説明

破砕剥離方法

【課題】チェーン等の線状体を回転させる技術を用いながら、被破砕物の破砕だけでなく、被破砕物の表面に付着した付着物を剥離すること。
【解決手段】破砕室3内に被破砕物Wと多数の粒体Rが収容された状態のまま、破砕室内の底部に配置された回転軸42を回転させることにより、回転軸に固定されている可撓性のある線状体43を、回転軸を中心にして回転させ、粒体と回転する線状体とによって被破砕物が破砕されて破砕屑Hになると共に破砕屑への付着物Fが剥離することを特徴とする破砕剥離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用の触媒からレアメタルを剥離したり、飲料用アルミ缶から塗料を剥離したりすることのできる破砕剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関の排ガス浄化用の触媒には、希少金属が含まれている。従って、使用済みの触媒からこれらを回収することが行われている。
【0003】
従来、このような触媒を破砕して希少金属を回収する場合、二つの工程が必要だった。(一)破砕機によって、触媒をある程度の大きさの破砕屑になるまで破砕する。
(二)破砕屑の表面に付着している希少金属をボールミル等で剥離する。
【0004】
しかしながら、ボールミルでは破砕ができないことから、破砕と剥離を別々にしなければならず、手間がかかるという問題がある。
【0005】
また、飲料用アルミ缶等の容器にコーティングされた塗料を落としてアルミのみを回収する場合、燃やすことが行われていた。
【0006】
しかしながら、燃やすには燃焼装置が必要になるばかりか、燃やすことによる諸々の問題(煙の発生、環境汚染)がある。
【0007】
そこで、本発明者は、燃焼させることなく、破砕から剥離までが一挙に行える処理の開発に着手した。そのために、チェーン等の線状体を回転させる破砕機(特許文献1参照)を用いることにより、破砕から剥離までが一挙に行えないかと考え、実験してみた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−79124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、チェーンを回転させることにより、被破砕物を破砕して破砕屑にはできても、破砕屑の表面に付着した希少金属や塗料は殆ど剥がれ落ちなかった。
【0010】
本発明は上記実情を考慮して開発されたものであり、その解決しようとする課題はチェーン等の線状体を回転させる技術を用いながら、被破砕物の破砕だけでなく、被破砕物の表面に付着した付着物を剥離することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の破砕剥離方法は、破砕室内に被破砕物と多数の粒体が収容された状態のまま、破砕室内の底部に配置された回転軸を回転させることにより、回転軸に固定されている可撓性のある線状体を、回転軸を中心にして回転させ、粒体と回転する線状体とによって被破砕物が破砕されて破砕屑になると共に破砕屑への付着物が剥離することを特徴とする。
【0012】
線状体の回転だけの場合は破砕屑の表面に希少金属等の付着物が付いたままであったにも関わらず、粒体を入れた状態で線状体を回転させることにより、破砕屑の表面に付着していた付着物が剥離することが分かった。
【0013】
前述の記載では「破砕室内に被破砕物と多数の粒体が収容された状態のまま、破砕室内の底部に配置された回転軸を回転させる」としてあるので、被破砕物及び粒体を破砕室内へ投入する際には、既に回転軸が回転しているか否かを問わない。しかし、破砕から剥離までに要する時間を短縮するには次のようにすることが望ましい。即ち、回転軸を回転させて線状体が回転した後に、破砕室内に被破砕物と多数の粒体を投入することである。
【0014】
また、粒体の粒径は問わないが、被破砕物の破砕屑の表面に付着した付着物を剥離しやすくするには、次のようにすることが望ましい。即ち、粒体が2.0mm以下の直径であることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、破砕室内に被破砕物だけでなく粒体を投入してあるので、線状体の回転によって被破砕物と粒体とが攪拌されるような状態となり、被破砕物が破砕されて破砕屑になるだけでなく、破砕屑の表面にそれまで付着していた付着物が剥離する。従って、被破砕物が自動車の触媒であれば、希少金属を破砕屑とは別に回収することができる。
【0016】
また、回転軸を回転させて線状体が回転した後に被破砕物と粒体を投入させれば、処理時間が短縮される。
【0017】
さらに、粒体が2.0mm以下の直径であれば、付着物が剥離する率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に使用する破砕装置の正面側を示す説明図である。
【図2】本発明に使用する破砕装置の側面側を示す説明図である。
【図3】粒体の粒径と剥離率との関係を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に使用する破砕剥離装置は、図1又は図2に示すように、被破砕物W及び多数の粒体Rを投入するホッパー1と、ホッパー1に投入された被破砕物W及び粒体Rを貯留するバンカー2と、バンカー2から供給された被破砕物Wと粒体Rを収容する破砕室3と、破砕室3内で被破砕物Wを打撃して破砕屑Hにすると共に付着物Fを剥離する回転打撃装置4と、破砕屑Hと粒体Rを回収する回収室5と、剥離した付着物Fを回収する集塵装置6を備えている。以下、上述の各構成部分と、各構成部分に関連する事項を詳細に説明する。
【0020】
バンカー2は、破砕室3の内部空間に繋がる筒である。そして、バンカー2は、破砕室3の天井中央部に取り付けられ、破砕室3から斜め上方に突出する状態で傾いている。
【0021】
また、ホッパー1は、バンカー2の上方に繋がる筒である。そして、ホッパー1は、斜め上方に向かって口径が広がっている。
【0022】
ホッパー1とバンカー2とが連続する部分には封鎖ゲート11が開閉可能に設けられている。封鎖ゲート11はホッパー1とバンカー2の内部空間同士をほぼ上下に仕切るプレートであって、シリンダ機構12によって自動的にほぼ横方向に往復動可能に設けられている。ホッパー1とバンカー2との接続部分には戸溝13が設けられていて、戸溝13には封鎖ゲート11が挿入されている。戸溝13は、三方向で内外に通じる平面視コの字状であって、コの字の両側には封鎖ゲート11の往復を案内するガイドが固定されている。詳しく言えば、封鎖ゲート11の幅方向両側に相当する戸溝13の両側ではその下方にレールガイド14aが固定され、レールガイド14aが封鎖ゲート11の往復方向に沿って延長している。また、封鎖ゲート11の幅方向両側をコの字状に案内する耳状ガイド14bが戸溝13の両側における奥行き方向の中間部にそれぞれ固定されている。そして、シリンダ機構12のうちシリンダはガイド側(ホッパー1又はバンカー2)に固定され、ロッドは封鎖ゲート11に固定されている。このシリンダ機構12の駆動によって封鎖ゲート11がレールガイド14aに沿って移動し、戸溝13から内部空間側に奥深く入り込むと、ホッパー1の下方が閉鎖される。
【0023】
バンカー2の下部には投入ゲート21が開閉可能に設けられている。投入ゲート21はバンカー2と破砕室3の内部空間同士をほぼ上下に仕切るプレートであって、シリンダ機構22によって自動的に揺動可能に設けられている。投入ゲート21の軸支側がバンカー2の内側に軸23で揺動可能に支持されている。また、軸23の両端部はバンカー2の外側に突出しており、そのうち片方の端部には連結片24が投入ゲート21の揺動端とは反対側に向かって延長している。シリンダ機構22のうちシリンダはバンカー2側(図では破砕室3)に、ロッドは連結片24の先端側に軸支されている。そして、シリンダ機構22の駆動によって投入ゲート21が軸23を中心に揺動する。揺動によって投入ゲート21が閉じた場合には、バンカー2の内部空間に被破砕物Wと粒体Rが貯留可能となり、投入ゲート21が開いた場合には被破砕物Wと粒体Rが破砕室3に落下して投入される。
【0024】
破砕室3は、円筒形のケース、即ち円筒形状の周壁31の上下を円形状の天壁32と底壁33とで塞いだケースである。周壁31にはメンテナンスハッチ34が形成されており、メンテナンスハッチ34がメンテナンス扉35によって開閉可能に塞がれている。また、周壁31には排出口36が形成されており、排出口36の下端が底壁33に合わせてある。排出口36に対してその外周側、即ち破砕室3の側方には、回収室5が形成されている。排出口36を開閉する構造は、回収室5の詳細と併せて後述する。そして、天壁32には前述したようにその中央部にはバンカー2が固定されており、その外周部には集塵装置6に繋がるダクト37が固定されている。また、底壁33には複数本の脚38が垂下する状態で固定されており、底壁33の下方に回転打撃装置4を固定してある。
【0025】
回転打撃装置4は、破砕室3の外側に設置されるモータ41と、円形状の底壁33の中心部に上下に貫通する状態で設置される回転軸42と、回転軸42の上部外周側に固定されている複数本の線状体43と、底壁33の底面に固定され且つ回転軸42を支持するベアリング44と、モータ41の回転を回転軸42に伝達する伝達機構を備えている。
【0026】
伝達機構は、回転軸42の下部に固定される従動側プーリ45と、モータ41の駆動軸46に固定される駆動側プーリ47と、駆動側プーリ47と従動側プーリ45に巻き掛けられるベルト48を備えている。
【0027】
線状体43は、可撓性を備えており、例えば、鎖、ワイヤーロープ、又はリンクなどが挙げられる。ここで用いる「可撓性」とは、ワイヤーロープのような純粋な撓むものだけでなく、鎖やチェーンのような屈曲するものも含む概念である。そして、複数本の線状体43は、各々の一端が回転軸42の上部に固着され、他端(先端)が破砕室3の周壁31の近傍まで放射状に延長する長さである。そして、線状体43は、破砕室3の底壁33から少し浮いた状態で高速で回転するようになっている。
【0028】
回収室5は、床の無い部屋で、その下方に回収箱51を設置してある。また、回収室5と破砕室3の内部空間同士は排出口36によって連通している。この排出口36が排出ゲート52により開閉可能に塞がれている。排出ゲート52は、シリンダ機構53によって自動的に開閉するものである。シリンダ機構53のうちシリンダ53aは回収室5の天井側に固定され、ロッド53bは排出ゲート52に固定されている。そして、シリンダ機構53の駆動によって排出ゲート52が上昇すると、破砕室3と回収室5の内部空間同士が連通し、排出ゲート52が下降すると、破砕室3と回収室5の内部空間同士が仕切られる。
【0029】
集塵装置6は、遠心力集塵装置であって、破砕室3から導かれたダクト37の一端部をサイクロンケース61に接続し、空気を排出する排気ファン62をサイクロンケース61の上部に接続してある。破砕室3で被破砕物Wから剥離した付着物Fがサイクロンケース61に回収される。サイクロンケース61の下部には開閉バルブ63が接続されている。開閉バルブ63を開くと、付着物Fをサイクロンケース61の下に落下させて回収できる。
【0030】
上述した破砕装置を用いる破砕方法は、以下の手順である。
(1)封鎖ゲート11を開いて、ホッパー1から被破砕物W(自動車用の触媒)と多数の粒体Rを一緒に投入し、バンカー2に貯留する。投入する粒体Rは、金属やセラミック等の粒で、線状体43による打撃によっても破損しない程度の硬度を備えているものとする。
(2)モータ41を駆動し、回転軸42を回転させ、回転軸42を中心にして複数本の線状体43を高速で回転させる。
(3)また、モータ41の駆動とほぼ同じタイミングで集塵装置6の排気ファン62を駆動させる。
(4)その後、封鎖ゲート11を閉じ、それまで閉じていた投入ゲート21を開き、破砕室3の内部空間に被破砕物Wと粒体Rを落下させ、引き続き投入ゲート21を閉じる。
(5)モータ41を駆動し続けると、線状体43の回転によって被破砕物Wだけでなく粒体Rも打撃され、被破砕物Wと粒体Rとの攪拌作用によって被破砕物Wが破砕されて細かな破砕屑Hになっていくと共に、破砕屑Hの表面に付着していた付着物F(希少金属等)が剥離して粉体になっていく。粉体になった付着物Fは、線状体43の高速回転よる旋回流(対流)によって上昇すると共に、排気ファン62の吸引力により、破砕室3からダクト37を経て集塵装置6に導かれ、集塵装置6の下側に落下し、開いている開閉バルブ63を通ってその下に落下して回収される。
(6)所定時間経過後に、排出ゲート52を開くと、破砕室3と回収室5の内部空間同士が排出口36によって連通し、線状体43の高速回転による打撃によって破砕屑Hと粒体Rが押し出されて排出口36から排出され、回収室5の下に落下して回収箱51に回収される。
【0031】
粒体Rの粒径と付着物F(粉体)の剥離状況との関係が図3の棒グラフに示してある。これを見ると、粒体Rの粒径が直径3.5mmのときには剥離率が50%であるのに、2.0mm以下になると剥離率が85%を超え、より詳しくは90%以上であることが分かる。85%以上であれば回収率としては充分である。
【0032】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、自動車の触媒に代わってアルミニウム等の缶容器を被破砕物Wとして、破砕剥離装置に投入しても良い。この場合であれば、缶容器に付着している塗料が剥離して粉体になる。また、被破砕物Wと粒体Rとは同時に破砕室3内に投入しても良いし、別々の時期に投入しても良い。さらに、バンカー2は、破砕室3から斜め上方に突出する状態で傾く形態に限らず、垂直方向を含めて上方に突出していれば良い。また、集塵装置6は、重力集塵装置など他の集塵装置であっても良い。
【符号の説明】
【0033】
1ホッパー 2バンカー
3破砕室 4回転打撃装置
5回収室 6集塵装置
11封鎖ゲート 12シリンダ機構
13戸溝
14aレールガイド 14b耳状ガイド
21投入ゲート 22シリンダ機構
23軸 24連結片
31周壁 32天壁
33底壁 34メンテナンスハッチ
35メンテナンス扉 36排出口
37ダクト 38脚
41モータ 42回転軸
43線状体 44ベアリング
45従動側プーリ 46駆動軸
47駆動側プーリ 48ベルト
51回収箱 52排出ゲート
53シリンダ機構 53aシリンダ
53bロッド
61サイクロンケース 62排気ファン
63開閉バルブ
W被破砕物 R粒体
H破砕屑 F付着物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破砕室(3)内に被破砕物(W)と多数の粒体(R)が収容された状態のまま、破砕室(3)内の底部に配置された回転軸(42)を回転させることにより、回転軸(42)に固定されている可撓性のある線状体(43)を、回転軸(42)を中心にして回転させ、粒体(R)と回転する線状体(43)とによって被破砕物(W)が破砕されて破砕屑(H)になると共に破砕屑(H)への付着物(F)が剥離することを特徴とする破砕剥離方法。
【請求項2】
回転軸(42)を回転させて線状体(43)が回転した後に、破砕室(3)内に被破砕物(W)と多数の粒体(R)を投入することを特徴とする請求項1記載の破砕剥離方法。
【請求項3】
粒体(R)が2.0mm以下の直径であることを特徴とする請求項1又は2記載の破砕剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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