説明

破骨細胞分化抑制剤

【課題】骨粗鬆症や関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤などとして有用な新規な破骨細胞分化抑制剤の提供。
【解決手段】下記の構造式(3)


で表されるピシフェルジオール(Pisiferdiol)またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする破骨細胞分化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症や関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤などとして有用な新規な破骨細胞分化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の高齢化社会の進行に伴い、国民の骨粗鬆症や関節リウマチなどの骨代謝疾患の罹患率が上昇していることは周知の通りであり、今日、骨代謝を改善するための薬剤の研究開発が精力的に行われている。骨代謝を改善するための方法は種々存在するが、その中で、骨代謝異常の一因として知られている、破骨細胞による骨の溶解(骨吸収)と骨芽細胞による骨の再生のバランス崩壊に鑑み、破骨細胞による骨吸収を抑制するため、その分化を抑制する方法が着目されており、例えば特許文献1には、ブナの木タール中に存在するグアイヤコールが破骨細胞の分化を抑制することが記載されている。しかしながら、破骨細胞分化抑制作用を有する物質の報告はそれほど多くはない。
【特許文献1】特開2005−281294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、骨粗鬆症や関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤などとして有用な新規な破骨細胞分化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の点に鑑みて鋭意研究を行った結果、ヒノキ科ヒノキ属の針葉樹であるサワラ(Chamaecyparis pisifera)から、複数の破骨細胞分化抑制作用を有する物質を見出し、この作用が、リン酸化されたセリンおよびスレオニンに対する脱リン酸化酵素であるセリン/スレオニンホスファターゼの1種として知られているプロテインホスファターゼ2Cのβ型アイソフォーム(PP2Cβ)の活性化作用に基づくことを知見した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明の破骨細胞分化抑制剤は、請求項1記載の通り、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
[式中、R1、R4、R5、R6、R7、R9は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R4とR5は、一緒になって結合を形成してもよい。R2、R3は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R8は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【0008】
また、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、請求項2記載の通り、下記の一般式(2)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【0009】
【化2】

【0010】
[式中、R11、R12、R13は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R14、R15、R17は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R16は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【0011】
また、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、請求項3記載の通り、PP2Cβを活性化する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、骨粗鬆症や関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤などとして有用な新規な破骨細胞分化抑制剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によって提供される破骨細胞分化抑制剤の有効成分の1つは、下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、R1、R4、R5、R6、R7、R9は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R4とR5は、一緒になって結合を形成してもよい。R2、R3は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R8は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【0016】
本発明によって提供されるその他の破骨細胞分化抑制剤の有効成分は、下記の一般式(2)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩である。
【0017】
【化4】

【0018】
[式中、R11、R12、R13は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R14、R15、R17は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R16は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【0019】
ここで、低級アルキル基とは、炭素数が1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基を意味し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
低級アルコキシ基とは、炭素数が1〜6の直鎖または分岐鎖のアルコキシ基を意味し、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基などが挙げられる。
低級アシルオキシ基とは、炭素数が2〜6の直鎖または分岐鎖のアシルオキシ基を意味し、具体的には、アセトキシ基、エチルカルボニルオキシ基、プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
低級アルコキシカルボニル基とは、その低級アルコキシ部が上記と同義のアルコキシカルボニル基を意味し、具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基などが挙げられる。
【0020】
上記の一般式(1)で表される化合物の内、代表的な化合物としては、下記の構造式(3)で表されるピシフェルジオール(Pisiferdiol)や下記の構造式(4)で表される1β-ヒドロキシイソピシフェリン(1β-Hydroxyisopisiferin)が挙げられる。これらの化合物はサワラに含まれるジテルペノイド化合物として既に公知であるが(必要であればM. Yatagai, et al., Mokuzai Gakkaishi, 24, 267-269 (1978)やS. Hasegawa, et al., Phytochemistry, 24, 1545-1551 (1985)を参照のこと)、その薬理作用としてPP2Cβを活性化することで破骨細胞分化抑制作用を発揮することは報告されていない。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
上記の一般式(2)で表される化合物の内、代表的な化合物としては、下記の構造式(5)で表されるピシフェリン酸(Pisiferic acid)や下記の構造式(6)で表されるデヒドロアビエチン酸(Dehydroabietic acid)が挙げられる。ピシフェリン酸はサワラに含まれるジテルペノイド化合物として既に公知であり(必要であればM. Yatagai, et al., Mokuzai Gakkaishi, 24, 267-269 (1978)やS. Hasegawa, et al., Phytochemistry, 24, 1545-1551 (1985)を参照のこと)、デヒドロアビエチン酸は松に含まれるジテルペノイド化合物として既に公知であるとともに(必要であればT. Minami, et al., J. Nat. Prod., 65, 1921-1923 (2002)を参照のこと)、市販もされているが、その薬理作用としてPP2Cβを活性化することで破骨細胞分化抑制作用を発揮することは報告されていない。
【0024】
【化7】

【0025】
【化8】

【0026】
上記の一般式(1)および一般式(2)で表される化合物をサワラなどの植物資源から単離精製する場合、その操作は、一般的な天然有機化合物の単離精製方法、例えば、アルコール(メタノールやエタノールなど)、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒や水を用いた抽出操作、イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲルろ過クロマトグラフィー、活性炭やアルミナやシリカゲルなどの吸着剤によるクロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーを用いた分離操作の他、結晶化操作、減圧濃縮操作、凍結乾燥操作などの各種操作を単独または適宜組み合わせて行えばよい。なお、これらの化合物は、自体公知の有機合成化学手法で合成することもできる。また、これらの化合物は、複数の不斉炭素を有するので、種々の立体異性体や光学異性体が存在し得るが、本発明はそのいずれをも権利範囲に包含するものである。
【0027】
上記の一般式(1)および一般式(2)で表される化合物が塩の形態をとりえる場合、その薬学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどとの無機塩、低級アルキルアミン、低級アルコールアミンなどとの有機塩、リジン、アルギニン、オルニチンなどとの塩基性アミノ酸塩の他、アンモニウム塩などの公知のものが挙げられる。
【0028】
上記の一般式(1)および一般式(2)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩は、破骨細胞分化抑制剤の有効成分として用いることができる。医薬品としてヒトや動物に対して投与する場合の投与方法は、経口的な投与方法であってもよいし、非経口的な投与方法であってもよい。非経口的な投与方法としては、例えば、静脈注射、筋肉内注射、皮下注射、腹腔内注射、経皮投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、口腔内投与、経粘膜投与などが挙げられ、この場合、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、これらの投与方法に適した形態に自体公知の方法で製剤化されて投与される。製剤形態としては、例えば、注射剤、坐剤、エアゾール剤、経皮吸収テープ、点眼剤、点鼻剤などが挙げられる。注射剤を調製する場合、適宜、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤などを添加して注射剤とする。経口投与製剤としては、例えば、錠剤(糖衣錠、コーティング錠、バッカル錠を含む)、散剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、顆粒剤(コーティングしたものを含む)、丸剤、トローチ剤、液剤、これらの製剤学的に許容され得る徐放化製剤などが挙げられる。液剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤(ドライシロップを含む)、エリキシル剤などを含む。例えば、錠剤は、公知の製剤学的製造法に準じ、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤などとともに調製することができる。この場合、担体や賦形剤としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末などを用いることができる。結合剤としては、例えば、デンプン、トラガントゴム、ゼラチン、シロップ、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。崩壊剤としては、例えば、デンプン、寒天、ゼラチン末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなどを用いることができる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴールなどを用いることができる。着色剤としては、医薬品に添加することが許容されているものを用いることができる。錠剤や顆粒剤は、必要に応じ、白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、精製セラック、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート、メタアクリル酸重合体などで被膜してもよいし、2層以上の層で被膜してもよい。さらにエチルセルロースやゼラチンなどを用いてカプセル化してもよい。
【0029】
本発明の破骨細胞分化抑制剤は、骨粗鬆症や関節リウマチの他、癌の骨転移や歯周病などのような、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨再生のバランス崩壊によって引き起こされる過剰な骨吸収に基づく身体の異常や苦痛に対し、破骨細胞の分化を抑制して骨吸収を抑制することで、これらの疾患の予防や治療に際して有効に作用する。本発明の破骨細胞分化抑制剤をこれらの疾患に対する予防剤や治療剤として患者に投与する場合、その投与量は、患者の年齢や体重、症状の程度、健康状態などの条件によって適宜設定すればよいが、標準的には、成人1日当たり約10mg〜約10gを、経口的または非経口的に1日1回〜数回にて投与すればよい。
【0030】
また、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、種々の形態の食品(サプリメントを含む)に、破骨細胞分化抑制作用を発揮するに足る有効量を添加して食してもよい(体重1kg当たり0.1mg〜100mgの摂取が標準的である)。
【0031】
また、本発明の破骨細胞分化抑制剤は、研究試薬として利用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、以下の記載に何ら限定して解釈されるものではない。
【0033】
実施例1:サワラからの破骨細胞分化抑制物質の単離精製
サワラ(球果)86.3 gをメタノール抽出した後、濾過し、その濾液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。得られたメタノール抽出物(12.66 g)をメタノール126.6 mlに溶解した後、分液ロート中でMQ水873.4 mlを加え、続いて酢酸エチル1000 mlと混合し、酢酸エチル抽出を行った。酢酸エチル層を三角フラスコに採り、残った水層に酢酸エチル1000 mlを加えて行う抽出操作を3回行った。以上の操作によって得られた酢酸エチル層を合わせ、エバポレーションにより濃縮乾固し、酢酸エチル抽出物6.28 gを得た。これを少量のクロロホルムに溶解し、シリカゲル220 gを充填した83φ×600 mmのカラムにチャージした。CHCl3:MeOHが、100:0、99:1、98:2、97:3、96:4、95:5、93:7、90:10、80:20、70:30、60:40、0:100の溶媒をそれぞれ400 ml、順次カラムに流し、それぞれのフラクションを回収し、エバポレーションにより濃縮乾固した。CHCl3:MeOHが95:5のフラクション(乾固物として1310 mg)からHPLC分取を行い、分取液を凍結乾燥することで、リテンションタイムの早い順より3種類の物質として成分A(393.7 mg)、成分B(17.8 mg)、成分C(91.7 mg)を得た。各種の物理化学データの測定結果から、これらの3成分は、成分Aがピシフェルジオール、成分Bが1β-ヒドロキシイソピシフェリン、成分Cがピシフェリン酸であることがわかった。
【0034】
成分A:ピシフェルジオールの物理化学データ
White amorphous powder;[α]D24 +34.8°(c 0.2, EtOH);UV (MeOH) λmax (log ε) 282 (3.53);1H and 13C NMR data (表1参照:左が実測値で右が文献値を表す);HR-EI-MS m/z 318.2191 [M]+ (calcd for C20H30O3, 318.2195)
【0035】
成分B:1β-ヒドロキシイソピシフェリンの物理化学データ
White amorphous powder;[α]D24 -152.2°(c 0.2, EtOH); UV (MeOH) λmax (log ε) 220 (4.45), 262 (4.29), 301 (4.45);HR-EI-MS m/z 300.2089 [M]+ (calcdfor C20H28O2, 300.2086)
【0036】
成分C:ピシフェリン酸の物理化学データ
White amorphous powder;[α]D24 +151.5°(c 0.2, EtOH);UV (MeOH) λmax (log ε) 286 (3.51);HR-EI-MS m/z 316.2044 [M]+ (calcd for C20H28O3, 316.2038)
【0037】
【表1】

【0038】
試験例1:ピシフェルジオールおよびピシフェリン酸のPP2Cβ活性化作用
(試験方法)
基質溶液は、PP2C Buffer(50 mM Tris-HCl, pH 7.0)10 ml にα-カゼイン 0.1 gを溶解し、それをフィルター(0.22 μm)に通した後、HiTrapTM Desalting を用いて遊離のリン酸を除いた。染色液は、0.045 % Malachite Green 90 mlに、4N HCl30 mlにAmmonium molybdate 1.26 gを溶解した溶液を加え、30分スターラーを用いて撹拌した後、フィルター(0.22 μm)で濾過した。濾過した染色液は、使用直前にTween 20を0.01 %となるよう加えて用いた。マウスPP2Cβ酵素の調製は、PP2Cαの発現条件を示した文献(K. Kusuda, et al., Biochem. J., 332, 243-250 (1998))に従い、同様にして行った。PP2C反応は、基質であるα-カゼインを40 μg、マウスPP2Cβ酵素溶液を3 μl、メタノールに溶解した10 mMの被検サンプルを1.5 μl混合し(被検サンプルの濃度を150 μMにする場合。その他の濃度にする場合は混合量を調整)、PP2C Assay Buffer(0.1 M Tris-HCl, pH 7.5, 20 mM MgCl2)を用いて総量を100 μlとした後、96 wellマイクロプレートの各ウェルにて37 ℃で1時間反応させることにより行った。反応終了後、反応液70 μlを別の96 wellマイクロプレートに移し、このプレートの各ウェルに染色液200 μlを加え、室温で15分静置し、650 nmの吸光度を測定した。また、上記のアッセイ系でマウスPP2Cβ酵素を除いたものをブランクとした。被検サンプルを混合しない場合の吸光度を100として、被検サンプルを混合した場合の吸光度を求め、その値を被検サンプルのPP2Cβ活性比(%)として評価した。
(試験結果)
結果を図1に示す。図1から明らかなように、ピシフェルジオールは150 μMでPP2Cβの活性を約1.4倍に、ピシフェリン酸は約1.6倍に亢進させ、ポジティブコントロールとして用いたリノレン酸とほぼ同等のPP2Cβ活性化作用を示した。一方、ネガティブコントロールとして用いたステアリン酸はPP2Cβ活性化作用を示さなかった。
【0039】
試験例2:ピシフェルジオールおよびピシフェリン酸の破骨細胞分化抑制作用
(試験方法)
試験例1によってそのPP2Cβ活性化作用が明らかにされたピシフェルジオールおよびピシフェリン酸の破骨細胞分化抑制作用を次のようにして評価した。マウスマクロファージ/単球由来RAW264細胞を、α-MEM培地100 μl(10 % FBS, Penicillin (100 U/ml), Streptomycin (100 μg/ml))を用いて、96 wellマイクロプレートで20時間培養した後、培地を除去し、メタノールに溶解した各濃度の被検サンプルを含む培地を100 μlづつ各ウェルに加えた。このあと4時間培養した後、100 ng/mlのsRANKL(可溶性RANKL)を含むα-MEM培地を各ウェルに100 μl加え、さらに72時間培養した。培養終了後は、まず、Cell counting kitを用いて細胞生存率を測定した。即ち、各ウェルから100 μlの培地を除去し、Cell Counting Kit-8を10 μl加え、プレートをCO2インキュベータに戻して1時間呈色反応を行い、450 nmで吸光度を測定した。測定終了後は、ウェルから培地を全て除去してPBSで洗浄した後、10 %ホルマリンを含むPBS溶液100 μlを加えて細胞を固定し、固定液を除去した後、40 μlの反応液(0.01 % NAPHTHOL AS-MS PHOSPHATE, 1.6 mM FAST RED VIOLET LB SALT, 50 mM 酢酸ナトリウム, pH 5.0)を加えて15分間室温で反応させ、TRAP染色を行った。TRAP染色で赤く染色された細胞のうち、4核以上を持つ多核細胞数を計測した。
(試験結果)
結果を図2に示す。図2から明らかなように、ピシフェルジオール、ピシフェリン酸、リノレン酸は、全て10 nMで有意にRAW264細胞の破骨細胞様の多核細胞への分化を抑制することがわかった。中でもピシフェルジオールの作用は、細胞生存率に全く影響を与えない特異的な作用であった。図3に示すように、破骨細胞の分化に必須であるRANKL(receptor activator of NF-κB ligand)は、その受容体であるRANKに結合し、下流のシグナル伝達経路を活性化することにより破骨細胞の分化を促進することが知られている(例えばM. Matsumoto et al., J. Biol. Chem. 275, 31155-31161 (2000)を参照のこと)。293-RANK細胞にsRANKLを添加して培養すると、p38のリン酸化が亢進するが、このp38のリン酸化をピシフェルジオールは60 %抑制し、ピシフェリン酸およびリノレン酸は20 %抑制した(別途の実験より)。以上の結果から、これらの化合物のようなPP2Cβを活性化する物質は、RANKL/RANKシグナル伝達を阻止することで破骨細胞の分化を抑制すると考えられ、骨粗鬆症、関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤として有用であることがわかった。
【0040】
製剤例1:注射剤
ピシフェルジオール1.5 gを可溶化剤としてエタノールを含有する生理食塩水100 mlに溶解し(合計1.5 g/100 ml)、バイアルに充填した後、加熱殺菌を行って、静注用注射剤を製造した。
【0041】
製剤例2:錠剤
以下の組成で各成分を混合し、打錠して、ピシフェルジオールを50 mg含む500 mgの錠剤400個を製造した。
ピシフェルジオール ・・・ 20 g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 6 g
ステアリン酸タルク ・・・ 4 g
6 % HPC乳糖 ・・・ 170 g
(合計200 g)
【0042】
製剤例3:顆粒剤
以下の組成で各成分を混合し、圧縮成形し、粉砕し、整粒して、20〜50メッシュの5 %顆粒剤を製造した。
ピシフェルジオール ・・・ 10 g
乳糖 ・・・ 187 g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 3 g
(合計200 g)
【0043】
製剤例4:カプセル剤
以下の組成で各成分をよく混合し、混合物を1号カプセルに充填して、カプセル剤300個を製造した。
ピシフェルジオール ・・・ 5 g
乳糖 ・・・ 40 g
馬鈴薯澱粉 ・・・ 50 g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース ・・・ 3.5 g
ステアリン酸マグネシウム ・・・ 1.5 g
(合計100 g)
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、骨粗鬆症や関節リウマチといった破骨細胞の活性化が身体の異常や苦痛をもたらす疾患の予防剤や治療剤などとして有用な新規な破骨細胞分化抑制剤を提供することができる点において、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例におけるピシフェルジオールおよびピシフェリン酸のPP2Cβ活性化作用を示すグラフである。
【図2】同、ピシフェルジオールおよびピシフェリン酸の破骨細胞分化抑制作用を示すグラフである。
【図3】RANKL/RANKシグナル伝達経路の概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする破骨細胞分化抑制剤。
【化1】


[式中、R1、R4、R5、R6、R7、R9は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R4とR5は、一緒になって結合を形成してもよい。R2、R3は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R8は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【請求項2】
下記の一般式(2)で表される化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする破骨細胞分化抑制剤。
【化2】


[式中、R11、R12、R13は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、低級アルキル基、カルボキシ基、低級アルコキシカルボニル基のいずれかを示す。R14、R15、R17は、同一または異なって、それぞれ、水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アシルオキシ基のいずれかを示す。R16は、水素原子または低級アルキル基を示す。]
【請求項3】
プロテインホスファターゼ2Cβを活性化する物質またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする破骨細胞分化抑制剤。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−53075(P2010−53075A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219666(P2008−219666)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年3月5日発行(発行者:社団法人日本農芸化学会)の「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(500433225)学校法人中部大学 (105)
【出願人】(504165591)国立大学法人岩手大学 (222)
【Fターム(参考)】