硫酸基を付与したアンモニア吸着用の天然ゼオライトとその製造方法
【課題】アンモニアを選択的に除去する可能性がある吸着材としては特定の構造のゼオライトが挙げられるが、吸着力と吸着容量が必ずしも十分でない。そこで、これらゼオライトを修飾して吸着能を向上させ、吸着力を強化しかつ吸着容量を大きくして、さらにアンモニアの選択吸着性を持たせる方法を提供する。
【解決手段】気体のアンモニアを選択的に吸着するゼオライトを選び、ゼオライトの表面をアンモニアと結合しやすいリン酸や硫酸などの化合物で、表面修飾を行い、リン酸基や硫酸基化する。これにより、ゼオライトの細孔と硫酸基の双方によるアンモニアの吸着が行われ、吸着力の向上と吸着容量の増加が行われる。こうした新たなアンモニア吸着材をフィルターに担持することにより、直接、気体のアンモニアを吸着除去する安価な材料を供給することができる。
【解決手段】気体のアンモニアを選択的に吸着するゼオライトを選び、ゼオライトの表面をアンモニアと結合しやすいリン酸や硫酸などの化合物で、表面修飾を行い、リン酸基や硫酸基化する。これにより、ゼオライトの細孔と硫酸基の双方によるアンモニアの吸着が行われ、吸着力の向上と吸着容量の増加が行われる。こうした新たなアンモニア吸着材をフィルターに担持することにより、直接、気体のアンモニアを吸着除去する安価な材料を供給することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体のアンモニア吸着機能の維持と吸着力(吸着速度)及び吸着容量を付与したゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微量のアンモニアの存在は人に対して臭いと刺激、不快感を与え、長時間に渡る暴露は健康被害も考えられる。また、人への影響だけではなく、半導体産業においてもアンモニアの存在はCPU(中央演算処理装置)等の製造工程で問題になっている。
生活環境の空気中に存在するアンモニアの除去を対象とした吸着剤で液体や固体が考えられている。大量にアンモニアが発生する施設では、一般的に、アンモニアが水に良く溶ける性質を利用し、そのまま水に吸収させるか、酸性の水に吸収する方法をとっている。水に溶けたアンモニアはアンモニウムイオンとなり、これをさらにイオン交換体でイオン交換しアンモニアを除去している。微量にアンモニアが発生する場所での除去は水等の液体への吸着では装置が大がかりになり、実用的ではない。このため、そのような装置の開発例は見あたらない。他方、固体によるアンモニアの吸着除去は活性炭やゼオライトで行われているが、アンモニアだけを選択的に吸着除去するのではないため、吸着機能の持続は難しいし、吸着力、吸着容量は十分でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アンモニアの発生する施設での臭気化合物は、気体で存在しており、低濃度でも不快感を与える。気体のアンモニアの除去技術は液に吸収させる方法が主流で、直接気体のアンモニアを選択的に除去する吸着材は限られている。アンモニアを選択的に除去する可能性がある吸着剤としては特定の構造のゼオライトが挙げられるが、吸着力と吸着容量が必ずしも十分でない。また、それら臭気化合物の除去にゼオライトがこの用途に使われていない。ほかにも吸着剤として活性炭もこの用途として考えられるが、ベンゼンやメルカプタン等の有機化合物、アンモニアや窒素酸化物等の無機化合物も吸着するが、アンモニアに対しての選択吸着性は無い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
気体のアンモニアを選択的に吸着するゼオライトを選び、ゼオライトのアンモニア吸着機能を維持させながら、さらに吸着力を上げ、吸着容量を増やす。そのために、ゼオライトの表面をアンモニアと結合しやすいリン酸や硫酸などの化合物で、表面修飾を行い、リン酸基や硫酸基化する。これにより、ゼオライトの細孔と硫酸基の双方によるアンモニアの吸着が行われ、吸着力の向上と吸着容量の増加が行われる。こうした新たなアンモニア吸着剤をフィルターに担持することにより、直接、気体のアンモニアを吸着除去する安価な材料を供給できる。
具体的には、気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法である。
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法である。
また、気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはチャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトである。
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトである。
更に、これら硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト材料をPVA(ポリビニールアルコール)などのバインダーを用いてフィルターに担持した気体状アンモニア吸着剤とすることである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、アンモニアの吸着性能に優れ、且ついったんゼオライトに組み込まれたアンモニア(NH3)は脱着せず、吸着力が強く、吸着容量の大きい、安価な吸着用材料の供給が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームのもので、孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾された吸着機能を有する材料である。表面水酸基は赤外スペクトルで確認される3700cm−1から3500cm−1の範囲にある中心が3627cm−1付近のピークである。硫酸と反応することでピークは減少する。ゼオライトの化合物は珪素やアルミニウム元素が含まれている材料が好ましい。これに最も適する材料として挙げられるのはクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトである。そのほかにはシャバサイトが挙げられる。クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトよりは性能が落ちるが、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトでも可能である。
図11にモルデナイト構造モデルを示し、図12にアンモニア分子のHOMO軌道(上)とVDWの円で囲った分子構造図(下)示した。
次に、アンモニアVDWの分子径と各種ゼオライトの細孔径を表1に示した。
【表1】
前記の如く、アンモニアの吸着処理性と各種ゼオライトの細孔径との関連性が認められる。
こうして作製された1水素硫酸基として表面修飾されたクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトは吸着量がもとのクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの3倍以上で吸着力は2倍を持つものである。モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの吸着量はクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの半分程度である。モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトでも無処理での材料の倍の吸着量は示している。
本発明により得られる硫酸基を付与したアンモニア吸着用の天然ゼオライトをまとめてみると下記記載の如くなる。
(1)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト。
(2)クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(3)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したチャバサイトを主成分とした天然ゼオライト。
(4)チャバサイトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(5)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したモルデナイトを主成分とした天然ゼオライト。
(6)モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(7)モルデナイトやクリノプチロライト等を含有する天然ゼオライトでその細孔部と表面修飾された1水素硫酸基によりアンモニア吸着の特性を有する吸着剤。
(8)上記天然ゼオライト材料をPVA等をバインダーとしてフィルターに担持したアンモニア吸着剤。
【実施例】
【0007】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を説明する。
【実施例1】
【0008】
実施例1は、クリノプチロライトならびにモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトを使用したものを示します。
0.05重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.05重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の一定温度とした電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。反応に要する時間は8時間程度である。この試料を試料名:Cln_S1と表記する。
【実施例2】
【0009】
0.5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、250℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。反応に要する時間は8時間程度である。この試料を試料名:Cln_S2と表記する。
【実施例3】
【0010】
5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、250℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S3と表記する。
【実施例4】
【0011】
20重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の20重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S4と表記する。
【実施例5】
【0012】
35重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の35重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S5と表記する。
【実施例6】
【0013】
0.05重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.05重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉にいれ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S1と表記する。
【実施例7】
【0014】
0.5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S2と表記する。
【実施例8】
【0015】
5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S3と表記する。
【実施例9】
【0016】
20重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト作製方法はモルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の20重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S4と表記する。
【実施例10】
【0017】
35重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の35重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉にいれ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S5と表記する。
【実施例11】
【0018】
実施例1から実施例10までの試料を用いて、ゼオライト表面の1水素硫酸基の確認方法とその結果を示します。
クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの表面に1水素硫酸基を修飾した状態の確認をFTIR(フーリエ変換赤外分光法)にて行った(図1、図2)。測定は試料の一定量、約10mgを臭化カリウム約500mgとよく混ぜ粉末を拡散反射測定で測定した。試料は無処理の試料のCln_S0と硫酸処理した試料のCln_S2〜Cln_S5を対象にした。作製試料のCln_S1と無処理の試料Cln_S0と測定スペクトルの差はほとんど見られなかった。クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトルは3800cm−1から2842cm−1の範囲に表面水酸基と吸着された水のピークが、1735cm−1から1554cm−1の範囲に変角振動による吸着された水分子のピークが、1376cm−1から862cm−1からの範囲に珪素と酸素の結合とアルミニウムと酸素の結合による伸縮振動によるピークが、852cm−1から500cm−1の範囲には珪素と酸素の結合やアルミニウムと酸素による変角振動が観測されている。図1はCln_S2とCln_S3の赤外スペクトルはCln_S0のクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの無処理の試料の1066cm−1のピーク高さに揃えた。
図2のスペクトルは硫酸と反応したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトで硫酸濃度が増すにつれ3623cm−1を中心とするピークは減少を示している。このとき、孤立水酸基に吸着している水はこの基が無くなることで吸着している水も無くなるが、これは1635cm−1のピークの減少に現れている。図3に硫酸修飾したCln_S3、Cln_S4およびCln_S5赤外スペクトルから硫酸処理していないもとの天然ゼオライトのクリノプチロライト赤外スペクトルを引き算した差赤外スペクトルを示す。図3より、1水素硫酸基を修飾した状態は1300cm−1から800cm−1の範囲に吸収が現れていることで確認できる。実際、1200cm−1から1000cm−1と1000cm−1から900cm−1の範囲に硫酸基による吸収が観測され、同時に1水素硫酸基の水酸基に水が吸着した状態のピークが3500cm−1から2700cm−1も観測されている(図3)。モルデナイト系天然ゼオライトについてもクリノプチロライト系天然ゼオライトと同様であった(図4,図5)。クリノプチロライトとモルデナイトでは結晶構造が異なるため1300cm−1〜400cm−1の範囲で異なるスペクトルが観測された。
【実施例12】
【0019】
作製したクリノプチロライトならびにモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの表面を1水素硫酸基で修飾した試料のアンモニア吸着実験は以下のように行った。
密封した約10リットルの内容積のデシケータに10cmの直径のガラス製シャーレに濾紙を敷き、ここに約20ppmのアンモニア水を10マイクロリットル滴下し、デシケータ内のアンモニア濃度が均一となるまで放置し、その後、アンモニア用の検知管によりアンモニア濃度を測定した。1回の測定に100mlを採取し、その時、中が負圧にならないように乾燥空気を同量加えた。初めに、デシケータの密閉性とアンモニアの容器壁の吸着による濃度低下が無いかの確認を行い、濃度の低下はほとんど無いことを確認した(図6)。これらゼオライトの試料の量は100mgと1gを用い、アンモニアを投入後に吸収をするように容器内に蓋をした状態にし、アンモニアがデシケータ内で十分拡散したあとに、アンモニアに接触を行った。図7には、種々の硫酸濃度で表面改質したクリノプチロライト系天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(アンモニア初期濃度:20〜25ppm)が示されている。図8にはモルデナイト系天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性、図9には不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性が示されている。図10には不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトの相対アンモニア吸着特性が示されている。
まとめてみると、天然ゼオライトのクリノプチロライトの硫酸修飾した試料は、硫酸濃度の上昇にともないアンモニアの吸着速度が増すことが得られた。その結果を[表2]に示す。アンモニアの吸着速度は吸着開始から20分までの観測データにより求めた。その速度は、無処理の試料に対して、硫酸濃度20重量%で処理したCln_S4では1.7倍、硫酸濃度35重量%で処理したCln_S5では2.1倍に、フィルターに担持することにより硫酸濃度5重量%で処理したCln_S3(F)では2.9倍である。
また、天然ゼオライトのモルデナイトの硫酸修飾した試料は、クリノプチロライトと同様に硫酸濃度の上昇にともないアンモニアの吸着速度が増すことが得られた。その結果を[表3]に示す。その速度は、硫酸濃度20重量%で処理したMor_S4では1.9倍、硫酸濃度35重量%で処理したMor_S5では3.7倍である。
このように、天然ゼオライトの表面を硫酸基化することで吸着量だけでなく吸着速度を増すことができる。
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明での、硫酸基を付与して天然ゼオライトのアンモニア吸着能を向上させる技術手段は、他の触媒材料などの触媒能の向上をはじめ、各種材料の表面化修飾の技術手段としての利用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル(1)
【図2】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル(2)
【図3】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの差赤外スペクトル
【図4】硫酸処理したモルでナイトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル
【図5】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの差赤外スペクトル
【図6】天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(Cln:クリノプチロライト、Mor:モルデナイト)
【図7】種々の硫酸濃度で表面改質したクリノプチロライト系天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(アンモニア初期濃度:20〜25ppm)
【図8】モルデナイト系天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性
【図9】不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性
【図10】不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトの相対アンモニア吸着特性
【図11】モルデナイト構造モデル(引用文献:Chem3D Ultra量子化学計算ソフト中のゼオライト構造モデル)
【図12】アンモニア分子HOMO軌道(上)とVDWの円で囲った分子構造図(下)(理論計算結果)
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体のアンモニア吸着機能の維持と吸着力(吸着速度)及び吸着容量を付与したゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微量のアンモニアの存在は人に対して臭いと刺激、不快感を与え、長時間に渡る暴露は健康被害も考えられる。また、人への影響だけではなく、半導体産業においてもアンモニアの存在はCPU(中央演算処理装置)等の製造工程で問題になっている。
生活環境の空気中に存在するアンモニアの除去を対象とした吸着剤で液体や固体が考えられている。大量にアンモニアが発生する施設では、一般的に、アンモニアが水に良く溶ける性質を利用し、そのまま水に吸収させるか、酸性の水に吸収する方法をとっている。水に溶けたアンモニアはアンモニウムイオンとなり、これをさらにイオン交換体でイオン交換しアンモニアを除去している。微量にアンモニアが発生する場所での除去は水等の液体への吸着では装置が大がかりになり、実用的ではない。このため、そのような装置の開発例は見あたらない。他方、固体によるアンモニアの吸着除去は活性炭やゼオライトで行われているが、アンモニアだけを選択的に吸着除去するのではないため、吸着機能の持続は難しいし、吸着力、吸着容量は十分でない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アンモニアの発生する施設での臭気化合物は、気体で存在しており、低濃度でも不快感を与える。気体のアンモニアの除去技術は液に吸収させる方法が主流で、直接気体のアンモニアを選択的に除去する吸着材は限られている。アンモニアを選択的に除去する可能性がある吸着剤としては特定の構造のゼオライトが挙げられるが、吸着力と吸着容量が必ずしも十分でない。また、それら臭気化合物の除去にゼオライトがこの用途に使われていない。ほかにも吸着剤として活性炭もこの用途として考えられるが、ベンゼンやメルカプタン等の有機化合物、アンモニアや窒素酸化物等の無機化合物も吸着するが、アンモニアに対しての選択吸着性は無い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
気体のアンモニアを選択的に吸着するゼオライトを選び、ゼオライトのアンモニア吸着機能を維持させながら、さらに吸着力を上げ、吸着容量を増やす。そのために、ゼオライトの表面をアンモニアと結合しやすいリン酸や硫酸などの化合物で、表面修飾を行い、リン酸基や硫酸基化する。これにより、ゼオライトの細孔と硫酸基の双方によるアンモニアの吸着が行われ、吸着力の向上と吸着容量の増加が行われる。こうした新たなアンモニア吸着剤をフィルターに担持することにより、直接、気体のアンモニアを吸着除去する安価な材料を供給できる。
具体的には、気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法である。
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法である。
また、気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはチャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトである。
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトである。
更に、これら硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト材料をPVA(ポリビニールアルコール)などのバインダーを用いてフィルターに担持した気体状アンモニア吸着剤とすることである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、アンモニアの吸着性能に優れ、且ついったんゼオライトに組み込まれたアンモニア(NH3)は脱着せず、吸着力が強く、吸着容量の大きい、安価な吸着用材料の供給が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームのもので、孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾された吸着機能を有する材料である。表面水酸基は赤外スペクトルで確認される3700cm−1から3500cm−1の範囲にある中心が3627cm−1付近のピークである。硫酸と反応することでピークは減少する。ゼオライトの化合物は珪素やアルミニウム元素が含まれている材料が好ましい。これに最も適する材料として挙げられるのはクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトである。そのほかにはシャバサイトが挙げられる。クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトよりは性能が落ちるが、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトでも可能である。
図11にモルデナイト構造モデルを示し、図12にアンモニア分子のHOMO軌道(上)とVDWの円で囲った分子構造図(下)示した。
次に、アンモニアVDWの分子径と各種ゼオライトの細孔径を表1に示した。
【表1】
前記の如く、アンモニアの吸着処理性と各種ゼオライトの細孔径との関連性が認められる。
こうして作製された1水素硫酸基として表面修飾されたクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトは吸着量がもとのクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの3倍以上で吸着力は2倍を持つものである。モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの吸着量はクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの半分程度である。モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトでも無処理での材料の倍の吸着量は示している。
本発明により得られる硫酸基を付与したアンモニア吸着用の天然ゼオライトをまとめてみると下記記載の如くなる。
(1)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト。
(2)クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(3)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したチャバサイトを主成分とした天然ゼオライト。
(4)チャバサイトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(5)0.05重量パーセントから35重量パーセントの硫酸水溶液により処理したモルデナイトを主成分とした天然ゼオライト。
(6)モルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの水酸基と硫酸が反応し1水素硫酸基で修飾したアンモニア吸着剤。
(7)モルデナイトやクリノプチロライト等を含有する天然ゼオライトでその細孔部と表面修飾された1水素硫酸基によりアンモニア吸着の特性を有する吸着剤。
(8)上記天然ゼオライト材料をPVA等をバインダーとしてフィルターに担持したアンモニア吸着剤。
【実施例】
【0007】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を説明する。
【実施例1】
【0008】
実施例1は、クリノプチロライトならびにモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトを使用したものを示します。
0.05重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.05重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の一定温度とした電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。反応に要する時間は8時間程度である。この試料を試料名:Cln_S1と表記する。
【実施例2】
【0009】
0.5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、250℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。反応に要する時間は8時間程度である。この試料を試料名:Cln_S2と表記する。
【実施例3】
【0010】
5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、250℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S3と表記する。
【実施例4】
【0011】
20重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の20重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S4と表記する。
【実施例5】
【0012】
35重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の35重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Cln_S5と表記する。
【実施例6】
【0013】
0.05重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.05重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉にいれ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S1と表記する。
【実施例7】
【0014】
0.5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の0.5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S2と表記する。
【実施例8】
【0015】
5重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の5重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S3と表記する。
【実施例9】
【0016】
20重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト作製方法はモルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の20重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉に入れ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S4と表記する。
【実施例10】
【0017】
35重量パーセントの硫酸水溶液による1水素硫酸基表面修飾のモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの作製方法は、モルデナイトを主成分とした天然ゼオライト、粒度100μm〜200μmを100部に対し、100部の35重量パーセントの硫酸水溶液を加え、良くかき混ぜる。この状態で静置後、230℃の電気炉にいれ、水を蒸発させ、濃縮された硫酸と天然ゼオライト中に含まれる珪素あるいはアルミニウムの水酸基との縮合反応により天然ゼオライト表面に1水素硫酸基を修飾する。この試料を試料名:Mor_S5と表記する。
【実施例11】
【0018】
実施例1から実施例10までの試料を用いて、ゼオライト表面の1水素硫酸基の確認方法とその結果を示します。
クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの表面に1水素硫酸基を修飾した状態の確認をFTIR(フーリエ変換赤外分光法)にて行った(図1、図2)。測定は試料の一定量、約10mgを臭化カリウム約500mgとよく混ぜ粉末を拡散反射測定で測定した。試料は無処理の試料のCln_S0と硫酸処理した試料のCln_S2〜Cln_S5を対象にした。作製試料のCln_S1と無処理の試料Cln_S0と測定スペクトルの差はほとんど見られなかった。クリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトルは3800cm−1から2842cm−1の範囲に表面水酸基と吸着された水のピークが、1735cm−1から1554cm−1の範囲に変角振動による吸着された水分子のピークが、1376cm−1から862cm−1からの範囲に珪素と酸素の結合とアルミニウムと酸素の結合による伸縮振動によるピークが、852cm−1から500cm−1の範囲には珪素と酸素の結合やアルミニウムと酸素による変角振動が観測されている。図1はCln_S2とCln_S3の赤外スペクトルはCln_S0のクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの無処理の試料の1066cm−1のピーク高さに揃えた。
図2のスペクトルは硫酸と反応したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトで硫酸濃度が増すにつれ3623cm−1を中心とするピークは減少を示している。このとき、孤立水酸基に吸着している水はこの基が無くなることで吸着している水も無くなるが、これは1635cm−1のピークの減少に現れている。図3に硫酸修飾したCln_S3、Cln_S4およびCln_S5赤外スペクトルから硫酸処理していないもとの天然ゼオライトのクリノプチロライト赤外スペクトルを引き算した差赤外スペクトルを示す。図3より、1水素硫酸基を修飾した状態は1300cm−1から800cm−1の範囲に吸収が現れていることで確認できる。実際、1200cm−1から1000cm−1と1000cm−1から900cm−1の範囲に硫酸基による吸収が観測され、同時に1水素硫酸基の水酸基に水が吸着した状態のピークが3500cm−1から2700cm−1も観測されている(図3)。モルデナイト系天然ゼオライトについてもクリノプチロライト系天然ゼオライトと同様であった(図4,図5)。クリノプチロライトとモルデナイトでは結晶構造が異なるため1300cm−1〜400cm−1の範囲で異なるスペクトルが観測された。
【実施例12】
【0019】
作製したクリノプチロライトならびにモルデナイトを主成分とした天然ゼオライトの表面を1水素硫酸基で修飾した試料のアンモニア吸着実験は以下のように行った。
密封した約10リットルの内容積のデシケータに10cmの直径のガラス製シャーレに濾紙を敷き、ここに約20ppmのアンモニア水を10マイクロリットル滴下し、デシケータ内のアンモニア濃度が均一となるまで放置し、その後、アンモニア用の検知管によりアンモニア濃度を測定した。1回の測定に100mlを採取し、その時、中が負圧にならないように乾燥空気を同量加えた。初めに、デシケータの密閉性とアンモニアの容器壁の吸着による濃度低下が無いかの確認を行い、濃度の低下はほとんど無いことを確認した(図6)。これらゼオライトの試料の量は100mgと1gを用い、アンモニアを投入後に吸収をするように容器内に蓋をした状態にし、アンモニアがデシケータ内で十分拡散したあとに、アンモニアに接触を行った。図7には、種々の硫酸濃度で表面改質したクリノプチロライト系天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(アンモニア初期濃度:20〜25ppm)が示されている。図8にはモルデナイト系天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性、図9には不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性が示されている。図10には不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトの相対アンモニア吸着特性が示されている。
まとめてみると、天然ゼオライトのクリノプチロライトの硫酸修飾した試料は、硫酸濃度の上昇にともないアンモニアの吸着速度が増すことが得られた。その結果を[表2]に示す。アンモニアの吸着速度は吸着開始から20分までの観測データにより求めた。その速度は、無処理の試料に対して、硫酸濃度20重量%で処理したCln_S4では1.7倍、硫酸濃度35重量%で処理したCln_S5では2.1倍に、フィルターに担持することにより硫酸濃度5重量%で処理したCln_S3(F)では2.9倍である。
また、天然ゼオライトのモルデナイトの硫酸修飾した試料は、クリノプチロライトと同様に硫酸濃度の上昇にともないアンモニアの吸着速度が増すことが得られた。その結果を[表3]に示す。その速度は、硫酸濃度20重量%で処理したMor_S4では1.9倍、硫酸濃度35重量%で処理したMor_S5では3.7倍である。
このように、天然ゼオライトの表面を硫酸基化することで吸着量だけでなく吸着速度を増すことができる。
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明での、硫酸基を付与して天然ゼオライトのアンモニア吸着能を向上させる技術手段は、他の触媒材料などの触媒能の向上をはじめ、各種材料の表面化修飾の技術手段としての利用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル(1)
【図2】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル(2)
【図3】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの差赤外スペクトル
【図4】硫酸処理したモルでナイトを主成分とした天然ゼオライトの赤外スペクトル
【図5】硫酸処理したクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトの差赤外スペクトル
【図6】天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(Cln:クリノプチロライト、Mor:モルデナイト)
【図7】種々の硫酸濃度で表面改質したクリノプチロライト系天然ゼオライトのアンモニア吸着特性(アンモニア初期濃度:20〜25ppm)
【図8】モルデナイト系天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性
【図9】不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトのアンモニア吸着特性
【図10】不織布に担持した天然ゼオライト及び硫酸基化天然ゼオライトの相対アンモニア吸着特性
【図11】モルデナイト構造モデル(引用文献:Chem3D Ultra量子化学計算ソフト中のゼオライト構造モデル)
【図12】アンモニア分子HOMO軌道(上)とVDWの円で囲った分子構造図(下)(理論計算結果)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、
ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、
次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃で行う。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする請求項1記載の硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、
ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、
次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト。
【請求項4】
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜5オングストロームのものであることを特徴とする請求項3記載の硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト。
【請求項5】
硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト材料をPVA(ポリビニールアルコール)などのバインダーを用いてフィルターに担持した気体状アンモニア吸着剤。
【請求項1】
気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、
ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、
次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃で行う。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜7オングストロームのもの、好ましくは3〜5オングストロームであることを特徴とする請求項1記載の硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライトの製造方法。
【請求項3】
気体状のアンモニアを吸着処理するための材料であって、ゼオライトの孤立表面水酸基と硫酸を反応させ1水素硫酸基として表面修飾させた吸着機能を有する材料の製造工程において、
ゼオライトの化合物に珪素とアルミニウムが含まれるクリノプチロライトを主成分とした天然ゼオライトまたはシャバサイトおよびモルデナイトを主成分とする天然ゼオライトを硫酸水溶液で表面修飾を行う際の硫酸濃度は0.05重量パーセントから35重量パーセントである。好ましくは5重量パーセントから20重量パーセントであることと、
次に表面修飾反応で処理する温度は160℃から300℃である。好ましくは230℃から250℃であることを特徴とする硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト。
【請求項4】
前記、天然ゼオライトとしてはアンモニア分子が入る大きさの細孔を有するもので、細孔は3〜5オングストロームのものであることを特徴とする請求項3記載の硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト。
【請求項5】
硫酸基を付与したアンモニア吸着用天然ゼオライト材料をPVA(ポリビニールアルコール)などのバインダーを用いてフィルターに担持した気体状アンモニア吸着剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−233647(P2009−233647A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110702(P2008−110702)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390039619)株式会社ピュアレックス (19)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390039619)株式会社ピュアレックス (19)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】
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