40 改質塔
44 加熱炉
46 改質スラリー供給管
47 冷却器
49 排気管
50 固液分離機
52 溶剤循環管
53 ポンプ
54 固相供給ライン
56 排気管
60 ペレタイザー
62 加熱機
66 混練機
70 溶剤生成設備
72 戻し管
73 蒸留塔
74 循環路
75 ガス排出路
76 熱分解炉
77 ポンプ
78 凝縮器
79 ポンプ
80 溶剤供給路
81 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低品位炭を脱水する手段と、脱水した低品位炭を溶剤の存在下で300℃以上に加熱して改質する手段と、改質した低品位炭および溶剤を固液分離する手段と、固液分離した固相を加熱、成形して、改質炭を含む成形物を得る手段とを備える石炭改質システム。
【請求項2】
前記脱水手段が、前記低品位炭と前記溶剤を混合してスラリー化した原料スラリーを、100〜200℃以上に加熱することで前記低品位炭に含有する水分が液体状で遊離される手段である請求項1に記載の石炭改質システム。
【請求項3】
炭素含有原料と溶剤とを混合してスラリー化する手段と、この原料スラリーを100℃以上に加熱することで前記低品位炭に含有する水分を遊離し、脱水する手段とを備える炭素含有物質の脱水システム。
【請求項4】
前記脱水手段により放出された水分の軽質相を、前記原料スラリーを含む重質相から分離する手段をさらに備える請求項3に記載の炭素含有物質の脱水システム。
【請求項5】
炭素含有原料を溶剤の存在下で300℃以上に加熱して改質する手段と、改質した炭素含有原料および溶剤を固液分離する手段と、固液分離した液相の少なくとも一部を分解して前記溶剤を生成する手段とを備える溶剤循環システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−172076(P2012−172076A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35914(P2011−35914)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】