説明

硫酸化オリゴ糖の製造および使用

【課題】新規オリゴ糖およびその用途の提供。
【解決手段】オリゴ糖が一般式(I):R−(R)−R[式中、RおよびRならびに各Rは、単糖単位を表し、その全ては、同一または異なっており、隣接する単糖単位は、1→2、1→3、1→4および/または1→6グリコシド結合によって結合されており、nは、1〜6の整数である]で示される硫酸化オリゴ糖、ならびに抗脈管形成剤、抗転移剤および/または抗炎症剤としてのそれらの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸化オリゴ糖、それらの製造および抗脈管形成剤、抗転移剤および/または抗炎症剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパラン硫酸は、多糖のグリコサミノグリカン・ファミリーに属する。それらは、ほとんどの多細胞動物中に存在し、遍在的分布を有しており、ほとんどの組織の細胞表面および細胞外マトリックス(ECM)で発現する(1(非特許文献1),2(非特許文献2))。ヘパラン硫酸は、通常、プロテオグリカンとして存在しており、該分子のコアポリペプチドの配列決定およびクローニングがかなり進んだ。今までのところ、例えば、少なくとも8種類のヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)コアポリペプチドが細胞表面で同定された(3(非特許文献3))。
【0003】
まず、HSPGは、細胞表面およびECMで構造的役割を充分に果たすと思われた。しかしながら、ヘパラン硫酸鎖は、それらが多くの生物学的プロセスのための重要なシグナル発生情報を提供することを示唆する顕著な構造的多様性を示す(2(非特許文献2),4(非特許文献4))。かくして、ヘパラン硫酸鎖は、まず、β1−4およびα1−4結合によって結合されたグルクロノシルおよびN−アセチルグルコサミニル残基の単純な交互反復体として合成されるが、結果として多くの修飾が起こる。多糖は、N−脱アセチルされ、N−硫酸化され、次いで、グルクロノシル単位からイズロノシル単位へのC5エピマー化、ならびにウロノシルおよびグルコサミニル残基の種々のO−硫酸化を受ける。これらの修飾の可変性により、ヘパラン硫酸鎖に沿って異なる順序で配置された場合に理論的には莫大な数の異なるヘパラン硫酸構造を生じ得る約30種類の二糖配列が考えられる。これに関して、マスト細胞顆粒中にのみ存在する抗凝固性多糖ヘパリンは、エピマー化および硫酸化が最大になったヘパラン硫酸の最高の形態を表す。ほとんどのヘパラン硫酸は、比較的長いストレッチの非硫酸化単位によって結合された短いストレッチの高度に硫酸化された残基を含有する。
【0004】
現在、ヘパラン硫酸が広範囲の生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たすという明らかな証拠がある(2-4(非特許文献2〜4))。特に、それらは、細胞間相互作用に関与する付着分子に対するリガンドとして作用し(5(非特許文献5),6(非特許文献6))、細胞−ECM相互作用に関与し(5(非特許文献5),6(非特許文献6))、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(7(非特許文献7),8(非特許文献8))および血管内皮成長因子(VEGF)(9(非特許文献9))などの成長因子に対する必須細胞表面受容体として作用することができる。HSPGは、また、細胞移動に対する主要な障壁を表す基底膜の重要な成分である(10(非特許文献10))。基底膜障壁は、細胞が、ヘパラン硫酸鎖を切断する(12(非特許文献12),13(非特許文献13))ヘパラナーゼと称されるエンドグリコシダーゼを含む一連の分解酵素(11(非特許文献11))を展開する場合にのみ破られ得る。
【0005】
ヘパラン硫酸が関与する生物学的プロセスの多くが、特有のヘパラン硫酸構造の認識を伴うものであり、多糖鎖における硫酸化物の位置が非常に重要なものであることが示された(3(非特許文献3))。例えば、所定のヘパラン硫酸配列が酸性および塩基性FGFによって認識され(14-16(非特許文献14〜16))、ヘパラナーゼによって切断されることが示された。これらの観察結果に基づいて、本発明の目的は、成長因子によるヘパラン硫酸認識を遮断し、ヘパラナーゼによるヘパラン硫酸の切断を阻害する硫酸化オリゴ糖を合成することであった。現在、細胞表面ヘパラン硫酸がそれらの受容体に結合した成長因子の架橋結合を媒介すると思われているので、成長因子の遮断の場合、ヘパラン硫酸の低分子量模倣体は、特に有効であると考えられた(17(非特許文献17))。さらにまた、硫酸化オリゴ糖は、ヘパラナーゼの切断不可能な基質として作用することによる有効なヘパラナーゼ阻害剤である。
【0006】
成長因子阻害活性を有する硫酸化オリゴ糖は、多くの臨床用途を有する。bFGFおよびVEGFなどのヘパリン/ヘパラン硫酸結合性成長因子は、脈管形成の強力なインデューサーである(18(非特許文献18))。成人では、脈管形成は、創傷治癒の間以外は比較的稀な出来事である。しかしながら、脈管形成が非常に重要である成人における多くの「脈管形成依存性疾患」がある(18-20(非特許文献18〜20))。これらのうち最も重要なものは、充実性腫瘍の増殖、増殖性網膜症および慢性関節リウマチに関連する脈管形成である。bFGFおよびVEGFなどの重要な脈管形成性成長因子の作用を遮断した硫酸化オリゴ糖は、これらの脈管形成依存性疾患の治療に特に有用であろう。
【0007】
同様に、ヘパラナーゼ作用を阻害する硫酸化オリゴ糖は、数多くの臨床用途を有する。内皮下基底膜は、内皮細胞、腫瘍細胞および白血球の血管壁通過に関する主要な物理的障壁である。ヘパラナーゼ酵素は、一連のタンパク質溶解酵素(例えば、プラスミン、マトリックスメタロプロテイナーゼ)と組み合わさって、細胞に侵入することによって基底膜分解における主要な役割を果たす(11-13(非特許文献11〜13),21(非特許文献21))。かくして、基底膜分解を防止することによって、ヘパラナーゼ阻害活性を有する硫酸化オリゴ糖は、抗転移活性および抗炎症活性を示し、さらに、初期段階の脈管形成を阻害することができる。脈管形成性成長因子作用およびヘパラナーゼ酵素を同時に阻害する硫酸化オリゴ糖の使用は、例えば、非常に転移性のある充実性腫瘍および慢性関節リウマチの治療など、多くの臨床状況において好ましい。
【0008】
従前の特許文献1には、動物またはヒト患者の抗転移治療および/または抗炎症治療における、ヘパラナーゼ活性を遮断または阻害する、ヘパリンおよび修飾ヘパリン、フコイジン、ペントサン硫酸、デキストラン硫酸およびカラゲニンラムダなどの硫酸化多糖の使用が開示されている。
【0009】
本発明に導く研究において、本発明者らは、天然オリゴ糖またはヘキソース含有ホモポリマーを含む全合成オリゴ糖を用いて硫酸化オリゴ糖を調製した。これらの化合物のうちいくつかは、ヒト脈管形成、腫瘍転移および炎症の強力な阻害剤であることが示された。得られたデータは、硫酸化オリゴ糖が脈管形成性成長因子作用および/またはヘパラナーゼ機能を阻害することによる生物学的効果を示すことと一致しており、脈管形成およびヘパラナーゼ活性の両方の強力な阻害剤であるある種の硫酸化オリゴ糖が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願番号PCT/AU88/00017(公開番号WO88/05301)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dietrich, C. P., Nader, H. B. および Strauss, A.J. (1983). Biochem. Biophys. Res. Comm. 111 865-871
【非特許文献2】Kjellen, L and Lindahl, U. (1991). Annu. Rev. Biochem. 60, 443-475
【非特許文献3】David, G. (1993). FASEB J. 7, 1023-1030
【非特許文献4】Esko, J. D. (1991). Curr. Opin. Cell Biol. 3, 805-816
【非特許文献5】Cole, G. J. and Akeson, R. (1989). Neuron 2, 1157-1165
【非特許文献6】Coombe, D. R., Watt, S. M. および Parish C. R. Blood 84, 739-752
【非特許文献7】Yayon, A., Klagsbrun, M., Esko, J. D., Leder, P. および Ornitz, D. M. (1991). Cell 64, 841-848
【非特許文献8】Rapraeger, A. C., Krufka,A. および Olwin, B. B. (1991). Science 252, 1705-1708
【非特許文献9】Gitay-Goren, H., Soker, S., Vlodabsky, I. および Neufeld, G. (1992). J. Biol. Chem. 267, 6093-6098
【非特許文献10】Yurchenco, P. D. および Schittny, J. C. (1990). FASEB J. 4, 1577-1590
【非特許文献11】Stetler, S. W., Aznavoorian, S および Liotta, L. A. (1993). Annu. Rev. Cell Biol. 9, 541-573
【非特許文献12】Eldor, A., Bar-Ner, N., Fuks, Z. および Vlodavsky, I. (1987). Semin. Thromb. Hemost. 13, 475-488
【非特許文献13】Nakajima, M., Irimura, T. および Nicolson, G. L. (1988). J. Cell Biochem. 36, 157-167
【非特許文献14】Turnbull, J. E., Fernig, D. G., Ke, Y., Wilkinson, M. C. および Gallagher, J. T. (1992). J. Biol. Chem. 267, 10337-10341
【非特許文献15】Mach, H., Volkin, D., Burke, C. J., Middaugh, C. R., Linhardt, R. J., Fromm. J. R. および Loganathan, D. (1993). Biochemistry 32, 5480-5489
【非特許文献16】Nurcombe, V., Ford, M. D., Windschut, J. A. および Bartlett, P. F. (1993). Science 260, 103-106
【非特許文献17】Spivak-Kroizman, T., Lemmon, M. A., Dikic, I., Ladbury, J. E., Pinchasi, D., Huang, J., Jaye, M., Crumley, G., Schlessinger, J. および Lax, I. Cell 79, 1015-1024
【非特許文献18】Folkman, J. および Brem, H. (1992). Angiogenesis and inflammation. In: "Inflammation. Basic Principles and Clinical Correlates". Eds Gallin, J. I., Goldstein, I. M. および Synderman, R. S., Raven Press, New York
【非特許文献19】Folkman, J. (1991). Tumour angiogenesis. In "Cancer Medicine". Ed Holland, J. F., Lea & Febiger, Philadelphia
【非特許文献20】Folkman, J. および Klagsbrun, M. (1987). Science 235, 442-447
【非特許文献21】Ratner, S. (1992). Invasion Metastasis 12, 82-100
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様に関して、本発明は、オリゴ糖が一般式I:
−(R)−R (I)
[式中、RおよびRならびに各Rは、同一または異なっていてもよい単糖単位を表し、隣接する単糖単位は、1→2、1→3、1→4および/または1→6グリコシド結合によって結合されており;
nは、1〜6の整数である]
で示される硫酸化オリゴ糖を提供するものである。
【0013】
本発明の硫酸化オリゴ糖は、1→2、1→3、1→4および/または1→6グリコシド結合によって結合されてよく、3〜8個の単糖単位からなっていてよい単糖単位のポリマーに基づいている。好ましくは、該オリゴ糖は、3〜6個の単糖単位(すなわち、nは、1〜4である)、より好ましくは、5〜6個の単糖単位(nは、3〜4である)からなる。ポリマーは、一のタイプの単糖単位だけを含有するホモポリマーを含むものであっても、または2種類以上のタイプの単糖単位を含有するヘテロポリマーを含むものであってもよい。
【0014】
一緒に結合してオリゴ糖を形成する単糖単位は、好ましくは、ヘキソースであり、フルクトースなどのフラノースまたはグルコース、マンノース、アルトロース、アロース、タロース、ガラクトース、イドースまたはグロースなどのピラノースのいずれであってもよい。ヘキソースは、D−またはL−配座のいずれであってもよい。
【0015】
本発明の1つの特定の態様では、一般式II:
−(R)−R (II)
[式中、各R基は、同一であり、各々、単糖単位を表し、隣接する単糖単位は、1→3、1→4および/または1→6グリコシド結合によって連結されており;
nは、1〜6の整数である]
で示される新規合成オリゴ糖を提供するものである。
【0016】
この特定の態様では、本発明は、オリゴ糖が前記一般式IIで示される硫酸化オリゴ糖を提供するものである。
【0017】
好ましくは、式IIで示されるホモポリマーオリゴ糖では、単糖単位は、グルコース、マンノース、アルトロース、アロース、タロース、ガラクトース、イドースまたはグロースなどのヘキソースである。好ましくは、また、これらのオリゴ糖において、nは、1〜4、より好ましくは、3〜4である。
【0018】
一般式IおよびIIで示されるオリゴ糖としては、単糖単位が誘導されている、特に、単位が単糖のリン酸化、アセチルまたは他のエステル誘導体である化合物が挙げられる。
【0019】
一般に、本発明の硫酸化オリゴ糖は、自体公知の方法によってオリゴ糖を硫酸化して、対応する該オリゴ糖のO−硫酸化誘導体を得ることによって調製され得る。適切な硫酸化方法を以下に例示する。硫酸化しようとするオリゴ糖は、そのままで自然に生じるオリゴ糖(例えば、ラフィノースおよびスタキオース)を含む天然生成物、ならびに天然多糖の酵素分解または化学分解によって調製されたオリゴ糖(例えば、マルトテトラオース、マルトペンタオースおよびマルトヘキサオース;グルコトリオース、グルコテトラオースおよびグルコペンタオース;コンドロイチン四糖、六糖および八糖;ならびに酵母ピキア・ホルスティ(Pichia holstii)由来のマンノペンタオースリン酸)であってもよい。
【0020】
前記したとおり、本発明の範囲内となる硫酸化オリゴ糖は、ヘパラナーゼ阻害活性および/または成長因子阻害活性を示すことが示された。したがって、別の態様では、本発明は、温血動物(ヒトを含む)患者の治療における抗脈管形成剤、抗転移剤および/または抗炎症剤としての前記硫酸化オリゴ糖の使用に及ぶ。
【0021】
かくして、本発明は、前記した少なくとも1つの硫酸化オリゴ糖の有効量を患者に投与することを含む、治療を必要とするヒトまたは他の温血動物患者の抗脈管形成治療方法、抗転移治療方法および/または抗炎症治療方法に及ぶ。
【0022】
活性成分は、治療的に有効な量で投与される。治療的に有効な量は、少なくとも部分的には、所望の効果を得るために、または治療される特定の症状の発症を遅延させるために、または、該症状の進行を阻害するために、または、該症状の発症もしくは進行を完全に停止させるために必要な量を意味する。かかる量は、もちろん、治療される特定の症状、該症状の重篤度、ならびに年齢、全身状態、大きさ、体重および併用療法を含む個々の患者のパラメーターに依存するであろう。これらの因子は、当業者によく知られており、慣用的な実験だけを持って取り組むことができる。一般的に、最大投与量を用いること、すなわち、適切な医学的判断(sound medical judgement)による最高の安全な投与量を用いることが好ましい。しかしながら、医学的理由、心理的理由または事実上すべての他の理由のために低い投与量または耐量が投与されることは、当業者によって理解されるであろう。
【0023】
本発明は、少なくとも1つの前記硫酸化オリゴ糖の、ヒトまたは他の温血動物患者の抗脈管形成治療薬、抗転移治療薬および/または抗炎症治療薬の製造における使用にも及ぶ。
【0024】
さらにまた、本発明は、また、医薬的および獣医学的に許容される担体または希釈剤と一緒に少なくとも1つの前記硫酸化オリゴ糖を含む、抗脈管形成治療用、抗転移治療用および/または抗炎症治療用の医薬組成物または獣医学的組成物を提供するものでもある。
【0025】
かかる治療用組成物の処方は、当業者によく知られている。適切な医薬的または獣医学的に許容される担体および/または希釈剤としては、いずれかまたは全ての慣用的な溶媒、分散媒質、充填剤、固体担体、水性溶液、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張性および吸収遅延剤などが挙げられる。医薬的および獣医学的に活性な物質のためのかかる媒質および薬剤の使用は、当該技術分野でよく知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Edition, Mack Publishing Company, Pennsylvania, USAに開示されている。いずれかの慣用的な媒質または薬剤が活性成分と適合しない場合を除いては、本発明の医薬組成物および獣医学的組成物におけるその使用が考えられる。追加の活性成分を該組成物に配合することもできる。
【0026】
投与の容易性および投与の均一性のために投与単位形態の組成物を処方するのが特に好都合である。本明細書で用いる場合の投与単位形態は、治療しようとするヒトまたは動物患者のための単位投与として適している物理的に分離している単位を表す;各単位は、所望の医薬的または獣医学的担体および/または希釈剤と一緒に、所望の治療効果を生じるように算出された予め決定された量の活性成分を含有する。本発明の新規投与単位形態のための明細は、(a)活性成分の特有の性質および達成しようとする特定の治療効果、ならびに(b)特定の治療のためのかかる活性成分を化合する技術分野において固有の限界によって決められ、これらに直接依存する。
【0027】
本発明の硫酸化オリゴ糖は、充実性腫瘍の増殖、増殖性網膜症および慢性関節リウマチに関連する脈管形成を含む脈管形成依存性疾患の治療において、ならびに、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、インスリン依存性真性糖尿病、潰瘍性大腸炎およびクローン(Chron)病などの炎症性腸疾患、同種異系移植片拒絶ならびに慢性喘息のような白血球浸潤が重要な要素である慢性炎症性疾患を含む、硫酸化オリゴ糖のヘパラナーゼ−阻害活性が白血球浸潤を阻害するのに特に有用である炎症性疾患および症状の治療において用いられる。
【0028】
本明細書の全体を通して、特記しない限り、「を含む」という語句または「を含むこと」などの派生語は、指定された整数または整数のグループの包含を意味するが、いずれの他の整数または整数のグループの排除を意味しないと理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、イン・ビトロでのヒト脈管形成に対するマルトヘキサオース硫酸の効果を示す。上図は、培養開始後14日目の対照脈管形成のデジタル画像である。下図は、20μg/mlのマルトヘキサオース硫酸の存在下での脈管形成を示す。
【図2】図2は、イン・ビトロでのヒト脈管形成に対する種々の濃度のマルトース硫酸(□)、マルトテトラオース硫酸(〇)およびマルトヘキサオース硫酸(■)の効果を示す。データは、培養開始後14日目の脈管形成応答のデジタル画像から得た。各値は、平均値±標準誤差である(n=4)。
【図3】図3は、イン・ビトロでのヒト脈管形成に対するピキア・ホルスティ(Pichia holstii)由来の種々の濃度(μg/ml)の硫酸化マンノペンタオースリン酸の効果を示す。データは、培養開始後19日目の脈管形成応答のデータ画像から得た。各値は、平均値±標準誤差である(n=4)。
【図4】図4は、ラット乳腺癌13762 MATの転移に対する種々の鎖長の硫酸化マルトースオリゴ糖の効果を示す。対照動物には、オリゴ糖不在下で13762 MAT細胞を投与した。パネルAでは、処置動物には、腫瘍細胞注射時に各化合物2mgを静脈内投与した。パネルBでは、処置動物には、腫瘍細胞注射時に各化合物4mgを皮下投与した。垂直バーは、平均値の標準誤差を表す。
【図5】図5は、固定されたaFGFへのBALB/c 3T3上の細胞表面ヘパラン硫酸の結合を阻害することができる種々の鎖長の硫酸化マルトースオリゴ糖の能力の評価である。結合した3T3細胞は、ローズ・ベンガル染色法によって、および540nmでの色素吸光度を測定することによって定量化した。種々のマルトースオリゴ糖の硫酸化の程度は、表2に記載する。
【図6】図6は、ラット乳腺癌13762 MATの転移を阻害する能力に対するマルトヘキサオース硫酸の硫酸化の程度の効果を示す。x軸に沿った数字は、マルトヘキサオース分子1個当たりの硫酸基の数を表す。対照動物には、化合物の不在下で腫瘍細胞を投与した。オリゴ糖は、腫瘍細胞注射時に2mg/ラットの投与量で静脈内投与した。垂直バーは、平均値の標準誤差を表す。
【図7】図7は、イン・ビトロでのヒト脈管形成に対する分子1個当たり種々の数の硫酸基を有するマルトヘキサオースの効果を示す。オリゴ糖を200μg/mlで添加し、無血清培地中でアッセイを行った。該アッセイが血清含有(20%FCS)培地中で行われようとまたは無血清(無FCS)培地中で行われようと、この実験では類似の脈管形成応答が観察された。分子1個当たり硫酸化物20個を有するマルトヘキサオースは、最大に硫酸化された分子を表す。データは、4つの測定の平均値±標準誤差である。
【図8】図8は、イン・ビトロでのヒト脈管形成に対する硫酸化オリゴ糖を含有する種々のマンノースの効果を示す。括弧内の値は、オリゴ糖の硫酸化%を表す。オリゴ糖を200μg/mlで添加し、血清含有培地中で該アッセイを行った。データは、4つの測定の平均値±標準誤差である。
【図9】図9は、ラット乳腺癌13762 MATの転移に対する種々の鎖長の硫酸化マンノースオリゴ糖の効果を示す。括弧内の値は、オリゴ糖の硫酸化%を表す。対照動物には、オリゴ糖の不在下で13762 MAT細胞を投与した。処置動物には、腫瘍細胞を静脈内注射した直後、各化合物2mg(A)または4mg(B)を皮下投与した。垂直バーは、平均値の標準誤差を表す。
【図10】図10は、ラット乳腺癌13762 MATの転移に対する種々の鎖長の硫酸化ガラクトースおよびグルコースオリゴ糖の効果を示す。括弧内の値は、オリゴ糖の硫酸化%を表す。対照動物には、オリゴ糖の不在下で13762 MAT細胞を投与した。処置動物には、腫瘍細胞の静脈内注射の直後、各化合物2mgを皮下投与した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
前記で広く記載したとおり、本発明は、硫酸化オリゴ糖ならびに抗脈管形成剤、抗転移剤および/または抗炎症剤としてのそれらの使用に関する。
【0031】
いくつかのオリゴ糖は、次の硫酸化のために天然原料から得ることができるが、所定の鎖長および立体化学のオリゴ糖を合成するための簡単な方法が非常に望まれている。本発明は、オリゴマーの糖モノマーが1→3、1→4および/または1→6結合で結合される、良好な収率で簡単な出発物質からヘキソース糖のオリゴマーを合成し単離するための改良された方法を提供するものである。このヘキソース糖のオリゴマーの製造方法は、良好な収率が得られ、オリゴマー化の程度が容易に制御され、この方法により得られた生成物が簡単なクロマトグラフィー法を用いて容易に単離され精製される同一の直鎖状オリゴマーであるという点で、かかる糖オリゴマーが従前に製造されていた方法と非常に対照的である。
【0032】
糖ポリマーおよびオリゴマーを調製するための方法が開示されている多くの例が科学文献および特許文献において見ることができる。例えば、一般的に用いられる方法では、非修飾糖モノマーを単独または溶媒の存在下で、触媒の存在下、加熱して、種々のおよびしばしば不明確な化学結合を有する分枝鎖状および直鎖状ポリマー生成物が得られる(22, 23)。糖が陽イオン交換樹脂の存在下で溶融する別の方法(24)によると、高分子量の非常に枝分かれしたポリマーが得られる。これらの2つの例では、該ポリマーは、形成された各ポリマー結合のための1分子の水の付随的損失をもって形成される。公知の段階重合方法の別の例は、1位に非ヒドロキシル基(例えば、臭素または塩素原子など)、および他の糖ヒドロキシル基に保護基(例えば、アセチルなど)を有している糖が別の糖のヒドロキシル基と1位で反応させられる、ケニクス−クノール(Koenigs−Knorr)反応を利用することを含む(24)。これらの方法では、水以外の分子、例えばHBrは、ポリマー結合形成の間に失われる。このオリゴ糖の製造方法は、長時間に及び、複雑な出発物質の調製を必要とし、全収率が悪い(25)。
【0033】
同様の方法で、炭素6に第一アルコール基、ならびに2、3および4位にO−保護基(例えば、アセチルなど)、および1位に臭素などの脱離基を含有するヘキソース糖が、特に酸化銀などの触媒の存在下で、自己縮合して、1,6結合ポリマーが得られることは知られている;この方法で1−ブロモ−2,3,4−トリ−O−アセチル−α−D−グルコースから一連のゲンチオデキストリンが製造された;しかしながら、該オリゴ糖の収率は、分子内縮合により誘導された1,6−アンヒドロ−β−D−グルコースの形成のために低かった;二量体の収率(14%)および三量体の収率(22%)は、良好ではなく、四量体および五量体の収率は、悪く(≦5%)、六量体は、ほんの1%の収率で単離されただけであった(26)。
【0034】
より最近の刊行物には、無水糖誘導体の開環重合反応によって製造された1,6−結合−β−ピラノシル単位(27)およびD−デキストラン(28)のポリマーの化学的合成が開示されている。この方法は、無水糖出発物質を製造するのに相当な努力が必要とされることによって妨げられ、反応が例えば−60℃で行われたとしてもこの方法によってオリゴ糖を容易に製造することができるという証拠は全くない。別の方法は、1,2,3,4−テトラ−O−アセチル−β−D−グルコースの酸性触媒化溶融重合化を用いて、1,6'−結合オリゴ糖酢酸の混合物を製造し、これは、脱アセチルし、クロマトグラフィー試験に付すと、ほとんどが単糖および二糖、すなわち、グルコース(15%)、レボグルコサン(4%)およびゲンチオビオース(16%)を含有することが示されたが、オリゴ糖収率は、容認されないほど低く、特に、ゲンチオトリオース(4%)およびゲンチオテトラオース(0.6%)であった(29)。この方法は、後により詳細に開示され(30)、重合化生成物の収率がわずかに改良されたが、期待されるオリゴマーの収率だけは非常に悪かった。
【0035】
かくして、該文献から、数多くのオリゴ糖を製造するために数種類の方法が既に存在するが、容易に入手可能かつ廉価な出発物質から良好な収率でホモ−オリゴ糖を合成する方法は、現在までに全く開示されていなかったことが明らかである。
【0036】
本発明に導く研究において、本発明者らは、特定のヘキソピラノ−オリゴ糖が容易に入手可能かつ廉価な出発物質から良好な収率で合成され得る方法を見いだした。この態様に関して、本発明は、減圧下、ルイス酸または他の触媒の存在下、不活性溶媒中、ヘキソースのアセチルまたは他のエステル誘導体を加熱することを含む、ヘキソピラノ−オリゴ糖の製造方法を提供するものである。
【0037】
この方法に関して、グルコース、マンノース、ガラクトース、アルトロース、タロース、グロース、イドースおよびアロースの1,2,3,4−テトラ−O−アセチル誘導体を含むがこれらに限定されない、誘導体化ヘキソース糖のオリゴマー化は、O−アセチル化ヘキソースオリゴ糖が得られるように制御された方法で起こるように行うことができる。この方法では、オリゴマー化の程度(鎖長)は、オリゴマー化反応が起こる温度の操作によって、および反応が進行する時間を変化させることによって容易に制御することができる。オリゴマー化反応後、粗製生成混合物をさらにアセチル化に付して、残存するオリゴ糖の遊離ヒドロキシル基をアセチル化する。次いで、アセチル化オリゴ糖を吸着クロマトグラフィーによって容易に分離することができる。アセチル基は紫外線吸収を有しており、アセチル化オリゴ糖がカラムから連続して溶出される場合にアセチル化オリゴ糖を同定するための吸光分光分析の使用を容易にする。オリゴ糖混合物からアセチル保護基を除去することができ、得られたオリゴ糖をゲル濾過(サイズ排除)クロマトグラフィーによって大きさにしたがって分離することができる。
【0038】
本明細書に記載する実施例では、硫酸化オリゴ糖は、それらの個々のナトリウム塩として単離され用いられる。カルシウムなどの他の医薬的に許容される塩または医薬的に許容されるアミン塩は、対応する方法で単離され用いられると理解されるであろう。したがって、本明細書における「硫酸化オリゴ糖」の言及は、硫酸化オリゴ糖のかかるナトリウムまたは他の医薬的に許容される塩を含むと理解されるべきである。
【0039】
本発明のさらなる特徴は、以下の実施例においてより充分に記載される。しかしながら、この詳細な説明は、単に本発明を例示するために含まれており、如何なる場合も前記した本発明の広い説明についての制限として理解されるべきではないと理解されるべきである。
【0040】
実施例1、2および3は、本明細書に記載した新規方法による合成オリゴ糖の製造を例示し、実施例4、5および6は、オリゴ糖の硫酸化方法を例示し、実施例7は、抗脈管形成剤、抗転移剤および/または抗炎症剤としての硫酸化オリゴ糖の使用を例示する(実施例1および2では、「ND」は、「測定されていない」ことを表す)。
【実施例】
【0041】
実施例1
以下の方法でマンノースのオリゴ糖を得た:1,2,3,4−テトラ−O−アセチルマンノース(31)(15.0g、43mmol)および塩化亜鉛(1.5g)をテトラメチレン−スルホン(7ml)中で完全に混合し、この混合物を、約110℃で6時間、撹拌しつつ、減圧下で加熱した;この時、該反応マスは、固まり、蒸気(酢酸)発生が止んだ。反応時間の間、反応容器と真空源との間にソーダ石灰管を配置した。該反応混合物を冷却し、生成混合物の一部(11.0g)を乾燥ピリジン(20ml)に溶解し、この溶液に無水酢酸(2ml)を添加し、この混合物を大気水分から保護し、約50℃で撹拌しつつ2時間加熱した。冷却後、エタノール(10ml)を添加し、混合物を2時間放置した。ピリジン、エタノールおよび形成されたいずれの酢酸エチルも減圧下で蒸発させ、残留物を水で十分に洗浄して、塩化亜鉛、テトラメチレンスルホンおよびピリジンを除去した。残留物をジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。まず該ジクロロメタン溶液をシリカゲル60(130g)の短いカラム(4×40cm)に添加し、まずクロロホルムで溶離し、次いで、アセトンで溶離することによって、誘導体化されたオリゴ糖を2つのフラクションに分離した。クロロホルムでの溶離により、完全にアセチル化された単糖およびマンノース3〜5単位を含有するオリゴマーの混合物(混合物A)が得られた。次のアセトンでの溶離により、分子当たり6ないし12までのマンノース単位を主に含有する完全にO−アセチル化されたオリゴマーの混合物(混合物B)が得られた。
【0042】
混合物A(4g)を、tlc用シリカゲル(H)を充填したカラム(3.3×135cm)に添加した。該カラムを、1:5で開始し、最終比1:1が達成されるまでアセトンのパーセンテージを増加させるアセトン/石油エーテル(沸点60−80°)勾配液で溶離した。流速は、≦0.5ml/分であった。適切なフラクション(シリカゲルtlc分析によって決定された)を回収しプールし、減圧下で溶媒を除去することによって、以下のとおり、完全にO−アセチル化されたマンノースオリゴ糖1a−1dを得た(n=マンノース残基数;収率,分子回転(c=2,CHCl)):1a,(3;0.7g,4.2%,[α]27=+ND);1b,(4;4.1g,8.4%,[α]27=+50);1c,(5;1.2g,7.9%,[α]27=+47.3);1d,(6;0.8g,5.2%,[α]27=+36.0)。混合物B(7.0g)を、溶離勾配液が4:5のアセトン/石油エーテル(沸点60−80°)で開始し、アセトンのパーセンテージを100%まで増加させること以外は、混合物Aと同様の方法でクロマトグラフィーに付した。この方法で、以下のとおり、完全にO−アセチル化したマンノースオリゴ糖1d−1jを得た(n=マンノース残基数;収率,分子回転(c=1,CHCl)):1d,(6;1.6g,10.4%,[α]27=+ND);1e,(7;3.2g,21.2%,[α]27=+50.0);1f,(8;0.5g,3.4%,[α]27=+47.0);1g,(9;0.7g,4.7%,[α]27=+59);1h,(10;0.9g,5.7%,[α]27=+54);1i,(11;0.02g,0.1%,[α]27=+ND);1j,(12;0.03g,0.2%,[α]27=+ND)。
【0043】
化合物1a(1.55g)を乾燥メタノール(40ml)に溶解させ、室温で撹拌しつつ、1Mメタノール性ナトリウムメトキシド(8.6ml)を添加した。得られた沈殿物を濾去し、メタノールで完全に洗浄し、乾燥させた。生成物(2a;0.61g,70%[α]27=+72°)を、元素分析(CHN値は、予想の±0.4%であった)、エレクトロスプレイマススペクトロメトリー(M504)およびnmr分光分析法によってマンノトリオースと同定した。オリゴマー1b−1jを同様に処理して、以下のマンノースオリゴ糖を得た(n=マンノース残基数;アセチル化誘導体からの収率%,分子回転(c=1,HO)):2b,(4;75%,[α]27=+78°);2c,(5;85%,[α]27=+80°);2d,(6;98%,[α]27=84°);2e,(7;98%,[α]27=86.3°);2f,(8;99%,[α]27=+98.0°);2g,(9;99%,[α]27=+106°);2h,(10;99%,[α]27=+100°);2i,(11;98%[α]27=ND);2j,(12;98%,[α]27=ND)。
【0044】
別法として、ゲル濾過(サイズ排除)クロマトグラフィーによって、これらのマンノースオリゴ糖を単離することができる。かくして、前記と同様に約110℃で6時間、減圧下で、テトラメチレン−スルホン(7ml)中での1,2,3,4−テトラ−O−アセチルマンノース(15.0g、43mmol)および塩化亜鉛(1.5g)の完全撹拌混合物を加熱することによって、アセチル化マンノースオリゴ糖の混合物を得た。該反応混合物を冷却し、水(50ml)を添加し、反応混合物を室温で5分間撹拌し、水層を廃棄した。この洗浄工程を繰り返し、次いで、該マスをクロロホルムに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、減圧下、クロロホルムを除去して、粗製アセチル化オリゴ糖混合物(11.3g)を得た。この混合物をイソプロパノール(20ml)およびメタノール(60ml)に溶解させ、次いで、メタノール中1Mナトリウムメトキシド(8ml)を添加し、該混合物を室温で1時間放置した。得られた沈殿物を濾去し、メタノール(30ml)で2回洗浄した。乾燥後、この生成混合物(6.5g)を、60℃で2日間水を流す(流速0.5ml/分)ことによって安定化させたファイン用P2ゲル(バイオラッド(BioRad))ゲル濾過カラム(ジャケット付;5×90cm)の上部に添加した。該カラムを流速0.5ml/分で水で溶離した。該カラムから溶出する生成物を示差屈折計によりピークと同定し、したがって、フラクションを回収した。この方法で、11個の別々のピーク下面積に対応するフラクションを回収した。これらのフラクションの各々を、60℃に維持した同一のP2ゲルカラムで再クロマトグラフィーに付し、流速0.5ml/分で水で溶離した。かくして、例えば、第1のゲル濾過操作からのマンノペンタオース(0.9g)に対応すると同定されたフラクションを再クロマトグラフィーに付して、いずれかの側に1つの肩を有する主要中心ピークを得た。中心ピークにおいて溶出する生成物を、減圧下で水を除去して物質(0.5g)を得、これを流速0.3ml/分で60℃の同一P2ゲルカラムで再度再クロマトグラフィーに付すことによって、単離した。この方法で、前記2cと同一のマンノペンタオース(0.3g)を得た。測定値:C,38.4;H,6.7;C305226.6HOの理論値:C,38.5;H,6.8%。窒素の値は、測定値0%および理論値0%であった。
【0045】
該化合物は、HPLCによって実質的に純粋であることが判明した。これは、以下に記載のディオネックス(Dionex)HPLCシステムで決定した。
【0046】
カラム: コード−CPMA1#1291(+ガード#1172)。第4級アンモニウムイオン交換カラム。
検出器: 電気化学検出器(ED40:IAMP)。
流速: 1ml/分。
溶媒: 溶液A: 0.1M NaOH
溶液B: 0.1M NaOH中1Mアセテート。
勾配液: 時間(分) %A %B 作用
0 95 5 溶離
20 90 10 溶離
25 0 100 溶離/洗浄
30 0 100 溶離/洗浄
【0047】
エレクトロスプレイマススペクトロメトリーは、この化合物が、マンノペンタオースの正しい分子量、質量M828を有することを示した。同様の方法で、前記2a、2b、2dおよび2eと同一のマンノトリオース、マンノテトラオース、マンノヘキサオースおよびマンノヘプタオースを単離した。
【0048】
実施例2
この実施例は、実施例1よりも低い温度で重合反応を行う効果を示す。重合反応が90℃で8時間行われた以外は、前記実施例1で概略記載した方法によって生成されたマンノースオリゴ糖についてと同様の方法で、1,2,3,4−テトラ−O−アセチルグルコースの重合化によって、グルコースのオリゴ糖を得た。該反応混合物を実施例1におけると同様に処理し、該生成物を、カラム(7cm×155cm)にtlc用シリカゲル(H)を充填したカラムクロマトグラフィーに付すことによって単離した。実施例1に記載のものと同様の溶離方法を用いて、以下のとおり、完全にO−アセチル化したグルコースオリゴ糖3a−3eを得た(n=グルコース残基数;収率,分子回転(c=2,CHCl)):3a,(3;4.14g,24.9%,[α]27=+37.5°);3b,(4;2.92g,18.4%,[α]27=+44°);3c,(5;2.99g,19.1%,[α]27=+37.5°);3d,(6;1.37g,8.9%,[α]27=+36°);3e,(7;0.18g,1.2%,[α]27=+39°)。
【0049】
化合物3a(1.0g)を乾燥メタノール(30ml)に溶解させ、室温で撹拌しつつ、1Mメタノール性ナトリウムメトキシド(5.5ml)を添加した。得られた沈殿物を濾去し、メタノールで完全に洗浄し、乾燥させた。生成物(4a;[α]27=68.5°)を、元素分析、エレクトロスプレイマススペクトロメトリー(M=504)およびnmr分光分析法によりグルコトリオースと同定した。オリゴマー4b−4eを同様に処理して、以下のグルコースオリゴ糖を得た(n=グルコース残基数;収率%,分子回転(c=2,HO)):4b,(4;85%,[α]27=+83°);4c,(5;90%,[α]27=+84°);4d,(6;90%,[α]27=+86°);4e,(7;89%,[α]27=+92.5°)。
【0050】
別法として、ゲル濾過(サイズ排除)クロマトグラフィーによって、これらのグルコースオリゴ糖を単離することができる。かくして、前記と同様に約110℃で6時間、減圧下、テトラメチレン−スルホン(7ml)中で1,2,3,4−テトラ−O−アセチルグルコース(15.0g、43mmol)および塩化亜鉛(1.5g)の完全撹拌混合物を加熱した後に、アセチル化グルコースオリゴ糖の混合物を得た。該反応マスをジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下、ジクロロメタンを除去し、生成物を計量し、イソプロパノール(20ml)およびメタノール(60ml)に溶解させ、次いで、メタノール中1Mナトリウムメトキシド(9ml)を添加し、該混合物を室温で1時間放置した。得られた沈殿物を濾去し、メタノール(30ml)で2回洗浄した。この混合物の一部(7.6g)を水(10ml)に溶解させ、ファイン用P2サイズ排除ゲル(バイオラッド(BioRad))を充填した5×90cmウォータージャケット付クロマトグラフィーカラムに添加した。該カラムには、使用前2日間、充填し、予備加熱し、60℃で流した。グルコースオリゴ糖の混合物の添加後、カラムを60℃で維持し、水(1ml/分)で溶離した。カラムから溶出する生成物を、示差屈折計によりピークと同定し、したがって、フラクションを回収した。この方法で、10個の別々のピーク下面積に対応するフラクションを回収した。これらのフラクションの各々を、60℃の同一P2ゲルカラムで再クロマトグラフィーに付し、流速0.5ml/分で水で溶離した。かくして、例えば、グルコペンタオース(0.59g)に対応すると同定されたフラクションを再クロマトグラフィーに付して、いずれかの側に1つの肩を有する主要中心ピークを得た。中心ピークにおいて溶出する生成物を、減圧下で水を除去して物質(0.3g)を得、これを流速0.3ml/分で60℃の同一P2ゲルカラムで再度再クロマトグラフィーに付すことによって、単離した。この方法で、前記4cと同一のグルコペンタオース(0.2g)を得た。同様の方法で、前記4a、4b、4dおよび4eと同一のグルコトリオース、グルコテトラオース、グルコヘキサオースおよびグルコヘプタオースを単離した。
【0051】
実施例3
実施例1および2に記載の方法にしたがって、ガラクトース、アルトース、タロース、グロース、イドースおよびアロースを含む他のヘキソース糖のオリゴ糖を得ることができる。
【0052】
例えば、以下の方法でガラクトースのオリゴ糖を得た。1,2,3,4−テトラ−O−アセチルガラクトース(21.0g)および塩化亜鉛(2.1g)をテトラメチレン−スルホン(10ml)中で完全に混合物し、この混合物を、約90℃で17時間、撹拌しつつ減圧下で加熱した;この時、該反応マスは、固まり、蒸気(酢酸)発生が止んだ。反応時間の間、反応容器と真空源との間にソーダ石灰管を配置した。該反応混合物を冷却し、次いで、該反応マスをジクロロメタンに溶解させ、水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。減圧下、ジクロロメタンを除去し、生成物を計量し、イソプロパノール(30ml)およびメタノール(70ml)に溶解させ、次いで、メタノール中1Mナトリウムメトキシド(10ml)を添加し、該混合物を室温で1時間放置した。得られた沈殿物を濾去し、メタノール(30ml)で2回洗浄した。この混合物を、前記実施例1および2におけるマンノースおよびグルコースポリマーについてと同様にゲル濾過クロマトグラフィーに付すことによって分離した。カラムから溶出する生成物を、示差屈折計によりピークと同定し、したがって、フラクションを回収した。この方法で8つのフラクションを回収した。これらのフラクションのうち7つを、60℃の同一P2ゲルカラムで2回再クロマトグラフィーに付し、最初の操作の間は流速0.5ml/分で、次の操作では0.3ml/分で水で溶離した。この方法で、以下のガラクトースオリゴ糖を得た:ガラクトトリオース,1.03g,5.3%;ガラクトテトラオース,1.15g,6.0%;ガラクトペンタオース,1.21g,6.3%;ガラクトヘキサオース,4.26g,22.1%;ガラクトヘプタオース,2.11g,11%;ガラクトオクタオース,1.91g,9.9%およびガラクトノナオース,0.08g,0.4%。
【0053】
実施例4
80℃の新しく蒸留したDMF(1ml)中の三酸化硫黄−ピリジン複合体(0.8g)(アルドリッチ(Aldrich))の溶液に乾燥ピリジン(3ml)中のマンノペンタオース(2c)(0.1g)の溶液を滴下し、全体を80℃でさらに90分間加熱した。上清を加温しつつデカントし、粘性のある残留物をメタノール(2ml)で3回完全に洗浄した。残存メタノールをデカントした後、該生成物を水(5ml)に溶解させ、強く撹拌しつつ酢酸バリウム(水2ml中約0.4g)で中和した(pH約6に)。遠心分離(3,000×g)した後、上層の液体をデカントし、保留し、沈殿した硫酸バリウムペレットを水(3×10ml)で完全に洗浄した。保留した上層の液体および洗液を合わせ、ダウエックス(DOWEX)50W−X8−400陽イオン交換樹脂(H形)のカラム(1.0×14cm)に入れた。該カラムを、溶出液が中性になるまで水で溶離した。溶出液(約50ml)を撹拌し、酢酸ナトリウム(0.7g)で中和した(pH約7に)。該溶液をアセトン(200ml)で希釈し、遠心分離(1,750×g)して、生成物を分離した。該ペレットを、メタノール下で破砕することによって微細に粉砕し、次いで、メタノール下のまま撹拌し、次いで、濾去した。固体をメタノールで数回洗浄して、純粋な(無機塩不含)化合物(0.2g;66%)を得た。該生成物には、バリウムイオン(微量分析およびフレームイオン化による)および窒素(微量分析)は混入していなかった。
【0054】
硫酸化マンノペンタオース生成物は、硫酸化される可能な17個の位置のうち11個を有することが判明した。測定値:C,14.2;H,3.0;S,14.1;Na,7.3。C30605911Na.36HOの理論値:C,14.1;H,5.2;S,13.8;Na,7.2%。窒素およびバリウムの値は、測定値0%および理論値0%であった。
【0055】
実施例5
乾燥窒素雰囲気下、乾燥DMF(5ml)中の三酸化硫黄−ピリジン複合体(アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company))(4g)の混合物に乾燥ピリジン(10ml)を添加した。この混合物を50℃に加温し、迅速に撹拌しつつ、前記実施例2に記載の方法によって単離されたグルコヘキサオース(4d)(0.5g)を一度に添加した。さらにピリジン(5m)を添加し、次いで、該混合物を、80℃で90分間、連続撹拌しつつ加熱した。次いで、該反応混合物を4℃で一晩維持した。反応容器から液体をデカントし、メタノール(3ml)を添加し、半固体マスを粉砕し、メタノールと完全に混合した。沈殿後、該メタノールをデカントし、この方法を繰り返した。残存する固体に水(5ml)を添加し、得られた溶液を50mlの試験管に入れた。反応容器をさらに水(5ml)で濯ぎ、最初の溶液と合わせた。得られた溶液を40%NaOHでpH約7−8に調節し、次いで、メタノール(40ml)を添加した。得られた濁った溶液を25分間遠心分離し(3,000×g)、透明溶液を沈殿物からデカントした。残存する固体を水(10ml)に再度溶解させ、メタノール(40ml)を添加し、該試験管を前のとおり遠心分離した。透明な上層溶液をデカントした後、固体を水(10ml)に溶解させ、P2ゲル脱塩カラム(2.5cm×250cm;ファイン用P2ゲル − バイオラッド(BioRad))を通して流して、予想される1,6−グルコヘキサオースの硫酸化誘導体のナトリウム塩を得た。
【0056】
実施例6
ヘキソースホモポリマーの合成は、実施例1、2および3に記載されているが、通常、ほとんどのオリゴ糖構造を合成するのは非常に困難である。かくして、より簡単なアプローチは、天然原料から所定の構造のオリゴ糖を硫酸化することである。この実施例で用いた天然生成物オリゴ糖は、2つのクラスのものであった。第1のクラスは、さらなる分解および分別を必要としないオリゴ糖を含有していた。このクラスの例としては、マルトース、ラフィノースおよびスタキオースが挙げられる。第2のクラスは、酵素的または化学的に一部分解され、サイズ分別された天然多糖から得られたオリゴ糖からなっていた。このクラスの例としては、アミロース−、コンドロイチン−およびデキストラン−誘導オリゴ糖ならびに酵母ピキア・ホルスティ(Pichia holstii)由来のマンノペンタオースリン酸が挙げられる。
【0057】
マルトース、ラフィノースおよびスタキオースは、ミズーリ州セント・ルイスのシグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Co)から購入した。マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースは、日本国東京のセイカガク(Seikagaku)から入手し、α1−4結合グルコースホモポリマー、アミロースの制限されたアミラーゼ消化物から精製されたオリゴ糖を表す。コンドロイチン四糖、六糖および八糖は、従前の開示(32)に従ってコンドロイチン−6−硫酸のウシ睾丸ヒアルロニダーゼ消化物のゲル濾過分別によって精製した。シクロヘキサ−、ヘプタ−およびオクタ−アミローズは、シグマ(Sigma)から入手した。これらのオリゴ糖は、実施例5に記載したと同様に硫酸化してもよい。
【0058】
例えば、以下の方法でマルトヘキサオース硫酸を製造した。80℃の新しく蒸留したDMF(5ml)中の三酸化硫黄−ピリジン複合体(4.0g)(アルドリッチ)の溶液に乾燥ピリジン(15ml)中のマルトヘキサオース(0.5g)の溶液を滴下し、全体を80℃でさらに90分間加熱した。上清を加温しつつデカントし、粘性のある残留物をメタノール(10ml)で3回完全に洗浄した。残存メタノールをデカントした後、該生成物を水(15ml)に溶解させ、強く撹拌しつつ酢酸バリウム(水10ml中約2.0g)で中和した(pH約6に)。遠心分離(3,000×g)した後、上層の液体をデカントし、保留し、沈殿した硫酸バリウムペレットを水(3×10ml)で完全に洗浄した。保留した上層の液体および洗液を合わせ、ダウエックス(DOWEX)50W−X8−400陽イオン交換樹脂(H形)のカラム(2.5×14cm)に入れた。該カラムを、溶出液が中性になるまで水で溶離した。溶出液(約250ml)を撹拌し、酢酸ナトリウム(3.5g)で中和した(pH約7に)。該溶液をアセトン(1L)で希釈し、遠心分離(1,750×g)して、生成物を分離した。該ペレットを、メタノール下で破砕することによって微細に粉砕し、次いで、メタノール下のまま撹拌し、次いで、濾去した。濾液をメタノールで数回洗浄して、純粋な(無機塩不含)化合物(0.88g;55%)を得た。該生成物には、バリウムイオン(微量分析およびフレームイオン化による)および窒素(微量分析)は混入していなかった。
【0059】
この生成物は、硫酸化される可能な20個の位置のうち14個を有することが判明した。測定値:C,13.9;H,2.2;S,14.3;Na,6.7%。C36717314Na.45HOの理論値:C,13.8;H,5.1;S,14.3;Na,6.6%。窒素およびバリウムの値は、各々、測定値0.32%および0%ならびにいずれの理論値も0%であった。
【0060】
H NMRデータ(300MHZ − ジェミニ(Gemini)300;TMSからのアセトン2.25ppmダウンフィールドから参照した);前記マルトヘキサオース硫酸について、可能な20個の位置のうち14個が硫酸化されたことを示した。これは、4.15ppm付近に集中した水素の化学シフト(20Hの総和を示す)対4.4ppm付近に集中した水素の化学シフト(16Hの総和を示す))から決定した。主要なOH基のすべて、すなわち、6位のものは、これが最小に立体的妨害される位置であるので、硫酸化されるであろうと仮定することができる。さらに、内部糖残基において、一の他の位置だけが硫酸化されるであろうと仮定される。6位のものに加えて、末端の糖残基は、各々、硫酸化される2つの他の位置を有するであろう。
【0061】
二倍体酵母ピキア・ホルスティ(以前はハンゼヌラ・ホルスティ(Hansenula holstii)であった株NRRL Y−2448)によって生産されたエキソ多糖からマンノペンタオースリン酸を製造した。ピキア・ホルスティの増殖およびマンノペンタオースリン酸の単離の方法は、従前に開示されたもの(33, 34)に基づいた。すなわち、エタノール沈殿法によって、好気性増殖酵母培養液上清から粗製エキソ多糖をカリウム塩として単離した。次いで、酸性加水分解法を用いて、エキソ多糖のホスホマンナンモノエステル核(PPME)からマンノペンタオースリン酸を遊離した。次いで、PPMEおよびマンノペンタオースリン酸を、示差エタノール沈殿法により、次いで、ゲル濾過により、バリウム塩としてお互いに分離した。該オリゴ糖は、P−6−Man−α−(1→3)−Man−α−(1→3)−Man−α−(1→3)−Man−α−(1→2)Manの構造を有する(34)。
【0062】
以下の方法で、酵母のエキソ多糖から単離した酵母マンノペンタオースリン酸の硫酸化物(33, 34)を製造した。DMF(2ml)およびピリジン(3ml)中の酵母マンノペンタオースリン酸(0.09g)の懸濁液をDMF(1ml)中の三酸化硫黄−ピリジン複合体(0.8g)(アルドリッチ)の溶液に添加した。該混合物を80℃で2時間加熱した。上清を加温しつつデカントし、粘性のある残留物をメタノール(2ml)で3回完全に洗浄した。残存メタノールをデカントした後、該生成物を水(5ml)に溶解させ、強く撹拌しつつ、酢酸バリウム(水5ml中約0.7g)で中和した(pH6に)。遠心分離(3,000×g)後、上層の液体をデカントし、沈殿した硫酸バリウムペレットを水(3×10ml)で完全に洗浄した。上層の液体および洗液を合わせ、ダウエックス(DOWEX)50W−X8−400陽イオン交換樹脂(H形)のカラム(2.5×14cm)に入れた。該カラムを、溶出液が中性になるまで水で溶離した。溶出液(約50ml)を撹拌し、酢酸ナトリウム(約0.4g)で中和した(pH7に)。該溶液をアセトン(150ml)で希釈し、遠心分離(1,750×g)して、生成物を分離した。ペレットをメタノール下で粉砕することによって微細に粉砕し、メタノール下のまま撹拌し、次いで、濾去した。固体をメタノールで数回洗浄して、硫酸化酵母マンノペンタオースリン酸(0.18g)を得た。該生成物には、バリウムイオン(微量分析およびフレームイオン化によって決定した)および窒素(微量分析)は混入していなかった。
【0063】
この生成物は、硫酸化される可能な16個の位置のうち10個を有することが判明した。測定値:C,15.35;H,2.7;P,1.2;S,13.7;Na,8.5%;C304159PS10Na.25HOの理論値:C,15.3;H,3.5;P,1.3;S,13.6;Na,8.8%。窒素およびバリウムの値は、各々、0.16%および0%であり、各理論値は0%であった。
【0064】
デキストラン(平均MW71,000;シグマ・ケミカル・カンパニー)の酸性加水分解によって、1,6−α−グルコースオリゴ糖を製造した。かくして、デキストラン(5g)を蒸留水(100ml)に溶解させ、この溶液を1M塩酸でpH1.8に調節した。該混合物を48時間還流した(100℃)。該混合物を減圧下で乾燥させ、蒸留水で100mlに調製し、減圧下、再度乾燥させた。残留物に無水エタノール(100ml)を添加し、減圧下、蒸発させた。残留物を蒸留水で4mlに調製し、ファイン用P2サイズ排除ゲル(バイオラッド)を充填した5×90cmウォータージャケット付クロマトグラフィーカラムに添加した。該カラムは、使用前2日間、充填し、予備加熱し、60℃で流した。1,6−α−グルコースオリゴ糖の混合物の添加後、該カラムを60℃に維持し、水(1ml/分)で溶離した。カラムから溶出する生成物を、示差屈折計によってピークと同定し、したがって、フラクションを回収した。この方法で、別々のピーク下面積に対応するフラクションを回収した。これらのフラクションの各々を60℃にて同一P2ゲルカラムで再クロマトグラフィーに付し、流速0.5ml/分で水で溶離した。かくして、例えば、1,6−α−グルコヘキサオース(0.19g)に対応すると同定されたフラクションを再クロマトグラフィーに付して、いずれかの側に1つの肩を有する主要中心ピークを得た。中心ピークにおいて溶出する生成物を、減圧下で水を除去して物質(0.5g)を得、これを流速0.3ml/分で60℃にて同一P2ゲルカラムで再度再クロマトグラフィーに付すことによって、単離した。この方法で、グルコヘキサオース(0.14g)を得た(エレクトロスプレイM=990)。同様の方法で、1,6−α−グルコトリオース、1,6−α−グルコテトラオース(0.21g)および1,6−α−グルコペンタオース(0.17g)を単離した。
【0065】
実施例7
A.物質および方法
硫酸化オリゴ糖の抗凝固活性
従前に開示された(35)と同様に、トロンビン時間法および活性化部分トロンボプラスチン時間法の両方を用いて、各硫酸化オリゴ糖の抗凝固活性を評価した。各調製物の活性を、ヘパリン対照と比較し、抗凝固活性は、ヘパリン活性のパーセンテージで表した。
【0066】
ヒト脈管形成アッセイ
用いたアッセイ法は、国際特許出願番号PCT/AU95/00105に開示されている(その記載内容は、引用して本明細書の記載とする)。生後6時間以内のヒト胎盤の表面から直径約1〜2mmおよび長さ2〜5cmの血管を切除した。該血管を2.5mg/mlのフンギゾンを含有するハンクスBSS中に置き、微細な切開用鉗子および虹彩切除用鋏を用いて、1〜2mmの長さの断片に切断した。血管断片から残存血餅を取り除き、使用前にハンクスBSSに浸漬した。血管の切開および分断は、拡大鏡ランプ(オーストラリア、ニューサウスウェールズ、バルメイン、ニューバウンドのマギーランプ(Maggylamp))の助けを借りて行った。細静脈および動脈由来の血管から同様の脈管形成応答が得られたが、各アッセイについて、1つの血管のみからの血管断片を用いた。
【0067】
脈管形成アッセイを24または48ウエル培養プレート(マサチューセッツ州ケンブリッジのコスター(Costar))中で行った。24ウエルフォーマットにおいて、各ウエルにウシトロンビン(0.15M NaCl中50NIH単位/ml;ミズーリ州セントルイスのシグマ・ケミカル・カンパニー)30μlを添加し、次いで、Medium 199中3mg/mlのウシフィブリノーゲン(シグマ)を1.0ml/ウエルで添加した。トロンビンおよびフィブリノーゲンを迅速に混合し、血餅形成前に1つの血管断片を素早くウエルの中央に置いた。通常、30秒以内にフィブリンゲル形成が生じ、血管断片を該ゲル中に浮遊させたままにした。ゲル形成後、20%ウシ胎児血清(FCS)、ε−アミノカプロン酸0.2mg、L−グルタミンおよび抗生物質(ゲンタマイシンおよびフンガゾン)で補足したMedium 199を1.0ml/ウエルで添加した。48ウエルフォーマットにおいては、全ての試薬容量を半分にした。培地を2週間毎に替えつつ、14〜21日間、加湿環境中、37℃で血管を培養した。脈管形成を、倒立顕微鏡(日本国東京のオリンパス(Olympus))に設置したダイカム(Dycam)デジタルカメラで得られた培養物のデジタル画像の、NIHイメージソフトウエアを用いるコンピューターによる画像分析によって定量化した。
【0068】
ヘパラナーゼアッセイ
ヘパラナーゼアッセイは、血清タンパク質であるヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)がヘパラン硫酸鎖に結合し、ヘパラナーゼ切断部位を遮蔽するという観察結果に基づく。ヘパラナーゼ切断ヘパラン硫酸がHRGに結合しないという発見に基づいて、H標識ヘパラン硫酸鎖をヘパラナーゼで消化し、消化されたヘパラン硫酸をHRG結合ビーズに結合させ、未結合H標識を測定することを含むヘパラナーゼアッセイが開発された。基質の消化が増大するにしたがって、HRGビーズに結合しないH標識の量も増加する。かくして、この方法は、組織抽出物中のヘパラナーゼ活性を測定し、種々の化合物によるヘパラナーゼ阻害を評価するための簡単かつ迅速な方法である。
【0069】
まず、ウシ腸ヘパラン硫酸(Mr平均32kDa)をヒドラジン水和物(36)中で加熱することによって部分的に脱N−アセチルし、H−無水酢酸で再アセチル化した。Rylattら(1981)(37)の方法によって精製したニワトリHRGを製造者の指示に従ってCNBr活性化セファロース(Sepharose)4B(ファルマシア(Pharmacia))に結合させた。
【0070】
精製したヒト血小板ヘパラナーゼ(非常に転移性のある培養ヒト癌腫HCT 116、ラット腺癌13762 MATおよびマウス黒色腫B16細胞株中に存在するヘパラナーゼ活性とヘパラン硫酸に対して同一活性を有することを示した)を60ピコモルのH−放射性標識ウシ腸ヘパラン硫酸と一緒にインキュベートすることによって(37℃、30分)、ヒト血小板ヘパラナーゼ活性を決定した。活性は、大きな切断されない基質および部分的に切断された基質を保持したHRG−セファロースミニカラム(ビーズを充填した200μl)を介してインキュベーション混合物(100μl)が通過した後に結合しなかった小さな(約5kDa)ヘパラン硫酸断片の生産率によって決定した。
【0071】
ヘパラナーゼ−阻害アッセイでは、放射性標識基質の添加前に酵素に種々の濃度の阻害剤を添加した。該阻害剤は、インキュベーション期間の間、反応混合物中に保持されている。
【0072】
転移アッセイ
種々の硫酸化オリゴ糖の抗転移活性は、非常に転移性のあるラット乳腺癌13762 MAT(35)を用いて評価した。腫瘍細胞は、従前に開示された(35)と同様にイン・ビトロで維持した。雌性フィッシャー(Fisher)344ラット(10〜13週齢)に10%FCSを含有するRPMI 1640培地0.6ml中の2×10個の13762 MAT細胞を静脈内注射した。腫瘍細胞注射時に、動物に硫酸化オリゴ糖2mgも注射し、オリゴ糖を静脈内、腹腔内または皮下注射した場合に同様の結果が得られた。腫瘍細胞注射後13日目にラットから肺を取り出し、少なくとも24時間、ブアン(Bouin)溶液中に置き、次いで、解剖顕微鏡下で肺転移を評価した。硫酸化オリゴ糖処置ラットにおける肺転移の数を、対照動物において観察されたものと比較した。ここで、少なくとも4匹の動物が各グループに含まれる。
【0073】
FGF−ヘパリン/ヘパラン硫酸化相互作用に対する硫酸化オリゴ糖の効果
ほかに詳細に開示されている(38)結合アッセイを用いて、aFGFおよびbFGFのヘパリンへの結合を測定し、種々の硫酸化オリゴ糖のこの相互作用を阻害する能力を評価した。すなわち、FGFを96ウエルPVCプレートのウエル中に固定化し、放射性標識ヘパリンの固定されたFGFへの結合を評価した。阻害アッセイでは、硫酸化オリゴ糖の段階希釈液を、それらのFGF−ヘパリン相互作用を阻害する能力について試験した。阻害結果は、固定したFGFへのヘパリン結合を20%または50%阻害するのに必要とされる硫酸化オリゴ糖の濃度として表した。非標識ヘパリンは、全ての結合阻害試験において対照として含んだ。
【0074】
BALB/c 3T3線維芽細胞のPVC固定化FGFへの結合を測定することによって、以前に報告されたように(39)、FGF−ヘパラン硫酸相互作用を評価した。細胞結合は、付着細胞のローズ・ベンガル染色によって検出した。硫酸化オリゴ糖を、全体としてBALB/c 3T3細胞の表面のヘパラン硫酸構造に依存する(39)、それらのこの細胞付着プロセスを阻害する能力について試験した。データは、細胞付着を50%阻害した硫酸化オリゴ糖の濃度(IC50)として表した。
【0075】
空気嚢(air pouch)炎症モデル
該アッセイは、従前に報告された方法(40)に基づく。1日目に麻酔したマウスの肩甲骨の間の剃毛領域の皮膚の下に無菌空気5mlを注入することによって、マウスの背中に皮下空気嚢を形成した。3日目に、該空気嚢を空気2.5mlの注入によって再度膨張させた。56mg/mlのチオグリコラート1.0mlまたは対照として生理食塩水1.0mlを空気嚢中に直接注入することによって、6日目に炎症を誘発した。チオグリコラート注入の約17−20時間後、動物を頸部脱臼により殺し、空気嚢の細胞性内容物を氷冷PBS/5%FCS 2.5mlの注射によって回収した。硫酸化オリゴ糖を、チオグリコラートの投与直後に離れた部位において皮下注射(PBS中50μl)することによって、それらの炎症反応を阻害する能力について試験した。対照抗炎症薬としてプレドニゾロンを用い、25mg/kgで油中で皮下注射した。各空気嚢の全細胞性内容物を、コールターカウンターを用いて決定し、免疫蛍光フローサイトメトリーによって種々の白血球サブポピュレーションを評価した。
【0076】
マウス喘息モデル
従前に報告されたマウスの喘息モデル(41)を用いて、硫酸化オリゴ糖の、肺へのエアロアレルギン(オバルブミン、OVA)誘発好酸球浸潤を阻害する能力を試験した。マウス(C57BL/6、6−10週齢)を、0日目および12日目に0.9%無菌生理食塩水中のOVA 50mg/アルヒドロゲル(Alhydrogel)(オーストラリア、パークヴィルのシーエスエル・リミテッド(CSL Ltd))1mgを腹腔内注射することによって感作した。24日目に、該マウスを0.9%生理食塩水中のOVA(10mg/ml)のエアロゾルに30分間3回(1時間毎)暴露し、次いで、26日目および28日目に同様の抗原投与に暴露した。エアロゾルは、密閉したチャンバー800cm中に、平均粒径39μmを生成するネブライザーによって6リッル/分で生じさせた。29日目に、マウスを頸部脱臼によって殺した。気管にカニューレ挿入し、気道管腔を、37℃のBSA(0.1%wt/vol)を含有する0.9%生理食塩水1mlで4回洗浄した。注入した流体約0.8mlを洗浄毎に回収した。1匹の動物から得られた気管支肺胞洗浄液(BALF)をプールし、標準的な血球計算板を用いて細胞数を決定した。BALF細胞を細胞遠心分離にかけ、メイ−ギュルンワルド−ギムザ(May−Grunwald−Giemsa)溶液で別々に染色し、好酸球を形態学的基準を用いて同定した。データは、BALFのml当たりの好酸球の数として算出した。硫酸化オリゴ糖を動物に、腹腔内に挿入したアルツェット(Alzet)ミニ浸透圧ポンプ(miniosmotic pump)によるかまたはエアロゾルとして肺を介して全身に投与した。23日目にOVA抗原投与の24時間前にミニ浸透圧ポンプを挿入し、29日目に動物を殺すまで、薬物を断続的に送達した。エアロゾルデリバリーの場合、23日目、25日目および27日目に、マウスを、0.9%生理食塩水中硫酸化オリゴ糖のエアロゾルに30分間3回(1時間毎)暴露した。
【0077】
実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)モデル
従前に開示された(43)と同様に、EAEの養子移入のために脾臓細胞を調製した。すなわち、ルイス(Lewis)ラットをミエリン塩基性タンパク質に感作させ、免疫脾臓細胞をイン・ビトロでConAにより活性化し、30×10個のConA活性化EAEエフェクター細胞を各レシピエントに静脈内移入させる。硫酸化オリゴ糖を収容しているミニ浸透圧ポンプ(アルツェット)を細胞移入時に皮下移植し、14日間70mg/kg/日の投与量で送達させた。臨床EAEは、以下のスキームに従って等級付けた:0、無症候性;1、尾の末梢部半分の弛緩;2、尾全体の弛緩;3、運動失調、直立の困難さ;4、後ろ足の虚弱;および5、後ろ足の麻痺。
【0078】
炎症性大腸疾患モデル
スウェーデン、ウプサラのティディビー・コンサルタンシー(TdB Consultancy)によって供給された5%(w/v)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で飲料水を補足することによって、マウスにおいて炎症性大腸疾患を誘発した。該溶液をpH8.0に調節し、0.45μ中膜を介して濾過した。DSS溶液を毎日回収し、再濾過し、新しいDSS保存液で容量を調節した。6−7週齢の雄性BALB/cマウスを体重によってふるい分けし、20−23gのマウスをマウス5匹/カゴでカゴの中にグループ分けした。
【0079】
0日目から10日目まで8時間おきにマウスに硫酸化マンノペンタオースリン酸(20mg/kg/日)またはビヒクル(無菌水)を注射した。注射容量は、100μlに標準化し、首筋に皮下注射した。
【0080】
全てのマウスについてDSS消費率、体重および症状を毎日評価した。下痢および直腸出血症状は、軽いまたはひどいと評価し、各々、1および4の数値を与えた。粘液の存在も記され、軽い下痢スコアとして含まれる。次いで、下痢および直腸出血スコアをその日のそのグループにおける生存動物数で割る。総スコアは、下痢および直腸出血の両方のスコアの合計である。
【0081】
B.結果
硫酸化天然オリゴ糖の抗脈管形成活性および抗転移活性
一連の硫酸化天然オリゴ糖を合成するやいなや、それらを一連の生物学的アッセイにおいて試験した。表1には、12個の天然オリゴ糖の硫酸化形について得られた結果をまとめる。スラミン(適度な抗脈管形成活性およびヘパラナーゼ阻害活性を有する化合物)(42)およびヘパリンの生物学的活性もまた、比較のために表1に含ませた。
【0082】
まず、全ての試験された硫酸化オリゴ糖は、ごくわずかな抗凝固活性、すなわち、ヘパリンの活性の<2%しか有しなかった(表1)。強力な抗転移化合物であるヘパリンはその強い抗凝固活性のためにこの適応症について制限された臨床的利用性を有するので、これは重要な特性である。
【0083】
硫酸化天然オリゴ糖のうちの3つは、ヒト脈管形成の非常に強力な阻害剤であった;すなわち、硫酸化マンノペンタオースリン酸(ピキア・ホルスティ由来)、マルトテトラオース硫酸およびマルトヘキサオース硫酸。マンノペンタオースリン酸およびマルトヘキサオースは、2μg/mlの50%阻害濃度を有するこれらの化合物のうち最も強力であり、一方、マルトテトラオースは、20μg/mlで50%阻害を与えた。20μg/mlのマルトヘキサオース硫酸によって誘発された明白な脈管形成阻害の例を図1に示す。ヘパリンがあまり抗脈管形成活性を有しないことに注目するのは、関心のあることである。かくして、同様に、比較的短い鎖長の硫酸化オリゴ糖がこのタイプの活性のために必要とされることは、明らかなことである。マルトースシリーズによる脈管形成阻害のより完全な力価測定を図2に示し、図3において硫酸化マンノペンタオースリン酸によるものを示す。マルトースシリーズについて、マルトース硫酸化はあまり阻害活性を有しなかったが、マルトテトラオースおよびマルトヘキサオース硫酸は非常に強力な阻害剤であったことを示すことができる(図2)。
【0084】
表1に示される脈管形成実験の全ては、脈管形成アッセイの開始時の培養培地へのオリゴ糖の添加を含んだ。しかしながら、予備研究(データは、示さない)は、マルトヘキサオース硫酸の添加は、脈管形成応答の開始後、さらに血管成長を阻害することもできるが、該化合物が培養開始時に添加される場合に最も有効な阻害が生じることを示す。
【0085】
硫酸化オリゴ糖は、それらのヘパラナーゼ阻害活性において著しく異なり、最も強力な阻害剤は、硫酸化マンノペンタオースリン酸およびマルトヘキサオース硫酸であり、これら2つの化合物の活性は、ヘパリンのものに似ている(表1)。おもしろいことには、これら2つの化合物は、有効な抗脈管形成化合物でもある。しかしながら、脈管形成阻害は、多くの化合物のヘパラナーゼ阻害活性と相互に関係しなかった。例えば、硫酸化シクロアミロースは、非常に強力なヘパラナーゼ阻害剤であったが、不充分な脈管形成阻害剤であった。マルトースシリーズはまた、鎖長およびヘパラナーゼ阻害に関して非常に情報価値があった。表3は、二糖(マルトース)から七糖(マルトヘプタオース)までの範囲の完全なマルトースシリーズについてのヘパラナーゼ阻害活性を表す。マルトースは、非阻害性であり、マルトトリオースは、弱い阻害性であり、マルトテトラオースは、適度な阻害活性を示したが、五糖、六糖および七糖は、高い阻害活性を示した。かくして、硫酸化五糖またはそれ以上の糖は、至適なヘパラナーゼ阻害のために必要とされる。
【0086】
硫酸化糖の多くは、抗転移活性についてイン・ビボでも試験された(表1)。一般に、ヘパラナーゼ阻害および抗転移活性の間に適度に良好な相互関係がある。かくして、最も高いヘパラナーゼ阻害活性を有する2つの化合物である硫酸化マンノペンタオースリン酸およびマルトヘキサオース硫酸は、最も大きな抗転移活性を示し、実際、それらは、転移を予防する能力においてヘパリンと有意には異ならない(表1)。2つの別の化合物であるシクロオクタ−アミロース硫酸およびスタキオース硫酸もまた、適度に有効な抗転移剤であり、特性は、それらの適度なヘパラナーゼ阻害活性と一致する。ひとまとめにして、これらのデータは、硫酸化マンノペンタオースリン酸およびマルトヘキサオース硫酸が同時に相当な抗脈管形成活性、抗転移活性およびヘパラナーゼ阻害活性を有することを示唆する。
【0087】
硫酸化オリゴ糖のマルトースシリーズの抗転移活性は、図4に非常に詳細に示される。鎖長が増加するにしたがってオリゴ糖の抗転移活性は確実に増加し、五糖、六糖および七糖が最も活性であった。2mg/ラットの投与量で静脈内投与した場合、マルトース硫酸は、転移に対して全く効果がなかったが(図4A)、4mg/ラットで皮下投与した場合、有意な転移阻害が観察された(図4B)。次の実験では、注射の経路(すなわち、静脈内、皮下または腹腔内)に関係なく、硫酸化オリゴ糖が同程度の抗転移活性を示したことが明らかになった(データは、示さない)。実際、マルトース硫酸の抗転移活性は、高投与量を動物に投与した場合にのみ観察された。マルトース硫酸は、非常に弱いヘパラナーゼ阻害剤であるので、この結果は、特に、オリゴ糖の高投与量を用いる場合、ヘパラナーゼ阻害が、硫酸化オリゴ糖が腫瘍転移を阻害する唯一の方法ではないことを示唆する。
【0088】
シクロアミロースは、それらが非線形オリゴ糖を表すので、硫酸化され、該研究に含まれる。これらの化合物が適度に活性なだけであったことに注目するのは、関心のあることであり(表1)、線形オリゴ糖が至適な活性のために必要とされることを意味する。さらにまた、最も活性な硫酸化オリゴ糖は、抗脈管形成化合物として現在臨床試験を受けている薬物であるスラミン(42)よりも非常に有効な、脈管形成、転移およびヘパラナーゼ活性の阻害剤であった(表1)。
【0089】
該化合物の抗脈管形成活性は、それらのヘパラナーゼ阻害活性と常に直接相互関係するわけではないので、硫酸化オリゴ糖は、いくつかの他のメカニズムにより脈管形成を阻害することができると思われた。前記のとおり、いくつかの硫酸化オリゴ糖は、成長因子−ヘパラン硫酸相互作用を中断させることによって脈管形成成長因子の作用を乱すことができると思われる。従前の分析(国際特許出願番号PCT/AU95/00105を参照)は、この実施例において用いたヒト脈管形成アッセイが内因性bFGFに非常に依存しており、aFGFおよびVEGF作用に対しては低かったことを示した。かくして、種々の硫酸化オリゴ糖は、bFGF、aFGFおよびVEGFのヘパリンまたはヘパラン硫酸との相互作用の競争相手として作用する能力について試験した。
【0090】
鎖長の増加にしたがって、硫酸化オリゴ糖のマルトースシリーズがbFGFおよびaFGFの細胞表面ヘパラン硫酸との相互作用のより有効な阻害剤となったこと(表2)、すなわち、マルトースは弱い阻害性であったが、五糖、六糖および七糖は最も活性であったことが見いだされた。硫酸化マンノペンタオースリン酸は、この系において相当な阻害活性をも示した(表2)。硫酸化オリゴ糖のマルトースシリーズによるaFGF−ヘパラン硫酸相互作用の阻害についての完全な阻害曲線は、図5に示される。さらなる研究は、マルトヘキサオース硫酸が放射性標識ヘパリンのbFGFおよびaFGFへの結合の強力な阻害剤でもあったことを示した(データは、示さない)。
【0091】
マルトヘキサオース硫酸が最も活性な抗脈管形成および抗転移化合物の1つであったので、その生物学的活性に対する硫酸化の程度の影響を幾分詳細に試験した。まず、最も高度に硫酸化されたマルトヘキサオースについて多少の抗凝固活性が検出された場合でさえ、この活性は、ヘパリンと比較した場合に非常に低かったことに注目した(表2)。しかしながら、硫酸化の増大にしたがって、マルトヘキサオースのヘパラナーゼ活性およびヘパラン硫酸へのFGF結合を阻害する能力の安定な増加があった(表2)。しかしながら、阻害活性は、硫酸化が85%以上であった場合に両方の系おいて安定状態に達した。
【0092】
転移阻害研究(図6)は、硫酸化の程度の増加にしたがって、マルトヘキサオース硫酸がより有効な抗転移薬となったことも示した。対照的に、非常に高度に硫酸化されたマルトヘキサオース(硫酸化90−100%)が脈管形成のあまり有効ではない阻害剤であったことが示唆された(図7)。これらのデータは、脈管形成および転移を阻害するために必要とされる至適な硫酸化オリゴ糖構造に微妙な差異があることを示唆する。それにもかかわらず、強力な抗転移活性および抗脈管形成活性を同時に示す、天然オリゴ糖から誘導された多くの硫酸化オリゴ糖が同定された。これらの化合物は、ピキア・ホルスティ由来の硫酸化マンノペンタオースリン酸、ならびにマルトペンタオース硫酸、マルトヘキサオース硫酸およびマルトヘプタオース硫酸である。
【0093】
硫酸化合成オリゴ糖の抗脈管形成活性および抗転移活性
実施例1〜5に記載した硫酸化合成オリゴ糖もまた、それらの生物学的活性について試験した。表3には、マンノース、ガラクトースまたはグルコースを含有する硫酸化合成オリゴ糖の、凝固、ヘパラナーゼ作用および成長因子−ヘパラン硫酸結合を阻害する能力をまとめる。試験された合成硫酸化オリゴ糖の全ては、ごくわずかな抗凝固活性を示した。しかしながら、マンノースおよびグルコースの三糖を除いては、全ての他の硫酸化オリゴ糖は、ヘパラナーゼ活性および成長因子−ヘパラン硫酸結合の適度に有効な阻害剤であった。実際に、全体的な結論は、ヘキソース単位(すなわち、D−マンノース、D−ガラクトースまたはD−グルコース)を4〜6個含有する硫酸化合成オリゴ糖がこれらのアッセイにおいて非常に活性であるということである。例外は、ガラクトースシリーズの他のメンバーと実質的に同程度に活性であったガラクトトリオース硫酸である。
【0094】
ヒト脈管形成アッセイにおいて試験した場合、硫酸化マンノースオリゴ糖は、阻害性があったが、五糖および六糖は、四糖よりも活性であり(図8)、それらの効力において硫酸化マンノペンタオースリン酸と似ている。同様に、硫酸化マンノース四糖、五糖および六糖は、抗転移薬として硫酸化マンノペンタオースリン酸と同程度に有効であった(図9)。ガラクトース含有硫酸化オリゴ糖およびグルコヘキサオース硫酸もまた転移を阻害したが(図10)、それらは、マンノース含有化合物よりもわずかに低い活性の傾向があった。
【0095】
硫酸化オリゴ糖の抗炎症活性
前記したとおり、白血球の炎症部位への侵入に対する重要な障壁は、内皮下の基底膜である。この膜を通過させるために、白血球は、分解酵素のバッテリーを用いなければならない(11)。基底膜関連ヘパラン硫酸鎖を切断し、白血球血管外遊出のために必須であるエンドグリコシダーゼ、ヘパラナーゼは、特に関係のあるものである(12, 13)。実際に、転移阻害研究(35)についてと同様に、ヘパラナーゼ活性を阻害する硫酸化多糖は、炎症の強力な阻害剤である(43, 44)。これらの観察に基づいて、強力な抗脈管形成剤および抗転移剤であった硫酸化オリゴ糖が非常に有効な抗炎症化合物であることは、当業者に予想されるであろう。マルトヘキサオース硫酸およびマンノペンタオース硫酸は、これに関して特に重要なものである。さらにまた、脈管形成は、慢性関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に関連しているので(18)、これらの化合物の抗脈管形成活性は、炎症の治療においてさらに価値あるものである。
【0096】
この予想に味方する証拠は、いくつかの動物炎症モデルにおいて得られた。第1に、マルトヘキサオース硫酸、マンノペンタオース硫酸および硫酸化マンノペンタオースリン酸は、チオグリコラート誘発空気嚢炎症を有意に阻害することができた(表4)。実際に、一の実験では、マンノペンタオース硫酸の単回注射は、自然においては優先的に好中球であった白血球浸潤の阻害時にプレドニゾロンと同程度に有効であったが、マルトヘキサオース硫酸は、幾分低い有効性であった。硫酸化オリゴ糖を6時間おいて2回等しい投与量で注射した場合に、炎症応答のさらに大きな阻害が観察された。
【0097】
第2に、硫酸化オリゴ糖は、慢性喘息のマウスモデルを阻害する能力について試験した。このモデルは、エアロアレルゲン抗原投与によって誘発されたマウスの肺への好酸球の大量の流入によって特徴付けられる(41)。かかる炎症応答は、ヒトにおける慢性喘息の特徴である。ミニ浸透圧ポンプを介して投与されると、マルトヘキサオース硫酸およびマンノペンタオース硫酸は、マウスの肺における好酸球蓄積を有意に阻害した(表5)。マルトヘキサオース硫酸は、また、エアロゾルとして投与されると(40mg/ml溶液)、多少の抗炎症活性を示した。
【0098】
第3に、マンノペンタオース硫酸および硫酸化マンノペンタオースリン酸は、共に、該疾患のラットモデルにおいてEAEを有意に阻害した(表6)。実際に、硫酸化オリゴ糖で処置された数匹の動物は、病徴を発症させなかった。これらのデータは、ヘパラナーゼ活性を阻害する硫酸化多糖がEAEの重篤度を軽減させることができるということを示す初期の研究と一致する(43)。
【0099】
最後に、マンノペンタオースリン酸は、マウスにおける炎症性大腸疾患を阻害する能力について試験した。飲料水中のデキストラン硫酸によって誘発されるこのモデルは、潰瘍性大腸炎およびそれほどではないにせよクローン病に似ている大腸炎を誘発する。20mg/kg/日の硫酸化マンノペンタオースリン酸により、急性大腸炎の顕著な減衰を生じ、該疾患によって生じた体重減少も予防した(表7)。この実験における対照は、硫酸化オリゴ糖注射を受けるが、それらの飲料水中にデキストラン硫酸を含まない。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリゴ糖が一般式I:
−(R)−R (I)
[式中、RおよびRならびに各Rは、ヘキソース単糖単位を表し、その全ては、同一または異なっており、隣接する単糖単位は、1→2、1→3、1→4および/または1→6グリコシド結合によって結合されており、
nは、3〜6の整数であり;
、RおよびRは、リン酸化されていてもよい;
ただし、オリゴ糖は、グルコース1→4グルコース結合残基もしくはグルコース1→3グルコース結合残基を含む化合物またはヘキソース1→2フルクトース結合残基を含む化合物ではない]で示される硫酸化オリゴ糖。
【請求項2】
請求項1記載の少なくとも1つの硫酸化オリゴ糖を医薬的または獣医学的に許容される担体または希釈剤と一緒に含有してなる、抗脈管形成、抗転移および/または抗炎症治療のための医薬組成物または獣医学的組成物。
【請求項3】
ヒトまたは他の温血動物患者の抗脈管形成、抗転移および/または抗炎症治療のための薬物の製造における請求項1記載の少なくとも1つの硫酸化オリゴ糖の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−235085(P2009−235085A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138310(P2009−138310)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【分割の表示】特願平8−532038の分割
【原出願日】平成8年4月24日(1996.4.24)
【出願人】(595093740)ジ・オーストラリアン・ナショナル・ユニバーシティー (10)
【Fターム(参考)】