説明

砥粒分散媒、スラリー組成物、脆性材料の研磨方法およびサファイア基板の製造方法

【課題】研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止することができ、かつ、研磨加工の作業環境を良好にできる、スラリー組成物、および、該スラリー組成物を製造するための砥粒分散媒を提供する。
【解決手段】砥粒を分散させてスラリー組成物を作製するための分散媒において、ベースオイル、および研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含む構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒分散媒およびスラリー組成物に関する。詳細には、サファイア等の脆性材料を研磨するために使用されるスラリー組成物、および、該スラリー組成物を製造するための砥粒分散媒に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体用基板、半導体ウエハ、光学レンズ、プリズム、ミラー等を製造する工程として、ガラス、カーボン、およびセラミックス等の材料を表面研磨する工程が必要である。該研磨工程においては研磨剤が使用されるが、該研磨剤の性能として、研磨速度を向上させて製造効率を上げると共に、被加工材の表面研磨傷を防止して製品の質を向上させることが求められている。
【0003】
特許文献1には、砥粒を使用した研磨方法が記載されている。また、特許文献2には、非水系分散媒を用いたスラリー組成物として、脂肪酸、含窒素系界面活性剤および高分子カルボン酸系界面活性剤を含有してなる、遊離砥粒研磨スラリー組成物が記載されている。
【特許文献1】特開2005−205560号公報
【特許文献2】特開2002−121542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の研磨方法では、砥粒の機械研磨による研磨傷の抑制が不十分であり、また特許文献2に記載の遊離砥粒研磨スラリー組成物は、含窒素系界面活性剤を含有しているため、臭気があり、作業環境が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止することができ、かつ、研磨加工の作業環境を良好にできる、スラリー組成物、および、該スラリー組成物を製造するための砥粒分散媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
第1の本発明は、砥粒を分散させてスラリー組成物を作製するための分散媒であって、ベースオイル、および研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含むことを特徴とする砥粒分散媒である。
【0008】
第1の本発明の砥粒分散媒は、砥粒を分散させてスラリー組成物として使用される。製造されるスラリー組成物は、研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含んでいるので、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。また、臭気が少なく、作業環境を良好にできる。
【0009】
第1の本発明において、ベースオイルとしては、炭化水素油を用いることが好ましい。炭化水素油としては、パラフィン系、オレフィン系、芳香族系などが挙げられる。
【0010】
第1の本発明において、エステル基を有する化合物は、脂肪酸と多価アルコールとのエステルであることが好ましい。このようなエステル化合物を用いることにより、研磨促進剤としての作用を効果的に発揮し、研磨速度をより向上させることができると共に、表面研磨傷をより防止できる。
【0011】
第1の本発明において、エステル基を有する化合物の添加量は、砥粒分散媒全体の質量を基準(100質量%)として、0.11質量%以上51質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上31質量%以下とすることがより好ましい。この範囲でエステル基を有する化合物を添加することにより、研磨促進剤としての作用を効果的に発揮させると共に、研磨機械周りの汚れ付着を防止できる。
【0012】
第1の本発明の砥粒分散媒の、20℃における、B型回転粘度計により測定した粘度は、1mPa・s以上51mPa・s以下であることが好ましい。粘度が低すぎると、スラリー組成物の引火点が低くなり、作業の危険性が高まる。また、粘度が高すぎると、研磨加工機械に汚れが付着し易くなる。
【0013】
第2の本発明は、脆性材料を研磨加工する際に使用するスラリー組成物であって、砥粒、および、第1の本発明の砥粒分散媒を含有してなるスラリー組成物である。ここで、「脆性材料」とは、例えば、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウム、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコン酸化膜等をいう。第2の本発明のスラリー組成物は、研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含む砥粒分散媒を含有している。これにより、脆性材料の研磨加工において、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。また、臭気が少なく、研磨加工における作業環境を良好にできる。
【0014】
第2の本発明において、砥粒はダイヤモンドであることが好ましい。このような砥粒を用いることで、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。
【0015】
第2の本発明において、砥粒の添加量は、スラリー組成物全体を基準(100質量%)として、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.04質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。添加量が少なすぎる場合は、研磨速度が遅くなる場合があり、添加量が多すぎる場合は、研磨速度が飽和し、コスト高となる。
【0016】
第2の本発明において、砥粒の粒径は、0.05μm以上10μm以下であることが好ましい。このような粒径のダイヤモンドを使用することにより、高い研磨速度と表面研磨傷防止のバランスをとることができる。
【0017】
第2の本発明のスラリー組成物は、脆性材料の中でも特に加工が難しいとされている、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウムのいずれかを研磨するのに使用された場合に、本発明の効果がより発揮される。
【0018】
第3の本発明は、定盤(20)上に第2の本発明のスラリー組成物(30)を供給する工程、被加工材(40)である脆性材料を定盤(20)上に押圧して定盤(20)と脆性材料とを摺動させて脆性材料を研磨する工程、を備えた脆性材料の研磨方法である。この方法においては、本発明のスラリー組成物(30)を用いていることによって、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。また、スラリー組成物(30)の臭気が少なく、作業環境を良好にできる。
【0019】
第3の本発明において、定盤(20)は錫または銅を主成分としてなるものであることが好ましい。ここでの主成分とは、定盤全体の質量を基準(100質量%)として、錫または銅を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有していることをいう。錫または銅を主成分としていれば、樹脂成分や他の金属がブレンドされた複合材料であってもよい。
【0020】
第3の本発明において、脆性材料を定盤(20)上に押圧する圧力は、2kPa以上200kPa以下とすることが好ましい。このような圧力とすることで、脆性材料表面に研磨傷が生じるのを防止し、十分な加工速度を得ることができる。なお該圧力は、5kPa以上100kPa以下とすることがより好ましい。
【0021】
第4の本発明は、定盤(20)上に第2の本発明のスラリー組成物(30)を供給する工程、サファイア基板を定盤(20)上に押圧して定盤(20)とサファイア基板とを摺動させてサファイア基板を研磨する工程、を備えたサファイア基板の製造方法である。該製造方法によれば、脆性材料の中でも特に加工が難しいとされているサファイア基板であっても、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。
【0022】
第4の本発明においても、定盤(20)の構成材料の好ましい形態、および、脆性材料を定盤(20)上に押圧する圧力の好ましい範囲は、上記第3の発明の場合と同様である。
【発明の効果】
【0023】
第1の本発明の砥粒分散媒は、砥粒を分散させてスラリー組成物として使用される。製造されるスラリー組成物は、研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含んでいるので、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。また、臭気が少なく、作業環境を良好にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
<スラリー組成物>
本発明のスラリー組成物は、砥粒および砥粒分散媒を含有している。砥粒分散媒は、ベースオイルおよび研磨促進剤を含有してなる。この砥粒分散媒に砥粒が分散されて、スラリー組成物が製造される。
(本発明のスラリー組成物の用途)
本発明のスラリー組成物は、脆性材料を研磨する際に使用される。脆性材料としては、例えば、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウム、ガラス、セラミックス、シリコン、シリコン酸化膜等が挙げられる。半導体ウエハ、光学レンズ、プリズム、ミラー等を製造する工程において、これらの脆性材料の表面を研磨する必要があり、本発明のスラリー組成物は、この研磨工程において使用される。また、上記脆性材料の中でも特に加工が難しいとされている、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウムを研磨するのに使用すると、加工速度および表面傷の防止の点で、より本発明の効果が発揮される。
【0025】
研磨工程の概要を図1に示す。研磨対象の被加工材(脆性材料)40は、キャリア50に貼り付けられている。本発明のスラリー組成物30は、供給部材35から定盤20上に滴下供給される。定盤20およびキャリア50は、それぞれ中心を軸にして矢印で示した方向に回転させられると共に、キャリア50は、図示下方向に押圧され、被加工材40表面が定盤20表面に押し付けられる。これにより、被加工材40表面と、本発明のスラリー組成物30が滴下された定盤20表面とが摺動して、被加工材40表面が研磨される。なお、本発明のスラリー組成物30は、定盤20上における被加工材40と摺動する表面に常に存在するように供給されることが好ましい。スラリー組成物30の供給機構については、特に限定されない。
【0026】
定盤20としては、脆性材料を研磨するために一般的に使用されている材料を使用することができ、例えば、銅、錫、鋳鉄等が挙げられる。また、定盤20は、錫または銅を主成分とするものであることが好ましい。定盤20の表面における被加工材40と接触する箇所に円形状の溝加工を施して、スラリー組成物がとどまるようにすることもできる。
【0027】
定盤20およびキャリア50の回転数は、研磨速度および被加工材40の表面品質のバランスの点から、10rpm〜200rpmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは50〜150rpmである。定盤20およびキャリア50の回転数は、この範囲内であれば、互いに異なっていてもよい。また、キャリア50の定盤20方向への押し付け圧力は、好ましくは2kPa以上200kPa以下、より好ましくは5kPa以上100kPa以下、さらに好ましくは10kPa以上50kPa以下である。
【0028】
(砥粒)
本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒としては、例えば、酸化セリウム、酸化アルミニウム、ダイヤモンド、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、酸化ケイ素等を挙げることができる。この中でも、ダイヤモンドを用いることが好ましい。ダイヤモンドを用いることにより、加工速度および表面傷の防止の点で、より本発明の効果が発揮される。
【0029】
砥粒の粒径は、好ましくは0.05μm以上10μm以下、より好ましくは0.5μm以上5μm以下である。砥粒の粒径が小さすぎると、研磨速度が遅くなってしまう場合がある。また、砥粒の粒径が大きすぎると、被加工材表面に、研磨傷が生じる場合がある。
【0030】
砥粒の一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮り、一次粒子を2本の平行線で挟んだとき、その間隔が最小の部分の値を短径、最大の部分の値を長径とし、その短径と長径との平均を一次粒子径とした。なお、該一次粒子径は、100個の一次粒子径の算術平均値である。
【0031】
本発明のスラリー組成物における砥粒の添加量は、スラリー組成物全体の質量を基準(100質量%)として、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.04質量%以上5質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。砥粒の添加量が少なすぎる場合は研磨速度が遅くなる場合があり、添加量が多すぎる場合は研磨速度が飽和しコスト高となる。
【0032】
(研磨促進剤)
本発明のスラリー組成物は、研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含有している。これにより、研磨速度を向上させることができると共に、表面研磨傷を防止できる。エステル基を有する化合物としては、脂肪酸と多価アルコールのエステルを用いることが好ましく、例えば、脂肪酸としてはオレイン酸等が挙げられ、多価アルコールとしてはソルビタンやグリセリン等が挙げられる。
【0033】
本発明の砥粒分散媒におけるエステル基を有する化合物の添加量は、砥粒分散媒全体の質量を基準(100質量%)として、好ましくは0.11質量%以上51質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上31質量%以下である。
【0034】
(ベースオイル)
ベースオイルとしては、炭化水素油を用いることが好ましい。炭化水素油としては、パラフィン系、オレフィン系、芳香族系などが挙げられる。
【0035】
ベースオイルの、B型回転粘度計により測定した20℃における粘度は、1mPa・s以上51mPa・s以下であることが好ましい。このような粘度のベースオイルを使用することにより、スラリー組成物の粘度を後に記載する好ましい範囲に調整することができる。
【0036】
(スラリー組成物の調整方法)
本発明のスラリー組成物は、ベースオイル中に、砥粒および研磨促進剤を分散させることにより製造できる。分散方法としては、例えば、通常の撹拌機による方法や、ボールミル等による方法が採用できる。
【0037】
<砥粒分散媒>
本発明の砥流分散媒は、ベースオイルおよび研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含んでなる。この砥流分散媒中に砥粒を分散させて、上記したスラリー組成物が作製される。砥粒分散媒は、ベースオイル中にエステル基を有する化合物を添加することにより製造できる。
【0038】
製造される砥粒分散媒の、20℃における、B型回転粘度計により測定した粘度は、1mPa・s以上51mPa・s以下とすることが好ましい。粘度が低すぎると、スラリー組成物の引火点が低くなり、作業の危険性が高まる。また、粘度が高すぎると、研磨加工において、研磨機械に汚れが付着するという問題が生じる場合がある。粘度の調整は、基本的には、ベースオイルの種類を選択して、ベースオイルの粘度を調整することにより行うことができる。また、増粘剤によって、粘度調整してもよい。なお、以下、砥粒分散媒の粘度といえば、20℃における、B型回転粘度計により測定した粘度をいう。
【0039】
(他の添加剤)
本発明のスラリー組成物および砥粒分散媒には、上記した砥粒、研磨促進剤、および、ベースオイル以外に、その性能を向上させるために、または、その他の目的に応じて、他の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、無灰分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、および着色剤等の添加剤を挙げることができる。
【0040】
背景技術における特許文献2では、含窒素系界面活性剤を含有していることにより、研磨材を分散させる旨が記載されている。これに対して、本発明のスラリー組成物は、エステル基を有する化合物を含んでおり、これが分散剤としても機能をも発揮し、砥粒を分散させることができる。よって、含窒素系界面活性剤を含有させる必要がなく、該界面活性剤に伴う臭気の発生を防止できる。
【0041】
<脆性材料の研磨方法>
本発明のスラリー組成物を用いた脆性材料の研磨方法は、例えば、図1に示した装置を用いて実施される。該装置については、先に研磨用組成物の用途において説明した通りである。
【実施例】
【0042】
<スラリー組成物の調整>
(実施例1)
日本油脂社製、NAソルベント(粘度3.1mPa・s、)に、コスモ石油ルブリカンツ社製の石油系炭化水素油を混合したベースオイル(粘度7.2mPa・s、)を用いた。砥粒としては、多結晶ダイヤモンド(粒径1〜2μm)を用いた。研磨促進剤としては、エステル基を有する化合物A(ソルビタンオレイン酸エステル、三洋化成工業社製)を用いた。
上記成分を、ベースオイル89.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物A10質量部の割合で混合し、撹拌機で撹拌して、スラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.4mPa・sであった。
【0043】
(実施例2)
実施例1において、研磨促進剤として、エステル基を有する化合物B(ソルビタンオレイン酸エステルエチレンオキサイド付加物、青木油脂工業社製)を用い、各添加量を、ベースオイル98.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B1質量部とした以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.2mPa・sであった。
【0044】
(実施例3)
実施例2において、各添加量を、ベースオイル89.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B10質量部とした以外は、実施例2と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.5mPa・sであった。
【0045】
(実施例4)
実施例2において、各添加量を、ベースオイル69.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B30質量部とした以外は、実施例2と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.8mPa・sであった。
【0046】
(実施例5)
実施例2において、各添加量を、ベースオイル49.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B50質量部とした以外は、実施例2と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、8.0mPa・sであった。
【0047】
(実施例6)
実施例1において、研磨促進剤として、エステル基を有する化合物D(脂肪酸トリグリセリド、(ナタネ油、リノール油脂社製))を用いた以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.5mPa・sであった。
【0048】
(実施例7)
実施例3において、 ベースオイルを日本油脂社製、NAソルベントのみとすることより、スラリー組成物の粘度を3.1mPa・sに調整した以外は、実施例3と同様にしてスラリー組成物を作製した。
【0049】
(実施例8)
実施例3において、ベースオイルの、日本油脂社製、NAソルベントと、コスモ石油ルブリカンツ社製、石油系炭化水素油の混合比を調整することにより、スラリー組成物の粘度を10.2mPa・sに調整した以外は、実施例3と同様にしてスラリー組成物を作製した。
【0050】
(実施例9)
実施例3において、ベースオイルの、日本油脂社製、NAソルベントと、コスモ石油ルブリカンツ社製、石油系炭化水素油の混合比を調整することにより、スラリー組成物の粘度を20.6mPa・sに調整した以外は、実施例3と同様にしてスラリー組成物を作製した。
【0051】
(実施例10)
実施例3において、ベースオイルの、日本油脂社製、NAソルベントと、コスモ石油ルブリカンツ社製、石油系炭化水素油の混合比を調整することにより、スラリー組成物の粘度を50.1mPa・sに調整した以外は、実施例3と同様にしてスラリー組成物を作製した。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、研磨促進剤を加えずに、各成分の添加量を、ベースオイル99.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、とした以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.1mPa・sであった。
【0053】
(参考例1)
実施例2において、各成分の添加量を、ベースオイル99.7質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B0.1質量部とした以外は、実施例2と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.2mPa・sであった。
【0054】
(参考例2)
実施例2において、各成分の添加量を、ベースオイル39.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、エステル基を有する化合物B60質量部とした以外は、実施例2と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、8.5mPa・sであった。
【0055】
(比較例2)
実施例1において、エステル基を有する化合物を加えずに、含窒素系界面活性剤(日油社製、ナイミーンDT−203)を加え、各成分の添加量を、ベースオイル89.8質量部、多結晶ダイヤモンド0.2質量部、含窒素系界面活性剤10質量部とした以外は、実施例1と同様にしてスラリー組成物を作製した。得られたスラリー組成物の粘度は、7.6mPa・sであった。
【0056】
(参考例3)
実施例3において、ベースオイルの、日本油脂社製、NAソルベントと、コスモ石油ルブリカンツ社製、石油系炭化水素油の混合比を調整することにより、スラリー組成物の粘度を63.5mPa・sに調整した以外は、実施例3と同様にしてスラリー組成物を作製した。
【0057】
<評価方法>
図1に示した装置を用いて研磨速度の評価を行った。キャリア50に被加工材40としてサファイア基板を設置して、研磨定盤20(銅製)、およびキャリア50をそれぞれ回転数100rpmで回転させて、キャリア50を定盤20の方向(図示下方向)に29kPaで押し付けて、被加工材40(サファイア基板)の研磨を行った。本発明のスラリー組成物30は、定盤20上に、2ml/分の速度で滴下しながら研磨を行った。研磨時間は2時間とした。
【0058】
研磨後、被加工材40を純水で洗浄して乾燥し、サファイア基板を得た。その後、精密天秤により被加工材40の重さを測定し、研磨前後の重量差と被加工材40の密度、大きさから研磨により除去された被加工材40の厚さを求めた。また、3次元表面粗さ計(ザイゴ社製、NewView5010)で研磨後の被加工材表面を測定し、表面粗さと研磨傷の有無を確認した。結果を表1に示す。研磨傷については、被加工材40表面に傷が認められるものを「×」、傷が認められないものを「○」として評価した。
【0059】
<評価結果>
以下、各実施例、比較例、および、参考例の組成および結果を表に示す。表1では、ベースオイルおよび砥粒以外の成分を変化させた例を挙げた。表2では、スラリー組成物の粘度を変化させた例を挙げた。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より、研磨促進剤が添加されていない場合(比較例1)、研磨速度が非常に遅いことがわかる。また、研磨促進剤の添加量が本発明の好ましい範囲に比べて少ない場合(参考例1)も、研磨速度が遅くなっている。また、研磨促進剤の添加量が、本発明の好ましい範囲の上限ギリギリの場合(実施例5)、機械廻りに若干汚れが付着したが、実用上問題のないものであった。研磨促進剤の添加量が、本発明の好ましい範囲よりも多い場合(参考例2)は、機械廻りに汚れが付着した。また、含窒素系界面活性剤を添加した場合(比較例2)は、臭気があり、作業環境が悪化した。
【0062】
【表2】

【0063】
研磨促進剤の粘度が、本発明の好ましい範囲の上限付近の場合(実施例10)、機械廻りに若干汚れが付着したが、実用上問題のないものであった。研磨促進剤の粘度が、本発明の好ましい範囲よりも大きい場合(参考例3)は、機械廻りに汚れが付着した。
【0064】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う、砥粒分散媒、スラリー組成物、脆性材料の研磨方法、および、サファイア基板の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】研磨工程の概要を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
20 研磨定盤
30 スラリー組成物
40 被加工材
50 キャリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒を分散させてスラリー組成物を作製するための分散媒であって、ベースオイル、および研磨促進剤としてエステル基を有する化合物を含むことを特徴とする砥粒分散媒。
【請求項2】
ベースオイルが炭化水素油である、請求項1に記載の砥粒分散媒。
【請求項3】
前記エステル基を有する化合物が、脂肪酸と多価アルコールとのエステルである請求項1または2に記載の砥粒分散媒。
【請求項4】
前記エステル基を有する化合物の添加量が、砥粒分散媒全体の質量を100質量%として、0.11質量%以上51質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の砥粒分散媒。
【請求項5】
20℃における、B型回転粘度計により測定した粘度が、1mPa・s以上51mPa・s以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の砥粒分散媒。
【請求項6】
脆性材料を研磨加工する際に使用するスラリー組成物であって、砥粒、および、請求項1〜5のいずれかに記載の砥粒分散媒を含有してなるスラリー組成物。
【請求項7】
前記砥粒が、ダイヤモンドである、請求項6に記載のスラリー組成物。
【請求項8】
前記砥粒の添加量が、前記スラリー組成物全体を100質量%として、0.01質量%以上10質量%以下である、請求項6または7に記載のスラリー組成物。
【請求項9】
前記砥粒の粒径が、0.05μm以上10μm以下である、請求項6〜8のいずれかに記載のスラリー組成物。
【請求項10】
研磨加工する脆性材料が、サファイア、炭化珪素、窒化ガリウムのいずれかである請求項6〜9のいずれかに記載のスラリー組成物。
【請求項11】
定盤上に請求項6〜10のいずれかに記載のスラリー組成物を供給する工程、被加工材である脆性材料を該定盤上に押圧して該定盤と該脆性材料とを摺動させて該脆性材料を研磨する工程、を備えた脆性材料の研磨方法。
【請求項12】
前記定盤が錫または銅を主成分とするものである、請求項11に記載の脆性材料の研磨方法。
【請求項13】
前記被加工材を前記定盤上に押圧する圧力が、2kPa以上200kPa以下である、請求項11または12に記載の脆性材料の研磨方法。
【請求項14】
定盤上に請求項6〜10のいずれかに記載のスラリー組成物を供給する工程、サファイア基板を該定盤上に押圧して該定盤と該サファイア基板とを摺動させて該サファイア基板を研磨する工程、を備えたサファイア基板の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−263534(P2009−263534A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116012(P2008−116012)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000115083)ユシロ化学工業株式会社 (69)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】