説明

石英ガラスの成形方法

【課題】ガラス成形体への気泡の混入や、成形体の平坦度の低下を抑制でき、また成形型のリサイクル性を向上させることのできる石英ガラスの成形方法を提供する。
【解決手段】底板6と側壁3と天板5とで囲まれた成形型1内に石英ガラス8を載置し、石英ガラス8を軟化点以上に加熱、溶融して成形する石英ガラスの成形方法において、底板6が、二以上のカーボン製の板からなり、当該板は互いに隣接する端面が接合するように敷設されてなり、板の接合面から、成形型1の最も近い側壁3の内壁面31までの距離が、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離の15%以下の距離である石英ガラスの成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスの成形方法に係り、特に成形体への気泡の巻き込みが少なく、また所望の形状に成形することが可能な石英ガラスの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、半導体用フォトマスクや光学系におけるレンズ、ミラー等の光学部材の材料として広く用いられている。石英ガラスを成形する際は、成形型内で石英ガラスを軟化点以上に加熱し、一旦溶融させた後、適用されるフォトマスク、レンズ、ウェーハ等の形状に応じて、それぞれ円柱状、角柱状、平板状等の成形体とする。
【0003】
石英ガラスは、適用される部材の性質上、光透過率や耐熱性等の向上の観点から、高純度性が求められている。ガラス原料の純化等の工程には高コストを要することから、石英ガラスの成形では、歩留まりの向上が特に重要である。
一方、石英ガラスは、上記のように最終製品の形状に合わせて成形されるため、歩留まりの向上には、成形体表面の平坦度が直接的に影響する。
【0004】
石英ガラスを成形する際は、一般に、カーボン製の成形型が用いられる。この際、成形型材を構成するカーボンの酸化を防ぐため、成形型内にAr等の不活性ガスを充填するか真空雰囲気で行われる。
【0005】
しかしながら、カーボン製の成形型内に石英ガラスを設置して加熱すると、ガラス(SiO)とカーボン(C)とが反応し、SiOガスやCOガスが発生する。
成形型を1600℃以上の高温に加熱するとこれらのガスが発生しやすく、特に1700℃以上の高温に加熱すると、これらのガス(SiOガスとCOガス)が多量に発生して成形型とガラス成形体との間で気泡を形成し、成形体表面を荒らしたり、または成形体内部に気泡が混入したりすることがあり、製品の歩留まりが著しく低下する。
【0006】
成形型内部で発生した気泡による不具合を防止するため、例えば特許文献1には、貫通孔を設けたカーボン製の型の上に、石英ガラスを載置して加熱溶融することで、発生したガスを貫通孔から無加重で通気させて排気することが記載されている。
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、カーボン製の型に設けた貫通孔に溶融ガラスが流入し易い問題がある。このため、温度低下に伴い、貫通孔内のガラス成分とカーボン製の型との熱膨張率差に起因して、カーボン製の型に割れが発生することがある。
【0007】
一方、特許文献2には、筒状体の内周面全面並びに天板及び底板の内面に複数本の溝を形成したカーボン製型内で、石英ガラスを加熱、溶融する石英ガラスの成形方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に開示の技術でも、溝内部に溶融ガラスが流入しやすい問題がある。そのため温度低下に伴い、流入した溶融ガラスと、カーボン部材との熱膨張率差に起因して、カーボン製型に割れが発生することがある。また、溝内部で固着したガラス成分の除去は困難であり、カーボン製の型と溝内に残留したガラス成分との反応が進行して、溝幅を増大させることがある。このため、数回程度の使用で型材が使用不能となり、実用上の適用が困難である問題がある。
【0009】
また、特許文献3には、成形型本体の底部または側部を多孔体で形成するとともに、成形型本体内部に、断熱材としてカーボン製の内張りを設けた石英ガラス成形用の成形型が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示の技術では、断熱材の存在により多孔体内部への溶融ガラスの流入はある程度抑制されるものの、それでも断熱材の内部に溶融ガラスが流入し、溶融ガラスとカーボン製断熱材との反応が進行し、耐久性に劣る問題がある。一方、断熱材の気孔率を低減することで溶融ガラスの流入はある程度抑制できるものの、この場合、断熱材のガスの放出性が低下し、成形型の底部にガスが滞留し易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭61−14148号公報
【特許文献2】特許第3778250号公報
【特許文献3】特許第3128007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、ガラス成形体への気泡の混入や、成形体の平坦度の低下を抑制でき、また成形型のリサイクル性を向上させることのできる石英ガラスの成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の石英ガラスの成形方法は、底板と側壁と天板とで囲まれた成形型内に石英ガラスを載置し、石英ガラスを軟化点以上に加熱、溶融して成形する石英ガラスの成形方法において、前記底板が、二以上のカーボン製の板からなり、当該板は互いに隣接する端面が接合するように敷設されてなり、前記板の接合面から、前記成形型の最も近い側壁の内壁面までの距離が、この内壁面と対向する内壁面までの距離の15%以下の距離であることを特徴とする。前記板の接合面から、前記成形型の最も近い側壁の内壁面までの距離は、5mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0014】
前記板の接合部における、当該板間の隙間の幅が0mmより大きく5mm以下であることが好ましい。
【0015】
前記板の接合部の少なくとも一部に、前記底板の中心側から外縁側に向けて下降する段差が形成されることが好ましい。また、前記段差の高低差は、2mm以下であることが好ましい。
【0016】
前記底板は、5枚以上13枚以下の板で形成されることが好ましい。また、前記石英ガラスの成形方法は、石英ガラスを平板状に成形することが好ましい。また、前記平板状の成形体のサイズは、200mm×200mm角以上であることが好ましい。また、石英ガラスの成形は、1600℃以上1800℃以下の温度で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二以上のカーボン製の板が互いに接合するように敷設して形成された底板上で、石英ガラスを成形するので、成形型内で発生したCO等のガスを接合面から効率的に排出でき、成形体への気泡の混入や、成形体表面の平坦度の低下を抑制できる。
また、底板を構成する各カーボン製の板上にガラス成分が付着しても、底板全体の大きさ、形状に与える影響が少なく、また洗浄による除去作業が容易であるため、リサイクル性を大幅に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の石英ガラスの成形方法に用いる成形型の一例を示す斜視図である。
【図2】底板6を敷設した状態の下型2を、図1に示すA−A線を含む面で切断した断面図である。
【図3】底板6を上方から見たときの平面図である。
【図4】底板6を構成する中央部のカーボン製の板と、周縁部のカーボン製の板との接合部の近傍領域の断面を拡大して示す図である。
【図5】底板6を上方から見たときの平面図である。
【図6】底板6を上方から見たときの平面図である。
【図7】底板6を上方から見たときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の石英ガラスの成形方法は、二以上のカーボン板を、互いに隣接する端面が接合するように敷設してなる底板上に、石英ガラスを載置して行われる。
【0020】
本発明によれば、成形型を構成する底板が、二以上のカーボン板からなるので、ガラス成分とカーボンとの反応により発生したガスを成形型内から接合面を通じて効率的に排出できる。そのため、得られるガラス成形体に気泡が混入しにくく、平坦度が高い、良質のガラス成形体を得ることができる。
また、成形型の底板を、二以上のカーボン板で形成することで、成形時において、底板の角部や気体を排出するための接合部に溶融ガラスが付着し、そのガラスが固化しても、その除去を比較的精確かつ容易に行うことができ、リサイクル性を向上させることができる。
【0021】
図1は、本発明の石英ガラスの成形方法に用いる成形型を正面から見た概略図である。
成形型1は、いずれもカーボン製の部材で構成されている。この図では底板6を固定するための下型2と、この下型2の上に敷設された底板6と、この下型2上に立設された側板3と、この側板3を支持する上部外枠4とを有している。この図では、下型2により、底板6や側板3を固定しているが、成形型を固定する方法としてはこれに限らない。
下型2は、図2に示すように、その上面に底板6を敷設することにより、その4周内側に、側板3の厚さよりも幅広の溝21が形成され、この溝21内に4枚の側板3を嵌合させることで、下型2上に側板3が立設されようになっている。
【0022】
4枚の側板3で側壁が形成された筐体30内部には、天板5が設けられている。
天板5は、側板3から構成される側壁の内壁面にそって上下方向摺動可能に配設されており、天板5上に錘7を乗せて、被成形体である石英ガラスに荷重を負荷できるように構成されている。
下型2の上面には、筐体30内部に嵌合するように、底板6が設けられている。
【0023】
図3は、底板6を上方から見たときの平面図である。
底板6は、中央に配設された、広面積で長方形状のカーボン製の板6(1)と、その周縁に配設された、幅狭の4枚のカーボン製の板6(2)、6(3)、6(4)、6(5)とで構成されている。図3に示すように、周縁部の板6(2)、6(3)、6(4)、6(5)は、台形状である。その各短辺と、板6(1)の各辺とを接合面61〜64で接合するとともに、板6(2)、6(3)、6(4)、6(5)の互いに隣接する斜辺を接合面65〜68で接合して、一の長方形状の平板を形成可能に構成されている。
【0024】
接合面61〜68は、各面61〜68に最も近い内壁面31までの距離Dが、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lの15%以下の距離である。
なお、底板6の周縁部69〜72と、側板3の内壁面31とは互いに密接させており、以下の説明では、図3における周縁部69〜72を、側板3の内壁面31の設置位置として説明する。
【0025】
底板6を、二以上のカーボン板を接合させて形成することで、各板の接合面61〜68に生じたわずかな隙間により、ガスの排出口が形成される。このため、石英ガラスの加熱成形時に溶融ガラスとカーボンとが反応して生じたSiO、CO等のガスを、成形型1から効率的に排出することができる。このため、ガラス成形体への気泡の混入や、成形体表面の平坦度の低下を抑制することができる。
【0026】
特に、1700℃以上の高温域で加熱成形する場合や、石英ガラスに不純物が含まれる場合には、成形型1内でのCO等のガスの発生量が膨大となる。上記のように、底板6の中央に、カーボン板の接合面の無い領域を広く確保することで、底板6全体を表面平滑性に優れたものとし、成形型1内のガラスおよびガスの流動性を円滑にして、多量のガスを効率的に型外に排出することができる。このため、成形体内部への気泡の混入や、成形体表面の平坦度の低下を抑制することができる。
【0027】
また一般に、成形型内のガラス溶融体は、中央領域の応力が周縁領域の応力より高くなっており、ガラス溶融体の下側に存在するガスは、ガラス溶融体の流動に伴い、成形型1の周縁領域に収束する。
このため、カーボン板の接合面61〜68は、底板6の全面に形成しなくても、その周縁領域に設けることで、成形型1内のガスを効率的に排出することができる。
【0028】
接合面61〜68と、各面61〜68に最も近い内壁面31までの距離Dが、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lの15%を超える場合には、接合面とガスが収束する場所との距離が離れるため、十分なガス排出効果を得られないおそれがある。距離Dは、距離Lの0%を超えていればよいが、0.5%以上が好ましい。
【0029】
接合面61〜68から側板3の内壁面31までの距離Dは、上記の範囲にあれば特に限定されないが、具体的には、接合面61〜68から内壁面31までの距離Dは、5mm以上100mm以下であることが好ましい。
接合面61〜68から内壁面31までの距離Dが5mm未満の場合、もしくは100mmを超える場合であると、接合面とガスが収束する場所との距離が離れるため、十分なガス排出効果を得られないおそれがある。
【0030】
接合面61〜68から内壁面31までの距離Dを上記範囲とすることで、安定性に優れるとともに、表面平滑性に優れた底板6とすることができる。
底板6のガスの排出性をより向上させる観点から、接合面61〜68から側板3の内壁面31までの距離Dは、10mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましい。また、80mm以下が好ましく、60mm以下が特に好ましい。
【0031】
接合面61〜68において、互いに接合する板6(1)〜6(5)間の隙間の幅は、0mmより大きく5mm以下であることが好ましい。
接合面61〜68における隙間の幅が5mmを超えると、この隙間に溶融ガラスが侵入してガス排出口が閉塞される、または溶融ガラスが接合面61〜68を通過し難くなる等の問題が生じ易くなる。隙間は2.5mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。
なお、カーボンは比較的気孔率が高いため、カーボン製の板同士を密接させた場合でも、平板間にわずかに形成された隙間から型内のガスを排出することが可能であり、必ずしも隙間を意図的に設けなくてもよい。ただし、ガラスとカーボン製の板との接触面積が高く、ガスの発生量が過大となる場合には、上記の範囲内で適宜調整して、隙間を設けることがよい。
【0032】
上述した実施形態では、5枚の板6(1)〜6(5)を用いて底板6を形成した態様を示したが、本発明の石英ガラスの成形方法に用いる底板6は、このような態様に限定されず、例えば図5〜7で示される態様のものを用いることもできる。
【0033】
図5または図7で示すように、周縁部に配設する板の数を多くすることで、周縁部に設けた幅狭の板において、その長軸方向の長さを低減することができる。このため、加熱等により周縁部のカーボン板に反りが生じるのを抑制することができ、底板6のリサイクル性を向上させることができる。
【0034】
底板6は、2枚以上のカーボン板で構成されていればよい。底板6を構成する板の数は、5枚以上13枚以下であることが好ましい。
底板6を構成するカーボン板の数が5枚未満であると、周縁部に配設した幅狭の板に反り等が生じ易くなり、底板6のリサイクル性が低下するおそれがある。一方、底板6を構成する板の数が13枚を超えると、取り扱いが煩雑となり、実用上の適用が困難となる。
【0035】
底板6の態様としては、特に限定されないが、図3または図5で示すように、底板6の一部が、台形状の板(例えば6(2)〜6(5))で構成される態様とすることで、溶融ガラスが接合面を通過する際に受けるせん断力を低減できるため好ましい。
【0036】
また、底板6を構成するカーボン製の板は、厚みが均一なものを用いてもよく、中央部に配設した板6(1)の厚みを、その周縁部に配設した板6(2)〜6(5)よりも厚く形成してもよい。これにより、中央部の板6(1)と、周縁部の板6(2)〜6(5)との接合面61〜64において、図4で示すように、中央側から外縁側に向けて下降する段差構造を形成することができる。
接合面61〜64において、このような段差構造を形成することで、底板6の中央部から、接合面61〜64を通過して周縁側に溶融ガラスが移動する際に、接合面61〜64の隙間に溶融ガラスが流入してガス排出口が閉塞するのを抑制することができる。
【0037】
なお、底板6に形成する段差構造としては、図4で示すように、厚みの異なる板を隣接させ、その接合面で段差を形成する方法が一般的であるが、必ずしもこのような態様に限定されず、一の平板内に段差構造を直接成形したものを、底板6の一部に用いるようにしてもよい。
【0038】
接合面61〜64に形成する段差の高低差は、0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。段差を0.1mm以上に形成することで、溶融ガラスの流動性を向上させる効果を十分に得ることができる。一方、接合面61〜64の段差の高低差が2mmを超えると、ガラス成形体の平坦度を低下させるおそれがある。段差の高低差の上限は1mm以下であることが好ましい。
【0039】
以下に、上述した成形型1を用いた本発明の石英ガラスの成形方法について、図1〜図3を参照して説明する。なお、底板6の設置条件等、成形型1の詳細な説明は、上述したものと同一であるため、その説明を省略する。
【0040】
まず、図3で示すように、広面積でかつ長方形状の板6(1)を下型2の中央部に配設するとともに、その周縁部に幅狭の板6(2)〜6(5)を配設し、互いに隣接する端面を接合面61〜68で接合させて底板6を形成する。次いで、底板6上に石英ガラス8を載置する。その後、下型2及び底板6で形成された溝21に4枚の側板3を立設させて筐体30を形成するとともに、側板3の内壁面31を、底板6の外周縁69〜72に密接させてカーボン板6(1)〜6(5)を固定する。その後、図1のように天板5を設置し、側板3の上端部を上部型枠4で固定する。
【0041】
上述したように、板6(1)〜6(5)の接合面61〜68から、各面61〜68に最も近い内壁面31までの距離Dは、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lの15%以下の距離とする。
【0042】
接合面61〜68から、各面61〜68に最も近い内壁面31までの距離Dは、上記の範囲にあれば特に限定されないが、5mm以上100mm以下とすることが好ましい。
【0043】
底板6全体の表面平滑性を担保する観点から、底板6の形成に用いるカーボン板の表面粗さRaは、20μm以下であることが好ましい。カーボン板の表面粗さRaが20μmを超えると、底板6表面の平滑性が低くなり、ガラスおよびガスの流動性を損なうおそれがある。
【0044】
ガラスの流動性とガスの放出性を両立させる観点から、底板6の形成に用いるカーボン板の密度は1.6g/cm以上が好ましく、1.7g/cm以上がより好ましい。
カーボン板の密度が1.6g/cm未満であると、ガスの放出性は向上するものの、ガラスとカーボン板との接触抵抗が高まり、底板6上でのガラスの流動性が低下する。また、放出されたガスの一部が、カーボン内部に残留して酸化を促進するため、カーボン板の劣化が進行しやすく、耐久性が低下するおそれがある。
【0045】
上記範囲の表面粗さを維持するには、成形体の形成工程が終了した後、使用後のカーボン板6(1)〜6(5)表面を研磨することが好ましい。
本発明の成形方法では、底板6を二以上のカーボン板で形成することで、その表面に溝等を形成する必要がなく、また成形工程終了後は、各カーボン板(1)〜6(5)に分離できるため、表面研磨を容易に行うことができる。
【0046】
次いで、筐体30内に設けた天板5上に錘7を乗せ、被成形体である石英ガラス8に荷重を負荷するとともに、成形型1、石英ガラス8ならびに錘7の全体を適当な加熱装置によって加熱して、石英ガラス8を溶融、成形する。
【0047】
このように、石英ガラス8を、カーボン製の成形型1内で加熱溶融すると、ガラス成分とカーボンとが反応し、SiOやCO等のガスが発生することがある。
本発明のガラス成形方法では、二以上のカーボン板を接合させて形成した底板6上に、石英ガラス8を載置して加熱溶融しているため、ガラスと底板6との界面で生じたガスは、接合面61〜68に形成された隙間に侵入し、その後、底板6と下型2との接触面または側板3同士の接触面等を通じて成形型1外部に排出される。このため、ガラスと底板6との界面でのSiO、CO等のガスの滞留が抑制されるため、成形体内部に気泡が混入したり、これらのガスが溶融状態のガラスと接して成形体表面を荒らしたりするのを防止することができる。
【0048】
また、底板6を、二以上のカーボン製の板6(1)〜6(5)で形成することで、一の成形工程毎に板の隙間の幅を調整できるため、各成形工程の条件に応じて、ガス排出口の大きさを適宜調整して行うことができる。
【0049】
石英ガラスの成形は、1600℃以上1800℃以下の温度で行うことが好ましい。
加圧成形時の温度が1600℃未満であると、加圧成形に長時間を要し、成形体に失透が生じ易い。一方、加圧成形時の温度が1800℃を超えると、ガラス成分とカーボンとの反応によるSiOガスとCOガス等の発生量が顕著となり、型内からのガスの排出を円滑に行うのが困難となる。
加圧成形は、真空又は減圧下、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、上記温度を、0.5〜数十時間保持することにより行うことができる。
【0050】
加圧成形時における最高温度の保持時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。これにより所望の大きさの成形体とすることができる。また、10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましい。これにより、ガラスとカーボンとの反応を抑制できる。
【0051】
加圧成形終了後、成形型1全体を所定の速度で冷却することで、平板状の石英ガラス成形体を得ることができる。
【0052】
成形工程終了後、ガラス成形体を成形型1から取り出し、底板6をカーボン板6(1)〜6(5)に分離した後、各板毎に表面洗浄を行い、表面に付着したガラス成分を除去する。洗浄後のカーボン板6(1)〜6(5)は、上記と同様に接合することで、再度底板6の形成に使用できる。
【0053】
本発明の石英ガラスの成形方法では、上記のように、底板6を二以上のカーボン板で形成しているため、ガス排出口であるカーボン板の接合面61〜68にガラス成分が固着しても、成形工程終了後、底板6を各板毎に分離し、洗浄することができる。このため、ガラス成分の除去が極めて容易であり、カーボン板上に固着したガラス成分を、高精度に除去することができる。
また、本発明の石英ガラスの成形方法では、ガス排出口である接合面の位置、大きさが固定されないため、ガラス成分が付着しても、これを洗浄除去することで、底板6全体の大きさや形状の変動を殆ど生じることなく、再利用することができる。このため、成形型に貫通孔や溝等を設けてガス排出口を形成した場合と比較して、リサイクル性を大幅に向上させることができる。
【0054】
本発明の成形方法で成形するガラス成形体の形状は、平板状、円柱状等、特に限定されないが、一般に、平板状の成形体の形成では、周縁部に気泡の混入等が生じ易いため、本発明の成形方法を適用することで、優れた効果を得ることができる。
【0055】
本発明の石英ガラス成形方法で成形するガラス成形体の大きさは、特に限定されないが、200mm×200mm角以上、より好ましくは350mm×350mm角以上の成形体を製造する場合に適する。特に、成形体内部に気泡の混入が生じ易い400mm×400mm角以上の成形体を製造する場合に適する。さらには、800mm×800mm角以上の大きさの成形体を形成する場合に、より優れた効果を得ることができる。なお、成形体の大きさには特に上限はなく、2000mm×2000mm角程度の成形体にも適用が可能である。
成形体の厚みには特に制限はなく、必要に応じて、例えば10mm〜200mm程度の範囲内で自由に選択できる。
【0056】
本発明の石英ガラスの成形方法は、レンズやフォトマスク用の石英ガラスの成形に利用されるだけでなく、一般のガラスの成形にも応用することができる。
【0057】
なお、上述した石英ガラスの成形方法では、各部の形成順序等について、石英ガラスの成形が可能な限度において適宜変更できる。また、成形型1の構成も、本発明の趣旨に反しない限度において、適宜調整することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0059】
(実施例1)
下型2上に、5枚のカーボン製の板6(1)〜6(5)を図3で示すように配設して、縦400mm×横400mmの底板6を形成した。
次いで、底板6の上に直径200mmの円柱状の21kgの石英ガラスを載せ、下型2の溝21に4枚の側板3を立て、その内壁面31とカーボン製の板6(1)〜6(5)の外周縁69〜72とを密接させて平板6(1)〜6(5)を固定するとともに、側板3の内壁面31を上下方向摺動可能なように、天板5を配設した。その後、側板3の上端部に上部型枠4を設けて側板3を固定し、図1に示す、四角箱型の成形型1を作製した。
カーボン製の板6(1)〜6(5)の接合面61〜64から、各面に最も近い内壁面31までの距離D1は50mmであった。なお、接合面61〜64から内壁面31までの距離D1は、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lの13%であった。また、接合面61〜68における各カーボン製の板間の隙間の幅は0mmとした。
【0060】
上記の成形型1内の天板5上に錘を乗せ、炉にセットした。天板と錘との合計質量は29kgであった。
その後、炉の温度を1750℃まで昇温し、1750℃で5時間保持し、その後冷却を行い室温になったところで炉を開放して、縦400mm、横400mm、高さ60mmの長方形状の平板状石英ガラス成形体を得た。
【0061】
(実施例2〜6)
底板6のサイズ(縦横の長さ)、接合面61〜64から各面に最も近い内壁面31までの距離D1、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lに対する距離D1の割合(%)、接合面61〜68における各板間の隙間の幅、及び成形前の円柱状石英ガラスのサイズ(直径、高さ、質量)をそれぞれ表1に示す値とし、炉内の最高温度及びその保持時間、並びに天板と錘との合計質量を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜6の平板状の石英ガラス成形体を得た。得られた各成形体のサイズ(縦、横、厚み)を表2に示す。
【0062】
(実施例7〜17)
底板6のサイズ(縦横の長さ)、接合面61〜64から各面に最も近い内壁面31までの距離D1、この内壁面31と対向する内壁面31までの距離Lに対する距離D1の割合(%)、接合面61〜68における各板間の隙間の幅をそれぞれ表1に示す値とするとともに、中央部の板6(1)の厚みを、その周縁に配設する板6(2)〜6(5)の厚みより、表1の接合部段差に示す分だけ厚くして段差構造を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、底板6を形成した。
次いで、成形前の円柱状石英ガラスのサイズ(直径、高さ、質量)、ならびに炉内の最高温度及びその保持時間、天板と錘との合計質量をそれぞれ表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例7〜17の平板状の石英ガラス成形体を得た。得られた各成形体のサイズ(縦、横、厚み)を表2に示す。
【0063】
(比較例1〜7)
底板6として、板6(1)〜6(5)を使用せず、縦横の長さを表1に示す値とした長方形状の一枚のカーボン製の平板で底板6を形成し、成形前の円柱状石英ガラスのサイズ(直径、高さ、質量)、炉内の最高温度及びその保持時間、天板と錘との合計質量をそれぞれ表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1〜7の平板状の石英ガラス成形体を得た。得られた各成形体のサイズ(縦、横、厚み)を表2に示す。
【0064】
表1に、底板6のサイズ(縦横の長さ)、距離D1、距離Lに対する距離D1の割合(%)、各板間の隙間の幅、接合部段差、成形前の円柱状石英ガラスのサイズ(直径、高さ、質量)、並びに炉内の最高温度及びその保持時間、天板と錘との合計質量を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
測定ゲージを設置した平行板上に、実施例1〜17、比較例1〜7の石英ガラス成形体の平滑面を載置し、ガラス成形体の厚み(1)を測定した。次いで、ガラス成形体のうち、成形時に底板6と接していた面の最も大きい気泡を有する部位を平行板に載置し、その最大深さ(2)を測定した。
各石英ガラス成形体について、(2)気泡の最大深さを、(1)ガラス成形体の厚みで除して、不良率を評価した。
【0067】
表2に、実施例1〜17、比較例1〜7で得られた各成形体のサイズ(縦、横、厚み)、及び不良率の測定結果を表2に示す。
ただし、表2中、比較例7は、加熱溶融によっても石英ガラスが底板6全面に十分に伸長せず、いびつな形状となり成形不良となった。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、実施例1〜17のガラス成形体では、不良率が4〜16%と低く、成形体中への気泡の混入が抑制されていることが認められた。このうち、段差構造を有する底板6を用いて成形を行った実施例7〜17のガラス成形体では、940mm×1290mm以上と大サイズのガラス成形体でも、不良率が6〜16%と低い値に抑えられており、気泡の混入等のない良質のガラスを得られることが認められた。
一方、比較例1〜7の石英ガラス成形体では、不良率が66%以上と高いものであった。特に、1400mm×1700mmと大サイズのガラス成形体では、不良率が82%以上と極めて高くなっており、実用上の適用が極めて困難であることが認められた。
また、実施例1〜17では、上述した操作を終了後、成形型1からガラス成形体を取り出し、底板6を板6(1)〜6(5)に分離して各板毎に洗浄後、これらの板を再度接合して底板6を形成し、上記と同様にして、石英ガラスの成形を行った。この操作を5回繰り返して行ったところ、各板6(1)〜6(5)の劣化は進行せず、得られるガラス成形体の不良率に変化は見られなかった。
【符号の説明】
【0070】
1…成形型、2…下型、21…溝、3…側板、30…筐体、31内壁面、4…上部外枠、5…天板、6…底板、6(1)〜6(5)…カーボン製板、61〜68…合わせ面、7…錘、8…石英ガラスインゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と側壁と天板とで囲まれた成形型内に石英ガラスを載置し、石英ガラスを軟化点以上に加熱、溶融して成形する石英ガラスの成形方法において、
前記底板が、二以上のカーボン製の板からなり、当該板は互いに隣接する端面が接合するように敷設されてなり、
前記板の接合面から、前記成形型の最も近い側壁の内壁面までの距離が、この内壁面と対向する内壁面までの距離の15%以下の距離であることを特徴とする石英ガラスの成形方法。
【請求項2】
前記板の接合面から、前記成形型の最も近い側壁の内壁面までの距離が、5mm以上100mm以下である請求項1に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項3】
前記板の接合部における、当該板間の隙間の幅が0mmより大きく5mm以下である請求項1又は2に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項4】
前記板の接合部の少なくとも一部に、前記底板の中心側から外縁側に向けて下降する段差が形成される請求項1〜3のいずれか1項に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項5】
前記段差の高低差が、2mm以下である請求項4に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項6】
前記底板が、5枚以上13枚以下の板で形成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項7】
石英ガラスを平板状に成形する請求項1〜6のいずれか1項に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項8】
前記平板状の成形体のサイズが200mm×200mm角以上である請求項7に記載の石英ガラスの成形方法。
【請求項9】
石英ガラスの成形を、1600℃以上1800℃以下の温度で行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の石英ガラスの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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