説明

硫化水素の検出装置

【課題】従来よりも簡便な硫化水素の検出方法を実施するための硫化水素の検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の硫化水素の検出装置50は、硫化水素を含む燃料油が溶解した希釈溶剤14を入れる試験容器56と、試験容器56内の希釈溶剤14を加熱するヒーター54と、試験容器56内の希釈溶剤14中にフローガスを導入する導入管51と、試験容器56内のフローガスを捕集する捕集器59と、捕集器59に捕集されたフローガスにおける硫化水素の含有量を測定する硫化水素用検知管20と、試験容器56内のフローガスを捕集器59内に吸引し、捕集器59内に吸引したフローガスを硫化水素用検知管20へ供給するガス流制御機構61と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素の検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用燃料等の燃料油は不純物として硫化水素を含む。燃料油中の硫化水素は大気汚染や内燃機関又は燃焼設備の損傷劣化の原因となる。したがって、燃料油精製において硫化水素を除去する必要がある。そして、燃料油の精製過程又は精製後において燃料油に含まれる硫化水素を検出する技術が必要となる。
【0003】
従来、燃料油に含まれる硫化水素の検出方法としては、IP 399/94として規格化された方法が知られている(下記非特許文献1参照)。IP 399/94では、燃料油を溶解した脱酸素キシレンを加熱しながら脱酸素キシレン中に窒素ガスを導入し続ける。脱酸素キシレン中から放出された窒素ガス中には、燃料油に不純物として含まれていた硫化水素等が回収されている。硫化水素が回収された窒素ガスを吸引ビン内の吸収液内へ導入する。吸収液には、アミン試験液、塩化第二鉄、リン酸水素アンモニウム等の試薬が含まれている。窒素ガス中の硫化水素は吸収液中に抽出される。硫化水素を含む吸収液を脱酸素水とともに吸光度測定用フラスコに移し替える。そして、メチレンブルー吸光光度法によって硫化水素を定量する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】IP 399/94, “Determination of hydrogen sulphide in fuel oils”, (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IP 399/94の測定には、約3時間程度の長時間を要する。またIP 399/94は、約20種類の試薬を使用する複雑な化学反応のプロセスとメチレンブルー吸光光度法との組み合わせからなり、煩雑な操作を要する。そのため、IP 399/94の実施には、熟練の専門家が長時間従事することが必要とされる。さらに、IP 399/94は、試薬として水酸化カドミウム等の毒性の化学物質を使用するため、危険を伴う。
【0006】
上記の事情から、本発明者らは、IP 399/94よりも簡便であり、かつIP 399/94と同程度の精度で燃料油中の硫化水素を検出する方法を模索した。そして、本発明者らは、キシレン中から放出され続ける窒素ガスの流れを硫化水素用検知管に直接導入することにより、硫化水素を検出することを試みた。
【0007】
検知管法では、キシレン中を通過した窒素ガスの総体積を測定するともに、検知管に導入する窒素ガスの体積を適量に制御することが必要である。しかし、キシレン中を通過して検知管に流れ込む窒素ガスの体積(窒素ガスの流量)の制御及び測定は容易ではない。したがって、窒素ガスの流れを検知管に直接導入する場合、検知管法の実施は困難である。
【0008】
また、窒素ガスの流量が小さ過ぎる場合、充分な量の窒素ガスが検知管に導入されず、硫化水素の検出が困難となる。窒素ガスの流れが大き過ぎる場合、窒素ガスを検知管へ導入するガス管が検知管から外れてしまう。窒素ガスの流量を簡便に制御することは容易ではないため、これらの問題が発生してしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡便な硫化水素の検出方法を実施するための硫化水素の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る硫化水素の検出装置は、硫化水素を含む燃料油が溶解した希釈溶剤を入れる試験容器と、試験容器内の希釈溶剤を加熱するヒーターと、試験容器内の希釈溶剤中にフローガスを導入する導入管と、試験容器内のフローガスを捕集する捕集器と、捕集器に捕集されたフローガスにおける硫化水素の含有量を測定する硫化水素用検知管と、試験容器内のフローガスを捕集器内に吸引し、捕集器内に吸引したフローガスを硫化水素用検知管へ供給するガス流制御機構と、を備える。なお、フローガスとは、硫化水素等の検出対象成分を燃料油から追い出すためのガスである。
【0011】
本発明に係る検出装置を用いた硫化水素の検出方法は、硫化水素を含む燃料油が溶解した希釈溶剤を加熱しながら希釈溶剤中にフローガスを導入し、希釈溶剤中から放出されたフローガスを捕集器内に捕集し、捕集器に捕集されたフローガスにおける硫化水素の含有量を硫化水素用検知管で測定する工程を備える。すなわち、本発明に係る硫化水素の検出装置では、検知管法により燃料油中の硫化水素の含有量を測定することが可能となる。
【0012】
本発明に係る硫化水素の検出装置では、検知管法を用いるため、IP 399/94よりも簡便且つ迅速に燃料油中の硫化水素を検出できる。
【0013】
IP 399/94では、メチレンブルー吸光光度法を必要とする。またIP 399/94では、メチレンブルー吸光光度法のために多数の試薬を使用する複雑な化学反応のプロセスが必要となる。さらにIP 399/94では、水酸化カドミウム等の毒性の化学物質を必要とする。また、IP 399/94では、吸収液の発色を妨害する酸素をキシレンから除去する必要がある。またIP 399/94では、脱酸素キシレン中から放出された窒素ガスを吸収液に回収する工程も必要となる。
【0014】
一方、本発明では、メチレンブルー吸光光度法に必要な分光光度計を必要としない。また、本発明では、多数の試薬を使用する複雑な化学反応のプロセスを実施するための機構が不要である。したがって、上記本発明に係る硫化水素の検出装置は、IP 399/94を実施するための装置系よりも簡便であり、小型化が可能である。IP 399/94では、分光光度計や複雑な化学反応のプロセスが必要となるため、室外でIP 399/94を実施することは困難である。一方、上記本発明に係る硫化水素の検出装置は、小型化して持ち運ぶことが可能である。したがって、上記本発明に係る硫化水素の検出装置を用いれば、野外(フィールド)で簡便に燃料油中の硫化水素を検出することが可能となる。また本発明によれば、水酸化カドミウムを用いず安全に硫化水素を検出できる。さらに本発明では、吸光光度法を用いないため、キシレンから酸素を除去する機構も不要となる。また本発明は、希釈溶剤中から放出されたフローガスを吸収液に回収する工程を経ることなく、フローガス中の硫化水素の含有量を検知管で測定できる点において簡便である。
【0015】
本発明では、フローガスを硫化水素用検知管に直接導入しない。本発明では、希釈溶剤中を通過したフローガスを捕集器内に捕集する。したがって、本発明では、希釈溶剤中を通過したフローガスの総体積を容易且つ正確に測定できる。また本発明では、捕集器内に捕集したフローガスを硫化水素用検知管に採取するため、検知管内に採取するフローガスの体積の制御及び測定を容易且つ正確に行うことできる。
【0016】
捕集器を用いずにフローガスを硫化水素用検知管に直接導入する方法では、検知管に流れ込むフローガスの流量の制御及び測定のために複雑な操作及び装置が必要となる。しかし、本発明では、捕集器を用いるため、フローガスを硫化水素用検知管に直接導入する場合に比べて、フローガスの流量の制御及び測定のための操作及び装置を簡略化できる。
【0017】
上記本発明に係る硫化水素の検出装置は、燃料油が、硫化水素以外に亜硫酸ガス、メルカプタン類、ガソリン、アセチレン、エチレン、アンモニア、塩化水素、窒素酸化物、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも一種の不純物を含有する場合、捕集器に捕集されたフローガス中の各不純物の含有量を測定する検知管を備えてもよい。つまり、硫化水素の検出装置が各不純物に対応する検知管を備えてもよい。これより、燃料油中の硫化水素以外の不純物の含有量を測定することができる。
【0018】
上記本発明に係る硫化水素の検出装置では、硫化水素用検知管が、亜硫酸ガス用検知管又はメルカプタン類用検知管の少なくともいずれかを介して、捕集器に接続されていることが好ましい。つまり、上記本発明では、亜硫酸ガス用検知管及びメルカプタン類用検知管の少なくともいずれかを捕集器と硫化水素用検知管との間に設置し、亜硫酸ガス用検知管及びメルカプタン類用検知管の少なくともいずれかを通過したフローガスにおける硫化水素の含有量を硫化水素用検知管で測定することが好ましい。これにより、フローガスから亜硫酸ガスやメルカプタン類を除去した後でフローガス中の硫化水素の含有量を測定することが可能となる。
【0019】
燃料油が硫化水素だけでなく亜硫酸ガスやメルカプタン類も含む場合、フローガスには硫化水素だけでなく亜硫酸ガスやメルカプタン類も回収される。亜硫酸ガスやメルカプタン類は、硫化水素と同様の化学的性質を有する。したがって、亜硫酸ガスやメルカプタン類を含むフローガスを硫化水素用検知管に直接採取すると、亜硫酸ガスやメルカプタン類が誤って硫化水素として検出されることがある。その結果、フローガス中の硫化水素の含有量の測定の精度が低下することがある。本発明では、フローガス中の亜硫酸ガスを亜硫酸ガス用検知管で吸着し、フローガス中のメルカプタン類をメルカプタン類用検知管で吸着した後で、フローガスを硫化水素用検知管に導入してもよい。その結果、本発明では、燃料油に含まれる硫化水素の検出精度が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来よりも簡便な硫化水素の検出方法を実施するための硫化水素の検出装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る硫化水素の検出装置の模式図である。
【図2】図1の硫化水素の検出装置が備える硫化水素用検知管の模式図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る硫化水素の検出装置の模式図である。
【図4】図1及び図3に示す検知管64の代わりに用いることができる直列接続された複数の検知管の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付す。また、上下左右の位置関係は図面に示す通りであるが、寸法の比率は図面に示すものに限定されない。また、従来法であるIP 399/94と硫化水素の検出値が一致しさえすれば、下記実施形態の諸条件は適宜選択することができる。
【0023】
[第一実施形態]
図1を参照しながら、本発明の第一実施形態に係る硫化水素の検出装置及び当該検出装置を用いた硫化水素の検出方法について説明する。
【0024】
(検出装置)
第一実施形態に係る硫化水素の検出装置50は、主な構成要素として、試験容器56、ヒーター54、導入管51、捕集器59、検知管64、硫化水素用検知管20及びガス流制御機構61を備える。試験容器56、捕集器59、ガス管62,65,66、検知管64及び硫化水素用検知管20の内部は気密にすることができる。
【0025】
試験容器56は試料導入口53を備える。試験容器56内にはヒーター54及び熱電対55が設置されている。試験容器56内には導入管51の先端が配置され、導入管51を介して試験容器56内は大気と通気する。導入管51の中途にはフィルタ52が設置されている。フィルタ52は、導入管51を介して試験容器56内に導入されるガス中の塵を除去する機能を有している。
【0026】
ガス管57は試験容器56と捕集器59を接続する。ガス管57の中途にはガス管57を開閉する電磁弁58が設置されている。ガス管62は捕集器59と検知管64を接続する。ガス管62の中途にはガス管62を開閉する電磁弁63が設置されている。ガス管65は、電磁弁63と反対側の検知管64の端部と硫化水素用検知管20を接続する。ガス管65と反対側の硫化水素用検知管20の端部には、ガス管66が接続されている。ガス管66は大気に通じる。検知管64は、フローガスに含まれる硫化水素以外の成分を検出するためのものである。
【0027】
ガス流制御機構61は捕集器59内に配置されたピストン60と、ピストン60を動かす流量制御用モーターとを有する。ガス流制御機構61は、電磁弁58を開き、電磁弁63を閉じ、捕集器59内に配置されたピストン60を動かすことによって、試験容器56内のフローガスを捕集器59内に吸引する。またガス流制御機構61は、電磁弁58を閉じ、電磁弁63を開き、捕集器59内に吸引したフローガスをガス管62から排出して、硫化水素用検知管20のへ供給する。このように、ガス流制御機構61によってフローガスの流量が制御される。ガス流制御機構61によって、試験容器56内のフローガスを捕集器59内に吸引する工程と、捕集器59内に吸引したフローガスを硫化水素用検知管20の側へ供給する工程を自動化できる。
【0028】
(検知管)
検知管は、一般的に検知管式ガス測定器とも呼ばれる。検知管とは、内径の揃ったシリンダー型ガラス管に検知剤を緊密に充填し、その両端を封じたものである。検知管の両端を折り取り、検知管に一定量の試料ガス(フローガス)を供給すると、試料ガスに含まれる被検出ガス(硫化水素)が検知剤と直ちに化学反応を起こし、検知剤が検知管の入り口側から変色する。試料ガスの吸入が終了した後、検知剤の変色域の先端に当たる位置を、検知管に記された濃度目盛りで読み取る。これにより、試料ガスにおける被検出ガスの含有量が定量される。検知剤とは、精製されたシリカゲル又はアルミナ等の細粒に、被検出ガスと選択的に反応して呈色する反応試薬を吸着させたものである。硫化水素用検知管20としては、市販の携帯タイプのものを用いればよい。硫化水素用検知管20が有する反応試薬は酢酸鉛である。硫化水素用検知管20に導入された硫化水素と酢酸鉛が反応して硫化鉛が生成することで、検知剤が白色から茶色に変色する。市販の硫化水素用検知管による硫化水素の測定範囲は、0.25〜120ppm程度である。
【0029】
(硫化水素の検出方法)
以下の手順で、検出装置50を用いて燃料油中の硫化水素の検出方法を実施する。
【0030】
<燃料油の採取>
燃料油としては、常温で揮発し難いものが好ましく、60℃程度で加温しても揮発しないものが特に好ましい。このような燃料油としては、船舶用燃料油、軽油、A重油、発動機用重油、電力重油、重油基材(カットバックボトム)等が挙げられる。本発明の硫化水素の検出装置は、特に船舶用燃料油に含まれる硫化水素の定量に好適である。
【0031】
燃料油は、JIS K 2251(原油及び石油製品−試料採取方法)に規定する一次試料の採取方法及び二次試料の調製方法、又はそれに準じた方法によって採取及び調製することが好ましい。
【0032】
試料容器から燃料油を採取(サンプリング)するには注射器等を用いればよい。注射器に採取された試料は、できる限り最短時間で測定に供試する。また,試料容器を開栓した場合には、燃料油の変質を防止するために、4時間以内に試験を終了することが好ましい。
【0033】
燃料油の粘性が高く、燃料油を注射器ではかり採れない場合は、燃料油の流動性が得られる必要最低限の温度で燃料油を加温する。燃料油の加熱温度は40℃前後が望ましい。希釈溶剤の加温温度(例えば60℃)以上で燃料油を加熱したり、燃料油を長時間加熱したりすると、燃料油の変質原因になることから好ましくない。
【0034】
試料容器のふたをはずして燃料油を採取した後は、燃料油の変質を防止するために、試料容器内を窒素ガスで置換して直ちに試料容器にふたをしたほうがよい。
【0035】
<燃料油のはかり採り>
あらかじめ40℃前後で加温しておいた試料容器を振って、試料容器内の燃料油を均質にした後、試料容器のふたをはずし、すばやく約5mLの燃料油を針なしの注射器で採取する。重量に換算した燃料油の採取量は1.00〜5.00gであればよい。燃料油を採取した後、注射器の周りに付いた汚れをふき取り、燃料油を含む注射器の重量Wを測定する。なお、燃料油が室温で充分に高い流動性を有する場合、燃料油を加熱することなく注射器15で採取してもよい。
【0036】
<フローガスの捕集>
50mL程度の希釈溶剤14をメスシリンダにはかり採り、試料導入口53から試験容器56内へ導入する。希釈溶剤14としては、燃料油を溶解させることさえできれば特に限定されるものではないが、キシレン、トルエン、ドライソルベント、インク用ソルベント、硫化水素を含まない低粘度潤滑油等を挙げることができる。
【0037】
希釈溶剤14としてキシレン又はトルエンを用いる場合、検出装置50は、ガス管57中を流れるフローガスが含有する希釈溶剤の揮発分を冷却により液化して回収するための冷却器(還留器)やトラップを備えてもよい。冷却器としては、特に限定されるものではない。例えば、アーリン氏タイプ冷却器を用いることができる。ただし、検出装置50を小型化するためには、冷却器やトラップを省くことが好ましい。よって、検出装置50を小型化するためには、キシレン及びトルエンよりも揮発し難い希釈溶剤(融点の高い溶剤)を用いることが好ましい。
【0038】
導入管51から導入したフローガスで試験容器56及び捕集器59の内部をパージする。フローガスとしては、少なくとも硫化水素に対して不活性であり、且つ硫化水素と化学的性質が異なるガスを用いればよい。このようなフローガスとしては、窒素ガス、不活性ガス、および空気等が好適である。窒素ガスはガスボンベから供給すればよい。空気としては大気を利用すればよい。なお、フローガスとして空気を用いる場合、空気をフィルタ52に通して、空気中の不純物、塵及び水等を除去することが好ましい。窒素ガスとしては、JIS K 1107に規定された2級のもの又はこれと同等以上の純度のものを用いればよい。
【0039】
注射器中の燃料油を試料導入口53から試験容器56内の希釈溶剤14へ注入する。ヒーター54と熱電対55を用いて、希釈溶剤14を60±2℃程度に加熱し、燃料油を希釈溶剤14に均一に溶解させる。なお、ヒーター54の種類は、試験容器56内の希釈溶剤14を加温できる機能を備えていれば特に限定されるものではない。例えば、ヒーター54として図1に示すような投げ込み式ヒーターを用いてもよい。または投げ込み式ヒーターの代わりに、アルミブロック等で試験容器56を加熱してもよい。燃料油を注入する際は、希釈溶剤14が噴き出さないようにするため、フローガスの流量を200mL/minから10mL/min程度まで減少させてもよい。
【0040】
燃料油注入後の注射器の重量Wを測定する。下記式(1)から、希釈溶剤14に溶解させた燃料油の重量S(g)を算出する。
=W―W (1)
【0041】
電磁弁58を開き、電磁弁63を閉じた状態で、ガス流制御機構61のピストン60を動かし、捕集器59の容積を増加させる。これにより、導入管51から導入したフローガスを希釈溶剤14中へ15分程度吹き込む。フローガスの導入により、燃料油が溶解した希釈溶剤14内から硫化水素を追い出す。換言すれば、希釈溶剤14内に導入された後に希釈溶剤14内から放出されたフローガス中には、燃料油に不純物として含まれていた硫化水素等が回収される。希釈溶剤14中から放出されたフローガスは捕集器59内に捕集される。捕集器59内に捕集したフローガスの体積Vを測定する。体積Vは、ガス流制御機構61のピストン60によって制御された捕集器59の容積に対応する。希釈溶剤14中へ吹き込むフローガスの流量はガス流制御機構61によって制御すればよい。好ましいフローガスの流量は200±5mL/min程度である。
【0042】
<検知管法による硫化水素の検出>
体積Vのフローガスを捕集器59内に捕集した後、電磁弁58を閉じ、電磁弁63を開いた状態で、ガス流制御機構61のピストン60を動かし、捕集器59の容積を減少させる。これにより、捕集器59に捕集されたフローガスを、ガス管62、検知管64及びガス管65を経由して、硫化水素用検知管20内へ供給する。硫化水素用検知管20へ供給するフローガスの量は、ガス流制御機構61によって例えば100mL程度に制御すればよい。
【0043】
フローガスを硫化水素用検知管20内へ供給した後、硫化水素用検知管20の変色域22の長さに対応する値を、水素用検知管20に記された目盛りから読み取る(図2参照)。目盛りから読み取った値は、捕集器59に捕集されたフローガス100mLにおける硫化水素の含有量A(体積ppm)に相当する。
【0044】
なお、水素用検知管20内に100mL以上のフローガスを供給してもよい。この場合、硫化水素の含有量Aは次のように補正する。例えば、検知管表示値の基になる基準採取ガス量(100mL)の倍量(200mL)を硫化水素用検知管20内に供給した場合、検知管の表示値の1/2(100mL/200mL)が、正しい硫化水素の含有量Aになる。
【0045】
硫化水素用検知管20に導入されたフローガスは、ガス管66を通じて大気へ放出される。試験容器56内へ導入した希釈溶剤14及び燃料油は、配管67を通じて廃液タンク68内に吸引され、配管69を通じて装置外へ排出される。同様の方法で、試料導入口53から試験容器56内へ導入した洗浄液を廃液タンク68に吸引し、装置外へ排出してもよい。
【0046】
燃料油における硫化水素の含有量C(質量ppm)は、下記式(2)によって算出される。
C=(M×V×A)/(V×S)=(4.113×A)/S (2)
【0047】
上記式(2)中、Mは、硫化水素の分子量34(g)である。Vは、捕集器59内に捕集されたフローガスの体積(L)である。Aは、上記のように、フローガス100mLにおける硫化水素の含有量(体積ppm)であり、硫化水素用検知管20から読取った値である。あるいは、Aは、フローガス100mLあたりに補正した硫化水素の含有量である。Vは、1気圧(bar)、室温(25℃)における1molの理想体積の体積24.8(L)である。Sは、上記のように、希釈溶剤14に溶解させた燃料油の重量S(g)である。
【0048】
以上のように、本実施形態では、IP 399/94よりも簡便に、且つIP 399/94と同程度の精度で燃料油中の硫化水素を検出することが可能となる。また、第一実施形態に係る硫化水素の検出装置50は、IP 399/94を実施するための装置系よりも小型化が可能である。
【0049】
検知管64は、亜硫酸ガス用検知管、メルカプタン類用検知管、ガソリン用検知管、アセチレン用検知管、エチレン用検知管、アンモニア用検知管、塩化水素用検知管、窒素酸化物用検知管、一酸化炭素用検知管及び二酸化炭素用検知管のいずれかであればよい。
【0050】
燃料油は、硫化水素だけではなく、亜硫酸ガス(二酸化硫黄)、メルカプタン類、ガソリン、アセチレン、エチレン、アンモニア、塩化水素、窒素酸化物、一酸化炭素、及び二酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも一種の不純物を含有することもある。第一実施形態では、亜硫酸ガス用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおける亜硫酸ガスの含有量を測定してもよい。メルカプタン類用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおけるメルカプタンの含有量を測定してもよい。ガソリン用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおけるガソリンの含有量を測定してもよい。アセチレン用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおけるアセチレンの含有量を測定してもよい。エチレン用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおけるエチレンの含有量を測定してもよい。アンモニア用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおけるアンモニアの含有量を測定してもよい。塩化水素用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおける塩化水素の含有量を測定してもよい。窒素酸化物用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおける窒素酸化物の含有量を測定してもよい。一酸化炭素用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおける一酸化炭素の含有量を測定してもよい。二酸化炭素用検知管を用いて、捕集器59に捕集されたフローガスにおける二酸化炭素の含有量を測定してもよい。検知管法によれば、硫化水素のみならず、上記の不純物の定量も簡便に実施できる。亜硫酸ガス用検知管、メルカプタン類用検知管、ガソリン用検知管、アセチレン用検知管、エチレン用検知管、アンモニア用検知管、塩化水素用検知管、窒素酸化物用検知管、一酸化炭素用検知管、及び二酸化炭素用検知管としては、市販の検知管を用いればよい。
【0051】
検知管64は、亜硫酸ガス用検知管及びメルカプタン類用検知管のいずれかであることが好ましい。また、ガス管62と硫化水素用検知管20との間に、検知管64として亜硫酸ガス用検知管及びメルカプタン類用検知管の両方を設置してもよい。すなわち、捕集器59、亜硫酸ガス用検知管、メルカプタン類用検知管及び硫化水素用検知管20をこの順序で直列に接続してもよい。これにより、硫化水素の検出を阻害する亜硫酸ガスやメルカプタン類をフローガスから除去した後で、フローガス中の硫化水素を定量できる。その結果、燃料油における硫化水素の検出精度が向上する。なお、亜硫酸ガス用検知管とメルカプタン類用検知管とを互いに入れ替えてもよい。また、例えば図4に示すように、検知管64の代わりとして、直列に接続されたメルカプタン類用検知管64a、亜硫酸ガス用検知管64b及び他の検知管64c(一酸化炭素用検知管等)を用いてもよい。各検知管はガス管40で互いに接続される。ただし、検知管の並び順は図4に示すものに限定されない。
【0052】
硫化水素用検知管20に加えて、亜硫酸ガス用検知管、メルカプタン類用検知管、ガソリン用検知管、アセチレン用検知管、エチレン用検知管、アンモニア用検知管、塩化水素用検知管、窒素酸化物用検知管、一酸化炭素用検知管、及び二酸化炭素用検知管の少なくともいずれかと捕集器59とを直接接続してもよい。つまり、複数の種類のガス検知管を捕集器59に並列に接続してもよい。または分枝したガス管62に複数の種類のガス検知管を並列に接続してもよい。
【0053】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る硫化水素の検出装置について説明する。以下では、第二実施形態と第一実施形態で共通する事項に関する説明は省略し、両者の相違点について説明する。
【0054】
図3に示す第二実施形態に係る硫化水素の検出装置50aは、捕集器として小型の試験管56aを備える。また、検出装置50aは、試験管56aを囲む筒状のヒーター54aを備える。ヒーター54aによって試験管56a内の温度を自在に制御できる。検出装置50aでは、電磁弁の代わりに、電磁式の三方コック58aがガス管57の中途に設置されている。三方コック58aには、導入管51とは別の大気採取管51aが接続されている。三方コック58aは第一実施形態における電磁弁58と同様の機能を有する。第二実施形態の検出装置50aで燃料油中の硫化水素を検出する場合、三方コック58aによって大気採取管51aを常時遮断する。試験管56aは検出装置50aに対して着脱可能である。検出装置50aから外した試験管56aに希釈溶剤14および燃料油を入れた後、試験管56aを検出装置50aに取り付け、第一実施形態と同様の方法で燃料油中の硫化水素の検出を開始する。硫化水素の検出後、試験管56aを検出装置50aから取り外し、試験管56a内の希釈溶剤14および燃料油を廃棄する。
【0055】
第二実施形態の検出装置50aでは、大気を捕集器59内に直接吸引した場合、大気中の硫化水素その他の有害成分を硫化水素用検知管20又は検知管64で検出することもできる。つまり、検出装置50aは、燃料油中の硫化水素の検出機能と、大気中の有害成分の検出機能とを兼ね備える。検出装置50aで大気中の有害成分を検出する場合、三方コック58aによって試験管56aと捕集器59とを遮断する。大気採取管51aから導入された大気は、三方コック58aを経由して捕集器59内へ吸引される。なお、大気中の有害成分の検出時には、検出精度を高めるために試験管56aを検出装置50aから取り外してもよい。
【0056】
上述した第一実施形態及び第二実施形態の検出装置は、実験室内で用いてもよく、フィールドで用いてもよい。特に、第二実施形態の検査装置50aは、試験容器として小型の試験管56aを備えるため、第一実施形態に比べて小型化し易く、フィールドで容易に持ち運べる。そのため、第二実施形態に係る硫化水素の検査装置50aによれば、燃料油中の硫化水素及び大気中の有害成分をフィールドで容易に検出できる。例えば、第二実施形態の検査装置50aをタンカーに持ち込み、タンカーに積載された燃料油中の硫化水素をタンカー上で検出することができる。フィールドで硫化水素を検出する際は、フローガスとして、携帯型のボンベ内の窒素ガスを用いてもよく、大気を用いてもよい。
【符号の説明】
【0057】
14・・・希釈溶剤、20・・・硫化水素用検知管、22・・・変色域、50,50a・・・硫化水素の検出装置、51・・・導入管、51a・・・大気採取管、52・・・フィルタ、53・・・試料導入口、54・・・投げ込み式ヒーター、54a・・・筒状のヒーター、55・・・熱電対、56・・・試験容器、56a・・・試験管、40,57,62,65,66・・・ガス管、58,63・・・電磁弁、58a・・・三方コック、59・・・捕集器、60・・・ピストン、61・・・ガス流制御機構、64,64a,64b,64c・・・検知管、67,69・・・配管、68・・・廃液タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素を含む燃料油が溶解した希釈溶剤を入れる試験容器と、
前記試験容器内の前記希釈溶剤を加熱するヒーターと、
前記試験容器内の前記希釈溶剤中にフローガスを導入する導入管と、
前記試験容器内の前記フローガスを捕集する捕集器と、
前記捕集器に捕集された前記フローガスにおける硫化水素の含有量を測定する硫化水素用検知管と、
前記試験容器内の前記フローガスを前記捕集器内に吸引し、前記捕集器内に吸引した前記フローガスを前記硫化水素用検知管へ供給するガス流制御機構と、
を備える、硫化水素の検出装置。
【請求項2】
前記燃料油が、亜硫酸ガス、メルカプタン類、ガソリン、アセチレン、エチレン、アンモニア、塩化水素、窒素酸化物、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも一種の不純物を含有し、
前記捕集器に捕集された前記フローガスにおける前記不純物の含有量を測定する検知管を備える、
請求項1に記載の硫化水素の検出装置。
【請求項3】
前記硫化水素用検知管が、亜硫酸ガス用検知管又はメルカプタン類用検知管の少なくともいずれかを介して、前記捕集器に接続されている、
請求項1又は2に記載の硫化水素の検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−169802(P2011−169802A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34859(P2010−34859)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】