説明

研磨剤組成物及び研磨方法

【課題】良好な傷除去性及び拭き取り性を有し、再塗装性に優れると共に、塗装面に研磨傷を付けずに良好な光沢を付与し、かつ、研磨傷や白ボケが浮かび上がることがなく、しかもコーティング処理の前に用いても脱脂処理の操作を必要とせずに作業工程を短縮できる研磨剤組成物及び研磨方法を提供する。
【解決手段】本発明の研磨剤組成物は、研磨粒子、炭化水素系溶剤、シリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる滑剤、界面活性剤、増粘剤及び水を含有することを特徴とする。また、本発明の研磨方法は、前記研磨剤組成物を用い、シングルアクションポリッシャー及びダブルアクションポリッシャーを使用して塗装面を研磨し、傷消しすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車塗装や建築物塗装などの塗装面を研磨するのに好適な研磨剤組成物及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車塗装や建築物塗装などの塗装面の研磨においては、ミネラルスピリットなどの石油系溶剤、乳化剤、ワックス、研磨剤、シリコーンオイル、水を少量配合した油性タイプの研磨剤組成物や、石油系溶剤やシリコーンオイルを乳化剤やケン化したワックス成分で水に乳化させたものに研磨剤を分散させた水性タイプの研磨剤組成物が使用されてきた。
【0003】
このような研磨剤組成物は、塗装面の傷を除去するために研磨剤の粒子径を大きく設計している。そのため、塗装面の大きな傷は除去できるが、線傷などの細かい傷が多く付着しやすく、研磨後の光沢が得られにくかった。
そこで、研磨後の塗装面の光沢を良くする方法として、ジメチルシリコーンオイルを配合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。ジメチルシリコーンオイルは、塗装面の光の屈折率を変えることにより塗膜の光沢を向上させることができる。また、消泡効果を有するため、泡の少ない研磨剤組成物を得ることができる。
また、研磨剤組成物中にポリエチレンワックス等を配合して研磨傷を目立たなくさせる方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−328045号公報
【特許文献2】特許第2848657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようにジメチルシリコーンオイルを配合した研磨剤組成物で、例えば自動車塗装の塗装面を研磨すると、降雨や洗車後にジメチルシリコーンオイルが脱落して、傷や白ボケが浮かび上がる現象が見られた。
これらの現象をより分かりやすく確認するには、研磨剤組成物を用いて研磨した塗装面を、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤やノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤で脱脂すればよい。研磨剤組成物にジメチルシリコーンオイルが配合されている場合、研磨後の塗装面を脱脂すると、細い線傷や白ボケの傷が浮かび上がってくる。
このような細かい傷の集まりは、特に太陽光や水銀灯の元では、よりはっきりと観察されるため、塗装面の外観を著しく損なうものとなる。
【0006】
また、ジメチルシリコーンオイルを配合した研磨剤組成物を用いて研磨した後に、ガラス系コーティング処理などのコーティング処理を行うと、ガラス系コーティング剤に含まれる溶解力の強い溶剤によって、コーティング処理の作業中や作業後に白化現象が起こることがあった。この白化現象を防ぐには、コーティング処理を行う前に研磨後の塗装面を脱脂溶剤で脱脂するなど操作が必要であり、作業効率が低下しやすかった。
さらに、ジメチルシリコーンオイルは、研磨後の塗装面に塗料などを再塗装する際に塗料の弾きを引き起こす原因物質として指摘されている。そのため、ジメチルシリコーンオイルを配合した研磨剤組成物は再塗装性に劣っていた。
【0007】
また、特許文献2に記載のようにポリエチレンワックス等を配合した研磨剤組成物の場合、研磨で生じた細かい傷中にワックスを埋め込んで表面を一時的に平滑にしているため、時間の経過と共にワックスが脱落して研磨傷が再び目立つようになるといった問題があった。
ところで、研磨剤組成物には傷除去性はもちろんのこと、研磨後の拭き取り性に優れることが求められるが、従来の研磨剤組成物は、必ずしも拭き取り性を満足するものではなかった。
【0008】
本発明は、良好な傷除去性及び拭き取り性を有し、再塗装性に優れると共に、塗装面に研磨傷を付けずに良好な光沢を付与し、かつ、研磨傷や白ボケが浮かび上がることがなく、しかもコーティング処理の前に用いても脱脂処理の操作を必要とせずに作業工程を短縮できる研磨剤組成物及び研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の滑剤、研磨粒子、炭化水素系溶剤、界面活性剤、増粘剤を組み合わせた研磨剤組成物を用いることで、良好な傷除去性、拭き取り性、及び再塗装性が得られ、研磨した傷部分が例えば降雨や洗車後に浮かび上がることがなく、しかもコーティング処理の前に用いても脱脂処理の操作を必要としないことを見出した。そして、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下の構成を採用した。
[1]研磨粒子、炭化水素系溶剤、シリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる滑剤、界面活性剤、増粘剤及び水を含有することを特徴とする研磨剤組成物。
[2]研磨粒子5〜30質量%、炭化水素系溶剤7〜40質量%、シリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる滑剤0.1〜10質量%、界面活性剤0.2〜5質量%、増粘剤0.1〜5質量%及び水25〜85質量%を含有することを特徴とする[1]に記載の研磨剤組成物。
[3]研磨粒子が、α−結晶粒子径が1μm以下で、かつ、平均粒子径が0.3〜3μmのα−アルミナであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の研磨剤組成物。
[4][1]〜[3]のいずれかに記載の研磨剤組成物を用い、シングルアクションポリッシャー及びダブルアクションポリッシャーを使用して塗装面を研磨し、傷消しすることを特徴とする研磨方法。
[5]前記研磨は、ガラス系コーティング処理、又はガラス系コーティング処理に準じたコーティング処理の前に行われることを特徴とする[4]に記載の研磨方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の研磨剤組成物によれば、塗装面の研磨において良好な傷除去性を有すると共に、研磨傷を付けずに良好な光沢を付与できる。また、本発明の研磨剤組成物は研磨後の拭き取り性が良好なので研磨作業性に優れると共に、再塗装性が良好なので研磨後の塗装面をさらに塗料等で再塗装しても、塗料の弾きを抑制できる。さらに、研磨された傷部分は、例えば降雨や洗車によって再び傷や白ボケが浮かび上がりにくいので、長期間優れた光沢を維持することができる。しかも、ガラス系コーティング処理などのコーティング処理前に用いても、研磨後に溶剤で脱脂処理する必要がないので、コーティング処理の作業工程の短縮が可能となる。
また、本発明の研磨方法によれば、塗装面の傷を十分に除去できると共に、塗装面に光沢を付与できる。また、研磨傷や白ボケが浮かび上がることがなく、しかもコーティング処理の前に用いても脱脂処理の操作を必要とせずに作業工程を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[研磨剤組成物]
本発明の研磨剤組成物は、研磨粒子、炭化水素系溶剤、シリコーンエラストマーからなる滑剤、界面活性剤、増粘剤及び水を含有するものである。
【0013】
(研磨粒子)
研磨粒子としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、コロイダルシリカ、炭酸カルシウム炭化ケイ素、窒化ケイ素などの微粒子が挙げられる。これらの中でも酸化アルミニウム、具体的にはα−アルミナ好ましく、特に、α−結晶粒子径が1μm以下で、かつ、平均粒子径が0.3〜3μmのα−アルミナが好ましい。
【0014】
α−アルミナのα−結晶粒子径が1μmを超えると、研磨剤組成物を用いて研磨した塗装面に、例えば降雨や洗車などによって水が付着すると白ボケが発生したり、研磨傷が浮かび上がったりしやすくなる。α−アルミナのα−結晶粒子径は0.7μm以下がより好ましい。また、α−結晶粒子径の下限値は0.1μm以上が好ましい。
一方、α−アルミナの平均粒子径が0.3μm未満であると研磨効果が低下する傾向にあり、3μmを超えると塗装面に研磨傷が付着しやすくなる傾向にある。平均粒子径は1.0〜2.0μmが好ましい。
このようなα−アルミナとしては、日本軽金属社製の「アルミナA−32」、「アルミナA−33F」、「アルミナA−43L」、「アルミナA−50F」、「アルミナA−50K」、「アルミナA−50N」、住友化学社製の「アルミナAES−11」、「アルミナAMS−2」などが挙げられる。
【0015】
本発明において、α−結晶粒子径とは単結晶の粒子径のことであり、走査型電子顕微鏡(例えば日立製作所社製の「S−2400」など)での観察により求められる値である。
また、平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば堀場製作所社製の「LA−920」など)での測定により求められる値である。
【0016】
研磨粒子の含有量は、研磨剤組成物100質量%中5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。研磨粒子の含有量が上記範囲内であれば、塗装面の傷や汚れ、シミなどを効率よく擦り取ることができる。研磨粒子の含有量が5質量%未満であると十分な研磨効果が得られにくくなる傾向にあり、30質量%を超えると研磨効果は得られるものの塗装面に研磨傷が付いたり、作業時の負荷が大きくなったりする傾向にある。
【0017】
(炭化水素系溶剤)
炭化水素系溶剤としては、揮発性を考慮したものを使用する。本発明において「揮発性」とは、沸点又は蒸留温度により決定されるものである。炭化水素系溶剤として、蒸留における初留点が150℃以上、終点が350℃以下の炭化水素系溶剤を用いることが好ましい。初留点が150℃未満であると炭化水素系溶剤が揮発しやすく、十分な研磨ができなくなる傾向にあり、終点が350℃を超えると炭化水素系溶剤が揮発しにくく、研磨の仕上がりに時間を要する傾向にある。
【0018】
このような炭化水素系溶剤としては、新日本石油社製の「アイソゾール300」、「アイソゾール400」、エクソンモービル社製の「アイソパーG」、「アイソパーH」、「アイソパーL」、「アイソパーM」、出光興産社製の「IPソルベント1620」、「IPソルベント2028」、「IPソルベント2835」、シェル石油社製の「シェルゾールMC311」、「シェルゾールMC422」、「シェルゾールMC531」、「シェルゾールMC611」のようなイソパラフィン系炭化水素;新日本石油社製の「O号ソルベント」、ジャパンエナジー社製の「NSクリーン100」、「NSクリーン110」、「NSクリーン200」、「NSクリーン220」、「NSクリーン230」、松村石油社製の「スモイルP−40」、「スモイルP−60」、「スモイルP−80」のようなノルマルパラフィン系炭化水素;エクソンモービル社製の「エクソールD40」、「エクソールD80」、「エクソールD110」、「エクソールD130」、出光興産社製の「ダフニークリーナーSD3」、「ダフニークリーナーNM」、「ダフニークリーナーNH」、「ダフニークリーナーAR2」、「ダフニークリーナーAR3」、「ダフニークリーナーMD3」、シェル石油社製の「シェルゾールD70」のようなナフテン系炭化水素などが挙げられるが、これらに限定するものではない。これら炭化水素系溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
炭化水素系溶剤の含有量は、研磨剤組成物100質量%中7〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。炭化水素系溶剤の含有量が上記範囲内であれば、塗装面の汚れ(特に有機汚れ)を効率よく擦り取ることができる。炭化水素系溶剤の含有量が7質量%未満であると十分な研磨効果が得られにくく、作業時の負荷が大きくなる傾向にあり、40質量%を超えると塗膜を形成する樹脂を膨潤又は溶解させる恐れがある。
【0020】
(滑剤)
滑剤はシリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる。このような滑剤を用いることで、研磨粒子に適度な伸び性を付与し、かつ研磨剤組成物の塗装面への固着を抑制できるようになるため、研磨剤組成物に良好な拭き取り性、及び再塗装性を付与できる。また、本発明の研磨剤組成物で研磨した塗装面に、例えば降雨や洗車などによって水が付着しても、白ボケが発生したり研磨傷が浮かび上がったりするのを抑制できる。さらに、研磨後にガラス系コーティング処理などのコーティング処理を行ってもコーティング処理の作業中や作業後に白化現象が生じるのを抑制できるので、研磨後に脱脂処理を行う必要がなく、作業工程を短縮できる。
なお、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーからなる滑剤を用いると、塗装面にジメチルシリコーンオイルが残留し、研磨後の塗装面を各種コーティングする際に表面阻害が起こりやすくなる。また、研磨後の塗装面を再塗装する場合に、塗膜の密着性が低下しやすくなる。
【0021】
シリコーンエラストマーとしては、界面活性剤で分散したものを用いることができる。例えば市販品として東レ・ダウコーニング社製の「トレフィルE−506S」、「BY29−129」、「DY33−440F」、GE東芝シリコーン社製の「トスパール120」、「トスパール140」などのトスパールシリーズなどが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0022】
シリコーンエラストマーからなる滑剤の含有量は、研磨剤組成物100質量%中0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましい。滑剤の含有量が上記範囲内であれば、研磨剤組成物の伸び性や、研磨後におけるウエス等での拭き取り性が良好となり、研磨作業性により優れるようになる。滑剤の含有量が0.1質量%未満であると研磨作業性の向上効果が得られにくくなる傾向にあり、10質量%を超えると研磨効果が低下する傾向にある。
【0023】
(界面活性剤)
界面活性剤は、上述した炭化水素系溶剤の乳化を目的に用いられる。界面活性剤としては特に制限はなく、例えば、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
非イオン界面活性剤としては、水溶解性のポリオキシエチレン第2級アルコールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンモノ又はジ又はトリ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ又はジ又はトリ脂肪酸エステル、ソルビタンモノ又はジ又はトリ脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型が挙げられる。また、市販品として花王社製の「レオドールTW−L120」、日本触媒社製の「ソフタノール90」、三洋化成工業社製の「サンノニックHD−100」、「イオネットMO−400」、阪本薬品工業社製の「S−FACE O−601P」、「S−FACE O−1001P」などが挙げられる。
【0024】
陰イオン界面活性剤としては、脂肪族モノカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N―アシルグルタミン酸塩等のカルボン酸塩型;ロジントール油脂肪酸塩などの樹脂脂肪酸塩;アルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アルキルタウリン酸塩等のスルホン酸塩型;アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等の硫酸エステル塩型;アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレン高級アルコールリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル塩型などが挙げられる。また、市販品として花王社製の「エマールTD」、「エマール20T」、「ネオペレックスG−25」、三洋化成工業社製の「サンデットALH」などが挙げられる。
【0025】
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン型、ラウリルジメチルアミンオキシド等のアミンオキシド型が挙げられる。また、市販品として花王社製の「アンヒトール24B」、「アンヒトール20YB」、第一工業製薬社製の「アモーゲンAOL」などが挙げられる。
【0026】
界面活性剤の含有量は、研磨剤組成物100質量%中0.2〜5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内であれば、炭化水素系溶剤の乳化性が良好になり、研磨剤組成物の保存安定性を良好に維持できる。界面活性剤の含有量が0.2%未満であると研磨剤組成物の保存安定性が低下する傾向にあり、5質量%を超えると塗膜を形成する樹脂を膨潤又は溶解させる恐れがある。
【0027】
(増粘剤)
増粘剤は、研磨剤組成物の取り扱い性の向上を目的として用いられる。増粘剤としては特に制限はなく、例えば、メチルセルロース、結晶セルロース、デンプン類、セルロース誘導体、ザンタンガム等のセルロース系増粘剤、水溶性合成高分子増粘剤としてのアルカリ増粘型アクリルポリマーが挙げられる。これら増粘剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
増粘剤として特に好ましく用いられるのはアルカリ増粘型アクリルポリマーである。アルカリ増粘型アクリルポリマーは、適当なアルカリ剤と組み合わせて使用することで研磨剤組成物に任意に必要な粘度を付与することができ、研磨剤組成物の分散安定性や乳化物の安定性を向上させることができる。またアルカリ増粘型アクリルポリマーを用いることで、研磨作業性を良好に維持できる。
アルカリ増粘型アクリルポリマーとしては、例えば、ロームアンドハースジャパン社製の「プライマルTT−935」、「プライマルTT−615」、「プライマルDR−72」、「プライマルDR−1」、BF Goodrich社製の「カーボポール981」、「カーボポール934」等が挙げられる。
【0029】
増粘剤の含有量は、研磨剤組成物100質量%中0.1〜5質量%が好ましく、0.3〜3質量%がより好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、研磨剤組成物に適度な粘度を付与でき、良好な研磨作業性が得られる。増粘剤の含有量が0.1質量%未満であると適度な粘度が得られにくくなり、研磨作業時における飛び散りが生じやすくなる傾向にあり、5質量%を超えると作業時の負荷が大きくなり作業効率が低下する傾向にある。
【0030】
上述した増粘剤と組み合わせて使用するアルカリ剤としては特に制限はないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミンが好ましく用いられる。
アルカリ剤を使用する場合、そのアルカリ剤で研磨剤組成物のpHを6.0〜10.0に調整するのが好ましく、7.5〜9.5に調整するのがより好ましい。
【0031】
(水)
水の含有量は、研磨剤組成物100質量%中25〜85質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。
【0032】
(その他)
本発明の研磨剤組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、種々の有機溶剤、防錆剤、防腐剤、pH調整剤、キレート剤、凍結防止剤、色素、香料などを配合することができる。
【0033】
以上説明した本発明の研磨剤組成物によれば、特定の滑剤、研磨粒子、炭化水素系溶剤、界面活性剤、増粘剤等を組み合わせてなるので、良好な傷除去性、拭き取り性、及び再塗装性が得られる。また、本発明の研磨剤組成物を用いて研磨した傷部分に、例えば降雨や洗車などによって水が付着しても、白ボケが発生したり研磨傷が浮かび上がったりするのを抑制できる。しかも研磨後にガラス系コーティング処理などのコーティング処理を行ってもコーティング処理の作業中や作業後に白化現象が生じるのを抑制できるので、研磨後に脱脂処理を行う必要がなく、作業工程を短縮できる。
【0034】
[研磨方法]
本発明の研磨方法は、上述した研磨剤組成物を用いて塗装面を研磨する方法である。
研磨方法の具体例としては、例えば、スポンジ、ウレタン、ウール等のバフに上記研磨剤組成物を適量取り、シングルアクションポリッシャー、ダブルアクションポリッシャーなどのポリッシャーや、サンドグラインダーなどの研磨機械を使用して塗装面を磨き、傷や付着している汚れを取り除き、その後、必要に応じて乾拭きや濡れ拭きを行って余剰の研磨組成物を取り除く方法などが挙げられる。特に、シングルアクションポリッシャー及びダブルアクションポリッシャーを用いて塗装面を磨くのが好ましい。また、必要に応じてスポンジ、布等に上記研磨剤組成物を適量取り、手で磨き上げることもできる。
【0035】
塗装面の研磨は、ガラス系コーティング処理、又はガラス系コーティング処理に準じたコーティング処理の前に行うのが好ましい。研磨後の塗装面にこれら処理を施すことで、塗装面に機能性を付与できる。
なお、本発明において「ガラス系コーティング処理に準じたコーティング処理」とは、塗装面の保護や艶出しを目的に、溶媒中に水と反応してシロキサン結合を形成するモノマー成分を含有したコーティング剤を塗布、乾燥、拭き取り等を行う処理のことである。
【0036】
ところで、ジメチルシリコーンオイルを配合した従来の研磨剤組成物を用いて研磨した場合、研磨後にガラス系コーティング処理などのコーティング処理を行うと、ガラス系コーティング剤に含まれる溶解力の強い溶剤によって、コーティング処理の作業中や作業後に白化現象が起こることがあった。従って、この白化現象を防ぐために、コーティング処理を行う前に研磨後の塗装面を脱脂溶剤で脱脂する必要があり、作業効率が低下しやすかった。
しかし、本発明の研磨方法であれば、上述した本発明の研磨剤組成物を用いて塗装面を研磨するので、コーティング処理しても白化現象を抑制できる。従って、コーティング処理するに際して脱脂処理を行う必要がなく、作業工程を短縮できる。
【0037】
本発明の研磨方法が適用される塗装面としては、例えば、自動車車体や建築物などにおいて、塗装用塗料によって形成された樹脂塗膜、樹脂成形品の表面などが挙げられる。
【0038】
以上説明した本発明の研磨方法によれば、塗装面を変色や変質させたり、塗膜を形成する樹脂を侵食や膨潤させたりすることなく、塗装面から傷や付着している汚れを簡便に除去できる。また、ガラス系コーティング処理のように塗装面に機能性を付与する加工の前処理としても有効である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0040】
[実施例1]
<研磨剤組成物の調製>
1000mLの混合容器に、炭化水素系溶剤である「エクソールD80」(商品名、エクソンモービル社製)100g、「エクソールD110」(商品名、エクソンモービル社製)60g、「スモイルP−60」(商品名、松村石油社製)10g、非イオン界面活性剤である「レオドールTW−L120」(商品名、花王社製)5g、「S−FACE O−601P」(商品名、阪本薬品工業社製)5gを仕込み、60〜70℃に加熱し攪拌混合した。この中に約60℃の温水200gを徐々に添加しながら、強い剪断力で撹拌混合して乳化液とした。
これとは別の1000mLの混合容器に、水200g、研磨粒子である「アルミナA−50N」(商品名、日本軽金属社製、α−結晶粒子径:0.3μm、平均粒子径:1.2μm)150g、滑剤である「DY33−440F」(商品名、東レ・ダウコーニング社製)5g、アルカリ剤である「トリエタノールアミン」0gを仕込み、撹拌混合して分散液とした。この分散液に前記乳化液を添加し、撹拌混合した後、増粘剤である「プライマルTT−615」(商品名、ロームアンドハース社製)10g、「RHODOPOL23」(商品名、ローヌプーラン社製)10g、及び残りの水を加えて、全量を1000gとした研磨剤組成物を得た。この研磨剤組成物のpHは、7.0であった。研磨剤組成物中の各成分の配合量(質量部)および研磨剤組成物のpHを表1に示す。
なお、研磨粒子のα−結晶粒子径は、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、「S−2400」)での観察により求めた。一方、研磨粒子の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、「LA−920」)での測定により求めた。
【0041】
<評価>
得られた研磨剤組成物を以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
(1)ペーパー目の除去性の評価
基板にウレタン塗装クリアー(PPG社製)を塗装したものを評価試験用塗装板として用い、以下の処理(i)〜(iv)を順に行ってペーパー目の除去性を評価した。
(i)♯3000のペーパーで評価試験用塗装板の塗装面を研磨する。
(ii)短毛ウールバフを用いた電動シングルアクションポリッシャーに研磨剤組成物を1g付けて10秒間研磨する。
(iii)その後、ウレタンスポンジバフを用いた電動ダブルアクションポリッシャーに研磨剤組成物を1g付けて10秒間研磨する。
(iv)ウエスで余分な研磨剤組成物を乾拭きした後、n−ヘキサンで脱脂洗浄を行い評価試験用塗装板の塗装面の状態を目視により観察し、以下の評価基準で評価した。
○:ペーパー目の傷が消えた。
×:ペーパー目の傷が残っている。
【0042】
(2)白ボケ性の評価
(1)のペーパー目の除去性の評価を行った後、塗装面における白ボケの有無を目視により観察し、以下の評価基準で評価した。なお、白ボケは研磨作業時に研磨剤組成物や使用するバフによって傷が付くと塗装面がギラギラするように観察される。
○:ギラツキがない。
×:ギラツキがある。
【0043】
(3)拭き取り性の評価
(1)のペーパー目の除去性の評価を行う際に、ウエスで余分な研磨剤組成物を乾拭きした時の拭き取り性を、以下の評価基準で評価した。
○:引っかかりがなく、スムーズに拭き取れる。
△:やや引っ掛かりがあるが、拭き取れる。
×:引っ掛かりがあり、拭き取りにくい。
【0044】
(4)再塗装性の評価
(1)のペーパー目の除去性の評価において、処理(iv)でn−ヘキサンによる脱脂洗浄を行わずに、その上にスプレーでウレタン塗料を塗装し、乾燥した後、塗装剥離試験を行った。
塗装剥離試験は、JIS B−7753に準じて碁盤目試験を行い、残留した枚数を数字で表した。
【0045】
(5)ガラス系コーティング処理後の白化性
(1)のペーパー目の除去性の評価において、処理(iv)でn−ヘキサンによる脱脂洗浄を行わずに、その上にガラス系コーティング剤G‘ZOX(商品名、ソフト99社製)を別のスポンジバフを用いて商品の使用方法に準じて塗装面にコーティングした。3時間放置後、評価試験用塗装板表面の状態を目視により観察し、以下の評価基準で評価した。
○:白化がない。
×:白化がある。
【0046】
[実施例2〜6、比較例1〜5]
炭化水素系溶剤、界面活性剤、研磨粒子、滑剤、アルカリ剤、増粘剤及び水の配合を、表1、表2に示すように各々変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6、比較例1〜5の研磨剤組成物を得た。得られた研磨剤組成物を実施例1と同様にして評価した。研磨剤組成物のpHおよび評価結果を表1、表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1、表2中の略記は以下のものを表している。
「エクソールD80」:エクソンモービル社製、
「エクソールD110」:エクソンモービル社製、
「スモイルP−60」:松村石油社製、
「レオドールTW−L120」:花王社製、
「S−FACE O−1001P」:阪本薬品工業社製、
「S−FACE O−601P」:阪本薬品工業社製、
「アルミナA−50N」:α−結晶粒子径:0.3μm、平均粒子径:1.2μm、日本軽金属社製、
「アルミナA−33F」:α−結晶粒子径:0.7μm、平均粒子径:0.7μm、日本軽金属社製、
「アルミナA−32」:α−結晶粒子径:1.0μm、平均粒子径:1.0μm、日本軽金属社製、
「アルミナA−31」:α−結晶粒子径:4.5μm、平均粒子径:5.0μm、日本軽金属社製、
「DY33−440F」:シリコーンエラストマー、東レ・ダウコーニング社製、
「SH200 300CS」:シリコーンオイル、東レ・ダウコーニング社製、
「トレフィルE−508」:シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマー、東レ・ダウコーニング社製、
「プライマルTT−615」:ロームアンドハースジャパン社製、
「プライマルDR−72」:ロームアンドハースジャパン社製、
「RHODOPOL23」:ローヌプーラン社製。
【0050】
表1、表2から明らかなように、炭化水素系溶剤、界面活性剤、研磨粒子、シリコーンエラストマーからなる滑剤、アルカリ剤、増粘剤及び水を特定量含有する実施例1〜6の研磨剤組成物は、塗装面のペーパー目の除去性、白ボケ性に優れていることから、塗装面の光沢付与に優れていた。また、実施例1〜6の研磨剤組成物は、拭き取り性に優れていることから作業性を向上させることができる。さらには、再塗装性、ガラス系コーティング処理後の白化性にも優れていることから、脱脂処理を省略することが可能になり、作業工程を短縮できる。
【0051】
これに対して、滑剤としてシリコーンオイルを配合した比較例1及び比較例2の研磨剤組成物は、再塗装性に劣り、ガラス系コーティング処理後に白化が確認された。
滑剤としてひまし油を配合した比較例3及び比較例4の研磨剤組成物は、拭き取り性が悪く、ガラス系コーティング処理後の白化も見られた。特に、比較例3の研磨剤組成物は、α−結晶粒子径が4.5μm、平均粒子径が5.0μmの研磨粒子を含有していることから白ボケが確認された。
滑剤としてシリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを配合した比較例5の研磨剤組成物は、白ボケが発生し、再塗装性が悪く、ガラス系コーティング処理後の白化も確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の研磨剤組成物を用いれば、自動車塗装や建築物塗装などの塗装面の仕上げ研磨において、良好な傷除去性を有しながらも研磨傷を付けることがなく、塗装樹脂表面を変色、変質、侵食、膨潤させることもないので、仕上がり後に良好な光沢を付与できる。また、研磨後のウエスでの拭き取り性にも優れ、研磨した傷部分が降雨や洗車によっても再び浮かび上がりにくい。従って、ガラス系コーティングなど溶剤を主体とするコーティングの前処理に用いた場合には、溶剤で脱脂除去する必要もなくなり、工程の簡素化を可能にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨粒子、炭化水素系溶剤、シリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる滑剤、界面活性剤、増粘剤及び水を含有することを特徴とする研磨剤組成物。
【請求項2】
研磨粒子5〜30質量%、炭化水素系溶剤7〜40質量%、シリコーンエラストマー(ただし、シリコーンオイル含浸型のシリコーンエラストマーを除く。)からなる滑剤0.1〜10質量%、界面活性剤0.2〜5質量%、増粘剤0.1〜5質量%及び水25〜85質量%を含有することを特徴とする請求項1に記載の研磨剤組成物。
【請求項3】
研磨粒子が、α−結晶粒子径が1μm以下で、かつ、平均粒子径が0.3〜3μmのα−アルミナであることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の研磨剤組成物を用い、シングルアクションポリッシャー及びダブルアクションポリッシャーを使用して塗装面を研磨し、傷消しすることを特徴とする研磨方法。
【請求項5】
前記研磨は、ガラス系コーティング処理、又はガラス系コーティング処理に準じたコーティング処理の前に行われることを特徴とする請求項4に記載の研磨方法。

【公開番号】特開2010−163553(P2010−163553A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7686(P2009−7686)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(390005430)株式会社ホンダアクセス (205)
【Fターム(参考)】