説明

硬化性樹脂組成物および柱状スペーサー

【課題】本発明は、基板密着性、柔軟性および復元性に優れ、大きな破壊荷重を示すことのできる柱状スペーサーの提供を前提として、このような柱状スペーサーを得ることのできる硬化性樹脂組成物の提供を課題としている。
【解決手段】液晶セルの柱状スペーサーの製造のために用いられる硬化性樹脂組成物であって、主鎖に環構造を導入し得るモノマーと、側鎖に酸基を導入し得るモノマーとを含むモノマー成分から合成され、主鎖中に環構造を、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合と酸基とを有し、かつ、多官能チオール化合物によって導入された分岐構造を有する分岐型ポリマーと、多官能モノマーと、光重合開始剤とを有することを特徴とする硬化性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セル等に用いられる柱状スペーサーを得るための硬化性樹脂組成物、およびこれを用いて硬化させて得られる柱状スペーサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶セルは、液晶分子が2枚のガラス板に挟まれて封入された構造を採っているが、2枚のガラス板の隙間距離を一定にするためスペーサーが使用されている。従来は、ガラス板の隙間に、スペーサーとして粒子径が揃った球状微粒子を分散させていたが、球状微粒子は、球状であるがために転がりやすく、均一に散布しても液晶注入時に押し流されて偏在化したり、液晶パネルを立てたときに下に沈んだりして、色抜けの原因となることがあった。
【0003】
そこで最近、特に大型液晶パネルには、柱状のスペーサーが採用されている(例えば、特許文献1)。柱状スペーサーとは、フォトリソグラフィーによってガラス基板上(正確にはガラス基板の上の配向膜の上)に立てられた樹脂製の柱である。柱状スペーサーのメリットは、ガラス基板上(正確にはガラス基板の上の配向膜の上)に密着しているので押し流されて偏在化することがない点にある。
【0004】
このような柱状スペーサーには、上述したようなガラス基板への密着性や耐液晶汚染性等が要求されている。耐液晶汚染性とは、液晶層が、スペーサーからの不純物で汚染されることを防止する要求性能であり、一般に、液晶ディスプレイ用柱状スペーサーに使用されるポリマー材料に架橋構造を持たせて、液晶層に溶出するような成分の低減を図っている。また、液晶を注入して液晶分子を配向させる際に、液晶セルには圧縮力がかけられるが、この際、柱状スペーサーには、圧縮力に追従できる柔軟性や圧縮力を緩和したときの復元性が要求される。
【0005】
しかしながら、耐液晶汚染性を向上させるために、スペーサーに使用されるポリマー材料の架橋密度を高めてしまうと、得られるポリマーの硬度が高くなり過ぎて、柱状スペーサーとしての柔軟性や復元性が低下してしまうという問題がある。すなわち、耐液晶汚染性を維持しながら、柔軟性や復元性を両立させることは難しいが、本発明者等は、これらの特性を両立させることのできる架橋剤を見出し、既に出願している(特許文献2)。
【0006】
しかし、柔軟性や復元性、あるいは基板密着性については、さらなる改善が求められている。また、架橋密度が高くなり過ぎるとポリマーが脆くなり、小さい荷重でも破壊しやすくなる。この破壊荷重の問題は、特に薄膜化が要求される携帯電話等の液晶画面に用いられる微細スペーサーの場合に顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−15136号公報
【特許文献2】特開2009−263546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、上記従来技術の問題点を考慮して、基板密着性、柔軟性、復元性、耐熱性等に優れ、大きな破壊荷重を示す柱状スペーサーの提供を前提として、このような柱状スペーサーを得ることのできる硬化性樹脂組成物の提供を課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明の硬化性樹脂組成物は、液晶セルの柱状スペーサーの製造のために用いられる硬化性樹脂組成物であって、主鎖に環構造を導入し得るモノマーと、側鎖に酸基を導入し得るモノマーとを含むモノマー成分から合成され、主鎖中に環構造を、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合と酸基とを有し、かつ、多官能チオール化合物によって導入された分岐構造を有する分岐型ポリマーと、多官能モノマーと、光重合開始剤とを有することを特徴とする。
【0010】
上記分岐型ポリマーにおけるラジカル重合性不飽和二重結合は、ラジカル重合性不飽和二重結合を有さない酸基含有ポリマーを合成した後、この酸基に(メタ)アクリル酸グリシジルを付加させて導入したものであることが好ましい。
【0011】
上記分岐型ポリマーにおける分岐構造は、多官能チオール化合物の存在下で上記モノマー成分を共重合することにより導入されたものであることが好ましい。この場合において、多官能チオール化合物は、1分子中にメルカプト基を2〜6個有していることが好ましく、イソシアヌレート骨格を有する3官能の化合物であることがさらに好ましい。
【0012】
上記モノマー成分100質量%中、側鎖に酸基を導入し得るモノマーは、20〜90質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明には、上記硬化性樹脂組成物を硬化させて得られたものである柱状スペーサーも含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の硬化性樹脂組成物の主成分たる分岐型ポリマーは、主鎖に環構造を有し、かつ分岐構造を有しているため、得られる柱状スペーサーは、耐熱性、基板密着性、柔軟性および復元性に優れ、大きな破壊荷重を示すものとなった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物は、液晶セルの柱状スペーサーの製造のために用いられる硬化性樹脂組成物であって、主鎖に環構造を導入し得るモノマーと、側鎖に酸基を導入し得るモノマーとを含むモノマー成分から合成され、主鎖中に環構造を、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合と酸基とを有し、かつ、多官能チオール化合物によって導入された分岐構造を有する分岐型ポリマーと、多官能モノマーと、光重合開始剤とを有することを特徴とする。まず、分岐型ポリマーについて説明する。
【0016】
(分岐型ポリマー)
本発明の硬化性樹脂組成物で使用するポリマーは、主鎖中に環構造を有するとともに、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合と酸基とを含有し、さらに、多官能チオール化合物によって導入された分岐構造を有する分岐型ポリマーである。
【0017】
(主鎖に環構造を導入し得るモノマー)
主鎖に環構造を導入するのは、柱状スペーサーの耐熱性が高まるためと、基板への密着性が向上するためである。
【0018】
主鎖へ環構造を導入するには、分岐型ポリマーを構成するモノマー成分として、主鎖に環構造を導入し得るモノマーを用いることが必要である。この主鎖に環構造を導入し得るモノマーには、もともと環構造を有するモノマーと、分子内環化工程によって環構造を形成し得るモノマーが含まれる。
【0019】
環構造を有するモノマーとしては、耐熱性、基板への密着性の観点から、マレイミドやN−置換マレイミド類が好ましい。具体的には、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミド、ナフチルマレイミド、N−o−(またはm−、またはp−)ヒドロキシフェニルマレイミド、N−o−(またはm−、またはp−)クロロフェニルマレイミド、N−o−(またはm−、またはp−)メチルフェニルマレイミド、N−o−(またはm−、またはp−)メトキシフェニルマレイミド等の芳香族置換マレイミド類;メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、イソプロピルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のアルキル置換マレイミド類等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシルマレイミド、フェニルマレイミド、ベンジルマレイミドが好ましく、シクロヘキシルマレイミド、ベンジルマレイミドがより好ましく、ベンジルマレイミドが最も好ましい。これら環構造を有するモノマーは、単独で使用しても、2種以上使用してもよい。環構造を有するモノマーの使用量は、分岐型ポリマーを構成するためのモノマー成分100質量%中、2〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは、5〜40質量%であり、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0020】
また、環構造を形成し得るモノマーとしては、主鎖中に5員環または6員環を形成しながら重合する化合物であることが好ましい。このような化合物としては、例えば、1,6−ジエン類が好適である。1,6−ジエン類は、下記一般式(1)で表すことができる。
【0021】
【化1】

【0022】
上記式(1)において、Xが−CH2−CH2−CH2−であり、Y,Zが同一または異なってアルキル基であるときは、2,6−アルキル置換−1,6−ヘプタジエン類を表し、Xが−CH2−CH2−CH2−であり、Y,Zが同一または異なって−C(=O)−O−R(Rは置換基を有していてもよいアルキル基またはアリール基を表す。)であるときは、2位置換−ビスアクリレート系化合物を表し、Xが−C(=O)−O−C(=O)−であり、Y,Zが同一または異なってHかCH3であるときは、(メタ)アクリル酸無水物を表し、Xが−CH2−O−CH2−であり、Y,Zが同一または異なって−C(=O)−O−R(Rは、置換基を有してもよいアルキル基またはアリール基を表す。)であるときは、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エステルのエーテルダイマー類を表す。上記環構造を形成し得るモノマーの使用量は、分岐型ポリマーを構成するためのモノマー成分100質量%中、2〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは、5〜40質量%であり、さらに好ましくは5〜30質量%である。
【0023】
(側鎖に酸基を導入し得るモノマー)
本発明の分岐型ポリマーは、側鎖に酸基を有している必要がある。アルカリ現像性を確保するためである。また酸基は、後述するとおり、分岐型ポリマーの側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合を導入するために反応点にもなる。従って、分岐型ポリマーは、側鎖に酸基を導入し得るモノマーを用いて合成するとよい。側鎖に酸基を導入し得るモノマーには、もともと酸基を有するモノマーと、重合後に酸基を付与し得るモノマーが含まれる。なお、重合後に酸基を付与し得るモノマーを用いる場合には、重合後に例えば後述するような酸基を付与するための処理(後処理)が必要となる。
【0024】
酸基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、および、イタコン酸等のカルボキシル基を有するモノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸無水物基を有するモノマー等が挙げられるが、これらの中でも特に、(メタ)アクリル酸が好ましい。また、重合後に酸基を付与し得るモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するモノマー、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するモノマー、2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基を有するモノマー等が挙げられる。これら酸基を導入し得るモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
また、酸基を導入し得るモノマーは、分岐型ポリマーを構成するためのモノマー成分100質量%中、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。酸基を導入し得るモノマーが少ないと、充分なアルカリ現像性が発現しないおそれがあり、また、ラジカル重合性不飽和二重結合を分岐型ポリマーに充分量導入することができなくなる。一方、酸基を導入し得るモノマーが多すぎると、前記した主鎖に環構造を導入し得るモノマーが少なくなるため、スペーサーの耐熱性や基板密着性が不充分となるおそれがある。
【0026】
酸基を付与するための後処理は、用いる酸基を付与し得るモノマーの種類によって異なるが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基を有するモノマーを用いた場合には、例えば、コハク酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、マレイン酸無水物等の酸無水物を付加させるようにすればよく、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有するモノマーを用いた場合には、例えば、N−メチルアミノ安息香酸、N−メチルアミノフェノール等のアミノ基と酸基を有する化合物を付加させるようにするか、もしくは、例えば(メタ)アクリル酸のような酸を付加させた後に生じた水酸基に、例えば、コハク酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、マレイン酸無水物等の酸無水物を付加させるようにすればよく、2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート等のイソシアネート基を有するモノマーを用いた場合には、例えば、2−ヒドロキシ酪酸等の水酸基と酸基を有する化合物を付加させるようにすればよい。
【0027】
前記分岐型ポリマーを得る際に用いられるモノマー成分は、主鎖に環構造を導入し得るモノマーと、側鎖に酸基を導入し得るモノマーのほかに、スペーサーとしての要求特性を満足させるため、必要に応じてその他の共重合可能なモノマーを含むことができる。このような共重合可能なモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸メチル2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;ブタジエン、イソプレン等のブタジエンまたは置換ブタジエン化合物;エチレン、プロピレン、塩化ビニル、アクリロニトリル等のエチレンまたは置換エチレン化合物;酢酸ビニル等のビニルエステル類;等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、ビニルトルエンが、透明性が良好で、耐熱性を損ないにくい点で好ましい。また、ビニルトルエンを用いると破壊荷重が大きくなるため、破壊荷重の大きいことが要求されるスペーサー(例えば、携帯電話等の小さく薄い液晶画面用のスペーサー)には、ビニルトルエンを用いることが好ましい。また、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルを用いると、圧縮後の復元率が非常に優れたものとなるため、大画面用スペーサーとして好ましいと言える。これらの共重合可能なその他のモノマーは、1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
これらの共重合可能なその他のモノマーを用いる場合、分岐型ポリマーを構成するためのモノマー成分中での含有割合は特に制限されないが、モノマー成分100質量%中、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、75質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
【0029】
(分岐型ポリマー中へラジカル重合性不飽和二重結合を導入する方法)
本発明の分岐型ポリマーは、前記酸基に加えて、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合を有している必要がある。二重結合を有する分岐型ポリマーを硬化性樹脂組成物のポリマー成分として使用すれば、分岐型ポリマー同士がラジカル重合可能となり、あるいは、分岐型ポリマーと多官能モノマーとがラジカル重合可能となるので、三次元的に架橋した硬化塗膜を得ることができる。分岐型ポリマーに二重結合を導入するには、例えば、官能基含有モノマー(以下「二重結合を導入するためのモノマー」と称することもある。)をモノマー成分に含めて重合した後に、ポリマー中の当該官能基に、この官能基と反応し得る官能基と二重結合とを有するモノマーを付加させればよい。
【0030】
二重結合を導入するためのモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボン酸無水物基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o−(またはm−、またはp−)ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマー;(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエトキシエチル等のビニルエーテル基を有するモノマー等が挙げられる。これら二重結合を導入するためのモノマーは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。二重結合を付与するための処理は、二重結合を導入するためのモノマーの種類によって異なるが、例えば、二重結合を導入するためのモノマーとして(メタ)アクリル酸やイタコン酸等のカルボキシル基を有するモノマーを用いた場合には、(メタ)アクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o−(またはm−、またはp−)ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエポキシ基と二重結合とを有する化合物を付加させたり、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエトキシエチル等のビニルエーテル基と二重結合とを有する化合物を付加させればよい。二重結合を導入するためのモノマーとして、無水マレイン酸や無水イタコン酸等のカルボン酸無水物基を有するモノマーを用いた場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基と二重結合とを有する化合物を付加させればよく、二重結合を導入するためのモノマーとして(メタ)アクリル酸グリシジル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o−(またはm−、またはp−)ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエポキシ基を有するモノマーを用いた場合には、(メタ)アクリル酸等の酸基と重合性二重結合とを有する化合物を付加させるようにすればよい。
【0031】
これらの中でも、ポリマー中の酸基(後処理で付与した場合も含む)に対し、(メタ)アクリル酸グリシジルを付加する方法が、簡便であり、着色が小さいという利点を有する。なお、この二重結合導入反応によって酸基が消費されるため、消費される酸基の量(二重結合導入量)を勘案して、モノマー成分中の酸基を導入し得るモノマーの使用量を決定する必要がある。
【0032】
(メタ)アクリル酸グリシジルは、ポリマー100質量部に対し、10質量部以上反応させることが好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上が特に好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジルが10質量部よりも少ないと、分岐型ポリマーの側鎖の二重結合量が少なすぎて、露光感度が低下したり、緻密な硬化塗膜が形成できないため、特性が低下するおそれがある。また、(メタ)アクリル酸グリシジルが酸基に付加して生成する水酸基は、アルカリ現像液への溶解性を高める作用を有するが、この水酸基が少なくなることにより、アルカリ現像液への溶解度が不足し、スペーサー形状の製版特性が低下するおそれがある。(メタ)アクリル酸グリシジルの付加量の上限は、ポリマー100質量部に対し、170質量部が好ましく、140質量部がより好ましく、100質量部がさらに好ましい。(メタ)アクリル酸グリシジルの付加量が多過ぎると、樹脂組成物の保存安定性が低下したり、有機溶媒への溶解性が低下することがある。
【0033】
(分岐型ポリマーの重合方法)
本発明では、硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂は、分岐している必要がある。積極的に分岐させるため、本発明ではポリマー重合時に、多官能チオール化合物を連鎖移動剤として用いる。これにより、連鎖移動剤の末端の複数のチオール部分のそれぞれにポリマー鎖が結合した分岐型ポリマーを得ることができる。従って、本発明では、ポリマーの合成に際し、n−ドデシルメルカプタンやβ―メルカプトプロピオン酸のような単官能チオール化合物は用いない。
【0034】
多官能チオール化合物としては、3官能以上のチオール化合物が好ましい。多官能チオール化合物は、多価アルコールと、単官能および/または多官能チオール化合物との付加反応物として得ることができる。具体的な化合物としては、1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−イソシアヌレート(昭和電工社製、カレンズMT(登録商標)NR1)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート等の3官能チオール化合物;ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(昭和電工社製、カレンズMT(登録商標)PEI)等の4官能チオール化合物;ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−プロピオネート)等の6官能チオール化合物等が挙げられる。
【0035】
上記の中でも、下式(2)で表される1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)−イソシアヌレートや、下式(3)で表される1,3,5−トリス(3−メルカプトブチリルオキシエチル)−イソシアヌレート(昭和電工社製、カレンズMT(登録商標)NR1)といったイソシアヌレート骨格を有する3官能チオール化合物が、基材密着性に優れた分岐型ポリマーが得られるため、好ましい。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
これらの連鎖移動剤は、モノマー成分100質量部に対し2〜20質量部用いることが好ましい。この範囲であれば、重量平均分子量(Mw)が5000〜50000程度の分岐型ポリマーを得ることができ、好ましい。Mwが50000を超える場合、高粘度となりすぎ塗膜を形成しにくくなり、一方、5000未満であると充分な耐熱性を確保しにくくなる傾向がある。
【0039】
重合方法としては、溶液重合法が好ましく、重合温度や重合濃度(重合濃度=[モノマー成分の全質量/(モノマー成分の全質量+溶媒質量)]×100とする)は、使用するモノマー成分の組成や比率、目標とするポリマーの分子量によって異なるが、好ましくは、重合温度40〜150℃、重合濃度5〜50質量%とするのがよく、さらに好ましくは、重合温度60〜130℃、重合濃度10〜40質量%とするのがよい。
【0040】
前記モノマー成分の重合において溶媒を用いる場合には、通常のラジカル重合反応で使用される溶媒を用いればよい。具体的には、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。これら溶媒は、1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記モノマー成分をラジカル重合する際には、必要に応じて、通常用いられるラジカル重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては特に限定されないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物;が挙げられる。これら重合開始剤は、1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。なお、開始剤の使用量は、用いるモノマー成分の組成や、反応条件、目標とするポリマーの分子量等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、ゲル化することなく重量平均分子量が数千〜数万のポリマーを得ることができる点で、全モノマー成分100質量部に対して、0.1質量部〜15質量部、より好ましくは0.5質量部〜10質量部とするのがよい。
【0042】
重合後は、前記したように、二重結合導入反応を行う。二重結合導入反応は公知の方法が採用でき、酸素や他の重合禁止剤および触媒の存在下で、二重結合導入用モノマー(例えば(メタ)アクリル酸グリシジル)をポリマー中の酸基に反応させればよい。
【0043】
これにより、本発明の硬化性樹脂組成物のポリマー成分である分岐型ポリマーが得られる。
【0044】
(硬化性樹脂組成物)
本発明の硬化性樹脂組成物には、多官能モノマーが含まれる。分岐型ポリマーと多官能モノマーとで硬化性樹脂を構成する。多官能モノマーの仕様により、光重合の際やポストベークの際に、多官能モノマー同士が、あるいは多官能モノマーと分岐型ポリマー中の二重結合とが反応して、三次元架橋された硬化塗膜を形成する。多官能モノマーの具体例としては、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスホネート等の多官能芳香族ビニル系モノマー;(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等が挙げられる。中でも、官能基数の多いジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0045】
これらの多官能モノマーは、分岐型ポリマーとの合計質量を100質量%としたときに、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。多官能モノマー量が上記範囲外の場合、充分な架橋効果が得られず、復元性も得られない可能性がある。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物には、光重合開始剤が含まれる。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オンや2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1;アシルホスフィンオキサイド類およびキサントン類等が挙げられる。
【0047】
これらの光重合開始剤は、分岐型ポリマー、多官能モノマーおよび、必要に応じて添加されるラジカル重合性オリゴマー(後述する)の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜50質量部、より好ましくは0.5質量部〜30質量部である。
【0048】
なお、光重合開始剤に加えて、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物等の熱重合開始剤を加えても構わない。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物には、不飽和ポリエステル、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート等のラジカル重合性オリゴマーを添加してもよく、また、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂を、必要により硬化剤と共に添加してもよい。
【0050】
本発明の硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、希釈剤としての溶媒を含有するものであってもよい。溶媒としては、分岐型ポリマー、多官能モノマー、必要に応じて用いられる二重結合含有オリゴマー、および光重合開始剤の各成分を均一に溶解し、かつ各成分と反応しないものであれば、特に制限はない。具体的には、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド;等が挙げられる。なお、溶媒の含有量は、樹脂組成物を使用する際の最適粘度に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、水酸化アルミニウム、タルク、クレー、硫酸バリウム等の充填材、染料、顔料、消泡剤、カップリン
グ剤、レベリング剤、増感剤、離型剤、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、重合抑制剤、増粘剤、分散剤等の公知の添加剤を含有することができる。
【0052】
本発明の硬化性樹脂組成物は、必須成分である分岐型ポリマー、多官能モノマー、光重合開始剤、必要に応じて用いられるラジカル重合性オリゴマー、溶媒やその他の添加物を、均一に混合することによって調製することができる。
【0053】
本発明には、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる柱状スペーサーが含まれる。柱状スペーサーの形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を、ガラスや透明プラスチックフィルム等の基板に塗布、乾燥し、塗膜を形成し、次いで、フォトリソグラフィーにより形成することができる。
【0054】
現像に際しては、アルカリ水溶液を用いることが好ましい。環境への負荷が少なく高感度の現像を行うことができる。アルカリ成分としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等が好ましい。アルカリの濃度としては、0.01〜5質量%が好ましく、0.02〜3質量%がさらに好ましく、0.03〜1質量%が最も好ましい。アルカリ濃度が上記範囲より低いと前記硬化性樹脂の溶解性が不足するおそれがあり、逆に高いと溶解力が高すぎて現像性が劣る場合がある。さらに、アルカリ水溶液には、界面活性剤を添加してもよい。
【0055】
フォトリソグラフィーでは、例えば、塗膜から200μm程度の距離にフォトマスクを配置して2.0kWの超高圧水銀ランプを装着したUVアライナ(TME−150RNS、TOPCON社製)によって30mJ/cm2の強度(365nm照度換算)で紫外線を照射することにより、硬化性樹脂組成物の塗膜を光硬化させる。紫外線照射後、塗布膜に0.05質量%の水酸化カリウム水溶液をスピン現像機にて散布し、未露光部を溶解、除去し、残った露光部を純水で40秒間水洗して現像することにより、柱状スペーサーを得ることできる。その後、ポストベークを行ってもよい。フォトマスクまでの距離、UV強度、現像条件等は、適宜変更が可能である。
【0056】
柱状スペーサーの形状としては、例えば、円柱状、角柱状、円錐台形状、角錐台形状等を挙げることができる。また、柱状スペーサーの断面積は、特に限定されるものではないが、例えば1μm2以上が好ましく、2μm2以上がより好ましく、1500μm2以下が好ましく、100μm2以下がより好ましい。また、柱状スペーサーの高さは、液晶セルのセルギャップに応じて適宜設定すればよいが、0.5μm〜8μm程度が好ましい。
【0057】
また、本発明の柱状スペーサーは、後述する圧縮特性の復元率が、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより好ましい。復元率が上記のような柱状スペーサーを用いることによって、液晶セルの製造上の問題を解決することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、実施例および比較例の評価は次のようにして行った。また、以下では、部は質量部を、%は質量%を意味する。
【0059】
[評価方法]
(重量平均分子量:Mw)
GPC(Shodex GPC System−21H、ショウデックス社製)にてTHFを溶離液とし、カラムにTSKgel SuperHZM−N(TOSOH社製)を用いて測定し、標準ポリスチレン換算にて算出した。
【0060】
(酸価)
ポリマー溶液を3g程度精秤し、アセトン70部と水30部の混合溶媒に溶解させ、チモールブルーを指示薬として、0.1NのKOH水溶液で滴定した。固形分濃度から、ポリマー1g当たりの酸価を求めた(mgKOH/g)。
【0061】
[製造例1]
モノマー滴下槽1に、ベンジルマレイミド(BzMI)15部、アクリル酸(AA)40部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(「パーブチル(登録商標)O」、日油製;(PBO))2部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)6部およびプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)14部をよく攪拌混合したものを投入した。また、モノマー滴下槽2に、ビニルトルエン(VT)38部を投入した。さらに、連鎖移動剤滴下槽に、1,3,5−トリス(3−メルカプトプロピオニルオキシエチル)イソシアヌレート(TEMPIC;堺化学工業社製)8部、PGME8部およびPGMEA24部をよく攪拌混合したものを投入した。
【0062】
反応槽として冷却管を付けたセパラブルフラスコを準備し、この反応槽に、PGME85部、PGMEA199部、AA7部を仕込み、窒素置換した後、攪拌しながらオイルバスで加熱して反応槽の温度を90℃まで昇温した。反応槽の温度が90℃に安定した後、モノマー滴下槽1,2および連鎖移動剤滴下槽から、各成分の滴下を開始した。滴下は、フラスコ内温を90℃に保ちながら、モノマー滴下槽1と連鎖移動剤滴下槽については180分間、モノマー滴下槽2については240分かけて行った。滴下が終了してから30分後に、PBOを0.5部追加した。さらに30分後に昇温を開始して反応槽内部を115℃にした。
【0063】
1.5時間115℃を維持した後、セパラブルフラスコにガス導入管を付け、酸素/窒素=5/95(v/v)混合ガスのバブリングを開始した。次いで、反応槽に、メタクリル酸グリシジル(GMA)41部、重合禁止剤として2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名「アンテージW400」、川口化学工業社製)0.4部、触媒としてトリエチルアミン(TEA)0.8部を仕込み、110℃で12時間反応させた。その後、室温まで冷却し、濃度が38%の分岐型ポリマー溶液No.1を得た。ポリマーの重量平均分子量(Mw)は14600、酸価は130mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0064】
[製造例2]
モノマー滴下槽に、ベンジルマレイミド(BzMI)10部、メタクリル酸(MAA)51部、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)38部、メタクリル酸メチル(MMA)1部、PBO2部、PGME10部およびPGMEA10部をよく攪拌混合したものを投入した。また、連鎖移動剤滴下槽に、TEMPIC7部、PGME14部およびPGMEA14部をよく攪拌混合したものを投入した。
【0065】
反応槽として冷却管を付けたセパラブルフラスコを準備し、この反応槽に、PGME92部とPGMEA92部を仕込み、窒素置換した後、攪拌しながらオイルバスで加熱して反応槽の温度を90℃まで昇温した。反応槽の温度が90℃に安定した後、モノマー滴下槽1および連鎖移動剤滴下槽から各成分の滴下を開始した。滴下は、フラスコ内温を90℃に保ちながら、それぞれ180分間かけて行った。滴下が終了してから30分後に、PBOを0.5部追加した。さらに30分後に昇温を開始して反応槽内部を115℃にした。
【0066】
1.5時間115℃を維持した後、セパラブルフラスコにガス導入管を付け、酸素/窒素=5/95(v/v)混合ガスのバブリングを開始した。次いで、反応槽に、GMA41部、重合禁止剤として「アンテージW400」0.4部、触媒としてTEA0.8部を仕込み、110℃で8時間反応させた。その後、室温まで冷却し、濃度が38%の分岐型ポリマー溶液No.2を得た。ポリマーのMwは11100、酸価は132mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0067】
[製造例3]
TEMPICに変えてトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(TMMP)5.4部を用いた以外は、製造例2と同様にして、濃度が38%の分岐型ポリマー溶液No.3を得た。ポリマーのMwは11500、酸価は131mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0068】
[製造例4]
TEMPICに変えてジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(DPMP)8.6部を用いた以外は、製造例2と同様にして、濃度が38%の分岐型ポリマー溶液No.4を得た。ポリマーのMwは12500、酸価は134mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0069】
[製造例5]
CHMAに変えてメタクリル酸ベンジル(BzMA)38部を用いた以外は、製造例2と同様にして、濃度が38%の分岐型ポリマー溶液No.5を得た。ポリマーのMwは16500、酸価は131mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0070】
[比較製造例1]
TEMPICに変えてn−ドデシルメルカプタン(nDM)4部を用いた以外は、製造例1と同様にして、濃度が38%のポリマー溶液No.6を得た。ポリマーのMwは14500、酸価は126mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0071】
[比較製造例2]
TEMPICに変えてn−ドデシルメルカプタン(nDM)3部を用いた以外は、製造例2と同様にして、濃度が38%のポリマー溶液No.7を得た。ポリマーのMwは15800、酸価は140mgKOH/gであった。ポリマーの製造条件等を表1に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
[実施例1〜6および比較例1〜4]
各製造例で得られたポリマーNo.1〜7と、多官能モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、日本化薬社製)、光重合開始剤として、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(IRGACURE(登録商標)907、チバ・ジャパン社製(現BASF)、光重合開始剤No.1)またはエタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)(IRGACURE(登録商標)OXE02、チバ・ジャパン社製(現BASF)、光重合開始剤No.2)を表2に示した配合量で混合し、固形分濃度が35%になるようにPGMEAに溶解させた後、孔径0.5μmのミリポアフィルタで濾過して、樹脂組成物溶液を調製した。
【0074】
(基材密着性)
各硬化性樹脂組成物溶液を、10cm角のガラス基板上にスピンコータにより塗布し、オーブンで80℃で3分間乾燥した。乾燥後、塗膜(厚さ約4μm)から200μmの距離のところにフォトマスクを配置して2.0kWの超高圧水銀ランプを装着したUVアライナ(TME−150RNS、TOPCON社製)によって30mJ/cm2の強度(365nm照度換算)で紫外線を照射した。紫外線照射後、塗布膜に0.05%の水酸化カリウム水溶液をスピン現像機にて60秒間散布し、未露光部を溶解、除去し、残った露光部を純水で10秒間水洗することにより現像した。基材密着性として、現像中におけるパターンの欠損の有無をレーザー顕微鏡(VK−9700、キーエンス社製)で観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表2に示した。
評価基準:
欠損無し:◎
欠損部1割未満:○
欠損部1割以上5割未満:△
欠損部5割以上:×
【0075】
(スペーサー径・高さ)
16μmφのパターンフォトマスクを介して、基材密着性の場合と同様に、露光、アルカリ現像を行った。得られた柱状(円錐台形状)スペーサーを230℃で30分間ポストベークし、その後のスペーサー径と高さをレーザー顕微鏡(VK−9700、キーエンス社製)を用いて評価した。評価結果を表2に示した。なお、スペーサーの高さはいずれも3.5μmであった。
【0076】
(圧縮特性)
上記で得られたスペーサーについて、微小圧縮試験機(MOTW−500、島津製作所社製)を用い、直径50μmの平面圧子により、負荷速度および除荷速度をともに0.26gf/秒として、8.16gfまでの荷重を負荷したのち除荷して、負荷時の荷重−変形量曲線および除荷時の荷重−変形量曲線を作成した。このとき、負荷時の荷重8.16gfでの変形量をL1、除荷時の荷重0.05gfでの変形量をL2として、下記式により、圧縮率・復元率を算出した。評価結果を表2に示した。
復元率(%)=(L1−L2)×100/L1
圧縮率(%)=L1×100/膜厚(3.5μm)
【0077】
(破壊荷重)
得られたスペーサーについて、上記微小圧縮試験機により、直径50μmの平面圧子を用いて、負荷速度0.26gf/秒で荷重を負荷し、スペーサーが破壊したときの荷重を破壊荷重(gf)とした。
【0078】
【表2】

【0079】
表2より、本発明の硬化性樹脂組成物はいずれも、同じ組成のポリマーを用いた比較例に比べて、復元率が大きくなっており、分岐型ポリマーによる効果が有意に現れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の硬化性樹脂組成物は、液晶セルの柱状スペーサーの製造に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶セルの柱状スペーサーの製造のために用いられる硬化性樹脂組成物であって、主鎖に環構造を導入し得るモノマーと、側鎖に酸基を導入し得るモノマーとを含むモノマー成分から合成され、主鎖中に環構造を、側鎖にラジカル重合性不飽和二重結合と酸基とを有し、かつ、多官能チオール化合物によって導入された分岐構造を有する分岐型ポリマーと、多官能モノマーと、光重合開始剤とを有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
上記分岐型ポリマーにおけるラジカル重合性不飽和二重結合は、ラジカル重合性不飽和二重結合を有さない酸基含有ポリマーを合成した後、この酸基に(メタ)アクリル酸グリシジルを付加させて導入したものである請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
上記分岐型ポリマーにおける分岐構造は、多官能チオール化合物の存在下で上記モノマー成分を共重合することにより導入されたものである請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
多官能チオール化合物が1分子中にメルカプト基を2〜6個有している請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
多官能チオール化合物が、イソシアヌレート骨格を有する3官能の化合物である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
上記モノマー成分100質量%中、側鎖に酸基を導入し得るモノマーが20〜90質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られたものであることを特徴とする柱状スペーサー。

【公開番号】特開2012−42517(P2012−42517A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181081(P2010−181081)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】