説明

硫黄およびセレン原子を含む組成物の洗浄剤および洗浄方法

【課題】
高屈折率化を可能とする硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を使用した光学材料用組成物用の洗浄剤および洗浄方法を提供すること。
【解決手段】
硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄剤であって、ラクタムを有する化合物と酸性化合物を含有することを特徴とする光学材料用組成物の洗浄剤および該洗浄剤で硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄方法であり、さらには洗浄後の廃液の安定性が高く、一般的な廃液処理が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率およびアッベ数の高い光学材料の原料である硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を使用して得られる光学材料用組成物の洗浄剤および洗浄方法に関するものである。本光学材料用組成物は、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター、接着剤等の光学製品、中でも、眼鏡用プラスチックレンズに有用である。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料、特に眼鏡レンズに近年多用されている。光学材料、中でも眼鏡レンズに最も要求される主な性能は高屈折率であり、高屈折率化によりレンズは薄肉化する。近年、高屈折率化を目的として硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を使用した光学材料が報告されている(特許文献1〜3)。しかしながら、これらの光学材料用組成物の調合に供した装置類を洗浄する際には、溶解性の面から特定の有機硫黄化合物を使用している。例えば、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィドや1,2−エタンジチオールは臭気が強いため作業環境が悪く、更には排ガスを処理するためにアルカリスクラバーのような特殊な排気装置を設ける必要があった。さらに、洗浄後の廃液の安定性を確保する必要があり、これまでに廃液の安全性を配慮した洗浄剤については全く明らかになっていなかった。廃液の安定性が悪い場合、保管時に析出物が発生し、一般的な廃液処理が不可能となる場合もあった。
【0003】
【特許文献1】特許3738817号公報
【特許文献2】特開2002−82203号公報
【特許文献3】特開2002−122701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高屈折率化を可能とする硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を使用した光学材料用組成物に対して、良好な洗浄性かつ洗浄後の廃液の安定性が高い洗浄剤および洗浄方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はこの発明の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する際、(A)ラクタムを有する化合物と(B))酸性化合物を含有することを特徴とする光学材料用組成物の洗浄剤および洗浄方法を見出し、解決に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のようである。
1.硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄剤であって、(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を含有することを特徴とする光学材料用組成物の洗浄剤。
2.(A)ラクタムを有する化合物がN−アルキルピロリドンであることを特徴とする第1項記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
3.(A)ラクタムを有する化合物がN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンおよびN−プロピルピロリドンから選ばれる1種以上であることを特徴とする第1項記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
4.(B)酸性化合物が、酸性有機化合物であることを特徴とする第1項記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
5.(B)酸性化合物が、酸性リン酸エステル類および/または酸性亜リン酸エステル類であることを特徴とする第1項記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
6.(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物とを含有する洗浄剤で硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄方法。
7.(A)ラクタムを有する化合物がN−アルキルピロリドンであることを特徴とする第6項記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
8.(A)ラクタムを有する化合物がN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、およびN−プロピルピロリドンから選ばれる1種以上であることを特徴とする第6項記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
9.(B)酸性化合物が酸性有機化合物であることを特徴とする第6項記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
10.(B)酸性化合物が、酸性リン酸エステル類および/または酸性亜リン酸エステル類であることを特徴とする第6項記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
【発明の効果】
【0007】
硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する際、(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を使用した洗浄剤を使用することにより、該光学材料用組成物を洗浄、除去でき、さらには洗浄後の廃液の安定性が高く、一般的な廃液処理が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で使用する(A)ラクタムを有する化合物は、同一分子内のカルボキシル基とアミノ基が脱水縮合した結合を有し、環を形成している化合物である。種々のラクタム類のなかで、好ましくは炭素数3〜8のラクタムであり、より好ましくはγ−ラクタムであり、更に好ましくはN−アルキルピロリドン類である。特に好ましい具体例としては、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−プロピルピロリドンであり、最も好ましい具体例は、N−メチルピロリドンである。これらのラクタムは、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。
【0009】
本発明で用いる(B)酸性化合物は、カルボン酸類、フェノール類、酸性リン酸エステル類、酸性亜リン酸エステル類、有機スルホン酸類、ハロゲン化ケイ素類、ハロゲン化スズ類、無機酸などがあげられ、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。これらの中で(A)ラクタムを有する化合物を分解し得ない、酸性有機化合物が好ましい。より好ましくは、不快臭が少なく取扱容易な酸性リン酸エステル類、酸性亜リン酸エステル類である。特に好ましくは、酸性亜リン酸エステル類である。
【0010】
(B)酸性化合物の添加量は所望に応じて変化させることが可能で、(A)ラクタムを有する化合物を含有する洗浄剤100重量部に対し、0.1〜100重量部添加できる。より好ましくは、0.2〜70重量部であり、更に好ましくは、0.5〜50重量部である。
【0011】
本発明では(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を混合したものを洗浄剤として使用するが、本発明の目的を損なわない範囲で、希釈剤を使用することも可能であり、洗浄剤と均一に混合し得る希釈剤を使用することが望ましい。具体的には、水、炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、ケトン類等があげられる。具体例として、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、1,2−または1,3−または1,4−キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、1,2−または1,3−または1,4−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジフェニルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類があげられ、これらを併用してもかまわない。好ましくは、芳香族炭化水素類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類である。
【0012】
本発明では(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を混合したものを洗浄剤として使用するが、本発明の目的を損なわない範囲で、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防錆剤などの公知の添加剤を加えることも可能である。
【0013】
本発明で洗浄の対象となる硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物は、硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物1〜50重量%、該無機化合物と反応可能な化合物50〜99重量%、必要に応じてその他の化合物、触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料、離型剤などの公知の添加剤を含んだ組成物である。硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物としては、硫黄、二硫化炭素、硫化リン、硫化セレン、金属硫化物および金属水硫化物、セレン、二セレン化炭素、セレン化リン、金属のセレン化物であり、より好ましくは硫黄、二硫化炭素および硫化セレンであり、特に好ましくは硫黄である。これら硫黄原子およびセレン原子を有する無機化合物は、単独でも、2種類以上を混合して使用しても良い。硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物と反応可能な化合物としては、重合硬化することにより樹脂となりうるものであれば、特に限定されるものではないが、硫黄原子および/またはセレン原子を有する有機化合物より選ばれる1種以上の有機化合物であることが、重合硬化し得られる光学材料をより高屈折率なものとする上で好ましい。具体的には、メルカプタン類、スルフィド類、ポリスルフィド類、チオケトン類、チオイソシアネート類、チオ−ルスルフィナート類、チオ−ルスルホナート類、スルフィルイミン類およびその誘導体、スルホニウム塩類、スルホニウムイリド類、スルホン類、スルホキシイミン類およびその誘導体、スルフィン酸類およびその誘導体、スルホン酸類およびその誘導体であり、好ましくは、メルカプタン類、スルフィド類、ポリスルフィド類、より好ましくはスルフィド類の中のエピスルフィド化合物類である。さらに好ましい具体例は、下記(1)式で表される構造である化合物であり、
【0014】
【化1】

(式中、a、b、c、d、eおよびfは各々独立で0〜3の整数を表す。)
特に好ましくは、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドおよびビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドである。
【0015】
硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物の洗浄方法は、これらの光学材料用組成物の調合に供した装置類を(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を混合したものを洗浄剤と使用して行う。光学材料用組成物と接触させる方法は、例えば洗浄剤を装置へ吹き付けたり、スポンジやウエスなどに染み込ませて拭き取ったり、洗浄剤を装置へ満たしたり、洗浄剤中へ装置を浸漬させたり、特に制限されない。必要に応じて同時に攪拌、振動、超音波照射、エアバブリングなどを併用してもかまわない。洗浄時の温度は、室温、加温下、冷却下のいずれでもかまわない。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
組成物の溶解性は、以下のように評価した。
A;完全に溶解して洗浄剤が透明になったもの
B;ほとんど溶解したが洗浄剤に濁りが見えたもの
C;少ししか溶解せず溶け残りが見えたもの
D;全く溶けなかったもの
【0018】
洗浄後の廃液の安定性は、30℃で1日間、7日間および30日間放置した後、目視で観察した。
A;廃液が透明なもの
B;若干不透明なもの
C;明らかに不透明だが沈降物のないもの
D;明らかに不透明かつ沈降物の見られるもの
【0019】
光学材料用組成物の調製例
硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物の調製
500mlのガラスフラスコに硫黄50gとビス(チオグリシジル)スルフィド450gを30℃で混合攪拌した。約3時間後、均一な組成物を得た。
【0020】
実施例1
光学材料用組成物の調製例に記した光学材料用組成物の調製時に使用したガラスフラスコから、大部分の組成物を取り出したのち、洗浄剤としてN−メチルピロリドン(NMP)100重量部と亜リン酸ジフェニル2重量部からなる洗浄液を室温(25℃)で吹き付けた。組成物は、完全に溶解して洗浄剤が透明になり、フラスコはきれいに洗浄できた。組成物の溶解した洗浄剤の廃液を30℃で保管したところ、30日間透明であった。結果を表1に示す。
【0021】
実施例2〜14、比較例1〜5
表1に示す洗浄剤として用いる以外、実施例1と同様の操作を繰り返した。結果を表1および表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0024】
高屈折率化を可能とする硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を使用した光学材料用組成物用を洗浄する際、ラクタムを有する化合物と酸性化合物を含有することを特徴とする光学材料用組成物の洗浄剤を用いて洗浄することにより、これまでにない洗浄性と洗浄後の廃液の安定性が高く、一般的な廃液処理が可能となる洗浄液および洗浄方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄剤であって、(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物を含有することを特徴とする光学材料用組成物の洗浄剤。
【請求項2】
(A)ラクタムを有する化合物がN−アルキルピロリドンであることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
【請求項3】
(A)ラクタムを有する化合物がN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドンおよびN−プロピルピロリドンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
【請求項4】
(B)酸性化合物が酸性有機化合物であることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
【請求項5】
(B)酸性化合物が、酸性リン酸エステル類および/または酸性亜リン酸エステル類であることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物の洗浄剤。
【請求項6】
(A)ラクタムを有する化合物と(B)酸性化合物とを含有する洗浄剤で硫黄原子および/またはセレン原子を有する無機化合物を含む光学材料用組成物を洗浄する洗浄方法。
【請求項7】
(A)ラクタムを有する化合物がN−アルキルピロリドンであることを特徴とする請求項6記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
【請求項8】
(A)ラクタムを有する化合物がN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、およびN−プロピルピロリドンから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項6記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
【請求項9】
(B)酸性化合物が酸性有機化合物であることを特徴とする請求項6記載の光学材料用組成物の洗浄方法。
【請求項10】
(B)酸性化合物が酸性リン酸エステル類および/または酸性亜リン酸エステル類であることを特徴とする請求項6記載の光学材料用組成物の洗浄方法。

【公開番号】特開2010−168465(P2010−168465A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12026(P2009−12026)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】