説明

石英ガラスの製造のためのSiO2スラリーならびに該スラリーの使用

石英ガラスの製造のための公知のSiOスラリーは、分散液および最大500μmまでの粒度を有する非晶質SiO粒子、その際、1μmから60μmまでの範囲内の粒度を有するSiO粒子が最も大きい体積割合となる、ならびにそれ以外に0.2質量%から15質量%までの範囲内で(全体の固体含有率に対して)100nm未満の粒度を有するSiOナノ粒子を含有する。これから出発して、スラリーの流動挙動が、スラリー材料の排出または注出による処理に鑑みて最適化されているスラリーを準備するために、本発明により、SiO粒子が、1μm〜3μmの範囲内の大きさ分布の第一の最大値と、5μm〜50μmの範囲内の第二の最大値とを有するマルチモーダルな粒度分布を有し、かつ固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)が83%から90%までの範囲内にあることが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散液および最大500μmまでの粒度を有する非晶質SiO粒子を含有する、石英ガラスの製造のためのSiOスラリーに関し、その際、1μmから60μmまでの範囲内の粒度を有するSiO粒子が最も大きい体積割合となり、かつ該SiOスラリーは、100nm未満の粒度を有するSiOナノ粒子を(全体の固体含有率に対して)0.2質量%から15質量%までの範囲内で含有する。
【0002】
それ以外に、本発明は、該スラリーの特別な使用に関する。
【0003】
製造されるべき石英ガラスは、母体(担体)の機能性コーティングとして存在し、または不透明もしくは半透明な石英ガラス成分(Quarzglasbauteil)、例えば帯状または板状の石英ガラス成分の形で存在する。
【0004】
板状の石英ガラス成分の製造のために、多数の異なる技術が公知である。例えばUS−PS4,363,647の中では、前焼結されたサンドマット上で連続的にSiOスートからの平坦な層を析出焼成することによって析出させ、かつリボンフレームバーナーによって石英ガラス板をガラス化することが提案される。
【0005】
石英ガラス板の製造のための、るつぼ引き上げ法も公知である。しかしながら、その際、板の側面の寸法が、るつぼの直径によって制限されている。引き上げられた石英ガラス板はリップルを生じえ、かつ得られる寸法安定性は比較的僅かである。それ以外に、溶融法における不透明な石英ガラスの製造は、溶融状態における不透明度の作成または維持のための特別な措置抜きでは可能でない。
【0006】
しばらく前から、部分的にまたは完全に、不透明な石英ガラスから成る成分および層が、拡散反射を生み出すための光反射体として使用するために用いられている。これらの反射体は、非常に良好な耐高温性および耐温度衝撃性を示しながら、十分に高い反射度によって特徴付けられる。DE102004051846A1は、スラリー法によるこのような反射体の製造を記載する。その際、非晶質SiO粒子を含有し、かつスラリー層の形で石英ガラスの母体上に塗布される、高い割合で満たされた、注型性、水性のスラリーが作製される。非晶質SiO粒子は、SiO粗粒の湿式粉砕によって製造され、かつ最大500μmまでの範囲内の粒度を有し、その際、1μmから50μmまでの範囲内の粒度を有するSiO粒子が最も大きい体積割合となる。
【0007】
SiO粒子の粒度および粒度分布を有する固体含有率は、スラリー層の乾燥収縮に影響を及ぼす。そのため、比較的粗いSiO粒子の使用によって乾燥収縮を軽減させることができる。同時に固体含有率が高い場合、1μm〜50μmの大きさの範囲内のSiO粒子は、好ましい焼結挙動および比較的僅かな乾燥収縮を示す。それゆえ、公知のスラリー層は亀裂を形成せずに乾燥およびガラス化されうるが、このことはスラリーの水相中でのSiO粒子間の相互作用の形成にも帰せられる。
【0008】
スラリー層を母体上に塗布するために、噴霧、静電的に支持された噴霧、流し塗り、スピンコーティング、浸し塗りおよび刷毛塗りが提案される。引き続き、該スラリー層は乾燥およびガラス化される。
【0009】
DE10319300A1から、電気泳動析出による石英ガラスからの成形体の製造法が公知である。その際、1μmから200μmまでのD50値を有する比較的大きい非晶質SiO粒子ならびに1〜100nmの範囲内の粒度を有する比較的小さい非晶質SiOナノ粒子を含有する、冒頭で挙げられた種類に従った分散液から出発される。SiOナノ粒子の割合は、有利には1質量%から10質量%までの間にあり、その際、残部が、より大きい非晶質SiO粒子を形成して100質量%となる。分散液の充填度は、10質量%から80質量%の間にあり、有利には50質量%から70質量%の間にあり、かつその粘度は、1mPasから1000mPasの間にあり、有利には1mPasから100mPasの間にある。
【0010】
しかしながら、公知のスラリーの流動挙動は、幾つかのコーティング技術にとって最適ではないことがわかった。なかでも、DE102004051846A1に記載の高充填スラリーの場合、スラリー材料の"塗布(Abziehen)"またはドクターブレード塗布が問題であると判明し、かつDE10319300A1に記載の流動性の分散液は、たしかに容易に注出できるが、しかし即座に、コーティングされた表面から流出するため、単に平らなコーティング形状しか可能ではなく、かつ僅かな層厚しか得られず、そのうえ該層厚は、乾燥および焼結に際して亀裂を形成する傾向がある。
【0011】
スラリー技術はそれ自体、正確な層および石英ガラスの成分全体の低コストでの製造を可能にするとされているので、上記の欠点を取り除くことが所望される。
【0012】
従って、本発明の基礎をなしている課題は、スラリーの流動挙動が、殊にスラリー材料の塗布または注出による処理に鑑みて、かつ亀裂を生じない乾燥および焼結に関して最適化されているスラリーを提供することである。
【0013】
それ以外に、本発明の基礎をなしている課題は、本発明によるスラリーの特別な使用を示すことである。
【0014】
該スラリーに関して、この課題は、冒頭で挙げられたスラリーから出発して、本発明により、SiO粒子が、1〜3μmの範囲内の大きさ分布の第一の最大値と、5〜50μmの範囲内の第二の最大値とを有するマルチモーダルな粒度分布を有し、かつ固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)が83%から90%までの範囲内にあることによって解決される。
【0015】
上述の高充填のかつ高粘性のスラリーは、典型的にダイラタント−レオペクシー性の挙動を示す。これは、スラリーが機械的な作用(例えば攪拌、揺動、パテ塗り、刷毛塗り、掻き取り、ドクターブレード)に際して比較的高い粘性を有するか(ダイラタント)、または該粘性が機械的な作用後に短時間で高まる(レオペクシー)ことを意味する。以下で、これらの密接に関係したスラリーの流動特性は共通して、用語"レオペクシー"または"レオペクシー性"で表される。
【0016】
従って、公知のスラリーは、機械的な作用下で粘稠性である。この流動挙動は、ツールを用いた表面上へのスラリー層の塗布および塗り広げに際して、例えば刷毛塗りまたは掻き取り、引き上げ塗布、引き伸ばし塗布、スクレーパー仕上げ、へら塗り等に際して欠点であることがわかる。以下で用語"ドクターブレード塗布"で一括りにされるこれらの塗布技術において、公知の高粘性スラリーはほとんど適していない。なぜなら、それは分散される力の作用下で固化し、従って均等な分散に反作用するからである。静置状態において、該スラリーは再び液化し、次いで傾斜した表面から流れ出る。図2の写真は、DE102004051846A1の中で記載されているようなスラリーを用いたドクターブレード塗布試験の結果を示す。
【0017】
このようなスラリーの流動挙動が、少量のSiOナノ粒子の添加によってむしろ構造粘性−チキソトロピー性の挙動の向きに変化することを見出した。
【0018】
該スラリーの"チキソトロピー"の様態は、その粘性が一定のせん断応力(およそ一定の攪拌速度において)にて、ある特定の時間にわたり減り続けることである。それと関係しているのは、粘性がせん断によって同様に減少し、しかしながら、一定のせん断応力では、それ以上減衰しない"構造粘性"である。
【0019】
以下で、これらの密接に関係したスラリーの流動特性は共通して、用語"チキソトロピー"または"チキソトロピー性"で表される。
【0020】
該スラリーのチキソトロピー性の流動挙動のために、本発明によるスラリーは、せん断応力下で液化する。この特性は、表面上へのスラリー材料の均等な放出および分散を−分散して働く力の影響下でも−促進する。
【0021】
スラリーの流動挙動は、なかでも固体含有率によって決定され、言い換えれば、SiOナノ粒子の含有率および非晶質SiO粒子の粒度分布と関連しかつ依存している。これは以下で詳細に説明される:
・本発明によるスラリーの固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)は、83%から90%までの値により比較的高い。高い固体含有率は−ナノ粒子の添加なしでも−スラリーの高い粘性を引き起こし、かつそれはスラリー層の均等なかつ僅かな収縮に寄与し、そうして乾燥亀裂および焼結亀裂が減らされる。90%を超える非常に高い固体含有率の場合、たとえスラリーをSiOナノ粒子と混ぜたとしても、それをさらに加工できる可能性は低くなる。
・SiOナノ粒子の添加は、非晶質SiO粒子間の相互作用を生み出す。本発明によるスラリーのむしろチキソトロピー性の挙動は、せん断力が発生した場合にSiO粒子間の相互作用が減退することに帰せられる。せん断力がなくなった後−スラリー材料の静置状態において−これらの相互作用は再び強まり、かつスラリー材料の非晶質SiO粒子間の物理的または化学的な結合の形成が生じ、該結合は、静置しているスラリー層を安定化する。
・非晶質SiO粒子は、マルチモーダルな粒度分布を有する。このような少なくとも2つの、好ましくは3つの、およびそれを上回る分布ピークを有する粒度分布。これはスラリーの高い固体密度の調整を軽減し、それによって乾燥および焼結に際しての縮み、ひいては亀裂形成の危険が減少される。例えば、2、5、15、30および40μmのD50値を有する粒度分布を単独でまたは組み合わせて用いてよい。
【0022】
SiOナノ粒子は、例えばシリコン含有の出発化合物の酸化または加水分解によって(以下で"ヒュームドシリカ"と称す)、または重合可能なシリコン化合物(SiOゾル)の重縮合によって製造することができる。"ヒュームドシリカ"を使用する場合、しばしば、予め精製することが意味を持つ。このためにヒュームドシリカは、好ましくは部分的に固化された、"一時的な"SiO粒状物の形で存在し、そのことによって精製のための通常の高温塩素化法(Heisschlorierverfahren)が可能となる。スラリーの均質化に際して、精製された粒状体は、それらに影響を及ぼすせん断力のために再びSiOナノ粒子に分解する。
【0023】
固体含有率、マルチモーダルな粒度分布およびSiOナノ粒子の割合を、請求項1の中で挙げられた範囲内に適合させることによって、スラリーをそれぞれの加工技術に容易に適合させることが可能である。これは以下でなお詳細に説明される。このようなスラリーを用いたうえでの適した加工技術は、ドクターブレード塗布および注型を包含する。通常のドクターブレード塗布の手法には、注型によって加工されるべきスラリーよりいくらか高い含有率のSiOナノ粒子が意味を持つ。
【0024】
図1の写真は、本発明によるスラリーを用いたドクターブレード塗布試験の結果を示す:単に均等な白色の面のみが認められる。
【0025】
ここでSiOナノ粒子は、数ナノメートル〜100nmの範囲内の粒度を有するSiO粒子と理解される。このようなナノ粒子は、40〜800m/g、有利には55〜200m/gのBETによる比表面積を有する。
【0026】
スラリー中のこれらの粒子の含有率が0.2質量%未満である場合、ナノ粒子は、スラリーの流動挙動に大した影響は及ぼさず、それに対して、15質量%を超える含有率では、乾燥に際してスラリーの縮みが強まることとなり、それは完全な乾燥および焼結を困難にしうる。薄いスラリー層の場合、より高い含有率のSiOナノ粒子が使用されうる。なぜなら、薄い層は、収縮亀裂の点で、厚い層よりその影響を受けにくいからである。
【0027】
これに鑑みて、スラリーが、SiOナノ粒子を0.5質量%から5質量%の間で、およびとりわけ有利には1質量%から3質量%の間で含有する(全体の固体含有率に対して)場合、とりわけ好ましいことが判明した。
【0028】
好ましくは、SiOナノ粒子は、50nm未満の粒度を有する。
小さいSiOナノ粒子は、母体の外側表面を密閉および圧縮し、かつ乾燥されたスラリーの生強度および焼結活性を高める。
【0029】
SiO粒子の少なくとも80質量%、有利には少なくとも90質量%が球状に形成されている場合、とりわけ有利であることが判明した。
【0030】
球状粒子は、スラリー中での高い固体密度の調整を軽減し、そうして乾燥および焼結に際しての歪みが減少される。それ以外に、不透明な石英ガラス層内の球状のSiO粒子は−なかでも赤外線領域において−反射を高めることに寄与する。理想的なケースにおいて、全てのSiO粒子は球状に形成されている。
【0031】
しかし、球状のSiO粒子の基本的に高い割合と関連して、スラリーが、微細状、破片状のSiO粗粒を僅かな量で含有する場合、いくつかの適用においても有利であることが判明した。
【0032】
粉砕によって作製されうる微細状、破片状のSiO粗粒の添加によって、乾燥後の母体の機械的強度がさらに高められる。より高い強度は、殊に、厚いスラリー層の場合に実際に顕著になる。微細状、破片状のSiO粗粒の粒度は、ほぼ非晶質SiO粒子の粒度に相当し、かつ破片状の粗粒の質量割合は、最大10質量%である(全体の固体含有率に対して)。
【0033】
好ましくは、SiO粒子は、50μm未満の、好ましくは40μm未満のD50値によって特徴付けられる粒度分布を有する。
【0034】
この大きさの範囲内のSiO粒子は、好ましい焼結挙動および比較的僅かな乾燥収縮を示し、その結果、相応するスラリー層が、とりわけ容易に亀裂形成なしに乾燥されかつ焼結されうる。これは、すでにスラリー材料中でのSiO分子結合の形成にまでつながり、従って乾燥および焼結を軽減するSiO粒子間の相互作用に帰すことができる。
【0035】
分散液は、水性ベースで存在していてよい。そのようなスラリーの水相の極性は、SiO粒子の相互作用に影響を及ぼしうる。しかし、本発明によるスラリーのために、有機溶剤をベースにして、好ましくはアルコールベースで存在する分散液が有利である。
【0036】
このような分散液は、チキソトロピー性の流動挙動の維持を軽減することが示される。加えて、水性スラリー相の場合より乾燥は明らかに迅速に行われる。これに伴って時間が節約され、かつ担体上へのより迅速な定着がもたらされ、そうして端部での流出が減少される。分散液中にほんの僅かな水量(<30体積%)を添加することによって、加工時間をそのつどの要求に適合させることができる。
【0037】
殊に亀裂を形成する傾向が僅かであるということに鑑みて、固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)が、好ましくは少なくとも85質量%である場合、有利であることも判明した。
【0038】
好ましくは、SiO粒子およびSiOナノ粒子は、合成SiOから成る。
【0039】
合成SiOは、高い純度によって特徴付けられる。スラリーは、それゆえ不透明な、高純度の石英ガラスの形成のために適している。該石英ガラスは、1質量ppm未満の不純物含量を有し、従って約180nmまでのUV領域内ではほとんど吸収せず、それにより拡散光学系の広帯域反射体として、とりわけ幅広い波長領域にわたって使用するために適している。
【0040】
同じ理由から、非晶質SiO粒子のSiO含有率は、好ましくは少なくとも99.9質量%である。
【0041】
このような粒子の使用下で製造されたスラリーの固体割合は、少なくとも99.9質量%でSiO(ドーピング物質の添加量は除いて)から成る。バインダーまたはその他の添加物質は、一般的に必要ではなく、かつ理想的なケースにおいては含有されていない。金属酸化物−不純物の含量は、好ましくは1質量ppm未満である。
【0042】
乾燥されたSiOスラリー層内のクリストバライト石の割合は、高くても0.1質量%であるのが望ましい。それというのも、さもなければスラリー層の焼結に際して結晶化が起こりえ、これにより廃物が生じうるからである。
【0043】
スラリーから作製された石英ガラスの耐エッチング性を高めるために、スラリーが、窒素、炭素または、石英ガラス構造に窒化物または炭化物の形で組み込まれるこれらの成分の化合物を含有する場合、有効であると実証された。
【0044】
その際、該スラリーに、窒素および/または炭素および/またはこれらの成分の1つまたは複数の化合物が加えられる。窒化物または炭化物は、石英ガラス構造を補強し、かつより良好なエッチング耐性につながる。適した出発物質、例えばシラザンまたはシロキサンは、スラリー中でとりわけ均等に分散され、そのことから最終的に、ガラス材料の石英ガラスの均質なドーピングが生じる。
【0045】
使用に鑑みて、上述の課題は、本発明に従って、石英ガラスからの拡散反射性の反射体の製造のために本発明によるSiOスラリーを使用することによって解決される。
【0046】
本発明によるスラリーから作製された、拡散反射性の反射体は、幅広い波長領域にわたるとりわけ高い反射度によって特徴付けられる。これは、スラリーの高い固体割合と、殊にSiOナノ粒子の添加に帰せられる。
【0047】
拡散反射性の反射体は、光放射体、発熱体と結び付けてかまたは熱シールドのために使用される自立式の反射体構成要素として存在するか、または該反射体は、不透明なSiO層として担体構成要素上で形成される。反射体は、例えば、チューブ、ピストン、チャンバー、ベル、ハーフシェル、球体セグメントまたは楕円体セグメント、プレート、熱遮蔽体等の形で存在してよい。
【0048】
第一の有利な代替案の場合、拡散反射性の反射体は、石英ガラスからの反射体層として、石英ガラスからの担体上で使用される。
【0049】
この場合、スラリーから作製された反射体層は、スラリーの乾燥および焼結後に、担体表面上または該表面上の一部で被覆を形成する。この場合、石英ガラスからの担体は、反射体層が光学的特性を決定付ける一方で、本質的に、全体の構成要素の機械的または化学的な基本機能、例えば機械的強度、熱安定性および耐化学性の機能を果たす。典型的な層厚は、0.2mm〜3mmの範囲内にある。
【0050】
その際、反射体層および担体は、同じ材料からかまたは少なくとも類似した材料から成り、このことは、殊に、担体上への反射体層の付着と、全体の構成成分の耐温度衝撃性とに有利に作用する。
【0051】
スラリーの他の選択的なかつ同じ程度に有利な使用は、拡散反射性の反射体が、担体なしの、好ましくは帯状または板状の石英ガラス成分として形成されていることによって特徴付けられる。
【0052】
本発明による高濃度スラリーの使用によって、収縮による亀裂形成が防止される。殊に、所定の厚さの均質な石英ガラス層によって特徴付けられる、帯状または板状の石英ガラス体が得られ、それは焼結温度および焼結期間に応じて不透明または透明であってよい。不透明な板は、好ましくは1200℃から1350℃までの焼結温度で得られる。これらは拡散反射性の反射体成分としてとりわけ適している。より高い焼結温度または長い焼結期間の場合、半透明性またはそれどころか透明性が得られる。
【0053】
拡散反射性の反射体の固有の反射挙動を生み出すために、石英ガラスにおいて紫外線、可視または赤外線スペクトル領域内で光学吸収を発生させる1つまたは複数のドーピング物質を含有するスラリーが使用される場合、有利であることが判明した。
【0054】
有利には、該スラリーは、240nmより下のUV波長領域内での拡散反射のための拡散反射性の反射体の製造に使用される。
【0055】
UV波長領域内での(例えば90%を超えるものから)下は180nmの波長に至るまでの高い反射は、石英ガラスの不透明度および極端に高い純度を前提とする。該純度は、例えば合成により作製されたSiOの使用によって保証され、その際、殊に、酸化リチウムを有する僅かな不純物によって際立つ。リチウムの含量は、100質量ppbを下回り、好ましくは20質量ppb未満である。
【0056】
以下で、本発明を、実施例および図面を手がかりして詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明によるスラリーを使用したドクターブレード塗布試験の結果を示す図
【図2】従来技術によるスラリーを使用したドクターブレード塗布試験の結果を示す図
【図3】本発明によるスラリー(SiOナノ粒子の添加前)中で使用するための原料成分のSiO粒度分布のグラフを示す図
【図4】図3の原料成分のSiO粒度分布の顕微鏡写真を示す図
【0058】
1. SiOスラリーの製造
図3は、原料成分の粒度分布を示す。約30μm(D50値)での大きさ分布の比較的幅の狭い最大値と、2μmの範囲内における隣接した最大値とを有するマルチモーダルな粒度分布に関する。30μmにてD50値を有するこれらの原料成分は、以下でR30と表す。
【0059】
図4は、粒度分布をREM写真として示す。個々のSiO粒子が、円形および球形に形成されていることが認められる。
【0060】
スラリーの製造のために、5μm、15μmおよび40μmにてD50値を有し、かつその粒度分布がその他に図3および図4で示されたものと似ている、さらに別の原料成分を使用する。これらの原料成分は、そのD50値に応じて、R、R15、もしくはR40と表す。原料成分は、そのつどあらかじめ高温塩素化法において600℃から1200℃までの範囲内の温度で精製する。
【0061】
それ以外に、40nmの直径を有するSiOナノ粒子を、"ヒュームドシリカ"の形でまたはSiOゾルの形で使用する。その際、ヒュームドシリカは、部分的に固化された、"一時的な"SiO粒状物の形で存在し、該粒状物は、600℃〜900℃の範囲内の低温で焼結することによって前処理し、かつその際に部分的に圧縮する。高い純度を調整するために、塩素含有雰囲気下で前処理を行う。粒状物の一次粒度が小さいがゆえ、高温塩素化の場合、比較的低い温度で十分である。懸濁液の均質化に際して、該粒状物は、それらに影響を及ぼすせん断力のために再びSiOナノ粒子に分解する。
【0062】
以下の配合が有効であることが実証された:
配合1
30 500g
15 200g
200g
ヒュームドシリカ:135g 50m/gのBET表面積を有する。
上記の成分を、85質量%の固体含有率が生じるように、純粋なエタノール中に分散させる。
配合2
15 395g
54g
6gのSiO質量を生じさせる量のSiO出発材料としての、テトラエチルオルトシラン(TEOS)を有する通常のSiOゾル。
上記の固体成分を、純粋なエタノール111g中に分散させ、かつこの均質な分散液中にSiOゾルを混ぜ入れた。
配合3
15 270g
35g
ヒュームドシリカ:4g 50m/gのBET表面積を有する。
【0063】
これらの成分を、メタノール中のポリビニルブチラール70gに分散させる。
【0064】
そのようにして作製された高充填スラリーは、チキソトロピー性の挙動を示す。従って、該スラリーは"塗布性"であり、かつこの理由から、例えばドクターブレード塗布のような加工法に適している。どの配合の場合も、60μmより下の粒度が、粒子の最も大きい体積割合となる。
【0065】
もっぱら合成により製造された、高純度の、球状のSiO粒子を用いて作製されたスラリーは、クリストバライト石を含まず、かつ1質量ppm未満の僅かな不純物含量によって特徴付けられる。
【0066】
図1は、配合1に従うスラリーの使用下でのドクターブレード塗布試験の結果を示す。その際に作製された層は包括的なものであり、かつ均等な層厚を有し、そのため写真は単に均一な白色の面のみを再現する。それに対して、図2の写真からは、従来技術によるレオペクシーのSiOスラリーのドクターブレード塗布に際して生じるような、凝集を有する不均一な質量分布を認めることができる。似たような結果は、配合1においてヒュームドシリカが省かれる場合に得られる。
【0067】
2. 本発明によるスラリーの使用下での石英ガラスの製造
実施例1:担体上への拡散反射性の表面領域の製造
本発明による塗布性のSiOスラリーを使用し、その際、スラリー層は、スラリーの貯蔵材料を配量しかつ分散させる作用を有する塗布装置(Abziehwerkzeug)を用いて作製する。
【0068】
貯蔵材料は、担体の表面に蓄えられているか、または担体表面に達しうる貯蔵容器中に存在するかのいずれかである。塗布装置の機械的な分散作用下では、本発明によるスラリーのチキソトロピー特性との関連において粘度が減少し、そのことは担体の表面上へのスラリーの放出および引き伸ばしを軽減する。これは、所定の厚さを有する均等均質な相が作製できることに寄与する。
【0069】
担体表面に対して相対運動を行う塗布装置は、例えば水平回転バー、ローラー、成形用パテ等のドクターブレード塗布装置である。塗布装置が担体の表面に対して、作製されるべき層の厚さと相関する距離を保つことが重要である。
【0070】
好ましくは、スラリーの貯蔵材料は、塗布装置と担体との間のギャップに接しており、該材料は、塗布装置と担体との相対運動によって担体に沿って移動しうる。塗布装置と担体との間の間隔はギャップを形成し、該ギャップには分散されるべきスラリーの貯蔵材料が接しており、かつその幅は、作製されるべきスラリー層の厚さに相当する。
【0071】
一般に、一定の層厚さが所望される。これは、ギャップが機械的なガイドエレメント(Fuehrungselement)によって規定される幅を有し、それに沿って担体または塗布装置が相対運動を行うために導かれることによって可能となる。その際、担体自体もガイドエレメントとして使用してよい。
【0072】
塗布装置および担体の相対運動は、この場合、一方で相対運動を調整し、かつ他方で間接的にまたは直接的に担体と塗布装置との間のギャップを定める機械的なガイドエレメントを利用して行われる。それによって、相対運動を行うに当たって一定のギャップ幅が簡単に保たれる。例えば、ガイドレーン(Fuehrungsschiene)が重要であり、それに沿って塗布装置が担体の上方を動く。ギャップ幅は、例えば直接的にガイドレーンの厚さによってかまたは間接的に塗布装置と接続されたスクレーパーによって調整される。
【0073】
スラリーの貯蔵材料は、好ましくは貯蔵容器中に入れられ、該容器は塗布装置に配置されており、かつギャップと流体的に接続されている。この場合、スラリーの貯蔵材料は、連続的に貯蔵容器からギャップを介して担体の表面に到達する。貯蔵容器は塗布装置の部分であり、かつ常にスラリー材料がギャップ幅全体にわたってギャップと接することを保証する。可動性の塗布装置の場合、貯蔵容器も塗布装置と一緒に動く。
【0074】
ギャップは、一般に担体のコーティング面に適合された形状を有する。これは殊に、長く伸びた担体の場合に意味を持ち、該担体のコーティング面は平坦ではなく、むしろ例えば、縦方向に延びる湾曲したまたは傾斜して延びる面を有する。この場合、塗布装置の形状は、担体の表面プロフィールに適合させられ、そうしてギャップ幅−相対運動の運動方向と交差して−が一定になることが配慮される。
【0075】
実施例において、配合2に従うスラリーは、石英ガラスからのいわゆる"デュアル管"の形のIR反射体における被覆管上の反射体層を製造するために使用される。
【0076】
デュアル管は、断面において8型の石英ガラスからの被覆管から成り、それはセンターバーによって2つの部分的な空間に分けられており、該空間はそのつど加熱コイルを収容するのに用いられる。主放射線方向から逸れる被覆管の上面で、反射体層がSiOからの不透明なコーティングの形で拡散反射のために形成されることが望ましい。この製造を以下で詳細に説明する。
【0077】
デュアル管の表面を、アルコールを用いて、引き続き、その他の表面不純物を除去するために、殊にアルカリ金属不純物およびアルカリ土類金属不純物を3%のフッ酸中で洗浄する。そうして該デュアル管を、ドクターブレード装置にセットする。該ドクターブレード装置は、デュアル管を支えるための長く延びた担体、ガイドレール、およびデュアル管に沿ってガイドレールにてスライド可能であるスラリー貯蔵容器が一体となった塗布装置とから成る。該塗布装置はスクレーパーを有し、その下面は、それがデュアル管の上面に対して2mmの一定幅を有するドローイングギャップ(Ziehspalt)を維持するように形成されている。貯蔵容器はドローイングギャップと流体的に接続されており、かつ−塗布装置の移動方向から見て−これの前に配置されている。デュアル管の上面のコーティングされるべきでない領域はフィルムでカバーする。スラリーを貯蔵容器中に充填し、かつ塗布装置を円滑にかつ均等にガイドレールによりデュアル管に沿って引く。その際、ドローイングギャップの領域中のスラリーに、スラリーのチキソトロピー性の流動特性ゆえに粘度の減少をもたらすせん断力が作用し、その結果、これはデュアル管とスクレーパーとの間に分散し、また均等にかつ一定の厚さでドローイングギャップから出る。コーティング面に塗布されたかつ静置しているスラリーの粘度は、チキソトロピーゆえに塗布直後に再び上昇し、その結果、コーティングは分解せずに、むしろその形状を本質的に保ち続ける。カバーフィルムを取り去る。このようにして、我々は本質的に一定の約1mmのスラリー層の一定の層厚を得た。
【0078】
ドクターブレード装置および本発明によるチキソトロピー性のスラリーの使用によって、デュアル管の湾曲した表面にも関わらず、スラリー層による均等な表面の被覆が可能となり、かつそのようにして−乾燥および焼結後に−光学的に均質かつ美的に訴える0.8mmの厚さを有する不透明な反射体層の形成が保証される。その高い純度に基づき、層は200nmより下の紫外線波長領域内でも反射する。不透明な反射体層は、1000℃を超える高い温度で使用するためにも適している。
不透明な反射体層の反射性を、以下で図5の反射曲線を手がかりにして詳細に説明する。
【0079】
図5は、実施例1に従って製造された、250〜3000nmの波長領域中で不透明なSiO不透明層の形における拡散反射体の反射挙動を示す。y軸上では"スペクトラロン"の反射率に対して%記載で反射度"R"が記されており、かつx軸上ではnmにおける実験放射線(Arbeitsstrahlung)の波長λが記されている。反射率は積分球を用いて測定する。
【0080】
曲線は、0.8mmの厚さの不透明なSiO不透明層での反射推移を示し、その際、焼結は、焼結炉内で1280℃(3h)にて空気下で行った。そこから認められるのは、非ドープSiOからのSiO不透明層が、約300から2100nmまでの波長領域内で95%のほぼ均等な反射度Rを有することである。210nmでの反射度は、依然として98%より高い。VUV領域における高い反射は、そのようにコーティングされた成分の、例えばUV殺菌の領域における使用の可能性を与える。
【0081】
実施例2:石英ガラス板の製造
均質なスラリーを、配合3をベースにして製造する。該スラリーを、ドクターブレードによって石英ガラス板を製造するために使用する。その際、担体上に、5mmの厚さを有するスラリー層を作製する。これはスラリーのチキソトロピー性の流動挙動に基づいてのみ可能である。
【0082】
分散液の高い固体含有率およびアルコールベースに基づいて数時間以内に行われるスラリーの乾燥後に、層を焼結させる。焼結温度および焼結期間に応じて、透明なまたは不透明な石英ガラスからの薄い板が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散液および最大500μmまでの粒度を有する非晶質SiO粒子を含有する、石英ガラスの製造のためのSiOスラリーであって、その際、1μmから60μmまでの範囲内の粒度を有するSiO粒子が最も大きい体積割合となり、かつ前記SiOスラリーは、100nm未満の粒度を有するSiOナノ粒子を(全体の固体含有率に対して)0.2質量%から15質量%までの範囲内で含有する、石英ガラスの製造のためのSiOスラリーにおいて、SiO粒子が、1〜3μmの範囲内の大きさ分布の第一の最大値と、5〜50μmの範囲内の第二の最大値とを有するマルチモーダルな粒度分布を有し、かつ固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)が83%から90%までの範囲内にあることを特徴とする、石英ガラスの製造のためのSiOスラリー。
【請求項2】
前記SiOスラリーが、SiOナノ粒子を(全体の固体含有率に対して)0.5質量%から5質量%の間で、有利には1質量%から3質量%の間で含有することを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項3】
SiOナノ粒子が、50nm未満の粒度を有することを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項4】
SiO粒子の少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%が球状に形成されていることを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項5】
前記スラリーが、微細状、破片状のSiO粗粒を含有することを特徴とする、請求項4記載のスラリー。
【請求項6】
SiO粒子が、50μm未満の、好ましくは40μm未満のD50値によって特徴付けられている粒度分布を有することを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項7】
分散液が、有機溶剤をベースにして、好ましくはアルコールベースで存在することを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項8】
固体含有率(SiO粒子およびSiOナノ粒子を合わせた質量割合)が少なくとも85質量%であることを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項9】
SiO粒子およびSiOナノ粒子が、合成SiOから成ることを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項10】
非晶質SiO粒子のSiO含有率が、少なくとも99.9質量%であることを特徴とする、請求項10記載のスラリー。
【請求項11】
前記SiOスラリーが、窒素、炭素または、石英ガラス構造に窒化物または炭化物の形で組み込まれるこれらの成分の化合物を含有することを特徴とする、請求項1記載のスラリー。
【請求項12】
石英ガラスからの拡散反射性の反射体を製造するための、請求項1から11までのいずれか1項記載のSiOスラリーの使用。
【請求項13】
拡散反射性の反射体が、石英ガラスからの反射体層として、石英ガラスからの担体上に形成されることを特徴とする、請求項12記載の使用。
【請求項14】
拡散反射性の反射体が、担体なしの、好ましくは帯状または板状の石英ガラス成分として形成されることを特徴とする、請求項12記載の使用。
【請求項15】
拡散反射性の反射体が、固有の反射挙動を生み出すために、石英ガラスにおいて紫外線、可視または赤外線スペクトル領域内で光学吸収を発生させる1つまたは複数のドーピング物質を含有することを特徴とする、請求項12記載の使用。
【請求項16】
拡散反射性の反射体が、240nmより下のUV波長領域中での拡散反射のために使用されることを特徴とする、請求項12記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3−4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−504901(P2010−504901A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529650(P2009−529650)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059565
【国際公開番号】WO2008/040615
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(507332918)ヘレーウス クヴァルツグラース ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (17)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Quarzstrasse 8, D−63450 Hanau, Germany
【Fターム(参考)】