説明

石綿含有建材の表面処理方法

【課題】 建築物の屋根・外壁等に用いられている石綿含有建材の表面処理を行う場合において石綿の飛散を低減させる手段を提供する。
【解決手段】 建物竣工後30年が経過した石綿含有建材1としての大波スレート屋根材(石綿含有量5%)の表面に前記ブラシ3を押し当て、大波スレート屋根材の表面を平均0.02mmの深さで削り取る。続いて、前記固化剤をエアレススプレを用いて塗布する。このときの吹付け圧力は1.1MPa、吐出量は0.6リットル/分である。前記固化剤は大波スレート屋根材表面を湿潤させて石綿の飛散を抑制するとともに、内部に浸透して石綿を固化する。その後、前記固化剤中のアクリル樹脂エマルジョンが造膜し、固化剤を大波スレート屋根材に固着させる。次に、ポリマーセメントモルタルを塗布する。前記ポリマーセメントが固化した後に、仕上材をエアレススプレによって吹き付け塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かつて建築物の屋根・外壁等に用いられていた石綿含有スレート、石綿含有セメント、石綿含有塗料、防音材、断熱材、保温材等の石綿含有建材が経年の太陽光及び風雨等にさらされて劣化した場合における表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肺がん、石綿肺、悪性中皮腫等の原因とされる石綿(アスベスト)はかつて、建材中に多岐にわたって使用されてきた。これらの建材うち、吹付けアスベストについては劣化等により粉じんを発散させ、労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは、除去、封じ込め、囲い込み等の措置を採ることが義務付けられている。(例えば、非特許文献1参照。)。一方で、スレートや塗料等のように固化されているものについては飛散の危険が小さいということでこれらの措置の対象とはなっていない。しかし、これらの石綿含有建材が屋外で経年の太陽光及び風雨等にさらされると、その表面が劣化して脆弱になっており、これら石綿含有建材を改修する際の下地の処理方法によっては、周辺環境へ石綿を飛散させてしまうおそれがあるという問題点があった(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】石綿障害予防規則
【特許文献2】建設省官民連帯共同研究 建築物のノンアスベスト化技術の開発 平成2年度概要報告書「劣化した石綿スレート板のケレン方式に関する研究」建設省(第4〜13頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、建築物の屋根・外壁等に用いられている石綿含有建材の表面処理を行う場合において石綿の飛散を低減させる点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、曝露履歴のある石綿含有建材に対し、該表面を真空掃除機によって清掃した後に、エアレススプレによって固化剤を塗布した石綿含有建材が、建築物あるいは工作物の一部として使用されることを最も主要な特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の表面処理を行った後、ポリマーセメントモルタルを塗布してから仕上材を塗装することを最も主要な特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記エアレススプレの吹付け圧力が0.5MPa〜25MPaであり、固化剤の吐出量が0.3リットル/分〜15リットル/分であることを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記真空掃除機が吸引口周りにブラシを持つものであり、該ブラシのヤング率が0.1GPa〜230GPaであることを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記真空掃除機による清掃が、石綿含有建材の表面を0.001mm〜2.00mmの厚さで削り取ることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、石綿の飛散を抑制することができるという利点がある。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の効果に加え、後工程で塗布する仕上材の剥離を長年に渡って抑制することができるという利点がある。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1〜請求項2に記載の効果に加え、石綿飛散を抑制しつつ、効果的に固化剤を塗布することができるという利点がある。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜請求項3に記載の効果に加え、石綿含有建材の表面を擦るのに十分な強度があるため、効率的に清掃することができるという利点がある。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、表面処理後の仕上材の耐久性を向上させることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
本発明の石綿含有建材1の表面処理方法は、曝露履歴のある石綿含有建材1に対し、該表面を真空掃除機によって清掃した後に、エアレススプレによって固化剤を塗布した石綿含有建材が、建築物あるいは工作物の一部として使用されることが必要である。
【0016】
前記石綿含有建材1は成型・非成型を問わず、セメントや合成樹脂等によって石綿を固化させている建材をいう。例えば、大波板、中波板、小波板、リブ波板等のスレート波板、フレキシブル板、平板、軟質板、軟質フレキシブル板等のスレートボード、珪酸カルシウム板、パーライト板、スラグせっこう板、パルプセメント板、窯業系サイディング、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、石綿セメント円筒、石綿含有ロックウール吸音天井板、プラスチックタイル(Pタイル)、吹付けタイル、単層弾性塗料などの建築仕上材、セメントフィラー等の下地調整材等が挙げられる。
【0017】
前記真空掃除機とは、ポンプで機内を真空状態に近づけて粉塵を吸い込む掃除機であり、タービンをモーターで高速回転することで、掃除機内の気圧をより低くし、外気の気圧との差を利用して空気を高速で流入させ、本体内でろ過する機械である。
【0018】
前記真空掃除機の吸引仕事率は好ましくは100W〜500Wであり、より好ましくは150〜400Wであり、もっとも好ましくは200〜300Wである。この範囲にある場合、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。前記真空掃除機の吸引仕事率が100W未満である場合には、吸引力が十分でないために清掃時に飛散した石綿が周囲に拡散してしまうおそれがある。逆に500Wを超える場合には、吸引力が強すぎて吸引口が石綿含有建材1に吸い付いてしまうため、作業速度が低下するおそれがある。
【0019】
前記真空掃除機の排気をろ過するフィルターの捕集効率は、好ましくは粒径0.3μmの粒子に対して99.97%〜99.999995%であり、より好ましくは粒径0.15μmの粒子に対して99.9995%〜99.99999995%である。この範囲にあるとき、吸い込んだ石綿を外部に拡散することを抑制することができる。前記真空掃除機の排気をろ過するフィルターの捕集効率が粒径0.3μmの粒子に対して99.97%未満である場合には、捕集効率が低すぎて石綿を周囲に飛散させてしまうおそれがある。逆にフィルターの捕集効率が粒径0.3μmの粒子に対して99.999995%を超える場合には捕集効率が高すぎてフィルターの目詰まりが頻繁に発生してしまい、作業速度が低下するおそれがある。
【0020】
前記真空掃除機の吸引口周り2には図1に示すように、ブラシ3を設けることが好ましい。前記真空掃除機の吸引口周り2にブラシ3を設けることにより、石綿含有建材1の表面を削った場合に飛散した石綿がブラシ3の外側へ飛散することを抑制し、石綿を効率的に捕集することができる。
【0021】
前記ブラシ3の吸引口外周部から吸引口内周部にかけてのブラシ3の列密度は好ましくは、1〜10列であり、より好ましくは2〜8列であり、もっとも好ましくは3〜6列である。この範囲にあるとき、石綿含有建材1の表面を削った場合に飛散した石綿がブラシ3の外側へ飛散することを抑制し、石綿を効率的に捕集することができる。前記ブラシ3の吸引口外周部から吸引口内周部にかけての列密度が1列未満の場合にはブラシ3の役割を果たすことができない。逆に列密度が10列を超える場合には、密度が高すぎて作業速度が低下するおそれがある。
【0022】
前記ブラシ3の長さは吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に短くなることが好ましい。このように構成した場合、石綿含有建材1に不陸や凹凸、複雑な経常があっても外周部ブラシ3bを石綿含有建材1の表面形状に沿って大きくたわませるとともに、内周部ブラシ3aをあまりたわませない状態で石綿含有建材1の表面を擦ることができるため、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。
【0023】
前記ブラシ3の長さが吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に短くなっている場合には、吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さは好ましくは30〜80であり、より好ましくは40〜70であり、最も好ましくは50〜60である。この範囲にあるとき、外周部ブラシ3bのたわみと、内周部ブラシ3aのたわみとが最適になり、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。前記吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さが30未満である場合には、外周部ブラシ3bのたわみを大きくさせないと内周部ブラシ3aが石綿含有建材1の表面に当たらないため、吸引口を石綿含有建材1の表面に押し当てる強い力が必要となり、作業速度が低下するおそれがある。逆に前記吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さが80を超える場合には、外周部ブラシ3bを大きくたわませた場合に内周部ブラシ3aまでも大きくたわんでしまうおそれがあり、効率的に石綿含有建材1の表面を擦ることができないおそれがある。
【0024】
前記ブラシ3のヤング率は0.1GPa〜230GPaであることが好ましく、0.2GPa〜150GPaであることがより好ましく、0.3GPa〜125GPaであることが最も好ましい。この範囲にあるとき、図2に示すように、石綿含有建材1表面の形状に対して沿って大きくたわませることができるとともに石綿含有建材1の表面を擦るのに十分な強度があるため、効率的に清掃することができる。前記ブラシ3のヤング率が0.1GPa未満の場合には、石綿含有建材1の形状に沿わせた場合、たわみが大きすぎて飛散した石綿を外部に飛散させてしまうおそれがある。逆に、前記ブラシ3のヤング率が230GPaを超える場合には、強度がありすぎて石綿含有建材1を大きく削り取ってしまうおそれがある。
【0025】
前記ブラシ3のヤング率がこの範囲にあるものとしては例えば、ポリエチレン(0.4〜1.3GPa)、ポリスチレン(2.7〜4.2GPa)、ナイロン(1.2〜2.9GPa)等の合成樹脂、黄銅(真鍮)(100〜110GPa)、鉛(108.4GPa)、軟鉄(211GPa)、鋳鉄(152GPa)、鋼鉄(201〜216GPa)銅(108〜130GPa)、亜鉛(108〜125GPa)、アルミニウム(70.3GPa)、金(78GPa)、銀(82.7GPa)、ニッケル(199〜220GPa)、白金(168GPa)、錫(49.9GPa)、青銅(80.8GPa)、ジュラルミン(71.5GPa)、チタン(115.7GPa)等の金属、チーク(13GPa)、ブナ(12GPa)、ヒノキ(9GPa)、スギ(8GPa)、竹(18〜55GPa)等の木材、ガラス(71.3GPa)等が挙げられる。
【0026】
前記ブラシ3のうち、石綿含有建材1の表面を擦るためにはヤング率は好ましくは50GPa〜180GPaであり、より好ましくは75GPa〜150GPaであり、最も好ましくは85GPa〜125GPaである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1の表面に付着しているコケ、かび、植物、土、砂、埃等の付着物を効率よく除去することができる。
【0027】
前記ブラシ3のうち、石綿含有建材1の表面形状に対して効率的に沿わせることができるためのヤング率は好ましくは0.3GPa〜25GPaであり、より好ましくは0.4GPa〜15GPaであり、最も好ましくは0.5GPa〜10GPaである。この範囲にあるとき、ブラシ3を石綿含有建材1の表面形状に対して効率的に沿わせることができるとともに、削り取った石綿を外部に飛散させることが少ない。
【0028】
前記ブラシ3のヤング率は吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に大きくなることが好ましい。前記ブラシ3のヤング率は吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に大きくなることにより、石綿含有建材1に不陸や凹凸、複雑な経常があっても外周部ブラシ3bを石綿含有建材1の表面形状に沿って大きくたわませるとともに、内周部ブラシ3aをあまりたわませない状態で石綿含有建材1の表面を擦ることができるため、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。
【0029】
前記ブラシ3のヤング率が吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に大きくなっている場合には、吸引口最内周部ブラシ3aのヤング率を100とした場合の吸引口最外周部ブラシ3bのヤング率は好ましくは0.2〜25であり、より好ましくは0.3〜15であり、最も好ましくは0.4〜10である。この範囲にあるとき、内周部で石綿含有建材1の表面を効率的に削り取ることができるとともに、削り取った石綿含有建材1の表面を周囲に飛散させることが少ない。前記ブラシ3のヤング率が吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に大きくなっている場合において、吸引口最内周部ブラシ3aのヤング率を100とした場合の吸引口最外周部ブラシ3bのヤング率が0.2未満である場合には、外周部ブラシ3bの吸引口の移動による変形が大きすぎて隙間が生じ、内周部で効率よく削り取った石綿含有建材1の粉塵を外部へ漏らすおそれがある。逆にヤング率が25を超える場合には、外周部ブラシ3bの変形が小さすぎて、石綿含有建材1の表面形状への追従が十分でなく、内周部で効率よく削り取った石綿含有建材1の粉塵を外部へ漏らすおそれがある。
【0030】
前記ブラシ3の長さが吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に大きくなっている場合には、吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さは好ましくは25〜90であり、より好ましくは30〜85であり、最も好ましくは40〜80である。この範囲にあるとき、外周部ブラシ3bのたわみと、内周部ブラシ3aのたわみとが最適になり、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。前記吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さが25未満である場合には、外周部ブラシ3bを大きくたわませた場合に内周部ブラシ3aまでも大きくたわんでしまうおそれがあり、効率的に石綿含有建材1の表面を擦ることができないおそれがある。逆に前記吸引口最外周部ブラシ3bの長さを100とした場合の吸引口最内周部ブラシ3aの長さが80を超える場合には、外周部ブラシ3bのたわみを大きくさせないと内周部ブラシ3aが石綿含有建材1の表面に当たらないため、吸引口を石綿含有建材1の表面に押し当てる強い力が必要となり、作業速度が低下するおそれがある。
【0031】
前記ブラシ3の長さは好ましくは5mm〜50mmであり、より好ましくは10mm〜30mmであり、最も好ましくは15mm〜25mmである。この範囲にあるとき、大波スレート板の表面形状にブラシを沿わせることが容易になる。前記ブラシ3の長さが5mm未満である場合には、ブラシ3の長さが短すぎて大波スレート板の波形状にブラシを沿わせることが困難である。逆に前記ブラシ3の長さが50mmを超える場合には、ブラシ3の長さが長すぎて削り取った石綿を効率よく吸い込むことが困難になる。
【0032】
前記ブラシ3の太さは好ましくは0.1mm〜3.0mm、より好ましくは0.2〜2.0mm、最も好ましくは0.5mm〜1.0mmである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1の表面を効率よく削り取ることができる。
【0033】
前記ブラシ3の1cm当りの植毛密度は好ましくは10本〜200本であり、より好ましくは20本〜150本、最も好ましくは30本〜120本である。この範囲にあるとき、石綿含有建材1の表面を効率よく削り取ることができるとともに、削り取った石綿が外部に飛散することを効率よく抑制することができる。
【0034】
前記ブラシ3はブラシ保持部4に設けて吸引口と分離した着脱式であることが好ましい。ブラシ保持部4が吸引口と分離した着脱式であることにより、石綿含有建材1表面の劣化状況に応じて複数のブラシ3を使い分けることが容易になる。
【0035】
前記清掃は石綿含有建材1の表面を削り取ることが好ましい。石綿含有建材1の表面を削り取ることにより、コケ、藻、かび、植物、土、砂、埃等の付着物を取り除くことができるため、固化剤の石綿含有建材1への密着性に優れ、表面処理後の仕上材の耐久性を向上させることができる。
【0036】
前記清掃で石綿含有建材1の表面を削り取る場合には、真空掃除機の吸引口に設けたブラシ3で削り取ることが好ましい。真空掃除機の吸引口に設けたブラシ3で石綿含有建材1の表面を削り取ることにより、清掃と石綿の飛散防止を同時に行うことができる。
【0037】
前記清掃で石綿含有建材1の表面を削り取る場合には、その平均削り取り深さは石綿含有建材1の表面から好ましくは0.001mm〜2.00mm、より好ましくは0.005mm〜1.00mm、最も好ましくは0.01mm〜0.50mmである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1からの石綿飛散が少なく、かつ、表面処理後の仕上材の耐久性を向上させることができる。前記平均削り取り深さが0.01mm未満の場合には、石綿含有建材1表面のコケ、かび、植物、土、砂、埃等の付着物の除去が十分でないおそれがあるため、後工程で用いる固化剤、ポリマーセメント、仕上材等の石綿含有建材1に対する密着が十分でなく、経年によって剥がれ、膨れ、浮き等が生ずるおそれがある。逆に、前記平均削り取り深さが2.00mm以上の場合には、石綿含有建材1が割れてしまうおそれがある。前記平均削り取り深さが0.01mm〜0.50mmの範囲にある場合には、削り取りによって石綿含有建材1中の石綿が表面に多数露出し、風雨によって周辺に飛散するおそれが少なく、後工程で用いる固化剤、ポリマーセメント、仕上材等の石綿含有建材1に対する密着に最も優れている。
【0038】
前記平均削り取り深さとは、本発明においては、JIS B0601−2001に規定されている十点平均粗さをいい、基準長さを抜き取って、最も高い山頂から5番目までの標高の絶対値の平均と、最も低い谷底から5番目までの標高の絶対値の平均との和をいう。
【0039】
前記エアレススプレとは、圧縮空気を使用せず、塗料等の液体に直接圧力を加えて霧化して吐出させるスプレー装置をいう。エアレススプレによって固化剤を塗布することにより、石綿含有建材1に固化剤以外の圧力が加わらない状態で固化剤を付着させることができるため、石綿の飛散を抑制することができる。逆にローラー、刷毛等によって固化剤を塗布する場合には、ローラー、刷毛等の塗装器具によって石綿含有建材1の表面を擦ってしまうため、石綿が周囲に飛散するおそれがある。また、圧縮空気の圧力によってスプレーする場合には、固化剤と空気の圧力によって石綿を飛散させてしまうおそれがある。
【0040】
前記エアレススプレの吹付け圧力は好ましくは0.5MPa〜25MPaであり、より好ましくは1MPa〜10MPaであり、最も好ましくは3MPa〜8MPaである。この範囲にあるとき、石綿飛散を抑制しつつ、効果的に固化剤を塗布することができる。前記エアレススプレの吹付け圧力が0.5MPa未満の場合には、圧力が低すぎて固化剤の石綿含有建材1への塗着量が十分でない。逆に25MPaを超える場合には、圧力が強すぎて石綿を飛散させてしまうおそれがある。
【0041】
前記エアレススプレを使用した場合の固化剤の吐出量は好ましくは0.3リットル/分〜15.0リットル/分であり、より好ましくは1.0リットル/分〜8.0リットル/分、最も好ましくは2.0〜5.0リットル/分である。この範囲にあるとき、石綿含有建材1への固化剤の塗着量が十分であるとともに石綿飛散を抑制することができる。固化剤の吐出量が0.3リットル/分未満の場合には、固化剤の吐出量が十分でないために作業速度が低下してしまう。逆に固化剤の吐出量が15.0リットル/分を超える場合には、固化剤の吐出量が多すぎて、余分の固化剤が流れ落ちてしまうおそれがある。
【0042】
前記固化剤の塗布量は好ましくは50g/m〜1000g/mであり、より好ましくは100g/m〜800g/mであり、最も好ましくは200g/m〜500g/mである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1への固化剤の塗着量が十分であるとともに石綿飛散を抑制することができる。前記固化剤の塗布量が50g/m未満の場合には、固化剤の塗布量が十分でないために後工程で施工するポリマーセメントモルタルや仕上材等の石綿含有建材に対する密着性が低下する恐れがある。逆に固化剤の塗布量が1000g/mを超える場合には、固化剤の塗布量が多すぎて、余分の固化剤が流れ落ちてしまうおそれがある。
【0043】
前記固化剤は珪酸塩と合成樹脂とを含有していることが好ましい。固化剤が珪酸塩と合成樹脂とを含有していることにより、石綿含有建材1中に深く浸透すると共に、適度な耐水性を付与することができる。
【0044】
前記珪酸塩には例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アンモニウム、珪酸アルミニウム、珪酸鉄、珪酸マンガン、珪酸ベリリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらのうち、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等のアルカリ金属塩を用いることが好ましく、珪酸リチウム又は珪酸カリウムを用いることがより好ましく、珪酸カリウムを用いることが最も好ましい。珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等のアルカリ金属塩を用いることにより、石綿との親和性がよいため、石綿含有建材1中に深く浸透して該建材の表層を固化することができる。
【0045】
前記珪酸塩の固化剤中の含有量は、固化剤全体の不揮発分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部〜50質量部、より好ましくは1質量部〜15質量部、最も好ましくは2質量部〜10質量部である。この範囲にあるとき、石綿含有建材1への浸透と該石綿含有建材1表面の固化に優れる。前記固化剤全体の不揮発分100質量部に対する珪酸塩の含有量が0.5質量部未満の場合には、石綿含有建材1への浸透と該石綿含有建材1表面の固化が十分でなく、逆に前記固化剤全体の不揮発分100質量部に対する珪酸塩の含有量が50質量部を超える場合には、石綿含有建材1の内部に浸透し切れなかった固化剤が石綿含有建材1の表面でクラックを生ずるおそれがある。
【0046】
前記合成樹脂は固化剤に耐水性を付与するために用いられる。合成樹脂には例えば、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、バーサティック酸ビニル樹脂等のカルボン酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等、またはそれらの変性樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし、これらの樹脂を形成する単量体の2種以上を共重合させて用いても良い。
【0047】
前記合成樹脂はエマルジョン又は水溶性樹脂として用いることが好ましい。エマルジョン又は水溶性樹脂として用いることにより、珪酸塩との混和性に優れる。
【0048】
前記固化剤にはグリシジルエーテル、グリシジルエステル、カルボジイミド等の反応性希釈剤を用いることが好ましい。反応性希釈剤を用いることにより固化剤の耐水性をより向上させることができる。
【0049】
前記固化剤には増粘剤、消泡剤、分散剤、造膜助剤、繊維等、通常の塗料に添加されるものを用いることができる。
【0050】
以上のように構成された石綿含有建材1の表面処理方法は例えば、以下のように実施される。重量10kg、吸引仕事率320Wの真空掃除機には長さ1.5mの蛇腹状ホースを介して図1及び図3に示すように、直径55mm、内径30mm、長さ100mmの円筒形吸引口が設けられており、該吸引口周り2には着脱式のブラシ保持部4が設けられている。前記ブラシ保持部4は外径54mm、内径46mm、長さ25mmの円筒形摺接部と、外径45mm、内径31mm、長さ20mmの円筒形吸引部とが隙間なく接合されている。前記ブラシ保持部4の端部横断面外周部にはブラシ3としてのヤング率1.5GPa、長さ25mm、太さ1.0mmのナイロン繊維が植毛列密度2列、密度48本/cm2植毛されており、該端部横断面内周部にはブラシ3としてのヤング率110GPa、長さ20mm、太さ0.6mmの真鍮製繊維が植毛列密度3列、密度112本/cm2で植毛されている。
【0051】
前記真空掃除機の重量は好ましくは3kg〜25kgであり、より好ましくは4kg〜20kgであり、最も好ましくは5〜15kgである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1としての大波スレート屋根材の清掃作業を効率的に行うことができる。前記真空掃除機の重量が3kg未満の場合には、真空掃除機のタービン駆動するモーターが小さすぎて吸引力が十分に確保できず、作業速度が低下するおそれがある。逆に、前記真空掃除機の重量が25kgを超える場合には、真空掃除機の上げ下ろしによって過度の荷重がかかり大波スレート屋根材を破壊してしまうおそれがある。
【0052】
前記真空掃除機のホース長は好ましくは0.5m〜10m、より好ましくは1m〜5m、最も好ましくは1.5m〜3mである。この範囲にあるとき、ホースのとり回しが容易で作業効率に優れる。前記真空掃除機のホース長が0.5m未満の場合には、ホースが短すぎて頻繁に真空掃除機本体を移動させる必要が生じるため、作業速度が低下するおそれがある。逆に、前記真空掃除機のホース長が10mを超える場合には、ホースが長すぎて絡まってしまうおそれがある。
【0053】
前記真空掃除機の電源を投入した後、建物竣工後30年が経過した石綿含有建材1としての大波スレート屋根材(石綿含有量5%)の表面に前記ブラシ3を押し当て、大波スレート屋根材の表面を平均0.02mmの深さで削り取る。前記建物の外壁にはステンレス鋼管を組み合わせた単管足場が設けてあり、前記ステンレス鋼管同士はクランプ金具を嵌合させ、ボルトを締めて接合されている。
【0054】
前記足場の最上部、屋根との設置面には、幅0.6m、奥行き1m、高さ1mのクリーンルームが設置されている。該クリーンルームは合成樹脂管を組み合わせた骨組みに、壁及び天井面は厚さ0.1mmのポリエチレンシートが粘着テープを用いて貼付固定されており、床面には厚さ0.15mmのポリエチレンシートが粘着テープを用いて二重に貼付固定されている。前記壁面には外部から作業するためのビニール手袋が融着されている。
【0055】
前記石綿含有建材1としての大波スレート屋根材表面を約200mほど清掃したところで、真空掃除機の電源を切断し、該真空掃除機のフィルター交換を行う。該フィルター交換は石綿の周囲への飛散を防止するために前記クリーンルーム内部で行い、作業者は外部からビニール手袋を介して交換を行う。フィルター交換を行った後は再び真空掃除機の電源を投入し、吸引によって清掃作業を行う。以上のようにして、大波スレート屋根材の清掃は終了する。
【0056】
続いて、前記固化剤としての珪酸カリウム2質量部、アクリル樹脂エマルジョン100質量部、増粘剤0.5重量部の混合物をエアレススプレを用いて塗布する。このときの吹付け圧力は1.1MPa、吐出量は0.6リットル/分である。前記固化剤は大波スレート屋根材表面を湿潤させて石綿の飛散を抑制するとともに、内部に浸透して石綿を固化する。その後、前記固化剤中のアクリル樹脂エマルジョンが造膜し、固化剤を大波スレート屋根材に固着させる。
【0057】
次に、ポリマーセメントモルタルを塗布する。該ポリマーセメントモルタルとはセメント、細骨材にポリマーディスパージョン又は再乳化形粉末樹脂を混合したモルタルをいう。ポリマーセメントモルタル主材の組成例:セメントとしての普通ポルトランドセメント100質量部、骨材としての7号珪砂100質量部、骨材としての5号珪砂100質量部、骨材としての炭酸カルシウム50質量部、増粘剤1質量部。ポリマーセメントモルタル混和液の組成例:ポリマーディスパージョンとしてのアクリル樹脂エマルジョン100質量部、希釈剤としての水100質量部。
【0058】
前記ポリマーセメントを塗布することにより、太陽光や風雨等によって劣化した石綿含有建材1の補強をすることができるとともに、石綿含有建材1の表面に多少の付着物が残存していたとしても、後工程で塗布する仕上材の剥離を長年に渡って抑制することができる。また、複数の石綿含有建材1としての大波スレート屋根材を一体化させることができるため、外部からの衝撃に対する抵抗性に優れる。
【0059】
前記ポリマーセメントモルタルの塗布量は好ましくは500g/m〜4500g/mであり、より好ましくは1000g/m〜3800g/mであり、最も好ましくは1200g/m〜2500g/mである。この範囲にあるとき、石綿含有建材1へのポリマーセメントモルタルの塗着量が十分であるとともに石綿含有建材の耐衝撃性を向上させることができる。前記固化剤の塗布量が500g/m未満の場合には、ポリマーセメントモルタルの塗布量が十分でないために石綿含有建材の補強効果が十分でない。逆にポリマーセメントモルタルの塗布量が4500g/mを超える場合には、ポリマーセメントモルタルの塗布量が多すぎて、屋根へ施工した場合には、屋根を支える柱が屋根荷重を支えきれないおそれがある。前記ポリマーセメントモルタルの塗布量が1000g/m〜3800g/mの場合には、石綿含有建材の表面にコケ、藻、かび、植物、土、砂、埃等の付着物が残存していたとしても、ポリマーセメントモルタルによって押さえ込むことができるため、経年後も剥がれが生じにくい。
【0060】
前記ポリマーセメントモルタルの混練比重は好ましくは1.0〜2.5であり、より好ましくは1.2〜2.3であり、最も好ましくは1.5〜2.1である。この範囲にあるとき、ポリマーセメントモルタルが緻密で強固な状態になり、長期の耐久性に優れる。前記ポリマーセメントモルタルの混練比重が1.0未満である場合には、混練比重が小さすぎてポリマーセメントモルタルの耐衝撃性が低下するおそれがある。逆に、ポリマーセメントモルタルの混練比重が2.5を超える場合には、混練比重が大きすぎて作業速度が低下するおそれがある。
【0061】
前記セメントには例えば、JIS R 5201に規定されている、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、JIS R 5211に規定されている高炉セメント、JIS R 5213に規定されているフライアッシュセメント、JIS R 5212に規定されているシリカセメント、JIS R 5214に規定されているエコセメント、消石灰、石膏、マグネシアセメント等の気硬性セメント、アルミナセメント等が挙げられる。これらは単独で用いても良いし2種以上を共重合させて用いても良い。
【0062】
前記細骨材とは、本発明においては粒子径5mm以下の充填材をいう。例えば、珪砂、川砂、海砂、砕石粉等の砂、発泡スチロール粉、発泡フェノール樹脂粉、中空合成樹脂ビーズ等の有機質軽量骨材、パーライト、バーミキュライト、中空シリカビーズ、中空アルミナビーズ等の無機質軽量骨材、陶磁器粉、貝殻粉、炭酸カルシウム粉、等が挙げられる。
【0063】
前記ポリマーディスパージョンとしては、例えば、スチレンブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、バーサティック酸ビニル樹脂等のカルボン酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等、またはそれらの変性樹脂等からなるエマルジョンをいい、特にセメントと混和した際の安定性を考慮して、乳化剤が多量に含まれている。これらは単独で用いても良いし、これらの樹脂を形成する単量体の2種以上を共重合させて用いても良い。
【0064】
前記再乳化形粉末樹脂としては、例えば、スチレンブタジエン樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、バーサティック酸ビニル樹脂等のカルボン酸ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エチル樹脂、(メタ)アクリル酸ブチル樹脂、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル樹脂、アクリロニトリル樹脂、メタクリロニトリル樹脂等のアクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂等、またはそれらの変性樹脂等をスプレードライ法等により粉末化したもので、個々の粒子の融着を抑制するために、エマルジョンよりも多量の乳化剤が用いられている。これらは単独で用いても良いし、これらの樹脂を形成する単量体の2種以上を共重合させて用いても良い。
【0065】
前記ポリマーセメントモルタルのセメント100質量部に対する合成樹脂(不揮発分)の量は好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部、最も好ましくは20〜100質量部である。この範囲にあるとき、下地となる石綿含有建材1の表面にコケ、藻、かび、植物、土、砂、埃等の付着物が残存していたとしても、後工程の仕上材が剥離することを長期に渡って抑制することができる。また、石綿含有建材1としての大波スレート屋根材からの漏水を抑制することができる。前記ポリマーセメントモルタルのセメント100質量部に対する合成樹脂(不揮発分)の量が5質量部未満の場合には、合成樹脂が少なすぎてポリマーセメントモルタル層が可とう性に劣るため、長期の暴露によってひび割れが発生してしまうおそれがある。逆に前記ポリマーセメントモルタルのセメント100質量部に対する合成樹脂(不揮発分)の量が200質量部を超える場合には、セメント量が少なすぎてポリマーセメントモルタル層による石綿含有建材1の固化が十分でなく、後工程の仕上材が剥離してしまうおそれがある。前記ポリマーセメントモルタルのセメント100質量部に対する合成樹脂(不揮発分)の量が10〜150質量部である場合には、ポリマーセメント層の石綿含有建材1に対する密着に優れるとともに、石綿含有建材1の表面強度を増すことができるため、長期の耐久性に優れる。
【0066】
前記ポリマーセメントが固化した後に、仕上材をエアレススプレによって吹き付け塗装する。
【0067】
前記仕上材とは、石綿含有建材1に美観を付与するための塗装材料をいい、通常の塗料や建築仕上材等を使用することができる。
【0068】
前記ポリマーセメントモルタル及び仕上材の少なくとも一方は中空体を含有していることが好ましく、無機質中空体を含有していることがより好ましい。前記ポリマーセメントモルタル及び仕上材の少なくとも一方が中空体を含有していることにより、ポリマーセメントモルタル又は仕上材に遮熱・断熱機能を付与することができ、建物の空調費を抑制することができるため、省エネルギーに貢献することができる。前記ポリマーセメントモルタル及び仕上材の少なくとも一方は無機質中空体を含有していることにより、前記ポリマーセメントモルタル及び仕上材が長期の耐久性に優れる。
【0069】
以上のように表面処理された石綿含有建材1としての大波スレート屋根材は5年、10年、20年と太陽光や風雨等にさらされても、固化剤によって大波スレート屋根材の表面が固化されており、ポリマーセメントモルタルによって外部からの衝撃に耐えることができる。
【0070】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記真空掃除機の吸引仕事率が100W〜500Wであることにより、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。
【0071】
・前記真空掃除機の吸引口周り2にブラシ3を設けることにより、石綿含有建材1の表面を削った場合に飛散した石綿がブラシ3の外側へ飛散することを抑制し、石綿を効率的に捕集することができる。
【0072】
・前記ブラシ3の吸引口外周部から吸引口内周部にかけてのブラシ3の列密度が1〜10列であることにより、石綿含有建材1の表面を削った場合に飛散した石綿がブラシ3の外側へ飛散することを抑制し、石綿を効率的に捕集することができる。
【0073】
・前記ブラシ3の長さが吸引口最外周部から吸引口最内周部にかけて段階的又は連続的に短くなることにより、石綿含有建材1に不陸や凹凸、複雑な経常があっても外周部ブラシ3bを石綿含有建材1の表面形状に沿って大きくたわませるとともに、内周部ブラシ3aをあまりたわませない状態で石綿含有建材1の表面を擦ることができるため、石綿含有建材1の表面を効率的に清掃することができる。
【0074】
・前記ブラシ3のヤング率が0.1GPa〜230GPaであることにより、石綿含有建材1表面の形状に対して沿って大きくたわませることができるとともに石綿含有建材1の表面を擦るのに十分な強度があるため、効率的に清掃することができる。
【0075】
・前記清掃で石綿含有建材1の表面を削り取る場合に、その平均削り取り深さが石綿含有建材1の表面から0.001mm〜2.00mmであることにより、石綿含有建材1からの石綿飛散が少なく、かつ、表面処理後の仕上材の耐久性を向上させることができる。
【0076】
・前記ポリマーセメントを石綿含有建材1の表面に塗布することにより、太陽光や風雨等によって劣化した石綿含有建材1の補強をすることができるとともに、石綿含有建材1の表面に多少の付着物が残存していたとしても、後工程で塗布する仕上材の剥離を長年に渡って抑制することができる。また、複数の石綿含有建材1を一体化させることができるため、外部からの衝撃に対する抵抗性に優れる。
【0077】
・前記エアレススプレの吹付け圧力が0.5MPa〜25MPaであることにより、石綿飛散を抑制しつつ、効果的に固化剤を塗布することができる。
【0078】
・前記固化剤をエアレススプレを用いて塗装した場合の該固化剤の吐出量が0.3リットル/分〜15.0リットル/分であることにより、石綿含有建材1への固化剤の塗着量が十分であるとともに石綿飛散を抑制することができる。
【0079】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記実施形態においては単管足場を用いたが、特に限定されず、通常の建築又は解体現場等で用いられるものを使用することができる。ブラケット足場、ビテ足場、吊り足場、張出し足場等を用いても良い。
【0080】
・前記実施形態においては、ブラシ保持部4の横断面形状として円形のものを用いたが、図4に示すような略長方形をはじめとして、略円形、楕円形、正方形、長方形、三角形、六角形、星形等、任意に設定することができる。特に波形状の石綿含有建材1に対して用いる場合には、ブラシ保持部4の横断面形状は略長方形であることが好ましい。
このように構成した場合、波形状に沿わせて一度に大面積を削り取ることができる。
【0081】
・前記実施形態においては、ブラシ3を単独の棒状として用いたが、複数本を束ねて房状にしても良い。
このように構成した場合、ブラシ3に柔軟性と硬さとを兼ね備えることができ、石綿含有建材1の削り取りが容易になるとともに、削り取った石綿が外部に飛散することを効率よく抑制することができる。
【0082】
・前記実施形態においては、ブラシ保持部4の内部形状が直角状のものを用いたが、図4(a)に示すように滑らかな形状であったり、図4(b)に示すように直線状のものを用いることが好ましい。
このように構成した場合、削り取った石綿を効率よく吸い込むことができる。
【0083】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
・前記ポリマーセメントモルタルの組成中、セメント100質量部に対する合成樹脂(不揮発分)の量が5〜200質量部であることを特徴とする石綿含有建材の表面処理方法。。このように構成した場合、下地となる石綿含有建材1の表面にコケ、藻、かび、植物、土、砂、埃等の付着物が残存していたとしても、後工程の仕上材が剥離することを長期に渡って抑制することができる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例についての比較試験により、従来の技術に比べた本発明の顕著な効果を説明する。
【0085】
試験は、図5に示すようなセキュリティーゾーン付きのクリーンルーム5の内部で行った。なお、図5において白抜き矢印は空気の通り道を示している。該クリーンルーム5は、幅2.8m×奥行き3.5m×高さ1.8m(室内体積17.6m)の大きさで、対角線上に2箇所の換気孔6を設け、該換気孔6の一方に風量20m/分の負圧除塵装置7を設置して稼動し、常に室内が負圧になるように維持した。
【0086】
続いて、図6に示すように、架台としての波形ガルバニウム鋼板8を一般的な倉庫の屋根の角度と近似である水平角を30°に設置し、該波形ガルバニウム鋼板8の上面に試験体としての石綿スレート小波板9(幅700mm×長さ1800mm×厚さ6mm、クリソタイル含有率7%)を波形状が擦り合わさるように設置した。該試験体の裏面から石綿が飛散しないように、石綿スレート小波板9と波形ガルバニウム鋼板8とは同形状とした。以上のように設置された試験体の中心部に送風機10を用いて風速3m/sの風が当たるようして飛散した石綿をサンプラー11によってサンプリングした。なお、試験体は京都市内で屋外倉庫の屋根として約40年間使用されたものを使用した。なお、図6においても白抜き矢印は空気の通り道を示している。
【0087】
前記サンプリングは、ろ過材としてのφ25mm(有効径:φ22mm)、ポアサイズ0.8μmのセルローズエステル白色メンブランフィルター(ミリポア社製)を、カウル付きオープンフェイスホルダーに充填し、5リットル/minの吸引速度で10分間連続して行った。
【0088】
各実施例及び比較例の試験を行った後は、HEPAフィルター付き真空掃除機で室内を洗浄し、負圧除塵装置7を30分間運転させることによりクリーンルーム5内の空気を入れ換えて、クリーンルーム5内に石綿が飛散していないことを確認し、直前に行った試験の影響がないようにした。前記クリーンルーム5内に石綿が飛散していないことの確認は、各実施例及び比較例の試験前に10分間サンプリングを行い、位相差顕微鏡で総繊維数濃度の測定をすることにより行った。
【0089】
前記石綿繊維の分析は以下の3種類の方法により行った。
分析A(総繊維数濃度)としては、前記ろ過材に残存している繊維をJIS K 3850−1に規定されている位相差顕微鏡法により、長さ5μm以上、アスペクト比が3以上の形状の繊維数を計数した。
【0090】
分析B(クリソタイル繊維数濃度)としては、前記ろ過材をカウル付きオープンフェイスホルダーから除去した後、低温炭化処理を行ってから分散染色法による染色を施し、JIS K 3850−1に規定されている位相差・分散顕微鏡法により長さ5μm以上、アスペクト比が3以上の形状の繊維数を計数した。なお、本分析においては、試験体がクリソタイルのみをしているため、分散染色はクリソタイルに対してのみ行った。
【0091】
分析C(クリソタイル数濃度)としては、前記ろ過材をカウル付きオープンフェイスホルダーから除去した後、低温炭化処理を行ってから分散染色法による染色を施し、JIS K 3850−1に規定されている位相差・分散顕微鏡法により、長さ5μm以上、アスペクト比が3以上の形状の繊維数に加えて、セメント粒子が付着したクリソタイルも含め、クリソタイル特有の赤紫色に染色したもの全てを計数することにより行った。
【0092】
前記各分析方法における定量下限は、次式によって求められ、その定量下限は50視野中に1本の繊維があった場合の95%信頼限界の上限に相当する値となる。
S=(2.645×A)÷(a×n×Q)
ここで、S:定量下限(f/リットル)、A:フィルターの採塵面積(mm)=11mm×11mm×π(mm)、a:計数した1視野の面積(mm)=0.15mm×0.15mm×π(mm)、n:計数した視野の数=50視野、Q:採気量(L)=5(L/min)×10(min)=50(L)である。前式より本試験での繊維数濃度の定量下限Sは、5.7(f/リットル)となる。
【0093】
前記試験体に対して何もしていない状態で行った試験の結果は、総繊維数濃度は12.9(f/リットル)であり、クリソタイル繊維数濃度とクリソタイル濃度はいずれも定量下限以下であった。
【0094】
(実施例1)
実施例1の試験は、HEPAフィルター付き真空掃除機によって試験体表面を擦ることにより行った。
【0095】
試験の結果、試験中の総繊維数濃度は12.9(f/リットル)であり、クリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は10.0(f/リットル)であった。試験終了後の総繊維数濃度は10.8(f/リットル)であり、クリソタイル繊維数濃度とクリソタイル濃度はいずれも定量下限以下であった。
【0096】
(比較例1)
比較例1の試験は、電動ディスクブラシを用いて試験体表面を研磨することにより行った。
試験の結果、試験中は飛散繊維量が多く、フィルター上に繊維状粒子が多数捕集されたため、正確な計数が困難であった。試験終了後の総繊維数濃度は67.8(f/リットル)以上であり、クリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は19.0(f/リットル)以上であった。
【0097】
(比較例2)
比較例2の試験は、竹箒によって試験体表面を擦ることによって行った。
試験の結果、総繊維数濃度は153.8(f/リットル)以上であり、クリソタイル繊維数濃度は140(f/リットル)以上であり、クリソタイル濃度は340(f/リットル)以上であった。試験終了後の総繊維数濃度は67.8(f/リットル)以上であり、クリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は17.0(f/リットル)以上であった。
【0098】
(比較例3)
比較例3の試験は、デッキブラシによって試験体表面を擦ることによって行った。
試験の結果、総繊維数濃度は150.6(f/リットル)以上であり、クリソタイル繊維数濃度は27(f/リットル)以上であり、クリソタイル濃度は94(f/リットル)以上であった。試験終了後の総繊維数濃度は34.4(f/リットル)であり、クリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は15.0(f/リットル)であった。
【0099】
続いて、前記試験が終了した試験体に対して固化剤を塗布し、塗布作業中の総繊維数濃度、クリソタイル繊維数濃度、クリソタイル濃度を計数した。固化剤の組成は以下のものを使用した。固化剤の組成:合成樹脂としてのエポキシ樹脂100質量部
【0100】
(実施例2)
実施例2の試験は、比較例2の試験が終了した試験体に対して固化剤をエアレススプレによって塗布することにより行った。
試験の結果、塗布中の総繊維数濃度及びクリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は6.4(f/リットル)であった。
【0101】
(比較例4)
比較例4の試験は、比較例2の試験が終了した試験体に対して固化剤をウールローラーによって塗布することにより行った。
試験の結果、塗布中の総繊維数濃度は15.0(f/リットル)であり、クリソタイル繊維数濃度は定量下限以下であり、クリソタイル濃度は10.0(f/リットル)であった。
【0102】
(実施例3)
実施例3の試験は、建物の屋根として30年間設置されている石綿含有建材1としての大波スレート板に対して、HEPAフィルター付き真空掃除機によって大波スレート板の表面を擦ることにより行った。
試験の結果、試験中の総繊維数濃度は定量下限以下であった。
【0103】
(比較例5)
比較例1の試験は、実施例3と同様の石綿含有建材1としての大波スレート板に対して、デッキブラシによって試験体表面を擦ることによって行った。
試験の結果、総繊維数濃度は12.9(f/リットル)であった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明に使用する真空掃除機の吸引口の例を示した模式断面図及び吸引口を下部から覗き込んだ外観を示した模式外観図である。
【図2】本発明に使用する真空掃除機の吸引口を石綿含有建材の表面に押し当てた状態を示した模式断面図である。
【図3】本発明に使用する真空掃除機のブラシ保持部の着脱状態を示した模式斜視図である。
【図4】(a)及び(b) 本発明に使用する真空掃除機のブラシ保持部の別例を示した模式断面図及び吸引口を下部から覗き込んだ外観を示した模式外観図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例に使用したクリーンルームを示す概況図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例の試験方法を示す概況図である
【符号の説明】
【0105】
1 石綿含有建材
2 吸引口周り
3 ブラシ
3a 内周部ブラシ
3b 外周部ブラシ
4 ブラシ保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曝露履歴のある石綿含有建材に対し、該表面を真空掃除機によって清掃した後に、エアレススプレによって固化剤を塗布した石綿含有建材が、建築物あるいは工作物の一部として使用されることを特徴とする石綿含有建材の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理を行った後、ポリマーセメントモルタルを塗布してから仕上材を塗装することを特徴とする石綿含有建材の表面処理方法。
【請求項3】
前記エアレススプレの吹付け圧力が0.5MPa〜25MPaであり、固化剤の吐出量が0.3リットル/分〜15リットル/分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の石綿含有建材の表面処理方法。
【請求項4】
前記真空掃除機が吸引口周りにブラシを持つものであり、該ブラシのヤング率が0.1GPa〜230GPaであることを特徴とする請求項1〜請求項3に記載の石綿含有建材の表面処理方法。
【請求項5】
前記真空掃除機による清掃が、石綿含有建材の表面を0.001mm〜2.00mmの厚さで削り取ることを特徴とする請求項1〜請求項4に記載の石綿含有建材の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−52363(P2009−52363A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222063(P2007−222063)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】