硫黄酸化物吸収材及び排ガス浄化装置
【課題】SOx の吸収容量を増大させるとともに、リッチ雰囲気でSOx が放出される温度をさらに高温域へシフトさせる。
【解決手段】大気中にて 700℃以上の温度で5時間焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体2と、該担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層4と、固溶抑制層4に担持された酸化触媒金属6と、から構成した。
MgAl2O4 と同等以上の高比表面積を有する担体を用いているので、SOx 吸収容量が格段に増大する。またMgO の存在によって、リッチ雰囲気でも 600℃程度の高温域までSOx を吸収した状態で保持することができ、放出が抑制される。
【解決手段】大気中にて 700℃以上の温度で5時間焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体2と、該担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層4と、固溶抑制層4に担持された酸化触媒金属6と、から構成した。
MgAl2O4 と同等以上の高比表面積を有する担体を用いているので、SOx 吸収容量が格段に増大する。またMgO の存在によって、リッチ雰囲気でも 600℃程度の高温域までSOx を吸収した状態で保持することができ、放出が抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物をよく吸収できる硫黄酸化物吸収材と、その硫黄酸化物吸収材を用いた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費の低減によるCO2 の排出の抑制を目的として、自動車エンジンなどでは酸素過剰の燃料リーン雰囲気で燃焼させることが行われている。そして燃料リーン雰囲気下でもNOx の還元浄化を効率よく行う排ガス浄化用触媒として、NOx 吸蔵還元型触媒、NOx 選択還元型触媒が開発され、実用に供されている。また排ガス中のHCをさらに効率よく酸化浄化するために、HC酸化触媒も広く用いられている。
【0003】
NOx 吸蔵還元型触媒は、多孔質担体と、多孔質担体に担持された貴金属と、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれ多孔質担体に担持されたNOx 吸蔵材とよりなり、常時は酸素過剰のリーン雰囲気で燃焼させ間欠的にストイキ〜リッチ雰囲気となるように混合気の比率を制御する燃焼システムの排気系に用いられている。
【0004】
また燃料リーン雰囲気で用いられるNOx 選択還元型触媒としては、ゼオライト担体にCuを担持したもの、アルミナに貴金属を担持したものなどが知られている。そしてHC酸化触媒としては、アルミナなどの担体に酸化活性の高いPtを担持したものが知られている。
【0005】
ところが燃料リーン雰囲気の排ガス中には、燃料中の硫黄に起因するSO2 が含まれている。そのためこのような排ガスがNOx 吸蔵還元型触媒に触れると、貴金属によってSO2 がSO3 あるいはSO4 などの硫黄酸化物(以下、SOx という)となり、NOx 吸蔵材とSOx とが反応して安定な硫酸塩が生成し、NOx 吸蔵材のNOx 吸蔵能が低下するという問題がある。
【0006】
またNOx 選択還元型触媒やHC酸化触媒においては、担持されている触媒活性をもつ触媒金属がSOx で覆われて活性が低下する不具合が生じ、また触媒金属上で硫黄成分がさらに酸化されてSOx が生じるため上記不具合がますます促進されるという問題もある。しかもサルフェートの排出量が増大するという不具合もあった。
【0007】
そこでSOx による上記不具合を抑制する手段の一つとして、SOx 吸収材の利用が検討されている。このようなSOx 吸収材として、例えば特開昭57−162645号公報には、アルミナの表面上に単一層として分散する酸化ランタン層を形成したものが開示されている。また特開平05−146675号公報には、シリカ、ランタナなどのアルミナ安定剤とアルカリ金属などの活性成分を含有するアルミナからなるSOx 吸着剤が開示されている。
【0008】
このようなSOx 吸収材を上記した排ガス浄化用触媒の上流側に配置すれば、排ガス中のSOx はSOx 吸収材に吸収されるので、SOx 濃度が低減された排ガスがNOx 吸蔵還元型触媒、NOx 選択還元型触媒あるいはHC酸化触媒に接触するため、上記した硫黄被毒を抑制することができる。
【0009】
しかしながら、SOx 吸収材においては、SOx の吸収量が飽和するとそれ以上のSOx の吸収が困難となる。そこで排ガス雰囲気を還元成分過剰のリッチ雰囲気とし、SOx を吸収したSOx 吸収材を分解してSOx を放出させ、SOx 吸収能を再生する再生処理を行う必要がある。ところが上記した従来のSOx 吸収材では、リッチ雰囲気のガス中において 600〜 700℃の高温で加熱する処理が必要であり、現実の排ガス中での再生処理は困難であった。そのため再生処理を別に行わざるを得ず、工数及びコストが多大であるという問題があった。
【0010】
そこで本願出願人は、特開2001−293366において、 MgO・nAl2O3(nは 0.8以上で 1.1未満)からなる担体に、Ptなどの貴金属を担持したSOx 吸収材を提案している。このSOx 吸収材によれば、SOx の吸収性に優れ、しかも高温下での使用後も比表面積が高く、高温耐久性に優れる。したがって再生処理の回数を削減でき、工数及びコストを大幅に低減することができる。
【0011】
しかしながら特開2001−293366に開示されたSOx 吸収材においても、SOx の吸収容量が十分に大きくないために、排ガス中での再生処理の頻度を高める必要があり燃費などに不具合がある。またリッチ雰囲気では吸収されたSOx が分解して放出されるが、その温度域は比較的低い温度である。一方、NOx 吸蔵材とSOx との反応は、低温ほど起こりやすく、還元性ガス濃度が低いほど起こりやすいということが明らかとなっている。そのためリッチ雰囲気でSOx 吸収材から放出されたSOx が、下流側に存在するNOx 吸蔵還元型触媒のNOx 吸蔵材と反応し、リーン雰囲気ばかりでなくリッチ雰囲気においても硫黄被毒が生じるという問題があった。
【特許文献1】特開昭57−162645号公報
【特許文献2】特開平05−146675号公報
【特許文献3】特開2001−293366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、SOx の吸収容量を増大させるとともに、リッチ雰囲気でSOx が放出される温度をさらに高温域へシフトさせることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明のSOx 吸収材の特徴は、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体と、担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層と、固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなることにある。
【0014】
固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にあることが望ましい。
【0015】
そして本発明の排ガス浄化装置の特徴は、本発明のSOx 吸収材を排ガス流路に配置し、SOx 吸収材の排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置してなることにある。
【0016】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高いことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のSOx 吸収材によれば、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上の高比表面積を有する担体を用いているので、多量のSOx を吸収することができ、SOx 吸収容量が格段に増大する。したがって再生処理の頻度を低減することができ、燃費が向上する。またMgO の存在によって、リッチ雰囲気でも 600℃程度の高温域までSOx を吸収した状態で保持することができ、放出が抑制されるため、リッチ雰囲気で下流側のNOx 吸蔵還元型触媒などに硫黄被毒が生じるのを防止することができNOx 浄化活性の低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本願発明者らは、SOx の吸収能に優れたMgO を用いることを想起した。しかしMgO 単独では、耐熱性が低く 750℃以上で比表面積が低下するためSOx の吸収容量を確保できない。そこで、MgO を基材上に高分散、かつ熱的に安定して保持することを検討した。ところがアルミナなどの高比表面積担体にMgO を高分散担持した場合には、MgO がアルミナ中に固溶してしまい、表面に残るMgO 量がきわめて少なくなるという問題があった。
【0019】
そこで鋭意研究の結果、固溶抑制層を形成することでMgO を表面に高分散かつ多量に表出させることができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0020】
すなわち本発明のSOx 吸収材は、担体と、担体の表面に形成された固溶抑制層と、固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなる。
【0021】
担体は、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上であるものが用いられ、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、セリア、セリア−ジルコニア、ゼオライトなどが例示される。担体の比表面積が上記範囲より小さいとSOx 吸収容量が不足して実用的でない。また 700℃で焼成した後の比表面積が さらに 150m2/g以上であるもの、あるいは 800℃で焼成した後においても 150m2/g以上、さらには 200m2/g以上の比表面積を維持できるものが望ましい。
【0022】
また担体は、Al2O3 と同等以上の塩基性を有するものである。担体の塩基性がAl2O3 の塩基性より低いと、SOx の近接が抑制されるためSOx 吸収能が低下する。このような担体としては、上記に例示したものほとんどが該当するが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素などを複合化することで、塩基性を高めたものが特に好適である。このようなものとしては、例えばLaが添加されたAl2O3 などが例示され、耐熱性がさらに向上するという効果が加わる。
【0023】
本発明の最大の特徴をなす固溶抑制層は、Mgが担体へ固溶するのを抑制する機能をもつ。この固溶抑制層は、MgAl2O4 及びMgO の混合相からなる。MgAl2O4 中にはMgが飽和状態であるため、MgO がMgAl2O4 に固溶したり、MgAl2O4 と反応したりすることがなく、MgO は固溶抑制層に安定した状態で高分散状態で存在している。
【0024】
この固溶抑制層の厚さは、1〜 100nmの範囲とすることが望ましい。固溶抑制層の厚さがこの範囲より薄いと、MgO が担体中に固溶してSOx の吸収容量及び放出温度が低下する。また固溶抑制層の厚さがこの範囲を超えると、担体を高比表面積とした効果が得られずSOx の吸収容量が低下する場合がある。
【0025】
固溶抑制層に含まれるMgO は、一部が二酸化炭素を吸収してMgCO3 になっていてもよい。また他のMg化合物であっても、排ガス中でMgO となるものであれば、MgO の一部として含むことができる。MgO の含有量は特に制限されないが、担体種などに応じて最適量が存在する場合がある。
【0026】
固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にあることが望ましい。モル比Mg/Alが0.17以下であると、表面に含まれるMgO 量がきわめて少なくなりSOx の吸収容量及び放出温度が低下する。またモル比Mg/Alが0.67以上になると、耐熱性が低下し比表面積が小さくなってSOx の吸収容量が大幅に低下してしまう。0.30<Mg/Al<0.55の範囲にあることが特に望ましい。
【0027】
固溶抑制層には、酸化触媒金属が担持されている。この酸化触媒金属は、排ガス中のSO2 を酸化可能な触媒機能をもつものであり、Pt、Pd、Rh、Ir、Ag、Auなどの貴金属が最適であるが、場合によってはCo、Ni、Cu、Mn、Feなどの卑金属も用いることができる。酸化触媒金属の担持量は、金属種によって異なるが、例えばPtの場合には、SOx 吸収材の 100重量部当たり 0.2〜3重量部とするのが好ましい。
【0028】
すなわち本発明のSOx 吸収材を製造するには、基材にアルミナ粉末からなるコート層を形成する工程と、コート層の表面に表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgを含むMg化合物を担持してMg担持アルミナ層を形成する工程と、Mg担持アルミナ層を焼成してMgAl2O4 及びMgO の混合相を形成する工程と、混合相に酸化触媒金属を担持する工程と、を行う。
【0029】
基材としては、ハニカム基材、ペレット基材、フォーム基材など、ガスとの接触面積が大きいものを用いることができる。
【0030】
この製造方法では、先ず基材の表面にアルミナ粉末からコート層を形成する。この工程は、従来の酸化触媒あるいは三元触媒にコート層を形成する方法と同様に行うことができ、一般にウォッシュコート法が用いられる。
【0031】
コート層には、表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgを含むMg化合物が担持され、Mg担持アルミナ層が形成される。Mg化合物としては、硝酸塩、アルコキシドなどを用いることができる。また表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgということは、次工程での焼成時にMgとAlとの反応によってコート層の表面にMgAl2O4 相が形成されると同時にMgO 相が形成される量という意味である。したがってその量は、形成されるMgAl2O4 及びMgO の混合相の厚さによって異なるが、混合相のMgAl2O4 が固溶抑制層を構成すること、固溶抑制層の厚さは1〜 100nmの範囲とすることが望ましいことを鑑みると、コート層の表面積1m2当たり 0.003〜0.01モルのMgが含まれることが望ましい。例えば、NOx 吸蔵還元型触媒におけるNOx 吸蔵材の担持量は触媒1リットル当たり多くても1モルであり、このような少量のMg化合物をアルミナに担持し、後述の焼成条件で焼成した場合には、Mgは全てMgAl2O4 となってMgO 相が形成されない。
【0032】
なお担持工程では、コート層にMg化合物のみを担持してもよいし、Mg化合物に加えてAl硝酸塩、Al硝酸塩水溶液からの沈殿物、AlアルコキシドなどのAl化合物を担持してもよい。この場合は、上記したMgに加えて、Al化合物と反応してMgAl2O4 となる分のMgを増量する必要がある。
【0033】
次の焼成工程では、Mg担持アルミナ層が焼成されることで、コート層表面にMgAl2O4 及びMgO の混合相が形成される。この焼成温度は 750℃以上とすることが望ましい。焼成温度が 700℃未満であるとMgAl2O4 相の形成が困難となる。また焼成時間も重要な因子であり、焼成温度が低いとMgAl2O4 相の形成に長時間必要となり、焼成温度が高くとも焼成時間が短いとMgAl2O4 相の形成が困難となる。例えば 850℃で焼成する場合には2時間以上とすることが望ましく、MgAl2O4 相を形成できる最低温度である 700℃で焼成する場合には、5時間以上が必要となる。
【0034】
混合相のモル比Mg/Alは、上記した理由と同様の理由により、0.17<Mg/Al<0.67の範囲とすることが好ましく0.30<Mg/Al<0.55の範囲が特に望ましい。
【0035】
形成された混合相には、酸化触媒金属が担持される。この担持工程は、従来の酸化触媒などにおける貴金属担持工程と同様に行うことができる。またその担持量は、前述した担持量とされる。なお、混合相を形成する焼成工程は、酸化触媒金属の担持工程の後に行ってもよいし、酸化触媒金属の担持工程の前後に分けて行うこともできる。
【0036】
本発明のSOx 吸収材は、それ単独で使用することもできるが、排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置した排ガス浄化装置として用いることが特に好ましい。この本発明の排ガス浄化装置では、リーン雰囲気の排ガスがSOx 吸収材に接触することで、排ガス中のSO2 は酸化触媒金属によってSOx に酸化されてMgO に吸収される。本発明のSOx 吸収材はSOx 吸収容量が大きいので、排ガス中のSOx はほとんど全部が吸収され、下流側の触媒に流入するのが確実に抑制される。したがって下流側の触媒の硫黄被毒が抑制され、高いNOx 浄化率が発現される。
【0037】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高いことが望ましい。このように構成することで、下流側のNOx 吸蔵還元型触媒でNOx を還元浄化するためにストイキ又はリッチ雰囲気とされた時の温度は、SOx 吸収材の硫黄脱離温度より低くSOx 吸収材からSOx は放出されないので、リッチ雰囲気における下流側の触媒の硫黄被毒を確実に防止することができる。またSOx 吸収材のSOx 吸収能を回復するためにリッチ雰囲気とする際には、硫黄被毒したNOx 吸蔵材が分解する温度より高温となるため、SOx 吸収材のSOx 吸収能が回復するとともに、硫黄被毒したNOx 吸蔵材のNOx 吸蔵能も回復する。
【0038】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より20℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがさらに望ましい。またSOx 吸収材のSOx 吸収能を回復するためのリッチ再生処理の温度も、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より20℃以上高くすることが好ましく、50℃以上高くすることがさらに望ましい。
【実施例】
【0039】
以下、参考例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0040】
(参考例1)
コージェライト製で六角セルをもつハニカム基材(直径30mm、長さ50mm)を用意し、ウォッシュコート法によりγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。コート層の形成量は、ハニカム基材1L当たり 207gである。
【0041】
次に、所定濃度の酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 850℃で5時間焼成した。酢酸マグネシウムは、ハニカム基材1L当たりMgとして1.35モル担持され、モル比Mg/Alは0.33であった。
【0042】
(参考例2)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして2.03モル担持したこと以外は参考例1と同様である。モル比Mg/Alは0.50であった。
【0043】
(参考例3)
酢酸マグネシウム 107gと硝酸アルミニウム 379gを1800mlのイオン交換水に溶解し、この水溶液に25%アンモニア水 650gを添加して沈殿物を得た。この沈殿物を大気中にて 850℃で5時間焼成し、 MgAl2O4粉末を作製した。
【0044】
この粉末を、参考例1と同様のハニカム基材に1L当たり 200gコートした。コート層のモル比Mg/Alは 0.5であった。
【0045】
(参考例4)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして0.63モル担持したこと以外は参考例1と同様である。モル比Mg/Alは0.17であった。
【0046】
<試験・評価>
参考例1〜4で調製された各層をX線回折分析し、各X線回折チャートを図1〜4にそれぞれ示す。参考例1,2ではMgO のピークが観察されるのに対し、参考例3,4ではMgO のピークが観察されない。すなわち参考例4のようにモル比Mg/Alが0.17では、酢酸マグネシウムはアルミナと反応して全て MgAl2O4となり、また共沈法で得られた沈殿を焼成する方法では、モル比Mg/Alが 0.5であっても、酢酸マグネシウムはアルミナと反応して全て MgAl2O4となっていることがわかる。共沈法の場合には、MgとAlとの接触確率がきわめて高いために、Mgは全てAlと反応したものと考えられる。
【0047】
上記した結果を踏まえ、以下のように実施例及び比較例のSOx 吸収材を調製した。
【0048】
(実施例1)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして 0.5モル担持したこと以外は参考例1と同様にして、MgO と MgAl2O4との混合相からなる層を形成した。次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。さらにハニカム基材1L当たり0.85モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.33である。
【0049】
(実施例2)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして1.35モル担持したこと以外は参考例1と同様にして、MgO と MgAl2O4との混合相からなる層を形成した。次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。
【0050】
本実施例のSOx 吸収材の要部拡大断面図を図5に示す。このSOx 吸収材は、コージェライトからなるハニカム基材1と、ハニカム基材1のセル隔壁表面に形成されたSOx 吸収材コート層2(担体)と、SOx 吸収材コート層2中のアルミナ粒子3の表面に形成された固溶抑制層4とから構成されている。固溶抑制層4は MgAl2O4とMgO 5との混合相からなり、固溶抑制層4にはPt6が担持されている。
【0051】
(実施例3)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり1.35モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.33である。
【0052】
(実施例4)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり 1.8モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.44である。
【0053】
(実施例5)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり2.03モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.50である。
【0054】
(実施例6)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり 2.7モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。形成された混合相のモル比Mg/Alは0.67である。
【0055】
(比較例1)
参考例3で調製された MgAl2O4粉末を用い、参考例1と同様にしてハニカム基材1L当たり 200gの形成量でコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。コート層のモル比Mg/Alは0.50である。
【0056】
(比較例2)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり0.68モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。形成された MgAl2O4層のモル比Mg/Alは0.17である。
【0057】
<試験・評価>
実施例及び比較例の各SOx 吸収材のコート層成分をペレット状とし、その 0.6gを固定床流通型反応装置に充填して、S吸収量とS脱離開始温度をそれぞれ測定した。測定は、表1に示すモデルガスを用い、リッチガスで前処理した後、図6に示す評価パターンのように各ガスで処理した。すなわち、 400℃でS付着処理を行った後、 200℃から 750℃まで14℃/分で昇温してS脱離処理を行った。ガス流量は6L/分である。
【0058】
【表1】
【0059】
そして出ガス中のS濃度を測定し、出ガスS濃度が1ppm以上となる時間までの入りガスS濃度と出ガスS濃度との差分からS吸収量を算出し、ペレット 100g当たりのS吸収量を算出した。また出ガスS濃度が1ppm以上となった時の温度をS脱離温度とした。それぞれの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より、実施例1〜5のSOx 吸収材は、比較例1に比べてS付着量が多く、比較例1,2に比べてS脱離開始温度が高いことが明らかであり、これはMgAl2O4 及びMgO からなりモル比Mg/Al>0.17の混合相を形成したこと、MgAl2O4 がMgO の固溶抑制層として機能したこと、による効果であることが明らかである。
【0062】
また実施例6は比較例1,2に比べてS脱離開始温度が高いものの、S付着量がきわめて少ない。これはモル比Mg/Alが0.67と大きいために、耐熱性が低下し比表面積が小さくなってSOx の吸収容量が大幅に低下したためである。
【0063】
すなわち実施例1〜5のSOx 吸収材は、MgO が表面に高分散に、かつ熱的に安定して存在しているため、SOx 吸収容量が大きく、S脱離温度が高いことが明らかである。
【0064】
(実施例7)
本実施例の排ガス浄化装置を図7に示す。排ガス上流側には本発明のSOx 吸収材5が配置され、その下流側にNOx 吸蔵還元型触媒6が配置されている。SOx 吸収材5は、実施例4のSOx 吸収材を長さが15mmとなるように切断したものを用いている。またNOx 吸蔵還元型触媒6は、以下のようにして調製した。
【0065】
アルミナ粉末 100g、チタニア−ジルコニア複合酸化物粉末 100g、Rhをジルコニアに1重量%担持したRh/ZrO2粉末50g、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末 20gをイオン交換水と混合してスラリーを調製した。このスラリーを用い、コージェライト製で六角セルをもつハニカム基材(直径30mm、長さ35mm)にウォッシュコートしてコート層を形成した。コート層の形成量は、ハニカム基材1L当たり 270gである。
【0066】
次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。さらに酢酸バリウム、酢酸カリウム及び酢酸リチウムの混合水溶液を、ハニカム基材1L当たりBaが 0.2モル、Kが0.15モル、Liが 0.1モルとなる必要量吸水含浸させ、大気中にて 300℃で3時間焼成した。
【0067】
(比較例3)
SOx 吸収材5に代えて、上記NOx 吸蔵還元型触媒6を長さが15mmとなるように切断したものを用いたこと以外は実施例7と同様である。
【0068】
<試験・評価>
実施例7と比較例3の排ガス浄化装置を評価装置にそれぞれ配置し、直噴ガソリンエンジンのスタート触媒下流の排気組成を模擬したモデルガスを用いてNOx 吸蔵還元性能を評価した。空間速度SVは全て51400h-1である。
【0069】
すなわち表3に示す前処理ガスを用いて 650℃で10分間前処理した後、表3に示すS被毒ガスをリーン 120秒/リッチ3秒で交互に切り替えながら 400℃で41分間流し、触媒2L当たりのS供給量を6gとした。この後、表3に示す再生ガスを用いて 700℃で10分間処理した。さらにその後、表3に示すS被毒ガスをリーン 120秒/リッチ3秒で交互に切り替えながら 400℃で41分間流し、触媒2L当たりのS供給量を6gとした。
【0070】
【表3】
【0071】
上記試験中のNOx 浄化率を連続的に測定し、結果を図8に示す。実施例7の装置は、比較例3の装置に比べてNOx 浄化率の低下度合いが小さく、硫黄被毒が抑制されていることがわかる。また比較例3の装置においてNOx 浄化率が約35%となる時までのS通過量は4gであるが、実施例7ではS通過量が約8gでも同等のNOx 浄化率を実現することができるといえる。すなわちS通過量に対する劣化率は、実施例7が比較例3の約1/2となり、実施例7の排ガス浄化装置は耐硫黄被毒性にきわめて優れている。これは、SOx 吸収材5を排ガス上流側に配置した効果であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】参考例1で形成された層のX線回折チャートである。
【図2】参考例2で形成された層のX線回折チャートである。
【図3】参考例3で形成された層のX線回折チャートである。
【図4】参考例4で形成された層のX線回折チャートである。
【図5】本発明の第2の実施例のSOx 吸収材の要部を拡大した模式的断面図である。
【図6】実施例における評価パターンを説明するタイムチャートである。
【図7】本発明の実施例7の排ガス浄化装置の構成を示す説明図である。
【図8】実施例7と比較例3の排ガス浄化装置のNOx 浄化率の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1:ハニカム基材 2:SOx 吸収材コート層 3:アルミナ
4:固溶抑制層 5:MgO 6:Pt
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄酸化物をよく吸収できる硫黄酸化物吸収材と、その硫黄酸化物吸収材を用いた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費の低減によるCO2 の排出の抑制を目的として、自動車エンジンなどでは酸素過剰の燃料リーン雰囲気で燃焼させることが行われている。そして燃料リーン雰囲気下でもNOx の還元浄化を効率よく行う排ガス浄化用触媒として、NOx 吸蔵還元型触媒、NOx 選択還元型触媒が開発され、実用に供されている。また排ガス中のHCをさらに効率よく酸化浄化するために、HC酸化触媒も広く用いられている。
【0003】
NOx 吸蔵還元型触媒は、多孔質担体と、多孔質担体に担持された貴金属と、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれ多孔質担体に担持されたNOx 吸蔵材とよりなり、常時は酸素過剰のリーン雰囲気で燃焼させ間欠的にストイキ〜リッチ雰囲気となるように混合気の比率を制御する燃焼システムの排気系に用いられている。
【0004】
また燃料リーン雰囲気で用いられるNOx 選択還元型触媒としては、ゼオライト担体にCuを担持したもの、アルミナに貴金属を担持したものなどが知られている。そしてHC酸化触媒としては、アルミナなどの担体に酸化活性の高いPtを担持したものが知られている。
【0005】
ところが燃料リーン雰囲気の排ガス中には、燃料中の硫黄に起因するSO2 が含まれている。そのためこのような排ガスがNOx 吸蔵還元型触媒に触れると、貴金属によってSO2 がSO3 あるいはSO4 などの硫黄酸化物(以下、SOx という)となり、NOx 吸蔵材とSOx とが反応して安定な硫酸塩が生成し、NOx 吸蔵材のNOx 吸蔵能が低下するという問題がある。
【0006】
またNOx 選択還元型触媒やHC酸化触媒においては、担持されている触媒活性をもつ触媒金属がSOx で覆われて活性が低下する不具合が生じ、また触媒金属上で硫黄成分がさらに酸化されてSOx が生じるため上記不具合がますます促進されるという問題もある。しかもサルフェートの排出量が増大するという不具合もあった。
【0007】
そこでSOx による上記不具合を抑制する手段の一つとして、SOx 吸収材の利用が検討されている。このようなSOx 吸収材として、例えば特開昭57−162645号公報には、アルミナの表面上に単一層として分散する酸化ランタン層を形成したものが開示されている。また特開平05−146675号公報には、シリカ、ランタナなどのアルミナ安定剤とアルカリ金属などの活性成分を含有するアルミナからなるSOx 吸着剤が開示されている。
【0008】
このようなSOx 吸収材を上記した排ガス浄化用触媒の上流側に配置すれば、排ガス中のSOx はSOx 吸収材に吸収されるので、SOx 濃度が低減された排ガスがNOx 吸蔵還元型触媒、NOx 選択還元型触媒あるいはHC酸化触媒に接触するため、上記した硫黄被毒を抑制することができる。
【0009】
しかしながら、SOx 吸収材においては、SOx の吸収量が飽和するとそれ以上のSOx の吸収が困難となる。そこで排ガス雰囲気を還元成分過剰のリッチ雰囲気とし、SOx を吸収したSOx 吸収材を分解してSOx を放出させ、SOx 吸収能を再生する再生処理を行う必要がある。ところが上記した従来のSOx 吸収材では、リッチ雰囲気のガス中において 600〜 700℃の高温で加熱する処理が必要であり、現実の排ガス中での再生処理は困難であった。そのため再生処理を別に行わざるを得ず、工数及びコストが多大であるという問題があった。
【0010】
そこで本願出願人は、特開2001−293366において、 MgO・nAl2O3(nは 0.8以上で 1.1未満)からなる担体に、Ptなどの貴金属を担持したSOx 吸収材を提案している。このSOx 吸収材によれば、SOx の吸収性に優れ、しかも高温下での使用後も比表面積が高く、高温耐久性に優れる。したがって再生処理の回数を削減でき、工数及びコストを大幅に低減することができる。
【0011】
しかしながら特開2001−293366に開示されたSOx 吸収材においても、SOx の吸収容量が十分に大きくないために、排ガス中での再生処理の頻度を高める必要があり燃費などに不具合がある。またリッチ雰囲気では吸収されたSOx が分解して放出されるが、その温度域は比較的低い温度である。一方、NOx 吸蔵材とSOx との反応は、低温ほど起こりやすく、還元性ガス濃度が低いほど起こりやすいということが明らかとなっている。そのためリッチ雰囲気でSOx 吸収材から放出されたSOx が、下流側に存在するNOx 吸蔵還元型触媒のNOx 吸蔵材と反応し、リーン雰囲気ばかりでなくリッチ雰囲気においても硫黄被毒が生じるという問題があった。
【特許文献1】特開昭57−162645号公報
【特許文献2】特開平05−146675号公報
【特許文献3】特開2001−293366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、SOx の吸収容量を増大させるとともに、リッチ雰囲気でSOx が放出される温度をさらに高温域へシフトさせることを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明のSOx 吸収材の特徴は、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体と、担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層と、固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなることにある。
【0014】
固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にあることが望ましい。
【0015】
そして本発明の排ガス浄化装置の特徴は、本発明のSOx 吸収材を排ガス流路に配置し、SOx 吸収材の排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置してなることにある。
【0016】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高いことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のSOx 吸収材によれば、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上の高比表面積を有する担体を用いているので、多量のSOx を吸収することができ、SOx 吸収容量が格段に増大する。したがって再生処理の頻度を低減することができ、燃費が向上する。またMgO の存在によって、リッチ雰囲気でも 600℃程度の高温域までSOx を吸収した状態で保持することができ、放出が抑制されるため、リッチ雰囲気で下流側のNOx 吸蔵還元型触媒などに硫黄被毒が生じるのを防止することができNOx 浄化活性の低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本願発明者らは、SOx の吸収能に優れたMgO を用いることを想起した。しかしMgO 単独では、耐熱性が低く 750℃以上で比表面積が低下するためSOx の吸収容量を確保できない。そこで、MgO を基材上に高分散、かつ熱的に安定して保持することを検討した。ところがアルミナなどの高比表面積担体にMgO を高分散担持した場合には、MgO がアルミナ中に固溶してしまい、表面に残るMgO 量がきわめて少なくなるという問題があった。
【0019】
そこで鋭意研究の結果、固溶抑制層を形成することでMgO を表面に高分散かつ多量に表出させることができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0020】
すなわち本発明のSOx 吸収材は、担体と、担体の表面に形成された固溶抑制層と、固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなる。
【0021】
担体は、大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上であるものが用いられ、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、セリア、セリア−ジルコニア、ゼオライトなどが例示される。担体の比表面積が上記範囲より小さいとSOx 吸収容量が不足して実用的でない。また 700℃で焼成した後の比表面積が さらに 150m2/g以上であるもの、あるいは 800℃で焼成した後においても 150m2/g以上、さらには 200m2/g以上の比表面積を維持できるものが望ましい。
【0022】
また担体は、Al2O3 と同等以上の塩基性を有するものである。担体の塩基性がAl2O3 の塩基性より低いと、SOx の近接が抑制されるためSOx 吸収能が低下する。このような担体としては、上記に例示したものほとんどが該当するが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素などを複合化することで、塩基性を高めたものが特に好適である。このようなものとしては、例えばLaが添加されたAl2O3 などが例示され、耐熱性がさらに向上するという効果が加わる。
【0023】
本発明の最大の特徴をなす固溶抑制層は、Mgが担体へ固溶するのを抑制する機能をもつ。この固溶抑制層は、MgAl2O4 及びMgO の混合相からなる。MgAl2O4 中にはMgが飽和状態であるため、MgO がMgAl2O4 に固溶したり、MgAl2O4 と反応したりすることがなく、MgO は固溶抑制層に安定した状態で高分散状態で存在している。
【0024】
この固溶抑制層の厚さは、1〜 100nmの範囲とすることが望ましい。固溶抑制層の厚さがこの範囲より薄いと、MgO が担体中に固溶してSOx の吸収容量及び放出温度が低下する。また固溶抑制層の厚さがこの範囲を超えると、担体を高比表面積とした効果が得られずSOx の吸収容量が低下する場合がある。
【0025】
固溶抑制層に含まれるMgO は、一部が二酸化炭素を吸収してMgCO3 になっていてもよい。また他のMg化合物であっても、排ガス中でMgO となるものであれば、MgO の一部として含むことができる。MgO の含有量は特に制限されないが、担体種などに応じて最適量が存在する場合がある。
【0026】
固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にあることが望ましい。モル比Mg/Alが0.17以下であると、表面に含まれるMgO 量がきわめて少なくなりSOx の吸収容量及び放出温度が低下する。またモル比Mg/Alが0.67以上になると、耐熱性が低下し比表面積が小さくなってSOx の吸収容量が大幅に低下してしまう。0.30<Mg/Al<0.55の範囲にあることが特に望ましい。
【0027】
固溶抑制層には、酸化触媒金属が担持されている。この酸化触媒金属は、排ガス中のSO2 を酸化可能な触媒機能をもつものであり、Pt、Pd、Rh、Ir、Ag、Auなどの貴金属が最適であるが、場合によってはCo、Ni、Cu、Mn、Feなどの卑金属も用いることができる。酸化触媒金属の担持量は、金属種によって異なるが、例えばPtの場合には、SOx 吸収材の 100重量部当たり 0.2〜3重量部とするのが好ましい。
【0028】
すなわち本発明のSOx 吸収材を製造するには、基材にアルミナ粉末からなるコート層を形成する工程と、コート層の表面に表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgを含むMg化合物を担持してMg担持アルミナ層を形成する工程と、Mg担持アルミナ層を焼成してMgAl2O4 及びMgO の混合相を形成する工程と、混合相に酸化触媒金属を担持する工程と、を行う。
【0029】
基材としては、ハニカム基材、ペレット基材、フォーム基材など、ガスとの接触面積が大きいものを用いることができる。
【0030】
この製造方法では、先ず基材の表面にアルミナ粉末からコート層を形成する。この工程は、従来の酸化触媒あるいは三元触媒にコート層を形成する方法と同様に行うことができ、一般にウォッシュコート法が用いられる。
【0031】
コート層には、表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgを含むMg化合物が担持され、Mg担持アルミナ層が形成される。Mg化合物としては、硝酸塩、アルコキシドなどを用いることができる。また表面のアルミナがMgAl2O4 となる量を超える量のMgということは、次工程での焼成時にMgとAlとの反応によってコート層の表面にMgAl2O4 相が形成されると同時にMgO 相が形成される量という意味である。したがってその量は、形成されるMgAl2O4 及びMgO の混合相の厚さによって異なるが、混合相のMgAl2O4 が固溶抑制層を構成すること、固溶抑制層の厚さは1〜 100nmの範囲とすることが望ましいことを鑑みると、コート層の表面積1m2当たり 0.003〜0.01モルのMgが含まれることが望ましい。例えば、NOx 吸蔵還元型触媒におけるNOx 吸蔵材の担持量は触媒1リットル当たり多くても1モルであり、このような少量のMg化合物をアルミナに担持し、後述の焼成条件で焼成した場合には、Mgは全てMgAl2O4 となってMgO 相が形成されない。
【0032】
なお担持工程では、コート層にMg化合物のみを担持してもよいし、Mg化合物に加えてAl硝酸塩、Al硝酸塩水溶液からの沈殿物、AlアルコキシドなどのAl化合物を担持してもよい。この場合は、上記したMgに加えて、Al化合物と反応してMgAl2O4 となる分のMgを増量する必要がある。
【0033】
次の焼成工程では、Mg担持アルミナ層が焼成されることで、コート層表面にMgAl2O4 及びMgO の混合相が形成される。この焼成温度は 750℃以上とすることが望ましい。焼成温度が 700℃未満であるとMgAl2O4 相の形成が困難となる。また焼成時間も重要な因子であり、焼成温度が低いとMgAl2O4 相の形成に長時間必要となり、焼成温度が高くとも焼成時間が短いとMgAl2O4 相の形成が困難となる。例えば 850℃で焼成する場合には2時間以上とすることが望ましく、MgAl2O4 相を形成できる最低温度である 700℃で焼成する場合には、5時間以上が必要となる。
【0034】
混合相のモル比Mg/Alは、上記した理由と同様の理由により、0.17<Mg/Al<0.67の範囲とすることが好ましく0.30<Mg/Al<0.55の範囲が特に望ましい。
【0035】
形成された混合相には、酸化触媒金属が担持される。この担持工程は、従来の酸化触媒などにおける貴金属担持工程と同様に行うことができる。またその担持量は、前述した担持量とされる。なお、混合相を形成する焼成工程は、酸化触媒金属の担持工程の後に行ってもよいし、酸化触媒金属の担持工程の前後に分けて行うこともできる。
【0036】
本発明のSOx 吸収材は、それ単独で使用することもできるが、排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置した排ガス浄化装置として用いることが特に好ましい。この本発明の排ガス浄化装置では、リーン雰囲気の排ガスがSOx 吸収材に接触することで、排ガス中のSO2 は酸化触媒金属によってSOx に酸化されてMgO に吸収される。本発明のSOx 吸収材はSOx 吸収容量が大きいので、排ガス中のSOx はほとんど全部が吸収され、下流側の触媒に流入するのが確実に抑制される。したがって下流側の触媒の硫黄被毒が抑制され、高いNOx 浄化率が発現される。
【0037】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高いことが望ましい。このように構成することで、下流側のNOx 吸蔵還元型触媒でNOx を還元浄化するためにストイキ又はリッチ雰囲気とされた時の温度は、SOx 吸収材の硫黄脱離温度より低くSOx 吸収材からSOx は放出されないので、リッチ雰囲気における下流側の触媒の硫黄被毒を確実に防止することができる。またSOx 吸収材のSOx 吸収能を回復するためにリッチ雰囲気とする際には、硫黄被毒したNOx 吸蔵材が分解する温度より高温となるため、SOx 吸収材のSOx 吸収能が回復するとともに、硫黄被毒したNOx 吸蔵材のNOx 吸蔵能も回復する。
【0038】
SOx 吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より20℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがさらに望ましい。またSOx 吸収材のSOx 吸収能を回復するためのリッチ再生処理の温度も、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より20℃以上高くすることが好ましく、50℃以上高くすることがさらに望ましい。
【実施例】
【0039】
以下、参考例、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【0040】
(参考例1)
コージェライト製で六角セルをもつハニカム基材(直径30mm、長さ50mm)を用意し、ウォッシュコート法によりγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。コート層の形成量は、ハニカム基材1L当たり 207gである。
【0041】
次に、所定濃度の酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 850℃で5時間焼成した。酢酸マグネシウムは、ハニカム基材1L当たりMgとして1.35モル担持され、モル比Mg/Alは0.33であった。
【0042】
(参考例2)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして2.03モル担持したこと以外は参考例1と同様である。モル比Mg/Alは0.50であった。
【0043】
(参考例3)
酢酸マグネシウム 107gと硝酸アルミニウム 379gを1800mlのイオン交換水に溶解し、この水溶液に25%アンモニア水 650gを添加して沈殿物を得た。この沈殿物を大気中にて 850℃で5時間焼成し、 MgAl2O4粉末を作製した。
【0044】
この粉末を、参考例1と同様のハニカム基材に1L当たり 200gコートした。コート層のモル比Mg/Alは 0.5であった。
【0045】
(参考例4)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして0.63モル担持したこと以外は参考例1と同様である。モル比Mg/Alは0.17であった。
【0046】
<試験・評価>
参考例1〜4で調製された各層をX線回折分析し、各X線回折チャートを図1〜4にそれぞれ示す。参考例1,2ではMgO のピークが観察されるのに対し、参考例3,4ではMgO のピークが観察されない。すなわち参考例4のようにモル比Mg/Alが0.17では、酢酸マグネシウムはアルミナと反応して全て MgAl2O4となり、また共沈法で得られた沈殿を焼成する方法では、モル比Mg/Alが 0.5であっても、酢酸マグネシウムはアルミナと反応して全て MgAl2O4となっていることがわかる。共沈法の場合には、MgとAlとの接触確率がきわめて高いために、Mgは全てAlと反応したものと考えられる。
【0047】
上記した結果を踏まえ、以下のように実施例及び比較例のSOx 吸収材を調製した。
【0048】
(実施例1)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして 0.5モル担持したこと以外は参考例1と同様にして、MgO と MgAl2O4との混合相からなる層を形成した。次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。さらにハニカム基材1L当たり0.85モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.33である。
【0049】
(実施例2)
酢酸マグネシウムを、ハニカム基材1L当たりMgとして1.35モル担持したこと以外は参考例1と同様にして、MgO と MgAl2O4との混合相からなる層を形成した。次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。
【0050】
本実施例のSOx 吸収材の要部拡大断面図を図5に示す。このSOx 吸収材は、コージェライトからなるハニカム基材1と、ハニカム基材1のセル隔壁表面に形成されたSOx 吸収材コート層2(担体)と、SOx 吸収材コート層2中のアルミナ粒子3の表面に形成された固溶抑制層4とから構成されている。固溶抑制層4は MgAl2O4とMgO 5との混合相からなり、固溶抑制層4にはPt6が担持されている。
【0051】
(実施例3)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり1.35モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.33である。
【0052】
(実施例4)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり 1.8モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.44である。
【0053】
(実施例5)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり2.03モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。混合相のモル比Mg/Alは0.50である。
【0054】
(実施例6)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり 2.7モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。形成された混合相のモル比Mg/Alは0.67である。
【0055】
(比較例1)
参考例3で調製された MgAl2O4粉末を用い、参考例1と同様にしてハニカム基材1L当たり 200gの形成量でコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。コート層のモル比Mg/Alは0.50である。
【0056】
(比較例2)
参考例1と同様にして、ハニカム基材1L当たり 207gの形成量でγ-Al2O3粉末からなるコート層を形成した。そしてジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。次いでハニカム基材1L当たり0.68モル/Lとなる量のMgを含む酢酸マグネシウム水溶液の所定量をコート層に吸水させ、 120℃にて乾燥後、大気中にて 750℃で5時間焼成した。形成された MgAl2O4層のモル比Mg/Alは0.17である。
【0057】
<試験・評価>
実施例及び比較例の各SOx 吸収材のコート層成分をペレット状とし、その 0.6gを固定床流通型反応装置に充填して、S吸収量とS脱離開始温度をそれぞれ測定した。測定は、表1に示すモデルガスを用い、リッチガスで前処理した後、図6に示す評価パターンのように各ガスで処理した。すなわち、 400℃でS付着処理を行った後、 200℃から 750℃まで14℃/分で昇温してS脱離処理を行った。ガス流量は6L/分である。
【0058】
【表1】
【0059】
そして出ガス中のS濃度を測定し、出ガスS濃度が1ppm以上となる時間までの入りガスS濃度と出ガスS濃度との差分からS吸収量を算出し、ペレット 100g当たりのS吸収量を算出した。また出ガスS濃度が1ppm以上となった時の温度をS脱離温度とした。それぞれの結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より、実施例1〜5のSOx 吸収材は、比較例1に比べてS付着量が多く、比較例1,2に比べてS脱離開始温度が高いことが明らかであり、これはMgAl2O4 及びMgO からなりモル比Mg/Al>0.17の混合相を形成したこと、MgAl2O4 がMgO の固溶抑制層として機能したこと、による効果であることが明らかである。
【0062】
また実施例6は比較例1,2に比べてS脱離開始温度が高いものの、S付着量がきわめて少ない。これはモル比Mg/Alが0.67と大きいために、耐熱性が低下し比表面積が小さくなってSOx の吸収容量が大幅に低下したためである。
【0063】
すなわち実施例1〜5のSOx 吸収材は、MgO が表面に高分散に、かつ熱的に安定して存在しているため、SOx 吸収容量が大きく、S脱離温度が高いことが明らかである。
【0064】
(実施例7)
本実施例の排ガス浄化装置を図7に示す。排ガス上流側には本発明のSOx 吸収材5が配置され、その下流側にNOx 吸蔵還元型触媒6が配置されている。SOx 吸収材5は、実施例4のSOx 吸収材を長さが15mmとなるように切断したものを用いている。またNOx 吸蔵還元型触媒6は、以下のようにして調製した。
【0065】
アルミナ粉末 100g、チタニア−ジルコニア複合酸化物粉末 100g、Rhをジルコニアに1重量%担持したRh/ZrO2粉末50g、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末 20gをイオン交換水と混合してスラリーを調製した。このスラリーを用い、コージェライト製で六角セルをもつハニカム基材(直径30mm、長さ35mm)にウォッシュコートしてコート層を形成した。コート層の形成量は、ハニカム基材1L当たり 270gである。
【0066】
次いでジニトロジアンミン白金硝酸溶液を用い、2g/LとなるようにPtを選択吸着担持した後、大気中にて 300℃で3時間焼成した。さらに酢酸バリウム、酢酸カリウム及び酢酸リチウムの混合水溶液を、ハニカム基材1L当たりBaが 0.2モル、Kが0.15モル、Liが 0.1モルとなる必要量吸水含浸させ、大気中にて 300℃で3時間焼成した。
【0067】
(比較例3)
SOx 吸収材5に代えて、上記NOx 吸蔵還元型触媒6を長さが15mmとなるように切断したものを用いたこと以外は実施例7と同様である。
【0068】
<試験・評価>
実施例7と比較例3の排ガス浄化装置を評価装置にそれぞれ配置し、直噴ガソリンエンジンのスタート触媒下流の排気組成を模擬したモデルガスを用いてNOx 吸蔵還元性能を評価した。空間速度SVは全て51400h-1である。
【0069】
すなわち表3に示す前処理ガスを用いて 650℃で10分間前処理した後、表3に示すS被毒ガスをリーン 120秒/リッチ3秒で交互に切り替えながら 400℃で41分間流し、触媒2L当たりのS供給量を6gとした。この後、表3に示す再生ガスを用いて 700℃で10分間処理した。さらにその後、表3に示すS被毒ガスをリーン 120秒/リッチ3秒で交互に切り替えながら 400℃で41分間流し、触媒2L当たりのS供給量を6gとした。
【0070】
【表3】
【0071】
上記試験中のNOx 浄化率を連続的に測定し、結果を図8に示す。実施例7の装置は、比較例3の装置に比べてNOx 浄化率の低下度合いが小さく、硫黄被毒が抑制されていることがわかる。また比較例3の装置においてNOx 浄化率が約35%となる時までのS通過量は4gであるが、実施例7ではS通過量が約8gでも同等のNOx 浄化率を実現することができるといえる。すなわちS通過量に対する劣化率は、実施例7が比較例3の約1/2となり、実施例7の排ガス浄化装置は耐硫黄被毒性にきわめて優れている。これは、SOx 吸収材5を排ガス上流側に配置した効果であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】参考例1で形成された層のX線回折チャートである。
【図2】参考例2で形成された層のX線回折チャートである。
【図3】参考例3で形成された層のX線回折チャートである。
【図4】参考例4で形成された層のX線回折チャートである。
【図5】本発明の第2の実施例のSOx 吸収材の要部を拡大した模式的断面図である。
【図6】実施例における評価パターンを説明するタイムチャートである。
【図7】本発明の実施例7の排ガス浄化装置の構成を示す説明図である。
【図8】実施例7と比較例3の排ガス浄化装置のNOx 浄化率の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1:ハニカム基材 2:SOx 吸収材コート層 3:アルミナ
4:固溶抑制層 5:MgO 6:Pt
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体と、該担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層と、該固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなることを特徴とする硫黄酸化物吸収材。
【請求項2】
前記固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にある請求項1に記載の硫黄酸化物吸収材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硫黄酸化物吸収材を排ガス流路に配置し、該硫黄酸化物吸収材の排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置してなることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記硫黄酸化物吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高い請求項3に記載の排ガス浄化装置。
【請求項1】
大気中にて 700℃以上の温度で5時間以上焼成した後の比表面積が 120m2/g以上でありAl2O3 と同等以上の塩基性を有する担体と、該担体の表面に形成されMgAl2O4 及びMgO の混合相からなる固溶抑制層と、該固溶抑制層に担持された酸化触媒金属と、からなることを特徴とする硫黄酸化物吸収材。
【請求項2】
前記固溶抑制層におけるモル比Mg/Alは、0.17<Mg/Al<0.67の範囲にある請求項1に記載の硫黄酸化物吸収材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の硫黄酸化物吸収材を排ガス流路に配置し、該硫黄酸化物吸収材の排ガス下流側にNOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方を配置してなることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記硫黄酸化物吸収材の硫黄脱離温度は、NOx 吸蔵還元型触媒及びNOx 選択還元型触媒の少なくとも一方の硫黄脱離温度より高い請求項3に記載の排ガス浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−200677(P2008−200677A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73151(P2008−73151)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願2004−292539(P2004−292539)の分割
【原出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【分割の表示】特願2004−292539(P2004−292539)の分割
【原出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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