説明

石膏スラリー用起泡剤

【課題】強度の高い石膏ボードの製造においても気泡安定性に優れる石膏スラリー用起泡剤組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする石膏スラリー用起泡剤。ならびに該化合物と、該化合物の硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩からなる起泡剤組成物。


(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石膏用ボードの製造に適した気泡安定性に優れた石膏スラリー用起泡剤及び起泡剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは軽量化、遮音性、断熱性を目的に気泡を含ませた形で製品化される。その過程において起泡剤によりプレフォームされた泡沫と石膏スラリーとを混ぜて原紙に挟み石膏ボードが製造される。この泡沫を形成する起泡剤としては一般にアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩などが用いられる(特許文献1〜2)。しかしながら、これら起泡剤は発泡性が高いものの安定性に欠け、破泡を招き、ひいては粗大気泡の形成を招くことがあった。また、強度の高い石膏ボードの製造においては、密度の高い石膏スラリーが使用されるため自重による破泡を招く事もある。これらを背景に従来よりも泡安定に優れるに起泡剤が望まれていた。
【特許文献1】特開平6−239676号
【特許文献2】特開平7−291761号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は気泡安定性に優れる石膏スラリー用起泡剤および起泡剤組成物の提供、特には強度の高い石膏ボードの製造においても気泡安定性に優れる石膏スラリー用起泡剤および起泡剤組成物の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を達成するために鋭意検討を行った結果、上記課題に最適な石膏スラリー用起泡剤および起泡剤組成物を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする石膏スラリー用起泡剤である。
【0005】
【化2】

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【0006】
本発明の好ましい態様として前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである前記の石膏スラリー用起泡剤がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
前記一般式(1)において、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表す。Rの構造には特に限定はないが、不飽和結合数は1以上であればよく、直鎖構造であってもまた分岐構造であってもよい。
【0008】
前記一般式(1)で表される化合物はどのような方法で製造されたものであってもよい。通常は、アルケニルフェノールの1種又は2種以上に塩基性触媒下アルキレンオキサイドを付加する方法で得ることができる。
【0009】
前記アルケニルフェノールには、工業的に製造された純品又は複数種の混合物のほか、植物等の天然物から抽出・精製された純品又は複数種の混合物として存在するものも含まれる。例えば上記カシューナッツ殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノールや、いちょうの種子および葉、ヌルデの葉等から抽出される3−[8(Z),11(Z),14(Z)−ヘプタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ヘプタデカジエニル]フェノール、3−[12(Z)−ヘプタデセニル]フェノール、3−[10(Z)−ヘプタデセニル]フェノール等が挙げられる。これらの中で、分解性が良好であるカルダノールが好適に使用できる。
※出典:独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)ホームページ
【0010】
前記一般式(1)において、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表すが、具体的にはオキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が挙げられる。nは1〜100の整数であって、アルキレンオキサイドの付加モル数を示す。本願に係る所望の性能を得る点でnは3〜50であれば好ましく、5〜30であればより好ましい。n個のAOは同一であっても異なっていてもよく、異なる場合はブロック付加、ランダム付加のいずれであってもよい。
【0011】
本発明に係る石膏スラリー用起泡剤は、従来のノニルフェノールアルコキシレート等のアルキルアリールアルコキシレート類と比較して低起泡性である特徴を有する。低起泡性ではあるものの気泡安定性は優れる点から、泡沫密度が高いものと考えられる。
【0012】
また、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、もしくは前記一般式(1)で表される化合物を硫酸化、またはカルボキシル化した硫酸エステル塩、及びカルボン酸塩類からなる群から選ばれた1種または2種以上との配合物からのなる形態においても本発明の効果を発現できる。特に、炭素数が2で、平均付加モル数が0.1〜10のポリオキシエチレン基を有し、アルキル基の炭素数が6〜16であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩が好ましい。ここで、前記硫酸エステル塩、カルボン酸塩を構成するアルカリとしては、アンモニア、アルカノールアミン類、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。なお、前記一般式(1)で表される化合物の硫酸エステル塩、カルボン酸塩は公知の硫酸化法およびカルボキシル化により得ることができる。
【0013】
本発明の石膏スラリー用起泡剤がその他の起泡剤との配合物の形態で用いられる場合には、前記一般式(1)で表される化合物とその他の起泡剤との比率が、質量比で(一般式(1)の化合物):(その他の起泡剤)=99:1〜1:99が好ましく、気泡安定性の観点からは90:10〜50:50が特に好ましい。
【0014】
本発明の石膏スラリー用起泡剤は、石膏スラリーに直接起泡剤を投入するミックス法や、あらかじめ泡沫として石膏スラリー等へ混合するプレフォーム法の何れでもよく、発泡方法については特に限定されない。一般的にはプレフォーム法が多く、添加量は0.01〜10重量%水溶液程度で使用される。
【0015】
本発明の石膏スラリー用起泡剤は、軽量化や断熱を目的とした石膏ボードに使用されるが、特には高い強度を有する石膏ボードに好適である。
【実施例】
【0016】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明する。
製造例1
カルダノール(3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール 31重量%、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール 20重量%、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール 45重量%の混合物。商品名;Distilled Cashew Nut Shell Liquid(インド、SATYA CASHEW CHEMICALS社製。以下同様)を1000mlオートクレーブに263g及び水酸化カリウム0.6gを仕込み、系内を窒素置換した後120℃に昇温し、次いで系内を50mmHgの減圧にして1時間減圧脱水した。減圧脱水終了後、系内を窒素により常圧に戻し、150℃に昇温した後、この温度を保ちながらエチレンオキサイド385gをゲージ圧力0.2〜0.4MPaの加圧下で2時間かけて反応系内に導入しカルダノールのエトキシ化反応を行った。エチレンオキサイド送入終了後、さらに同温度で1時間熟成を行い、冷却後酢酸0.38gで中和してカルダノールエチレンオキサイド付加物636gを得た。得られたカルダノールエチレンオキサイド付加物の、カルダノールに対するエチレンオキサイドの平均の付加モル数(以下、単にエチレンオキサイド付加モル数と略称する)は10.0である。
【0017】
製造例2
製造例1においてエチレンオキサイドの代わりにエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(1/1モル比)混合物357gを反応させた以外は製造例1と同様に反応を行いカルダノールエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物610gを得た。エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド付加モル数はともに4.0であり、2種類のアルキレンオキサイドの付加の形態はランダム付加であった。
【0018】
実施例1〜4及び比較例1、2
製造例1、2で得られた化合物、及びこれらと他の起泡剤とを組合せて得られた起泡剤組成物を用いて実施例1〜4及び比較例1,2の評価を行った。水溶液30mlをジュサーミキサーにより攪拌し、600mlの泡沫とした。得られた泡沫の600mlを半水石膏1000g及び減水剤を溶解した水470g(水石膏比50%)とともに5L容量のミキサーに投入して15秒間混合し、気泡が混入した石膏スラリーを得た。減水剤としてはポリエーテル系減水剤「Y−02W」(東邦化学工業(株)製)3g(固形分)を使用した。1L容積の容器に移し硬化後の容積を測定して損失量を測定した。
【表1】

【0019】
本発明の起泡剤、及び起泡剤組成物は、水石膏比の低い石膏スラリー、即ち強度の高い石膏ボードの形成工程において、比較例と比べて損失量が少ない結果が得られた。比較例のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩は添加量が少なく発泡性も充分であるが損失量が大きくなる結果となり、アルキルフェノールエーテルであるノニルフェノールのエトキシレートにおいては発泡性があるものの同様に安定性に劣る結果となった。
【0020】
本発明によれば、強度の高い石膏ボードの製造においても気泡安定性に優れる石膏スラリー用起泡剤を提供することができ、損失量を少なくして石膏ボードを製造することに有効である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、アルケニルフェノールの1種または2種以上にアルキレンオキサイドを付加した化合物を含有することを特徴とする石膏スラリー用起泡剤。

(式中、Rは炭素数13〜17のアルケニル基を表し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を表し、nは1〜100の整数であって、n個のAOは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記アルケニルフェノールの1種または2種以上がカルダノールである請求項1に記載の石膏スラリー用起泡剤。
【請求項3】
さらにアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリールエーテル硫酸エステル塩、もしくは前記一般式(1)で表される化合物の硫酸エステル塩、カルボン酸塩からなる群より選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1又は2に記載の石膏スラリー用起泡剤組成物。

【公開番号】特開2010−42961(P2010−42961A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208339(P2008−208339)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】