説明

研磨カス飛散防止組成物

【課題】爪または皮膚を研磨した際に生じる研磨カスを消毒しつつ、研磨カスの飛散を防止することができる、研磨カス飛散防止組成物を提供すること。
【解決手段】研磨カス飛散防止組成物は、エタノールなどのアルコールを50〜90質量%、ヒドロキシプロピルセルロースなどの増粘用高分子を3〜10質量%、グルコマンナンなどのゲル化剤を2〜10質量%含有する。研磨カス飛散防止組成物は、さらに、サリチル酸などの角質軟化剤を0.1〜30質量%、尿素などのケラチン保護剤を5〜30質量%含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爪または皮膚を研磨した際に生じる研磨カスを消毒しつつ、研磨カスの飛散を防止する、研磨カス飛散防止組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白癬は、白癬菌と称される真菌の感染により生じる皮膚感染症の一種である。白癬は、白癬菌が感染した部位により名称が異なっている。たとえば、白癬菌が足に感染した場合は「足白癬」と呼ばれ、白癬菌が爪に感染した場合は「爪白癬」と呼ばれる。足白癬は日本人の5人に1人が罹患しており、爪白癬は日本人の10人に1人が罹患しているといわれている。
【0003】
爪白癬の症状としては爪の肥厚や変形などがよく知られているが、爪周囲炎となることもある。また、糖尿病患者では壊疽に進展することもある。糖尿病患者では足白癬や爪白癬などに罹患しやすいといわれている。近年、足白癬または爪白癬を発症している糖尿病患者の数が増加しており、診療上の重要な項目となっている。実際、糖尿病患者に対するフットケア(爪甲切除や角質除去など)について、2008年より糖尿病合併症管理料の加算が認められている。
【0004】
足白癬および爪白癬は、室内環境において感染が拡大することが多い。感染の拡大を防止するためには、患者由来の白癬菌の拡散を防止するとともに、室内環境の除菌が重要である。
【0005】
一方、特許文献1には、アルコールを含む速乾性の手指消毒殺菌剤が記載されている。この速乾性手指消毒殺菌剤は、殺菌消毒剤としてのアルコール溶液と、ゲル化させるための樹脂ポリマーおよびグルコマンナンとを含有する。特許文献1に記載の速乾性手指消毒殺菌剤では、手のひらに刷り込みやすく、かつ速乾性を実現できる粘度とするために、樹脂ポリマーの含有量が2.0質量%以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−086408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
爪白癬の患者に対するフットケアでは、白癬菌が感染した爪をグラインダーや爪やすりなどを用いて研磨することが多い。また、足白癬の患者に対するフットケアでは、白癬菌が感染して肥厚した皮膚を角質やすりなどを用いて滑らかにすることがある。このように爪または皮膚を研磨すると、多量の研磨カスが発生し、白癬菌が付着した研磨カスが飛散する。白癬菌が付着した研磨カスが飛散してしまうと、白癬菌の感染が拡大するおそれがある。以上の理由により、爪白癬または足白癬の患者に対してフットケアを行う現場では、白癬菌の感染を防止する手段の開発が求められている。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、爪または皮膚を研磨した際に生じる研磨カスを消毒しつつ、研磨カスの飛散を防止することができる、研磨カス飛散防止組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の研磨カス飛散防止組成物に関する。
[1]アルコールを50〜90質量%、増粘用高分子を3〜10質量%、ゲル化剤を2〜10質量%含有する、研磨カス飛散防止組成物。
[2]前記アルコールは、エタノール、イソプロパノールまたはこれらの組み合わせである、[1]に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[3]前記増粘用高分子は、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマーまたはこれらの組み合わせである、[1]または[2]に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[4]前記ゲル化剤は、グルコマンナン、カラギーナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、アルギン酸、タラガム、トラガントガム、カードラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、デンプンおよびセルロースからなる群から選択される1または2以上の多糖類である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[5]さらに角質軟化剤を0.1〜30質量%含有する、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[6]前記角質軟化剤は、サリチル酸、グリコール酸、乳酸、フルーツ酸またはこれらの組み合わせである、[5]に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[7]さらにケラチン保護剤を5〜30質量%含有する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の研磨カス飛散防止組成物。
[8]前記ケラチン保護剤は、尿素、ケラチンまたはこれらの組み合わせである、[7]に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、爪または皮膚を研磨した際に生じる研磨カスを消毒しつつ、研磨カスの飛散を防止することができる。したがって、本発明によれば、爪白癬または足白癬の患者に対してフットケアを行う際に、白癬菌の感染が拡大することを予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の組成物を塗布して爪を研磨した様子を示す写真
【図2】足の爪に蛍光性トップコートを塗布する様子を示す写真
【図3】本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨した様子を示す写真
【図4】本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨した様子を示す写真
【図5】爪の研磨カスの最大飛散距離を計測する様子を示す写真
【図6】アルコールを含ませた綿で研磨後の足の甲を拭いた後の様子を示す写真
【図7】本発明の組成物を塗布して爪を研磨した様子を示す写真
【図8】本発明の組成物を塗布した場合および塗布しなかった場合における、足の爪の研磨カスの最大飛散距離を示すグラフ
【図9】本発明の組成物を塗布した場合および塗布しなかった場合における、手の爪の研磨カスの最大飛散距離を示すグラフ
【図10】超音波検査用ゲルまたは本発明の組成物を塗布して爪を研磨した様子を示す写真
【図11】爪の研磨カスを採取した様子を示す写真
【図12】抗白癬菌試験の培養9日目の様子を示す写真
【図13】抗白癬菌試験の培養9日目の様子を示す写真
【図14】抗白癬菌試験の培養9日目の様子を示す写真
【図15】抗白癬菌試験の培養9日目の様子を示す写真
【図16】本発明の組成物を塗布して足の裏の皮膚を研磨した様子を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の研磨カス飛散防止組成物(以下「本発明の組成物」ともいう)は、アルコールを50〜90質量%、増粘用高分子を3〜10質量%、ゲル化剤を2〜10質量%含有する。
【0013】
アルコールは、殺菌消毒剤として機能する。アルコールの種類は、殺菌(殺真菌を含む)作用を有し、人体に対する毒性が低いものであれば特に限定されない。そのようなアルコールの例には、エタノールやイソプロパノールなどが含まれる。これらのアルコールは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
本発明の組成物中のアルコールの含有量は、殺菌効果および他の成分を添加する観点から、50〜90質量%の範囲内が好ましく、60〜80質量%の範囲内がより好ましい。
【0015】
一例として、エタノールを75質量%含有する組成物(例えば、75質量%エタノール水溶液)の殺菌効果を表1に示す。
【表1】

【0016】
表1に示されるように、白癬菌などの真菌(糸状菌)を死滅させるためには、アルコールを2分以上接触させる必要がある。したがって、速乾性の手指消毒殺菌剤では、アルコールがすぐに揮発してしまうため、グラム陽性球菌などは死滅させることができても、糸状菌を死滅させることはできない。そこで、本発明の組成物では、アルコールの蒸発速度を低減させるとともに、爪または皮膚の研磨カスの飛散を防止するために、増粘用高分子およびゲル化剤を配合することとした。
【0017】
増粘用高分子の種類は、アルコールまたはアルコール溶液の粘度を所望の粘度に調整できるものであれば特に限定されない。そのような増粘用高分子の例には、ヒドロキシプロピルセルロースやカルボキシビニルポリマーなどが含まれる。これらの高分子は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の組成物中の増粘用高分子の含有量は、3〜10質量%の範囲内が好ましい。増粘用高分子の含有量が3質量%未満の場合、粘度が小さすぎるため、爪または皮膚の研磨カスを十分に捕らえることができない。また、アルコールがすぐに蒸発してしまうため、真菌を死滅させることもできない。一方、増粘用高分子の含有量が10質量%超の場合、粘度が大きすぎるため、使用感が低下してしまう。
【0019】
ゲル化剤の種類は、アルコールまたはアルコール溶液をゲル化できるものであれば特に限定されない。そのようなゲル化剤の例には、グルコマンナンやカラギーナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、アルギン酸、タラガム、トラガントガム、カードラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、デンプンおよびセルロースなどの、アルコール非溶解性かつ水溶性の多糖類が含まれる。これらの多糖類は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の組成物は、さらに角質軟化剤を0.1〜30質量%、ケラチン保護剤を5〜30質量%含有することが好ましい。本発明の組成物は、角質軟化剤およびケラチン保護剤の一方のみを含有していてもよいし、両方を含有していてもよい。角質軟化剤を配合することで、爪または皮膚の研磨面をより滑らかにすることができ、研磨後の爪または皮膚の美観を向上させることができる。また、ケラチン保護剤を配合することで、研磨後の爪または皮膚に対する保護効果や美容的効果(例えば、保湿効果など)を向上させることができる。
【0021】
角質軟化剤の種類は、角質溶解作用および/または角質軟化作用を有するものであれば特に限定されない。そのような角質軟化剤の例には、サリチル酸やグリコール酸、乳酸、フルーツ酸などが含まれる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。サリチル酸は、角質軟化作用に加えて抗真菌作用も有しているため、本発明の組成物に配合する角質軟化剤として特に好ましい。
【0022】
ケラチン保護剤の種類は、ケラチン保護作用を有するものであれば特に限定されない。そのようなケラチン保護剤の例には、尿素やケラチンなどが含まれる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
その他、本発明の組成物は、任意成分として、塩酸テルビナフィンなどの抗真菌薬;塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジンなどの殺菌消毒薬;天然保湿成分やビタミン製剤、ヒアルロン酸、スクワランなどの保湿剤;グリセリンやマクロゴール、アラビアゴムなどの粘性調整剤などを含有していてもよい。アラビアゴムは、粘性調整剤としてだけでなく、薬液定着剤としての効果も期待できる。
【0024】
本発明の組成物のpHは、特に限定されない。たとえば、本発明の組成物のpHは、添加成分などに応じて2〜8の範囲内で調整される。
【0025】
本発明の組成物の調製方法は、特に限定されない。たとえば、アルコール水溶液に増粘用高分子やゲル化剤、角質軟化剤、ケラチン保護剤などを添加し、攪拌することで、本発明の組成物を調製することができる。高濃度のアルコール水溶液に増粘用高分子やゲル化剤などを直接添加すると、増粘用高分子やゲル化剤などが凝固してしまうことがある。このような場合、低濃度または中濃度のアルコール水溶液(例えば、40〜60%エタノール水溶液)に増粘用高分子およびゲル化剤を一旦溶解させた後、この溶液に高濃度のアルコール水溶液(例えば、80%エタノール水溶液〜100%エタノール)をさらに添加すればよい(実施例参照)。このようにすることで、増粘用高分子やゲル化剤などの凝固を防止しつつ、高濃度のアルコールを含む本発明の組成物を調製することができる。
【0026】
本発明の組成物は、ゲル状であり、研磨しようとする爪または皮膚に塗布されて使用される。本発明の組成物を塗布した爪または皮膚をグラインダーや爪やすり、角質やすりなどを用いて研磨すると、爪または皮膚の研磨カスは周囲に飛散することなく本発明の組成物内に捕捉される。本発明の組成物は、アルコールの蒸発および研磨時の振動により、研磨カスを包含した状態でそのまま固形化する。したがって、固形化した組成物をティッシュなどで拭き取ることで、研磨カスを飛散させずに爪または皮膚の研磨を終えることができる(実施例参照)。
【0027】
また、本発明の組成物はアルコールが配合されており、かつ高い粘度を有するため、本発明の組成物に捕捉された研磨カスは一定時間(例えば、10分間)アルコールと接触することになる。したがって、アルコールと接触させることですぐに死滅する細菌だけでなく、アルコールと一定時間接触させなければ死滅させることができない真菌(例えば、白癬菌)までも、本発明の組成物中において死滅させることができる(実施例参照)。
【0028】
以上のように、本発明の研磨カス飛散防止組成物は、爪または皮膚を研磨した際に生じる研磨カスを消毒しつつ、研磨カスの飛散を防止することができる。たとえば、本発明の研磨カス飛散防止組成物を用いることで、白癬菌の感染拡大を防止しつつ、爪白癬または足白癬の患者に対してフットケアを行うことができる。また、本発明の研磨カス飛散防止組成物は、フットケアだけでなく美容的ネイルケアおよびスキンケアにも使用することができる。
【0029】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
実施例1では、本発明の研磨カス飛散防止組成物を用いて爪を研磨した例を示す。
【0031】
1.研磨カス飛散防止組成物の調製
50%エタノール水溶液50mLに、ヒドロキシプロピルセルロース5g、グルコマンナン4gおよび尿素10gを混和して、第1の溶液を調製した。一方、100%エタノール50mLに、サリチル酸3gを混和して、第2の溶液を調製した。第1の溶液と第2の溶液を混和して、白色〜透明のゲル状組成物(本発明の研磨カス飛散防止組成物)を調製した。
【0032】
得られたゲル状組成物(pH2.5)の組成を表2に示す。
【表2】

【0033】
図1は、調製したゲル状組成物を使用して爪を研磨した様子を示す写真である。これらの写真に示されるように、調製したゲル状組成物を足の爪に塗布し(図1A参照)、グラインダー(ミニルーターNo.28510;プロクソン社)を用いて爪を研磨したところ(図1B参照)、研磨カスはほとんど飛散しなかった。研磨カスは、爪の周囲に付着している固形化したゲルの中に包含されていた(図1C参照)。
【0034】
2.研磨カスの飛散防止効果の確認
本発明の組成物による研磨カスの飛散防止効果を確認するために、研磨カスの飛散距離を測定した。
【0035】
本実験では、紫外線を照射すると蛍光を発する爪用トップコート(カッピングシーラー;スターネイル社)を用いて、足の爪の研磨カスの飛散距離を測定した。図2は、足の爪に蛍光性トップコートを塗布する様子を示す写真である。図2Aは、蛍光性トップコートを塗布する前の足の親指の写真である(可視光を照射して撮影)。図2Bは、蛍光性トップコートを塗布した後の足の親指の写真である(紫外線を照射して撮影)。
【0036】
図3および図4は、蛍光性トップコートを塗布し、ゲル状組成物を塗布していない爪を研磨した様子を示す写真である。図3は、低速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真であり、図4は、高速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真である。
【0037】
低速回転のグラインダーを用いて研磨した場合、図3Aに示されるように、蛍光性トップコートが付着した研磨カスは爪の周囲および作業台上に飛散した。また、図3Bおよび図3Cに示されるように、蛍光性トップコートが付着した研磨カスは施術者の両手にも付着していた。
【0038】
また、高速回転のグラインダーを用いて研磨した場合、図4Aおよび図4Bに示されるように、研磨カスの飛散範囲が拡大した。また、研磨カスは施術者の両腕(前腕および上腕)やマスクなどにも付着していた。
【0039】
図5Aおよび図5Bに示されるように、高速回転のグラインダーを用いて研磨したときの研磨カスの最大飛散距離を計測した。その結果、ゲル状組成物を塗布せずに爪を研磨した場合、研磨カスの最大飛散距離の平均値は52.5cmであった(n=15)。
【0040】
図6は、アルコールを含ませた綿で研磨後の足の甲を拭いた後の様子を示す写真である。図6Aに示されるように、可視光で観察すると研磨カスがほとんど除去されたように見えたが、図6Bに示されるように、紫外線を照射すると微細な研磨カスが残存していることがわかった。このことから、研磨カスが一旦飛散してしまうと、研磨カスを完全に除去するのは困難であることがわかる。
【0041】
図7は、蛍光性トップコートを塗布した上で、ゲル状組成物も塗布した爪を研磨した様子を示す写真である。図7Aは、高速回転のグラインダーを用いて5分間研磨した様子を示す写真であり、図7Bは、研磨後に研磨カスの最大飛散距離を計測した様子を示す写真である。
【0042】
図7Aおよび図7Bに示されるように、ゲル状組成物を塗布した上で爪を研磨した場合、研磨カスの最大飛散距離の平均値は23.9cmであった(n=15)。
【0043】
図8は、ゲル状組成物を塗布した場合および塗布しなかった場合における、高速回転のグラインダーを用いて研磨したときの研磨カスの最大飛散距離を示すグラフである。このグラフから、本発明の組成物を塗布することで、研磨カスの飛散距離を有意に減少させうることがわかる。
【0044】
図9は、爪やすりを用いて手指の爪に対して同様の実験を行ったときの実験結果を示すグラフである。このグラフに示されるように、本発明の組成物を塗布せずに研磨すると、研磨カスが平均13cm飛散したが、本発明の組成物を塗布することで、研磨カスの飛散を完全に防止することができた。
【0045】
また、本発明の組成物の代わりに、市販されている超音波検査用のゲル(ソノゼリー;東芝医療用品株式会社)を用いても研磨カスの飛散を抑制できるかどうかを調べた。図10は、その結果を示す写真である。図10Aは、超音波検査用ゲルを塗布した上で、グラインダーを用いて爪を研磨した後の様子を示す写真である。図10Bは、本発明の組成物を塗布した上で、グラインダーを用いて爪を研磨した後の様子を示す写真である。
【0046】
図10Aに示されるように、市販の超音波検査用ゲルを塗布しても、研磨カスの飛散を防止することはできなかった。一方、図10Bに示されるように、本発明の組成物を塗布した場合は、研磨カスの飛散はほとんど観察されなかった。これは、本発明の組成物と超音波検査用ゲルとの粘度の違いによるものと考えられる。すなわち、本発明の組成物は、研磨カスの飛散を防ぐのに好適な粘度に調整されているのに対し、超音波検査用ゲルは、超音波検査に好適な粘度に調整されており、研磨カスの飛散を防ぐには粘度が低いためと考えられる。
【0047】
以上の結果から、本発明の組成物は、超音波検査用ゲルなどに比べて研磨カスの飛散防止効果に優れていることがわかる。
【0048】
3.抗白癬菌効果の確認
本発明の組成物による抗白癬菌効果を確認するために、培養実験を行った。
【0049】
爪白癬の患者から、本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨したときの研磨カス(足趾爪甲部およびその周辺部)を採取した。また、同一の患者から、本発明の組成物を塗布して爪を研磨したときの研磨カス(足趾爪甲部およびその周辺部)も採取した。
【0050】
図11は、研磨カスを採取する様子を示す写真である。図11Aに示されるように、本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨した場合は、飛散した研磨カスを採取した。一方、図11Bに示されるように、本発明の組成物を塗布して爪を研磨した場合は、固形化したゲル(研磨カスを包含する)を採取した。
【0051】
採取した研磨カスまたはゲルを、滅菌綿棒を用いてサブローデキストロース寒天培地(血清成分添加)上に塗抹した。塗抹後の培地は、30℃の恒温槽内に静置した。
【0052】
図12は、培養9日目の様子を示す写真である。左側が本発明の組成物を塗布して爪を研磨したときの研磨カス(固形化したゲル)を塗抹した培地であり、右側が本発明の組成物を塗布せずに爪を研磨したときの研磨カス(飛散した研磨カス)を塗抹した培地である。この写真からわかるように、本発明の組成物を塗布しなかった場合は、研磨カスが糸状菌陽性であった(右側のシャーレ)。これに対し、本発明の組成物を塗布した場合は、研磨カスが糸状菌陰性であった(左側のシャーレ)。
【0053】
図13は、別の患者についての、培養9日目の様子を示す写真である。この患者でも、本発明の組成物を塗布しなかった場合、研磨カスは糸状菌陽性であった(右側のシャーレ)。これに対し、本発明の組成物を使用した場合、研磨カスは糸状菌陰性であった(左側のシャーレ)。この後、30日目まで培養しても、同一の結果であった。
【0054】
また、本発明の組成物の代わりに、前述の超音波検査用ゲルを用いても白癬菌を殺菌できるかどうかを調べた。図14は、培養9日目の様子を示す写真である。この写真からわかるように、超音波検査用ゲルを使用した場合、研磨カスは糸状菌陽性であった。これは、超音波検査用ゲルには、殺菌成分が配合されていないためと考えられる。
【0055】
さらに、本発明の組成物の代わりに、市販されているアルコールを含むゲル状の手指消毒殺菌剤(ゴージョーMHS;ゴージョージャパン株式会社)を用いても白癬菌を殺菌できるかどうかを調べた。図15は、培養9日目の様子を示す写真である。図15Aと図15Bとでは、研磨カスを採取した患者が異なる。図15Aおよび図15Bにおいて、左側は足趾爪甲部の研磨カスを塗抹した培地であり、右側は足趾爪甲部の周辺部の研磨カスを塗抹した培地である。これらの写真からわかるように、アルコールを含むゲル状の手指消毒殺菌剤を使用した場合も、研磨カスは糸状菌陽性であった。これは、手指消毒殺菌剤は粘度が低く、白癬菌を死滅させる前にアルコールが揮発してしまったためと考えられる。これに対し、本発明の組成物は、アルコールが揮発しにくいため、白癬菌が死滅するまで白癬菌をアルコールに接触させることができる(図13参照)。
【0056】
以上の結果から、本発明の組成物は、手指消毒殺菌剤や超音波検査用ゲルなどに比べて抗白癬菌効果に優れていることがわかる。
【0057】
[実施例2]
実施例2では、本発明の研磨カス飛散防止組成物を用いて皮膚を研磨した例を示す。
【0058】
本実施例では、実施例1で調製したゲル状組成物(本発明の研磨カス飛散防止組成物)を足の裏に塗布した後、角質やすり(ビューティーフット;ピー・シャイン株式会社)を用いて足の裏の皮膚を研磨した。
【0059】
図16Aは、研磨する前の足の裏の様子を示す写真である。この写真に示されるように、足の裏には胼胝および鶏眼が形成されていた。図16Bは、ゲル状組成物を使用して足の裏の皮膚を研磨した後の様子を示す写真である。この写真に示されるように、ゲル状組成物を使用して足の裏の皮膚を研磨することで、胼胝および鶏眼を除去することができた。研磨後の皮膚は滑らかであった。なお、研磨中に研磨カスはほとんど飛散しなかった。
【0060】
以上の結果から、本発明の組成物は、爪の研磨だけでなく、皮膚の研磨にも適用できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の研磨カス飛散防止組成物は、爪疾患または皮膚疾患の患者に対してフットケアを行う医療機関や、ネイルケアを行うネイルサロンなどにおける、真菌感染の拡大の予防に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールを50〜90質量%、増粘用高分子を3〜10質量%、ゲル化剤を2〜10質量%含有する、研磨カス飛散防止組成物。
【請求項2】
前記アルコールは、エタノール、イソプロパノールまたはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項3】
前記増粘用高分子は、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマーまたはこれらの組み合わせである、請求項1に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項4】
前記ゲル化剤は、グルコマンナン、カラギーナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、キサンタンガム、グアガム、ジェランガム、アルギン酸、タラガム、トラガントガム、カードラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、カラヤガム、デンプンおよびセルロースからなる群から選択される1または2以上の多糖類である、請求項1に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項5】
さらに角質軟化剤を0.1〜30質量%含有する、請求項1に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項6】
前記角質軟化剤は、サリチル酸、グリコール酸、乳酸、フルーツ酸またはこれらの組み合わせである、請求項5に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項7】
さらにケラチン保護剤を5〜30質量%含有する、請求項1に記載の研磨カス飛散防止組成物。
【請求項8】
前記ケラチン保護剤は、尿素、ケラチンまたはこれらの組み合わせである、請求項7に記載の研磨カス飛散防止組成物。

【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−131734(P2012−131734A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284661(P2010−284661)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(596165589)学校法人 聖マリアンナ医科大学 (53)
【Fターム(参考)】