説明

硫酸化多糖固定化多孔性高分子基材及び医療器具

【課題】 血中のウイルスの除去を目的としたウイルス吸着用高分子基材であって、除去が好ましくない血液成分を吸着・除去することなく、ウイルスを選択的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供すること。
【解決手段】 水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(B)のグラフト重合反応により多孔性高分子支持体(C)の表面が処理されたウイルス吸着用高分子基材であって、
硫酸化多糖が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアとの共有結合を介して重合性化合物(B)と結合することにより、多孔性高分子支持体(C)に固定化されたことを特徴とするウイルス吸着用高分子基材の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性高分子支持体の表面を処理することにより得られる硫酸化多糖が固定化された高分子基材に関する。また、本発明の本高分子基材は肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを吸着する機能を有することから、当該高分子基材を用いた肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを除去する医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られており、血中のHCVを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。即ち、体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
しかしながら、上記フィルターで除去する方法は、一旦血球と血漿をフィルターで分離した後、血漿成分をさらに別のフィルターに通すことでウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法が望まれている。
【0004】
一方、HCVに結合するリガンドとしてヘパリンが有効なことが知られている(非特許文献3)。よって、ヘパリンを固定化された基材は、より簡便にHCVを除去できる可能性があり、患者への負担の少ないHCV除去モジュール等を提供できることが期待される。
【0005】
ヘパリンが固定化された基材の形態にはビーズや多孔質中空糸が挙げられる。多孔質中空糸を用いた内部循環型の体外循環モジュールは粒子状ヘパリン固定化基材の充填された体外循環モジュールと比較して血液の滞留部分が少ないことから、構成上血栓の形成が少ない利点を有する。多孔質中空糸にヘパリンを固定化する際、表面官能基の種類や固定化密度は基材材質によって異なり、各基材によって最適な方法を見出す必要がある。
【0006】
例えば、特許文献1には、血液入口、上流側血液回路、血漿分離手段、下流側血液回路がこの順に接続され、更に血漿分離手段の血漿出口、上流側血漿回路、血漿浄化手段、下流側血漿回路がこの順に接続され、下流側血漿回路の末端は下流側血液回路の途中に設けられた血液血漿混合手段に接続されている血液処理装置であって、下流側血液回路の血液血漿混合手段の下流側に少なくともウイルス及びウイルス感染細胞を除去する水不溶性担体からなる血球処理手段が設けられ血漿浄化手段が最大孔径20nm以上50nm以下の多孔性濾過膜からなる装置が記載されている。
【0007】
特許文献2には、血液中の有害成分を吸着除去するための、安全性と性能が優れた吸着材であって、アニオン性基を有する分子量1000以上100万以下の化合物が、水不溶性担体に溶離値0.001以下、熱解離値0.01以下の強度で、水不溶性担体1mLあたり0.01mg以上100mg以下共有結合されていることを特徴とする血液浄化用吸着材が記載されている。
【0008】
特許文献3には、多孔質体と、該多孔質体の細孔表面に担持されてなるポリ硫酸化合物とを有するHIV及びその関連物質除去材料であって、前記ポリ硫酸化合物は、実質的に硫酸基がカリウム塩またはナトリウム塩の形で存在することを特徴とするHIV及びその関連物質除去材料が記載されている。
【0009】
一方、ヒト免疫不全症候群はヒト免疫不全症候群ウイルス(HIV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法として多剤併用療法が一般的である。しかし、薬剤耐性ウイルスの出現によりこれまでにない有効な治療法、薬剤の開発が望まれている。血液中のHIVを除去或いは減数化した後に、薬剤との併用効果により、治療効果を高めることができると期待される。
例えば、特許文献4には、多孔質体と、該多孔質体の細孔表面に担持されてなるポリ硫酸化合物とを有するHIV及びその関連物質除去材料であって、前記ポリ硫酸化合物は、実質的に硫酸基がカリウム塩またはナトリウム塩の形で存在することを特徴とするHIV及びその関連物質除去材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−230165号公報
【特許文献2】特開平5−168707号公報
【特許文献3】特許3615785号
【特許文献4】特許3955379号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】A.K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまでの技術では、ウイルス等の病原菌を除去する手段は濾過膜を用いた病原菌を含有する血液の濾過によるものが殆どであり、これらの手段では患者にとって肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスと同程度以上の大きさの有用成分、例えば脂質や免疫グロブリン等も一緒に除去されてしまうため、患者への負担が大きく問題となっていた。そこで、本発明の課題は、血中のウイルスの除去を目的とした肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材であって、除去が好ましくない血液中の成分を吸着・除去することなく、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを選択的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らは多孔性高分子支持体(D)の選択、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを吸着する機能を有する硫酸化多糖の多孔性高分子支持体(D)への固定化方法、及びウイルス吸着能について詳細に検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(C)のグラフト重合反応により多孔性高分子支持体(D)の表面が処理された肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材であって、
硫酸化多糖が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアとの共有結合を介して重合性化合物(C)と結合することにより、多孔性高分子支持体(D)に固定化されたことを特徴とする肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、除去が好ましくない上記血液中の成分を吸着・除去することなく、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを選択的に除去できる機能を有する高分子基材、及びそれを用いた医療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
即ち、本発明は、
1.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(C)のグラフト重合反応により多孔性高分子支持体(D)の表面が処理された肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材であって、
硫酸化多糖が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアとの反応により形成される共有結合を介して重合性化合物(C)と結合することにより、多孔性高分子支持体(D)に固定化されたことを特徴とする肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
2.多孔性高分子支持体(D)が、ポリオレフィンを基質とする多孔性高分子支持体である1.に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
3.多孔性高分子支持体が、中空糸である2.に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
4.ポリオレフィンが、ポリエチレンである3.に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
5.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基が保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又は保護基を有しないアミノ基を少なくとも2個有する多価アミン誘導体である1.〜4.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
6.水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである5.に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
7.少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)が、一般式(1)
【0018】
【化1】

(式中、mは1〜100の整数、nは2〜4の整数を表す。)
で表される1.〜6.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
8.重合性化合物(C)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートである1.〜7.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
9.硫酸化多糖が、ヘパリン、ヘパリン誘導体、デキストラン硫酸又はフコイダンである請求項1.〜8.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材、
10.1.〜9.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材を備えた肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス除去器具、
11.肝炎ウイルスがB型又はC型肝炎ウイルスである10.に記載の肝炎ウイルス除去器具、
12.8.〜11.の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス除去器具を用いた肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスの除去方法、
に関する。
【0019】
・水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)
本発明の水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)は、水酸基若しくはアミノ基が保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又はアミノ基が保護基を有してもよい分子内に少なくとも2個のアミノ基を有するアミン誘導体であって、具体的には、水酸基若しくはアミノ基が保護基を有してもよい、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等を挙げることができる。
【0020】
本化合物(A)は、重合化合物(B)との反応の際、水酸基或いはアミノ基に用いられる公知慣用の保護基を有していてもよい。使用される保護基としては、カーバメート結合により保護する基、エステル結合により保護する基、アミド結合により保護する基又はエーテル結合により保護する基等を挙げることができるが、これらに限らない。
【0021】
カーバメート結合により保護する基としては、例えばt−ブチルカーバメート(Boc基)、ベンジルカーバメート等が挙げられ、エステル結合により保護する基としては、例えば、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられ、アミド結合により保護する基としては、アセチルアミド基、ベンゾイルアミド基等が挙げられ、エーテル結合により保護する基としては、メトキシメチルエーテル基、ベンジルエーテル基等の基を挙げることができる。これらの基は、用いられる化合物(A)の種類、重合性化合物(C)との間で行われる反応の種類・条件等により適宜選択して行うことができる。
【0022】
・少なくとも少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)
本化合物(B)は、重合性化合物(C)及び硫酸化多糖の両方と反応しえるエポキシ基を有する化合物であれば、特に制限なく用いることができるが、反応硫酸化多糖との反応性、取扱の容易性から、一般式(1)
【0023】
【化2】

(式中、mは1〜100の整数、nは2〜4の整数を表す。)
で表される化合物を挙げることができる。
より具体的には、多価アルコールとエピクロロヒドリンとの反応生成物を挙げることができ、用いることのできる多価アルコールとして、両末端に水酸基を持つ直鎖状アルキルジオールおよび、その縮合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどを挙げることができる。
【0024】
・重合性化合物(C)
本発明に用いられる重合性化合物(C)は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と反応し得る基を有し、更に多孔性高分子支持体(D)にグラフト重合反応し得るエチレン性不飽和基を有するものであれば制限なく使用することが可能であるが、多孔性高分子支持体(D)とのグラフト重合を考慮すると、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と反応し得る基を有する(メタ)アクリル系化合物が好ましい。(メタ)アクリル系化合物として、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートが特に好ましい。
【0025】
・多孔性高分子支持体(D)
本発明に用いる多孔性高分子支持体(D)は、電離放射線照射によってラジカルを生成することから主鎖にメチレン基を有するような高分子化合物で好ましい。このような高分子化合物としては血液適合性の高いものであれば種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂又はセルロースアセテートが挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
【0026】
その他、多孔性高分子支持体(D)の材質としては、セルロースやその誘導体等の天然高分子、或いはポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホンとポリアリレートのポリマーアロイ等の高分子材料を例示できる。更には、表面処理により親水性多孔質膜に表面改質されているものが好ましい。
【0027】
多孔性高分子支持体(D)の形状には特に限定はなく、中空糸、ビーズ、不織布等種々の形態のものとして用いることができる。体外循環への適用時には血液が滞留する構造を持つビーズや不織布として用いることも可能であるが、ビーズや不織布は滞留部において血栓の発生が多くなることから、このような用途を目的とする場合は中空糸を使用することが望ましい。
好ましい多孔性高分子支持体(D)として、例えば、平均孔径が0.1〜1μmの範囲である中空糸を挙げることができる。
【0028】
・グラフト重合
本発明では、前記多孔性高分子支持体(D)に電離放射線を照射して発生させたラジカルにより、前記重合性化合物(C)が有するエチレン性不飽和基を多孔性高分子支持体にグラフト重合させる。グラフト重合に際して用いる電離放射線源としては、公知慣用のα線、β線、γ線、加速電子線、X線等があげられ、実用的にはγ線、加速電子線が望ましい。
【0029】
グラフト重合法は前記多孔性高分子支持体(D)と重合性化合物(C)とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と、多孔性高分子支持体(D)を予め照射した後重合性化合物(C)と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0030】
本発明に用いる電離放射線を用いたグラフト重合法において、照射線量や加速電圧は多孔性高分子支持体(D)によって異なるため一概には範囲を決めることができず、多孔性高分子支持体(D)の素材、形態、厚み等を考慮し適宜調整することが必要である。例えば、照射量が多いと帯電による絶縁破壊が発生し、照射量が少ないと重合反応が進行しない。このため、多孔性高分子支持体(D)の材質や形態等を考慮し、帯電による絶縁破壊が発生せず、かつ重合反応が充分に進む照射量を適宜調整すればよい。また、加速電圧は透過性に関係し、多孔性高分子支持体(D)の厚みによって異なる。フィルム等の薄い形態の場合、加速電圧は一般には小さくて済み、多孔性高分子支持体の形態によって選択すればよい。
【0031】
例えば、多孔性高分子支持体(D)がポリエチレンからなる厚さ10(μm)〜100(μm)の中空糸の場合においては、10(kGy)以上、300(kGy)以下であり、更に望ましくは90(kGy)以下であればよく、加速電圧は適宜選択することができる。
【0032】
前記接触工程と前記電離放射線照射工程の順に特に限定はない。
例えば、前記多孔性高分子支持体(D)に重合性化合物(C)又は該重合性化合物(C)を含む重合性組成物を接触させた後、この状態で電離放射線を照射する工程をこの順で行っても良いし、逆に、前記多孔性高分子支持体(D)に電離放射線を先に照射し、その後該多孔性高分子支持体(D)に重合性化合物(C)又は該重合性化合物(C)を含む重合性組成物を接触させる工程をこの順で行ってもよい。
【0033】
前記照射グラフト重合において、照射後の基材中のラジカルは温度の上昇、酸素との接触によって速やかに不活化される。従って、照射後は十分に酸素を除いた状態で低温にて貯蔵し、速やかに固定化を行うことが好ましい。また前記の理由から、固定化においては脱酸素下、又は不活性ガス下で実施することが望ましい。
重合後の多孔性高分子支持体(D)は、溶媒による洗浄等の方法で未反応の重合性化合物を除去すればよい。
【0034】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と重合性化合物(C)との結合反応に特に制限はなく、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)と重合性化合物(C)とが共有結合をなし得るものであればよい。
【0035】
例えば、重合性化合物として(メタ)アクリル酸を用いた場合には、(メタ)アクリル酸のカルボキシル基と結合し得る官能基であるアミノ基を有する化合物(A)が好ましい。
この結合様式の場合には、(メタ)アクリル酸と、アミノ基を有する化合物とのアミド化反応を行う。
アミド化反応の方法は、例えば、活性エステルによるアミド化、縮合剤によるアミド化、これらの併用、混合酸無水物法、アジド法、酸化還元法、DPPA法、ウッドワード法等、ペプチド合成で用いられている公知慣用のアミド化反応を適宜行えばよい。
【0036】
活性エステルによるアミド化としては、例えば、NHS(N−ヒドロキシスクシンイミド)、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノール、DMAP(4−ジメチルアミノピリジン)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOAT(ヒドロキシアザベンゾトリアゾール)等を用いて、脱離能の高い基をカルボキシ基と一旦縮合させた活性エステルを形成させておき、これにアミノ基を反応させる方法が挙げられる。縮合剤によるアミド化は、それ単独で用いても良いが、上記活性エステルと併用することができる。縮合剤としては、EDC(1−(3−ジメチルアミノプロピル−3−エチル−カルボジイミドヒドロクロライド)、HONB(エンド−N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキサミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、BOP(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)、HBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)、TBTU(O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)、HOOBt(3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン)、ジ−p−トリオイルカルボジイミド、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、BDP(1−ベンゾトリアゾールジエチルホスフェート−1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニルエチル)カルボジイミド)、フッ化シアヌル、塩化シアヌル、TFFH(テトラメチルフルオロホルムアミジニウムヘキサフルオロホスホスフェート)、DPPA(ジフェニルホスホラジデート)、TSTU(O−(N−スクシニミジル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート)、HATU(N−[(ジメチルアミノ)−1−H−1,2,3−トリアゾロ[4,5,6]−ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアミニウム・ヘキサフルオロホスフェート・N−オキシド)、BOP−Cl(ビス(2−オキソ−3−オキサゾリジニル)ホスフィンクロライド)、PyBOP((1−H−1,2,3−ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)−トリス(ピロリジノ)ホスホニウム・テトラフルオロホスフェート)、BrOP(ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)、DEPBT(3−(ジエトキシホスホリルオキシ)−1,2,3−ベンゾトリアジン−4(3H)−オン)、PyBrOP(ブロモトリス(ピロリジノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート)等が挙げられる。
【0037】
このうち、(メタ)アクリル酸のカルボキシ基を一旦、NHS化した後に、化合物(A)のアミノ基と反応させアミド化する方法が好ましい。
【0038】
これらのアミド化方法において利用できる溶媒としては、水及びペプチド合成に用いられる有機溶媒を使用することができ、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等、更にはこれらの混合溶媒やこれらを含む水溶液が挙げられる。
【0039】
カルボキシ基への活性化エステル残基導入割合は、用いる活性化剤の種類や、試薬の使用量に依存する。一般的に、溶液中での反応と比較し、重合性化合物から得られる重合体が結合されていることで、反応性が落ちる為、導入量を上げる為には反応試薬をかなり過剰量用いる必要があると考えられる。従って、多孔性高分子支持体(D)に重合せしめた(メタ)アクリル酸のカルボキシ基に対する活性化剤と縮合剤反応試薬の量比は一概には規定できないが、カルボキシル基に活性エステル基を等量的に導入するためには、概ねモル比で、1から10程度用いることが望ましい。更に、反応試薬の過剰量を調整することで、活性エステル基の導入割合を0.01から100%の範囲で、任意に調整することが可能である。
【0040】
重合性化合物(C)として、グリシジル(メタ)アクリレートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の水酸基或いはアミノ基と、重合性化合物(C)の有するグリシジル基と反応させることにより結合することができる。反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とグリシジル基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が溶液の場合には、直接使用しても良く、溶媒を使用する場合には、多孔性高分子支持体(D)を溶解又は膨潤させない溶媒で、より好ましくは、多孔性高分子支持体(D)を溶解及び膨潤せずに重合性化合物(C)の重合物を溶解できる溶媒が使用でき、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の濃度は任意に選択することができ、好ましくは、重量濃度0.1〜50%の濃度に調製して使用できる。
【0041】
反応温度は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)や溶媒が気化しない温度から選択でき、好ましくは0〜70℃、より好ましくは、20〜60℃である。反応時間は、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の種類、濃度、及び反応温度によりことになるが、反応溶液中の水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の含有量をガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、滴定等でモニターしながら、(A)が消費されなくなるまで行うことが好ましい。一般的には、30分から12時間で完結することができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0042】
重合性化合物(C)として、(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートを用いた場合には、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)の水酸基若しくはアミノ基と、重合性化合物(C)の有するイソシアネート基と反応させることにより結合することができる。反応条件は、通常の水酸基若しくはアミノ基とイソシアネート基の反応で使用される溶媒、反応温度、反応時間を挙げることができる。好ましい条件の一例として、溶媒として、酢酸エチルやアセトニトリル等、多孔性高分子支持体(D)を溶解及び膨潤せず、イソシアネートと反応しない溶媒から適宜選択することができる。反応濃度は任意に選択することが可能であり、具体的には重量濃度で0.5〜15%から選択することができる。反応温度はイソシアネートとの反応が発熱反応であることから、0〜50℃が好ましい。反応時間は、2〜24時間を挙げることができるが、これらに限定されず、適宜選択して反応条件を設定することができる。
【0043】
本発明で用いられる硫酸化多糖の種類は、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを吸着する機能を有する硫酸化多糖であれば、特に制限はない。
このような、硫酸化多糖としては、例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、フコイダン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、グラタン硫酸、へパリチン硫酸、カラギーナン、硫酸化ヒアルロン酸、キシラン硫酸、カロニン硫酸、セルロース硫酸、キチン硫酸、キトサン硫酸、ペクチン硫酸、イヌリン硫酸、アルギン酸硫酸、グリコーゲン硫酸、デキストリン硫酸、ラミナリ硫酸、ラムナン硫酸、カードラン硫酸、ガラクタン硫酸、硫酸化ジュランおよび、これらの過硫酸化体、脱硫酸化体、分解物といった誘導体を挙げることができる。
この中でも、好ましい硫酸化多糖として、ヘパリン、ヘパリン誘導体、デキストラン硫酸又はフコイダンを挙げることができる。
【0044】
本発明に用いられるヘパリンは、通常公知のものを制限なく使用することができる。ヘパリンは、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞等体内で幅広く存在し、化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β−D−グルクロン酸、或いはα−L−イズロン酸とD−グルコサミンが1,4−結合により重合した高分子であって、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴を有する。
【0045】
また、ヘパリンの平均分子量についても特に制限はないが、平均分子量が大きい場合には水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)との反応性が低くなる為、ヘパリンの固定化の効率が悪いと考えられる。従って、ヘパリンの分子量は、概ね、500から500,000ダルトン、より好ましくは1,200から50,000ダルトン、更に好ましくは5,000〜20,000ダルトンであることが好ましい。
【0046】
ヘパリン誘導体としては、上記ヘパリンを、該ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体又は該ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体であることに特徴を有する。硫酸エステル化は通常公知の方法で行うことができる。
【0047】
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンのアルカリ塩類をイオン交換樹脂(H)等に通じ、アミン類と処理することによりヘパリンアミン塩を調整する。その後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体(A)とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・ピリジン等が好ましい。
【0048】
また、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体を合成する場合には、例えば、ヘパリンN−アセチル基をヒドラジン等で脱アセチル化した後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・NMe等が好ましい。
【0049】
また、デキストリン硫酸又はフコイダンは、公知慣用のものを用いることができる。
【0050】
本発明の硫酸化多糖と水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)との結合は、例えば上記アミド化反応により行うことができる。
【0051】
ここで、重合性化合物(C)をグラフト重合反応に供してから、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアと反応させた後にヘパリンを固定化させても良いし、重合性化合物(C)と水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)又はアンモニアを反応させた後に、グラフト重合反応を行い、ヘパリンを固定化させてもよい。
【0052】
本発明の高分子基材を備えてなる医療器具の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば中空糸モジュールや濾過カラム、フィルター等が挙げられる。中空糸モジュールや濾過カラムにおいて、容器の形状及び材質は特に限定されないが、体液(血液)の体外循環に適用する場合、内部容量が10〜400mLで外径が2〜10cm程度の筒状容器とすることが好ましく、内部容量が20〜200mLで外径が2.5〜4cm程度の筒状容器とすることがより好ましい。
【0053】
本発明の医療器具の使用方法としては、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを含む液(例えば、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを含む水溶液や血液、血漿、血清等の体液)と接触させて該液中の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを吸着除去することができればいずれの方法でもよい。このような方法として、例えば以下の方法を挙げることができる。
(1)本発明の高分子基材を有するモジュールを用意し、該モジュールに肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを含む液を通過させる方法
(2)流出口に液は通過できるが本発明の高分子基材は通過できないフィルターを装着し、内部に該基材を充填したカラム様容器を用意し、これに肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを含む液を通過させる方法
(3)貯留バッグ等の容器を用意し、これに肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを含む液と本発明の高分子基材を加えて混合した後、上澄み液を回収する方法
(1)や(2)の方法は操作が簡便である点で好ましく、体外循環回路に組み込むことにより患者の体液や血液から効率よくインラインで肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスを除去することが可能である。このうち、更に好ましい方法として(1)の方法が挙げられる。
(2)や(3)の方法では、例えば血液を扱う場合、その凝固を防止するため血液を血球と血漿に分離した上で血漿のみを処理する必要があるが、(1)の方法ではこのような工程を必要とせず、操作が最も簡便でかつ患者への負担が少なくて済む特徴を有する。
【0054】
・肝炎ウイルス吸着能の評価
本発明で対象とする肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスであることに特徴を有する。本発明では、肝炎ウイルス吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、肝炎ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、肝炎ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
【0055】
以下の実施例に示すように、本発明の高分子基材は、HCV E2蛋白質の吸着能を有することが確認され、肝炎ウイルスの吸着能を有することも確認することができた。
・ヒト免疫不全症候群ウイルス吸着能の評価
PCR法により、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス除去器具により処理の前後のウイルス数の変化により評価を行った。
【実施例】
【0056】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0057】
下記の測定項目は下記に示す方法で行った。
<平均孔径>
ASTM:F316−86記載の方法(ハーフドライ法)
実験条件 使用液体:エタノール、昇圧速度:0.01atm/秒
計算式 平均孔径=2860×表面張力/ハーフドライ空気圧力
(参考:特開2001−157826)
<空孔率>
計算式 空孔率=(湿潤膜重量−乾燥膜重量)/膜体積×100
【0058】
<ヘパリン固定化量>
トルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。(参考:P.K.Smith,Anal.Biochem.,109,466(1980))
具体的には、以下のように行った。
25mgのトルイジンブルーを0.2%NaCl含有0.01M HClで500mLに溶解、メスアップして、色素溶液を調製した。ヘパリンを色素溶液2.5mLに10〜70μg加え、0.2%NaCl 2.5mLを加え、さらにヘキサン5mLを加えて30秒間激しく振とうした。しばらく静置して溶液を分離させ、水層を1mLとってメタノールで10mLに希釈して吸光度を測定し、検量線を作成した。
中空糸約10cmに色素溶液2.5mLを加えて10分間浸漬し、0.2%NaClを2.5mL加えて希釈した。希釈した溶液を1mLとり、メタノールで10mLに希釈して、吸光度を測定し、上記検量線から固定化量を算出した。
【0059】
<HCV−E2吸着量>
ヘパリンを固定化した中空糸を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、ブロッキング液として1%BSA/PBS溶液を加え、4℃、一晩放置した。ブロッキング液を除去し、2〜4μg/mL濃度のE2溶液(Abcam社製)を500μL加え、室温で2時間ローテートして吸着前後のE2量をELISA法にて測定した。
【0060】
<ヒト免疫不全症候群ウイルス数>
PCR法(Roche社、AMPLICOR HIV MONITOR Test ve
rsion1.5または、COBAS TaqMan)を用いて行なった。各実験室株(
AD8)のPBS溶液(ウイルス数3x10copies/mL)を各実施例で作製した硫酸化多糖固定化中空糸5cmに対して1mL加えて、ローテートし、2時間でサンプルリングを行い、ウイルス数を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
(合成例)硫酸エステル化したヘパリン誘導体の調整例
ヘパリンナトリウム塩1gをイオン交換樹脂(H)50mLに通し、溶出液をトリブチルアミン−エタノール溶液で中和した。過剰なトリブチルアミンをEtOで抽出除去し、残った水層を凍結乾燥し、ヘパリンのトリブチルアンモニウム塩1.7gを調製した。
次に、SO・Py2.8gの無水DMF100mL溶液を、上記調製したヘパリンのn−トリブチルアンモニウム塩(800mg)を溶解したDMF60mLに滴下したのち、混合液を40℃で1時間反応させた。反応液を冷水に入れ、1M−NaOHで中和後、限外濾過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、硫酸エステル化したヘパリン誘導体を470mg得た。
【0062】
(実施例1)
ポリエチレン製中空糸束(平均孔径0.1μm、空孔率70%、中空糸表面積100cm)にアイエレクトロンビーム社製の電子線照射装置「EC250/30/90L」を用いて酸素濃度100ppm以下になるまで窒素置換し200kVの加速電圧で90kGyの電子線を照射した。ガラス製試験管に中空糸束を入れてセプタムを付けて減圧窒素置換し、続いて23℃でグリシジルメタクリレート(東京化成)メタノール溶液10mg/mLの脱酸素済み溶液を試験管に加えた。4時間後、試験管から中空糸束を取り出し、数回洗浄して乾燥後、重量を測定し、重量増加からグリシジルメタクリレートの固定化を確認した。ポリエチレンイミン(和光純薬、分子量1万)1gをメタノール15mLに溶解しグリシジルメタクリレート固定化中空糸を浸漬、40℃で16時間反応を行った。中空糸を溶液から取り出して洗浄後、ヘパリン(Aldrich)30mg、NHS(和光純薬)12mg、EDC(同仁化学)15mgをPBS15mLに溶解し、溶液に浸漬した。16時間浸漬後、中空糸を取り出し、洗浄後、AcO/AcONa 1/2v/v溶液に中空糸を1時間浸漬しアセチル化処理を行い、ヘパリン固定化中空糸を得た。ヘパリン固定化量は上記トルイジンブルーを用いた色素溶液の吸着を用いた定量法を用いて測定した。HCV E2吸着率、及びヒト免疫不全症候群ウイルス数の評価は上記の方法で行った。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様にグリシジルメタクリレートを固定化し、ポリエチレンイミンの代わりに1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン(東京化成)4mLをメタノール15mLに溶解しグリシジルメタクリレート固定化中空糸を浸漬、40℃で16時間反応を行った。引き続き実施例1と同様にヘパリン固定化を行い、ヘパリン固定化中空糸を得た。
【0064】
(実施例3)
ヘパリンの替わりに上記合成例で得られた硫酸エステル化したヘパリン誘導体を用いた他は、実施1と同様にして、硫酸エステル化したヘパリン誘導体固定化中空糸を得た。
【0065】
(実施例4)
ヘパリンの替わりにデキストラン硫酸を用いた他は、実施1と同様にして、デキストラン硫酸固定化中空糸を得た。
【0066】
(実施例5)
ヘパリンの替わりにフコイダンを用いた他は、実施1と同様にして、フコイダン固定化中空糸を得た。
【0067】
(実施例6)
実施例1と同様にヒドロキシエチルメタクリレートを中空糸に固定化した。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル2.5mL、NaBH50mg、1M−NaOH2.5mL、HO 5mLを混合し、25℃で8時間反応を行ってエポキシ化中空糸を得た。水で洗浄後、0.1M−NaCO溶液を用いてヘパリン100mg/mL溶液を調整し、この溶液にエポキシ化中空糸を40℃で24時間浸漬、反応し、ヘパリン固定化中空糸を得た。
【0068】
(参考例)
<ヒト免疫不全症候群ウイルスの調製>
・AD8にて、HeLa細胞にprovirusをtransfectionした後、48時間後に上清を回収して使用した。
【0069】
(比較例)
ポリエチレン製中空糸束の代わりにポリ4−メチルペンテン製中空糸束(平均孔径0.05μm、空孔率30%、DIC(株)製)を用いる他は実施例1と同様にグリシジルメタクリレートの固定化を行い、ポリエチレンイミンで処理してヘパリンを固定化、アセチル化を行った。
【0070】
以上の実施例1〜5、比較例で得られた高分子基材を用いたHCV−E2吸着率、及びヒト免疫不全症候群ウイルス吸着率を表1に示す。
表中、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアを「連結化合物」と記す。
【0071】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の高分子基材は、肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスの除去器具としての利用が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1流出口
2流入口
3硫酸化多糖
4中空糸
5容器
6隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアと反応し得る官能基を有する重合性化合物(C)のグラフト重合反応により多孔性高分子支持体(D)の表面が処理された肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材であって、
硫酸化多糖が、水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)又はアンモニアとの反応により形成される共有結合を介して重合性化合物(C)と結合することにより、多孔性高分子支持体(D)に固定化されたことを特徴とする肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項2】
多孔性高分子支持体(D)が、ポリオレフィンを基質とする多孔性高分子支持体である請求項1に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項3】
多孔性高分子支持体が、中空糸である請求項2に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項4】
ポリオレフィンが、ポリエチレンである請求項3に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項5】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、水酸基若しくはアミノ基が保護基を有してもよいヒドロキシアルキルアミン誘導体、又は保護基を有しないアミノ基を少なくとも2個有する多価アミン誘導体である請求項1〜4の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項6】
水酸基若しくはアミノ基を有する化合物(A)が、2−アミノエタノール、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンからなる群から選ばれる何れかである請求項5に記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項7】
少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物(B)が、一般式(1)
【化1】

(式中、mは1〜100の整数、nは2〜4の整数を表す。)
で表される請求項1〜6の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項8】
重合性化合物(C)が、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルイソシアネートである請求項1〜7の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項9】
硫酸化多糖が、ヘパリン、ヘパリン誘導体、デキストラン硫酸又はフコイダンである請求項1〜8の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス吸着用高分子基材を備えた肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス除去器具。
【請求項11】
肝炎ウイルスがB型又はC型肝炎ウイルスである請求項10に記載の肝炎ウイルス除去器具。
【請求項12】
請求項8〜11の何れかに記載の肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルス除去器具を用いた肝炎ウイルス又はヒト免疫不全症候群ウイルスの除去方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−245267(P2011−245267A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206639(P2010−206639)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】