説明

硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法及びキット、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤、ならびに硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット

【課題】硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法及びキット、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤、ならびに硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキットの提供。
【解決手段】生体試料における、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の検出方法。そのキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法及びキット、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤、ならびに硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
α1IV型コラーゲン(Col4)は、血管内皮細胞と中膜平滑筋細胞の間に存在する血管基底膜の主要な構成成分であり、Col4の過剰産生は糖尿病性血管障害、動脈硬化、老化に関連する疾患に決定的な役割を果たす。また、持続的な高血糖状態は糖尿病の合併症の主要な原因であると認識されている(非特許文献1及び2)。過剰なAdvanced glycation end products(AGEs)は高血糖によっておき、血管およびその他細胞において様々なイベントを誘導する事が知られており、おそらく数種類のAGEsレセプターを通じて病態に関わっていると考えられる(非特許文献3、4及び5)。AGEsは近年では糖尿病合併症に関わるだけではなく、老化による動脈硬化にも関連するという考えが受け入れられている(非特許文献6及び7)。さらに、切断型の可溶性のAGEsレセプターが、糖尿病性の動脈硬化の進展を抑制するという報告がある(非特許文献8)。
【0003】
糖尿病性腎症の進行は、形態学的には腎糸球体基底膜(GBM)の肥厚および細胞外基質(ECM)の増大によって特徴付けられる。Col4は糸球体基底膜肥厚および細胞外基質増大の主要な構成成分であるので、Col4が糖尿病の状態においてどのように転写制御されるかを明らかにすることは重要である。Col4の双方向性の130bpのプロモーターは、いくつかのDNA結合タンパクと反応することが知られている大きなステムループ構造(CIV)を持つ(非特許文献9)。本発明者らは、先の報告においてゲルシフトアッセイにより、未知のタンパクがAGEsへの暴露によりCol4が誘導される場合のみにCIVに結合することを示した(非特許文献10)。
メサンギウム細胞の増殖と糸球体硬化は共に進行性の糸球体障害の主要な病理学的特徴である。多くの糸球体硬化を伴う疾患でメサンギウム細胞の増殖が見られる事は進行性の糸球体障害においてこのプロセスが重要である事を示唆している(非特許文献11(A1),非特許文献12(A2))。2つのイベントはほとんどの糸球体疾患で同時に見られるが、メサンギウム細胞の増殖がどのように糸球体硬化の進展に関与しているかは明らかではない。
血小板由来増殖因子(PDGF)がメサンギウム細胞の重要な分裂促進因子である事がin vivoでもin vitroでも示されている(非特許文献13(A3)、非特許文献14(A4))。PDGFが糸球体硬化の進展の鍵となる役割を果たしている事については、実験モデルだけではなくヒトの糸球体疾患でもいくつかの証拠がある(非特許文献13(A3))。PDGF-BBもまたメサンギウム細胞の増殖に重要であると報告されており(非特許文献15(A5))、残存腎モデルでは続いて糸球体硬化の進展が起きる(非特許文献16(A6))。ラットの糸球体腎炎モデルにおいてPDGFに対する中和抗体を投与したところ、メサンギウム細胞の増殖と糸球体硬化の両方が顕著に回復したが(非特許文献17(A7))、細胞増殖の抑制が糸球体硬化病変を抑制する機序はほとんど知られていない。
【0004】
【非特許文献1】The Diabetes Control and Complications Trial Research Group. N. Engl. J. Med. 329, 977-986(1993).
【非特許文献2】UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Lancet 352, 837-853 (1998)
【非特許文献3】H. Vlassara, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 11704-11708 (1994).
【非特許文献4】M. Brownlee, A. Cerami, H. Vlassara, N. Engl. J. Med. 318, 1315-1321 (1988).
【非特許文献5】T. Doi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 89, 2873-2877 (1992).
【非特許文献6】H. Vlassara, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 89, 12043-12047 (1992).
【非特許文献7】M. S. Huijberts, et al., J. Clin. Invest. 92, 1407-1411 (1993).
【非特許文献8】S. L. Park, et al., Nature Med. 9, 1025-1031 (1998)
【非特許文献9】L. A. Bruggeman, P. D. Burbelo, Y. Yamada, P. E. Klotman, Oncogene 7, 1497-1502 (1992).
【非特許文献10】N. Iehara, H. Takeoka, Y. Yamada, T. Kita, T. Doi, Kidney Int. 50, 1166-1172 (1996).
【非特許文献11】Fogo A, Ichikawa I. Evidence for the central role of glomerular growth promoters in the development of sclerosis. Semin Nephrol. 1989 Dec;9(4):329-42.
【非特許文献12】Striker LJ, Doi T, Elliot S, Striker GE. The contribution of glomerular mesangial cells to progressive glomerulosclerosis. Semin Nephrol. 1989 Dec;9(4):318-28. Review.
【非特許文献13】Floege J, Johnson RJ: Multiple roles for platelet-derived growth factor in renal disease. Miner Electrolyte Metab 21: 271-282, 1995
【非特許文献14】Doi T, Vlassara H, Kirstein M, Yamada Y, Striker GE, Striker LJ: Receptor-specific increase in extracellular matrix production by mesangial cells by advanced glycosylation end products is mediated via platelet-derived growth factor. Proc Natl Acad Sci USA 89: 2873-2877, 1992
【非特許文献15】Barnes JL, Hevey KA. Glomerular mesangial cell migration in response to platelet-derived growth factor. Lab Invest. 1990 Mar;62(3):379-82.
【非特許文献16】Floege, J., Burns, M. W., Alpers, C. E., Yoshimura, A., Pritzl, P., Gordon, K., Seifert, R. A., Bowen-Pope, D. F., Couser, W. G., and Johnson, R. J.: Glomerular cell proliferation and PDGF expression precede glomerulosclerosis in the remnant kidney model. Kidney Int. 41: 297-309, 1992
【非特許文献17】Johnson, R. J., Raines, E. W., Floege, J, et al: Inhibition of mesangial cell proliferation and matrix expansion in glomerulonephritis in the rat by antibody to platelet-derived growth factor. J Exp Med 175: 1413-1416, 1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
糖尿病性腎症は末期腎不全の主な原因である。IV型コラーゲンは血管基底膜や腎糸球体メサンギウム基質の主要な構成成分であり、糖尿病における血管障害に重大な役割を果たしているが、糖尿病の状態で何がIV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっているかは知られていない。本発明は、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質を同定し、その物質が糖尿病性腎症の病因として決定的な役割を持つことを示すことを目的とする。また、本発明は、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質を利用した糖尿病性腎症の検出方法及びキットを提供することも目的とする。さらに、本発明は、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質の発現を抑制する作用を有する物質の用途を提供することも目的とする。さらにまた、本発明は、糖尿病性腎症の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットを提供することも目的とする。
また、本発明は、PDGF-B鎖による活性化を阻害するPDGFβ受容体抗体(APB5)投与の効果をラットの糸球体腎炎において示し、PDGFシグナル伝達系が糸球体細胞増殖と糸球体硬化の両方を調節している事をin vivoとin vitroで示すことを目的とする。本発明は、糸球体細胞増殖と糸球体硬化に関わっている物質を利用した、硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法及びキットを提供することも目的とする。さらに、本発明は、糸球体細胞増殖と糸球体硬化に関わっている物質の発現を抑制する作用を有する物質の用途を提供することも目的とする。さらにまた、本発明は、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質としてSmad1を同定し、Smad1が糖尿病性腎症の病因として決定的な役割を持つことを示した。また、本発明者らは、健常人及び糖尿病性腎症の患者の腎糸球体におけるSmad1及びアクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1)の発現を調べたところ、糖尿病性腎症患者におけるSmad1及びALK1の発現は硬化性病変の重症度と比例するが、健常人ではSmad1及びALK1の発現がほとんど認められなかったことも見出した。さらに、Smad1の発現を制御するBMP2及び4の発現がAGEs刺激下で増加することも見出した。
ところで、多くの糸球体硬化を伴う疾患群において、メサンギウム細胞の増殖が認められることは、進行性の糸球体障害においてこのプロセスが重要である事を示唆しているが、細胞増殖と糸球体硬化の関連は明らかではない。最近本発明者らは糖尿病性の糸球体硬化において、糸球体硬化の主要な構成成分であるIV型コラーゲン(Col4)の過剰発現がSmad1により転写調節されている事を示した。本研究において、本発明者らはPDGF-B鎖による活性化を阻害するPDGFβ受容体抗体(APB5)投与の効果をラットの糸球体腎炎において示し、PDGFシグナル伝達系が糸球体細胞増殖と糸球体硬化の両方を調節している事をin vivoとin vitroで示した。
メサンギウム増殖性糸球体腎炎の実験モデル(Thy1 GN)は抗ラットThy-1.1モノクローナル抗体の一回の静脈注射によって誘発された。Thy1 GNにおいてメサンギウム細胞の増殖とCol4の発現は6日目で最大となった。Smad1、リン酸化Smad1(pSmad1)、リン酸化STAT3(pSTAT3)に対する免疫組織染色を行なった結果、糸球体のSmad1の発現ピークは6日目であり、メサンギウム増殖とピークが一致していた。糸球体のpSmad1の発現はThy1 GNの1日目より上昇し、発病後4日目に最大となった。APB5で処置したグループではメサンギウム細胞増殖も糸球体硬化も有意に減少した。Smad1、pSmad1、pSTAT3の発現もまたAPB5の投与により調査した全てのポイントで有意に減少していた。APB5処理はin vitroでpSmad1、pSTAT3の発現低下やCol4タンパクの発現の減少と付随してメサンギウム細胞の増殖を減少させた。培養メサンギウム細胞で、ドミナントネガティブなSTAT3の導入はCol4の発現を有意に低下させた。これらのデータは、STAT3とSmad1の活性化がメサンギウム細胞増殖から糸球体硬化への進展に関与している事を示唆している。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 生体試料における、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法。
(2) 生体試料における、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、硬化をもたらす増殖性疾患の進行度及び/又は治療の有効性を評価する方法。
(3) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患を検出するためのキット。
(4) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患の進行度及び/又は治療の有効性を評価するためのキット。
(5) 生体試料における、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の検出方法。
(6) 生体試料における、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価する方法。
(7) Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症を検出するためのキット。
(8) Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価するためのキット。
(9) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤。
(10) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤。
(11) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤。
(12) 被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法。
(13) 被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法。
(14) 被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法。
(15) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定するためのキット。
(16) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定するためのキット。
(17) STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定するためのキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質としてSmad1が同定され、Smad1が糖尿病性腎症の病因として決定的な役割を持つことが示された。これにより、糖尿病性腎症の検出が可能となり、さらに、糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤が提供された。また、本発明により、糖尿病性腎症の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットが提供された。
また、本発明により、STAT3とSmad1の活性化が進行性の糸球体障害時の2つの現象、細胞増殖と糸球体硬化の相互作用を調節する鍵となるパスウェイにある事が示された。これにより、硬化をもたらす増殖性疾患の検出が可能となり、さらに、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤が提供された。また、本発明により、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットが提供された。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2003‐319538号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Smad1によりCol4プロモーターが活性化されることを示す。(A):AGEs存在下またはBSA存在下(対照)での培養メサンギウム細胞を用い、図に示した抗体を用いてクロマチン免疫沈降法を行なった。CIV-1モチーフに対するプライマーを用いてPCRを行なった。3回繰り返し行なった実験のうちの1回の結果を示す。(B):CIV-1-LacZレポータープラスミドと野生型Smad1を入れたベクター、またはベクターのみ(mock)をCMV-LUCを内部コントロールとして培養細胞に同時導入した。細胞抽出液をウェスタンブロット法で抗Smad1抗体と抗pSmad1抗体で解析した。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示す。(C):48時間後、培養細胞を溶解し、β-ガラクトシダーゼ活性とルシフェラーゼ活性を測定した。測定は各3回行いSDを示す。
【図2】AGEsへの暴露によりダイナミックに変動するSmad1発現を示す。(A):AGEsまたはBSAに暴露したメサンギウム細胞のSmad1とCol4mRNA発現の経時的変化をRNase protection assayで見た。AGEsへの持続的な暴露はSmad1の発現を持続的に亢進し、Col4の発現も平行して増える。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示した。(B):AGEsまたはBSA存在下で72時間、120時間培養したメサンギウム細胞の免疫蛍光写真。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示す。(C):AGEsまたはBSA存在下で72時間培養された際のSmad1とpSmad1をウェスタンブロットで見た。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示した。
【図3】メサンギウム細胞におけるSmad1に対する特異的アンチセンスオリゴの効果を示す。(A):72時間のAGEs処理後、メサンギウム細胞はSmad1に対するアンチセンスオリゴ、または4ミスマッチオリゴ(対照)で16時間処理した。アンチセンスオリゴで処理された細胞のメサンギウム細胞を抗Smad1抗体(緑)で免疫蛍光染色し、さらにDAPI染色した(blue)。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示す。(B):AGEs暴露後のメサンギウム細胞にSmad1に対するアンチセンスオリゴまたは4ミスマッチオリゴ(対照)を導入した。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示す。(C):Smad1に対するアンチセンスオリゴはSmad1の発現亢進を阻害するが、同時にCol4の発現亢進も阻害する。3回繰り返し行なった実験の1回の結果を示す。
【図4】Smad1とALK1の発現を糖尿病性腎症のヒトで検出した結果を示す。糖尿病5例、非糖尿病3例の糸球体を抗Smad1抗体と抗ALK1抗体を用いて免疫組織染色した。糸球体でのSmad1とALK1の発現は糖尿病では顕著に認められたが、非糖尿病では認められなかった。すべての切片はヘマトキシリンにより対比染色した。写真の拡大率はすべて400倍である。
【図5】AGEs存在下にて培養したメサンギウム細胞におけるmRNAの発現量をBSA存在下での培養メサンギウム細胞のそれと比較した結果を示す。
【図6】糖尿病性腎症患者の尿中BMP2をウェスタンブロット法で測定した結果を示す。
【図7】TGF-βシグナルによる慢性的刺激下でのBMP2およびBMP4タンパクの発現をウェスタンブロット法で測定した結果を示す。
【図8】実施例1の結果に基づくシグナル伝達経路の模式図である。
【図9】Thy1 GNラットがびまん性のメサンギウム基質の増殖とメサンギウム領域の拡大を形成している顕微鏡像である。抗Col4抗体を用いた免疫組織染色でThy1 GNの腎糸球体の拡大したメサンギウム領域では、ColIV過剰発現が認められた。APB5はメサンギウムの増殖とColIV発現を減少させた。Thy1 GNは糸球体でPDGF-B鎖とPDGFβ受容体もまた有意に陽性であったが、APB5はこれらの過剰発現も減少させた。A-C:PAM、D-F:ColIVG-H:PDGF-B鎖、J-K:PDGFβ受容体、A、D、G、J:正常対照ラット、B、E、H、J:6日目の疾患対照ラット、C、F、I、L:6日目のAPB5処置されたラット
【図10】Thy1 GNにおける組織学的な変化とAPB5投与の効果の定量。A:糸球体細胞数。Thy1 GN群では糸球体細胞数の増加が見られる。B:Thy1 GNのPCNA陽性細胞数。APB5処理されたラットの糸球体のPCNA陽性細胞数はどの調査ポイントでも有意に減少した。C:メサンギウム基質の増殖。6日目のThy1 GNラットでメサンギウム基質の増殖が観察された。APB5は各調査ポイントでメサンギウム基質の増殖を有意に減少させた。D:IV型コラーゲンの発現。対照群では、Col4は拡大したメサンギウム領域で強い陽性となった。APB5はCol4の発現を有意に減少させた。*P<0.001 vs. 対照群、**P<0.001 vs. APB5非処理疾患対照群
【図11】Thy1 GNにおけるSmad1、リン酸化Smad1、リン酸化STAT3の免疫組織化学染色。Thy1 GNラットの糸球体の免疫組織化学染色でSmad1、リン酸化Smad1、リン酸化STAT3の発現は驚くべき上昇を示した。Thy1 GNでリン酸化Smad1は核と同じ場所に顕著に認められた。APB5処置はそれぞれの有意な減少をもたらした。A-C:Smad1、D-F:リン酸化Smad1、G-I:リン酸化STAT3、A、D、G:正常対照ラット、B、E、H:6日目の未処置Thy1ラット、C、F、I:6日目のAPB5処置ラット
【図12】Smad1、pSmad1、pSTAT3発現のタイムコース。Thy1 GNラットの、0、1、2、4、6、12日目の腎切片に、Smad1、リン酸化Smad1、リン酸化STAT3に対する抗体を用いた免疫組織染色が行なわれた。A:Thy1 GNでのSmad1発現。Smad1発現は6日目で最大となり、12日目で沈静した。B:糸球体細胞全体に対するpSmad1陽性細胞の割合のタイムコース。pSmad1の発現は4日目で最大となった。C:pSTAT3発現のタイムコース。メサンギウム領域のpSTAT3陽性部分の割合は6日目まで増大し、12日目で沈静した。*P<0.001 vs. 対照群、**P<0.001 vs. 各調査ポイント
【図13】Smad1、pSmad1、pSTAT3発現におけるAPB5の効果。免疫組織染色とSmad1、pSmad1、pSTAT3の発現の定量を行なった結果、これらのタンパクはメサンギウム基質と糸球体のColIV発現と同じようにAPB5処置によって減少した。A:Smad1の発現。B:pSmad1の発現。C:pSTAT3の発現。*P<0.01 vs. APB5非処理疾患コントロール
【図14】in vivoにおけるAPB5の効果。A:APB5のメサンギウム細胞増殖の抑制効果。BDGF-Bの添加はメサンギウム細胞増殖を増大させ、APB5はこの増大を有意に阻害した。*P<0.05 vs. 対照、**P<0.05 vs. PDGF-B刺激を受けた対照、B:APB5の添加によりpSTAT3、pSmad1、Col4タンパクの発現が減少した事を示すウェスタンブロット解析。3回の独立した実験のうちの1回を示した。
【図15】遺伝子導入されたメサンギウム細胞のウェスタンブロット解析結果。pSmad1とCol4タンパクの発現はドミナントネガティブなSTAT3により減少した。3回の独立した実験のうちの1回を示した。
【図16】実施例1及び2の結果に基づくシグナル伝達経路の模式図である。
【図17】患者および正常者の尿を用いて抗ALK-1抗体を一次抗体としてウェスタンブロットを行なった結果である。レーン1−5:糖尿病性腎症患者、レーン6:糖尿病に硬化を伴う腎増殖性疾患を合併したミドコンドリア病患者、レーン7、8:糖尿病に硬化を伴わない腎疾患を合併した患者、レーン9−10:正常者
【図18】治療中の糖尿病性腎症患者尿を用いて抗ALK-1抗体を一次抗体としてウェスタンブロットを行なった結果である。レーン左より、治療開始時より1週間毎の泳動像を示す。
【図19】患者および正常者の尿を用いて抗Smad1抗体を一次抗体としてウェスタンブロットを行なった結果である。レーン1−5:糖尿病性腎症患者、レーン6:糖尿病に硬化を伴う腎増殖性疾患を合併したミドコンドリア病患者、レーン7、8:糖尿病に硬化を伴わない腎疾患を合併した患者、レーン9−10:正常者
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.糖尿病性腎症の検出方法及びキット
本発明は、生体試料におけるSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の検出方法を提供する。
【0011】
生体試料は、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質が検出されうるいかなる生体試料であってもよい。生体試料の例としては、腎臓組織切片、血液、血清、尿などを挙げることができる。
【0012】
Smadは哺乳類で1から9まで同定されており、Smad1は骨形成タンパク(BMP)シグナル伝達系の一員として知られており、BMPはアクチビン受容体キナーゼ2、3、6(ALK2、ALK3、ALK6)を介して標的遺伝子転写を調節する(Zwijsen A. et al., FEBS Letters 546, 2003, 133-139)。BMPシグナルと特異的に関わるSmadは他にSmad5および8がある。他にTGF-β/アクチビンシグナルと特異的に関わるとされているSmadがあり、Smad2とSmad3が挙げられる。一方、Smad1は、内皮細胞および造血細胞等ではアクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1)を介してTGF-βのシグナルを伝達し標的遺伝子の転写調節を行う事も明らかにされている(Goumans MJ. et al., EMBO J., 2002, Apr 2, 21(7), 1743-53)。すなわち、Smad1を活性化する事により標的遺伝子の転写調整を行なうシグナル伝達系は主なものとしてBMP系とTGF-β系の2通りが存在している(図8)。ただし、どの組み合わせによる経路が最も重要であるかは十分に検討されていない。
【0013】
「Smad1活性化作用を有する物質」は、Smad1を活性化することができる物質であればよく、アクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1)、アクチビン受容体様キナーゼ3(ALK3)のように直接的にSmad1を活性化する物質、骨形成タンパク(BMPs)のようにアクチビン受容体キナーゼ(ALKs)を活性化することにより間接的にSmad1を活性化する物質であってもよい。
PDGFもまた、直接間接の別は不明であるが、本発明者らの研究(実施例2)より、Smad1を活性化する事が明らかである。
「Smad1を活性する」とは、Smad1のセリン残基をリン酸化する事および/または核内へ移行させる事をいう。
【0014】
アクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1)は、TGF-βファミリーのタンパクに結合するtypeIレセプターの1つであり、Smad1を活性化する作用を持つことが知られている(Chen YG, et al., Smad1 recognition and activation by the ALK1 group of transforming growth factor-β family receptors J.Biol.Chem. Vol.274, No.6, 3672-3677, 1999)。ALK1はヒトでは胎盤、肺、血管内皮細胞で多く発現しており、ALK1の変異はOsler-Rendu-Weber症候群としても知られるタイプ2遺伝性出血性毛細血管拡張症を引き起こす(非特許文献17)。
アクチビン受容体様キナーゼ3(ALK3)は、別名BMPR-IAで、アクチビン受容体様キナーゼ3(ALK3)は、BMPファミリーのタンパクに結合するtypeIレセプターの1つであり、セリンースレオニン型のレセプターである。BMPsと結合したALK3は、Smad1/5/8を活性化し、核内へのシグナル伝達を担っている。
【0015】
骨形成タンパク(BMPs)はTGF-βスーパーファミリーの一員であり、骨形成をはじめ発生期における四肢の発生や神経系の分化に関与している。しかし、近年、BMPsが後腎の発生の調節に関わるという報告がいくつかされ、注目されている。腎臓は中間中胚葉から発生し、前腎、中腎、後腎の3段階を経て形成される。前腎、中腎のほとんどは後に退行変性し、哺乳類成体において機能する腎臓は後腎である。BMPとそのレセプターの転写物は発生途上の後腎に局在し、BMP2、4、7はIn vitroで尿管の分岐の形態形成と分岐の構造の調節に直接または間接の役割を持つ。In vivoでは、BMP7無発現変異ホモのミュ−タントマウスとBMP4無発現変異ヘテロのミュータントマウスで腎臓の表現型に変化があると報告されている。(Martinez G, et al, Int J Dev Biol. 2002;46(4):525-33)。
TGF-βは、多岐にわたる作用を持ち、種々の細胞の増殖・分化、細胞外マトリックス産生、アポトーシス、免疫系などに重要な働きを持っている。TGF−βは、細胞表面の受容体に結合し細胞内へそのシグナルを伝達する。細胞内でのシグナル伝達には一連のSmadタンパク分子群が重要な役割を果たしている。
【0016】
従来、糖尿病性腎症の発症および進展には高血糖状態下TGF-βがALK5を介してSmad2およびSmad3を活性化しα1IV型コラーゲンを始めとする細胞外マトリックスを過剰に産生させる方向に働く経路が関連していると考えられていたが(Jin H. et al., Kidney International, 63, 2003, 2010-2019)、本研究は高血糖状態下においてSmad1を介して細胞外マトリックスの過剰産生をもたらす経路が存在することを初めて示すものである。
【0017】
Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現は、核酸レベル(すなわち、mRNAの発現)及び/又はタンパク質レベルで測定することができる。
【0018】
核酸レベルでの測定については、生体試料から全RNAを抽出し、適当なプライマー対を用いて、RT-PCRによりSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質のmRNAを測定するとよい。適当なプライマー対は、例えば、NCBI RefseqデータベースのNM_005900のヒト由来のSmad1のmRNAの塩基配列(配列番号1)、NCBI RefseqデータベースのNM_000020のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ1のmRNAの塩基配列(配列番号2)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001200 VERSION NM_001200.1のBMP2のmRNAの塩基配列(配列番号3)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001202 VERSION NM_001202.2のBMP4のmRNAの塩基配列(配列番号4)などの特定の領域を特異的に増幅できるように設計するとよい。適当なプライマー対の塩基配列を以下に示す。
Smad1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー :5’-ACTACCACCACGGCTTTCAC-3’ (配列番号5)、リバースプライマー:5’-AATAGGATTGTGGGGTGAGC-3’ (配列番号6)
ALK1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’-ccgtcaagatct tctcctcg-3’ (配列番号7)、 リバースプライマー:5’-tcatgtctgaggcgatgaag-3’ (配列番号8)
BMP2のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’- cccagcgtgaaaagagagac-3’(配列番号9)、 リバースプライマー:5’- gagaccgcagtccgtctaag-3’(配列番号10)
BMP4のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’- tgagcctttccagcaagttt -3’(配列番号11)、 リバースプライマー:5’- cttccccgtctcaggtatca -3’(配列番号12)
あるいは、生体試料から全RNAを抽出し、適当なプローブを用いて、ノーザンハイブリダイゼーション法によりSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質のmRNAを測定してもよい。適当なプローブは、例えば、NCBI RefseqデータベースのNM_005900のヒト由来のSmad1のmRNAの塩基配列(配列番号1)、NCBI RefseqデータベースのNM_000020のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ1のmRNAの塩基配列(配列番号2)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001200 VERSION NM_001200.1のBMP2のmRNAの塩基配列(配列番号3)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001202 VERSION NM_001202.2のBMP4のmRNAの塩基配列(配列番号4)などを基にして、これらの配列の一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズするように設計するとよい。プローブは32Pなどで標識されているとよい。
【0019】
タンパク質レベルでの測定については、例えば、Smad1に対する抗体及び/又はSmad1活性化作用を有する物質に対する抗体を用い、ウェスタンブロット、ELISAまたは免疫組織化学的解析などの方法で、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質を測定するとよい。Smad1に対する抗体及び/又はSmad1活性化作用を有する物質に対する抗体は、蛍光色素、酵素、重金属などで標識されていてもよい(直接法)。あるいは、これらの抗体を標識する代わりに、これらの抗体(一次抗体)に特異的な抗体(二次抗体)を蛍光色素、酵素、重金属などで標識したものを用いてもよい(間接法)。抗体は、試験片またはラテックス粒子などの固相担体に固定されていることが好ましい。
【0020】
Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するとは、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現の有無を検出すること、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現量を定量することを包含する。
【0021】
本発明により、糖尿病性腎症を検出することができる。すなわち、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現は糖尿病性腎症の発症を示す。従来、糖尿病性腎症の診断には尿中IV型コラーゲン、尿中アルブミン測定測定が用いられているが、これらに代わる、あるいは補完する可能性がある。
【0022】
また、本発明により、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価することができる。すなわち、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現量は糖尿病性腎症の重症度に比例する。また、糖尿病性腎症の治療が有効であれば、患者の回復とともにSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現量が減少する。
【0023】
糖尿病性腎症とは、慢性的な高血糖状態により引き起こされる細小血管障害の一つである。病理学的には腎糸球体基底膜の肥厚、メサンギウム領域の拡大、糸球体の硬化病変を呈し、臨床的には蛋白尿(微量アルブミン尿)、高血圧、浮腫などの症候を呈して最終的には腎不全に陥ることが多い。また、糖尿病では糸球体以外の組織にも、細動脈硬化症、尿細管間質の変性・線維化などの異常が認められ、糸球体の病変をより悪化させている。すなわち、一定期間の糖尿病罹患の後、蛋白尿、高血圧、腎機能障害が徐々に進行していく病態を腎症と定義できる。
【0024】
近年、末期腎不全状態となり、新規に透析療法に導入されるケースの原疾患のうち30%以上が糖尿病性腎症であり、いまなお増加傾向にある。さらに、透析導入後の予後も必ずしも良好とはいえず、医療上、大きな問題となっている。したがって、糖尿病性腎症の発症・進展の機序を解明し、診断および治療の開発を行なうことは重要な課題となっている。(日本臨床55巻・1997年増刊号「糖尿病」(1))
また、本発明は、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症を検出するためのキットを提供する。
【0025】
さらに、本発明は、Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価するためのキットを提供する。
【0026】
Smad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するための試薬の例としては、Smad1のmRNAの塩基配列の特定の領域を特異的に増幅できるプライマー対、Smad1活性化作用を有する物質のmRNAの塩基配列の特定の領域を特異的に増幅できるプライマー対、Smad1のmRNAの一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズすることができるプローブ、Smad1活性化作用を有する物質のmRNAの一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズすることができるプローブ、Smad1に対する抗体、Smad1活性化作用を有する物質に対する抗体などを挙げることができる。これらのプライマー対及び抗体は、前述した通りである。
【0027】
本発明のキットは、さらに、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNase-free water、バッファー、対照mRNA、対照プライマー対、dNTP混合物、キットの使用説明書などを含んでもよい(核酸レベルでプライマー対を用いてSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するキットの場合)。
【0028】
あるいはまた、本発明のキットは、さらに、転写用バッファー、ブロッキング試薬、洗浄液、キットの使用説明書などを含んでもよい(ウェスタンブロット法でSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するキットの場合)。
【0029】
別の態様において、本発明のキットは、さらに、標識された二次抗体、基質(二次抗体が酵素で標識されている場合)、希釈液、反応停止剤、キットの使用説明書などを含んでもよい(ELISAでSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するキットの場合)。
【0030】
さらに別の態様において、本発明のキットは、さらに、発色剤、過酸化水素水、バッファー、カウンター染色用色素、キットの使用説明書などを含んでもよい(免疫組織化学的解析でSmad1及び/又はSmad1活性化作用を有する物質の発現を測定するキットの場合)。
2.硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法及びキット
本発明は、生体試料における、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、硬化をもたらす増殖性疾患の検出方法を提供する。
硬化をもたらす増殖性疾患とは、臓器の硬化が観察される疾患をいい、硬化に先立って、あるいは並行して細胞増殖および/または細胞外基質の増加が認められる状態を言う。これには、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、Light Chain Disease(L鎖沈着病)、ループス腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎、HIV関連腎炎、紫斑病性腎炎などの糸球体を障害する腎疾患、肝線維化、動脈硬化などを含む。
慢性糸球体腎炎とは、糸球体の炎症と進行性の破壊を起こす、腎臓疾患が慢性に持続している状態を言う。膜性増殖性糸球体腎炎、巣状糸球体硬化症、Light Chain Disease(L鎖沈着病)、ループス腎炎、クリオグロブリン血症性腎炎、HIV関連腎炎、紫斑病性腎炎などの疾患を含む症候群である。
糖尿病性腎症とは、糖尿病の代表的な合併症の1つであり、糖尿病による高血糖状態の持続により、腎機能が進行性に減少する状態を言う。
肝繊維化とは、肝硬変あるいは慢性肝炎などに見られ、肝類洞壁と肝細胞索の間(Disse腔)にコラーゲン等の細胞外基質の増加が認められる状態をいう。肝繊維化は肝細胞癌発生の危険因子であり、線維化が進むほど肝細胞癌の発生率が高くなる事が知られている。
動脈硬化とは、動脈壁が肥厚あるいは硬化する病変の総称であるが、酸化ストレスなどによる内皮細胞の傷害に起因する慢性炎症性・増殖性病変であると考えられている。動脈硬化の進行により、動脈の狭窄・閉塞が起こると血圧上昇、心筋梗塞、脳梗塞等を引き起こすが、臓器障害を起こす前の自覚症状は乏しい。
【0031】
生体試料は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質が検出されうるいかなる生体試料であってもよい。生体試料の例としては、腎臓組織切片、血液、血清、尿などを挙げることができる。
【0032】
STAT3は、signal transducer and activator of transcription(STAT)タンパクの1つである。STAT3は、インターフェロン、上皮成長因子、インターロイキン5、インターロイキン6、肝細胞増殖因子、白血病抑制因子、骨成長因子2などの様々なサイトカインや増殖因子がその受容体に結合すると、受容体関連キナーゼによりチロシンリン酸化される事により活性化される(リン酸化STAT3)。
リン酸化Smad1は、Smad1のセリン残基がリン酸化され活性化された状態のものである。
【0033】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現は、核酸レベル(すなわち、mRNAの発現)及び/又はタンパク質レベルで測定することができる。
【0034】
核酸レベルでの測定については、生体試料から全RNAを抽出し、適当なプライマー対を用いて、RT-PCRにより、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質のmRNAを測定するとよい。適当なプライマー対は、例えば、NCBI RefseqデータベースのNM_139276のヒト由来のSTAT3のmRNAの塩基配列(配列番号19)、NCBI RefseqデータベースのNM_005900のヒト由来のSmad1のmRNAの塩基配列(配列番号1)、NCBI RefseqデータベースのNM_000020のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ1のmRNAの塩基配列(配列番号2)、NCBI RefseqデータベースのNM_004329のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ3のmRNAの塩基配列(配列番号20)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001200 VERSION NM_001200.1のBMP2のmRNAの塩基配列(配列番号3)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001202 VERSION NM_001202.2のBMP4のmRNAの塩基配列(配列番号4)などの特定の領域を特異的に増幅できるように設計するとよい。適当なプライマー対の塩基配列を以下に示す。
STAT3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’-agatgctcactgcgctgga-3’(配列番号21)、リバースプライマー:5’-tccaatgcaggcaatctgtt-3’(配列番号22)
Smad1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’-ACTACCACCACGGCTTTCAC-3’ (配列番号5)、リバースプライマー:5’-AATAGGATTGTGGGGTGAGC-3’ (配列番号6)
ALK1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’-ccgtcaagatct tctcctcg-3’ (配列番号7)、 リバースプライマー:5’-tcatgtctgaggcgatgaag-3’ (配列番号8)
ALK3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’-tggcactgggatgaaatca-3’(配列番号23)、リバースプライマー:5’-tggttacataaattggtccga-3’(配列番号24)
BMP2のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’- cccagcgtgaaaagagagac-3’(配列番号9)、 リバースプライマー:5’- gagaccgcagtccgtctaag-3’(配列番号10)
BMP4のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマー:5’- tgagcctttccagcaagttt -3’(配列番号11)、 リバースプライマー:5’- cttccccgtctcaggtatca -3’(配列番号12)
あるいは、生体試料から全RNAを抽出し、適当なプローブを用いて、ノーザンハイブリダイゼーション法により、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質のmRNAを測定してもよい。適当なプローブは、例えば、NCBI RefseqデータベースのNM_139276のヒト由来のSTAT3のmRNAの塩基配列(配列番号19)、NCBI RefseqデータベースのNM_005900のヒト由来のSmad1のmRNAの塩基配列(配列番号1)、NCBI RefseqデータベースのNM_000020のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ1のmRNAの塩基配列(配列番号2)、NCBI RefseqデータベースのNM_004329のヒト由来のアクチビン受容体様キナーゼ3のmRNAの塩基配列(配列番号20)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001200 VERSION NM_001200.1のBMP2のmRNAの塩基配列(配列番号3)、GenBankデータベースのACCESSION NM_001202 VERSION NM_001202.2のBMP4のmRNAの塩基配列(配列番号4)などを基にして、これらの配列の一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズするように設計するとよい。プローブは32Pなどで標識されているとよい。
【0035】
タンパク質レベルでの測定については、例えば、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質に対する抗体を用い、ウェスタンブロット、ELISAまたは免疫組織化学的解析などの方法で、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質を測定するとよい。抗体は、蛍光色素、酵素、重金属などで標識されていてもよい(直接法)。あるいは、これらの抗体を標識する代わりに、これらの抗体(一次抗体)に特異的な抗体(二次抗体)を蛍光色素、酵素、重金属などで標識したものを用いてもよい(間接法)。抗体は、試験片またはラテックス粒子などの固相担体に固定されていることが好ましい。
【0036】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するとは、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現の有無を検出すること、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現量を定量することを包含する。
【0037】
本発明により、硬化をもたらす増殖性疾患を検出することができる。すなわち、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現は硬化をもたらす増殖性疾患の発症を示す。従来、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎などの糸球体を障害する腎疾患の診断には尿中IV型コラーゲン、尿中アルブミン測定測定が用いられているが、これらに代わる、あるいは補完する可能性がある。
【0038】
また、本発明により、硬化をもたらす増殖性疾患の進行度及び/又は治療の有効性を評価することができる。すなわち、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現量は、硬化をもたらす増殖性疾患の重症度に比例する。また、硬化をもたらす増殖性疾患の治療が有効であれば、患者の回復とともに、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現量が減少する。
【0039】
また、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患を検出するためのキットを提供する。
【0040】
さらに、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患の進行度及び/又は治療の有効性を評価するためのキットを提供する。
硬化をもたらす増殖性疾患とは、前述の通りである。
【0041】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬の例としては、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質のmRNAの塩基配列の特定の領域を特異的に増幅できるプライマー対、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質のmRNAの一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズすることができるプローブ、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質に対する抗体などを挙げることができる。これらのプライマー対及び抗体は、前述した通りである。
【0042】
本発明のキットは、さらに、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNase-free water、バッファー、対照mRNA、対照プライマー対、dNTP混合物、キットの使用説明書などを含んでもよい(核酸レベルでプライマー対を用いて、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するキットの場合)。
【0043】
あるいはまた、本発明のキットは、さらに、転写用バッファー、ブロッキング試薬、洗浄液、キットの使用説明書などを含んでもよい(ウェスタンブロット法で、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するキットの場合)。
【0044】
別の態様において、本発明のキットは、さらに、標識された二次抗体、基質(二次抗体が酵素で標識されている場合)、希釈液、反応停止剤、キットの使用説明書などを含んでもよい(ELISAで、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するキットの場合)。
【0045】
さらに別の態様において、本発明のキットは、さらに、発色剤、過酸化水素水、バッファー、カウンター染色用色素、キットの使用説明書などを含んでもよい(免疫組織化学的解析で、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1、リン酸化Smad1、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するキットの場合)。
【0046】
3.薬剤及び医薬組成物
本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤を提供する。
硬化をもたらす増殖性疾患とは、前述の通りである。
【0047】
また、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤を提供する。細胞外マトリックスとは、動物組織中の細胞の外側に存在する安定な生体構造物で、細胞が合成し、細胞外に分泌・蓄積した生体高分子の会合体である。培養細胞が合成・分泌し、細胞周辺に沈着させた構造物も含む。細胞外マトリックスは結合組織に多く見られるが、基底膜も細胞外マトリックスの一種である。
【0048】
さらに、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質を有効成分として含む、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤を提供する。
【0049】
これらの薬剤は、医薬品として、あるいは実験用の試薬として用いることができる。
【0050】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質の例としては、Smad1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(その塩基配列の一例を配列番号13に示す)、SANE(Smad1 Antagonistic Effector)(Raju GP et al., J Biol Chem. 2003 Jan 3;278(1):428-437)、PDGFβ受容体抗体(APB5)、STAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。いずれのタンパク質も遺伝子組換え技術を用いて大腸菌、酵母菌、昆虫細胞、動物細胞、または無細胞タンパク合成系などで産生することが可能である。Smad1又はSTAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、市販のDNA合成機を用いて公知の方法により合成することができる。抗マウスPDGFR−β抗体であるAPB5は以下のようにして作成することができる。マウスPDGFR−βの細胞外ドメインに相当するcDNAフラグメントをCD4Rgベクターに挿入し、ヒトIgG1との融合タンパクPDGFR-β/Human IgG1をCOS-1細胞株にて発現させた。上清より融合タンパクを精製してウィスター種のラットに免疫し、その脾臓細胞とミエローマ細胞株との融合細胞を作成し、PDGFR−βに対する抗体を産生する細胞を選別した。APB5に限らず、公知の方法により作成する事が可能な抗PDGFR-β特異抗体をAPB5と同様に用いることも可能である。
【0051】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質は、1種類のみ用いてもよいし、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質は単独で、あるいは、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤とともに、適当な剤型の医薬組成物として、哺乳動物(例えば、ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス)に対して経口的または非経口的に投与することができる。投与量は投与対象、疾患の種類、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、成人に投与する場合には、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質(例えば、SANE)を1回量として通常10〜100 mg/kg体重程度、好ましくは60〜40 mg/kg体重程度を、1か月に1〜2回程度、好ましくは治療開始時に同量を2〜3日連続して、静脈注射により投与するとよい。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合にはその症状に応じて増量してもよい。
【0053】
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などがあげられる。かかる組成物は常法により製造することができ、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有してもよい。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、庶糖、ステアリン酸マグネシウムなどがあげられる。
【0054】
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などがあげられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの剤型であるとよい。かかる注射剤は常法、すなわちSmad1の発現を抑制する作用を有する物質を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製される。注射用の水性液としては生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などがあげられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil))などと併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油などがあげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は通常適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、Smad1の発現を抑制する作用を有する物質を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製することができる。
【0055】
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、有効成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されるとよい。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0056】
また、上記の医薬組成物は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質との配合により好ましくない相互作用を生じない限り、他の有効成分を含有してもよい。
【0057】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制する作用を有する物質がSmad1又はSTAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドである場合には、公知の遺伝子導入法により被験者または被験者の細胞に導入することができる。例えば、Smad1又はSTAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドをリポソームに封入し、細胞内に取り込む方法("Lipidic vector systems for gene transfer"(1997) R.J. Lee and L. Huang Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst 14, 173-206;中西守ら、蛋白質 核酸 酵素 Vol.44, No.11, 1590-1596 (1999))、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、遺伝子銃による方法などで行うことができる。Smad1又はSTAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを細胞に導入する場合には、例えば、疾患部位の細胞を一部取り出し、in vitroで遺伝子導入を行った後、該細胞を再び組織に戻すことも可能であるし、あるいは、疾患部の組織に直接導入することもできる。
【0058】
Smad1又はSTAT3に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを有効成分として含む医薬組成物は、必要により、医薬上許容される担体(例えば、生理食塩水、緩衝液などの希釈剤)を含むことができる。投与は、疾病の状態の重篤度や生体の応答性によるが、治療の有効性が認められるまで、あるいは疾病状態の軽減が達成されるまでの期間にわたり、適当な用量、投与方法、頻度で行えばよい。
【0059】
4.硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキット
本発明は、被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法を提供する。
硬化をもたらす増殖性疾患とは、前述の通りである。
【0060】
また、本発明は、被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキットも提供する。
【0061】
さらにまた、本発明は、被験物質が、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を抑制するか否かを判定することを含む、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットも提供する。
【0062】
本発明の上記方法の一実施態様について説明する。
【0063】
まず、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質を発現する能力を持つ細胞を用意する。STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質を発現する能力を持つ細胞としてはいかなる細胞を用いてもよいが、その例として、動物の腎糸球体由来のメサンギウム細胞(例えば、後述の引用文献S1に記載のもの)、血管平滑筋細胞などを挙げることができる。
【0064】
STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質を発現する能力を持つ細胞を被験物質の存在下及び非存在下でそれぞれ培養し、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定する。被験物質の例としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら物質は新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質を発現する能力を持つ細胞の培養は、その細胞の培養に適した条件で行えばよい。例えば、マウスの腎糸球体由来のメサンギウム細胞(後述の引用文献S1)は、後述の実施例1に記載のようにして培養することができる。STAT3及びSmad1の発現を測定する方法は前述の通りである。
リン酸化STAT3及びリン酸化Smad1の発現は、それぞれ、抗リン酸化STAT3抗体(サンタクルスバイオテクノロジー)及び抗リン酸化Smad1抗体(カルビオケム)を一次抗体として用いる免疫染色により、測定することができる。
【0065】
被験物質の存在下で細胞を培養した場合のSTAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現量と、被験物質の非存在下で細胞を培養した場合のSTAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現量とを比較する。前者が後者より少なければ、被験物質が硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効であると判定する。あるいはまた、被験物質が細胞外マトリックスの増殖阻害に有効である、あるいは、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効であると判定する。反対に、前者が後者と同等であるか、あるいは前者が後者より多ければ、被験物質が硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効ではないと判定する。あるいはまた、被験物質が細胞外マトリックスの増殖阻害に有効でない、あるいは、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効でないと判定する。
【0066】
本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定するためのキットも提供する。
【0067】
また、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定するためのキットも提供する。
【0068】
さらに、本発明は、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1及びリン酸化Smad1からなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、α1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定するためのキットも提供する。
硬化をもたらす増殖性疾患とは、前述の通りである。
【0069】
STAT3又はSmad1の発現を測定するための試薬の例としては、STAT3又はSmad1のmRNAの塩基配列の特定の領域を特異的に増幅できるプライマー対、STAT3又はSmad1のmRNAの一部又は全部の領域に特異的にハイブリダイズすることができるプローブ、STAT3又はSmad1に対する抗体などを挙げることができる。これらのプライマー対及び抗体は前述した通りである。
リン酸化STAT3又はリン酸化Smad1の発現を測定するための試薬の例としては、抗リン酸化STAT3抗体(サンタクルスバイオテクノロジー)及び抗リン酸化Smad1抗体(カルビオケム)などを挙げることができる。これらの抗体は前述した通りである。
【0070】
本発明のキットは、さらに、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNase-free water、バッファー、対照mRNA、対照プライマー対、dNTP混合物、キットの使用説明書などを含んでもよい(核酸レベルでプライマー対を用いて、STAT3又はSmad1の発現を測定するキットの場合)。
【0071】
あるいはまた、本発明のキットは、さらに、転写用バッファー、ブロッキング試薬、洗浄液、キットの使用説明書などを含んでもよい(ウェスタンブロット法で、STAT3又はSmad1の発現を測定するキットの場合)。
【0072】
別の態様において、本発明のキットは、さらに、標識された二次抗体、基質(二次抗体が酵素で標識されている場合)、希釈液、反応停止剤、キットの使用説明書などを含んでもよい(ELISAで、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1又はリン酸化Smad1の発現を測定するキットの場合)。
【0073】
さらに別の態様において、本発明のキットは、さらに、発色剤、過酸化水素水、バッファー、カウンター染色用色素、キットの使用説明書などを含んでもよい(免疫組織化学的解析で、STAT3、リン酸化STAT3、Smad1又はリン酸化Smad1の発現を測定するキットの場合)。
【0074】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0075】
マウスCol4遺伝子のプロモーター領域のCIV部位に結合するタンパクを同定するために、AGEs処理されたマウスのメサンギウム細胞よりcDNAライブラリーを構築した。本実験ではYeast one-hybrid systemを用い、ライブラリーより特異的な転写因子をコードするクローンを選択し、そのクローンがSmad1をコードしていることを同定した。Smad1のCol4プロモーター領域への結合をin vivoで確認するために、クロマチン免疫沈降法(ChIP)を行なった。沈降したDNAを精製しCol4のプロモーター領域をPCRで検出した。抗Smad1抗体は、AGEs処理された細胞より得たCIV-1部位を含むクロマチンを沈降させた(図1A)。BSA処理された細胞では沈降しなかった。Smad4もまたCIV-1部位に結合することを見出した(図1A)。次にCol4の転写活性をレポーターアッセイにより検討した。LacZの前にCIV-1プロモーターをつないだベクターを作成し、野生型Smad1ベクターと共にCOS7細胞に同時導入した。まず、Western blotによりSmad1の発現を確認し(図1B)、野生型Smad1ベクターを導入した細胞上清にリン酸化Smad1(pSmad1)を検出した。野生型Smad1の同時導入によりCol4単独(Mock)の場合と比較してβ-ガラクトシダーゼ活性は18倍であった(図1C)。β-ガラクトシダーゼ活性はルシフェラーゼ活性により補正し、Mockベクターを同時導入した細胞での活性を基準とした。Mockは同時導入細胞のβ-ガラクトシダーゼ活性に全く影響を与えなかった。この結果は、Smad1が確かにCol4遺伝子転写を誘導することを示唆している。つまり、Smad1はCol4の転写を調節している。
【0076】
Smad1がAGEsによりアップレギュレートされているのかを確認するために、AGEs存在下・非存在下でのメサンギウム細胞でのSmad1の発現を調べた。AGE存在下ではSmad1のmRNA量は経時的に上昇した(図2A)。同様にCol4のmRNAもSmad1の転写が上昇するのとパラレルに上昇した。しかし、BSA存在下ではSmad1の転写もCol4の転写も変化しなかった。Smad1はリン酸化され、核内に移動し標的遺伝子の転写調節をすることで知られている(11)(12)。従って、次に本発明者らはAGEsによりSmad1のリン酸化および細胞内の移動が影響を受けるかという事をメサンギウム細胞で検討した(図2B)。mRNAの結果と一致し、AGEs存在下72時間の培養で細胞質に優先的に存在した。さらに、AGEs存在下120時間の培養でSmad1とpSmad1の核内への集積が認められた。BSA存在下での培養ではSmad1とpSmad1はわずかしか発現しない。同様にAGEs処理細胞の抽出液にはSmad1とpSmad1が認められたが、BSA処理細胞の抽出液には認められなかった(図2C)。これらの知見は、Col4の調節がAGEs存在下においてSmad1の発現と連動していることを示す。
【0077】
AGE誘導性のCol4の過剰産生を媒介するシグナル伝達系でのSmad1の重要性を確認するために、本発明者らはアンチセンス遺伝子を用いて特異的にこの系を阻害した。Smad1のAGEによる誘導はアンチセンス遺伝子の存在により全く消失したが、コントロールオリゴ存在下では消失しなかった(4ミスマッチオリゴ)(図3A、B)。そして、Smad1の阻害によりCol4の過剰発現が著しく減弱した。Smad1のミスマッチオリゴはCol4の発現には影響しなかった(図3C)。これらのデータはSmad1がCol4の発現制御に決定的な役割をになっていることを示す。糖尿病患者において糖尿病性腎症の発症・進行は罹患率・死亡率の両方において臨床上重大な問題である。現行の治療方法において血糖値のコントロールが良好であれば糖尿病性腎症の発症・進行を遅らせることはできるが、予防はすることができないことが明らかとなっている。(1)(2)Smad1に対するアンチセンスオリゴはAGEによるCol4の過剰発現を著しく減弱させる。これらの知見はSmad1シグナル系の阻害により、糖尿病性腎症におけるメサンギウム細胞のECMの産生を防げるという可能性を示唆している。本実験の効果はAGEsの持続的な刺激存在下において認められたので、Smad1は糖尿病の合併症の新たなターゲットと示唆され、現行の治療法に組み合わせることにより効果を発揮するものと思われる。AGEs処理によるSmad1発現のメカニズムをさらに解明するために、本発明者らはメサンギウム細胞におけるactivin-receptor liked kinase 1(ALK1)の発現を調べた。ALK1はTGF-β受容体ファミリーのタンパク質の1つであり、Smad1とSmad5を特異的にリン酸化する働きがある。ALK1は血管内皮細胞で多く発現しており(13)(14)、血管の成熟と安定化に重要であるといわれている(15)(16)。ALK1の変異は、Osler-Rendu-Weber症候群としても知られるタイプII遺伝性出血性毛細血管拡張症を起こす(17)。ALK1はTGF-βからのシグナルをSmad1を介して伝達し、TGF-β反応性遺伝子群の調節をしているという最近の報告がある(18)(19)。本発明者らは、AGEs処理されたメサンギウム細胞におけるALK1の発現をRNase protection assay法およびWestern blotting法を用いてそれぞれmRNA、タンパク質の両方を検出した(データは示さず)。最後に、ヒトの糖尿病性腎症における腎糸球体でのSmad1およびALK1の発現を調べた。糖尿病性腎症および健常腎のバイオプシーを試料として間接抗体法を実施したところ、腎糸球体でのSmad1とALK1抗体に対する反応性は、糖尿病性腎症である糸球体では硬化性病変の重症度と比例したが、健常腎ではほとんど発現が認められなかった(図4)。これらの組織学的な知見はCol4の正の調節とSmad1/ALK1シグナル伝達系に関係があることを示唆している。ヒトの糖尿病性腎症は長年にわたってゆっくりと進行するものなので、この現象の詳細な評価のためには糖尿病とSmad1およびALK1の関係を明らかにしなければならなさそうだ。
【0078】
マウスでのSmad1遺伝子の特異的な破壊は胎児期において致死性であることから、Smad1は早期の胚発生に決定的な役割を果たすと考えられる(20)。しかし、胎生期早期における致死性のために、Smad1のin vivoでの役割、とりわけ成人についてはあまりよくわかっていない。Smad1はBMPシグナルを伝達するものとして知られ(12)、特に腎の発生において重要であるといわれている(21)。しかし、Smad1はadult mouseの糸球体では発現がみられない(22)。本実験は、初めてadult mouseでSmad1の発現がAGEsにより誘導されることを示した。本発明者らは、AGEsへの慢性的な暴露がSmad1発現の持続的な上昇、Col4の過剰発現を観察し、Smad1が糖尿病存在下では決定的な調節因子であることを示唆した。AGEsは糖尿病の合併症に有意に関与しているため、本発明者らの研究結果はコラーゲンの沈着を伴う糖尿病や老化のような疾患に有用であると考えられる。GMBの構造の変化は糖尿病性腎症において、微量アルブミン尿がおきるより以前の初期に起きるため、Smad1は糖尿病性腎症の最も初期的なマーカーになるであろう。最近の報告でALK1がSmad1を介してTGF-βのシグナル伝達を仲介することが示された(18)(19)。従って、本発明者らはマウスのメサンギウム細胞とヒトの腎組織でのALK1の発現を検討した。その結果、ALK1とSmad1は腎糸球体において糖尿病の進行に対応して発現することを本実験で示した。これらの結果はコラーゲンの病的な産生を抑制することにより、さまざまな臓器で起きる糖尿病の合併症の治療につながる(1)。この結果は持続的な血糖値の上昇がAGEsの上昇をもたらし、長期的な糖尿病の合併症の進展に必須であることを確認するものである(23)(24)。糖化によりコラーゲンがクロスリンクし動脈硬化をすすめる(25)。さらに、AGEsと糖尿病の合併症と動脈硬化の相関がAGEsに特異的な阻害剤を使った研究により近年強調されている(26)(27)。Col4は血管基底膜の主要な構成成分であるにもかかわらず、糖尿病や老化におけるCol4の産生増進については、細胞レベルでも分子レベルでもメカニズムはほとんどわかっていない。従って、本発明者らはALK1/Smad1シグナル伝達系が糖尿病と老化の両方で、ECMを過剰発現させることにより動脈硬化の進展に関わっていると推測している。糖尿病や老化の動物モデルを用いてALK1/Smad1シグナル伝達系の解明をさらに進めるべく研究中である。
【0079】
さらに、AGEs存在下にて培養したメサンギウム細胞におけるmRNAの発現量をBSA存在下での培養メサンギウム細胞のそれと比較した(図5)。AGEs存在下ではBMPRII、BMP4の顕著な転写増強が認められる。Smad1の転写量に大きな変動は認められないが、Smad1は転写因子であるため発現量の大きな変動は捕え難く、また、転写因子の作用に重要である細胞質から核内への移行やリン酸化などはマイクロアレイの結果に反映しないためであると考えられる。
【0080】
また、糖尿病性腎症患者の尿中BMP2をウェスタンブロット法で測定したところ、治療による疾患の改善とともに尿中BMP2の減少が認められた(図6)。
【0081】
また、TGF-βシグナルによる慢性的刺激によりBMP2およびBMP4タンパクの著明な発現亢進が認められ(図7)、TGF-βシグナル伝達系において中心的な機能をこれらBMPsが担っている可能性が示唆される。
【0082】
実験に用いた材料と方法
Cell culture
正常な4週令のマウス(C57BL/6JxSJL/J)の腎糸球体由来のメサンギウム細胞株を樹立し、以前に報告した方法にしたがってメサンギウム細胞であることを同定した(S1)。メサンギウム細胞株は1mMグルタミン、100units/ml ペニシリン、100mg/ml ストレプトマイシン、20%FCSを加えてB培地(最少栄養培地と微量元素を添加したF12培地の3:1混合培地)にて培養した。培養細胞は腎糸球体メサンギウム細胞と判定されるための一般的な基準を満たした(S2)。AGEsまたはBSA処理は以前に報告した方法に従って行なった(S3)。
cDNA library construction and Yeast One-hybrid screening
AGEs処理をしたマウス腎糸球体培養細胞よりcDNAを調製しpGADベクターに挿入した。Yeast One-hybrid screeningはMATCHMAKER One-hybrid(Clontech, Palo Alto, California)キットを用いて行なった。マウス由来Col4遺伝子の27bpのタンデムリピート配列(TTCCTCCCCTTGGAGGAGCGCCGCCCG : CIV-1)(配列番号14)を酵母のintegration and reporter vectorであるpHISi(MATCHMAKER One-hybrid(Clontech, Palo Alto, California)またはpLacZi(MATCHMAKER One-hybrid(Clontech, Palo Alto, California)につないでCIV-1-pHISiとCIV-1-pLacZiベクターを作成し、それを直線化して酵母株YM4271(MATCHMAKER One-hybrid(Clontech, Palo Alto, California)の染色体に挿入した。CIV-1-pHISiとCIV-1-pLacZiを挿入した酵母を用いてAGEs処理したマウスメサンギウム細胞由来のcDNAライブラリーのOne-hybrid screeningを行なった。45mM 3-アミノ-1,2,4-トリアゾール(3-AT)を添加したSD/-His/-Leu培地でポジティブクローンを選択した。偽陽性クローンを除くためにβ-galactosidase filter lift assay(Clontech)を行ない、残った酵母のコロニーより回収したプラスミドを大腸菌(DH5α)に導入した。
ChIP assay
ChIP assay はLuo(S5)の方法に従った。抗Smad1抗体、抗Smad-4抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, California)、コントロールIgGを使用して4℃でオーバーナイトした。CIV-1領域をPCRで増幅した。使用プライマーは5’側(5’-GGAGCTCCCCAATTTGTTG-3’) (配列番号15)、3’側(5’-CAGCCTCCGCCTCTTACC-3’) (配列番号16)である。PCR産物はアガロースゲル電気泳動で100bp前後であった。
Reporter assay
1.3×105 COS7細胞を10%FBSを添加したDulbeccoのイーグル培地(DMEM)を用いて6穴プレートで培養した。8時間後に750ngのCIV-1-LacZと同量のSmad-1を組み込んだベクター、あるいはダミーであるmockベクターを同時導入した。そして、内部コントロールとして75ngのCMV-LUC(CMVプロモーターの下流に蛍ルシフェラーゼ遺伝子をつないだもの)も導入した。導入にはFuGENE6 (Roche molecular biochemicals, Indianapolis, Indiana)を使用した。48時間後に細胞をreporter lysis bufferに回収し、β-ガルクトシダーゼ活性とルシフェラーゼ活性ををれぞれβ-galactosidase Reporter System(BD Bioscience, San Jose, California)とLucifarase Reporter Assay System(Promega, Madison, Wisconsin)を用いて測定し、β-ガラクトシダーゼ活性はルシフェラーゼ活性の測定結果で補正した。
RNase protection assay
既報(S6)に従いRNase protection assayを行なった。
このアッセイに用いたプローブの塩基配列はAcc No. U58992の1172-1433の配列で以下の通りである。
cccaccacc gtctgcaaga tccccagcgg gtgcagcttg aaaatcttca acaaccaaga gtttgctcag
ctactggcgc agtctgtgaa
ccacgggttc gagaccgtgt atgaactcac caaaatgtgc actattcgga tgagcttcgt
gaagggttgg ggagccgaat accaccggca ggatgttacc agcaccccct gctggattga
gatccatctg catggccctc tccagtggct ggataaggtt ctgacccaga tgg
(配列番号17)
Western blotting
メサンギウム細胞をAGEsまたは対照としてBSA存在下で72時間培養した。Sample bufferに細胞を回収し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で解析し、ニトロセルロース膜にブロッティングし、501倍希釈した抗Smad1抗体および抗pSmad1抗体(Santa Cruz Biotechnology)を反応させ、enhanced chemiluminescence detection system(Invitrogen, Carlsbad, California)で検出した。
Immunostaining of cultured cells cytosections
培養細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、100倍希釈した抗Smad1抗体(Santa Cruz Biotechnology)、100倍希釈した抗pSmad-1抗体(Calbiochem)を使用した。適量のフルオロセインイソチオシアネートを結合二次抗体をレーザー顕微鏡と蛍光顕微鏡(Olympus, Tokyo, Japan)で観察した。
Smad1 morpholino antisense oligonucleotide
Smad1に対する25塩基の長さのアンチセンスオリゴを合成した(Genetools LLC, Philomath, Oregon)。配列は5’-CAAGCTGGTCACATTCATAGCGGCT-3’ (配列番号13)である。対照として合成オリゴ5’-CAtGCTcGTCACATTCAaAGCcGCT-3’ (配列番号18)を使用し、既報(S7)の通りin vitro RNA transcriptionを行なった。
Histology
病理組織学的検討をヒト組織を用いて行なった。本実験はヘルシンキ宣言にもとづき倫理委員会の承認を得て行なった。患者様からは組織提供および研究に使用するための承諾を書面により得ている。5例の糖尿病性腎症の腎生検試料の提供を得た。対照とした正常組織は腎の悪性腫瘍により腎摘出手術を受けた患者様の腎の正常な皮質を腫瘍の反対側よりサンプリングした。腎組織は凍結し5μm厚の切片を切り出しアセトンで5分間固定した。内因性のペルオキシダーゼの影響を消すために1%過酸化水素メタノール中に入れ暗中で20分間インキュベートした。さらに、非特異的な染色を防ぐため、適量の免疫前の血清を用いて室温で20分間インキュベートした。抗Smad1抗体(Santa Cruz Biotechnology)および抗ALK1抗体(R&D, Mickinley Place, Nebraska)を一次抗体として免疫染色を行なった。
マイクロアレイによる発現量の解析
AGEs存在下にて培養したメサンギウム細胞及びBSA存在下で培養したメサンギウム細胞のぞれぞれにおける各mRNAの発現量をAgilent Technologies Mouse cDNA Microarray Kitを用いて測定した。
【実施例2】
【0083】
糸球体硬化は細胞外基質(ECM)の量的な増加によって特徴づけられる。IV型コラーゲン(Col4)は糸球体疾患において、増量したECMの主要な構成成分の1つであるが、本発明者らの最近の報告まではCol4遺伝子の転写調節の分子機構は明らかではなかった。本発明者らは、糖尿病性腎症においてSmad1がCol4の過剰発現を転写レベルで調節している事を示した(A8)。Smad1は下流の標的遺伝子へシグナルを直接伝達する。例えばオステオポンチン(A9)、分化の阻止(A10)、I型コラーゲン(A11)、そして腎疾患の進展に本質的に重要である(A12)。これらの知見はSmad1が糸球体硬化の進展に重大な意味を持つ転写因子である事を示唆している。
Signal transducer and activation(STAT)タンパクはたくさんのサイトカインと増殖因子のシグナル伝達に関与している。STAT3の活性化はPDGFが誘導する分裂促進の鍵となる制御因子である(A13)。Nakashimaらはアストロサイトの分化において、転写のコアクチベーターであるp300がSTAT3およびSmad1と物理的に相互作用し、続いて標的遺伝子の転写の活性化が起きる事を報告した(A14)。以上の知見から、PDGFがメサンギウム細胞の増殖においてSTAT3-Smad1シグナル伝達経路を活性化し、この過程がメサンギウム細胞の増殖から糸球体硬化に進展するのに重要であるという仮説を立てた。
本研究において、本発明者らはラットの糸球体腎炎において、PDGF-B鎖による活性化を阻害する抗PDGF-β受容体抗体の投与の効果を示し、糸球体の細胞増殖、糸球体硬化の両方を調節するシグナル伝達経路についてin vivo、in vitroで検討した。
【0084】
実験に用いた材料と方法
Animals
本研究には体重180〜200gのオスのウィスターラット(日本クレア、日本)が使用された。ラットは特定病原体除去環境下で飼育された。本研究は徳島大学の倫理審査委員会の承認を受け、すべての動物実験は学内のガイドラインに沿って行なわれた。
Induction of Thy1 glomerulogephritis
実験的なメサンギウム増殖性糸球体腎炎(Thy1 GN)は抗ラットThy-1.1モノクローナル抗体(セダーレーンラボラトリーズ社、オンタリオ、カナダ)の1回投与(1mg/kg)により、既報の通り(A15)誘発された。これらのラットは抗Thy-1.1抗体投与後1、2、4、6、12日後(n=6/群)に屠殺された。6匹の齢数を合わせたラットに溶媒のみ投与して各群のコントロールとして屠殺した。
Protocol of treatment with anti-PDGFβ-R antibody in Thy1 GN
ラットモノクローナル抗PDGFβ受容体抗体(APB5)と、そのPDGFβ受容体シグナル伝達系における拮抗効果はin vivo、in vitroで以前に報告されている(A16、A17)。ラットにAPB5(理化学研究所・西川伸一教授のご厚意により提供頂いた)またはAPB5と同じアイソタイプのIgG(理化学研究所・西川伸一教授のご厚意により提供頂いた)を400μgづつ、抗Thy-1.1の投与(0日)より毎日腹腔内投与し、1、2、4、6、12日後(n=6/群)に屠殺した。
Histological examination
Light microscopy
腎臓を摘出後、組織片は光学顕微鏡による研究のためにカルノア液(メタノール:氷酢酸=3:1)で固定しパラフィン包埋した。切片(2μm)をヘマトキシリン・エオシン(HE)、過ヨウ素酸シッフ試薬(PAS)、過ヨウ素酸メセナミン銀試薬(PAM)で染色した。
Immunohistochemistry
腎切片を通常の方法で免疫組織染色した。増殖細胞核抗原(PCNA)、Col4、Smad1について調べるために、カルノア液で固定しパラフィン包埋した組織片を使用した。腎切片は再水和し、0.3%の過酸化水素加メタノールで30分間、内因性ペルオキシダーゼ失活処理した。非特異的な染色を除くために、切片を適量の免疫前血清中で室温で20分間インキュベーションし、アビジンDブロッキング液とビオチンブロッキング液(ベクター、カリフォルニア、USA)でそれぞれ15分間づつ処理した。切片を抗PCNA抗体(1:200希釈)、抗Col4抗体(1:200希釈)、抗Smad1抗体(1:100希釈)(サンタクルスバイオテクノロジー社、カリフォルニア、USA)で室温で60分間インキュベートし、適量のビオチン化二次抗体、続いてアビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体(ベクタスタチン ABCシステム、ベクター社)とインキュベートし、ジアミノベンチジン四酢酸塩(DAB)を用いて発色させた。リン酸化Smad1(pSmad1)とリン酸化STAT3(pSTAT3)について調べるために、切片を凍結切片用包埋剤OCTコンパウンド(マイルズ社、インディアナ、USA)に包埋し冷却したアセトンに入れ瞬間凍結した。4μm厚の切片を作成し、アセトンで5分間固定し、さらに0.3%過酸化水素加メタノールで30分間、内因性ペルオキシダーゼ失活処理した。切片はPCNAと同様の方法で抗pSmad1抗体(1:100希釈)(カルビオケム、カリフォルニア、USA)、抗pSTAT3抗体(1:100希釈)(サンタクルスバイオテクノロジー)を一次抗体として免疫染色を行なった。核数を調べるために切片をヘマトキシリン液で対比染色した。
Quantitation of light microscopy
PAM染色した組織を用いて糸球体の形態計測を行なった。糸球体面積に対する糸球体表面およびPAM陽性の面積(%)を、画像解析システム付顕微鏡(IPAP、住友化学工業社、大阪、日本)を用いて既報(A18−A20)の通り測定した。ラット1匹につき50の糸球体を解析した。
Quantitation of immunohistochemistry
PCNA:増殖している細胞(PCNA陽性細胞)を定量するために、1標本につき50の糸球体について観察者に試料の情報をつけないで計数してもらい、1糸球体あたりの平均値を算出した。pSmad1:pSmad1の発現を定量するために、糸球体細胞数に対するpSmad1陽性細胞数を計数し、pSmad1陽性細胞の割合を算出した。Col4、Smad1、pSTAT3について、切片上の糸球体間質全体に対して、免疫ペルオキシダーゼ染色で茶色く染色された部分をカラーレンジで選択し、その面積が全体の面積に占める割合をIPAPを用いて定量した。ラット1匹につき50の糸球体を解析した。
Cell culture experiment
正常な4週齢のマウス(C57BL/6JxSJL/J)より摘出した糸球体より、既報の方法(A21)の通りメサンギウム細胞を分離し、糸球体メサンギウム細胞の細胞株を樹立した。メサンギウム細胞は微量元素、1mMグルタミン、100単位/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、20%ウシ胎児血清(FCS)を添加したB培地(最小栄養培地とF12培地=3:1混合培地)中で培養した。培養細胞は、一般的に受け入れられている糸球体メサンギウム細胞としての要件にあてはまった(A22)。培養メサンギウム細胞は20%FCSを添加したB培地で100mm径の培養皿に蒔かれた。24時間後に、0.1%BSAを添加したB培地に交換し2日間飢餓状態に置き、その後2%FCSを添加したB培地に5ng/mlのPDGF-B(カルビオケム)を加え、さらに100ng/mlのAPB5またはコントロールとしてラットIgGを加えて24時間培養した。
Cell proliferation test by BrdU ELISA
メサンギウム細胞の増殖は、細胞増殖を定量するための、DNA合成の際のBrdU取り込みの定量を原理とする比色イムノアッセイ(アマシャムファルマシアバイオテク、ニュージャージー、USA)によっても評価した。BrdU ELISAはキット製造元のマニュアルの通り使用した。メサンギウム細胞は、96穴の平底マイクロタイタープレートに10%FCS添加したB培地で低密度に蒔き、オーバーナイトでプレートに接着させた。準集密度的な0.1%BSAを添加したB培地に交換し2日間飢餓状態に置き、その後、2%FCS、5ng/mlのPDGF-B、10mMBrdUを添加したB培地と交換し、100ng/mlのAPB5を添加した。6時間培養後、プレートを遠心し細胞を固定液で固定し1:100希釈したペルオキシダーゼ標識抗BrdUモノクローナル抗体と30分間インキュベーとした。標識抗体を洗浄した後、基質液を加えて15分間置き、1M硫酸で反応を停止させた。5分以内に450nmの吸光度を690nmを対象波長としてELISAプレートリーダーで測定した(モデル550、バイオラッドラボラトリーズ、カリフォルニア、USA)。ブランクは100μLのBrdUを添加しない培地とした。
Western blot analysis
培養されたメサンギウム細胞は0.1%BSA添加B培地で24時間飢餓状態とした。100 ng/mlのAPB5またはコントロールIgGを添加した5ng/mlのPDGF-BBで、培養細胞を120分間刺激した。細胞を溶解バッファーに懸濁し、SDSポリアクリルアミド電気泳動により分離し、ニトロセルロース膜にトランスファーし、1:1000希釈抗pSTAT3抗体、1:1000希釈抗pSmad1抗体、1:2000希釈抗Col4抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。ケミルミネッセンス検出システム(アマシャムファルマシア)を用いて検出した。
Cell Transfection
発現ベクターに組み入れた野生型のSTAT3とドミナントネガティブなSTAT3が入ったプラスミドはJackie.Bromberg(ロックフェラー大学)の厚意により提供された(A23)。メサンギウム細胞(60mm培養皿)に野生型またはドミナントネガティブなSTAT3(8mg)を組み入れた発現ベクターを、リポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用い元のマニュアルの通りに導入した。6時間後、培地を増殖培地(60% DMEM 、20% F12、20% ウシ胎児血清)に交換した。48時間後、細胞を溶解バッファーに懸濁し、先に述べた通りウェスタンブロット解析を行なった。
Statistical analysis
全ての値は平均値±SEで表し、Mann-Whitneyノンパラメトリック解析、またはt検定を用いて片側の分散解析を行なった。P<0.05を有意差ありとした。
細胞増殖試験と培養メサンギウム細胞におけるSmad1 mRNA発現データの統計解析にはt検定を用いた。免疫組織染色の定量化と糸球体のSmad1 mRNA発現は片側ANOVAを行った後、多重比較した。P<0.05を有意差ありとした。データはすべて平均値±SDで表した。
【0085】
実験結果
Morphological changes in Thy1 GN
Thy 1GNでは、メサンギウム細胞の増殖が注射後2日目から始まり6日目で最大となり、12日目で鎮静化した。図9に各群の6日目の代表的な光学顕微鏡像を示す。Thy1 GN群は糸球体間質が増加し、それは6日目にピークを迎えた(図9B)。糸球体細胞の増殖はPCNAの免疫染色で評価した。PCNA陽性細胞はThy1 GN群で顕著に増加し、6日目に最大値となった(図9E)。
Col4は糸球体硬化においてECMの主要な構成成分の1つである。Col4は、正常対照群では、糸球体基底膜に沿って弱く染色されたが糸球体の部分ではほとんど陽性を示さなかった(図9G)。一方、Thy1 GN群では拡張したメサンギウム部分に強いCol4陽性を示した(図9H)。
Thy1 GNでは、糸球体でPDGF-B、BDGFβ受容体も有意に陽性を示した(図10)。これらの知見はメサンギウム細胞の過剰な増殖、糸球体の肥大、糸球体硬化病変が、抗Thy1抗体により誘発される糸球体腎炎において同時発生的に起きる事を示している。
Anti-PDGFβ-receptor antibody inhibits both glomerular cell prolification and glomerulosclerosis in vivo
APB5は既報にも述べられているようにPDGFβ受容体が仲介するシグナル伝達系を阻害する。Thy1 GNにおいて、APB5処理は処理後のどの時点においても糸球体細胞数とPCNA陽性細胞数の両方を減少させた(図9C、9F、11A、11B)。PDGF-B鎖の過剰発現とPDGFβ受容体はAPB5処理後で有意に減少した(図10C、10F)。APB5処理はThy1 GNにおけるメサンギウム間質増大も有意に減少させた。これは糸球体全体に占めるPAM陽性の面積の割合で評価したものである(図11C)。また、Thy1 GNにおけるメサンギウム細胞のCol4発現はAPB5処理によって減少した(図11D)。これらのデータはThy1 GNにおいて、APB5処理ががメサンギウム細胞の増殖とメサンギウム間質の増大の両方を減少させる事を示している。
Time course of expression of Smad1, phosphor-Smad1(pSmad1) and phosphor-STAT3(pSTAT3) in Thy1 GN
本発明者らはThy1 GNラット腎におけるSmad1の発現を免疫染色で検討した。Smad1は正常対照の糸球体ではほとんど検出されなかったが(図12A)、6日目のThy1 GN群の糸球体は典型的なメサンギウム肥大像を示しSmad1が強く発現していた(図12B)。Smad1の発現を定量するためにIPAP画像解析システムを使用した。糸球体のSmad1発現は6日目に最大となり(図13A)、メサンギウム細胞の増殖のピークと一致した。図12Cに示した通り、糸球体のSmad1発現は6日目以降には急速に減少した。
本発明者らは次に、Thy1 GNにおいてSmad1の転写とSmad1のリン酸化が起きているかどうかについて検討した。免疫組織染色の結果、pSmad1は正常対照群ではほとんど認められなかった(図14A)。しかし、Thy1 GN群では、pSmad1は核の部分に強い陽性を示した(図14B)。pSmad1の発現を定量するために、糸球体あたりのpSmad1陽性細胞を計測した(図13B)。糸球体のpSmad1の発現はThy1 GNの1日目で上昇しており、細胞増殖の初期である4日目にピークを迎えた。
PDGF-BとPDGFβRがThy1 GNで増加している事と、APB5がその過剰発現を抑制する事から、本発明者らはPDGFシグナル伝達系の転写因子であるリン酸化STAT3の免疫染色を行った(A24)。Thy1 GNにおいてpSTAT3の発現は広範に増加しており(図15A、15B、15C)、6日目に最大となった(図13C)。
APB5処理群ではThy1 GNにおける糸球体でのSmad1およびpSmad1タンパクの発現が有意に減少していた(図12D、12E、14D、14E、16A、16B)。pSTAT3の過剰発現もまたAPB5投与後のどの調査点においても有意に減少していた(図15D、15E、16C)。
Effect of anti-PDGFβ-R antibody in vitro
APB5がメサンギウム細胞の増殖を阻害するかどうかを確認するために、本発明者らはAPB5
存在下、あるいは非存在下でのメサンギウム細胞の増殖をBrdU ELIZAを用いて検討した。図17Aに示した通り、APB5の添加はPDGFによって糸球体で起きるDNA合成を抑制した。
APB5がPDGF-Bで刺激されたメサンギウム細胞のpSTAT3 、pSmad1、Col4の発現を抑制するかどうかをウェスタンブロット法を用いて検討した。APB5はSTAT3とSmad1のリン酸化およびCol4の発現を減少させた(図17B)。
Interaction between STAT3 and Smad1
STAT3とCol4発現を増加させるSmad1の相互作用を明らかにするために、ドミナントネガティブなSTAT3を組み込んだベクターを培養メサンギウム細胞に導入した。
ドミナントネガティブなSTAT3の導入は、野生型のSTAT3を導入した時と比較して明らかにpSmad1とCol4の発現を減少させた(図18)。
【0086】
考察
多くの糸球体障害はメサンギウム細胞の増殖と糸球体硬化を特徴としているが、この重要な病理所見2つに共通な機序については今まで解明されていない。本研究では、まず、STAT3とSmad1の活性化が進行性の糸球体障害時の2つの現象、細胞増殖と糸球体硬化の相互作用を調節する鍵となるパスウェイにある事を示した。これらの結果は21世紀に世界中で主要な問題となっている慢性糸球体腎炎と糖尿病性腎症の病因研究と治療の新たな方向性がある事を支持するものである。
糸球体硬化は、慢性糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症を含む進行性の糸球体障害の病理学的特徴である。多くの糸球体疾患の初期に糸球体細胞の増殖が起こり、続いて糸球体硬化の進展が起き、だんだんと糸球体障害の終期に進む(A1、A2)。この過程の例はIgA腎症、膜増殖性糸球体腎炎、糖尿病性腎症、ヒトとThy1 GN、ラットの腎切除モデルなどのような全身性軽鎖病に見られる(A25、A26)。糸球体細胞の増殖を抗PDGF抗体(A7)、抗凝血剤のヘパリン(A27)、ビタミンD類縁体(A19)により阻害すると、続いて進展する進行性の糸球体硬化が起きなくなる事が示されているが、その機序は不明である。本研究で本発明者らはこれらの病理学的過程である、メサンギウム細胞の増殖と糸球体硬化の相互作用を調節する可能性があるメカニズムを提示した。
マウスとヒトメサンギウム細胞のPDGF受容体は同定されている(A28)。PDGFはメサンギウム細胞の強力な、鍵となる分裂促進因子であり、in vitroのメサンギウム細胞で自己分泌型の細胞増殖因子として恒常的に合成されている(A28、A29)。PDGFは、in vivoでもin vitroでも糸球体腎炎、糖尿病性腎症、進行性糸球体硬化などの病理学的状態の進行に重要な役割を果たしている(A3、A4)。PDGF受容体チロシンキナーゼが活性化されると、STAT3タンパクがチロシンリン酸化される事は既報である(A30、A31)。この活性化は増殖の調節と分化を調節している(A32、A33)。発明者等は、リン酸化されたSTAT3の過剰発現が、PDGFとPDGFβ受容体両方の過剰発現に伴って確認された事をin vivoとin vitroで示し、APB5がPDGF、PDGFβ受容体、STAT3の発現量を減らし糸球体腎炎を回復させる事をin vivoとin vitroで示した。
糸球体硬化は主としてメサンギウムのECM量の増加によって特徴づけられる。糸球体硬化の主要な構成要素の1つがCol4である(A34)。本発明者らは、Smad1が糖尿病性腎症においてin vivoでもin vitroでも鍵となる転写因子である事を最近報告した(A8)。リン酸化されたSmad1がCol4の発現上昇および糸球体ECMの増量と並行して強く発現する事を示した。これらの知見はSmad1が糖尿病性腎症における糸球体硬化だけではなく糸球体腎炎においても決定的な役割を果たしている事を明らかにしている。本研究では、in vivoでもin vitroでもPDGFが糸球体のリン酸化されたSmad1の発現を誘導する事もまた示している。
本発明者らは、STAT3とSmad1の相互作用が糸球体硬化に重要な遺伝子の調節をする事を確認した。ドミナントネガティブなSTAT3を導入する事によって、培養メサンギウム細胞でCol4の発現が有意に減少した。STAT3とSmad1の活性化はそれぞれ独立しているようであるが、どちらもPDGFにより活性化された。さらに、ドミナントネガティブなSTAT3を導入するとSmad1のリン酸化が部分的に減少する事から、Smad1の活性化はSTAT3活性化機序の一部であると考えられた。これらの知見は、糸球体腎炎の実験モデルでは、PDGFによるSTAT3活性化はSmad1発現と相互作用し、続いてCol4の活性化が起きる事を示唆している。2つのシグナル伝達経路を理解する事は、進行性の糸球体障害の病理学的なプロセスを明らかにする上で重要である。
様々な臓器で起きる硬化に対する治療は、それらの臓器の機能が失われるのを減速するという補助的なものに限定されている。本発明者らの知見は、硬化を来たす他の増殖性の疾患の本質にも洞察を与えるものである。Smad1とSTAT3は正常な糸球体ではほぼ認められないため、Smad1および/またはSTAT3シグナルを阻害する事は、病的に活性化した細胞増殖およびECM産生を抑制するという機序により、硬化を来たす様々な腎疾患の進展を抑制するのに有用であると考えられる。
【実施例3】
【0087】
糖尿病性腎症患者5名、糖尿病に硬化病変を伴う腎炎を発症した患者1名、糖尿病に硬化病変を伴わない腎炎を発症した患者2名、正常者2名の尿をサンプルとして、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行い、ニトロセルロース膜にブロッティングした。抗Smad-1抗体(サンタクルスバイオテクノロジー)および抗ALK-1抗体(R&Sシステムズ、ミネアポリス、米国)を一次抗体とし、ウェスタンブリーズキット(インビトロジェン、東京、日本)を用いてウェスタンブロット法を行なった。
糖尿病性腎症である入院患者の治療開始前の尿検体、その後治療開始後1週間毎に尿検体を採取し、抗ALK-1抗体を一次抗体として同様にウェスタンブロット法を行なった。
Smad-1およびALK-3は糖尿病性腎症および腎に硬化が認められた患者尿において検出されたが、正常者および硬化を伴わない腎炎患者の尿では検出されなかった(図17、図19)。また、ALK-1は糖尿病性腎症の治療と共に、尿中への排泄量が経時的に減少した(図18)。
【0088】
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28. We thank K. Miyazono for providing a plasmid encoding Smad1, and Y. Takishita for his
assistance with histological analysis. We also thank the members of our laboratory for discussion.
Supproted by Grant-in Aid from the Ministry of Education, Science, Sports and Culture of Japan.
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Makibayashi, K., Tatematsu, M., Hirata, M., Fukushima, N., Kusano, K., Ohashi, S., Abe, H., Kuze, K., Fukatsu, A., Kita, T., and Doi, T. (2001) Am J Pathol. 158, 1733-1741
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本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明により、IV型コラーゲンの過剰産生に直接関わっている物質としてSmad1が同定され、Smad1が糖尿病性腎症の病因として決定的な役割を持つことが示された。これにより、糖尿病性腎症の検出が可能となり、さらに、糖尿病性腎症の予防及び/又は治療剤、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤が提供された。また、本発明により、糖尿病性腎症の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットが提供された。
また、本発明により、STAT3とSmad1の活性化が進行性の糸球体障害時の2つの現象、細胞増殖と糸球体硬化の相互作用を調節する鍵となるパスウェイにある事が示された。これにより、硬化をもたらす増殖性疾患の検出が可能となり、さらに、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療剤、細胞外マトリックスの増殖を阻害する薬剤、α1IV型コラーゲンの発現を抑制する薬剤が提供された。また、本発明により、硬化をもたらす増殖性疾患の予防及び/又は治療に有効な物質を同定する方法及びキット、細胞外マトリックスの増殖阻害に有効な物質を同定する方法及びキット、ならびにα1IV型コラーゲンの発現抑制に有効な物質を同定する方法及びキットが提供された。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
<配列番号1>
配列番号1は、ヒト由来のSmad1のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号2>
配列番号2は、ヒト由来のALK1のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号3>
配列番号3は、ヒト由来のBMP2のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号4>
配列番号4は、ヒト由来のBMP4のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号5>
配列番号5は、Smad1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号6>
配列番号6は、Smad1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号7>
配列番号7は、ALK1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号8>
配列番号8は、ALK1のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号9>
配列番号9は、BMP2のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号10>
配列番号10は、BMP2のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号11>
配列番号11は、BMP4のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号12>
配列番号12は、BMP4のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号13>
配列番号13は、Smad1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
<配列番号14>
配列番号14は、マウス由来Col4遺伝子の27bpのタンデムリピート配列を示す。
<配列番号15>
配列番号15は、ChIP assayに使用した5’側のプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号16>
配列番号16は、ChIP assayに使用した3’側のプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号17>
配列番号17は、RNase protection assayに使用したプローブの塩基配列を示す。
<配列番号18>
配列番号18は、合成オリゴヌクレオチドの塩基配列を示す。
<配列番号19>
配列番号19は、ヒト由来のSTAT3のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号20>
配列番号20は、ヒト由来のALK3のmRNAの塩基配列を示す。
<配列番号21>
配列番号21は、ヒト由来のSTAT3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号22>
配列番号22は、ヒト由来のSTAT3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号23>
配列番号23は、ヒト由来のALK3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるフォワードプライマーの塩基配列を示す。
<配列番号24>
配列番号24は、ヒト由来のALK3のmRNAを特異的に増幅するRT-PCRに用いるリバースプライマーの塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料における、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の検出方法。
【請求項2】
生体試料における、アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定することを含む、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価する方法。
【請求項3】
アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症を検出するためのキット。
【請求項4】
アクチビン受容体様キナーゼ1、アクチビン受容体様キナーゼ3及び骨形成タンパクからなる群より選択される少なくとも1種類の物質の発現を測定するための試薬を含む、糖尿病性腎症の進行度及び/又は治療の有効性を評価するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−50383(P2011−50383A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218011(P2010−218011)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【分割の表示】特願2005−513889(P2005−513889)の分割
【原出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(501124337)ヒュービットジェノミクス株式会社 (13)
【出願人】(599063284)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】