説明

石英系光ファイバ母材の製造方法

【目的】 屈折率分布を母材軸方向で均一なものとする。
【構成】 バーナの酸・水素火炎中の気相化学反応によってガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子を堆積して多孔質のガラス微粒子堆積体を形成する際、屈折率を高めるためのドーパント濃度分布の勾配が、ガラス微粒子堆積体の軸方向において急峻から緩やかと徐々に変化するように上記バーナの角度や位置を制御する。その後、傾斜炉を使用してこのガラス微粒子堆積体を、上記のドーパント濃度分布勾配が緩やかな方から先に加熱し、徐々にその勾配が急峻な方へと加熱部位が移動するようにすることによって、水分を除去する工程を行ない、さらに透明ガラス化工程を行なう。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、石英系光ファイバ母材の製造方法に関し、とくに、多孔質ガラスのガラス微粒子堆積体を作り、これを脱水・燒結して透明ガラス化する石英系光ファイバ母材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、VAD法やOVD法などにおいて、たとえば四塩化硅素や四塩化ゲルマニウムと酸・水素火炎の気相化学反応によってガラス微粒子を生成し、これを堆積させて多孔質のガラス微粒子堆積体を作製することが行なわれている。その後、この多孔質ガラス微粒子堆積体は加熱されて、脱水および透明ガラス化される。
【0003】従来では、屈折率を高めるための四塩化ゲルマニウムなどのドーパントの濃度分布の形状が、ガラス微粒子堆積体の軸方向に一様になるように、ガラス微粒子の堆積を行なうのが普通である。また、脱水・燒結処理を行なう加熱炉としては、通常傾斜炉が用いられる。この傾斜炉では、加熱温度が位置によって傾斜しており、ガラス微粒子堆積体は、一方の端から他端側へと加熱領域中を徐々に通過させられることにより、全体が加熱される。
【0004】まず、この傾斜炉に塩素系のガスを導入し、ガラス微粒子堆積体を塩素系ガス雰囲気中で、これが透明ガラス化しない程度の温度で加熱しながら、光ファイバの使用波長に吸収スペクトルを持つ水分(OH基)を除去する。このとき、同時にガラス微粒子堆積体中の遷移金属成分(この成分も電子遷移吸収により光ファイバの伝送ロスの原因となる)なども塩素系のガスと反応し、ハロゲン化物として除去されることになる。つぎに、ヘリウム(He)をこの傾斜炉に導入し、透明化後のガラス母材中の気泡が発生しにくいヘリウム雰囲気中で加熱温度を上昇させて、このガラス微粒子堆積体を加熱し、これを透明ガラス化し、石英系光ファイバ用母材を得る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の石英系光ファイバ母材の製造方法では、透明ガラス化された母材の屈折率分布形状が軸方向に均一にならないという問題がある。すなわち、従来では上記のように傾斜炉を用いて脱水・燒結処理を行なうが、透明ガラス化工程において、一端から他端側へと加熱領域にガラス微粒子堆積体を通過させていく際、このガラス微粒子堆積体に残留している塩素系ガスと高温のため、先に透明化された部分(通常下側の部分)に比べて、後に透明化された部分(通常上側の部分)はドープしてあるドーパントがより拡散してしまうことになる。そのため、透明ガラス化された母材における屈折率分布の勾配は、その下側の部分では図4のb(点線)のように急峻であるにもかかわらず、その上側の部分では図4のa(実線)のように緩やかなものとなってしまう。そして、このような不都合は、母材の大型化にともなって顕著になる傾向にある。
【0006】この発明は、上記に鑑み、母材を大型化しても軸方向に均一な屈折率分布形状を有する透明ガラスの石英系光ファイバ母材を作製することができる、石英系光ファイバ母材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、この発明による石英系光ファイバ母材の製造方法では、酸・水素火炎中の気相化学反応によってガラス微粒子を生成し、このガラス微粒子を堆積して多孔質のガラス微粒子堆積体を形成する際、ドーパント濃度分布の勾配を、ガラス微粒子堆積体の軸方向において変化させるようにしてガラス微粒子の堆積を行ない、こうして作ったガラス微粒子堆積体を、加熱温度が傾斜している傾斜型の加熱装置で加熱し、これによって水分を除去する工程および透明ガラス化工程を行なうことが特徴となっており、傾斜型の加熱装置を用いて加熱する際のドーパントの拡散をあらかじめ予測してガラス微粒子堆積体におけるドーパント濃度分布の勾配を変化させることができるため、結果として、透明ガラスとして得られた石英系光ファイバ用母材の屈折率分布の形状を、その軸方向に均一なものとすることができる。
【0008】
【実施例】以下、この発明の一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。図1はこの発明をVAD法に適用した一実施例を示すもので、この図に示すように、コア用バーナ1からコアとなるガラス微粒子(屈折率を高めるためのドーパントが含まれている)が生成され、クラッド用バーナ2、3からクラッドとなるガラス微粒子が生成され、これらガラス微粒子が軸方向に堆積されてガラス微粒子堆積体4が形成されていくようになっている。このガラス微粒子堆積体4の先端の様子はテレビカメラ5によりとらえられ、カメラコントローラ7を経てモニター装置8により表示される。
【0009】一方、コア用バーナ1はバーナ保持器6により保持されている。このバーナ保持器6は電動ステージなどからなり、バーナ1の保持角度、高さ、位置が微調整できるようになっている。そして、そのバーナ1の角度、高さ、位置は制御装置9により制御されるようになっている。これは、コア用バーナ1の角度やガラス微粒子の堆積位置からのバーナ1の距離などの調整を行なうことによって、ガラス微粒子堆積体4のコアとなる部分でのドーパントの濃度分布形状を自在に調節できるようにするためである。
【0010】この実施例では、ガラス微粒子堆積体の脱水・透明ガラス化のための加熱は、通常、傾斜炉を用いることにより下側から上側へと順次行なうため、あらかじめこれを予測して、ガラス微粒子堆積体4の最初に堆積する部分(最上位に位置する部分)のドーパント濃度分布が図2のような形状となるようにし、その下側に順次堆積する部分では徐々に濃度分布の勾配が緩やかになるようにし、最後に堆積する部分(一番下に位置する部分)で図3のようにもっとも緩やかな勾配を持つドーパント濃度分布となるようにする。
【0011】このようなドーパント濃度分布形状の実現は、たとえば、コア用バーナ1の角度が最初は垂直に近く、徐々に横に倒れてくるようにしたりすることによって可能である。あるいは、コア用バーナ1を最初は堆積位置に近付けることにより堆積密度を上げ、徐々に離していって堆積密度が低くなるようにしてもよい。堆積密度が高ければドーパントの拡散はより進まず、堆積密度が低ければドーパントはより拡散するからである。
【0012】つぎに、こうして作製されたガラス微粒子堆積体4を傾斜炉(図示しない)を用いて加熱し、脱水工程を行ない、その後、加熱温度を上昇させて透明ガラス化工程を行なう。このとき、ガラス微粒子堆積体4は、傾斜炉内に下から挿入されて徐々に降下していき、加熱領域が堆積体4の最下部から徐々に最上部へと移っていく。そのため、最初にドーパント濃度分布勾配が緩やかな部分の加熱が行なわれ、最後にドーパント濃度分布勾配が急峻な部分の加熱が行なわれることになる。先に加熱される下側の部分ではドーパントは拡散しにくいのでその加熱前のドーパント濃度分布形状が保たれるのに対して、後に加熱される部分ほど、ドーパントの拡散が進んでドーパント濃度分布勾配がその加熱前よりも緩やかになるため、後に加熱される部分(上側部分)も、結果的に、最初に加熱される下側の部分と同じドーパント濃度分布形状になる。
【0013】これによって、脱水および燒結により透明ガラスとなった光ファイバ用ガラス母材は、直径方向のドーパント濃度分布が、軸方向のどの位置でも同じ形状となる。そのため、この光ファイバ用母材の全体の特性は、その軸方向の1箇所で屈折率分布を測定することにより、推定可能となる。また、この光ファイバ用母材を線引き・紡糸して光ファイバとしたとき、その光ファイバでの特性を測定する場合も、測定箇所が少なくてもよくなる。
【0014】
【発明の効果】以上説明したように、この発明の石英系光ファイバ母材の製造方法によれば、透明ガラスとして得られた石英系光ファイバ用母材の屈折率分布の形状を、その軸方向に均一なものとすることができる。そのため、母材の軸方向における1箇所の測定のみで母材全体の特性を推定することができる。また、この母材を線引き・紡糸して作製した光ファイバの特性を測定する際も、測定点数が少なくて済むようになる。さらに、石英系光ファイバ用母材の大型化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例のブロック図。
【図2】同実施例のガラス微粒子堆積体におけるドーパント濃度分布を示すグラフ。
【図3】同実施例のガラス微粒子堆積体におけるドーパント濃度分布を示すグラフ。
【図4】従来例での屈折率分布を示すグラフ。
【符号の説明】
1 コア用バーナ
2、3 クラッド用バーナ
4 ガラス微粒子堆積体
5 テレビカメラ
6 バーナ保持器
7 カメラコントローラ
8 モニター装置
9 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ドーパント濃度分布の勾配を、ガラス微粒子堆積体の軸方向に変化させるようにしてガラス微粒子を堆積する工程と、上記工程で作られたガラス微粒子堆積体を、加熱温度が傾斜している傾斜型の加熱装置で加熱することによって、水分を除去する工程および透明ガラス化工程を行なうことを特徴とする石英系光ファイバ母材の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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