説明

硫化リチウム鉄の製造方法及び硫化リチウム遷移金属の製造方法

【課題】XRD分析において単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を製造する方法、及びXRD分析において単一相の硫化リチウム遷移金属を製造する方法を提供する。
【解決手段】硫化鉄(a)と硫黄とを混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得、次いで、該硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満である硫化鉄(b)を得る第一工程と、該硫化鉄(b)と硫化リチウムとを混合して、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を得、次いで、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る第二工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用の正極活物質として用いられる硫化リチウム鉄及び硫化リチウム遷移金属を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は携帯電話やノートパソコンの電源として多く使用されている。そのリチウムイオン二次電池の正極活物質としては、酸化物系や硫化物系の材料が知られている。酸化物系の材料としてはLiCoO、LiMnO、LiNiOなどが代表的なものであり、現在広範囲に使用されている。一方、硫化物系の材料としてはLiTiS、LiMoS、LiNbS、LiFeSなどが挙げられる。硫化物系の材料は、高容量の二次電池が得られることから、酸化物系に代わる材料として研究が進められている。
【0003】
硫化物系の材料のうち、硫化リチウム鉄(LiFeS)は、その製造原料となる硫化第一鉄(FeS)が天然鉱物として大量に存在することからコストの面から見ても魅力的な素材である。
【0004】
このような経緯から、硫化リチウム鉄(LiFeS)の製造方法について幾つか研究が進められている。例えば特許文献1には、硫化鉄と硫化リチウムを混合して、混合物を石英管に詰めてアルゴン気流中で焼成する方法が開示されている。特許文献2には、硫化リチウムと硫化鉄をアルゴン雰囲気の下で、ハロゲン化リチウムの溶融塩の中で反応を行う方法が開示されている。特許文献3には溶融イオウを含んでなる溶媒中で硫化鉄を硫化リチウムと反応させることが開示されている。非特許文献1には、混合物をカーボン製のルツボに入れ、更にルツボを石英管に入れてシールして焼成する方法が開示されている。これらの他にも、硫化リチウム鉄及びその製造方法について開示されているものがある(特許文献4〜6、非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−208782号公報
【特許文献2】米国特許第7018603号公報
【特許文献3】特表2003−502265号公報
【特許文献4】特開2003−22808号公報
【特許文献5】特開2005−228586号公報
【特許文献6】特開2006−32232号公報
【非特許文献1】「Journal of Electrochemical Society」,148巻10号,A1085−A1090頁,2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討結果によれば、これらの方法により得られる生成物をX線回折分析(以後、XRD分析とも記載する。)すると、硫化リチウム鉄(LiFeS)の他に、LiFeS、LiFeS、LiFe、Li2.33Fe0.67等の硫化リチウム鉄の異相ピークが認められることが判明した。さらに硫化リチウム鉄以外に、金属Fe、酸化物であるFeO、Fe、原料のLiS等のピークが認められることがあることも判明した。つまり、従来の方法には、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を得ることは困難であるという問題があった。
【0007】
また、硫化リチウム鉄(LiFeS)以外の硫化チリウム遷移金属についても、同様に、単一相のものを得るのが困難であるという問題があった。
【0008】
従って、本発明の課題は、XRD分析において単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を製造する方法を提供することにある。また、本発明の課題は、XRD分析において単一相の硫化リチウム遷移金属を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、(1)硫化鉄と硫黄とを混合し、焼成することにより、ほぼ単一相であり且つFe/Sの組成比がモル比で1より小さい硫化鉄が得られること、(2)このようにして得られたFe/Sのモル比が特定範囲の硫化鉄を、硫化リチウムと反応させると、XRD分析において単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を製造することができること等を見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
即ち、本発明(1)は、硫化鉄(a)と、硫黄と、を混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得、次いで、該硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満である硫化鉄(b)を得る第一工程と、
該硫化鉄(b)と、硫化リチウムと、を混合して、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を得、次いで、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る第二工程と
を有することを特徴とする硫化リチウム鉄の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、遷移金属硫化物(A)と、硫黄と、を混合して、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相である下記一般式(1):
(a)(b) (1)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。)
で表わされる遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)を得る第一工程と、
該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と、硫化リチウムと、を混合して、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、下記一般式(2):
LiMS (2)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。xは0.5以上4.0以下であり、yは0.5以上4.0以下である。)
で表わされる硫化リチウム遷移金属を得る第二工程を有し、
下記式(3):
a/b<1/(y−(x/2)) (3)
を満たすこと
を特徴とする硫化リチウム遷移金属の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、XRD分析において単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を製造する方法を提供することができる。また、本発明よれば、XRD分析において単一相の硫化リチウム遷移金属を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法は、硫化鉄(a)と、硫黄と、を混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得、次いで、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満である硫化鉄(b)を得る第一工程と、
硫化鉄(b)と、硫化リチウムと、を混合して、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を得、次いで、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る第二工程と
を有する硫化リチウム鉄の製造方法である。
【0014】
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法に係る第一工程は、硫化鉄(a)と、硫黄と、を混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得、次いで、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、硫化鉄(b)を得る工程である。
【0015】
第一工程に係る硫化鉄(a)は、硫黄により硫化される物質であるので、第一工程を行うことにより得られる硫化鉄(b)に比べ、硫黄元素の組成比が低い硫化鉄である。そして、硫化鉄(a)の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)は、硫化鉄(b)の硫黄元素に対する鉄元素の組成比をいくつに設定するかによって、適宜選択されるが、好ましくは1.00以上2.00以下、特に好ましくは1.10以上1.90以下、更に好ましくは1.2以上1.6以下である。硫化鉄(a)の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が、上記範囲にあることにより、硫化鉄(b)を得易くなる。なお、本発明では、硫化鉄(a)の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比は、ICP発光分光分析法、キレート滴定法、沈澱重量法等により得られる硫化鉄(a)中の鉄元素及び硫黄元素の質量%から各元素のモル数を算出し、鉄元素のモル数/硫黄元素のモル数により求められる値である。
【0016】
硫化鉄(a)は、市販品であっても、公知の合成方法で得られたものであってもよい。硫化鉄(a)の合成方法としては、例えば、鉄粉と硫黄をルツボ中で融解する方法が挙げられる。この方法では、合成原料となる硫黄の一部が揮散するため、得られる硫化鉄(a)の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)は、1.00以上となる。
【0017】
硫化鉄(a)の平均粒子径は、好ましくは5μm以上100μm以下、特に好ましくは5μm以上75μm以下である。硫化鉄(a)の平均粒子径が、上記範囲であることにより、第一工程において、硫化鉄(a)と硫黄との反応性が高くなる。硫化鉄(a)中の粒子径が150μmを超える粗粒子の含有量は、好ましくは15質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。硫化鉄(a)中の粗粒子の含有量が、上記範囲であることにより、第一工程において、硫化鉄(a)と硫黄との反応性が高くなる。なお、本発明において、粗粒子の含有量は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる値であり、また、平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる平均粒子径(D50)である。
【0018】
第一工程に係る硫黄としては、特に制限されず、市販品であってもよい。
【0019】
そして、第一工程では、先ず、硫化鉄(a)と硫黄とを混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得るが、硫黄は揮散しやすいので、所望のFe/Sの組成比の硫化鉄(b)を得る理論量よりも過剰な状態で硫黄を仕込むことが望ましい。このとき、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が、0.50以上1.00未満となるように硫化鉄(a)と硫黄とを混合することが好ましく、0.75以上0.90以下となるように硫化鉄(a)と硫黄とを混合することが特に好ましい。なお、本発明では、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)は、ICP発光分光分析法、キレート滴定法、沈澱重量法等の分析結果から求められる硫化鉄(a)の硫黄元素の含有モル数及び硫黄元素の含有モル数と、硫化鉄(a)に混合する硫黄のモル数とから算出される値である。
【0020】
第一工程において、硫化鉄(a)と硫黄とを混合する方法としては、特に制限されず、例えば、コーヒーミル、ビーズミル、ヘンシェルミキサー、カッターミキサー等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0021】
第一工程では、次いで、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、硫化鉄(b)を得る。
【0022】
第一工程に係る不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。反応系への不活性ガスの導入方法としては、反応系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば、特に制限されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法が挙げられる。
【0023】
第一工程において、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を焼成する際の焼成温度は、好ましくは500℃以上1200℃以下、特に好ましくは700℃以上1000℃以下である。第一工程において、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を焼成する際の焼成温度が上記範囲であることにより、硫化鉄(b)が得易くなる。また、第一工程において、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を焼成する際の焼成時間は、好ましくは1時間以上24時間以下、特に好ましくは2時間以上12時間以下である。第一工程において、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を焼成する際の焼成時間が上記範囲であることにより、硫化鉄(b)が得易くなる。
【0024】
そして、第一工程を行うことにより、硫化鉄(b)を得るが、硫化鉄(b)は、XRD分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満である。例えば、硫化鉄(b)が、ほぼ単一相のFe0.96Sの場合について説明すると、硫化鉄(b)は、XRD分析したときに、Fe0.96Sのピークパターンが得られるものである。このとき、硫化鉄(b)は、XRD分析において、Fe0.96Sに由来するピークのみが見られることが好ましいが、ほぼ単一相のFe0.96Sであればよく、本発明の効果を損なわない程度で、他のものに由来するピークが存在してもよい。他のものに由来するピークが存在する場合は、ほぼ単一相の硫化鉄(b)とは、下記式:
単一相率(%)=(P1/(P1+P2))×100
(式中、P1は、硫化鉄(b)のXRDチャートにおいて、Fe0.96Sに由来するピークのうち、最もピーク強度が高いピークのピーク強度であり、P2は、硫化鉄(b)のXRDチャートにおいて、Fe0.96Sに由来するピーク以外のピークのうち、最もピーク強度が高いピークのピーク強度を指す。)
に示す単一相率が、95%以上であればよい。即ち、本発明においてXRD分析でほぼ単一相の硫化鉄(b)とは、XRD分析において、硫化鉄(b)が単一相として存在するか、又は前記で定義した単一相率が95%以上であることを示す。
【0025】
なお、上記では、硫化鉄(b)が、ほぼ単一相のFe0.96Sの場合について説明したが、それ以外の硫化鉄(b)、例えば、ほぼ単一相のFe0.94Sについても同様である。例えば、硫化鉄(b)が、ほぼ単一相のFe0.94Sの場合、硫化鉄(b)は、XRD分析したときに、Fe0.94Sのピークパターンが得られるものである。このとき、硫化鉄(b)は、XRD分析において、Fe0.94Sに由来するピークのみが見られることが好ましいが、ほぼ単一相のFe0.94Sであればよく、本発明の効果を損なわない程度で、他のものに由来するピークが存在してもよい。他のものに由来するピークが存在する場合は、ほぼ単一相の硫化鉄(b)とは、下記式:
単一相率(%)=(P1/(P1+P2))×100
(式中、P1は、硫化鉄(b)のXRDチャートにおいて、Fe0.94Sに由来するピークのうち、最もピーク強度が高いピークのピーク強度であり、P2は、硫化鉄(b)のXRDチャートにおいて、Fe0.94Sに由来するピーク以外のピークのうち、最もピーク強度が高いピークのピーク強度を指す。)
に示す単一相率が、95%以上であればよい。
【0026】
硫化鉄(b)の硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)は、モル比で0.90以上1.00未満であり、好ましくは0.91以上0.99以下、特に好ましくは0.93以上0.97以下、更に好ましくは0.94以上0.96以下、より好ましくは0.94又は0.96である。第一工程を行い得られる硫化鉄(b)の組成比(Fe/S)を上記範囲にして、後述する第二工程を行うことにより、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)が得られるが、硫化鉄(b)の組成比が0.90より小さい場合、目的とするLiFeS以外にLiFe等が副生しやすくなり、一方、1.0以上になると副生若しくは未反応のLiS等が残存しやすくなる。
【0027】
硫化鉄(b)としては、例えば、ほぼ単一相のFe0.96S、ほぼ単一相のFe0.94S、ほぼ単一相のFe0.95S、ほぼ単一相のFe0.975S、ほぼ単一相のFe0.985S、ほぼ単一相のFe0.91S、ほぼ単一相のFe0.951.05、ほぼ単一相のFe10等が挙げられる。このとき、例えば、硫化鉄(b)の硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)は、硫化鉄(b)が、ほぼ単一相のFe0.96Sの場合、0.96/1=0.96であり、ほぼ単一相のFe0.94Sの場合、0.94/1=0.94である。
【0028】
硫化鉄(b)が、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)が上記範囲であることにより、単一相のLiFeSで表わされる硫化リチウム鉄が得られる。特に、硫化鉄(b)が、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つFe0.96Sの組成を有する硫化鉄、又はX線回折分析においてほぼ単一相であり且つFe0.94Sの組成を有する硫化鉄のいずれかであることが好ましい。
【0029】
このように、第一工程は、硫化鉄(a)を硫化して、鉄元素に対する硫黄元素の組成比を高くすると共に、単一相の硫化鉄に変換する工程である。そして、第一工程における硫化鉄(a)及び硫黄の混合物の焼成の際に、硫化鉄(a)との反応に必要な硫黄の量は、焼成後の硫化鉄(b)の硫黄元素に対する鉄元素の組成比をいくつにするか、硫化鉄(a)中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比がいくつのものを用いるか等により異なる。また、硫黄は、硫化鉄(a)と反応するものと、揮散して反応系外に出ていくものがある。このとき、揮散して反応系外に出ていく硫黄の量は、焼成温度及び焼成時間により異なる。そのため、焼成後の硫化鉄(b)の硫黄元素に対する鉄元素の組成比をいくつにするかによって、硫化鉄(a)中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比、硫黄の混合量、焼成温度、焼成時間等を適宜選択して、第一工程を行う。つまり、第一工程において、硫化鉄(a)中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比、硫黄の混合量、焼成温度、焼成時間等を適宜選択することにより、硫化鉄(b)を得ることができる。なお、硫化鉄(b)の他の好ましい諸物性であるが、硫化鉄(b)の平均粒子径が、好ましくは5μm以上150μm以下、特に好ましくは5μm以上100μm以下である。硫化鉄(b)の平均粒子径が上記範囲であることにより、硫化鉄(b)と硫化リチウムとの反応性が高くなる。また、硫化鉄(b)中の粒子径が100μmを超える粗粒子の含有量が、好ましくは15質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。硫化鉄(b)中の粗粒子の含有量が上記範囲にあることにより、第二工程に係る硫化鉄(b)と硫化リチウムとの反応性が高くなる。なお、本発明において、粗粒子の含有量は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる値であり、また、平均粒子径は、レーザー散乱粒度分布測定により求められる平均粒子径(D50)である。
【0030】
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法に係る第二工程は、硫化鉄(b)と硫化リチウムとを混合して、硫化鉄(b)と硫化リチウムとの混合物を得、次いで、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る工程である。
【0031】
第二工程に係る硫化リチウムとしては、特に制限されず、市販品であってもよい。第二工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素の含有量に対するリチウム元素の含有量のモル比は、1.90以上2.10以下、好ましくは1.95以上2.05以下である。第二工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素に対するリチウム元素のモル比が、上記範囲にあることより、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)が得易くなる。なお、第二工程に係る硫化リチウム中の硫黄元素に対するリチウム元素のモル比は、ICP発光分光分析法、中和滴定法、沈澱重量法等より得られる硫化リチウム中のリチウム元素及び硫黄元素の質量%から各元素のモル数を算出し、リチウム元素のモル数/硫黄元素のモル数により求められる値である。また、第二工程に係る硫化リチウムの最大粒子径は、好ましくは200μm以下である。また、第二工程に係る硫化リチウム中の粒子径の200μmを超える粗粒子の含有量は、好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。硫化リチウム中の粗粒子の含有量が上記範囲にあることにより、第二工程に係る硫化鉄(b)と硫化リチウムとの反応性が高くなる。第二工程に係る硫化リチウムの平均粒子径は、好ましくは20μm以上100μm以下、特に好ましくは40μm以上80μm以下である。第二工程に係る硫化リチウムの平均粒子径が、上記範囲であることにより、第二工程での硫化鉄(b)と硫化リチウムとの反応性が高くなる。
【0032】
第二工程では、先ず、硫化鉄(b)と硫化リチウムとを混合して、硫化鉄(b)及び硫化リチウムとの混合物を得る。
【0033】
第二工程において、硫化鉄(b)と硫化リチウムとの混合比率は、硫化鉄(b)1モルに対して硫化リチウムが0.9モル以上1.1モル以下であることが好ましく、0.94モル以上1.00モル以下であることが特に好ましい。第二工程における硫化鉄(b)と硫化リチウムとの混合比率が、上記範囲にあることにより、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)が得易くなる。
【0034】
第二工程において、硫化鉄(b)と硫化リチウムとを混合する際の混合方法としては、硫化鉄(b)と硫化リチウムとが均一に混合できる混合方法であれば、特に制限されないが、メカノケミカル処理により行うことが、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)が得易くなる点で好ましい。なお、第二工程での混合は、硫化リチウムが大気中で不安定なため不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0035】
第二工程に係るメカノケミカル処理による混合方法とは、混合対象である粉体に、せん断力、衝突力又は遠心力のような機械的エネルギーを加えつつ混合する混合方法である。第二工程に係るメカノケミカル処理による混合方法を行う機器としては、例えば、ビーズミル、遊星型ボールミル、振動ミル等の粉砕機器、つまり、混合対象である粉体中に粒状媒体を存在させて、それらを高速で流動させる機器が挙げられる。そして、それらを高速で流動させることで、粒状媒体により、混合対象である粉体に、機械的エネルギーが加えられる。
【0036】
第二工程に係るメカノケミカル処理において、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物に加えられる重力加速度は、5G以上40G以下、好ましくは8G以上30G以下である。また、粒状媒体を用いる場合、粒状媒体の粒径は、1mm以上20mm以下、好ましくは5mm以上15mm以下であり、粒状媒体の充填率は、10%以上50%以下、好ましくは20%以上40%以下である。
【0037】
第二工程では、次いで、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る。
【0038】
第二工程に係る不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等が挙げられる。これらの不活性ガスは、製品への不純物の混入を防止するために、高純度である程好ましく、また、水分の接触を避けるために、露点が−50℃以下であることが好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。反応系への不活性ガスの導入方法としては、反応系内が不活性ガス雰囲気で満たされる方法であれば、特に制限されないが、不活性ガスをパージする方法、不活性ガスを一定量導入し続ける方法が挙げられる。
【0039】
第二工程において、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を焼成する際の焼成温度は、好ましくは450℃以上1500℃以下、特に好ましくは600℃以上1200℃以下である。第二工程において、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を焼成する際の焼成温度が上記範囲であることにより、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)が得易くなる。また、第二工程において、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を焼成する際の焼成時間は、好ましくは1時間以上24時間以下、特に好ましくは1時間以上18時間以下である。第二工程において、硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を焼成する際の焼成時間が上記範囲であることにより、硫化リチウム鉄(LiFeS)が得易くなる。
【0040】
このように、本発明の硫化リチウム鉄の製造方法を行い得られる硫化リチウム鉄は、XRD分析では異相のピークが見られない単一相のLiFeSで表わされる硫化リチウム鉄である。
【0041】
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法を行い得られる硫化リチウム鉄を、必要に応じて、粉砕、分級することができる。必要に応じて行われる粉砕としては、特に制限されず、乳鉢、回転ミル、コーヒーミル等を用いる公知の粉砕方法が挙げられる。また、必要に応じて行われる分級としては、特に制限されず、篩等を用いる公知の方法が挙げられる。これらの粉砕や分級を、不活性ガス雰囲気下又は真空雰囲気下で行うことが、空気中の水分との接触を防ぐことができる点で好ましい。必要に応じて、粉砕、分級する硫化リチウム鉄の平均粒子径は、使用目的にもよるが、好ましくは1μm以上100μm以下、特に好ましくは10μm以上90μm以下である。
【0042】
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法を行い得られる硫化リチウム鉄は、異相の無い高結晶のLiFeSであるため、リチウムイオン二次電池の正極材として、好適に用いられる。
【0043】
硫化鉄では、硫化鉄の製造の際に、硫黄成分が揮散し易いので、通常、金属Feや相が異なる硫化鉄を含んでおり、且つ、硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比が1より大きい。そこで、本発明の硫化リチウム鉄の製造方法に係る第一工程を行うことにより、硫化鉄中に含まれる金属Feや硫化鉄を硫化して、ほぼ単一相であり、且つ、硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満の硫化鉄、すなわち、硫化鉄(b)を得る。
そして、本発明の硫化リチウム鉄の製造方法に係る第二工程で、硫化リチウムと反応させる硫化鉄を、硫化鉄(b)として、ほぼ単一相の硫化鉄を用い、且つ、硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)をモル比で0.90以上1.00未満とのように、硫化鉄中の硫黄の組成比を高くすることで、目的物である硫化リチウム鉄(LiFeS)を得るために必要な理論量よりも硫黄の量を多くし、その結果、単一相の硫化リチウム鉄(LiFeS)を得ることができる。
【0044】
上記では、遷移金属元素が鉄の場合について説明したが、遷移金属元素が異なる硫化リチウム遷移金属についても、同様である。そのため、遷移金属硫化物を硫黄により硫化して、ほぼ単一相であり、且つ、硫化リチウムと反応させて目的とする硫化リチウム遷移金属を得るために必要な理論量より硫黄の量が多くなるような組成比(遷移金属元素/硫黄元素の組成比)の遷移金属硫化物を得、次いで、得られた遷移金属硫化物と硫化リチウムとを反応させることにより、単一相の硫化リチウム遷移金属を得ることができる。
【0045】
すなわち、本発明の硫化リチウム遷移金属の製造方法は、遷移金属硫化物(A)と、硫黄と、を混合して、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相である下記一般式(1):
(a)(b) (1)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。)
で表わされる遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)を得る第一工程と、
該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と、硫化リチウムと、を混合して、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、下記一般式(2):
LiMS (2)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。xは0.5以上4.0以下であり、yは0.5以上4.0以下である。)
で表わされる硫化リチウム遷移金属を得る第二工程を有し、
下記式(3):
a/b<1/(y−(x/2)) (3)
を満たす硫化リチウム遷移金属の製造方法である。
【0046】
本発明の硫化リチウム遷移金属の製造方法は、本発明の硫化リチウム鉄の製造方法とは、遷移金属元素が異なること、及びそのために遷移金属元素の種類により遷移金属の価数及び硫黄元素に対する遷移金属元素の組成比が異なること以外は同様である。
【0047】
前記一般式(1)中、a>0、b>0である。
前記一般式(2)中、xは、0.5以上4.0以下、好ましくは1.0以上3.0以下であり、yは、0.5以上4.0以下、好ましくは1.0以上3.0以下である。
【0048】
なお、本発明の硫化リチウム遷移金属の製造方法において、前記式(3)は、硫化リチウムと反応させて目的物である硫化リチウム遷移金属を得るために必要な理論量の硫黄の量より、硫化リチウムと反応させる遷移金属硫化物中の遷移金属元素に対する硫黄元素の組成比を高くすることを示す。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(1)ICP発光分光分析
ICP発光分光分析装置(バリアン社製、LibertySeriesII)を用いて、ICP発光分光分析法により測定し、各元素の質量%を求め、それに基づいて、モル比を計算した。
【0051】
(2)最大粒子径、平均粒子径及び粗粒子の含有量
粒度分布測定装置(日機装社製、マイクロトラックX−100)を用いて、レーザー散乱粒度分布測定法により求めた。
【0052】
(3)X線回折分析
X線回折装置(ブルカー社製、D8 ADVANCE)を用いて、X線回折分析法により求めた。
【0053】
(実施例1)
(第一工程)
ICP発光分光分析による硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が1.53、最大粒子径が150μm(150μmを超える粗粒子の含有量が0質量%)、平均粒子径(D50)が10μmの硫化鉄(a1)(細井化学工業社製)22gと、硫黄(関東化学社製)3.76gとを、コーヒーミルにより混合した。このとき、混合物中のFe/Sモル比は0.94(ICP発光分光分析の結果及び硫黄の混合量から算出)であった。
次いで、この混合物を、アルミナ製容器に入れ、これを石英製の横型管状炉にセットして、管状炉の通気口より窒素を0.1L/分の流量で流しながら、950℃で3時間焼成した。焼成後、室温まで冷却し、焼成物である硫化鉄(b1)を得た。得られた硫化鉄(b1)を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図1に示す。得られたX線回折チャートからは、Fe0.96Sの単一相であることが確認された。なお、図1に示すX線回折チャートには、Fe0.96S以外の物質に由来するピークは見られなかった。なお、硫化鉄(b1)の平均粒子径は50μmで、100μmを超える粗粒子の含有量は2質量%であった。
【0054】
(第二工程)
上記のようにして得られた硫化鉄(b1)3.66gと、ICP発光分光分析によるLi/Sのモル比が2.00であり、平均粒子径70μm、200μmを超える粗粒子の含有量が0質量%である硫化リチウム(日本化学工業社製)1.84gとを、遊星ボールミル(フリッチュジャパン社製、P−7)に投入し、以下の条件で、アルゴン雰囲気下で1時間メカノケミカル処理して、混合物を得た。
次いで、この混合物を、アルミナ製容器に入れ、これを石英製の横型管状炉にセットして、管状炉の通気口より窒素を0.1L/分の流量で流しながら、950℃で12時間焼成した。焼成後、室温まで冷却し、焼成物である硫化リチウム鉄を得た。得られた硫化リチウム鉄を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図2に示す。得られたX線回折チャートからは、LiFeSの単一相であることが確認された。なお、図2に示すX線回折チャートには、LiFeS以外の物質に由来するピークは見られなかった。また、ICP発光分光分析を行ったところ、Liが10.5質量%、Feが41.7質量%、Sが47.8質量%との結果を得た。この結果からモル比を算出したところ、Fe/Liモル比が0.50、Fe/Sモル比が0.50となった。この結果からも、LiFeSの単一相であることが確認された。得られた硫化リチウム鉄を乳鉢により粉砕し、目開き100μmの篩により分級して、平均粒子径50μmのLiFeSを得た。
【0055】
<メカノケミカル処理条件>
粒状媒体:平均粒子径10mm、充填率30%
回転数:400rpm
重力加速度:10.9G
【0056】
(実施例2)
(第一工程)
硫黄(関東化学社製)3.76gに代えて、硫黄(関東化学社製)4.46gとして、混合物中のFe/Sモル比を0.87(ICP発光分光分析の結果及び硫黄の混合量から算出)とすること以外は、実施例1と同様に行い、焼成物である硫化鉄(b2)を得た。得られた硫化鉄(b2)を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図3に示す。得られたX線回折チャートからは、Fe0.94Sの単一相であることが確認された。なお、図3に示すX線回折チャートには、Fe0.94S以外の物質に由来するピークは見られなかった。なお、硫化鉄(b2)の平均粒子径は50μmで、100μmを超える粗粒子の含有量は1質量%であった。
【0057】
(第二工程)
硫化鉄(b1)3.66gに代えて、硫化鉄(b2)4.46gとすること以外は、実施例1と同様の方法で行い、焼成物である硫化リチウム鉄を得た。得られた硫化リチウム鉄を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図4に示す。得られたX線回折チャートからは、LiFeSの単一相であることが確認された。なお、図4に示すX線回折チャートには、LiFeS以外の物質に由来するピークは見られなかった。また、ICP発光分光分析を行ったところ、Liが10.4質量%、Feが41.8質量%、Sが47.8質量%との結果を得た。この結果からモル比を算出したところ、Fe/Liモル比が0.50、Fe/Sモル比が0.50となった。この結果からも、LiFeSの単一相であることが確認された。得られた硫化リチウム鉄を乳鉢により粉砕し、目開き100μmの篩により分級して、平均粒子径50μmのLiFeSを得た。
【0058】
(比較例1)
ICP発光分光分析による硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が1.43、最大粒子径が320μm(150μmを超える粗粒子の含有量は8質量%)、平均粒子径(D50)が60μmの硫化鉄(添川化学工業社製)5.27gと、ICP発光分光分析によるLi/Sのモル比が2.00であり、平均粒子径70μm、200μmを超える粗粒子の含有量が0質量%である硫化リチウム(日本化学工業社製)2.76gとを、遊星ボールミル(フリッチュジャパン社製、P−7)に投入し、実施例1と同様の条件で、アルゴン雰囲気下で1時間メカノケミカル処理して、混合物を得た。
次いで、この混合物を、アルミナ製容器に入れ、これを石英製の横型管状炉にセットして、管状炉の通気口より窒素を0.1L/分の流量で流しながら、950℃で12時間焼成した。焼成後、室温まで冷却し、焼成物である硫化リチウム鉄を得た。得られた硫化リチウム鉄を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図5に示す。得られたX線回折チャートからは、LiFeSの他にLiFeのピークが確認された。また、ICP発光分光分析を行ったところ、Liが10.4質量%、Feが40.4質量%、Sが49.2質量%との結果を得た。この結果からモル比を算出したところ、Fe/Liモル比が0.48、Fe/Sモル比が0.47となった。この結果からも、LiFeS以外の物質が存在していることが確認された。
【0059】
(比較例2)
ICP発光分光分析による硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が0.97、最大粒子径が200μm(150μmを超える粗粒子の含有量は1質量%)、平均粒子径(D50)が10μmの硫化鉄(c1)(添川化学工業社製)5.27gと、ICP発光分光分析によるLi/Sのモル比が2.00であり、平均粒子径70μm、200μmを超える粗粒子の含有量が0質量%である硫化リチウム(日本化学工業社製)2.76gとを、遊星ボールミル(フリッチュジャパン社製、P−7)に投入し、実施例1と同様の条件で、アルゴン雰囲気下で1時間メカノケミカル処理して、混合物を得た。なお、ここで用いた硫化鉄(c1)をX線回折分析した結果を図6に示すが、そのX線回折チャートからは、Feの異相をもつことが確認された。
次いで、この混合物を、アルミナ製容器に入れ、これを石英製の横型管状炉にセットして、管状炉の通気口より窒素を0.1L/分の流量で流しながら、950℃で12時間焼成した。焼成後、室温まで冷却し、焼成物である硫化リチウム鉄を得た。得られた硫化リチウム鉄を、X線回折分析し、そのX線回折チャートを図7に示す。得られたX線回折チャートからは、LiFeSの他にLiSのピークが確認された。また、ICP発光分光分析を行ったところ、Liが11.1質量%、Feが45.1質量%、Sが43.8質量%との結果を得た。この結果からモル比を算出したところ、Fe/Liモル比が0.51、Fe/Sモル比が0.59となった。この結果からも、LiFeS以外の物質が存在していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の硫化リチウム鉄の製造方法によれば、高結晶のLiFeSが得られるため、例えば、リチウムイオン二次電池の正極材として好適に用いられるLiFeSを、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1の第一工程で得られた硫化鉄(b1)のXRDチャートである。
【図2】実施例1の第二工程で得られた硫化リチウム鉄のXRDチャートである。
【図3】実施例2の第一工程で得られた硫化鉄(b2)のXRDチャートである。
【図4】実施例2の第二工程で得られた硫化リチウム鉄のXRDチャートである。
【図5】比較例1で得られた硫化リチウム鉄のXRDチャートである。
【図6】比較例2で用いた硫化鉄(c1)のXRDチャートである。
【図7】比較例2で得られた硫化リチウム鉄のXRDチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化鉄(a)と、硫黄と、を混合して、硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を得、次いで、該硫化鉄(a)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つ硫黄元素に対する鉄元素の組成比(Fe/S)がモル比で0.90以上1.00未満である硫化鉄(b)を得る第一工程と、
該硫化鉄(b)と、硫化リチウムと、を混合して、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を得、次いで、該硫化鉄(b)及び硫化リチウムの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、LiFeSで表わされる硫化リチウム鉄を得る第二工程と
を有することを特徴とする硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項2】
前記硫化鉄(a)の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が1.00以上2.00以下であることを特徴とする請求項1記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項3】
前記第一工程において、前記硫化鉄(a)及び硫黄の混合物中の硫黄元素の含有量に対する鉄元素の含有量のモル比(Fe/S)が0.50以上1.00未満となるように、前記硫化鉄(a)と硫黄とを混合することを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項4】
前記第一工程において、前記硫化鉄(a)及び硫黄の混合物の焼成を、500〜1200℃で行うことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項5】
前記硫化鉄(b)が、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つFe0.96Sの組成を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項6】
前記硫化鉄(b)が、X線回折分析においてほぼ単一相であり且つFe0.94Sの組成を有することを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程において、前記硫化鉄(b)と硫化リチウムとの混合を、メカノケミカル処理により行うことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の硫化リチウム鉄の製造方法。
【請求項8】
遷移金属硫化物(A)と、硫黄と、を混合して、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)及び硫黄の混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、X線回折分析においてほぼ単一相である下記一般式(1):
(a)(b) (1)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。)
で表わされる遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)を得る第一工程と、
該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と、硫化リチウムと、を混合して、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を得、次いで、該遷移金属硫化物(A)の硫黄処理物(B)と硫化リチウムとの混合物を、不活性ガス雰囲気下で焼成して、下記一般式(2):
LiMS (2)
(式中、Mは、Fe、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu及びZnのうちの1種又は2種以上である。xは0.5以上4.0以下であり、yは0.5以上4.0以下である。)
で表わされる硫化リチウム遷移金属を得る第二工程を有し、
下記式(3):
a/b<1/(y−(x/2)) (3)
を満たすこと
を特徴とする硫化リチウム遷移金属の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−100475(P2010−100475A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272807(P2008−272807)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】