説明

硬化体

【課題】 撥水性と滑水性とに優れ、しかも高い硬度を有する薄膜を与えることのできる硬化体を提供すること。
【解決手段】 ハフニアおよび/またはジルコニアならびにアルキルシリカを含有することを特徴とする硬化体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゾル組成物、その製造方法、硬化体および基材の撥水処理方法に関し、さらに詳しくは、撥水性と滑水性とに優れ、しかも汚れを容易に除去することができると共に実用上の高い硬度を有する薄膜を与えることのできるゾル組成物、その製造方法、そのゾル組成物から形成されてなる硬化体および基材の撥水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の生活環境においては、曇り止めなどの撥水処理が望まれ、また、必要とされる各種の設備、装置、機械器具が多数存在する。これらは、たとえば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡など、きわめて多岐に亘っている。
【0003】
このような設備、装置、機械器具の撥水処理方法として、たとえば、自動車の窓ガラスの表面に、低分子フッ素化合物、フッ素樹脂、シリコンなどを塗布または化学蒸着することにより薄膜を形成して、撥水処理する方法が知られている。これらの方法によれば、水滴の接触角が80〜150度となるような撥水性を実現することができる。
【0004】
しかしながら、この従来の方法にあっては、撥水性を付与することはできるものの、付着した水滴が重力などによって速やかに流れ落ちる性質(滑水性)が弱いため、付着した水滴がそのままの状態で留まることになり、種々の不都合を招いていた。
【0005】
たとえば、自動車のフロントガラスに多数の多数の水滴が付着した状態のままになっていると、街灯などの光によってフロントガラスが乱反射して、運転者の視界を妨げるという不都合があった。このような効果をシャンデリア効果と称している。このシャンデリア効果を防止するために、フロントガラスに撥水性を付与すると共に、滑水性を向上させる処理法が要望されている。また、撥水処理を施す設備、装置、機械器具には、他の機械器具などと接触するものが多く、形成される薄膜はより高い硬度を有することも望まれている。
【0006】
また、硬化膜として知られているシリコーンハードコート膜は、シリコン含有高分子を溶解した溶液を基材上に塗布し、これを乾燥した後に100〜300℃に加熱(キュアー)することにより形成されていた。このシリコーンハード膜は加熱により硬化膜を形成するから、シリコーンハード膜を形成することのできる基材は熱に耐える材質に限定される。しかもそのシリコーンハード膜の硬度は鉛筆硬度で3H程度である。したがって基材の材質を選ぶことなく硬質で撥水性等に優れたハードコート膜も、望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、このような現状に鑑み、撥水性と滑水性とに優れ、しかも高い硬度を有すると共に汚れを容易に除去することができ、しかも基材の材質を選ぶことなく形成することのできる薄膜を与えることのできるゾル組成物、その製造方法、そのゾル組成を硬化してなる硬化体および基材の撥水処理方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、上記課題を解決するために、薄膜を与えるゾル組成物を構成する金属酸化物に着目して鋭意検討を重ねた結果、この金属酸化物として、ハフニアおよび/またはジルコニアとアルキルシリカとを用いることにより、撥水性と滑水性とに優れ、しかも実用上の高い硬度を有すると共に容易に汚れを落とすことのできる薄膜を与えることのできるゾル組成物が得られるということを見出し、この知見に基づいてこの発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、この発明によれば、第1に、ハフニアおよび/またはジルコニアならびにアルキルシリカを含有することを特徴とするゾル組成物が提供される。
【0010】
この第1の発明には、次の(1)および(2)に記載のゾル組成物が含まれる。
(1)該アルキルシリカの有するアルキル基が、炭素数1〜10のアルキル基であるゾル組成物。
(2)該ハフニアおよび/またはジルコニア:該アルキルシリカのモル比が、5〜95:95〜5であるゾル組成物。
【0011】
この発明によれば、第2に、ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物ならびにトリアルコキシアルキルシランを含有する溶媒溶液と水と酸とを混合して加熱することを特徴とする第1の発明に係るゾル組成物の製造方法が提供される。
【0012】
この第2の発明には、次の(1)および(2)に記載のゾル組成物の製造方法が含まれる。
(1)該ハフニウムの無機化合物がハフニウムハロゲン化物であり、ジルコニウムの無機化合物がジルコニウムハロゲン化物又はジルコニウムアルコキシドであるゾル組成物の製造方法。
(2)該トリアルコキシアルキルシランの有するアルキル基が、炭素数1〜10のアルキル基であるゾル組成物の製造方法。
【0013】
この発明によれば、第3に、ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物を含有する溶媒溶液と水と酸とを混合し、加熱して製造されたハフニアゾルおよび/またはジルコニアゾルと、トリアルコキシアルキルシランを含有する溶媒溶液と水と酸とを混合し、加熱して製造されたアルキルシリカゾルとを混合することを特徴とする第1の発明に係るゾル組成物の製造方法が提供される。
【0014】
この第3の発明には、次の(1)および(2)に記載のゾル組成物の製造方法が含まれる。
(1)該ハフニウムの無機化合物がハフニウムハロゲン化物であり、ジルコニウムの無機化合物がジルコニウムハロゲン化物又はジルコニウムアルコキシドであるゾル組成物の製造方法。
(2)該トリアルコキシアルキルシランの有するアルキル基が、炭素数1〜10のアルキル基であるゾル組成物の製造方法。
【0015】
この発明によれば、第4に、第1の発明に係るゾル組成物を基材表面に塗布し、紫外線硬化することを特徴とする基材の撥水処理方法が提供される。
【0016】
この第4の発明には、次の(1)に記載の基材の撥水処理方法が含まれる。
(1)該基材が、ガラス、金属、セラミックス、プラスチックス、紙または木である基材の撥水処理方法。
【0017】
また、この発明によれば、第5に、第1の発明に係るゾル組成物を紫外線硬化してなることを特徴とする硬化体が提供される。
【0018】
さらに、この発明によれば、第6に、第5の発明に係る硬化体を、基材表面に薄膜状に形成することを特徴とする基材の撥水処理方法が提供される。
【0019】
この第6の発明には、該基材が、ガラス、金属、セラミックス、プラスチックス、紙または木である基材の撥水処理方法が含まれる。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、撥水性と滑水性とに優れ、しかも高い硬度を有する薄膜を与えることのできるゾル組成物、その製造方法、そのゾル組成物を硬化してなる硬化体および基材の撥水処理方法が提供され、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、システムキッチンと称される台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡など、撥水処理が望まれ、また、必要とされる各種の設備、装置、機械器具の設計、調製分野に寄与するところはきわめて多大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この第1の発明は、ハフニアおよび/またはジルコニアならびにアルキルシリカを含有することを特徴とするゾル組成物である。
【0022】
ここに、ハフニアは、HfO で表される酸化ハフニウムを含む。前記xは1〜2の整数または小数である。この発明に用いるハフニアは、純粋なものが好ましいが、少量の他の金属や金属化合物等の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0023】
また、ジルコニアは、ZrO で表される酸化ジルコニウムを含む。xは1〜2の整数または小数である。このジルコニアも純粋なものが好ましいが、少量の他の金属や金属化合物を含んでいてもよい。
【0024】
アルキルシリカは、R−SiO で表される化合物を含む。Rで表されるアルキル基に特に制限はないが、炭素数1〜10、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。より好ましいアルキル基はメチル基およびエチル基である。xは1以上2未満の整数または小数である。
【0025】
この第1の発明によれば、次の1〜3に記載のゾル組成物が提供される。
1.上記ハフニアおよびアルキルシシリカを含有するゾル組成物
2.上記ジルコニアおよびアルキルシシリカを含有するゾル組成物
3.上記ハフニアとジルコニアとアルキルシリカとを含有するゾル組成物
このようなゾル組成物は、ハフニアおよび/またはジルコニア、並びにアルキルシリカが、液体中に含まれていて流動性を有する。
【0026】
このゾル組成物を構成するハフニアおよび/またはジルコニア:アルキルシリカのモル比に特別の制限はないが、通常そのモル比は、5〜95:95〜5、好ましくは、30〜70:70〜30である。前記モル比が5〜95:95〜5の範囲を逸脱した場合、このゾル組成物から得られる薄膜はその撥水性や滑水性に劣ることがあるので望ましくない。
【0027】
この第2の発明は、ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物ならびにトリアルコキシアルキルシランを含有する溶媒溶液と水と酸とを混合して加熱することを特徴とする第1の発明に係るゾル組成物の製造方法(これを第2の発明と称することがある。)である。
【0028】
ハフニウムを含有する無機化合物として、例えばハフニウムハロゲン化物、例えば硝酸ハフニウムを含むハフニウム無機酸塩、例えばハフニウムテトラメトキシドおよびハフニウムテトライソプロポキシドを含むハフニウムアルコキシド、並びに例えばハフニウムアセチルアセトナートを含むハフニウム錯体からなる群より選択されたハフニウム化合物を挙げることができる。もっとも、これらは一例であって、この発明の目的を達成することができる限り他のハフニウム含有無機化合物もこの発明の範囲に含まれる。
【0029】
この発明において好適なハフニウムを含有する無機化合物としては、ハフニウムハロゲン化物を挙げることができる。ハフニウムハロゲン化物として、例えば四塩化ハフニウム、四フッ化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウム、三塩化一臭化ハフニウム、三フッ化一臭化ハフニウム、三臭化一塩化ハフニウム、三ヨウ化一塩化ハフニウム、二塩化二臭化ハフニウム、二フッ化二臭化ハフニウム、二臭化二ヨウ化ハフニウム、二ヨウ化二フッ化ハフニウム等を挙げることができる。
【0030】
中でも、四塩化ハフニウム、三塩化一臭化ハフニウム、および二塩化二臭化ハフニウムが好ましく、四塩化ハフニウムが特に好ましい。
【0031】
ジルコニウムを含有する無機化合物として、例えば塩化酸化ジルコニウム・八水和物を含むジルコニウムハロゲン化物、例えばオキシ硝酸ジルコニウム・二水和物および硝酸ジルコニウム・四水和物を含むジルコニウム無機酸塩、例えば酢酸ジルコニウムを含むジルコニウム有機酸塩、ジルコニウムtetra-n-ブトキシドおよびジルコニウムtetra-イソプロポキシドを含むジルコニウムアルコキシド、および例えばジルコニウムアセチルアセトナートを含むジルコニウム錯体からなる群より選択されたジルコニウム化合物を挙げることができる。もっとも、これらは一例であって、この発明の目的を達成することができる限り他のジルコニウム含有無機化合物もこの発明の範囲に含まれる。
【0032】
ジルコニウムを含有する前記無機化合物の中でもジルコニウムハロゲン化物及びジルコニウムアルコキシドが好ましい。
【0033】
このジルコニウムハロゲン化物としては、前記の外に、例えば四塩化ジルコニウム、四フッ化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、三塩化一臭化ジルコニウム、三フッ化一塩化ジルコニウム、三臭化一ヨウ化ジルコニウム、三ヨウ化一フッ化ジルコニウム、二塩化二臭化ジルコニウム、二フッ化二塩化ジルコニウム、二臭化二ヨウ化ジルコニウム、二ヨウ化二塩化ジルコニウム等を挙げることができ、中でも、四塩化ジルコニウム、三塩化一臭化ジルコニウム、二塩化二臭化ジルコニウムが好ましく、四塩化ジルコニウムが特に好ましい。
【0034】
このジルコニウムアルコキシドとしては、前記の外に、例えばジルコニウムtetra-メトキシド、ジルコニウムtetra-エトキシド、ジルコニウムtetra-ペントキシド等の炭素数が1〜10、好ましくは炭素数が1〜5であるアルコキシドを有するジルコニウムアルコキシドを挙げることができる。
【0035】
トリアルコキシアルキルシランは、R−Si(ORで表される化合物を含む。RおよびRで表されるアルキル基に特に制限はないが、いずれにおいても炭素数1〜10、特に炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。RSi(ORで表される化合物において、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよい。好ましいトリアルコキシアルキルシランとしては、CHSi(OCH、CHSi(OC、CSi(OCH、CSi(OCで表されるトリアルコキシメチルシランを挙げることができる。
【0036】
ゾル組成物を得るには、先ず、このようなハフニウムを含有する無機化合物、および/またはジルコニウムを含有する無機化合物とトリアルコキシアルキルシランとを、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気中で溶媒に溶解して溶液を調製する。
【0037】
前記溶媒としては、前記ジルコニウムを含有する無機化合物、ハフニウムを含有する無機化合物およびトリアルコキシシランを溶解することができてこの発明の目的を達成することができる限りにおいて特に制限がなく、例えばアルコール溶媒が好ましく、特にメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、およびn−ペンタノールを一例とする炭素数1〜5のアルコール溶媒が好ましい。
【0038】
このとき、ハフニウムを含有する無機化合物および/またはジルコニウムを含有する無機化合物とトリアルコキシアルキルシランとの使用量は、生成するハフニアおよび/またはジルコニア:アルキルシリカのモル比が、通常は、5〜95%:95〜5%、好ましくは、30〜70%:70〜30%となるような量とされる。
【0039】
次いで、調製された溶液と水と酸とを攪拌しながら徐々に混合し、加熱攪拌した後、室温まで冷却する。
【0040】
前記酸の一具体例としては、塩酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、塩素酸、亜塩素酸、およびヨウ素酸を一例とする無機酸並びにギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、およびイソ酪酸を一例とする低級モノカルボン酸に代表される有機酸を挙げることができる。これらの内でも、塩酸、硝酸、亜硝酸、硫酸、亜硫酸等の無機酸並びにギ酸及び酢酸等の有機酸が好ましい。
【0041】
この水と酸との混合比に制限はないが、通常は、重量基準で、水20〜60%に対し、酸特に、硝酸、ギ酸及び酢酸の少なくとも一種の酸80〜40%、好ましくは、水25〜50%に対し、酸特に、硝酸、ギ酸及び酢酸の少なくとも一種の酸75〜50%である。酸として硝酸、ギ酸及び酢酸の少なくとも一種を採用する場合、その硝酸は60%程度の濃度のものが用いられ、酸としてギ酸を採用する場合には、そのギ酸は88%以上の濃度のものが用いられ、酸として酢酸を採用する場合には、その酢酸の濃度は99%以上である。
【0042】
加熱撹拌に際しての加熱温度としては、通常、40〜70℃である。加熱撹拌に要する時間としては、通常、0.5〜30時間である。
【0043】
この第3の発明は、ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物の溶媒溶液と水と酸とを混合し、加熱してハフニアゾルおよび/またはジルコニアゾルを調製し、トリアルコキシアルキルシランを含有する溶媒溶液と水と硝酸とを混合し、加熱してアルキルシリカゾルを調製し、このハフニアゾルおよび/またはジルコニアゾルとアルキルシリカゾルとを混合することを特徴とする第1の発明に係るゾル組成物の製造方法である。
【0044】
この第3の発明は、前記第2の発明とは異なり、それぞれ別途に製造したハフニアゾルおよび/またはジルコニアゾルとアルキルシリカゾルとを混合することによって、ゾル組成物を製造する方法である。
【0045】
この第3の発明におけるハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物、トリアルコキシアルキルシラン、ハフニウムおよび/またはジルコニウムを含有する無機化合物とトリアルコキシアルキルシランとの使用量、用いる溶媒、酸の種類、水と酸との混合比、用いる酸の濃度、加熱温度、加熱攪拌時間などは、第2の発明と特に変わるところはない。
【0046】
この発明は、第4に、第1の発明に係るゾル組成物(このゾル組成物を「ゾル液」と称することがある。)を基材表面に塗布し、紫外線硬化することを特徴とする基材の撥水処理方法を提供する。
【0047】
前記基材としては、ゾル液を塗布すること、ゾル液を乾燥する場合には、その乾燥条件に耐えること、紫外線を照射する際に加熱することがあればその加熱温度に耐えることと言った条件を満たす限り特に制限がなく、様々の素材を採用することができる。この基材としては、例えば、石英ガラス、96%石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、および鉛ガラスを始めとするガラスから形成された基材、ポリカーボネートおよびポリエチレンテレフタレートを始めとするプラスチックから形成された基材、普通鋼、構造用定合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル−クロム系耐熱鋼を初めとする合金鋼、およびステンレス鋼等の鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系の合金、Al−Mg系アルミニウム合金および6000系アルミニウム合金を初めとするアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅、およびジルコニウム銅を初めとする各種銅合金、純チタン、抗力チタン合金、および耐食性チタン合金を初めとするチタン合金と言った金属材料から形成された基材、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器、およびステアタイト磁器と言ったセラミックス材料から形成された基材、並びに前記金属系材料から形成された基材の表面を琺瑯、グラスライニング、およびセラミックスコーティングの何れかによって被覆した被覆金属基材が挙げられる。
【0048】
ガラス材料から形成された基材としては、自動車、鉄道車両、航空機、並びに住宅、倉庫およびビルディング等の建築物を初めとする各種構造物の窓ガラス、並びに自動車用および航空機用のヘッドアップディスプレーの、撥水性が要求されるガラスを挙げることができる。
【0049】
金属材料から形成された基材の一例としては、外装板例えば送電線、建築物、サッシュ、およびたとえば鉄道車両の外板を挙げることができる。また、金属製の日用雑貨品、台所、バス、トイレと言った家庭用基材を挙げることもできる。
【0050】
セラミックス材料から形成された基材の一例としては、例えば碍子、碍管、およびセラミックスタイル、屋根瓦を挙げることができる。
【0051】
被覆金属基材としては、例えば、各種タンク、反応槽、醸造槽、並びにコップ、洗面器、および花瓶を初めとする日用品等を挙げることができる。
【0052】
前記基材としては、他に、金属、およびセラミックの表面に塗料が塗布された塗装表面も挙げることができる。前記塗装表面としては、具体的には自動車、鉄道車両、および航空機の車体表面を挙げることができる。
【0053】
前記基材としては、さらに、コンクリート壁、テラコッタタイル壁、モルタル壁、および漆喰壁を始めとする建築物の外壁を挙げることができる。
【0054】
前記基材としては、紙、布、皮革、木材をも挙げることができる。
上記各種の基材の中でも、前記ガラスで形成された基材および前記プラスチックで形成された基材並びにこれらの複合基材を挙げることができる。
【0055】
基材の表面にゾル液を塗布する方法としては、例えば、ゾル液中に基材を浸漬し、これをゆっくりと引き上げるディップ法、固定された基材表面上にゾル液を流延する流延法、ゾル液の貯留された槽の一端からゾル液に基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上にゾル液を滴下し、基材に作用する遠心力によって前記ゾル液を基材上に流延するスピンナー法、基材の表面にゾル液を吹き付けるスプレー法、およびフローコート法が挙げられる。
【0056】
ゾル液の塗布量は、ゾル液の粘度その他の条件により異なる。1回の塗布では、目的の厚さの薄膜が得られない場合は、数回の塗布を繰り返すこともできる。
【0057】
ゾル液が塗布された基材を乾燥させてから紫外線照射を行ってもよく、また、塗布直後に紫外線照射を行ってもよい。
【0058】
ゾル液を塗布して得られるゲル膜への紫外線照射は、常温下に行ってもよく、また、200℃を超えない温度に、好ましくは50〜150℃に加熱しつつ行うこともできる。加熱温度が200℃を超えると、基材がプラスチックであるときにはそれが変形すると言った問題がある。
【0059】
また、照射する紫外線の強度は大きくとも200mJ/cm2、好ましくは50〜100mJ/cm2である。紫外線の強度が200mJ/cm2を超えると、この発明の目的を達成することができないことがあり、たとえばプラスチック基材が変形すると言った問題を生じることがある。照射する紫外線の光源としては、高圧水銀灯および低圧水銀灯を使用することができる。これら水銀灯を使用すると前記強度の紫外線を廉価に照射することができる。
【0060】
さらに言うと、本発明の方法に従って前記ゲル膜に紫外線を照射すると、前記金属の酸化物から主として成り、所々にアルキル基が突き出た有様と推定されるアモルファス膜が得られる。通常、アモルファス膜は結晶性膜よりも硬度が劣ると予測されているところ、本発明の方法に従って得られるアモルファス膜が鉛筆硬度の大きなものとなることは、予想外である。
【0061】
また、紫外線の照射は、相対湿度70%以上の雰囲気下で行うのが好ましい。相対湿度が80%以上の雰囲気下に紫外線を基材上のゲル膜に照射すると、よりいっそう硬度の大きな薄膜状の硬化体すなわちハードコート膜を得ることができる。
【0062】
得られたハードコート膜の厚さは、用途に応じて決定することができるのであるが、通常、10nm〜1000nmの範囲が好ましい。
【0063】
この発明に係る方法により形成されたハードコート膜は、非結晶性(アモルファス)であり、しかもその鉛筆硬度が6H以上であり、しかも、基材との密着性が極めて高い。
【0064】
なお、紫外線照射により硬化した薄膜状の硬化体は、紫外線照射後に養生期間を設定しても良い。養生期間としては、ハードコート膜に形成するゾル組成物により相違するが、最低2日間であり、一週間を見込めばいずれも鉛筆硬度が6H以上になる。
【0065】
このようにして基材表面に形成された硬化体である薄膜状のハードコート膜は、撥水性と滑水性とに優れ、しかも実用上の高い硬度を有し、汚れを容易に除去することができる。ここで、撥水性とは水をはじく性質をいい、接触角法による水滴の接触角から評価することができる。この発明に係る薄膜状の硬化体は、接触角が80度以上の撥水性を有する膜となる。
【0066】
滑水性とは、水滴が滑り落ちる性質をいい、水滴を薄膜上に滴下して薄膜を傾斜させ、水滴が滑る角度によって評価することができる。この水滴が滑り始める角度を転落角と称される。
【0067】
硬度は、鉛筆硬度法によって評価することができ、この発明に係る薄膜は、6H以上の硬度を有する膜となる。さらに、この発明に係る薄膜は、付着した水垢などの汚染を除去しやすい性質、汚染除去性にも優れた膜である。この汚染除去性は、様々な汚染物を薄膜上に付着させ、一定時間経過後、洗浄することによって汚染物を除去し、その除去の程度から評価することができる。
【0068】
この第5の発明は、前記ゾル組成物を紫外線硬化してなる硬化体である。この硬化体は、前記ゾル組成物を基材表面に塗布してから紫外線硬化することにより形成された薄膜状のハードコート膜のみならず、所定の金型に前記ゾル組成物を充填し、充填されたゾル組成物に紫外線を照射することにより硬化されてなる所定形状の硬化体を含む。
【0069】
紫外線照射の条件等については前述した通りである。
【0070】
この第6の発明は、硬化体を基材表面に薄膜状に形成することを特徴とする基材の撥水処理方法である。
【0071】
この第6の発明に係る撥水処理方法は、前記第4の発明に係る撥水処理方法と同様に、基材の表面にゾル液を塗布してから紫外線照射によりゲル膜を硬化させることによい薄膜状の硬化体を基材表面に形成してもよく、また、予め薄板状に形成してなる硬化体を基材表面に、機械的結合手段例えば鋲、ボルト、ネジ、化学的結合手段例えば接着剤等の種々の結合手段により、結合しても良い。
【0072】
このように、撥水性と滑水性とに優れ、しかも高い硬度を有し、かつ汚染除去性に富んだこの発明に係る薄膜を、撥水処理が望まれ、また、必要とされる各種の設備、装置、機械器具、たとえば、自動車の窓ガラス、自動車の塗装表面、台所設備、台所用品、台所設備に付設される排気装置、入浴設備、洗面設備、医療用施設、医療用機械器具、鏡、眼鏡などの表面に形成することによって、その機能を存分に果たすこととなるのである。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、この実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
(1)ゾル液の調製
<ハフニアゾル液の調製>
四塩化ハフニウム HfCl 8.00g(0.025モル)を窒素雰囲気下にて99.5%エタノール60ml中に溶解した。この溶液に、水 2.08g(0.116モル)と60%硝酸 13.26g(0.210モル)の混合溶液を撹拌しながらゆっくり添加した。この溶液をホットプレート上にて50℃で3時間撹拌しながら加熱し、室温まで冷却した後、冷蔵庫で保存した。
【0075】
<メチルシリカゾル液の調製>
トリエトキシメチルシランCH3Si(OC2H5)3 2.21g(1.24×10-2モル)を99.5%エタノール220ml中に溶解し、水 4.52g(2.51×10-1モル)と60%硝酸 3.43g(1.68×10‐2モル)との混合溶液を撹拌しながらゆっくり添加した。ゾル液はポリ容器に入れてフタをし、3日間室温で放置後使用した。
【0076】
<ハフニアゾル−メチルシリカゾル液の調製>
ハフニアゾル液とメチルシリカゾル液を、モル比で1:1の割合で撹拌しながら混合した。
【0077】
(2)薄膜状の硬化体の調製
33mm×33mmのノンアルカリガラスを中性洗剤でよく洗浄し、純水でリンスした後、エアガンで水滴を除去し、室温の清浄環境で乾燥した。このガラス基板上に、最初の5秒間を500 rpmで回転し、次の30秒間を2,000rpmで回転するという条件のスピンナー法により、ハフニアゾル液、メチルシリカゾル液およびハフニアゾル−メチルシリカゾル液を、それぞれ、塗布してゲル膜を得た。
【0078】
得られたゲル膜に紫外線照射装置を用いて、紫外線を照射した。光源は高圧水銀灯(H1000l東芝ライテック)を用いた。紫外線照度 80mW/cm2で、試料を光源より9cm下に置き、30分照射した。ハフニアゾル液から得られたハードコート膜をハフニア膜No.1、メチルシリカゾル液から得られたハードコート膜をメチルシリカ膜No.2、およびハフニアゾル−メチルシリカゾル液から得られたハードコート膜をハフニア−メチルシリカ膜No.3とした。
【0079】
(3)性能評価と結果
<IRスペクトル>:
フーリエ変換赤外吸収(FT-IR)分光器FT-IR PARAGON1000PC(Perkin-Elmer)を用いて、前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3のIRスペクトルを測定した。各IRスペクトルを図1〜3に示した。
【0080】
試料No.2およびNo.3のFTIRスペクトルにおいて、1260cm-1に吸収が観測された。これはSi-CH3によるものであるから、調製した薄膜にはメチル基が存在していることが分かった。
【0081】
<X線回折>:
X線回折(XRD)装置RAD-2B(リガク)を用いて前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3のXRDスペクトルを測定した。各XRDスペクトルを解析した結果、各XRDスペクトルの2θ=5〜90°において、2θ=20°付近のアモルファスに帰属される幅広いピークの他はピークが観測されず、これらの薄膜はアモルファスであることが確認された。
【0082】
<鉛筆硬度試験>:
JIS K 5600-5-4 により、前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3の硬度を調べた。結果を表1に示した。
【0083】
鉛筆硬度法の試験方法は次のとおりである。6B〜9Hの硬さの鉛筆を薄膜に対して角度45℃、荷重750gで押し付けて、少なくとも7mmの距離を3本押した。肉眼で薄膜表面を検査し、少なくとも3mm以上の傷跡が2本生じるまで、硬度を上げて試験を繰り返した。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、その薄膜の鉛筆硬度とした。
【0084】
【表1】

【0085】
表1の結果により、No.3で示すハフニア−メチルシリカ膜は、紫外線照射により、その鉛筆硬度は9H以上となり、良好であった。
【0086】
<接触角>
接触角計CA-D型(協和界面科学株式会社)を用いて、前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3の接触角を測定した。
【0087】
【表2】

表2に示されるように、No.3は紫外線硬化直後から接触角が91度であり、紫外線硬化後8日目では接触角が101度になり、紫外線硬化直後から撥水性が発揮された。
【0088】
<汚れ除去性試験>
前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3を調製した後10日間室温で放置した。それら薄膜の表面に各種の汚れを滴下し、24時間室温で放置してから、以下に示す洗浄手順1〜4のいずれかの手順に従って洗浄液で洗浄後、目視にて汚れの程度を観察した。結果を表4〜6に示した。汚れとして用いたものは、醤油、ウスターソース、サラダ油、キッチンハイター、5wt%NaOH水溶液および5wt%HCl水溶液である。
洗浄手順1:イオン交換水で洗浄し、キムワイプで水を拭き取り、自然乾燥した。
洗浄手順2:中性洗剤で洗浄し、キムワイプで水を拭き取り、自然乾燥した。
洗浄手順3:エタノールで洗浄し、キムワイプで水を拭き取り、自然乾燥した。
洗浄手順4:石油ベンジンで洗浄し、キムワイプで水を拭き取り、自然乾燥した。
【0089】
なお、比較としてガラスのみの試料についても評価し、結果を表3に示した。
【0090】
表中の記号は、以下の意味を有する。
○:汚れが完全にとれた。
△:汚れがやや残っている。
×:汚れがとれない。
【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

表4〜6から判るように、No.3は、各種汚れに対して、水のみの洗浄で簡単に汚れが除去された。
【0095】
<水垢試験>
前記ハフニア膜No.1、メチルシリカ膜No.2、およびハフニア−メチルシリカ膜No.3それぞれの上に水道水 1mlを滴下し、次いで、60℃で2hr乾燥させた。各試料に水道水をかけ、スポンジで100回擦った。その後の有様を目視で評価した。
【0096】
評価結果を以下の記号で表に示した。
○:水垢が完全にとれた
○△:水垢がやや残っている
△:水垢が少し残っている
×:水垢がとれない
【0097】
【表7】

No.3は、水垢が完全にとれ良好である。
【0098】
<滑水性>
50μlの水滴を薄膜上に滴下し、薄膜を有する基板を徐々に傾斜していき、水滴が滑り落ちたときのその基板の傾斜角度をもって転落角と称し、滑水性を評価した。通常、転落角が10度以上であると、滑水性が良好であると称される。例えば自動車の窓ガラスにつき転落角が10度以上であると、その自動車の窓ガラスには水滴が付着しないとされる。
【0099】
No.1の転落角:25度
No.2の転落角:30度
No.3の転落角:13度
このような滑水性の評価結果から、ハフニア−メチルシリカ膜は、他のハフニア膜及びメチルシリカ膜よりも滑水性が良好であると判定される。ハフニア−メチルシリカ膜は、その表面にメチル機及び酸化ハフニウムが存在し、水との相互作用が両者の影響により変化し、より一層水が滑落しやすくなっているものと、推測される。
【0100】
(実施例2)
実施例1において、基板をSUS304に変えた他は、実施例1と同様に行った。
ハフニアゾル液、メチルシリカゾル液およびハフニアゾル−メチルシリカゾル液を、それぞれ、塗布した試料を、それぞれNo.4、No.5およびNo.6とした。
【0101】
前記実施例1と同様にして評価し、その結果を以下の表に示した。
【0102】
<メチル基の存在>
試料No.5およびNo.6のFTRスペクトルにおいて、1262cm-1に吸収が観測された。これはSi-CH3によるものであるから、調製した薄膜にはメチル基が存在していることが分かった。なお、これら3種の試料のFTIRスペクトル図は省略した。
【0103】
<構造>
試料No.4、No.5およびNo.6の構造をX線回折法により調べた、2θ=5〜90°において、2θ=20°付近のアモルファスに帰属される幅広いピークの他はピークが観測されず、これらの薄膜はアモルファスであることが確認された。
【0104】
<鉛筆硬度>
【0105】
【表8】

【0106】
No.6(ハフニア−メチルシリカ膜)の鉛筆硬度は、9H以上であり、良好であった。
【0107】
<接触角>
【0108】
【表9】

No.6(ハフニア−メチルシリカ膜)の接触角は、薄膜調製後9日経時で、105°となり良好であった。
【0109】
<汚れ除去性試験>
なお、比較としてSUS304のみの試料についても評価した。
【0110】
【表10】

*:表面が変化したので、試験を中止した。
【0111】
【表11】

【0112】
【表12】

【0113】
【表13】

No.6は、各種汚れに対して、水のみの洗浄で簡単に汚れが除去できた。また、SUS304のみでは、HClやNaOHにより表面が変化したが、薄膜をコーティングした試料ではそのような変化はなく、耐薬品性に優れていることも分かった。
【0114】
<水垢試験>
【0115】
【表14】

No.6は、水垢が完全にとれ良好である。
【0116】
<滑水性>
No.4の転落角:30度
No.5の転落角:33度
No.6の転落角:15度
(実施例3)
実施例1において、ハフニアゾル液とメチルシリカゾル液との混合比をモル比で3:7とし、基板をソーダライムガラスとし、また紫外線照射時間を15分にした他は、実施例1と同様に行った。
【0117】
ハフニアゾル液、メチルシリカゾル液およびハフニアゾル−メチルシリカゾル液を、それぞれ、塗布した試料を、それぞれNo7、No8およびNo9とした。
【0118】
<メチル基の存在>
試料No8およびNo9のFTIRスペクトルにおいて、1259cm-1に吸収が観測された。これはSi-CH3によるものであるから、調製した薄膜にはメチル基が存在していることが分かった。
【0119】
<構造>
試料No7、No8およびNo9の構造をX線回折法により調べた、2θ=5〜90°において、2θ=20°付近のアモルファスに帰属される幅広いピークの他はピークが観測されず、これらの薄膜はアモルファスであることが確認された。
【0120】
<鉛筆硬度>
【0121】
【表15】

【0122】
No9(ハフニア−メチルシリカ膜)の鉛筆硬度は、硬化後3日目で6Hとなり、6日目で7Hとなって良好であった。
【0123】
<接触角>
【0124】
【表16】

No.9(ハフニア−メチルシリカ膜)の接触角は、薄膜調製後9日経時で、105°となり良好であった。
【0125】
<汚れ除去性試験>
なお、比較としてソーダライムガラスのみの試料についても評価した。
【0126】
【表17】

【0127】
【表18】

【0128】
【表19】

【0129】
【表20】

No.6は、各種汚れに対して、水のみの洗浄で簡単に汚れが除去できた。
【0130】
<水垢試験>
【0131】
【表21】

No.9は、水垢が完全にとれ良好である。
【0132】
<滑水性>
No.7の転落角:32度
No.8の転落角:35度
No.9の転落角:13度
(実施例4)
実施例1において、ハフニアゾル液に変えて、ジルコニアゾル液とし、基板をソーダライムガラスとした他は、実施例1と同様に行った。ジルコニアゾルは以下のようにして調製した。
【0133】
<ジルコニアゾル液の調製>
ZrOCl2 4.0gを99.5%エタノール54.96g中に溶解し、酢酸1.49gを加えた。この溶液に、H2O 2.23gと60%HNO3 3.91gとを含有する混合溶液を、攪拌しながら加えた後、40℃で3時間加熱してジルコニアゾル液を得た。
【0134】
ジルコニアゾル液、メチルシリカゾル液およびジルコニアゾル−メチルシリカゾル液を、それぞれ、塗布した試料を、それぞれNo.10、No.11およびNo.12とした。
【0135】
<メチル基の存在>
試料No.11およびNo.12のFTIRスペクトルにおいて、1263cm-1に吸収が観測された。これはSi-CH3によるものであるから、調製した薄膜にはメチル基が存在していることが分かった。
【0136】
<構造>
試料No.10、No.11およびNo.12の構造をX線回折法により調べた、2θ=5〜90°において、2θ=20°付近のアモルファスに帰属される幅広いピークの他はピークが観測されず、これらの薄膜はアモルファスであることが確認された。
【0137】
<鉛筆硬度>
【0138】
【表22】

No.12(ジルコニア−メチルシリカ膜)の鉛筆硬度は7Hであり良好であった。
【0139】
<接触角>
【0140】
【表23】

No.12(ジルコニア−メチルシリカ膜)の接触角は、薄膜調製後9日経時で、102°となり良好であった。
【0141】
<汚れ除去性試験>
比較としてソーダライムガラスのみの試料についても評価した。
【0142】
【表24】

【0143】
【表25】

【0144】
【表26】

【0145】
【表27】

No.12は、各種汚れに対して、水のみの洗浄で簡単に汚れが除去できた。
【0146】
<水垢試験>
【0147】
【表28】

No.12は、水垢が完全にとれて良好である。
【0148】
<滑水性>
No.10の転落角:45度
No.11の転落角:35度
No.12の転落角:15度
(実施例5)
実施例1において、混合ゾル液の調製法を、以下のとおりとし、基板をソーダライムガラスとした他は、実施例1と同様に行った。
【0149】
<ハフニア−メチルシリカ混合ゾル液の調製法>
四塩化ハフニウム HfCl 8.00g(0.025モル)を窒素雰囲気下にて99.5%エタノール120ml中に溶解した。この溶液に、トリエトキシメチルシランCH3Si(OC2H5)3 3.40g (0.025モル)を加え、さらに、水 2.08g(0.116モル)と60%硝酸13.1g(0.125モル)の混合溶液を撹拌しながらゆっくり添加した。この溶液をホットプレート上にて50℃で3時間撹拌しながら加熱し、室温まで冷却後、冷蔵庫で保存した。
【0150】
ハフニアゾル液、メチルシリカゾル液およびハフニアゾル−メチルシリカゾル液を、塗布した試料を、それぞれNo.13、No.14およびNo.15とした。
【0151】
<メチル基の存在>
試料No.14およびNo.15のFTIRスペクトルにおいて、1260cm-1に吸収が観測された。これはSi-CH3によるものであるから、調製した薄膜にはメチル基が存在していることが分かった。
【0152】
<構造>
試料No.13、No.15およびNo.16の構造をX線回折法により調べた、2θ=5〜90°において、2θ=20°付近のアモルファスに帰属される幅広いピークの他はピークが観測されず、これらの薄膜はアモルファスであることが確認された。
【0153】
<鉛筆硬度>
【0154】
【表29】

【0155】
No.15(ハフニア−メチルシリカ膜)の鉛筆硬度は9H以上であり良好であった。
【0156】
<接触角>
【0157】
【表30】

No.15(ハフニア−メチルシリカ膜)の接触角は、薄膜調製後9日経時で、108°となって良好であった。
【0158】
<汚れ除去性試験>
なお、比較としてソーダライムガラスのみの試料についても評価した。
【0159】
【表31】

【0160】
【表32】

【0161】
【表33】

【0162】
【表34】

No.15は、各種汚れに対して、水のみの洗浄で簡単に汚れが除去できた。
【0163】
<水垢試験>
【0164】
【表35】

No.15は、水垢が完全にとれ良好である。
【0165】
<滑水性>
No.13の転落角:30度
No.14の転落角:36度
No.15の転落角:14度
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】図1は、この発明において用いた紫外線照射後のメチルシリカゲル粉末のIRスペクトルである。
【図2】図2は、この発明において用いた紫外線照射後のメチルシリカゲル粉末のIRスペクトルである。
【図3】図3は、この発明において用いた紫外線照射後のハフニア−メチルシリカゲル粉末のIRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハフニアおよび/またはジルコニアならびにアルキルシリカを含有することを特徴とする硬化体。
【請求項2】
該アルキルシリカの有するアルキル基が、炭素数1〜10のアルキル基である請求項1に記載の硬化体。
【請求項3】
該ハフニアおよび/またはジルコニア:該アルキルシリカのモル比が、5〜95:95〜5である請求項1または2に記載の硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238950(P2007−238950A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94168(P2007−94168)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【分割の表示】特願2001−385126(P2001−385126)の分割
【原出願日】平成13年12月18日(2001.12.18)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】