説明

石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒

【課題】電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器に封着させた場合に適度な接合力を有し、かつ石英ガラス容器にクラックを発生させにくい石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒を提供すること。
【解決手段】電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に配置されると共に、少なくとも一部が前記石英ガラス容器に封着されて用いられ、トリウムおよびトリウム化合物の中から選択される少なくとも1種を含み、残部が実質的にタングステンであるタングステン合金からなるトリエーテッドタングステン導線棒であって、前記タングステン合金における前記トリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であり、かつ前記トリエーテッドタングステン導線棒の表面の任意の50μm×50μmの範囲の表面粗さRaが0.30μm以下であるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器との封着性に優れた石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステンあるいはタングステン合金は耐熱性および機械的強度に優れることから各種用途に使用されている。そして、トリウムを添加したトリウムタングステン合金(トリエーテッドタングステン)は、電子管用陰極構体や電子管等の各種フィラメントやコイル材料等として好適に利用されている。このようなトリエーテッドタングステンについては、例えばタングステンからなるマトリクス中に分散させるトリウムあるいはトリウム化合物の含有量を所定量とし、さらにそれらの粒子の平均粒径を所定の平均粒径とすることで、機械的強度を向上できることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、トリエーテッドタングステンについては、その焼結体を一次加工してある程度小径なものとした後、さらに二次加工してより細径な線材等にする場合、一次加工に使用されたカーボンを含む潤滑剤が二次加工用素材の表面に残留し、二次加工時に二次加工用素材を脆化させることから、例えば二次加工用素材の表面性状を適正化することで、二次加工時の高温熱処理の際に潤滑剤が容易に揮散するようにし、脆化を抑制することが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−226935号公報
【特許文献2】特開2006−016696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に封着されるトリエーテッドタングステン導線棒としては、トリウムおよびトリウム化合物の含有量が1〜2重量%のものが主流となっている。このようなトリエーテッドタングステン導線棒の表面には、不純物を除き、ベース金属であるタングステン、ならびに粒子状のトリウムおよびトリウム化合物が存在している。この表面に存在するトリウムおよびトリウム化合物の量は、ベース金属であるタングステン中に含有されているトリウムおよびトリウム化合物の量に比例している。
【0005】
表面に存在するトリウムおよびトリウム化合物のうち酸化トリウムは容易に石英ガラス中に拡散することから、ベース金属であるタングステンに比べて石英ガラスに対する接合力を向上させる。また、同一直径のトリエーテッドタングステン導線棒では、表面が粗いもの、すなわち表面粗さが大きいものほど表面積が大きくなり、表面に存在する酸化トリウムの量も多くなることから、石英ガラスに対する接合力が大きくなる。
【0006】
しかしながら、トリエーテッドタングステンの熱膨張率はおよそ4.6×10−6/Kであるのに対し、石英ガラスの熱膨張率は4.6×10−7/Kであり、両者の間には10倍程度の熱膨張率の差がある。このため、例えば1500℃以上に加熱して石英ガラス容器にトリエーテッドタングステン導線棒を封着した場合、それらの接合力が大きいと熱膨張率の差により石英ガラス容器に歪みが発生し、それが起点となってクラックが発生しやすくなる。一般的な電球、電子管または類似の部品については、その石英ガラス容器内の内圧が大気圧に比べて正圧または負圧の状態で使用されることから、石英ガラス容器におけるクラックの発生はそれらの製品不具合の発生原因となる。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に配置されると共に、少なくとも一部が石英ガラス容器に封着されて用いられるものであって、石英ガラス容器に封着させた場合に適度な接合力を有し、かつ石英ガラス容器にクラックを発生させにくい石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒は、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に配置されると共に、少なくとも一部がその石英ガラス容器に封着されて用いられ、トリウムおよびトリウム化合物の中から選択される少なくとも1種を含み、残部が実質的にタングステンであるタングステン合金からなるものであって、タングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であり、かつその表面の任意の50μm×50μmの範囲の表面粗さRaが0.30μm以下であることを特徴としている。
【0009】
本発明の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒は、その表面をX線光電子分光法(XPS )により分析して得られる該表面に存在する金属トリウムおよびトリウム化合部のうち酸化トリウムの割合が70%以上となっていることが好ましい。また、本発明の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒は、その直径が0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。このような本発明の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒は、例えば高圧放電灯の電極棒として用いられるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒を構成するタングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量を0.3重量%以上0.5重量%以下とすると共に、その表面粗さRaを0.30μm以下とすることで、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器に封着させた場合に適度な接合力を有し、かつ石英ガラス容器にクラックを発生させにくいものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒(以下、単にトリエーテッドタングステン導線棒と呼ぶ。)は、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に配置されると共に、少なくとも一部が石英ガラス容器に封着されて用いられるものである。そして、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒は、トリウムおよびトリウム化合物の中から選択される少なくとも1種を含み、残部が実質的にタングステンであるタングステン合金からなるものであって、このタングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であり、かつ表面の任意の50μm×50μmの範囲の表面粗さRaが0.30μm以下であることを特徴としている。
【0012】
本発明では、トリエーテッドタングステン導線棒を構成するタングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量を所定の範囲内とすると共に、その表面粗さRaを所定の範囲内とすることで、電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器に封着させた場合に適度な接合力を有し、かつ石英ガラス容器にクラックを発生させにくいものとすることができる。
【0013】
すなわち、トリエーテッドタングステン導線棒を構成するタングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.5重量%を超える場合、石英ガラス容器との接合に寄与する表面の酸化トリウムが過度に多くなり、石英ガラス容器との接合力も過度に大きくなる。このため、石英ガラス容器の熱膨張率との違いから、石英ガラス容器に歪みを発生させ、それを起点としてクラックを発生させやすくなる。特に、従来のトリエーテッドタングステン導線棒については、そのタングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が1〜2重量%であるため、石英ガラス容器にクラックを発生させやすくなっている。
【0014】
一方、トリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%未満の場合、石英ガラス容器におけるクラックの発生は抑制されるものの、石英ガラス容器との接合力が過度に小さくなるため、石英ガラス容器の気密性を維持しにくくなる。また、トリウムおよびトリウム化合物は電子放射性を向上させるために加えられているが、その含有量が0.3重量%未満の場合、十分な電子放射性を付与することが難しくなる。なお、タングステン合金におけるトリウムおよびトリウム化合物の含有量の測定は、例えば湿式化学分析により行われるものである。
【0015】
さらに、トリウムおよびトリウム化合物の含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であっても、トリエーテッドタングステン導線棒の表面の任意の50μm×50μmの範囲の表面粗さRaが0.30μmを超える場合、実質的に表面積が大きくなり、石英ガラス容器との接合に寄与する表面の酸化トリウムの量も増えることから、石英ガラス容器との接合力も大きくなる。このため、石英ガラス容器の熱膨張率との違いから、石英ガラス容器に歪みを発生させ、それを起点としてクラックを発生させやすくなる。ここで、表面粗さRaは算術平均粗さRaのことであり、算術平均粗さRaの値は、JIS:B0601(1994年)の3「定義された算術平均粗さの定義及び表示」によって表されたものである。表面粗さRaの測定は、例えばレーザー顕微鏡を用いて行われる。
【0016】
トリエーテッドタングステン導線棒を構成するタングステン合金に含まれる金属トリウムとトリウム化合物との割合は特に限定されるものではなく、いずれか一方のみが含有されていてもよいし、両方が含有されていてもよい。また、トリウム化合物としては、酸化トリウム(ThO)および硝酸トリウム(Th(NO)等が例示されるが、本発明におけるトリウム化合物は酸化トリウムであることが好ましい。また、タングステン合金には、原料および製造過程において不可避的に混入する不可避的成分、具体的にはアルミニウム、シリコン、カリウム等が含まれていてもよい。このような不可避的成分は、タングステン合金中、総量で0.1重量%以下となっていることが好ましい。
【0017】
このようなトリエーテッドタングステン導線棒については、その表面をX線光電子分光法(XPS )により分析して得られる該表面に存在しているトリウムおよびトリウム化合物のうち酸化トリウムの割合が70%以上となっていることが好ましい。
【0018】
X線光電子分光法によって表面を分析することにより、その表面における金属の化学状態を分析することができる。それぞれの化学状態による結合エネルギーの差により金属となっているか、酸化物になっているかなどが分かる。また、それぞれの化学状態由来のピークにピーク分割し、その面積比から、化学状態の組成比が分かる。そして、このようなX線光電子分光法によって分析される表面のトリウムおよびトリウム化合物のうち酸化トリウムの割合が70%以上となっていれば、石英ガラス容器と接合した場合に、石英ガラス容器の気密性を維持できる程度の接合力を得ることができる。なお、この酸化トリウムの割合は上記面積比におけるものである。
【0019】
すなわち、トリエーテッドタングステン導線棒の表面に存在する酸化トリウムは石英ガラス容器との接合に寄与するものである。そして、石英ガラス容器と接合する際には、トリエーテッドタングステン導線棒に対して真空加熱等が行われるが、この真空加熱等により表面に存在している酸化トリウムの一部が還元される。
【0020】
従って、トリエーテッドタングステン導線棒の表面おける酸化トリウムの割合が70%未満の場合、実際に石英ガラス容器との接合を行う際には真空加熱等によりさらにその割合が少なくなり、石英ガラス容器の気密性を維持する程度の接合力を得ることが困難となる。このため、トリエーテッドタングステン導線棒の表面における酸化トリウムの割合を70%以上とすることで、実際に石英ガラス容器との接合を行った場合においても、石英ガラス容器の気密性を維持できる程度の接合力を得ることができる。
【0021】
本発明のトリエーテッドタングステン導線棒の直径は必ずしも限定されるものではないが、例えば自動車や鉄道車両のヘッドライト等の高圧放電灯に好適に用いられるように、直径0.15mm以上0.40mm以下とされていることが好ましい。
【0022】
また、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒が適用される電球、電子管及び類似の部品としては、少なくとも石英ガラス容器を有し、その石英ガラス容器内に本発明のトリエーテッドタングステン導線棒が配置されると共に、少なくとも一部が封着される構造のものであれば限定されるものではないが、例えば自動車や鉄道車両のヘッドライト等の高圧放電灯、具体的には高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好適に適用されるものとして挙げられる。そして、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒は、このような高圧放電灯等における電極棒として特に好適に用いられる。
【0023】
図1は、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒が適用される高圧放電ランプの一例を示したものであり、特に高圧放電ランプの内管である発光管を示したものである。発光管1の管状の外囲容器2は石英ガラス製で、この外囲容器2の両端部にそれぞれ溶融、圧潰して形成された封止部2aが形成されており、封止部2aに挟まれた部分が放電空間部2bとされている。
【0024】
それぞれの封止部2aにはモリブデン箔3が気密に封着されており、さらにそれぞれのモリブデン箔3の放電空間部2b側には、放電空間部2bの内側に延出する電極棒となる内部導線棒4が溶接等により接続されており、また反対側(外囲容器2の端部側)には、外囲容器2の外部側に導出される外部導線棒5が溶接等により接続されている。そして、モリブデン箔3と同様に、内部導線棒4および外部導線棒5のそれぞれのモリブデン箔3側が封止部2aにおいて封着されている。
【0025】
一対の内部導線棒4のそれぞれの放電空間部2b側の先端部は放電電極とされている。また、放電空間部2bには放電媒体として、例えばハロゲン化物および水銀が封入されている。そして、この状態のまま図示しない硬質ガラス等からなる外管内に封装されて高圧放電ランプとされる。ここで、内部導線棒4のように、石英ガラス容器である外囲容器2の内部に配置され、一部が外囲容器2の封止部2aに封着されるものが、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒からなるものとされる。
【0026】
次に、本発明のトリエーテッドタングステン導線棒の製造方法について説明する。まず、粉末タングステン酸アンモニウムパウダー(APT)を水素還元法によりタングステン酸化物とし、これにトリウムまたはトリウム化合物を水溶した溶液を混合した後、還元して混合粉末を作製する。また、別な方法として、タングステン粉末とトリウムまたはトリウム化合物粉末とを同一のポットに入れ、撹拌混合して混合粉末を作製してもよい。ここで、トリウムあるいはトリウム化合物の溶液または粉末の添加量を調整することで、最終的に製造されるトリエーテッドタングステン導線棒中に含まれるトリウムおよびトリウム化合物の量を0.3重量%以上0.5重量%以下の範囲内に調整することができる。
【0027】
そして、得られたトリエーテッドタングステン粉末をプレス成形し、その後水素雰囲気中で通電焼結することにより焼結体を作製する。さらに、この焼結体を転打、伸線等の塑性加工、および結晶制御、歪み取りを目的としたアニール加工を適宜組み合わせて繰り返し行うことで線状体とする。
【0028】
ここで、一般的に直径が0.15〜0.40mmの線状体を得るには、加熱した焼結体を伸線加工する。この際、伸線加工に用いられる伸線ダイスの微視的な凹凸が被加工材である線状体に転写され、また加熱により線状体の表面には僅かに酸化皮膜が形成され、線状体の表面は粗い状態、すなわち表面粗さRaが大きくなっている。また、伸線加工は潤滑剤を使用して行われるため、石英ガラス容器との封着性を考慮した場合、この潤滑剤を除去する必要もある。
【0029】
このため、伸線加工が行われた線状体を真直加工して棒状とした後、電解研磨またはセンタレス研磨等によって表面除去を行い最終的にトリエーテッドタングステン導線棒とする。この際、通常よりも表面除去率を大きくすることによって、すなわち電解研磨の場合には、電解研磨率(=(1−(電解研磨後の断面積/電解研磨前の断面積))×100[%])を大きくすることによって、またはセンタレス研磨の場合には、砥粒の粒度を大きくすることによって、最終的に得られるトリエーテッドタングステン導線棒の表面粗さRaを0.30μm以下とすることができる。
【0030】
また、トリエーテッドタングステン導線棒の表面に存在するトリウムおよびトリウム化合物における酸化トリウムの割合は、トリエーテッドタングステン導線棒を加工する際の熱処理や、大気との接触によって、その表面に存在する金属トリウムが容易に酸化されて酸化トリウムとなることから、このような熱処理や、大気との接触を調整することで容易に調整することができる。
【実施例1】
【0031】
粉末タングステン酸アンモニウムパウダー(APT)を水素還元法によりタングステン酸化物とし、このタングステン酸化物に、最終的に得られるトリエーテッドタングステン導線棒中のトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.1重量%〜2.0重量%となるように、トリウムを水溶した溶液を混合した後、還元して複数の混合粉末を作製した。さらに、この混合粉末をプレス成形し、その後水素雰囲気中で通電焼結することにより焼結体を作製した。
【0032】
そして、この焼結体に対して塑性加工およびアニール加工を交互に繰り返して行い、さらに電解研磨を行うことにより表面粗さRaを調整して、直径0.3mm、長さ30mm、表面粗さRa0.10〜1.00μmの封着試験用のトリエーテッドタングステン導線棒を製造した。なお、この封着試験用のトリエーテッドタングステン導線棒は、XPSにより分析される表面のトリウムおよびトリウム化合物における酸化トリウムの割合が90%となるようにした。また、トリウムを水溶した溶液を混合しなかったこと以外は同様にして、トリウムおよびトリウム化合物を含まない封着試験用のタングステン導線棒を製造した。
【0033】
次に、図2に示すように、筒状の石英ガラス片10を用意し、この石英ガラス片10内に封着試験用のタングステン導線棒またはトリエーテッドタングステン導線棒(以下、これらを合わせて単に封着試験用導線棒と呼ぶ)11を挿入した。その後、石英ガラス片10を1600℃に加熱し、図3に示すようにその端部をカーボンダイスで押し潰し、試験用導線棒11を封着して評価用試験片とした。なお、図3中、カーボンダイスで押し潰され、試験用導線棒11が封着された部分が封止部10aである。また、図4に、図3に示す評価用試験片をカーボンダイスによる押し潰し方向から見た状態を示す。
【0034】
ここで、石英ガラス片10は、外径8mm、内径4mm、長さ20mmのものを用い、封着により形成された封止部10aは軸方向の長さが15mm、カーボンダイスによる押し潰し方向の長さ(図3における封止部10aの図中上下方向の長さ)である厚さが4mm、この押し潰し方向に垂直な方向の長さ(図4における封止部10aの図中上下方向の長さ)である幅が10mmとなるようにした。
【0035】
このようにして作製された評価用試験片について、まず封止部10aにおけるクラックの有無を観察した後、試験用導線棒11の剥離強さの評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1中、表面粗さRaが0.10μmまたは0.30μmであり、かつトリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%または0.5重量%であるものが本発明の実施例となるものである。
【0036】
また、クラックの有無は、実体顕微鏡により封止部10aを30倍の倍率で観察することにより行った。評価は、試験用導線棒11を起点として封止部10aの厚さ方向あるいは幅方向に延びるクラックの長さを測定することにより行い、クラックの長さが実際に高圧放電ランプ等とした場合に問題とならない0.7mm未満であったものを良好とし「○」で示し、0.7mm以上1.0mm未満であったものを「△」で示し、1mm以上であったものを「×」で示した。
【0037】
また、剥離強さは、試験用導線棒11のうち封止部10aから露出する部分を100gの強さで引っ張り、試験用導線棒11が封止部10aから剥離するかどうかを確認した。評価は、剥離しなかったものを良好として「○」で示し、剥離したものを不良として「×」で示した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示されるように、トリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であり、かつ表面粗さRaが0.30μm以下であるトリエーテッドタングステン導線棒については、実際に高圧放電ランプ等とした場合に問題となるようなクラックの発生がなく、また剥離強さについても良好なものとなることがわかる。
【実施例2】
【0040】
表面粗さRaを0.20μmと一定にし、XPSにより分析される表面のトリウムおよびトリウム化合物における酸化トリウムの割合を0〜100%の範囲で変化させた以外は[実施例1]と同様にして、封着試験用導線棒(タングステン導線棒およびトリエーテッドタングステン導線棒)を製造した。なお、表面のトリウムおよびトリウム化合物中の酸化トリウムの割合は、試験用導線棒の加工時の熱処理および大気との接触によって表面に形成された酸化トリウムを高真空雰囲気中で1500℃以上の温度で熱処理することにより金属トリウムへと還元することで調整した。
【0041】
次に、[実施例1]と同様にして、筒状の石英ガラス片に封着試験用導線棒を封着して評価用試験片とし、まず封止部におけるクラックの有無を観察した後、試験用導線棒の剥離強さの評価を行った。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示されるように、トリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であるトリエーテッドタングステン導線棒については、その表面のトリウムおよびトリウム化合物における酸化トリウムの割合が70%以上である場合に良好な剥離強さが維持されることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のトリエーテッドタングステン導線棒が適用される高圧放電灯の一例を示した断面図。
【図2】実施例で用いる評価用試験片の作製方法を示した外観図。
【図3】実施例で作製した評価用試験片を示した外観図。
【図4】図3に示す評価用試験片を上面から見た状態を示した上面図。
【符号の説明】
【0045】
1…発光管、2…外囲容器(石英ガラス容器)、3…モリブデン箔、4…内部導線棒(電極棒、放電電極)、5…外部導線棒、10…石英ガラス片、10a…封止部、11…封着試験用導線棒(タングステン導線棒またはトリエーテッドタングステン導線棒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電球、電子管または類似の部品の石英ガラス容器中に配置されると共に、少なくとも一部が前記石英ガラス容器に封着されて用いられ、トリウムおよびトリウム化合物の中から選択される少なくとも1種を含み、残部が実質的にタングステンであるタングステン合金からなるトリエーテッドタングステン導線棒であって、
前記タングステン合金における前記トリウムおよびトリウム化合物の合計した含有量が0.3重量%以上0.5重量%以下であり、かつ前記トリエーテッドタングステン導線棒の表面の任意の50μm×50μmの範囲の表面粗さRaが0.30μm以下であることを特徴とする石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒。
【請求項2】
前記トリエーテッドタングステン導線棒の表面をX線光電子分光法(XPS )により分析して得られる前記表面に存在するトリウムおよびトリウム化合物のうち酸化トリウムの割合が70%以上であることを特徴とする請求項1記載の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒。
【請求項3】
前記トリエーテッドタングステン導線棒の直径が0.15mm以上0.40mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒。
【請求項4】
前記トリエーテッドタングステン導線棒は、高圧放電灯の電極棒として用いられるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の石英ガラス封着用トリエーテッドタングステン導線棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−226700(P2008−226700A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64848(P2007−64848)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】