説明

硫化銅鉱の浸出方法

【課題】ヨウ素イオンと、ヨウ素イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液とする銅の浸出方法において、ヨウ素を分離回収し、使用される鉄(III)イオンを鉄酸化微生物により再生し、効率良く硫化銅鉱を浸出する方法を提供すること。
【解決手段】ヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱から銅を浸出させる方法において、
銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を1mg/L未満まで低減させた後、
同溶液中の鉄(II)イオン、もしくは新規に添加した鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させ、
同鉄(III)イオンを含む酸性水溶液とヨウ素を含む水溶液を混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用する硫化銅鉱の浸出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ化物イオンを用いた硫化銅鉱の浸出の際、必要な鉄(III)イオンを鉄酸化微生物を用いて効率的に再生しながら硫化銅鉱を浸出させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に湿式製錬による硫化銅鉱の浸出形態としては、硫酸または塩酸を用いた回分攪拌反応による浸出形態、積層体を形成しその頂部から硫酸または塩酸を供給して重力により滴り落ちる液を回収する浸出形態(ヒープリーチング法)などが知られている。また、鉄酸化微生物などのバクテリアの力を借りて銅を効率よく浸出し、回収する方法(バイオリーチング)も知られている。
【0003】
硫化銅鉱の湿式製錬は、輝銅鉱,銅藍等の二次硫化銅鉱に対してはバイオリーチング法などが実用化されている。しかしながら、黄銅鉱などの一次硫化銅鉱は鉱酸への溶解度が極めて低いため、常温で浸出を行うと浸出速度が非常に遅いという問題がある。
【0004】
上述の問題に対して、特願2009−193197号(特許文献1)には、ヨウ化物イオンおよび酸化剤としての鉄(III)イオン共存下、常温において黄銅鉱や硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱の浸出が促進されるという例が報告されている。この際、酸化剤として使用する鉄(III)イオンについては、浸出反応の結果得られる鉄(II)イオンや、安価な薬品である硫酸第一鉄を、鉄酸化微生物を用いて酸化して産生し供給できれば経済的にも望ましい。また、浸出後液についても廃棄することなく浸出液として繰り返し利用することが経済的にも環境面でも望ましい。しかしながら、ヨウ素は強い殺菌性を持つため上述のヨウ素浸出において鉄酸化微生物を用いてヨウ素およびヨウ化物イオンを含む溶液を用いて鉄(III)イオンを再生することは困難という問題があった。
【0005】
一方、特開平7−91666号(特許文献2)には、ヨウ素の酸化剤として活性塩素、吸着剤として活性炭、陰イオン交換樹脂を用い、溶液中のヨウ素を除去する例が報告されている。代表的なものとしてアルカリ金属塩化物水溶液の精製方法においてヨウ素とアルカリ金属塩化物を含有する溶液に塩素、次亜塩素酸または塩素水を添加しヨウ化物イオンを分子状ヨウ素に酸化し、活性炭に通液させ活性炭に吸着させ、液中のヨウ素を除去する方法がある。また、工業的な食塩電解法においても、同様に特開平4−16554号(特許文献3)には、酸化剤と活性炭を用いてヨウ素を液中から除去する方法がある。
また、特公昭62―34681号(特許文献4)には、かん水からヨウ素を分離回収する方法として、イオン交換樹脂を使用する方法が報告されている。
しかしながら、これらヨウ素除去例で用いられる溶液は、鉄分・銅分などの金属イオンを含む酸性の硫化銅鉱の浸出液とは全く異なっているため、これら方法をそのまま適用することは困難である。また、これらの方法では微生物にとっては毒性の強い塩素系酸化剤を用いることとなり、これら方法をそのまま適用し硫化銅鉱の浸出液からヨウ素を除去することが可能であったとしても、残存する塩素系酸化剤、もしくは塩化物イオンの影響により、ヨウ素除去後の溶液を用いて、微生物により鉄分を効率的に酸化することは困難である。
【0006】
【特許文献1】特願2009−193197号
【特許文献2】特開平7−91666号
【特許文献3】特開平4−16554号
【特許文献4】特公昭62―34681号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、黄銅鉱や硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱から効率よく銅を浸出するにはヨウ化物イオンと鉄(III)イオンが必要であるが、ヨウ素が持つ殺菌性のため鉄酸化微生物を用いて鉄(III)イオンを再生し浸出液を循環させることは難しいという問題がある。
従って、本発明の課題は、上記のような事情に鑑み、ヨウ化物イオンを用いた浸出において実操業レベルで汎用性ある条件で、微生物を用い効率よく鉄(III)イオンを再生しつつ硫化銅鉱から銅を浸出する方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、黄銅鉱や硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱のヨウ素浸出において鉄酸化微生物を用いて鉄(III)イオンを再生するに際して、活性炭を用いてヨウ素濃度を1mg/L未満に低減することにより微生物毒性を持つヨウ素を除去することができ、鉄酸化微生物による鉄(III)イオンの産生を可能にすることを見出した。本発明はかかる知見により完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) ヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱から銅を浸出させる方法において、銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を1mg/L未満まで低減させた後、同溶液中の鉄(II)イオン、もしくは新規に添加した鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させ、同鉄(III)イオンを含む酸性水溶液と分離回収したヨウ素を含む水溶液を混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用する、硫化銅鉱の浸出方法。
(2) 銅浸出工程後、活性炭処理前に溶液中のヨウ素成分を陰イオン交換樹脂により分離回収し、
回収したヨウ素含有水溶液と鉄(III)イオンを含む酸性水溶液と混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用する上記(1)に記載の方法。
(3)活性炭および鉄酸化微生物を含む反応が流動床式リアクターで行われ、流動床中の活性炭のスラリー濃度が、処理前の溶液中ヨウ素濃度の200倍から1500倍であることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(4)活性炭処理後の鉄(II)イオンの酸化を、鉄酸化微生物としてアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus
ferrooxidans)を用いて、大気圧下において実施する上記(1)から(3)の何れかに記載の方法。
(5)銅浸出工程後に得られる溶液の活性炭処理もしくは陰イオン交換樹脂による処理前に、
同溶液中のヨウ化物イオンを分子状ヨウ素に酸化し得るに十分な量の鉄(III)イオンを含むように同溶液を調整したのち、
同溶液を活性炭処理もしくは陰イオン交換樹脂処理する上記(1)から(4)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、
(1)黄銅鉱や硫砒銅鉱を含む硫化銅鉱から銅を常温にて効率よく浸出することができる。
(2)本発明の方法は、浸出液中にヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンと鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として用いる銅の浸出方法において、必要な酸化剤である鉄(III)イオンを鉄酸化微生物を用い産生し、ヨウ素を含有する溶液と混合することによって、硫化銅鉱溶解反応の触媒となるヨウ素(I2)または三ヨウ素イオン(I3-)が再生されて常に供給される反応系となる。
(3)銅の浸出速度の飛躍的な向上が、低コスト且つ高効率で可能となる。
(4)銅浸出工程後に得られる溶液を陰イオン交換樹脂により分離回収し、回収したヨウ素を含む溶液を浸出液に再利用することで、さらに低コスト・高効率化が可能となる。
(5)また、陰イオン交換樹脂と活性炭を併用することにより、活性炭の使用量を削減でき、低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の硫化銅鉱からの銅の浸出方法は、ヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱から銅を浸出させる方法において、
銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を1mg/L以下まで低減させた後、同溶液中の鉄(II)イオン、もしくは新規に添加した鉄(II)イオンをAcidithiobacillus ferrooxidansなどの鉄酸化微生物を用いて鉄(III)イオンに酸化させ、同鉄(III)イオンを含む酸性水溶液とヨウ素を含む水溶液を混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用することを特徴とする。
加えて、銅浸出工程後、活性炭処理前に溶液中のヨウ素成分を陰イオン交換樹脂を用いて分離回収し、回収したヨウ素を含む水溶液を鉄(III)イオンを含む酸性水溶液と混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用することを特徴とする。
【0012】
本発明の方法の対象鉱である黄銅鉱または硫砒銅鉱を含有する硫化銅鉱は、黄銅鉱または硫砒銅鉱を主体とする硫化銅鉱であっても、黄銅鉱または硫砒銅鉱を一部に含有する硫化銅鉱であってもいずれでも良く、その含量は特に限定はされないが、本発明の方法による銅浸出効果が十分に得られる点で、黄銅鉱や硫砒銅鉱を主成分とする硫化銅鉱であることが好ましい。
【0013】
本発明の方法は、硫酸溶液を浸出液とする銅の湿式製錬であれば、いずれの浸出形態にも用いることができ、例えば、回分攪拌浸出のみならず、鉱石を堆積させた上から硫酸を散布して、銅を硫酸中に浸出させるヒープリーチング、ダンプリーチングのいずれであってもよい。
また、浸出の温度は特に規定しないが、特に加熱などは必要とせず、常温での浸出が可能である。
【0014】
本発明の方法による硫化銅鉱の溶解・浸出は、下記(式1)と(式2)に示す一連のヨウ素による触媒反応によって進行すると考えられる。
【0015】
[化1]
2I+2Fe3+→I+2Fe2+ (式1)
【0016】
[化2]
CuFeS+I+2Fe3+→Cu2++3Fe2++2S+2I (式2)
【0017】
上記(式1)と(式2)の両辺の和をとりヨウ素成分を消去すると下記(式3)となり、従来提唱されている硫化銅鉱に対する鉄(III)イオンを酸化剤とした浸出反応であることがわかる。
【0018】
[化3]
CuFeS+4Fe3+→Cu2++5Fe2++2S (式3)
【0019】
上記(式2)のとおり、硫化銅鉱からの銅の浸出はヨウ素(I2)を触媒とする反応により行われるが、ヨウ素は水に対する溶解度が低い。よって、浸出液中で容易に溶解してヨウ化物イオン(I)に解離するヨウ化物を浸出液に添加する。ここで、ヨウ化物としては、水に可溶でヨウ素イオンを発生するものであればよく、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化水素等が使用可能である。また、浸出後液から陰イオン交換樹脂、酸化剤による酸化後曝気(ブローアウト)もしくは溶媒抽出する方法などにより回収したヨウ素を、上記各種ヨウ化物の形態もしくはその他形態のヨウ素を含む溶液の状態で再利用することも可能である。
【0020】
まず、式(1)の反応において、浸出液に添加したヨウ化物イオン(I-)が鉄(III)イオン(Fe3+)により酸化されてヨウ素(I2)が生成する。また、この反応で生じた単体ヨウ素(I2)が残存するヨウ化物イオン(I-)と反応することによって三ヨウ化物イオン(I3-)もまた浸出液内に生成する。このとき浸出液中の総ヨウ素濃度は反応形態や対象となる硫化銅鉱の種類・形状・銅品位などにより適宜決めることができるが、特開2010-189258号に示した100mg/Lから300mg/Lもしくは特願2009-193197号に示した8mg/Lから100mg/Lが好ましい。
【0021】
また式(3)に示すとおり、黄銅鉱浸出にはそれに対応する量の酸化剤としての鉄(III)イオンの供給が必要であり、連続的な黄銅鉱の浸出のためには、連続的な酸化剤としての鉄(III)イオンの供給が必要となる。しかし、ヨウ素は微生物に対して強い毒性を有している。
特に鉄酸化微生物を利用する場合、微生物に強い毒性を示さないヨウ化物イオンも産生する鉄(III)イオンのために酸化され、微生物に対して毒性の強いヨウ素(I2)もしくは三ヨウ化物イオン(I3-)に変換されるため、溶液中のヨウ化物イオン濃度が1ppm以上存在する場合は、銅浸出処理後の溶液中に含まれる鉄(II)イオン、もしくは硫酸第一鉄などとして添加した鉄(II)イオンを、浸出鉄酸化微生物を用いて酸化し鉄(III)イオンを産生させることが困難なことを見出した。
本発明はこのようにヨウ素を含む銅浸出工程後に得られる溶液から鉄酸化微生物に対して強い毒性を示すヨウ素を除去し、鉄酸化微生物による鉄(III)イオンの産生を可能とするものである。
【0022】
本発明では、銅浸出工程後得られる溶液からの微生物に対して毒性をしめすヨウ素を、総ヨウ素濃度1mg/L未満まで除去することが必要であり、そのためのヨウ素を除去するための材料は疎水性相互作用によりヨウ素を吸着する能力を有する材料が好ましい。
そのため、活性炭以外の疎水性表面を有する固体、例えばコークスや疎水性樹脂などの利用も可能であるが、ヨウ素を1mg/L以下まで除去するには、比表面積が高く、ヨウ素除去能が高い特徴を持つ活性炭が特に優れている。
【0023】
本発明に用いる活性炭の種類・原料等は特に規定しないが、表面積が大きく、かつ液相中での利用に適し、かつ安定性に優れたものが好ましく、形状としては粒状もしくは球状のものが好ましい。例えば太平化学産業製ヤシコールMc、日本エンバイロケミカルズ製白鷺X7000Hなどが使用可能である。
また活性炭は充填して固定床としてもよく、また流動床として利用してもよい。また、活性炭に吸着したヨウ素は薬液・加熱・燃焼処理などにより回収して再利用することも可能である。また使用した活性炭も薬液・加熱処理により再利用することも可能である。
【0024】
また、本発明においては、銅浸出工程後の活性炭処理前に、溶液中のヨウ素をあらかじめ回収・分離することが、活性炭およびヨウ素使用量低減のためには好ましい。
適用するヨウ素の分離回収方法としては天然カン水からのヨウ素生産に用いられる曝気分離(ブローアウト)法、陰イオン交換樹脂法、溶媒抽出法など利用することが可能である。
この中では陰イオン交換樹脂による処理が特に複雑な前処理や高価な酸化剤の添加が不要なため好ましい。
【0025】
上記ヨウ素分離回収に用いる陰イオン交換樹脂は、ヨウ化物イオンを吸着可能な陰イオン交換基を有していれば十分であり特に限定しないが、表面積が大きなものが好ましく、例えば三菱化学社製のダイヤイオンNSA100、SA10A等が使用可能である。
これら陰イオン交換樹脂からのヨウ素回収には、例えば特許文献(特公昭62―34681)に示すヨウ素含有カン水からのヨウ素回収法に用いる方法などが適用可能である。また、ヨウ素を含む溶液と陰イオン交換樹脂との接触は固定床・流動床、バッチ式・連続式いずれの形式も用いることが可能である。
【0026】
また、銅浸出工程後の溶液から銅を回収する際には、一般に銅を選択的に抽出する抽出剤をもちいる溶媒抽出法、まれにセメンテーション法が用いられる。これら方法については本発明における陰イオン交換樹脂処理・活性炭処理・微生物処理の前段・後段等どの段階でも実施可能である。
溶媒抽出工程も含めた本発明のプロセスフローの一例を図1と図2に示す。図1は活性炭のみの例であり、図2は陰イオン交換樹脂と活性炭を併用した際の一例である。プロセスは図1、図2に示すような直列的なフローに限る必要はなく、銅抽出工程もしくはヨウ素回収・鉄酸化工程をバイパスさせて並列的に設置することも可能である。
実際には、ヨウ素の抽出剤への毒性や抽出剤の微生物毒性などの影響を考慮し、最適なプロセスフローを適用すればよい。
【0027】
本発明においてヨウ素除去後の溶液を用いた鉄(II)イオンからの鉄(III)イオン再生に用いる鉄酸化微生物としては、鉄酸化能を有していればその種属を限定しないが、具体的にはAcidithiobacillus ferrooxidans, Acidimicrobium ferrooxidans,
Leptosprillum属に属する微生物、Ferroplasma属に属する微生物、もしくはAcidiplasma属に属する微生物などが利用できる。その中でもAcidithiobacillus
ferrooxidansは常温常圧での鉄酸化が可能なため本発明に有効であり、その一例として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターにNITE BP-780として寄託されているAcidithiobacillus
ferrooxidans FTH6Bが利用できる。
【0028】
また鉄酸化反応時の温度・圧力についても、それぞれの微生物に適した条件を使用すればよい。
上記Acidithiobacillus
ferrooxidansを利用する場合には、大気圧下、20-40℃の範囲で実施することが望ましい。
【0029】
なお、活性炭によるヨウ素の除去回収時には疎水性相互作用を利用してヨウ素を吸着除去させる必要があるため、ヨウ化物イオンを酸化し、単体のヨウ素にするために溶液中に鉄(III)イオンが必要である。
溶液中に必要な鉄(III)イオン量としては、特に規定しないが、好ましくは、液中のヨウ化物イオンを分子状ヨウ素に酸化し得る鉄(III)イオン量、すなわち液中のヨウ化物イオンのモル濃度以上、より好ましくはヨウ化物イオンのモル濃度の10倍以上の鉄(III)イオンを含むことが望ましい。
【0030】
またイオン交換樹脂へのヨウ素の吸着についてもヨウ素もしくは三ヨウ化物イオンの形態での吸着が良好であることから、イオン交換樹脂処理前の溶液にも鉄(III)イオンが含まれることが望ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)活性炭による浸出後液中のヨウ素除去効果。
ヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱から銅を浸出させる方法において、銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を1mg/L未満まで低減させた後、同溶液中の鉄(II)イオン、もしくは新規に添加した鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させるヨウ素の微生物毒性低減効果を確認した。
対象溶液としてチリ共和国カセロネス産の硫化銅鉱を含む粗鉱に同方法を適用した浸出液後を用いた。
この浸出後液の性状は硫酸酸性pH1.8、鉄イオン(II)0.8/L、鉄イオン(III)1.2g/L、ヨウ素0.045g/Lであった。
【0033】
上記浸出液50mLを100mL容量のビーカーに分取し、それぞれ以下に示す濃度の活性炭(太平化学産業製ヤシコールMc)を添加し、一時間攪拌し、ろ過を行い活性炭を取り除いた。処理液A〜Eについてのヨウ素濃度をそれぞれICP-MSで測定した。その濃度を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
続いて、処理液A〜Eに鉄(II)イオン6g/Lになる様硫酸鉄(II)七水和物を添加し、25mLをそれぞれ50mL容量のフラスコに移し、そこに鉄酸化微生物アシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)FTH6B(NITE BP−780)を菌濃度2×10cells/mLになるよう添加した。各処理液を温度30℃、大気圧下で緩やかに振とうし鉄酸化微生物による鉄酸化を促した。
微生物処理後の処理液A〜Eについて鉄(II)イオン濃度を二クロム酸カリウムによる酸化還元滴定法で測定し、全鉄イオン濃度をICP−AESで測定した。全鉄イオン濃度と鉄(II)イオン濃度の差を鉄(III)イオン濃度として算出した。鉄(III)イオン濃度の経時変化を図3に示す。結果として活性炭濃度を活性炭処理前液ヨウ素濃度の222倍(活性炭濃度10g/L)ないし1111倍(活性炭濃度50g/L)とした場合に、溶液中のヨウ素が、1mg/L未満となり(表2参照)、ヨウ素の毒性なく、鉄(III)イオン濃度が、微生物処理によって生産された。
この実施例により、ヨウ素含有浸出後液を活性炭処理して溶液中ヨウ素濃度を1mg/L未満にすることで、微生物処理によって鉄(III)イオンの生産が可能となり、この鉄(III)イオンを含む水溶液とヨウ化物イオンを含む水溶液を混合した溶液を硫化銅鉱の浸出に用いれば、硫化銅鉱からの銅の浸出を促進させることが可能となることが示された。
【0036】
(実施例2)陰イオン交換樹脂と活性炭による浸出後液中のヨウ素除去効果。
上記浸出後液700mLを1000mL容量のビーカーに分取し、直径3cm高さ30cmのガラス製カラムに三菱化学ダイヤイオンNSA100を20g充填したカラムに通液した。陰イオン交換樹脂通液後の溶液中のヨウ素濃度は8mg/Lであった。
通液後の溶液を、それぞれ以下に示す濃度の活性炭(太平化学産業製ヤシコールMc)を添加し、一時間攪拌し、ろ過を行い活性炭を取り除いた。処理液F〜Kについてのヨウ素濃度をそれぞれICP-MSで測定した。その濃度を表2に示す。
【0037】
【表2】

処理液F〜Kに鉄(II)イオン6g/Lになる様硫酸鉄(II)七水和物を添加し、25mLをそれぞれ50mL容量のフラスコに移し、そこに鉄酸化微生物アシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)FTH6B(NITE BP−780)を菌濃度2×10cells/mLになるよう添加した。
各処理液を温度30℃、大気圧下で緩やかに振とうし鉄酸化微生物による鉄酸化を促した。
微生物処理後の処理液F〜Kについて鉄(II)イオン濃度を二クロム酸カリウムによる酸化還元滴定法で測定し、全鉄イオン濃度をICP−AESで測定した。全鉄イオン濃度と鉄(II)イオン濃度の差を鉄(III)イオン濃度として算出した。鉄(III)イオン濃度の経時変化を図4に示す。
本実施例により、浸出後液を陰イオン交換樹脂でヨウ素を回収したのち、活性炭濃度として2.5g/L以上の濃度の活性炭(活性炭処理前の溶液中ヨウ素濃度に対して313倍以上)で処理することで、ヨウ素濃度を1mg/L未満(表2参照)に低減し、処理後液を用いて鉄酸化微生物を用いて溶液中の鉄(II)イオンをヨウ素の毒性なく鉄(III)イオンに酸化することができることがわかる。
また(実施例1)と比較すると、陰イオン交換樹脂を併用することでヨウ素濃度を1mg/L未満に低減する為に必要な活性炭濃度が10g/Lから2.5g/Lへと4分の1に削減できることがわかる。
微生物処理後の鉄(III)イオンを含む溶液と、ヨウ化物イオンを含む水溶液を混合させた溶液を硫化銅鉱の浸出に用いれば、硫化銅鉱からの銅の浸出を促進させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明において、活性炭を使用した場合の処理フローの一態様を示す。
【図2】本発明において、陰イオン交換樹脂と活性炭を使用した場合の処理フローの一態様を示す。
【図3】本発明において、各濃度の活性炭で処理した場合の鉄酸化微生物に対するヨウ素毒性低減効果の一態様を示す。
【図4】本発明において、陰イオン交換樹脂でヨウ素を吸着したのち、各濃度の活性炭で処理した場合の鉄酸化微生物に対するヨウ素毒性低減効果の一態様を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化物イオンと、ヨウ化物イオンに対して過剰量の鉄(III)イオンとを含有する硫酸溶液を浸出液として硫化銅鉱から銅を浸出させる方法において、
銅浸出工程後に得られる溶液を活性炭処理によりヨウ素を1mg/L未満まで低減させた後、
同溶液中の鉄(II)イオン、もしくは新規に添加した鉄(II)イオンを鉄酸化微生物により鉄(III)イオンに酸化させ、
同鉄(III)イオンを含む酸性水溶液とヨウ素を含む水溶液を混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用することを特徴とする、硫化銅鉱の浸出方法。
【請求項2】
銅浸出工程後に得られる溶液から陰イオン交換処理によりヨウ素を分離回収したのち、ヨウ素を除去した溶液を活性炭処理および鉄酸化微生物処理を行い産生させた鉄(III)イオンを含む酸性水溶液と、陰イオン交換樹脂により回収したヨウ素を含む水溶液とを混合し、硫化銅鉱の浸出液として利用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1,2の活性炭処理が流動床式で行われ、流動床中の活性炭濃度が、活性炭処理前の溶液中ヨウ素濃度の200倍から1200倍であることを特徴とする硫化銅鉱の浸出方法。
【請求項4】
活性炭処理後の鉄(II)イオンの酸化処理を、鉄酸化微生物としてアシディチオバチルス・フェロオキシダンス(Acidithiobacillus
ferrooxidans)を用い、大気圧下において実施することを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
銅浸出工程後に得られる溶液の活性炭処理もしくは陰イオン交換樹脂による処理を実施する前に、
同溶液中のヨウ化物イオンを分子状ヨウ素に酸化し得るに十分な量の鉄(III)イオンを含むように同溶液を調整したのち、
同溶液を活性炭処理もしくは陰イオン交換樹脂処理することを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190520(P2011−190520A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60037(P2010−60037)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】