説明

硫酸電解方法

【課題】隔膜式電解セルによって硫酸を電解する際に、隔膜の損傷を長期に亘って招くことなく硫酸を効率よく電解することを可能にする電解方法の提供。
【解決手段】フッ素樹脂系陽イオン交換膜などを隔膜に用いる隔膜型電解装置20において、電解電流密度0.1〜1.0A/dm、陽極液の硫酸濃度80〜96質量%で電解を行う際に、陰極液の硫酸濃度を10〜50質量%、陽極液及び陰極液の液温度を20〜70℃とする。硫酸溶液を通液することで、Hイオンを隔膜に供給して十分な導電性を確保でき、さらに、陽極側と陰極側の硫酸濃度の相違による浸透圧によって水を陰極側から隔膜に供給して隔膜の損傷を防止する。長時間使用しても隔膜の破損や性能劣化を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸を電解して過硫酸(ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸)イオン含有の機能性薬液を製造する方法に関するものであり、特に、シリコンウエハ等の電子材料にイオン注入された不要なレジストなどの有機性汚染物を剥離洗浄する洗浄方法に用いられる洗浄液として上記機能性薬液を供給可能にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ等の電子材料にイオン注入された不要なレジストを除去するために従来から行われているレジスト剥離工程では、濃硫酸と過酸化水素水を混合するSPMと呼ばれる溶液が用いられている。この溶液を用いた方法は、硫酸や過酸化水素水を大量に消費するので、ランニングコストが高く、多量の廃液を発生することが欠点である。これに対して本発明者らは既に、硫酸を電気分解して得られるペルオキソ二硫酸やペルオキソ一硫酸(以下、総称して過硫酸とする)などの酸化性物質を含有した電解硫酸液を洗浄液とし、硫酸を循環使用する洗浄方法および洗浄システムを開発している(例えば特許文献1、2)。これらの洗浄方法や洗浄システムにより、薬液使用量、廃液量を削減すると同時に高い洗浄効果を得ることができる。
【0003】
また、本発明者らは、さらに、電解硫酸液を洗浄液とするウエハ洗浄システムにおいて、陽極と陰極の間に隔膜を組み込み、陽極室と陰極室に区画して電解する方法を採用した処理方法および装置を開発し(特許文献3)、隔膜にフッ素樹脂系陽イオン交換膜(たとえば商標名「Nafion」)を使用し、陰極液に使用する電解液に硫酸濃度0.1〜18Mの硫酸を使用するのが好ましいとしている。
【0004】
一方、非特許文献1では、陽極液96質量%硫酸、陰極液70質量%硫酸ではフッ素樹脂系陽イオン交換膜が脱水されて導電性不足となり破損したことが記載されている。また、陽極液の硫酸濃度96質量%以上に限定した、隔膜電解処理する電解装置が提案されている(特許文献4)。この特許文献では、96質量%以上の高濃度硫酸を陽極室に供給して電解する場合は、陰極室からイオン交換膜に水を供給するために70質量%以下の硫酸を供給することが好ましいことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−114880号公報
【特許文献2】特開2006−278687号公報
【特許文献3】特開2006−228899号公報
【特許文献4】特開2007−332441号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「導電性ダイヤモンド電極を用いた濃硫酸電解の検討」、応用物理学関係連合講演会講演予稿集、Vol54thNo.2、Page829
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、隔膜電解処理を行う場合、装置の効率的な使用のために高濃度硫酸を用いて電解電流密度を高く設定すると、隔膜として使用するフッ素樹脂系陽イオン交換膜などが短時間で破損するという問題が発生することが新たに判明した。一方、隔膜の損傷を抑えるために電解電流密度を低く設定すると、過硫酸の生成効率が低くなり、装置の効率が低下するという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、隔膜式電解装置によって濃硫酸を高い電流密度で電解する場合であっても、隔膜が長期間破損することなく良好な通電を行うことができる電解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のうち、第1の本発明の硫酸電解方法は、隔膜型電解セルの陰極液及び陽極液に硫酸を用いて電解する硫酸電解方法において、前記陽極液の硫酸濃度が80 〜96質量%であり、かつ電解電流密度0.1〜1.0A/cmに際し、前記陰極液の硫酸濃度を10〜50質量%とし、前記陽極液及び前記陰極液の液温度を20〜70℃とすることを特徴とする。
【0010】
第2本発明の硫酸電解方法は、前記第1の本発明において、前記隔膜型電解セル備える隔膜が、フッ素樹脂系陽イオン交換膜であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、陰極液の硫酸濃度及び陽極液と陰極液の液温度を適切に設定することで、隔膜の破損を抑制しつつ、効率的な電解を行うことが可能になる。以下に、本発明で規定する条件について説明する。
【0012】
陽極液硫酸濃度:80〜96質量%
陽極液は、硫酸濃度が低すぎると洗浄力が低くなる。このため、陽極液の硫酸濃度の下限値は80質量%とする。
【0013】
電解電流密度0.1〜1.0A/cm
硫酸イオンを電気分解することによってペルオキソ二硫酸イオンが生成することは広く知られており、陽極室では反応式1、2の酸化反応が起こる。
2SO2−→S2−+2e…式1
2HSO2−→S2−+2H+2e …式2
このように、ペルオキソ二硫酸イオンを生成するためには、一価または二価の硫酸イオンに解離している必要がある。また、ペルオキソ二硫酸イオンの生成量は供給される電流量に大きく影響されるため、装置の製造コストを抑えるためには一定の電極面積に対して投入電流をできるだけ大きくする、すなわち電流密度を大きくすることが好ましい。しかし、硫酸濃度80〜96質量%のような高濃度の硫酸の場合は、分子状硫酸の割合が高く、過剰な高電流密度で電解すると陽極面近傍への硫酸イオンの供給が律速となり、ペルオキソ二硫酸イオンの生成量は大きくならない。また、硫酸イオンの供給が不足する場合には電極の損耗などを引き起こす可能性がある。したがって、電解電流密度は0.1〜1.0A/dmの範囲が好適である。
【0014】
陰極液硫酸濃度:10〜50質量%
フッ素樹脂系陽イオン交換膜などの隔膜が高い陽イオン導電性を有するためには、隔膜を構成する樹脂内に水を含んでいる必要がある。樹脂内の水が不足するとHの移動性が低下し、極端に不足した場合も同様に隔膜の抵抗が増大して、結果的に隔膜の物理的な破壊が起こる。本発明における陽極液の硫酸濃度80〜96質量%の場合、0.1〜1.0A/cmの高電流密度でも陽極室での線速度が10m/h以上あれば隔膜が破損を起こさない量のHイオンを供給できるが、陽極側から隔膜への導電性を保つために十分な水の供給が確保できない。よって陰極側の硫酸濃度を低減して、浸透圧による陰極側から隔膜への水の供給が必要である。一方で、陰極液の硫酸濃度を下げすぎると導電性が低下して電極間電圧の上昇によるエネルギー効率の低下や、陰極液側から陽極液側への浸透圧が上昇して陽極液側の硫酸を所望の濃度より低下させてしまう。したがって陰極の硫酸濃度は10〜50質量%の範囲とする必要がある。
【0015】
陰極液及び陽極液の液温度:20〜70℃
隔膜に用いられるフッ素樹脂系陽イオン交換膜などは熱可塑性であるため、液温度が高くなると機械的強度が低下して陽極室と陰極室の圧力差によって破損する場合がある。例えば陰極液の液温度が70℃を超過すると、水蒸気圧の上昇によって隔膜への水の供給が不足するため、十分な導電性を確保できず破損する。また液温が高すぎると電解効率が極端に低下する。よって液温度の上昇値は70℃、好ましくは60℃である。逆に液温度が低温になるほど液の粘性の上昇によりイオンフラックスが低下するため、液の導電性が低下して極間電圧が上昇すると共に電極の損耗速度が大きくなるため好ましくない。さらには洗浄側に供給する際に高温に加温する必要があるが電解液の液温度が低すぎると加温の熱エネルギーが莫大になってしまう。従って陰極液および陽極液の液温度の下限値は20℃、好ましくは40℃である。
【0016】
隔膜:フッ素樹脂系陽イオン交換膜
パーフルオロスルホン酸からなる商標名「Nafion」(デュポン製)のように、フッ素樹脂系陽イオン交換膜は、耐酸化性、かつ高導電性を有するため、各種目的に応じた電気分解装置の隔膜として一般的に用いられている。これを隔膜として電解すると、陽極液中に存在する各種陽イオンが陽極室から陰極室へ移動することによって導電性を示す。本発明では陽極液に80〜96[wt.%]の硫酸を通液することで陽極室のHイオンが陰極室に移動して電解反応が進行する。
この隔膜を薄膜化することによって電圧上昇を抑えることができるが、機械的強度が不足して陽極室と陰極室の圧力差によって破損を生じる恐れがある。また、ピンホールを生じやすく、電解で発生した酸素または水素などの副生ガスが膜間をクロスオーバーし、爆発性を有するガスを生じると非常に危険であることから、ある程度の膜厚が必要であり、0.01mm以上であることが好ましい。ただし膜厚が大きすぎると抵抗が大きくなり電解効率が低くなるので、膜厚の上限としては0.5mm以下であることが好ましい。
以上のことは電解セルの構造が対極型、複極(バイポーラ)型いずれの場合でも同様である。
【0017】
電極構成
本願発明の電解方法を実行する電解セルに備える電極は、本発明としてはその材質が特に限定されるものではないが、ダイヤモンド電極は、過硫酸イオンの生成を効率よく行えるとともに、電極の損耗が小さいという利点を有する。したがって、電解反応装置の電極のうち、少なくとも、硫酸イオンの生成がなされる陽極をダイヤモンド電極で構成するのが望ましく、陽極、陰極ともにダイヤモンド電極で構成することも可能である。バイポーラ電極においても陽極になる側をダイヤモンドコーティングすることが望ましく、対向面もダイヤモンドコーティングすることがより好ましい。
導電性ダイヤモンド電極は、シリコンウエハ等の半導体材料や金属材料を基板とし、この基板表面に導電性ダイヤモンド薄膜を合成させた後に、基板を溶解等によって取り除いたものや、基板を用いない条件で板状に析出合成したセルフスタンド型導電性多結晶ダイヤモンドを挙げることができる。また、Si,Nb,W,Tiなどの金属基板上に積層した基板被覆型のものも利用できる。セルフスタンド型で機械的強度を得るには成膜するダイヤモンド層を厚くする必要があり不経済なので基板被覆型がより好ましい。
導電性ダイヤモンド電極は、通常は板状のものを使用するが、網目構造物を板状にしたものも使用でき、本発明としては電極形状が特に限定されるものではない。また、電極は、対極型あるいは複極型どちらでも可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、フッ素樹脂系陽イオン交換膜などを隔膜にした隔膜型電解装置において、電解電流密度0.1〜1.0A/dm、かつ陽極液の硫酸濃度80〜96質量%で電解を行う際に、陰極液の硫酸濃度を10〜50質量%、前記陽極液および前記陰極液の液温度を20〜70℃とすることにより、十分な導電性を確保でき、長時間使用しても隔膜の破損や性能劣化を防ぐことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態の電解方法が実施される洗浄システムを示す概略図である。
【図2】同じく、該洗浄システムに含まれる隔膜式電解セルの詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の電解方法を実施する洗浄システムを示す概略図である。
【0021】
洗浄システムは、枚葉式洗浄機1と、隔膜式電解セル20と、後述する送り管、戻り管で構成される循環ラインとを主要な構成としている。
枚葉式洗浄機1では、ノズル2を備えており、該ノズル2の先端側噴出部が枚葉式洗浄機本体内に位置している。また、枚葉式洗浄機1内には、ノズル2の噴出方向に、被洗浄材である半導体基板100を載置して回転可能な基板載置台3が設置されている。
【0022】
一方、隔膜式電解セル20は、図2に詳細を示すように、陽極21と陰極22とバイポーラ電極23を備えており、陽極21と陰極22とに図示しない通電装置が接続されている。さらに、陽極21と、バイポーラ電極23の陰極となる電極面との間にフッ素樹脂系陽イオン交換膜からなる隔膜24が配置され、バイポーラ23の陽極となる電極面と、陰極22との間に同じくフッ素樹脂系陽イオン交換膜からなる隔膜25が配置されて、それぞれ隔膜24、25によって電極間が陽極室26a、27a、陰極室26b、27bに区画されている。なお、本発明としてはバイポーラ式ではなく、陽極と陰極のみを電極として備えるものであってもよい。この実施形態では、上記陽極21、陰極22、バイポーラ電極23はダイヤモンド電極によって構成されている。該ダイヤモンド電極は、基板状にダイヤモンド薄膜を形成するとともに、該ダイヤモンド薄膜の炭素量に対して、好適には50〜20000ppm の範囲でボロンをドープすることにより製造したものである。
【0023】
上記した枚葉式洗浄機1では、図1に示すように、ノズル2に、隔膜式電解セル20との間で硫酸溶液を循環させる循環ラインの送り管31bが接続されている。ノズル2に接続する直前の送り管31bには、加熱装置13が設けられており、ノズル2に供給される過硫酸イオンを含む硫酸溶液をノズル出口で好適には100〜190℃ の液温となるように一過式に加熱する。
また枚葉式洗浄機1の排水部には、循環ラインの戻り管30aが接続されており、該戻り管30aには、排液を貯水して一時的に貯水する硫酸排液槽4が介設されている。該硫酸排液槽4の下流側の戻り管30aには、硫酸溶液を送液するための送液ポンプ5、硫酸溶液で分解処理できないレジストの固型残渣を除去するフィルタ6、硫酸溶液を冷却する冷却器7が、順次介設されている。戻り管30aの下流端は、貯留槽8に接続されている。
【0024】
貯留槽8には、超純水を供給するための超純水供給ライン17a、濃硫酸溶液を供給するための濃硫酸供給ライン17bが接続されている。なお、超純水供給ライン17a、濃硫酸供給ライン17bは、循環ラインの適所に接続するようにしてもよい。
貯留槽8には、送り管30bの上流端が接続されており、該送り管30bには、下流側に向けて、溶液を送液するための送液ポンプ9、溶液を冷却するための冷却器10が順次介設されており、送り管30bの下流端は、隔膜式電解セル20の陽極室26a、27aの入液側に接続されている。該陽極室26a、27aの出液側には、送り管31aの上流端が接続されており、該送り管31aには、気液分離槽11が介設され、該送り管31aの下流端は、前記貯留槽8に接続されている。貯留槽8には、さらに、前記送り管31bの上流端が接続されており、該送り管31bには、下流側に向けて、溶液を送液するための送液ポンプ12と前記加熱装置13とが、順次介設されており、送り管31bの下流端は前記したように枚葉式洗浄機1のノズル2に接続されている。
【0025】
また、図2に示すように隔膜式電解セル20の陰極室26b、27bの入液側には、送り管32の下流端が接続されており、送り管32は、陰極液を送液する送液ポンプ15を介して、上流端が陰極液貯留槽14に接続されている。陰極室26b、27bの出液側には、戻り管33の上流端が接続されている。戻り管33は、気液分離槽16が介設されて、下流端が前記陰極液貯留槽14に接続されている。また、陰極液貯留槽14には、超純水を供給するための超純水供給ライン18a、濃硫酸溶液を供給するための濃硫酸供給ライン18bが接続されている。
【0026】
次に、上記洗浄システムの作用について説明する
上記貯留槽8内に、硫酸供給ライン17bより濃硫酸を収容し、これに超純水供給ライン17aより所定の体積比で超純水を混合して所定濃度の硫酸溶液とする。なお、超純水または濃硫酸は、洗浄システムの稼働に伴って、適宜供給して硫酸濃度の調整を行ってもよい。
貯留槽8内の硫酸溶液を送液ポンプ9によって順次、隔膜式電解セル20の陽極室26a、27aの入液側に送液する。この際に、硫酸溶液は冷却器10によって、所定温度に冷却される。上記設定により、陽極室26a、27aの入口および出口の硫酸溶液は、後述する電解中に、硫酸濃度が80〜96質量%、液温度が20〜70℃に調整され、出口の液温度は入口の液温より高くなるので、入口の液温度が20℃以上かつ出口の液温度が70℃以下になるようにするということである。
【0027】
一方、陰極液貯留槽14内には、硫酸供給ライン18bより濃硫酸を収容し、これに超純水供給ライン18aより所定の体積比で超純水を混合して硫酸濃度が所定濃度、所定温度になるように調製する。なお、超純水または濃硫酸は、洗浄システムの稼働に伴って、適宜供給して硫酸濃度、温度の調整を行ってもよい。陰極液貯留槽14内の硫酸溶液を送液ポンプ15によって順次、隔膜式電解セル20の陰極室26b、27bの入液側に送液する。上記設定により、硫酸溶液は、上記設定により、後述する電解中に、陰極室26b、27bの入口および出口で10〜50質量%の濃度および20〜70℃の温度に調整される。出口の液温度は入口の液温より高くなるので、入口の液温度が20℃以上かつ出口の液温度が70℃以下になるようにするということである。
【0028】
隔膜式電解セル20では、陽極21および陰極22に通電装置によって通電すると、バイポーラ電極23が分極し、陽極21、陰極22の対向面に陰極、陽極が出現する。上記通電では、ダイヤモンド電極表面での電流密度が0.1〜1.0A /cmとなるように通電制御する。
【0029】
隔膜式電解セル20で通電されると、陽極室26a、27aでは循環ラインを流れる溶液中のHイオンが隔膜24、25から陰極側に円滑に供給され、良好な導電性が得られる。
また、陽極室26a、27aでは硫酸イオンが酸化反応して過硫酸イオンが生成され、副生物として酸素ガスが発生する。この際に、過硫酸イオンは、隔膜24、25によって陰極室26b、27b側への移動が抑止されるので、過硫酸イオンが陰極側で還元されて硫酸イオンに戻ることを回避できる。陰極室では、水素イオンが還元されて水素ガスが発生し、通液に伴って隔膜式電解セル20外に排出される。
なお、この際には、陽極室26a、27a側の硫酸溶液と、陰極室26b、27b側の硫酸溶液との濃度差による浸透圧によって、硫酸溶液中の水が隔膜24、25側に供給され、上記Hの移動が円滑になされる。
【0030】
上記陽極室26a、27aから送り出される過硫酸イオンを含んだ硫酸溶液は、送り管31aから貯留槽8へと送液される。この際に、気液分離槽11によって、電解によって生成した酸素ガスなどを除去する。また、陰極室26b、27aから送り出される硫酸溶液は、送り管33から陰極液貯留槽14へと送液される。この際に、気液分離槽16によって、電解によって生成した水素ガスなどを除去する。
貯留槽8に貯留された硫酸溶液は、送り管31bを通して送液ポンプ12によって枚葉式洗浄機1側に送液される。送液される硫酸溶液は、加熱装置13によって加熱されてノズル2に供給される。
【0031】
枚葉式洗浄機1では、ノズル2において、100〜190℃に加熱された高温の硫酸液滴が一定時間噴出される。基板載置台3上には半導体基板100が設置されており、基板載置台3によって半導体基板100が回転し、過硫酸イオンを含む硫酸液滴によって半導体基板100の表面の清浄がなされ、レジストなどが剥離、除去がなされる。噴出された硫酸溶液は、基板100を洗浄した後、飛散・落下して、レジスト溶解物などともに送り管30aに排出される。硫酸排液槽4に一旦貯留される。硫酸排液槽4では、硫酸溶液に含まれるレジスト溶解物の分解が進行する。硫酸排液槽4の硫酸溶液は、送液ポンプ5によって前記した貯留槽8側へと送液される。この際には、フィルタ6によって硫酸溶液に含まれる固型残渣を除去し、次いで、冷却器7によって硫酸溶液を30〜60℃に冷却し、貯留増8に導入する。
【0032】
貯留槽8に収容された硫酸溶液は、その後、前記と同様に隔膜式電解セル20に送液され、自己分解によって過硫酸イオン濃度が低下した硫酸溶液を電解して硫酸イオンから過硫酸イオンを生成して、過硫酸イオンの再生を行って、再度、貯留槽8に収容し、その後は、前記と同様に枚葉式洗浄機1に戻されて洗浄液として使用される。
なお、上記実施形態では、洗浄機として枚葉式のものを用いたが、本発明としてはバッチ式の洗浄槽を用いるものであってもよい。
さらに本発明は、上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能である。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
図2に示す電解装置に、隔膜としてフッ素樹脂系陽イオン交換膜(商標名「Nafion117」、厚さ0.2mm)を組み込み、陽極液条件、陰極液条件および電流密度を表1に示すように振って、最長10時間での隔膜評価試験を行った。評価は、陽極液と陰極液が混合した時点で膜が破損したとして試験を終了し、電解開始から10時間、破損しなかった隔膜は電解装置から取り出し、表面観察およびIEC(イオン交換容量)分析を行った。なお、Nafion117試験前のIECは0.9〜1.1meq/gであった。また、陽極液および陰極液の液温度は、入口温度(℃)〜出口温度(℃)で示した。
試験結果を表1に示す。
これら試験の結果、発明例のように陽極液の硫酸濃度80〜96質量%、液温度50〜60℃、電流密度0.1〜1.0A/cmで電解するとき、陰極液の硫酸濃度10〜50質量%、液温度20〜70℃の範囲内であれば、液の導電性が低下して極間電圧が上昇することなく、隔膜の破損を防止することが可能であった。
【0034】
[実施例2]
図2に示す電解装置に、隔膜としてフッ素樹脂系陽イオン交換膜(商標名「Nafion117」、厚さ0.2mm)を組み込み、以下に示す電解条件で電気分解処理を行った。稼働2000時間後、組み込んだ隔膜を取り出し、隔膜表面のFT−IR分析およびイオン交換容量(IEC)測定を行った。その結果、使用前のFT−IRスペクトルと比べて変化はなく、IEC値は使用前1.0meq/gから使用後1.0meq/gとほとんど低下しなかった。
【0035】
<電解条件>
陽極:硫酸85〜95質量%、液温度50〜70℃、通液線速度20m/h
陰極:硫酸10〜50質量%、液温度40〜50℃、通液線速度20m/h
投入電流:50A
電解電圧:14〜18V
電極面積:100cm/電極1面あたり
電流密度:0.5A/cm
【0036】
【表1】

【符号の説明】
【0037】
1 枚葉式洗浄機
4 硫酸排液槽
7 冷却器
8 貯留槽
10 冷却器
14 陰極液貯留槽
17a 超純水供給ライン
17b 濃硫酸供給ライン
18a 超純水供給ライン
18b 濃硫酸供給ライン
20 電解装置
24 隔膜
25 隔膜
26a 陽極室
26b 陰極室
27a 陽極室
27b 陰極室
30a 戻り管
30b 戻り管
31a 送り管
31b 送り管
32 戻り管
33 送り管
100 半導体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜型電解セルの陰極液及び陽極液に硫酸を用いて電解する硫酸電解方法において、
前記陽極液の硫酸濃度が80〜96質量%であり、かつ電解電流密度0.1〜1.0A/cmに際し、前記陰極液の硫酸濃度を10〜50質量%とし、前記陽極液及び前記陰極液の液温度を20〜70℃とすることを特徴とする硫酸電解方法。
【請求項2】
前記隔膜型電解セルに備える隔膜が、フッ素樹脂系陽イオン交換膜であることを特徴とする請求項1に記載の硫酸電解方法。

【図1】
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【図2】
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