説明

硝酸イオン吸着剤を含有する成形体およびその製造方法

【課題】本発明は、内包された硝酸イオン吸着剤とカプセル外の物質とが、圧損などの影響を大きく受けることなく効率的に接触できる成形体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリマー中に形成された複数のセルを有する成形体であって、(1)セル中には硝酸イオン吸着剤が内包され、(2)ポリマー中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、(3)セルの内壁と硝酸イオン吸着剤は実質的に接触していない、成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸イオン吸着剤を含有する成形体およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、複数のセルを有し、セル中に硝酸イオン吸着剤が内包された成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸イオンは、河川、湖沼等の富栄養化の原因物質であり、河川、湖沼から硝酸イオンを効率よく除去する技術の確立が望まれている。そのため近年、硝酸イオンの吸着剤についての研究が行われている。例えば、硝酸イオン吸着剤として特定の構造を有する複合金属水酸化物が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この硝酸イオン吸着剤は粉体状であり、工業的に硝酸イオンの吸着を行うには、担体に担持する必要がある。
一方、各種活性物質の担体として、種々の中空ないし多孔質構造の膜状、マイクロカプセル状の成形体が提案されている。例えば、スピノーダル分離模様の連続多孔構造を有する膜が提案されている(特許文献2参照)。また、各種触媒の担持体、電子写真のトナー、表示機器などの電子材料、クロマトグラフィー、吸着材などとして、多孔質球状粒子が知られている(特許文献3参照)。また、微生物、細菌、酵素に代表される活性物質の固定化担体として、中空および多孔質のカプセル壁を有し、カプセル壁の多孔質が、カプセルの内部の中空と微細孔を通してつながっている構造のマイクロカプセルが提案されている(特許文献4参照)。また、カプセル樹脂壁材の緻密性を制御することにより、所望の徐放特性を有するマイクロカプセルが提案されている(特許文献5参照)。さらに、活性物質のバインダーを多孔構造とする方法として、無機塩や澱粉等の有機物を造孔剤として用いる方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0003】
しかし、これらのマイクロカプセルは中空部と、それを覆う外殻とからなり、カプセル内部は中空であり活性物質を内部に担持するスペースおよび内部表面積は限られている。また、大粒径のマイクロカプセルの場合、強度を維持するためには外殻の厚さを大きくする必要があるが、活性物質とカプセル外物質との接触は、外殻に存在する数nm〜数十μmの細孔によってのみなされるため、外殻の厚さを大きくした場合には、かかる細孔による圧損が大きくなり、効率的に接触を行うことができないという欠点がある。
【0004】
また、活性物質が、担体の外部に露出していると、外部からの摩擦等で容易に活性物質が脱落、剥離してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開2004−130200号公報
【特許文献2】特開平1−245035号公報
【特許文献3】特開2002−80629号公報
【特許文献4】特開2003−88747号公報
【特許文献5】特開2004−25099号公報
【特許文献6】特開昭64−65143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明は、内包される硝酸イオン吸着剤とカプセル外の物質とが、圧損などの影響を大きく受けることなく効率的に接触できる成形体を提供することを目的とする。また本発明は、硝酸イオン吸着剤の表面がポリマーにより被覆されることなく、その表面積を最大に利用することのできる成形体を提供することを目的とする。さらに本発明は、硝酸イオン吸着剤が外部からの摩擦等で容易に脱落、剥離することのない成形体を提供することを目的とする。加えて本発明は、硝酸イオン吸着剤が直接人体に接触したり吸引されたりすることのない成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、硝酸イオン吸着剤に好適な担体について鋭意検討した。その結果、硝酸イオン吸着剤と疎水性のポリマーとを含有するドープを凝固液中で凝固させると、ポリマー中に硝酸イオン吸着剤を内包した複数のセルが形成され、かつ、セル中の硝酸イオン吸着剤は、セルの内壁に担持されることなく、ちょうど鈴の内部の空洞に入れられた珠のように内壁と接触していない構造が得られることを見出した。また、ポリマー中には、いわゆるスピノーダル分解により細孔が形成され、カプセル外の物質と硝酸イオン吸着剤との接触が容易に行なわれることを見出し本発明を完成した。
【0007】
即ち本発明は、ポリマー中に形成された複数のセルを有する成形体であって、
(1)セル中には硝酸イオン吸着剤が内包され、
(2)ポリマー中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、
(3)セルの内壁と硝酸イオン吸着剤は実質的に接触していない、成形体である。
【0008】
また本発明は、ドープを凝固液中で凝固させることからなる、ポリマー中に形成された複数のセルを有する成形体であって、セル中には硝酸イオン吸着剤が内包されている成形体の製造方法であって、
(1)ドープは、疎水性のポリマー、該ポリマーの良溶媒である溶媒(B)および硝酸イオン吸着剤を含有し、
(2)凝固液は、該ポリマーの貧溶媒である溶媒(D)を含有することを特徴とする方法である。
【0009】
さらに本発明は、上記成形体と被処理液とを接触させることからなる被処理液中の硝酸イオンの除去方法を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形体は、担持するポリマー自体に細孔を有するので、内包された硝酸イオン吸着剤とカプセル外の物質とが、圧損などの影響を受けず効率的に接触できる。本発明の成形体は、硝酸イオン吸着剤がセル中でセル内壁に接触せず存在するので、その表面積を有効に活用できる。本発明の成形体は、硝酸イオン吸着剤が外部からの摩擦等で容易に脱落、剥離することがない。本発明の成形体は、硝酸イオン吸着剤が直接人体に接触したり吸引されたりすることがない。本発明の製造方法によれば、前記成形体を容易に製造することができる。また本発明の硝酸イオンの除去方法によれば、被処理液中の硝酸イオンを高い吸着率で回収することができる。また粉体の硝酸イオン吸着剤を用いるのに比べ、被処理液との分離が容易である。またカラムにした場合の圧損も小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<成形体>
(ポリマー)
本発明の成形体は、ポリマーにより形成される。ポリマーは疎水性である。ポリマーとして、アラミドポリマー、アクリルポリマー、ビニルアルコールポリマー、セルロースポリマーなどが挙げられる。アラミドポリマーは、アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸成分よりなるポリマーが好ましい。その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンイソフタルアミドを挙げることができる。アクリルポリマーは、85モル%以上のアクリロニトリル成分を含むポリマーが好ましい。共重合成分として、酢酸ビニル、アクリル酸メチル、メタクリ酸メチル、および硫化スチレンスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の成分が挙げられる。
(細孔)
本発明の成形体は、ポリマー自体に細孔を有する。細孔は他の細孔とポリマー中で連通しており、細孔同士が連結した網目構造を形成している。細孔の孔径は1nm〜1μm、好ましくは10nm〜500nmの範囲にある。細孔は、ドープをポリマーの貧溶媒である溶媒(D)を含有する凝固液中で凝固させることによりスピノーダル現象により形成される。細孔は、走査型電子顕微鏡写真、透過型電子顕微鏡写真により観察することができる。
(セル)
本発明の成形体中には複数のセルを有する。セル中には硝酸イオン吸着剤が内包されている。セルの形状は一定ではないが、硝酸イオン吸着剤を含むことが出来る大きさである。本発明の成形体においては、セルの内壁と硝酸イオン吸着剤は実質的に接触していない。即ち本発明の成形体においては、セルの内壁と、硝酸イオン吸着剤との間には隙間が存在する。セル中の硝酸イオン吸着剤は、ちょうど鈴の中にある珠に相当すると言える。以下この構造を鈴構造ということがある。
【0012】
(硝酸イオン吸着剤)
硝酸イオン吸着剤は、下記式(1)
M(II)1−xFe(III)(OH)n−x/n・mHO (1)
で表される複合金属水酸化物であることが好ましい。
式(1)中のM(II)は主として、Ni(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)およびCu(II)からなる群より選ばれる少なくとも一種の二価金属からなる。上記の金属は、全二価金属に対しモル基準で、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。併用してもよい他の二価金属としては、MgやCaなどが挙げられる。また、硝酸イオン吸着剤中のM(II)の含有割合はモル基準で、好ましくは50%以上、より好ましくは66%以上である。
硝酸イオン吸着剤中のFe(III)の含有割合はモル基準で、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。
【0013】
n−は、n価の陰イオンである。An−は、イオン交換性を有するものであれば無機陰イオン、有機陰イオンのいずれでもかまわないが、溶液中の硝酸イオンとのイオン交換性を考えると、OH、HCO3−、或いはClが好ましい。硝酸イオン吸着剤が、複合金属水酸化物の水熱処理物の場合には、これらの陰イオン以外にCO2−やNO等の陰イオンを含むものも使用することができる。その場合、層間の陰イオンはガスとして逃散し、層間にはOHが生成することになる。nは1、2または3が好ましい。
xは、0<x≦0.67、好ましくは0.1≦x≦0.5を満足する。mは、0≦m≦2、好ましくは0.1≦m≦1.5を満足する。
【0014】
硝酸イオン吸着剤として、以下のものが好ましい。
(i) 式(1)中、M(II)が、Ni(II)および/またはCo(II)である硝酸イオン吸着剤。
(ii) 式(1)中、An−がCl、HCO3−およびOHからなる群より選ばれる少なくとも一種である硝酸イオン吸着剤。
硝酸イオン吸着剤は、粒子状のものが好ましい。粒子の粒径は、好ましくは1nm〜500μm、より好ましくは1nm〜100μm、さらにより好ましくは1nm〜50μmである。
【0015】
式(1)で表わされる複合水酸化物は、Ni(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)およびCu(II)からなる群より選ばれる少なくとも1種或いはそれを主とする二価金属の水溶性化合物と、Fe(III)を主とする三価金属の水溶性化合物との混合物を、共沈することによって製造することができる。好ましくは共沈後、さらに熟成するのがよい。これら二価金属の水溶性化合物と三価金属の水溶性化合物としては、金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸水素塩などを挙げることができるが、後の処理を考えると塩化物、硝酸塩、炭酸水素塩が好ましい。そのほか、水酸化ニッケル、水酸化鉄、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような水酸化物も少量ならば用いることができる。
【0016】
式(1)で表わされる複合金属水酸化物は、水熱処理し、高結晶化状態にすることにより硝酸イオン選択性が向上する。高結晶化状態となった複合金属水酸化物は、リン酸の遊離体や硫酸イオンに対する選択係数よりも硝酸イオンに対する選択係数が大きい硝酸イオン特異性を発現する。水熱処理は、耐圧容器(オートクレーブ)中、好ましくは0.11〜1MPa、100〜250℃、より好ましくは0.15〜0.5MPa、110〜180℃で行う。
硝酸イオン選択的吸着剤およびその製造方法の詳細は、特開2004−130200号公報に記載されている。本発明の成形体は、球状、楕円状のような塊状のもの、紐状、パイプ状、中空糸状のような繊維状のもの、また膜状のものが好ましい。
【0017】
<成形体の製造方法>
(ドープ)
本発明の成形体は、ドープを凝固液中で凝固させ製造することができる。ドープは、疎水性のポリマー、該ポリマーの良溶媒である溶媒(B)および硝酸イオン吸着剤を含有する。ポリマー、硝酸イオン吸着剤は成形体の項で説明した通りである。ドープ中に2種以上の硝酸イオン吸着剤を含有させることもできる。
溶媒(B)は、ポリマーの良溶媒である。良溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し大きな溶解能を有する溶媒である。たとえば、ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドのとき、溶媒(B)はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましい。またポリマーがアクリルポリマーのとき、ポリマー(C)溶媒(B)はジメチルスルホオキサド(DMSO)が好ましい。さらにはポリマーがポリ乳酸のとき、溶媒(B)はジクロロメタン(DCM)が好ましい。
溶媒(B)の含有量は、100質量部のポリマーに対し、好ましくは100〜10,000質量部、より好ましくは1,000〜5,000質量部である。硝酸イオン吸着剤の含有量は、ポリマー100質量部に対し、好ましくは100〜10,000質量部、さらに好ましくは100〜1900質量部である。
ドープの温度は、好ましくは5〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃である。ドープは、溶媒(B)にポリマーを混入し、充分に攪拌して溶解させた後に、硝酸イオン吸着剤を添加して調製しても良いし、溶媒(B)中にポリマーと硝酸イオン吸着剤を同時に混入させて調製しても良い。
【0018】
(凝固液)
凝固液は、ポリマーの貧溶媒である溶媒(D)を含有する。貧溶媒とは一般に言われるように、ポリマーに対し溶解能を僅かしか持たない溶媒である。ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドであるとき、溶媒(D)は水が好ましい。またポリマーがポリ乳酸であるとき、溶媒(D)はミネラルオイルが好ましい。凝固液は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%の溶媒(D)を含有する。他の成分は、N−メチル−2−ピロリドンやジメチルスルホオキサドが好ましい。
凝固液は、界面活性剤を含有していても良い。界面活性剤としてアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤として、高級脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、炭素数12〜16の直鎖モノアルキル第4級アンモニウム塩、炭素数20〜28の分岐アルキル基を有する第4級アンモニウム塩等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキル基およびアシル基が8〜18個の炭素原子を有するアルキルアミンオキシド、カルボベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、アルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド(EO)等を挙げることができる。界面活性剤の含有量は、溶媒(D)100質量部に対し、好ましくは0.05〜30質量部、さらに好ましくは5〜10質量部である。凝固液の温度は、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃である。
【0019】
本発明の成形体を得るには特殊な装置は不要である。塊状成形体は、ドープを、凝固液中に添加することにより製造することができる。例えば、ドープを凝固液中にスプレー、注射器などで滴下させるだけでよい。また、繊維状の成形体は、凝固液中にノズルで吐出して巻き取ることで製造できる。また、繊維状、紐状、パイプ状の成形体は、空中からマイクロシリンジ等でドープを吐出しながらマイクロシリンジ等を水平に移動させて、ドープを凝固液中に投入することにより得ることもできる。また、膜状成形体はキャリア物質上にドープを塗布し凝固液に浸漬することで製造できる。これらの場合、スプレーノズルの口径、塗布厚みなどを変えることにより、成形体の径や厚みを任意に調整することが可能である。
【0020】
本発明によれば、いわゆるスピノーダル分解によって、ポリマー中に連続した孔径1nm〜1μm程度の網目構造の微細孔が形成される。またポリマーは疎水性で、硝酸イオン吸着剤は親水性であるので、ポリマーと硝酸イオン吸着剤活性物質とは互いにはじき合う性質を有するため、鈴構造が形成される。
【0021】
ポリマーが、ポリメタフェニレンテレフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、溶媒(D)が水であることが好ましい。ポリマーがアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、溶媒(D)が水であることが好ましい。好ましいポリマーおよび溶媒の組み合わせとして、下記表1に示す組合せが例示できる。
【0022】
【表1】

【0023】
<硝酸イオンの除去方法>
本発明の硝酸イオンの除去方法は、上記成形体と被処理液とを接触させることからなる。被処理液として、河川、湖沼、海水、地下水、上下水等の硝酸イオン含有溶液が挙げられる。
硝酸イオンの除去は、成形体を被処理液に添加し、十分撹拌混合して硝酸イオンを吸着させ、さらにはほぼ吸着平衡に達しめたのち、固液分離すればよい。それにより、被処理液中の硝酸イオンは成形体に取り込まれ成形体ごと固体として液体より分別除去される。このような吸着処理において、被処理液のpHは4〜10の範囲に調整するのが好ましい。処理時間は、成形体の粒径によっても異なってくるが、粉末の場合、通常30分〜2時間の範囲である。
【0024】
成形体中の吸着剤に吸着された硝酸イオンは、成形体を適当な脱着剤、通常アルカリ、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩等や、塩化ナトリウムなどのハロゲン化アルカリ等の溶液、好ましくは水溶液で処理すれば、脱着されて溶液中に溶出してくる。脱着剤の溶液濃度は、硝酸イオン吸着量によっても異なるが、通常0.1〜5M、好ましくは1〜2Mの範囲で選ばれる。炭酸アルカリ溶液で脱着したときには、層間に硝酸イオンの代りに炭酸イオンが入り込むため、吸着剤を再生する際には脱着後に吸着剤を加熱処理して、層間の炭酸イオンをとり除くようにする。
【0025】
また、吸着剤に吸着された硝酸イオンは、吸着剤を加熱処理することで取り除くことができる。すなわち、硝酸イオンを吸着した吸着剤を100〜500℃、好ましくは200〜350℃で加熱処理すれば、層間の硝酸イオンは分解しガスとして放出されるので、硝酸イオンの脱着と吸着剤の再生を同時に行うことができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
(参考例1)硝酸イオン吸着剤の合成
塩化ニッケル12ミリモルと塩化鉄3ミリモルとを含む水溶液15mlと、1M水酸化ナトリウム水溶液とを、pH10の水酸化ナトリウム水溶液50mlにpH10に保ちながら30分かけて同時に滴下し、1時間撹拌し、析出物を生成させたのち、これを120℃で3日間水熱処理させて沈殿生成物を得た。沈殿生成物は遠心分離し、中性になるまで水洗いし、50℃で1日間乾燥した。生成物は粉末X線構造解析、組成分析、熱分析により、[Ni(II)0.79Fe(III)0.21(OH)][(Cl)0.21・0.63HO]の化学組成の複合金属水酸化物と同定された。これを400メッシュの篩で分級して、400メッシュ以下の粒子を選別し硝酸イオン吸着剤とした。図1に水熱処理前後のX線回折測定結果を示す。
【0027】
<実施例1>繊維状成形体の製造
室温で、10重量部のポリメタフェニレンテレフタルアミド(PMPTA)を1400重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させて、ポリマー溶液を調製した。15質量部の参考例1で調製した硝酸イオン吸着剤を、50重量部のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に添加し、−0.097MpaGで3時間減圧下に保持して脱気を行った。その後、全量をポリマー溶液に加え、攪拌棒で全体を充分に攪拌してドープを調製した。室温の水を凝固液とした。図1に示す装置で、室温にてドープをギヤポンプからキャップを介して凝固液中に吐出し、ローラーで巻き取って繊維状成形体を得た。繊維状成形体の断面の透過型電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0028】
<実施例2>繊維状成形体による硝酸イオンの吸着
実施例1で得られた繊維状成形体0.1gに対して、0.01M硝酸ナトリウム水溶液50mlを加え、3日間かきまぜた。吸着前後の硝酸イオン濃度の差から硝酸イオンの吸着量を求めた。吸着容量は37mg−NO/g−繊維状成形体で、原粉当たりの吸着容量は62mg−NO/原粉gであった。硝酸イオン濃度はイオンクロマトで測定した。
【0029】
<比較例1>原粉による硝酸イオンの吸着
参考例1で得られた硝酸イオン吸着剤の原粉0.1gに対して、0.01M硝酸ナトリウム水溶液50mlを加え、3日間かきまぜた。吸着前後の硝酸イオン濃度の差から硝酸イオンの吸着量を求めた。吸着容量は67mg−NO/g−原粉であった。実施例2と比較例1とを比べると、繊維状成形体の吸着容量は、原粉とほぼ同等であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の成形体は、硝酸イオン吸着剤としての応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】参考例1に示したNiFe型複合金属水酸化物の水熱処理前後のX線回折測定結果を示す。
【図2】実施例1で用いた装置の略図である。
【図3】実施例1で得られた繊維状成形体の断面の拡大図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ドープ貯留槽
2 ドープ
3 吐出部
4 紡出糸
5 凝固浴槽
6 凝固液
7 抑えローラー
8 巻き取りローラー
9 硝酸イオン吸着剤
10 隙間
11 ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー中に形成された複数のセルを有する成形体であって、
(1)セル中には硝酸イオン吸着剤が内包され、
(2)ポリマー中には細孔が存在し、細孔は他の細孔とポリマー中で連通し、それらの孔径が1nm〜1μmの範囲にあり、
(3)セルの内壁と硝酸イオン吸着剤とは実質的に接触していない、成形体。
【請求項2】
硝酸イオン吸着剤は、下記式(1)
M(II)1−xFe(III)(OH)n−x/n・mHO (1)
(式(1)中、M(II)は主として、Ni(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)およびCu(II)からなる群より選ばれる少なくとも一種の二価金属であり、An−はn価の陰イオンであり、xおよびmは、0<x≦0.67、0≦m≦2を満足する数である)
で表される複合金属水酸化物を水熱処理することにより得られたものである請求項1記載の成形体。
【請求項3】
ドープを凝固液中で凝固させることからなる、ポリマー中に形成された複数のセルを有する成形体であって、セル中には硝酸イオン吸着剤が内包されている成形体の製造方法であって、
(1)ドープは、疎水性のポリマー、該ポリマーの良溶媒である溶媒(B)および硝酸イオン吸着剤を含有し、
(2)凝固液は、該ポリマーの貧溶媒である溶媒(D)を含有することを特徴とする方法。
【請求項4】
ドープが、100質量部のポリマーに対して100〜10,000質量部の溶媒(B)を含有する請求項3記載の方法。
【請求項5】
ポリマーがポリメタフェニレンテレフタルアミドであり、溶媒(B)がN−メチル−2−ピロリドンであり、溶媒(D)が水である請求項3記載の方法。
【請求項6】
ポリマーがアクリルポリマーであり、溶媒(B)がジメチルスルホオキサドであり、溶媒(D)が水である請求項3記載の方法。
【請求項7】
硝酸イオン吸着剤は、下記式(1)
M(II)1−xFe(III)(OH)n−x/n・mHO (1)
(式(1)中、M(II)は、主としてNi(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)およびCu(II)からなる群より選ばれる少なくとも一種の二価金属であり、An−はn価の陰イオンであり、xおよびmは、0<x≦0.67、0≦m≦2を満足する数である)
で表される複合金属水酸化物を水熱処理することにより得られたものである請求項3記載の方法。
【請求項8】
請求項1記載の成形体と被処理液とを接触させることからなる被処理液中の硝酸イオンの除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−126180(P2008−126180A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316214(P2006−316214)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(503473426)帝人エンテック株式会社 (4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】