説明

硬化性樹脂組成物

【課題】可使時間の長さを調整することができる硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤とを含有する硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1液型または2液型のポリウレタン系硬化性樹脂組成物は、シーリング材、接着剤、コーティング材、プライマー、塗料等の用途に多用されている。
このような1液型または2液型のポリウレタン系硬化性樹脂組成物について、出願人は、以前、特許文献1において1液硬化性樹脂組成物および2液硬化性樹脂組成物を提案した。
【0003】
特許文献1に記載されている1液硬化性樹脂組成物は、2級または3級脂肪族炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの該イソシアネート基を、窒素原子のα位炭素原子に置換基を有する2級アミンでブロックしてなるブロックウレタンと、アミン系潜在性硬化剤とを含有する1液硬化性樹脂組成物である。
【0004】
また、特許文献1に記載されている2液硬化性樹脂組成物は、2級または3級脂肪族炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの該イソシアネート基を、窒素原子のα位炭素原子に置換基を有する2級アミンでブロックしてなるブロックウレタンと、アミン系硬化剤とを含有する2液硬化性樹脂組成物である。
【0005】
【特許文献1】特開2003−048949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、特許文献1に記載されている1液硬化性樹脂組成物および2液硬化性樹脂組成物が可使時間の長さの調整について向上の余地があることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、可使時間の長さを調整することができる硬化性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定のウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤と、ピラゾールおよび/またはオキシムを含むブロック化剤とを含有する硬化性樹脂組成物が、可使時間の長さを調整できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(3)を提供する。
【0009】
(1)第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤とを含有する硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物」という。)。
【0010】
(2)第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの前記イソシアネート基の一部または全部と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応により得られうるブロック化ウレタンプレポリマーと、
ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物」という。)。
【0011】
(3)さらに、エポキシ樹脂を含有する上記(1)または(2)に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の硬化性樹脂組成物は、可使時間の長さを調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明の第1の硬化性樹脂組成物は、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤とを含有する硬化性樹脂組成物である。
【0014】
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーについて、以下に説明する。
使用されるウレタンプレポリマーは、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するものであれば特に制限されない。
【0015】
ウレタンプレポリマーとしては、例えば、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応によって得られうるポリマーが挙げられる。
【0016】
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物は、具体的に下記式(1)で表すことができる。
【0017】
【化1】

【0018】
式中、Ra、RbおよびRcはそれぞれ独立にO、S、Nを含んでいてもよい有機基であり、pは1以上の整数である。
【0019】
有機基としては、例えば、アルキル基、脂環基、芳香環基、アルキルアリール基のような炭化水素基が挙げられる。有機基は、例えば、カルボニル基、尿素基(カルバミド基)、イソシアネート基のような官能基;エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合のような結合を含むことができる。
【0020】
a、または、Rbで表される有機基は、メチル基であるのが好ましい。
【0021】
pは、1以上の整数であり、2以上の整数であるのが好ましい。なお、pが1である場合、式(1)で表されるポリイソシアネート化合物は、Ra、RbおよびRcのうちの少なくとも1つの有機基に1個以上のイソシアネート基を含有することができる。
【0022】
ポリイソシアネート化合物は、分子内に、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を2個以上有するのが好ましい。
【0023】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、式(2)で表されるm−またはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)のようなポリイソシアネート化合物;これらのポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート体、ビューレット体;これらのポリイソシアネート化合物と1,1,1−トリメチロールプロパンのような多価アルコールとの付加体が挙げられる。
【0024】
【化2】

【0025】
ポリイソシアネート化合物と多価アルコールとの付加体としては、例えば、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)と1,1,1−トリメチロールプロパン(TMP)とから得られうる式(3)で表される付加体が挙げられる。
【0026】
【化3】

【0027】
付加体は、未反応のポリイソシアネート化合物および/または多価アルコールを含んでいてもよい。
【0028】
ポリイソシアネート化合物は、可使時間を長く調整できるという観点から、式(2)で表されるm−またはp−テトラメチルキシリレンジイソシアネートが好ましい。ポリイソシアネート化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
ポリオール化合物について、以下に説明する。
ポリオール化合物は、特に限定されない。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、その他のポリオール、および、これらの混合ポリオールが挙げられる。
【0030】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4′−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4′−ジヒドロキシフェニルメタン、ペンタエリスリトールのような多価アルコールの1種または2種以上に、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等の1種または2種以上を付加して得られるポリエーテルポリオール;テトラヒドロフラン等の開環重合によって得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0031】
具体的なポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、テトラヒドロフランの開環重合によって得られるポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0032】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパンのような低分子ポリオールの1種または2種以上と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸のような低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上との縮合重合体;プロピオンラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンのようなラクトンの開環重合体が挙げられる。
【0033】
アクリルポリオールは、ヒドロキシ基を有する、(メタ)アクリル単重合体または(メタ)アクリル共重合体であるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
アクリルポリオールを製造する際に使用されるモノマーとしては、例えば、ヒドロキシ基を導入するための、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートのようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル酸類や(メタ)アクリル酸エステルとの組み合わせが挙げられる。
【0034】
アクリルポリオールの分子量は特に制限されず、好ましくは2000〜20000である。
アクリルポリオールの水酸基価は好ましくは20〜150である。
具体的な商品としては、例えば、東亞合成(株)製のARUFON UH−2000(分子量11000、水酸基価20)、ARUFON UH−2130(分子量5000、水酸基価33)が挙げられる。
【0035】
その他のポリオールとしては、例えば、ポリマーポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールのような低分子ポリオールが挙げられる。
【0036】
中でも、ポリオール化合物は、反応性、安定性の観点から、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオールが好ましい。
【0037】
また、ポリオール化合物は、硬化後の物性が優れることから、重量平均分子量1500〜15000のポリエーテルポリオールが好ましく、2000〜10000のポリエーテルポリオールがより好ましい。
ポリオール化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との混合比は、ポリオール化合物中のヒドロキシ基に対するポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基のモル比(NCO/OH)が1.3〜2.5であるのが好ましく、1.5〜2.0であるのがより好ましい。この範囲である場合、ウレタンプレポリマーの粘度が適度であり、硬化物の伸びが優れている。
【0039】
ウレタンプレポリマーは、その製造について、特に制限されない。例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。具体的には、例えば、上述の量比のポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを、50〜100℃で加熱しかくはんして製造する方法が挙げられる。必要に応じて、例えば、有機錫化合物、有機ビスマス、アミンのようなウレタン化触媒を用いることができる。
【0040】
ウレタンプレポリマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
従来のウレタンプレポリマーに含まれる第二級炭素原子に結合したイソシアネート基は、第三級炭素原子に結合する場合より立体障害が小さいため、湿気潜在性硬化剤との反応性が高い。このため、可使時間を十分に確保するためにはブロック化率を100%近くまで上げなければならず、その結果、可使時間の長さを調整することができないことを本発明者は見出した。
これに対して、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、第二級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーに比べて、イソシアネート基が結合している第三級炭素原子周辺の立体障害が大きいため、湿気潜在性硬化剤との反応性がより低い。このことから、硬化性樹脂組成物が第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを含有することにより、可使時間の長さをより長く調整できることを本発明者は見出し、本発明を完成させたのである。
【0042】
湿気潜在性硬化剤について、以下に説明する。
湿気潜在性硬化剤は、空気中の水分や組成物に含有される水により加水分解され、活性水素基を含有する化合物を生成しうる硬化剤である。生成した活性水素基を含有する化合物は硬化剤として働く。湿気潜在性硬化剤は、加水分解により活性水素基を含有する化合物が生成するまでの間は硬化剤として機能しない。
【0043】
湿気潜在性硬化剤としては、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンが含まれる。
ケチミンは、加水分解により、活性水素基を含有する化合物として第一級アミンを生成する化合物である。使用されるケチミンは、特に限定されない。なお、本発明では、ケトンまたはアルデヒドと、アミンとから導かれるC=N結合(ケチミン結合)を有する化合物をケチミンと称する。したがって、本発明において、ケチミンは、−HC=N結合を有するアルジミンも含むものとする。
【0044】
ケチミンとしては、例えば、ケチミン結合の炭素原子または窒素原子の少なくとも一方の原子のα位に、分岐炭素原子または環員炭素原子が結合した構造を有するものが挙げられる。環員炭素原子としては、例えば、芳香環を構成する炭素原子、脂環を構成する炭素原子が挙げられる。
【0045】
具体的なケチミンとしては、例えば、(1)ポリアミンとカルボニル化合物との反応物であるケチミン、(2)アミノアルコキシシランとカルボニル化合物との反応物であるケイ素含有ケチミンを挙げることができる。
【0046】
ケチミンの原料であるカルボニル化合物は、貯蔵安定性と硬化速度のバランスに優れていることから、カルボニル炭素原子のα位炭素原子に置換基を有するケトンまたはアルデヒドが好ましい。このようなケトンまたはアルデヒドとしては、例えば、下記式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【化4】

【0048】
式(4)中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基であり、R3はメチル基またはエチル基であり、R4は水素原子、メチル基またはエチル基である。
【0049】
2の炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0050】
2は、R1またはR3と結合して、環構造を形成することができる。R2がR3と結合した場合の環構造としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンが挙げられる。R2がR1と結合した場合の環構造としては、例えば、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
【0051】
式(4)で表される化合物としては、例えば、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、メチルt−ブチルケトン(MTBK)、メチルシクロヘキシルケトン、メチルシクロヘキサノンが挙げられる。
カルボニル化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
ケチミンの原料であるポリアミンは、アミノ基を2個以上有するものであれば特に制限されない。中でも、硬化速度が優れる点から、脂肪族系ポリアミンが好ましい。
脂肪族系ポリアミンとしては、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサメチレンジアミン、メンセンジアミン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジン、分子両末端のプロピレン分岐炭素にアミノ基が結合したポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,2−ジアミノプロパン、イミノビスプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、H2N(CH2CH2O)2(CH22NH2のようなアミン窒素にメチレン基が結合したポリエーテル骨格のジアミン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、ポリアミドアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン(1,3BAC)、1−シクロヘキシルアミノ−3−アミノプロパン、3−アミノメチル−3,3,5−トリメチル−シクロヘキシルアミン、ノルボルナン骨格のジメチレンアミン(NBDA)が挙げられる。これらの中でも、硬化速度が速いことから、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルナン骨格のジメチレンアミン、メタキシリレンジアミン、H2N(CH2CH2O)2(CH22NH2、ポリアミドアミンが好ましい。
ポリアミンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
ポリアミンとカルボニル化合物との反応物であるケチミンとしては、例えば、MIPKまたはMTBKとH2N(CH2CH2O)2(CH22NH2とから得られるもの、MIPKまたはMTBKと1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとから得られるもの、MIPKまたはMTBKとノルボルナン骨格のジメチレンアミン(NBDA)とから得られるもの、MIPKまたはMTBKとMXDAとから得られるもの、MIPKまたはMTBKとポリアミドアミンとから得られるものが挙げられる。
【0054】
これらのケチミンのなかでも、硬化性が優れていることから、MIPKまたはMTBKとノルボルナン骨格のジメチレンアミン(NBDA)とから得られるもの、MIPKまたはMTBKと1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとから得られるものが好ましい。また、湿潤面に対し接着性が優れていることから、MIPKまたはMTBKとポリアミドアミンとから得られるものが好ましい。
【0055】
ポリアミンとカルボニル化合物との反応物であるケチミンは、その製造について特に制限されない。例えば、カルボニル化合物とポリアミンとを無溶媒下またはベンゼン、トルエン、キシレンのような溶媒存在下で加熱し、還流させ、脱離してくる水を共沸により除きながら反応させることにより得ることができる。
【0056】
ケイ素含有ケチミンの原料であるアミノアルコキシシランとしては、例えば、下記式(5)で表される化合物が挙げられる。
【化5】

【0057】
式(5)中、R5は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、または1価のシロキサン誘導体を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が好ましい。1価のシロキサン誘導体としては、シリルオキシ基が好ましい。これらのなかでも、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0058】
6は、窒素原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表す。中でも炭素数1〜6の2価の炭化水素基が好ましい。窒素原子を含まない2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましい。窒素原子を含む2価の炭化水素基としては、上記窒素原子を含まない2価の炭化水素基に例示される炭化水素基中にイミノ基(NH)を有する基が好ましい。これらのなかでも、R6としては、メチレン基、プロピレン基、−C24NHC36−がより好ましい。
【0059】
7は、アルコキシ基を表す。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
mは0、1、2および3のうちのいずれかを表す。
【0060】
式(5)で表されるアミノアルコキシシランとしては、例えば、下記式(6)〜式(13)で表される化合物が挙げられる。これらの中でも、式(6)〜式(9)で表される化合物が好ましい。
【0061】
【化6】

【0062】
アミノアルコキシシランとカルボニル化合物との反応物であるケイ素含有ケチミンとしては、例えば、下記式(14)で表される化合物、下記式(15)で表される構造を主鎖骨格として有する重縮合体が挙げられる。
【化7】

【0063】
式(14)中、R1〜R4は、式(4)中のR1〜R4と同義であり、R5〜R7、mは、式(5)中のR5〜R7、mと同義である。
【0064】
【化8】

【0065】
式(15)中、R1〜R6は、式(14)中のR1〜R6と同義である。nは1以上の整数を表し、好ましくは1〜50の整数である。
【0066】
式(15)で表される重縮合体の主鎖末端には、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基のような炭素数1〜6のアルコキシ基;シリルオキシ基のような1価のシロキサン誘導体が結合することができる。
【0067】
ケイ素含有ケチミンは、その製造について特に限定されない。例えば、アミノアルコキシシランとカルボニル化合物とを室温下でまたは加熱、かくはんして脱水反応させることにより得ることができる。反応温度は20〜150℃が好ましく、50〜110℃がより好ましい。反応時間は、2〜24時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。
【0068】
これらのケチミンの中でも、貯蔵安定性の観点から、式(10)で表される化合物とMIPKとの反応物が好ましい。
【0069】
ケチミンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0070】
オキサゾリジンについて、以下に説明する。
オキサゾリジンは、オキサゾリジン環を有する化合物であれば特に制限されない。具体的には、例えば、下記式(16)で表されるオキサゾリジンが挙げられる。
【0071】
【化9】

【0072】
式中、R8は、メチル基、エチル基のような低級アルキル基を表す。
9およびR10は、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、または、炭素数6〜8の芳香族炭化水素基を表す。
【0073】
炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基が挙げられる。炭素数6〜8の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、p−メトキシフェニル基が挙げられる。また、R9とR10とはお互いに結合して炭素数6〜8の脂環式炭化水素基を形成することができる。
【0074】
11は、水素原子、メチル基のようなアルキル基、アルキレン基を表す。アルキレン基は例えば酸素原子、窒素原子、硫黄原子と結合することができる。
式(16)で表されるオキサゾリジンは、加水分解により活性水素基を含有する化合物
として第二級アミンを生成することができる。
【0075】
具体的なオキサゾリジンとしては、例えば、下記式(17)〜式(21)で表されるオキサゾリジンが挙げられる。
【0076】
【化10】

【0077】
中でも、貯蔵安定性の観点から、式(17)で表される化合物が好ましい。オキサゾリジンは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物において、湿気潜在性硬化剤は、ケチミンおよびオキサゾリジンのうちの少なくとも1種を含むものであればよく、ケチミンおよびオキサゾリジンの両方を含むことができる。
【0079】
湿気潜在性硬化剤は、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、ケチミンおよびオキサゾリジン以外の湿気潜在性硬化剤を使用することができる。ケチミンおよびオキサゾリジン以外の湿気潜在性硬化剤としては、例えば、エナミン、シリルメルカプタンが挙げられる。
【0080】
湿気潜在性硬化剤の量は、加水分解後の硬化剤中のイミノ基(NH)および/またはアミノ基(NH2)に対する、ウレタンプレポリマー中の全イソシアネート基(NCO)のモル比[NCO/(NHおよび/またはNH2)]が、0.1〜10であるのが好ましく、0.5〜1.2であるのがより好ましい。このような範囲の場合、貯蔵安定性、可使時間の長さの調整、硬化性、物性に優れる。
【0081】
ブロック化剤について、以下に説明する。
ブロック化剤としては、ピラゾール系化合物および/またはオキシムが含まれる。
【0082】
ピラゾール系化合物としては、例えば、下記式(22)で表されるピラゾール、ピラゾールの誘導体が挙げられる。
【化11】

【0083】
ピラゾールの誘導体としては、例えば、式(23)で表される3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3,4−ジメチルピラゾール、3,4,5−トリメチルピラゾール、3−エチルピラゾール、4−エチルピラゾール、3,4−ジエチルピラゾール、3,5−ジエチルピラゾール、3,4,5−トリエチルピラゾール、3−n−プロピルピラゾール、4−n−プロピルピラゾール、3,4−ジ−n−プロピルピラゾール、3,5−ジ−n−プロピルピラゾール、3,4,5−トリ−n−プロピルピラゾール、3−イソプロピルピラゾール、4−イソプロピルピラゾール、3,4−ジイソプロピルピラゾール、3,5−ジイソプロピルピラゾール、3,4,5−トリイソプロピルピラゾール、3−n−ブチルピラゾール、4−n−ブチルピラゾール、3,4−ジ−n−ブチルピラゾール、3,5−ジ−n−ブチルピラゾール、3,4,5−トリ−n−ブチルピラゾール、3−イソブチルピラゾール、4−イソブチルピラゾール、3,4−ジイソブチルピラゾール、3,5−ジイソブチルピラゾール、3−t−ブチルピラゾール、4−t−ブチルピラゾール、3,5−ジ−t−ブチルピラゾール、3−フェニルピラゾール、4−フェニルピラゾール、3,5−ジフェニルピラゾールが挙げられる。
【0084】
【化12】

【0085】
中でも、可使時間の長さの調整の観点から、式(22)で表されるピラゾール、式(23)で表される3,5−ジメチルピラゾールが好ましい。
ピラゾール系化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0086】
オキシムについて、以下に説明する。
オキシムは、特に限定されない。例えば、式(24)で表されるシクロヘキサノンオキシム、式(25)で表されるアセトオキシム、式(26)で表されるブタノンオキシム、ホルムアミドオキシム、アセトアミドオキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシムが挙げられる。
【0087】
【化13】

【0088】
これらの中で、式(24)で表されるシクロヘキサノンオキシム、式(25)で表されるアセトオキシム、式(26)で表されるブタノンオキシムが好ましい。
オキシムは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物において、ブロック化剤として、ピラゾール系化合物およびオキシム以外の化合物を使用することができる。ピラゾール系化合物およびオキシム以外のブロック化剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、トリアゾール類、カプロラクタム類が挙げられる。
【0090】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、ラウリルアルコール、t−ブタノール、シクロヘキサノールが挙げられる。フェノール類としては、例えば、キシレノール、ナフトール、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノールが挙げられる。トリアゾール類としては、例えば、1,2,4−トリアゾールが挙げられる。
【0091】
ブロック化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0092】
ブロック化剤の量は、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基に対する、ピラゾール系化合物のイミノ基および/またはオキシムのヒドロキシ基のモル比[(NHおよび/またはOH)/NCO]が、0.03〜1であるのが好ましく、0.1〜1であるのが好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整、硬化性に優れる。
【0093】
ブロック化剤がピラゾール系化合物およびオキシム以外の化合物を含有する場合、ブロック化剤の量は、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基に対する、ピラゾール系化合物のイミノ基および/またはオキシムのヒドロキシ基、ならびに、ピラゾール系化合物および/またはオキシム以外のブロック化剤中のイソシアネート基と反応しうる官能基のモル比が、0.03〜1であるのが好ましく、0.1〜1であるのが好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整、硬化性に優れる。
【0094】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂を含有するのが好ましい態様の1つである。エポキシ樹脂を添加することにより、モルタルや金属への接着性に優れる。
【0095】
エポキシ樹脂は、特に制限されず、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型のようなビスフェニル基を有するエポキシ化合物、ポリアルキレングリコール型、アルキレングリコール型のエポキシ化合物、ナフタレン環を有するエポキシ化樹脂、フルオレン基を有するエポキシ化合物のような2官能型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、DPPノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型のような3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ダイマー酸のような合成脂肪酸のグリシジルエステル型エポキシ樹脂;N,N,N′,N′−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、N,N−ジグリシジルアニリン、トリグリシジル−p−アミノフェノールのようなグリシジルアミノ型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0096】
中でも、ビスフェノールA型が好ましい。
また、エポキシ樹脂は、液状であるのが取り扱いの観点から好ましい。
エポキシ樹脂は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
エポキシ樹脂の量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.1〜100質量部であるのが好ましく、0.5〜10質量部であるのがより好ましい。このような範囲の場合、硬化性、物性に優れる。
【0098】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、上述のウレタンプレポリマー、湿気潜在性硬化剤およびブロック化剤以外に、本発明の目的を損わない範囲で、添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、老化防止剤、無機顔料、有機顔料、接着付与剤、難燃剤、脱水剤、溶剤、シランカップリング剤、チクソトロピー付与剤、帯電防止剤が挙げられる。添加剤の量は、特に制限されず、ウレタン系組成物において一般的に使用されうる量を配合することができる。
【0099】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランのようなエポキシシランが挙げられる。
シランカップリング剤の使用量は、安定性という観点から、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.1〜10質量部であるのが好ましく、0.5〜3質量部であるのがより好ましい。
【0100】
充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;けいそう土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸、樹脂酸、脂肪酸エステル、ウレタン化合物処理物が挙げられる。
【0101】
可塑剤としては、例えば、ジイソノニルアジペート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル、オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステルが挙げられる。
【0102】
酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、亜リン酸トリフェニルが挙げられる。
老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の化合物が挙げられる。
【0103】
無機顔料としては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、べンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩が挙げられる。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料が挙げられる。
接着付与剤としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
【0104】
難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、メチルホスホン酸ジメチルエステル、臭素原子および/またはリン原子含有化合物、アンモニウムポリホスフェート、ジエチル・ビスヒドロキシエチル・アミノエチルホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテルが挙げられる。
脱水剤としては、例えば、アシロキシシリル基含有ポリシロキサンが挙げられる。
【0105】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、1液型または2液型の硬化性樹脂組成物として使用することができる。
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、混合工程と加熱工程を具備するのが好適な態様の1つである。
【0106】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物を1液型とする場合は、混合工程において、ウレタンプレポリマーと、湿気潜在性硬化剤と、ブロック化剤と、必要に応じて使用される、エポキシ樹脂と、添加剤とをよく乾燥し、湿気除去された条件下で混合し、混合物を調製することができる。
【0107】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物を2液型とする場合は、混合工程において、例えば、ウレタンプレポリマーとブロック化剤とを含む主剤と、湿気潜在性硬化剤と、必要に応じて使用される、エポキシ樹脂と、添加剤とを混合した硬化剤とをそれぞれ調製する。ブロック化剤は、少なくとも主剤に添加するのが好適な態様の1つとして挙げられる。添加剤は、主剤に添加することもできる。2液型の場合、使用時に主剤と硬化剤とを混合して用いる。
【0108】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、加熱工程において、混合工程で得られた硬化性樹脂組成物(1液型の場合は上記の混合物。2液型の場合は主剤。)を加熱するのが好ましい。加熱工程において混合物または主剤を加熱することにより、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤とを反応させて、イソシアネート基の一部または全部をブロックし、ブロック化ウレタンプレポリマーとすることができる。これにより、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、可使時間の長さの調整、貯蔵安定性に優れる。
【0109】
加熱工程において、加熱温度は、ブロック剤の融点以上であるのが好ましい。圧力は、特に制限されない。加熱工程は、かくはんしながら行うのが好ましい態様の1つである。加熱工程は、無水の条件下で行うのが好ましい。
【0110】
加熱工程後、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの前記イソシアネート基の一部または全部と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応により得られうるブロック化ウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物が得られうる。
なお、得られた硬化性樹脂組成物中には、未反応の、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、および/または、ブロック化剤が含まれていてもよい。
【0111】
ブロック化ウレタンプレポリマーのブロック化率は、1〜100%であるのが好ましく、5〜60%であるのがより好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整により優れる。
【0112】
従来のウレタンプレポリマーに含まれる第二級炭素原子に結合したイソシアネート基は、反応性が高く、可使時間を十分に確保するためにはブロック化率を100%近くまで上げなければならなかったことは上述のとおりである。
これに対して、本発明者は、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基は、第二級炭素原子に結合したイソシアネート基に比べて反応性が低く、さらに、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのブロック化率を調節することによって、可使時間の長さを調整することができることを発見し、本発明を完成させたのである。
【0113】
ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤は、無水の条件下である場合、加水分解せずそのまま硬化性樹脂組成物に含まれる。
得られた硬化性樹脂組成物は、湿気が入らない容器に保存することが好ましい。
【0114】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物の使用方法としては、例えば、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物を湿気存在下で加熱する湿気加熱工程を具備するのが好ましい。本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物を湿気存在下で加熱すると、硬化性樹脂組成物に含有される湿気潜在性硬化剤が加水分解してアミンを生成し、イソシアネート基と反応する。本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物において、イソシアネート基は、第三級炭素原子に結合しているのでアミンとの反応性が低く、可使時間を長くすることができる。
【0115】
また、ブロック化されているイソシアネート基は、湿気存在下で加熱されることにより、ブロック化剤が外れ、イソシアネート基が生成する。生成したイソシアネート基は、湿気潜在性硬化剤から生成したアミンと反応して硬化する。
さらに、ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基が一部または全部ブロック化されているので、ブロック化率によって可使時間の長さを調整することができる。
【0116】
湿気加熱工程において、加熱温度は、50℃以上であるのが好ましく、60〜80℃であるのがより好ましい。このような温度範囲である場合、脱ブロック化反応が進みやすい。湿気加熱工程は、空気中の湿度が30%RH以上であればよく、または、水を系内に添加してもよい。湿気加熱工程は、例えば、温浴槽中で加温しながら電動かくはん機でかくはんするのが好ましい態様の1つである。
【0117】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物は、湿気加熱工程の後、施工工程において施工することができる。
被着体としては、例えば、モルタル、陶器、金属が挙げられる。施工方法は、特に制限されず、例えば、刷毛、コテ、ローラーを用いて施工することができる。
【0118】
本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物の用途としては、例えば、シーリング材、接着剤、コーティング材、プライマー、塗料が挙げられる。
【0119】
次に、本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物について説明する。
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物は、
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの前記イソシアネート基の一部または全部と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応により得られうるブロック化ウレタンプレポリマーと、
ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物である。
【0120】
ブロック化ウレタンプレポリマーについて、以下に説明する。
ブロック化ウレタンプレポリマーは、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの前記イソシアネート基の一部または全部と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応により得られうるポリマーである。
【0121】
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、ならびに、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤については、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物と同様である。
【0122】
ブロック化剤の量は、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基に対する、ブロック化剤中のピラゾール系化合物のイミノ基および/またはオキシムのヒドロキシ基のモル比[(NHおよび/またはOH)/NCO]が、0.03〜1であるのが好ましく、0.1〜1であるのが好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整に優れる。
【0123】
ブロック化剤がピラゾール系化合物およびオキシム以外の化合物を含有する場合、ブロック化剤の量は、ウレタンプレポリマーに含まれるイソシアネート基に対する、ブロック化剤中のピラゾール系化合物のイミノ基および/またはオキシムのヒドロキシ基、ならびに、ピラゾール系化合物および/またはオキシム以外のブロック化剤中のイソシアネート基と反応しうる官能基のモル比が、0.03〜1であるのが好ましく、0.1〜1であるのが好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整に優れる。
【0124】
第三級炭素原子に結合したイソシアネー卜基を有するウレタンプレポリマーと、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応は、特に制限されない。例えば、ウレタンプレポリマーとブロック化剤とを無溶媒でまたは溶媒中で加熱し、かくはんする方法が挙げられる。反応温度は、ピラゾール系化合物の融点以上であるのが好ましい。圧力は特に制限されない。
【0125】
得られうるブロック化ウレタンプレポリマーのブロック化率は、1〜100%であるのが好ましく、5〜60%であるのがより好ましい。このような範囲の場合、可使時間の長さの調整により優れる。得られうるブロック化ウレタンプレポリマー中、未反応の、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、および/または、ブロック化剤が含まれていてもよい。
【0126】
ブロック化ウレタンプレポリマーは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。例えば、ブロック化率の異なるブロック化ウレタンプレポリマーをブレンドすることによって、ブロック化率を調節することができる。
【0127】
ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤については、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物と同様である。
【0128】
湿気潜在性硬化剤の量は、加水分解後の硬化剤中のイミノ基(NH)および/またはアミノ基(NH2)に対する、ウレタンプレポリマー中の全イソシアネート基(NCO、ブロック化されたイソシアネート基を含む)のモル比[NCO/(NHおよび/またはNH2)]が、0.1〜10であるのが好ましく、0.5〜1.2であるのがより好ましい。このような範囲の場合、貯蔵安定性、硬化性、物性に優れる。
【0129】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物は、さらに、エポキシ樹脂を含有するのが好ましい態様の1つとして挙げられる。具体的なエポキシ樹脂は、上述のエポキシ樹脂と同様である。
エポキシ樹脂の量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、0.1〜100質量部であるのが好ましく、1〜10質量部であるのがより好ましい。このような範囲の場合、硬化性、物性に優れる。
【0130】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物は、上述のブロック化ウレタンプレポリマー、および、湿気潜在性硬化剤以外に、本発明の目的を損わない範囲で、添加剤を含有することができる。具体的な添加剤は、本発明の第1の態様の硬化性樹脂組成物と同様である。
【0131】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物は、1液型または2液型の硬化性樹脂組成物として使用することができる。
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物を1液型とする場合は、ブロック化ウレタンプレポリマーと、湿気潜在性硬化剤と、必要に応じて使用される、エポキシ樹脂、添加剤とをよく乾燥し、湿気除去された条件下で調製すればよく、湿気が入らない容器に保存しておけばよい。
【0132】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物を2液型とする場合は、例えば、ブロック化ウレタンプレポリマーを含む主剤と、湿気潜在性硬化剤と必要に応じて使用される、エポキシ樹脂、添加剤とを混合した硬化剤とをそれぞれ調製し、使用時に混合して用いることができる。なお、添加剤は、主剤に添加することもできる。
【0133】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物の使用方法としては、例えば、本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物を湿気存在下で加熱する湿気加熱工程を具備するのが好ましい。
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物を湿気存在下で加熱すると、硬化性樹脂組成物に含有される湿気潜在性硬化剤が加水分解してアミンを生成し、イソシアネート基と反応する。本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物において、イソシアネート基は、第三級炭素原子に結合しているのでアミンとの反応性が低く、可使時間を長くすることができる。
【0134】
また、ブロック化されたイソシアネート基は、湿気存在下で加熱されることにより、ブロック化剤が外れ、イソシアネート基が生成する。生成したイソシアネート基は、湿気潜在性硬化剤から生成したアミンと反応して硬化する。
さらに、ウレタンプレポリマーは、イソシアネート基が一部または全部ブロック化されているので、ブロック化率によって可使時間の長さを調整することができる。
【0135】
湿気加熱工程において、加熱温度は、50℃以上であるのが好ましく、60〜80℃であるのがより好ましい。このような温度範囲である場合、脱ブロック化反応が進みやすい。湿気加熱工程は、空気中の湿度が30%RH以上であればよく、または、水を系内
に添加してもよい。湿気加熱工程は、例えば、温浴槽中で加温しながら電動かくはん機でかくはんするのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0136】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物は、湿気加熱工程の後、施工工程において施工することができる。
被着体としては、例えば、モルタル、陶器、金属が挙げられる。施工方法は、特に制限されず、例えば、刷毛、コテ、ローラーを用いて施工することができる。
【0137】
本発明の第2の態様の硬化性樹脂組成物の用途としては、例えば、シーリング材、接着剤、コーティング材、プライマー、塗料が挙げられる。
【0138】
以上のとおり、本発明の硬化性樹脂組成物は、可使時間の長さを調整することができ、貯蔵安定性に優れる。これは、(1)第三級炭素原子に結合したイソシアネート基は、第二級炭素原子に結合したイソシアネート基に比べて、第三級炭素原子周辺の立体障害が大きいため、第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは湿気潜在性硬化剤との反応性が低いこと、(2)第三級炭素原子に結合したイソシアネート基の反応性が低いことから、ブロック化剤によるウレタンプレポリマーのブロック率を調節することができること、(3)湿気潜在性硬化剤でブロックされたブロック化ウレタンプレポリマーが、湿気存在下で加熱されることにより脱ブロック化すること、によるものと本発明者は推察する。なお、このようなメカニズムはあくまでも本発明者の推定であり、仮に、メカニズムが別であっても本発明の範囲内である。
【実施例】
【0139】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0140】
1.ウレタンプレポリマーの調製
第1表に示す各成分を、第1表に示す量(単位は質量部)で混合し、スズ触媒の存在下で、80℃に加熱しかくはんしながら8時間反応させて、TMXDI系のウレタンプレポリマー1〜3をそれぞれ調製した。第1表中、ポリオールとポリイソシアネートとは、NCO/OHがモル比で2.0となるように調製されている。
【0141】
【表1】

【0142】
第1表中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・アクリルポリオール:ARUFON UH−2000、東亞合成社製
・PPGポリオール:EXL5030(ポリプロピレングリコール)、旭硝子社製
・可塑剤:ARUFON UP−1000(アクリル系可塑剤)、東亞合成社製
・TMXDI:テトラメチルキシリレンジイソシアネート、サイテック社製
なお、第1表中のOHVは、水酸基価を表し、単位はmgKOH/gである。
【0143】
2.ブロック剤変成ウレタンプレポリマーの調製
第2表に示す各成分を、第2表に示す量(単位は質量部)で混合し、100℃で5時間加熱しかくはんしながら反応させて、PP0〜PP12の各ブロック剤変成ウレタンプレポリマーを調製した。各ブロック剤変成ウレタンプレポリマーのNCO基封鎖率を第2表に示す。
【0144】
【表2】

【0145】
第2表中の各成分の詳細は、以下のとおりである。
・ウレタンプレポリマー1:上記のように調製されたウレタンプレポリマー1
・ウレタンプレポリマー2:上記のように調製されたウレタンプレポリマー2
・ウレタンプレポリマー3:上記のように調製されたウレタンプレポリマー3
・3,5−ジメチルピラゾール(MW96.13):大塚化学社製
・シクロヘキサノンオキシム(MW113.16):試薬
・アセトオキシム(MW73.09):試薬
・ブタノンオキシム(MW87.12):試薬
【0146】
第3表に示す各成分を、第3表に示す量(単位は質量部)で混合して得られる各組成物の貯蔵安定性(粘度、チクソインデックス値、上昇率)、可使時間(タックフリータイム)、接着性、引張試験(最大強度、伸び)を以下のように評価した。結果を第3表に示す。
【0147】
3.評価
(1)貯蔵安定性
得られた組成物の調製直後(初期)の粘度をBS型粘度計を用いて20℃、回転速度1rpmおよび10rpmで測定し、チクソインデックス値(T.I.)を求めた。チクソインデックス値は、回転速度1rpmおよび10rpmで計測される粘度比[T.I.=(1rpmでの粘度)/(10rpmでの粘度)]である。チクソインデックス値は、高いほどチクソトロピー性が高い。
これらの組成物についてそれぞれ60℃で3日間養生後の粘度を同様に測定し、チクソインデックス値を求めた。
【0148】
上昇率を、初期の回転速度1rpmで測定される組成物の粘度に対する、60℃で3日間養生後の回転速度1rpmで測定される粘度の比[上昇率=(60℃で3日間養生後の回転速度1rpmで測定される粘度)/(初期の回転速度1rpmで測定されるこれらの組成物の粘度)]として、求めた。上昇率が1に近い値であるほど、貯蔵安定性に優れる。
【0149】
(2)可使時間
得られた組成物を20℃、55%RHの雰囲気下、および、40℃、60%RHの雰囲気下で放置し、JIS A 5758:1997に準じて、組成物の表面のタックがなくなるまでの時間(タックフリータイム)を測定した。なお、可使時間の単位は基本的に「分」として示し、hは「時間」を表す。
【0150】
(3)接着性
得られた組成物のモルタルに対する接着性を試験した。
被着体として縦7cm、横7cmのモルタル板を使用した。
得られた組成物をモルタル板に4mm厚で塗布したものを試験体とした。この試験体を20℃、55%RHの雰囲気下で14日間放置した。
次に、放置後の試験体についてナイフカットによる手はく離試験を行い、接着界面の状態を観察した。接着性は、破壊の状態が組成物の凝集破壊である場合を○、界面破壊の場合を×とした。
【0151】
(4)引張試験
得られた組成物を20℃、55%RHの雰囲気下で28日間硬化させた硬化物とし、この硬化物から、JIS K 6251−1993に準じて、ダンベル3号形の試験片を採取し、得られた試験片を引張速度100mm/分で引張って引張試験を行い、最大強度および伸びを測定した。
【0152】
【表3】

【0153】
【表4】

【0154】
第3表に示された各成分の詳細は以下のとおりである。
・PP0〜PP12:上記のとおりに調製された各ブロック剤変成ウレタンプレポリマー・液状エポキシ樹脂:YD128、東都化成社製
・コロイダル炭酸カルシウム:ビスコライトMBP、白石工業社製
・重質炭酸カルシウム:スーパーS、丸尾カルシウム社製
・酸化チタン:R−820、竹原化学工業社製
・カーボンブラック:旭サーマル、旭カーボン社製
・エポキシシラン:(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)A187、日本ユニカー社製
・ケチミン:HOK01(NBDAとMIPKとの組み合わせのケチミン。MW:290)、ジャパンエポキシレジン社製
【0155】
第3表から明らかなように、実施例の硬化性樹脂組成物は、比較例よりも可使時間を長く設定することができる。また、実施例の硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性および接着性において良好な結果を示している。
【0156】
実施例の硬化性樹脂組成物は、ウレタンプレポリマーのブロック化率を変えることによって、可使時間の長さを調整することができることが分かる。例えば、実施例1と実施例2と比較例1とを比較すると、ブロック化率を高くすることによって、可使時間が長くなっている。また、実施例11〜16のように、ブロック化率の異なるウレタンプレポリマーをブレンドすることによってウレタンプレポリマー全体のブロック化率を調節し、これにより硬化性樹脂組成物の可使時間の長さを調整することが可能である。
【0157】
実施例17と実施例11とを比較すると、実施例11のようにさらにエポキシ樹脂を添加することによって、硬化性樹脂組成物の可使時間を短縮することが可能であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
第三級炭素原子に結合したイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーの前記イソシアネート基の一部または全部と、ピラゾール系化合物および/またはオキシムを含むブロック化剤との反応により得られうるブロック化ウレタンプレポリマーと、
ケチミンおよび/またはオキサゾリジンを含む湿気潜在性硬化剤とを含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、エポキシ樹脂を含有する請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−224202(P2007−224202A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48432(P2006−48432)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】