説明

石英ガラス成形体製造用型材及び石英ガラス成形体の製造方法

【課題】低コストの石英ガラス成形体製造方法を提供する。
【解決手段】厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の上に、幅20cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板を6枚組み合わせて正六角柱の外筒を組み上げ、外筒の外側を専用のカーボン治具で固定した。さらに正六角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正六角柱の外筒の中に直径29cm、高さ24cmの円筒状の石英ガラス母材を置き、1700℃において3時間加熱溶融し、一辺20cmで高さ15cmの正六角柱の石英ガラス成形体を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス成形体、特にリング状あるいは円板状石英ガラス製品を得るための製造時に用いられる型材に関し、石英ガラス母材を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた石英ガラス成形体を製造する際の型材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス製品、特に、石英ガラスよりなる石英ガラス製品は、光学レンズなどの光学機器に限らず、その耐久性や化学的安定性などの利点を生かし、半導体製造用治具、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)パネル製造用フォトマスクあるいは光通信用の精密部品などに広く用いられている。一般に、こうした石英ガラス製品の製造プロセスとしては、エッチングや研削加工などのような、加工対象物から不要な領域を除去する除去工程を主に用いるプロセスが採用されていた。
【0003】
しかしながら、エッチングによる製造プロセスは、加工対象物の表面の比較的微細な加工に限定され、得られるガラス製品が限定されてしまうという問題点があった。また、研削加工による製造プロセスは、加工対象物を少量ずつ研削して所望の形状に加工するため、加工時間が多くかかるとともに、加工対象物から不要な部分を全て研削してしまうため、最終的に加工された石英ガラス製品の重量に比べ、より大きな石英ガラス材の重量が必要となり、製造効率や製造コスト上で問題点があった。
【0004】
こうした問題点を解決するため、型材を用いてガラス製品の概形を成形により製造し、その成形体に研削などの機械加工を施してガラス製品を作製する手法が知られている。
【0005】
以下、型材を用いてガラス製品の概形を成形により製造する方法について説明する。
【0006】
図1(a)には石英ガラス母材が載置された型材の概略構成説明図が示されており、図1(b)には図1(a)のA矢視図が示されており、図1(c)には図1(a)のB−B断面図が示されており、図1(d)には加熱溶融後の石英ガラス成形体と型材の断面図が示されている。
【0007】
成形に用いる型材10は、底板12の上面12aに配置されるとともに所望の内径を有する円筒形状の外筒14とで構成されている。この底板12及び外筒14はカーボン製である。なお、符号14aは、外筒14の内周面を示している。
【0008】
以上の構成において、石英ガラス母材を石英ガラス製品の概形に成形するには、まず、外筒14内の底板12の上面12aに石英バルクまたはインゴットといった石英ガラス母材16を載置し、石英ガラス母材16が載置された型材10を電気炉などの加熱装置により、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下において、加熱温度1500℃ないし2000℃で加熱する。
【0009】
このように、加熱装置で1500℃ないし2000℃で加熱することにより、型材10中に載置された石英ガラス母材16は加熱溶融され、加熱溶融された石英ガラス母材16は、図1(d)に示されるように、外筒14の内径と同一寸法の円柱形状の石英ガラス成形体16aとして製造される。
【0010】
こうして製造された石英ガラス成形体16aは、研削などの機械加工工程を経て所望の形状の石英ガラス製品として製作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4054977号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示すように、従来、石英ガラス成形体を製造する際の外筒14には、所望とする石英ガラス成形体の形状がリング状あるいは円板状であるために、その外周形状に合わせて円筒形の2分割あるいはそれ以上に分割されたカーボン型材が用いられている。しかしながら、円筒形状の外筒は、その製作が難しく、加工のために大型の装置が必要であり、製作に時間がかかり、作製コストが負担になっていた。
【0013】
また、2分割あるいはそれ以上に分割したカーボン型材を組み合わせて円筒形になるようにしているために、一つの型材の破損により、外筒として機能しなくなるために、高価な予備品を過剰にストックしておかなければならないという問題もあった。
【0014】
本発明は、円筒形状の型材を用いず、容易に製作できる共通の部材によって外筒が得られるようにし、型材の部材が破損しても共通部材とすることで簡単に交換できるようにすることで補修を容易とし、型材の製造コスト及び石英ガラス成形体の製造コストを低減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑み、鋭意検討の結果、型材の構成要素である外筒の内面形状を、板材を組み合わせることによって得られる正多角柱とすることにより、課題を解決したものである。
【0016】
すなわち、本発明は石英ガラス材の溶融成形の際に用いる型材であり、板材を組み合わせて正多角柱の外筒からなることを特徴とする、石英ガラス成形体製造用型材である。
【発明の効果】
【0017】
石英ガラス成形体の製造の際に用いる型材の構成要素である外筒を正多角柱とすることにより、破損時に備えた予備品の過剰ストックが不要になり、外筒となる型材の加工時間を短縮でき、コストが減少される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の型材の概略斜視図及び石英ガラス成形体の製造工程図。
【図2】本発明の石英ガラス成形体製造用型材の概略斜視図及び石英ガラス成形体の製造工程図。
【符号の説明】
【0019】
10 型材
12 底板
12a 上面
14 外筒
14a 内周面
16 石英ガラス母材
16a 石英ガラス成形体
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図2には、内面形状が正八角柱状の外筒14の概略斜視図を示す。本発明における、正多角柱の内面形状を有する外筒14は、同一形状の板材を複数枚組み合わせることによって作製する。
【0022】
正多角柱の底面の正多角形の大きさは、その内接円の直径が、所望とする石英ガラス製品の外径及び製品化のための加工シロよりも大きければ、なんら問題ない。
【0023】
正多角形の角数としては、6ないし24であることが望ましい。当然、角数は、3以上であれば問題ないが、角数が少ないとその正多角形の面積に占める内接円の面積が小さくなり、材料の無駄が生じる。また、角数が大きくなれば、正多角形の面積と内接円の面積の比は1に近づくために、材料の無駄は減少するが、正多角柱を組み上げる際に多数の構成部品を組み立てて多角柱を作り上げるので作業効率が低下する。
【0024】
例えば、内接円の直径を40cmとする場合、正六角形では一辺を23.5cm、正十二角形では10.8cm、正二十四角形では5.3cmとすればよい。また、それぞれの場合の正多角形の面積と内接円の面積の比は正六角形では0.91、正十二角形では0.98、また正二十四角形では0.99となる。すなわち、同じ内接円の直径を有する石英ガラス成形体を得る場合でも、辺の長さと辺の数の組み合わせで多くの場合が考えられ、組立てに要する手間や石英ガラス母材の損失量を考慮して最適な角数及び辺の長さを選択すればよい。
【0025】
このため、実際の製造の場においては、正多角形の辺の長さや辺の数については、石英ガラス母材からの石英ガラス製品を得るときの収率、溶融成形の際の作業効率、石英ガラス製品を製造する際の作業効率などから、総合的に判断すればよい。
【0026】
本発明の型材を使用して得た石英ガラス成形体は、機械加工によって、リングや円板、もしくはカマボコ型など円形部分を含む形状の石英ガラス製品となる。
【0027】
本発明に用いられる外筒14を形成するための板材の材質は、石英ガラスの溶融条件においてなんら反応しないものであれば特に限定されるものではないが、その加工の容易さ、物理的・化学的安定性、不純物含有量の少なさ、及び材料価格の面から、カーボンを用いることが望ましい。
【0028】
多角柱を構成する板の厚さは、溶融成形の際に充分な強度を有していれば特に限定されず、5mmないし50mmの範囲内であれば必要強度が得られる。さらに望ましくは10mmないし30mmである。カーボン板材の厚さが10mmより薄くなると、カーボン板材の製造方法にもよるが、機械的強度が小さくなること、及び耐久性に問題が生じる可能性が大きい。また、カーボン板材の厚さが30mmより厚くなるとカーボンを加熱するための熱量の増加やそれに伴う冷却時間の増大、またカーボンの重量増による作業性の低下などの問題が生じるので好ましくない。
【0029】
板材を組み合わせて外筒として使用するためには、正多角柱に組み上げた後に、板材と同じ材質からなる固定治具を用いて固定する方法、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して外筒を固定する方法などがある。
【0030】
ここで使用されるカーボンの溶融石英ガラスと接触する面14aに、カーボンと溶融石英ガラスとの反応を防止するために、カーボン製フェルトを介在させたり、アルミナ(A123)、窒化珪素(Si34)、あるいは炭化珪素(SiC)などからなる保護膜を被覆しても、なんら問題ない。これらの保護膜は、湿式法や乾式法により作製することができる。例えば、湿式法では、それぞれの粉末に水を加え、スラリー化した後に、スプレーを用いて被覆したり、刷毛等を用いてスラリーを塗布した後に乾燥することにより作製することができる。また、乾式法では、アルミナターゲットなどを用いたスパッタ法や珪素ターゲットを用いた反応性イオンプレーティング法などにより、作製することができる。
【0031】
石英ガラス母材の溶融成形は、前述した外筒14内に石英ガラス母材16を載置した後に、1500℃ないし2000℃に加熱することにより行われるが、より好ましい加熱温度は1700℃ないし1900℃である。これは1700℃より低いと石英ガラスの溶融粘度が大きいために、溶融成形に時間がかかるためであり、1900℃を超えると石英ガラスとカーボンとの反応が起きやすくなってしまうためである。
【0032】
なお、本明細書において、正多角柱や正多角形という表現をしているが、幾何学的な意味ではなく、概念的に用いたものである。すなわち、加工精度、使用による変形、あるいは作業効率等の観点から、各辺の長さがまったく等しいことは現実的に不可能であり、実務的な範囲内においての正多角柱あるいは正多角形という意味である。
【実施例1】
【0033】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上面12aに、幅20cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板を6枚組み合わせて正六角柱の外筒14を組み上げ、外筒14の外側を専用のカーボン治具で固定した。さらに正六角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正六角柱の外筒14の中に直径29cm、高さ24cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1700℃において3時間加熱溶融した。
【0034】
その結果、一辺20cmで高さ15cmの正六角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例2】
【0035】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に、幅16cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板を8枚組み合わせて正八角柱の外筒14を組み上げ、外筒14の外側を、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して固定した。さらに正八角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正八角柱の外筒14の中に直径30cm、高さ24.5cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1900℃において1時間加熱溶融した。
【0036】
その結果、一辺16cmで高さ14cmの正八角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例3】
【0037】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に、幅12cm、長さ30cm、厚さ2cmのカーボン板を12枚組み合わせて正十二角柱の外筒14を組み上げ、外筒の外側を、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して固定した。さらに正十二角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正十二角柱の外筒14の中に直径30cm、高さ24.5cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1800℃において2時間加熱溶融した。
【0038】
その結果、一辺12cmで高さ10.7cmの正十二角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例4】
【0039】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に、幅6cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板を24枚組み合わせて正二十四角柱の外筒14を組み上げ、外筒14の外側を、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して固定した。さらに正二十四角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正二十四角柱の外筒14の中に直径30cm、高さ24.5cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1800℃において2時間加熱溶融した。
【0040】
その結果、一辺6cmで高さ10.5cmの正二十四角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例5】
【0041】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に、幅20cm、長さ40cm、厚さ1cmのカーボン板を6枚組み合わせて正六角柱の外筒14を組み上げ、外筒14の外側を専用のカーボン治具で固定した。さらに正六角柱の下部及び内側面にカーボンフェルトを設置した。この正六角柱の外筒14の中に直径20cm、高さ35cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1700℃において3時間加熱溶融した。
【0042】
その結果、一辺20cmで高さ10.5cmの正六角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例6】
【0043】
厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に、幅6cm、長さ30cm、厚さ1cmのカーボン板を24枚組み合わせて正二十四角柱の外筒14を組み上げ、外筒14の外側を、カーボン繊維の糸条体を巻きつけ、緊締して固定した。この正二十四角柱の外筒の中に直径30cm、高さ24cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1750℃において3時間加熱溶融した。
【0044】
その結果、一辺6cmで高さ10.3cmの正二十四角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例7】
【0045】
平均粒径0.7ミクロンの高純度炭化珪素粉末100gを100gの純水に分散させた後3時間撹拌し、炭化珪素スラリーを作製した。このスラリーを、刷毛を用いて幅20cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板6枚の片面に塗布し、乾燥させることにより、炭化珪素膜被覆カーボン板を作製した。これらのカーボン板6枚を、炭化珪素膜被覆面が内側になるように組み合わせて正六角柱の外筒14を、厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に組み上げた。正六角柱の下部にカーボンフェルトを敷いた後、この正六角柱の外筒14の中に直径25cm、高さ20cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1700℃において3時間加熱溶融した。
【0046】
その結果、一辺20cmで高さ9.4cmの正六角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例8】
【0047】
平均粒径0.3ミクロンの高純度アルミナ粉末100gをポリビニルアルコール1gと100gの純水に分散させた後3時間擾撹拌し、アルミナスラリーを作製した。このスラリーを、刷毛を用いて幅20cm、長さ30cm、厚さ3cmのカーボン板6枚の片面に塗布し、乾燥させることにより、アルミナ膜被覆カーボン板を作製した。これらのカーボン板6枚を、アルミナ膜被覆面が内側になるように組み合わせて正六角柱の外筒14を、厚さ1cm、直径50cmの円形のカーボン板の底板12の上に組み上げた。正六角柱の下部にカーボンフェルトを敷いた後、この正六角柱の外筒14の中に直径28cm、高さ18cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1700℃において3時間加熱溶融した。
【0048】
その結果、一辺20cmで高さ10.6cmの正六角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。
【実施例9】
【0049】
幅6cm、長さ20cm、厚さ1cmのカーボン板12枚に、アンモニア(NH3)雰囲気下で珪素をターゲットとした反応性スパッタ法により、3μmの厚さの窒化珪素膜を作製した。これらのカーボン板を、窒化珪素膜被覆面が内側になるように組み合わせて正十二角柱の外筒14を、厚さ1cm、直径40cmの円形のカーボン板の底板12の上に組み上げた。正十二角柱の下部にカーボンフェルトを敷いた後、この正十二角柱の外筒14の中に直径18cm、高さ20cmの円筒状の石英ガラス母材16を置き、1700℃において3時間加熱溶融した。
【0050】
その結果、一辺6cmで高さ12.6cmの正十二角柱の石英ガラス成形体16aが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス母材を型材内に設置して加熱溶融炉内で加熱溶融し、溶融石英ガラスを型材の形状に合致させた石英ガラス材を成形するための型材であって、外枠となる型材が板材を組み合わせて固定して該型材の内面形状を正多角柱とした石英ガラス成形体製造用型材。
【請求項2】
板材がカーボンであることを特徴とする請求項1記載の石英ガラス成形体製造用型材。
【請求項3】
正多角柱を構成する板材の数が6〜24枚のいずれかでああることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の石英ガラス成形体製造用型材。
【請求項4】
石英ガラス成形体と接する板材の面に保護膜を被覆したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の石英ガラス成形体製造用型材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載した石英ガラス成形体製造用型材を用いて石英ガラス成形体を製造することを特徴とする石英ガラス成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、石英ガラス成形体は更に機械加工してリング状、または、円板状製品とする石英ガラス成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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