研削工具の製造方法
【課題】ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができる研削工具の製造方法を提供することにある。
【解決手段】ワークを研削加工する研削工具を製造する研削工具の製造方法であって、研削工具の砥粒14を型21の上に配置し、型21に対向すると共に当該型21に対し隙間d1を有して研削工具の台金11を配置し、砥粒14が配置された型21と研削工具の台金11とを無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置し、型21と研削工具の台金11の間の隙間に無電解めっき液31を流し、研削工具の台金11の表面にめっき層13を成長させて、めっき層13により砥粒14を研削工具の台金11に固定した研削工具を製造する。
【解決手段】ワークを研削加工する研削工具を製造する研削工具の製造方法であって、研削工具の砥粒14を型21の上に配置し、型21に対向すると共に当該型21に対し隙間d1を有して研削工具の台金11を配置し、砥粒14が配置された型21と研削工具の台金11とを無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置し、型21と研削工具の台金11の間の隙間に無電解めっき液31を流し、研削工具の台金11の表面にめっき層13を成長させて、めっき層13により砥粒14を研削工具の台金11に固定した研削工具を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼鋳物などの仕上げ加工に、ダイヤモンド砥粒やcBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒などの硬質粒子を台金の砥部(作用部)に電着法により固着させた研削工具が用いられている。
【0003】
ところで、砥粒先端を揃えることにより、加工ワーク(研削工具をドレッサーとして使用した場合は研削砥石)の寸法精度や面粗度が良くなるばかりでなく、作用砥粒数(研削に関与する砥粒の数量)が大幅に増加するので研削工具の寿命も向上することが知られている。
【0004】
例えば、図5に示すように、研削工具100の砥部106、具体的には、研削工具100の台金101の表面に下地めっき層102を介して固定めっき層103に固定された砥粒104,105をロータリードレッサーなどのツルアー110の作用部111でツルーイングすることにより、不揃いな砥粒104の先端を削り落として砥粒先端を揃えている。この方法を用いた場合、砥粒105のように砥粒先端105aが平坦(目潰れ状態)となり、切れ味が落ちてしまう。研削工具100の砥粒104,105がダイヤモンドである場合には、ツルアーの作用部(ダイヤモンド砥粒)111の摩耗が激しく、ツルーイングに多大な時間とコストを要してしまう。
【0005】
このような問題を解決するため、ツルーイングの工程を省いた研削工具の製造方法が種々開発されている。例えば、特許文献1では、台金の歯面の上に低融点合金層、白金めっき層を順番に形成し、次いで、低誘電合金層を溶融除去してできた空間に砥粒を充填し、砥粒を電気めっき処理で歯面に結合させ、その後、白金めっき層を取り除くことにより、砥粒先端を揃えるドレスギヤの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−106481号公報(例えば、段落[0014]〜[0019]、[図7],[図9],[図10]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたドレスギヤの製造方法では、電流密度が下地めっきの表面全体に亘って均一にならず固定めっきの成長速度にばらつきが生じて、台金と白金電極とが短絡してしまう可能性があった。台金と白金電極とを近接して配置しているため、台金のズレ、めっき液に混入する導電体の異物などに起因して台金と白金電極とが短絡してしまう可能性もあった。そのため、固定めっき層の観察、台金の固定、めっき液中の導電体の異物の除去など、多大な作業を要してしまう。
【0008】
以上のことから、本発明は前述した課題を解決するために為されたものであって、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができる研削工具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決する第1の発明に係る研削工具の製造方法は、
ワークを研削加工する研削工具の砥粒を型の上に配置し、
前記型に対向すると共に当該型に対し隙間を有して前記研削工具の台金を配置し、
前記砥粒が配置された前記型と前記台金とを無電解めっき液が貯留されためっき液槽内に配置し、
前記隙間に前記無電解めっき液を流し、当該台金の表面にめっき層を成長させて、前記めっき層により前記砥粒を当該台金に固定した研削工具を製造する
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第2の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1の発明に係る研削工具の製造方法であって、
前記台金として、当該台金の表面に下地めっきが処理されたものを用いる
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第3の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1または第2の発明に係る研削工具の製造方法であって、
前記型として、当該型の表面に接着剤が塗布されたものを用いる
ことを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第4の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1乃至第3の発明の何れか1つに係る研削工具の製造方法であって、
前記台金の表面に前記めっき層を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくする
ことを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第5の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1乃至第4の発明の何れか1つに係る研削工具の製造方法であって、
前記隙間をスペーサまたは支持具で調整する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る研削工具の製造方法によれば、上述した手順で研削工具を製造することで、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一番目の実施形態に係る研削工具の製造方法の手順を説明するための図であって、図1(a)に前処理工程、図1(b)に準備工程を示し、図1(c)に第1の砥粒固定処理工程、図1(d)に第2の砥粒固定処理工程を示す。
【図2】図1(b)におけるII−II矢視断面図である。
【図3】第1の砥粒固定処理工程の一例を説明するための図である。
【図4】研削工具の概略図であって、図4(a)にその正面、図4(b)にその背面、図4(c)にその側面を示す。
【図5】従来の研削工具の砥粒をドレッサーでツルーイングする工程を説明するための図であって、図5(a)にその概略を示し、図5(b)に図5(a)における囲み線Vの拡大を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る研削工具の製造方法について、第一番目および第二番目の実施形態にて具体的に説明する。
【0017】
[第一番目の実施形態]
本発明の第一番目の実施形態に係る研削砥石の製造方法について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0018】
最初に、図1(a)に示すように、研削工具の台金11と、後述する研削工具の砥粒14を所定の配置状態で搭載することができる型21とを用意する。型21の表面21には、複数の砥粒14が複数層ではなく1層で配置されている。
【0019】
ここでは、台金11として、前処理(アルカリ洗浄、電解洗浄、酸洗浄、下地めっき処理)が予め施されて台金11の表面11aに下地めっき層12が作製されたものを用いる。下地めっき層12の材料としては、電気めっき法で作製されたニッケルめっきなどが挙げられる。これにより、下地めっき層12の表面12aに後述する固定めっき層13を効率良く成長させることができる。なお、台金11として、台金11の表面11aに下地めっき処理を施さないものを用いることも可能であり、その場合には、後述する固定めっき処理を施さない箇所にめっきレジストを施したものを用いることが可能である。
【0020】
型21として所要形状に精密加工された面21aを有するものが用いられる。型21の表面21a(砥粒14が配置される面)に、砥粒14を仮固定し後述する固定めっき層13により砥粒14を台金11に固定する力よりも弱い接着力を有する接着剤、例えばエポキシ系熱硬化性樹脂を塗布することも可能である。これにより、複数の砥粒14を複数層ではなく1層での搭載を確実に行うことができる上に、後述する固定めっき層13を成長させる工程において、無電解めっき液31の流れにより砥粒14の位置がずれることを防止できる。型21の材質としては、不導体膜を生じて無電解めっきされ難い材質、例えばSUS304などが挙げられる。
【0021】
続いて、型21に砥粒14が配置された面21aと、台金11に下地めっき層12が施された面12aとを向かい合わせて配置するとともに、型21の表面21aと台金11の下地めっき層12の表面12aとの間を一定の距離d1、例えば、砥粒14の平均粒径に50μm足した合計(砥粒14の平均粒径+50μm)程度離して配置する。このように型21と台金11とを配置する方法としては、例えば、図2に示すように所要隙間の大きさに見合ったスペーサ15を台金11と型21との間に入れる方法や、台金11を後述するめっき液槽32に支持部材で支持する方法などが挙げられる。スペーサ15としては、不導体膜を生じて無電解めっきされ難い材質、例えばSUS304などで作製されたものが挙げられる。これにより、隙間の大きさの調整が不要となり、その分作業効率が向上する。
【0022】
続いて、上述した位置関係に配置した型21および台金11を、無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置する。無電解めっき液31としては、Ni−P、Ni−BなどのNi合金無電解めっきが挙げられる。
【0023】
続いて、型21と台金11との間の隙間に強制的に無電解めっき液31を流通させる。例えば、図1(c)にて、図中左側にて、矢印F11で示す方向から図中右側に向かって、台金11と型21との間の隙間へ流通させるとともに、図中右側にて、台金11と型21との間の隙間から外側へ、矢印F12で示す方向へ流通させる。このとき、台金11の下地めっき層12と型21の表面21aとの間における無電解めっき液31の流通速度としては、平均流速0m/sより速く0.5m/s以下の範囲の速度が挙げられ、これにより、台金11の下地めっき層12の表面12aにのみ固定めっき層13を成長させることができる。無電解めっき液31の流通速度が0.5m/sよりも大きいと無電解めっき液31による固定めっき層の成長が妨げられてしまうためである。無電解めっき液31を強制的に流通させる手段としては、ポンプなどが挙げられる。なお、後述する第1および第2の砥粒固定処理工程にあっては、無電解めっき液31を台金11の下地めっき層12の表面12aに流通させている。
【0024】
固定めっき層13が成長し砥粒14まで達し、さらに固定めっき層13が成長し砥粒14が10%程度固定めっき層13で埋められる(第1の砥粒固定処理工程)。このように砥粒14が固定めっき層13で埋められた状態になったときに、型21を台金11から遠ざけ、ここでは、めっき液槽32から取り出し、引き続き固定めっき層13を成長させる(第2の砥粒固定処理工程)。言い換えると、台金11の表面に固定めっき層13を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくし、この状態にて引き続き固定めっき層13を成長させる。これにより、固定めっき層13の成長速度の低下を抑制できる。砥粒14が60%程度固定めっき層13に埋まった時点で、台金11をめっき液槽32から取り出し当該台金11を洗浄して、研削工具(研削砥石)が完成する。
【0025】
上述した手順で研削工具を製造することにより、型21の表面21aに複数の砥粒14を1層で予め並べておき、型21に対向すると共に当該型21に対し隙間を有して研削工具の台金11を配置し、砥粒14が配置された型21と台金11とを無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置し、隙間に無電解めっき液を流し、この状態にて台金11の下地めっき層12の表面12aに固定めっき層13を成長させて、固定めっき層13により砥粒14を研削工具の台金11に固定した研削工具が製造されることになる。これにより、台金11に固定された砥粒14の突き出し量が一定に揃えられる。その結果、台金11に砥粒14を固定した後に、砥粒の突き出し量を一定に揃えるツルーイングの作業を行う必要が無くなる。台金11に砥粒14を固定する固定めっき層13を成長させる際に、電気めっきによる手法を使用していないので、めっき液への導電体の混入の防止など、短絡を防ぐための作業を行う必要が無くなる。このように、作業が軽減され、その分研削工具を効率良く製造することができる。
【0026】
[第二番目の実施形態]
本発明の第二番目の実施形態に係る研削工具の製造方法について、図3および図4を参照して具体的に説明する。
本実施形態では、研削工具として円盤状の台金にて両方の側面部側の縁部近傍に砥部が設けられた研削砥石に適用した場合について説明する。また、本実施形態では、上述した第一番目の実施形態における第1の砥粒固定処理工程のみを変更している。
【0027】
本実施形態では、第一の砥粒固定処理工程にて、研削工具の台金51の砥粒58を所定の配置状態で搭載することができる型61と、型61に対し所定の隙間を有して研削工具の台金51を型61に支持させる支持具70とを用いる。
【0028】
型61の上面61aは、研削工具の台金51に対向する面を有する形状に形成されており、中心部の平坦部62と、平坦部62に連続する傾斜部63とで構成される。傾斜部63は、台金51を支持具70に固定し、当該支持具70を型61に固定したときに、台金51の傾斜部56との間が所定の大きさ、例えば、砥粒58の平均粒径に50μm足した合計(砥粒58の平均粒径+50μm)程度の大きさとなるように形成されている。型61には、後述する支持具70の固定部72が挿入可能な固定穴64と、型61の平坦部62と側部61bとを連通する連通穴65とが設けられる。連通穴65の一方の開口部65bには配管92を介してポンプ91に接続される。ポンプ91には排出管93が連結される。これにより、無電解めっき液31が、連通穴65、配管92、ポンプ91、および排出管93を通じて循環する。
【0029】
支持具70は、支持部71と固定部72とで構成される。支持部71は、台金51の一方の側部51aに沿う平板状に形成される。固定部72は、支持部71に連続し、軸状に形成される。
【0030】
第1の砥粒固定処理工程の前に、複数の砥粒58が積み重ならずに一層にて並んだ状態にて当該複数の砥粒58を型61の傾斜部63に配置する。
【0031】
第1の砥粒固定処理工程にて、まず、ボルト81およびナット82の締結具80により支持具70の支持部71に研削工具の台金51を固定する。
【0032】
続いて、支持具70の固定部72を型61の固定穴64に挿入し、台金51を、支持具70を介して型61に支持させる。このように支持具70により台金51の位置(高さ)を予め調整しているため、台金51の一方の側部51b側の傾斜部56と型61の傾斜部63との間の大きさを調整する作業を行う必要が無くなる。なお、研削工具の台金51の縁部51cおよび他方の側部51aにおける縁部51c近傍に複数の砥粒58を必要に応じて配置することもできる。
【0033】
上述した状態にて、台金51の傾斜部56と型61の傾斜部63との間に無電解めっき液31をポンプ91により流通させる。これにより、固定めっき層が成長して、複数の砥粒58が積み重ならずに一層にて並んだ状態にて当該複数の砥粒58を台金61の傾斜部63に固定することができる。続いて、固定めっき層を成長させて所定時間経過後に型61をめっき液槽32から取り出すなどして隙間を大きくして、固定めっき層をさらに成長させ、この台金51をめっき液槽32から取り出し当該台金51を洗浄することで、図4に示すように、縁部近傍に砥粒58が固定された砥部59を具備する研削工具50を容易に製作することができる。さらに、支持具70により台金51を型61に固定するため、研削工具の台金51と型61との位置合わせを高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る研削工具の製造方法は、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができるため、工作機械産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0035】
11 台金
12 下地めっき層
13 固定めっき層
14 砥粒
21 型
31 無電解めっき液
32 めっき液槽
50 研削工具
51 台金
61 型
70 支持具
80 締結具
91 ポンプ
100 研削工具
101 台金
102 下地めっき層
103 固定めっき層
104 砥粒
106 砥部
110 ツルアー
111 作用部
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼鋳物などの仕上げ加工に、ダイヤモンド砥粒やcBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒などの硬質粒子を台金の砥部(作用部)に電着法により固着させた研削工具が用いられている。
【0003】
ところで、砥粒先端を揃えることにより、加工ワーク(研削工具をドレッサーとして使用した場合は研削砥石)の寸法精度や面粗度が良くなるばかりでなく、作用砥粒数(研削に関与する砥粒の数量)が大幅に増加するので研削工具の寿命も向上することが知られている。
【0004】
例えば、図5に示すように、研削工具100の砥部106、具体的には、研削工具100の台金101の表面に下地めっき層102を介して固定めっき層103に固定された砥粒104,105をロータリードレッサーなどのツルアー110の作用部111でツルーイングすることにより、不揃いな砥粒104の先端を削り落として砥粒先端を揃えている。この方法を用いた場合、砥粒105のように砥粒先端105aが平坦(目潰れ状態)となり、切れ味が落ちてしまう。研削工具100の砥粒104,105がダイヤモンドである場合には、ツルアーの作用部(ダイヤモンド砥粒)111の摩耗が激しく、ツルーイングに多大な時間とコストを要してしまう。
【0005】
このような問題を解決するため、ツルーイングの工程を省いた研削工具の製造方法が種々開発されている。例えば、特許文献1では、台金の歯面の上に低融点合金層、白金めっき層を順番に形成し、次いで、低誘電合金層を溶融除去してできた空間に砥粒を充填し、砥粒を電気めっき処理で歯面に結合させ、その後、白金めっき層を取り除くことにより、砥粒先端を揃えるドレスギヤの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−106481号公報(例えば、段落[0014]〜[0019]、[図7],[図9],[図10]など参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたドレスギヤの製造方法では、電流密度が下地めっきの表面全体に亘って均一にならず固定めっきの成長速度にばらつきが生じて、台金と白金電極とが短絡してしまう可能性があった。台金と白金電極とを近接して配置しているため、台金のズレ、めっき液に混入する導電体の異物などに起因して台金と白金電極とが短絡してしまう可能性もあった。そのため、固定めっき層の観察、台金の固定、めっき液中の導電体の異物の除去など、多大な作業を要してしまう。
【0008】
以上のことから、本発明は前述した課題を解決するために為されたものであって、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができる研削工具の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決する第1の発明に係る研削工具の製造方法は、
ワークを研削加工する研削工具の砥粒を型の上に配置し、
前記型に対向すると共に当該型に対し隙間を有して前記研削工具の台金を配置し、
前記砥粒が配置された前記型と前記台金とを無電解めっき液が貯留されためっき液槽内に配置し、
前記隙間に前記無電解めっき液を流し、当該台金の表面にめっき層を成長させて、前記めっき層により前記砥粒を当該台金に固定した研削工具を製造する
ことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決する第2の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1の発明に係る研削工具の製造方法であって、
前記台金として、当該台金の表面に下地めっきが処理されたものを用いる
ことを特徴とする。
【0011】
上述した課題を解決する第3の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1または第2の発明に係る研削工具の製造方法であって、
前記型として、当該型の表面に接着剤が塗布されたものを用いる
ことを特徴とする。
【0012】
上述した課題を解決する第4の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1乃至第3の発明の何れか1つに係る研削工具の製造方法であって、
前記台金の表面に前記めっき層を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくする
ことを特徴とする。
【0013】
上述した課題を解決する第5の発明に係る研削工具の製造方法は、
第1乃至第4の発明の何れか1つに係る研削工具の製造方法であって、
前記隙間をスペーサまたは支持具で調整する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る研削工具の製造方法によれば、上述した手順で研削工具を製造することで、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一番目の実施形態に係る研削工具の製造方法の手順を説明するための図であって、図1(a)に前処理工程、図1(b)に準備工程を示し、図1(c)に第1の砥粒固定処理工程、図1(d)に第2の砥粒固定処理工程を示す。
【図2】図1(b)におけるII−II矢視断面図である。
【図3】第1の砥粒固定処理工程の一例を説明するための図である。
【図4】研削工具の概略図であって、図4(a)にその正面、図4(b)にその背面、図4(c)にその側面を示す。
【図5】従来の研削工具の砥粒をドレッサーでツルーイングする工程を説明するための図であって、図5(a)にその概略を示し、図5(b)に図5(a)における囲み線Vの拡大を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る研削工具の製造方法について、第一番目および第二番目の実施形態にて具体的に説明する。
【0017】
[第一番目の実施形態]
本発明の第一番目の実施形態に係る研削砥石の製造方法について、図1および図2を参照して詳細に説明する。
【0018】
最初に、図1(a)に示すように、研削工具の台金11と、後述する研削工具の砥粒14を所定の配置状態で搭載することができる型21とを用意する。型21の表面21には、複数の砥粒14が複数層ではなく1層で配置されている。
【0019】
ここでは、台金11として、前処理(アルカリ洗浄、電解洗浄、酸洗浄、下地めっき処理)が予め施されて台金11の表面11aに下地めっき層12が作製されたものを用いる。下地めっき層12の材料としては、電気めっき法で作製されたニッケルめっきなどが挙げられる。これにより、下地めっき層12の表面12aに後述する固定めっき層13を効率良く成長させることができる。なお、台金11として、台金11の表面11aに下地めっき処理を施さないものを用いることも可能であり、その場合には、後述する固定めっき処理を施さない箇所にめっきレジストを施したものを用いることが可能である。
【0020】
型21として所要形状に精密加工された面21aを有するものが用いられる。型21の表面21a(砥粒14が配置される面)に、砥粒14を仮固定し後述する固定めっき層13により砥粒14を台金11に固定する力よりも弱い接着力を有する接着剤、例えばエポキシ系熱硬化性樹脂を塗布することも可能である。これにより、複数の砥粒14を複数層ではなく1層での搭載を確実に行うことができる上に、後述する固定めっき層13を成長させる工程において、無電解めっき液31の流れにより砥粒14の位置がずれることを防止できる。型21の材質としては、不導体膜を生じて無電解めっきされ難い材質、例えばSUS304などが挙げられる。
【0021】
続いて、型21に砥粒14が配置された面21aと、台金11に下地めっき層12が施された面12aとを向かい合わせて配置するとともに、型21の表面21aと台金11の下地めっき層12の表面12aとの間を一定の距離d1、例えば、砥粒14の平均粒径に50μm足した合計(砥粒14の平均粒径+50μm)程度離して配置する。このように型21と台金11とを配置する方法としては、例えば、図2に示すように所要隙間の大きさに見合ったスペーサ15を台金11と型21との間に入れる方法や、台金11を後述するめっき液槽32に支持部材で支持する方法などが挙げられる。スペーサ15としては、不導体膜を生じて無電解めっきされ難い材質、例えばSUS304などで作製されたものが挙げられる。これにより、隙間の大きさの調整が不要となり、その分作業効率が向上する。
【0022】
続いて、上述した位置関係に配置した型21および台金11を、無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置する。無電解めっき液31としては、Ni−P、Ni−BなどのNi合金無電解めっきが挙げられる。
【0023】
続いて、型21と台金11との間の隙間に強制的に無電解めっき液31を流通させる。例えば、図1(c)にて、図中左側にて、矢印F11で示す方向から図中右側に向かって、台金11と型21との間の隙間へ流通させるとともに、図中右側にて、台金11と型21との間の隙間から外側へ、矢印F12で示す方向へ流通させる。このとき、台金11の下地めっき層12と型21の表面21aとの間における無電解めっき液31の流通速度としては、平均流速0m/sより速く0.5m/s以下の範囲の速度が挙げられ、これにより、台金11の下地めっき層12の表面12aにのみ固定めっき層13を成長させることができる。無電解めっき液31の流通速度が0.5m/sよりも大きいと無電解めっき液31による固定めっき層の成長が妨げられてしまうためである。無電解めっき液31を強制的に流通させる手段としては、ポンプなどが挙げられる。なお、後述する第1および第2の砥粒固定処理工程にあっては、無電解めっき液31を台金11の下地めっき層12の表面12aに流通させている。
【0024】
固定めっき層13が成長し砥粒14まで達し、さらに固定めっき層13が成長し砥粒14が10%程度固定めっき層13で埋められる(第1の砥粒固定処理工程)。このように砥粒14が固定めっき層13で埋められた状態になったときに、型21を台金11から遠ざけ、ここでは、めっき液槽32から取り出し、引き続き固定めっき層13を成長させる(第2の砥粒固定処理工程)。言い換えると、台金11の表面に固定めっき層13を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくし、この状態にて引き続き固定めっき層13を成長させる。これにより、固定めっき層13の成長速度の低下を抑制できる。砥粒14が60%程度固定めっき層13に埋まった時点で、台金11をめっき液槽32から取り出し当該台金11を洗浄して、研削工具(研削砥石)が完成する。
【0025】
上述した手順で研削工具を製造することにより、型21の表面21aに複数の砥粒14を1層で予め並べておき、型21に対向すると共に当該型21に対し隙間を有して研削工具の台金11を配置し、砥粒14が配置された型21と台金11とを無電解めっき液31が貯留されためっき液槽32内に配置し、隙間に無電解めっき液を流し、この状態にて台金11の下地めっき層12の表面12aに固定めっき層13を成長させて、固定めっき層13により砥粒14を研削工具の台金11に固定した研削工具が製造されることになる。これにより、台金11に固定された砥粒14の突き出し量が一定に揃えられる。その結果、台金11に砥粒14を固定した後に、砥粒の突き出し量を一定に揃えるツルーイングの作業を行う必要が無くなる。台金11に砥粒14を固定する固定めっき層13を成長させる際に、電気めっきによる手法を使用していないので、めっき液への導電体の混入の防止など、短絡を防ぐための作業を行う必要が無くなる。このように、作業が軽減され、その分研削工具を効率良く製造することができる。
【0026】
[第二番目の実施形態]
本発明の第二番目の実施形態に係る研削工具の製造方法について、図3および図4を参照して具体的に説明する。
本実施形態では、研削工具として円盤状の台金にて両方の側面部側の縁部近傍に砥部が設けられた研削砥石に適用した場合について説明する。また、本実施形態では、上述した第一番目の実施形態における第1の砥粒固定処理工程のみを変更している。
【0027】
本実施形態では、第一の砥粒固定処理工程にて、研削工具の台金51の砥粒58を所定の配置状態で搭載することができる型61と、型61に対し所定の隙間を有して研削工具の台金51を型61に支持させる支持具70とを用いる。
【0028】
型61の上面61aは、研削工具の台金51に対向する面を有する形状に形成されており、中心部の平坦部62と、平坦部62に連続する傾斜部63とで構成される。傾斜部63は、台金51を支持具70に固定し、当該支持具70を型61に固定したときに、台金51の傾斜部56との間が所定の大きさ、例えば、砥粒58の平均粒径に50μm足した合計(砥粒58の平均粒径+50μm)程度の大きさとなるように形成されている。型61には、後述する支持具70の固定部72が挿入可能な固定穴64と、型61の平坦部62と側部61bとを連通する連通穴65とが設けられる。連通穴65の一方の開口部65bには配管92を介してポンプ91に接続される。ポンプ91には排出管93が連結される。これにより、無電解めっき液31が、連通穴65、配管92、ポンプ91、および排出管93を通じて循環する。
【0029】
支持具70は、支持部71と固定部72とで構成される。支持部71は、台金51の一方の側部51aに沿う平板状に形成される。固定部72は、支持部71に連続し、軸状に形成される。
【0030】
第1の砥粒固定処理工程の前に、複数の砥粒58が積み重ならずに一層にて並んだ状態にて当該複数の砥粒58を型61の傾斜部63に配置する。
【0031】
第1の砥粒固定処理工程にて、まず、ボルト81およびナット82の締結具80により支持具70の支持部71に研削工具の台金51を固定する。
【0032】
続いて、支持具70の固定部72を型61の固定穴64に挿入し、台金51を、支持具70を介して型61に支持させる。このように支持具70により台金51の位置(高さ)を予め調整しているため、台金51の一方の側部51b側の傾斜部56と型61の傾斜部63との間の大きさを調整する作業を行う必要が無くなる。なお、研削工具の台金51の縁部51cおよび他方の側部51aにおける縁部51c近傍に複数の砥粒58を必要に応じて配置することもできる。
【0033】
上述した状態にて、台金51の傾斜部56と型61の傾斜部63との間に無電解めっき液31をポンプ91により流通させる。これにより、固定めっき層が成長して、複数の砥粒58が積み重ならずに一層にて並んだ状態にて当該複数の砥粒58を台金61の傾斜部63に固定することができる。続いて、固定めっき層を成長させて所定時間経過後に型61をめっき液槽32から取り出すなどして隙間を大きくして、固定めっき層をさらに成長させ、この台金51をめっき液槽32から取り出し当該台金51を洗浄することで、図4に示すように、縁部近傍に砥粒58が固定された砥部59を具備する研削工具50を容易に製作することができる。さらに、支持具70により台金51を型61に固定するため、研削工具の台金51と型61との位置合わせを高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る研削工具の製造方法は、ツルーイングすることなく、砥粒先端を揃えた研削工具を効率良く製作することができるため、工作機械産業にとって有用である。
【符号の説明】
【0035】
11 台金
12 下地めっき層
13 固定めっき層
14 砥粒
21 型
31 無電解めっき液
32 めっき液槽
50 研削工具
51 台金
61 型
70 支持具
80 締結具
91 ポンプ
100 研削工具
101 台金
102 下地めっき層
103 固定めっき層
104 砥粒
106 砥部
110 ツルアー
111 作用部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを研削加工する研削工具の砥粒を型の上に配置し、
前記型に対向すると共に当該型に対し隙間を有して前記研削工具を配置し、
前記砥粒が配置された前記型と前記台金とを無電解めっき液が溜められためっき液槽内に配置し、
前記隙間に前記無電解めっき液を流し、当該台金の表面にめっき層を成長させて、前記めっき層により前記砥粒を当該台金に固定した研削工具を製造する
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された研削工具の製造方法であって、
前記台金として、当該台金の表面に下地めっきが処理されたものを用いる
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された研削工具の製造方法であって、
前記型として、当該型の表面に接着剤が塗布されたものを用いる
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された研削工具の製造方法であって、
前記台金の表面に前記めっき層を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくする
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載された研削工具の製造方法であって、
前記隙間をスペーサまたは支持具で調整する
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項1】
ワークを研削加工する研削工具の砥粒を型の上に配置し、
前記型に対向すると共に当該型に対し隙間を有して前記研削工具を配置し、
前記砥粒が配置された前記型と前記台金とを無電解めっき液が溜められためっき液槽内に配置し、
前記隙間に前記無電解めっき液を流し、当該台金の表面にめっき層を成長させて、前記めっき層により前記砥粒を当該台金に固定した研削工具を製造する
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された研削工具の製造方法であって、
前記台金として、当該台金の表面に下地めっきが処理されたものを用いる
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された研削工具の製造方法であって、
前記型として、当該型の表面に接着剤が塗布されたものを用いる
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載された研削工具の製造方法であって、
前記台金の表面に前記めっき層を成長させる際、所定時間経過後に前記隙間を大きくする
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載された研削工具の製造方法であって、
前記隙間をスペーサまたは支持具で調整する
ことを特徴とする研削工具の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2011−115907(P2011−115907A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276207(P2009−276207)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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